賭博相場録カイジ〜株式魔窟編〜 第七話-我道-

※この作品は、カイジ、その他の作品を元にしたクロスオーバー二次創作です。
  カイジが題材としているギャンブルの代わりに、株式や商品などの金融市場が舞台となっています。
  なお作中の取引シーンは、実際のトレードに比べて、かなり簡略化されています。


★配役:♂3♀2=計5人


▼キャラクター


伊藤カイジ♂:
二十代のフリーター。現在無職。
普段はダメ人間だが、博打になると類い希な才能を発揮する。

出典:賭博黙示録カイジ

夜神月(やがみらいと)♂:
21歳。東応大学の大学生。
死を操るデスノートを使い、新世界の神となることを目論む。

出典:DEATH NOTE

弥海砂(あまねみさ)♀:
ティーン向け雑誌エイティーンのモデル。
ライトと同じく、デスノートの保有者。

出典:DEATH NOTE

長門有希(ながとゆき)♀:
県立北高の女子高生。無口キャラ。
その正体は、情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。

出典:涼宮ハルヒの憂鬱

阿部高和(あべたかかず)♂:
自動車修理工のいい男。
ベンチに座っている彼を見ると、誰もが「ウホッ……」と吐息を漏らすとか漏らさないとか。

出典:くそみそテクニック


ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、必ずしも正確とは限らないので、確認をしたほうがいいでしょう。

壁紙はこちらのサイトからいただきました。
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株式魔窟編


□1/二週目木曜日の昼、ホテル大ホール


カイジ:(火曜日に30000円で買い付けたバッドウィル……)
    (この二日間で()がりまくって、35000円……)
    (俺の含み益は5000円×100株で、50万円になった……)

カイジ:(儲かってるのはいいが……ソワソワするっ……)
    (いつか誰かに持ち去られてしまいそうな……)
    (全ては砂上(さじょう)楼閣(ろうかく)で、瞬く間に崩れ落ちてしまいそうな、焦燥感っ……)

    (しかしバッドウィル……こんなに上がるほどの会社なのか……?)

ミサ:伊藤さぁ〜んっ!

カイジ:おっ、ミサミサ……
    ライトは……どうした……?

ミサ:ず〜っとピリピリしてる……

カイジ:まだオクトパス持ってたのか……!?

ミサ:うん……
   事業価値がどうとか、1350億円のうち900億は減損処理が済んでるとか……
   色々言って、また買い増ししたみたい……

カイジ:もう800円切ってるぞ……

ミサ:そう、だよね……

カイジ:(相場の見えざる手は、時に現実の美徳の裏側を見せる……)
    (負けず嫌い……それは執着の裏返しでもある……)

    (下がりまくった株だから、もう下がらないなどという読みは、まさに泥沼……)
    (おまけに負けを認めたくない一心で、負け(いくさ)に資金投入……)
    (何もかも捨てて素っ裸になって泳げば、沼のふちにたどり着けるのに……)
    (プライドという重石が、沼を、底無しの罠に変えてしまった……)

ミサ:ねえ、伊藤さん。
   この前の子、眼鏡の髪の短い子。

カイジ:ああ、長門……?

ミサ:すっごい株に詳しそうだったじゃない。
   伊藤さんの彼女?

長門:違う。

ミサ:あ、そうだったんだ。

長門:断じて。

ミサ:そうだよねー。ごめんね。

カイジ:なんだよ、おい……

ミサ:ね、長門さん! ライトことなんだけど――
   あ、ミサの彼氏で、この前オクトパス買ってた、チョーイケメンの――

長門:――知っている。
   産み出されてから三年間、わたしはずっと夜神月を観察して過ごしてきた。

ミサ:はいっ?

長門:上手く言語化できない。情報の伝達に齟齬が生じるかもしれない。
   夜神月は、生命の生死の概念を覆す可能性を秘めた、特異点。
   情報生命体に自律進化のきっかけを与える存在として着目されている。

ミサ:意味わかんないんだけどっ!
   要するに、あんたはずっとライトのストーカーしてて、
   しかもこんな怪しいイベントまで追いかけてきたってこと!?

長門:情報の伝達に齟齬が生じている……

   でも聞いて。
   わたしが此処にいる理由。あなたの言葉で表すと、ストーカーしていた理由。

ミサ:伊藤さん! なんなのこの電波女!

カイジ:いや……俺も正直色々わかんなくて……

    なあ、ライトと付き合いたいとか、そういうことは考えてないんだろ……?

長門:…………

ミサ:何で黙るのっ!

長門:様々な可能性を考慮して。

ミサ:もー、伊藤さん!
   伊藤さんが責任持って、この電波女と付き合っちゃってよ!

長門:伊藤カイジとの交際確率は、リスク評価の上で、ゼロと断定していい水準。

カイジ:俺はリスクかよ……っ!

ミサ:リスクだよ。
   変な男と付き合っちゃうのは、恋愛の危険性だもん。
   ねー?

長門:(こくん)

カイジ:(酷いっ……あんまりだっ……)
    (そこまで言わなくてもいいだろうがっ……)


□2/二週間目金曜日の夜、エスポワールバー


カイジ:(くそっ……落ちつかねえな……)
    (約束の時間まで、あと1分……)
    (そろそろ来ても……)

カイジ:おわっ……!

長門:約束通り、20時に。

カイジ:本当にピッタリ八時だな……

長門:…………

カイジ:その、なんだ……
    お前のお陰で儲かった……

長門:そう。

カイジ:言いたくなければ言わなくていいが……
    お前、バッドウィルでいくら儲けた……?

長門:20000円で300株買い。
   30000円で200株買い。
   40000円で100株買い。

   全ポジションホールド中。
   本日のバッドウィル終値(おわりね)40000円。
   含み益は800万円。

カイジ:は、八百万……!?

(ざわ・・・ざわ・・・)

カイジ:お前、もうスペキュレーションリゾートの最低目標金額っ……
    1500万、達成してるじゃないかっっ……!!!

長門:まだポジションを現金化していない。
   バッドウィルの値下がりによっては、目標金額未達(みたつ)(おちい)る可能性もある。

カイジ:どこまで持ち続ける気だ……?

長門:上昇モメンタムが失われるまで。

カイジ:そんなに将来性のある会社なのか……?
    それとも仕手(して)が入って、二十万まで押し上げるって噂はマジなのか……?

長門:バッドウィルの将来の値上がりを予測した賢明な投資家と、
   株価を自在に押し上げる力を持った大手投資家を想定する。

   彼らの思惑通り、株価は上昇した。
   成長神話と仕手筋(してすじ)参入の噂話は、株価の上昇によって肯定され、彼らの成功にあやかろうとする追随者(フォロワー)を呼び込む。

   彼らの予測の正否(せいひ)や資金力の有無は、真の問題ではない。
   何故ならば株価の上昇が無ければ、賢明な投資家は賢明であるとは言えないし、大手投資家の買い占めは失敗していることになる。

   バッドウィルの上昇は、上昇自体が上昇を裏付ける、自己強化プロセスに依る。
   わたしの観測すべきは、この自己強化プロセスの継続性と崩壊(バースト)の兆候。
   言い換えれば、バッドウィルの企業情報(ファンダメンタルズ)や、大手投資家の動向には、一切の関心を払っていない。

カイジ:(長門の言ってることも、その正しさもわかる……)
    (けど、このモヤモヤした気持ち……上手く言い表せないが……)
    (俺の直感は違う≠ニ叫んでいる……)

阿部高和:よう。俺も合い席していいかい。

カイジ:阿部さん……!

阿部高和:いい男と熱い夜を過ごしたいと思ってバーにくり出したんだが、
       今夜、一番いい男といい女はこの席にいるらしくてな。

カイジ:阿部さん、長門の言ってる意味ってわかります……?

阿部高和:そう難しい話じゃないさ。

       企業分析をしてもわからないし、仕手筋の動向を探ったってわからないから、
       値動きだけ追いかけて、素直について行こうって話だろう?
       江戸時代の米相場の頃から言われる、「相場のことは相場に聞け」さ。

       俺もちょっとばかりバッドウィルを買ってね。こづかい稼ぎをさせてもらった。

長門:その解釈で正しい。
    わたしとあなたは、同一の情報(データ)を、異なる思想基盤(バックボーン)で定義し、共通の判断(ジャッジメント)を下している。
    大変興味深い。

阿部高和:色々と小難しい理論が飛び交ってるが、所詮は売り・買い・休みしかない世界だぜ。
       色恋沙汰と同じさ。難しく考えたってしょうがない。

       男は度胸! 何でも試してみるのさ。

カイジ:やっと()に落ちた気がする……

    とどのつまり俺は、バッドウィルが上がる株だと信じちゃいない……
    むしろ上がる度に違和感を……利益が膨らむことに疑念を抱いていた……
    だから薄利(はくり)で逃げちまったんだ……

(とつとつと呟くカイジ)

カイジ:事実は誰の目にも平等……
     しかし、それをどう解釈するか……どう判断するか……
     それは全くの別物……

     超速のF1カーだって、乗りこなせなきゃ、ただの鉄の箱……!
     しかし自転車でも……いや、自分の足で歩くのだって……
     目的地まで着実に進めるなら、それは動かせないF1カーに勝るっ……!

阿部高和:一皮剥けたな、カイジ。

カイジ:すいません、色々教わったのに……

阿部高和:右も左もわからないうちは、つべこべ言わず腹一杯知識をかっ込む。
       ぶくぶくに肥って動けなくなったら、今度は贅肉をそぎ落としていく。
       そうやって彫り出された姿が、この世で唯一つの、本当にイカしたお前の姿さ。

       お前もそうだし、俺もそうだった。
       誰しも通る道さ。

カイジ:阿部さん……

    阿部さんは、なんで車の修理屋やってるんすか……?
    こう言っちゃあなんだけど、阿部さんなら、もっと稼げる仕事に就けそうな……

阿部高和:昔の話――日本が土地バブルで沸き立ってた頃の話だ。

      俺はカネの世界の最前線にいてな。
      地上げ、株の買い占め、インチキ金融商品……
      明けても暮れても、カネ、カネ、カネだ。

      俺はカネの世界で、ちっぽけな成功をした後、バブルの崩壊と共に、奈落の底に落ちていった。
      俺を兄貴兄貴と慕っていた連中は、みんな離れていき、ベンツにポルシェ、五台あった外車も全部売り払うハメになった。

      無一文になった俺を見かねて、昔カネを融資してやった車屋のオヤジが、中古車を譲ってくれた。
      これがまた酷いポンコツでな。
      しかし新車を買うカネも無いから、騙し騙し、自分で修理して走らせなきゃならん。

      しかし、血に餓えた金喰い獣(エコノミックアニマル)どもと食い合っていた俺には、
      物言わぬ車と無言で対話することは、静かな安らぎだった。

カイジ:…………

阿部高和:人生はカネじゃない。
       この歳になって、やっとこの陳腐な言葉を、噛みしめられるようになった。
       そんな、つまらない男の、つまらない話さ。

カイジ:阿部さんの言ってることはわかります……

    でも俺は……カネが欲しいっ……!
    世界中を買い占められるほどの、カネがっ……!

阿部高和:お前はそれでいいんだ、カイジ。
       若い身空(みそら)で「人生はカネじゃない」なんて、枯れすぎだぜ。

       俺はな、ナヨナヨした草食系のボンボンよりも、
       笑顔に牙を覗かせる、獰猛な若い狼のような野郎が好きなんだ。

カイジ:…………

阿部高和:どうだい、二人とも。
      俺の部屋で続きをやらないか。

カイジ:俺はいいっすけど……

長門:わたしなら平気。
    危機が迫るとしたら、まずあなた。

カイジ:…………
    なんか、そんな予感が……

    悪いんすけど、ちょっと急用が……!

阿部高和:おいおい、こんなに盛り上がっておいて帰るっていうのかい。
       そりゃあないだろう?

カイジ:な、長門っ……!

長門:ホモが嫌いな女子はいない。

阿部高和:今夜はとことん悦ばせてやるからな。

カイジ:ちょっと待っ……

     アッー!!!


□3/二週目金曜日の夜、ライトの自室


ライト:(オクトパス……)
    (今日も暴落して、ついに500円……)

    (値下がりする度に買い増ししていって、持ち株は10000株……)
    (一株当たりの平均買付単価(へいきんかいつけたんか)は1000円……)
    (これを10000株も持っているのだから、損失は500万円……)

    (僕は支給された1000万円を全額投資し……半分まですり減らした……)

ライト:(くそっ! どいつもこいつも……!)
    (オクトパスの事業価値もわからぬバカばかり……!)

    (スペキュレーションリゾートが終わるまで、あと二週間と少し……)
    (それまでに500万を三倍になんて、出来るのか……?)
    (どうすればいい……どうすれば……)

(部屋のチャイムが鳴り、ライトは舌打ちしながらドアを開ける)

ライト:なんだ、ミサか。何か用か?

ミサ:ライト、昨日からずっと部屋に籠もりっぱなしだから……

ライト:別に……
    食事は取っているし、心配されるようなことはない。

ミサ:でも……!

ライト:悪いが、一人にしてくれないか。
    少し考え事を……

(タブレットPCのアラームが鳴り、監視銘柄のニュースが速報で通知される)

ライト:『速報。光学機器メーカー大手オクトパス関係者、8人が心臓麻痺で急死』
    『死亡したのは、損失隠しに関与したとされる、元社長の折蓮亀男(おりはすかめお)氏……』

    まさか、ミサ……!?

ミサ:うんっ!
   だってこの人たち、悪いことをしたのに捕まってないんでしょ。

   これで全部膿が出て、オクトパスも上がるはず……!

ライト:……余計なことをしてくれたな。

ミサ:えっ……?

ライト:何故デスノートを、カネ絡みのいざこざに使った。
    これでキラの理想に、くだらないスキャンダルが付きまとうことになる!

    ……オクトパスの時間外取引だ。
    元社長の不審死と、キラ事件との関係が不安を煽り、440円まで10%以上値下がりしている。

ミサ:ミサ、ライトを助けたかったの!
   この人を殺せば、ライトが助かるって――!

ライト:違う……!
    オクトパスの旧経営陣が悪人なのは、まぎれもない事実だ。
    だが僕には、粉飾決算が発覚した時点で、全株見切ることが出来た。

    ここまで窮地に陥った原因は……
    負けを認められず、買い増しを続けていった僕自身……

    そう、僕自身にあったんだ……

ミサ:ライト……

   ごめんね、ライト!
   ライトの力になりたかったのっ!
   だって、何も言ってくれないんだもん!

ライト:…………

ミサ:ねえ、ミサにできることがあったら何でも言って!

   そうだ、ミサの口座のおカネ、全部ライトに上げる!
   ミサは1000万円のまま使ってないから、ライトはギリギリ合格の1500万円になるよ!

ライト:気持ちはありがたいが、無理だ。
    参加者同士で、カネの受け渡しは出来ない。

ミサ:じゃあ、じゃあ――!

ライト:……外出してくる。

    しばらく一人にさせてくれ。
    
(ライトが出て行った後、部屋に取り残されるミサ)

ミサ:ライト……
   ミサ、どうすればいいの……?
   ライトの力になりたいのに……愛されたいのに……


□4/二週目金曜日の夜、エスポワール中庭噴水前


カイジ:はあ……

(噴水の縁に腰掛けて、タバコをふかしていると、向こうからやってくるライトに気づく)

カイジ:よう。数日ぶりだな……
    ちょっと顔色悪くないか……?

ライト:いや……君ほどじゃないと思うよ。

カイジ:なあ……鋼鉄のブリーフとか、どっかに売ってないかな……

ライト:な、何があったんだ……?

カイジ:忘れてくれ……

    俺も忘れたい……

(噴水のふちに並び、しばらく無言で佇む二人)
(手持ちぶさたの時間の空白を埋めるように、カイジがタバコを差し出す)

カイジ:吸うか……?

ライト:一本もらおう。

    フゥ――……

カイジ:いい吸いっぷりだな……

ライト:もう禁煙してるけどね。

    今日は吸いたい気分なんだ。

カイジ:…………

    カネ……
    高校を出て東京に来てから、俺は四六時中カネに餓えていた……

    仕事をすぐ辞めて、無職生活……
    理由もわからないまま、世間に申し訳なくて……
    自分に自信が持てなくて、まともに女の目を見て話せない……

カイジ:理由は……本当はわかっていた……
     カネのない自分が情けなくて……カネを稼いでる昔のダチに引け目を感じて連絡を絶ち……
     だけど、どうやってカネを稼いだらいいかわからない……

     だから俺は……あまり深く考えないようにして……
     しょぼいバイト、しょぼい酒、しょぼいバクチで……適当にやり過ごしてきた……

カイジ:だが俺は今っ、カネが欲しいっ……!

     いや、カネを支配する側の人間……
     阿部さんや長門、あの利根川のような、カネに媚びなくていい人間にっ……!

ライト:僕は――
    傲慢かもしれないが、悩んだり、苦しんだ経験がない。

    勉強もスポーツも常に一番だったし、恋愛も向こうから寄ってきて、僕は体をいただくだけ。
    父は警視庁刑事局のトップで、人並み以上には裕福。家族仲も良好。

    人生順風満帆。
    でも、退屈だった。

    誰も気づかず、僕自身も直視しないできたこと――
    悩みも苦しみも知らぬ人間は、本当は何一つ成し遂げたことがない、
    酷く薄っぺらい人間なのではないかと……

ライト:スペキュレーションリゾートは、僕に、
    僕自身の意思や能力では、どうにもならないことがある現実を教えてくれた。

    投機は面白い。
    自分がちっぽけだからこそ、面白いんだ。
    たとえ人の生死を操る神のような力を手に入れても、すぐに飽きてしまうだろう。
    
    この逆境を乗り越えたとき――
    僕は初めて何かを成し遂げた人間だと、胸を張れそうな気がするんだ。

カイジ:なあ、ライト……
    余計なお世話かもしれないが……

ライト:オクトパスは切るよ。
    月曜日の寄付に値段に構わず投げる。

カイジ:…………

    やり直そうな……
    俺とお前じゃ人生が違いすぎるが……もし首尾良く大勝ちしてこいつを抜け出せたら……
    俺もお前もやり直そう……

    もう今までのような、澱んだくぐもった……
    そんなハッキリしない毎日から抜け出して……
    なんて言うか……もっと価値ある暮らし……上手く言えねえが……
    もっと、自分の意志を強く持った暮らし……

    ともかく……今までとまるで違う人生を漕ぎ出そう……!
    今度こそ……!

ライト:…………

    ああ……


□5/三週目月曜の朝、ホテル大ホール


ミサ:おはよー、阿部さん、伊藤さん!

阿部高和:よう。今日も見せパン絶好調だな。

カイジ:……ライト、わかってるな。

ライト:わかってるさ。
    オクトパス10000株、売り注文送信。

(朝九時――市場がオープンし、参加者はタブレットPCを覗き込む)

阿部高和:オクトパス、注文殺到で値付かずか。
     上、下――どっちだ?

カイジ:上だっ……!
    凄い値を飛ばして噴き上がったっ……!

阿部高和:キラに脅えたオクトパスが、不正会計問題を土日を潰して突貫調査。
     朝一で東証に暫定調査報告書を提出。
     さらに損失隠しに関与した関係者が、揃って警察に自首。

     目先の悪材料(あくざいりょう)出尽くしか。

カイジ:おい、どうなった……?

ライト:590円、620円、610円、550円……
    全部バラバラだが、平均すると600円で売却……

    全株、売った……

阿部高和:よく決断したな、ライト。

ライト:損失は400万……
    でも……やっと肩の荷が下りました。

阿部高和:まだ、あと二週間もある。
     焦るな。チャンスは幾らでもあるさ。

     幸いに、運良く大相場が出来上がっている。

ライト:バッドウィルか。
    今日もストップ高寸前。45000円が迫っている……

カイジ:……なあ、ライト。

    俺にはどうしても、このバッドウィルが45000円もするとは思えない……
    弱者を食い物にした貧困ビジネス……そんなもんで無限に成長していけるのか……?

    俺には……間違っているとしか思えない……

ライト:……どうする気だ、カイジ?

カイジ:俺が正しいか、間違っているか……
    相場で自分の考えを証明するには唯一つ……

    バッドウィル、45000円で50株空売(からう)りっ……!



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