賭博相場録カイジ〜株式魔窟編〜 第六話-自尊-

※この作品は、カイジ、その他の作品を元にしたクロスオーバー二次創作です。
  カイジが題材としているギャンブルの代わりに、株式や商品などの金融市場が舞台となっています。
  なお作中の取引シーンは、実際のトレードに比べて、かなり簡略化されています。


★配役:♂4♀2=計6人


▼キャラクター


伊藤カイジ♂:
二十代のフリーター。現在無職。
普段はダメ人間だが、博打になると類い希な才能を発揮する。

出典:賭博黙示録カイジ

夜神月(やがみらいと)♂:
21歳。東応大学の大学生。
死を操るデスノートを使い、新世界の神となることを目論む。

出典:DEATH NOTE

弥海砂(あまねみさ)♀:
ティーン向け雑誌エイティーンのモデル。
ライトと同じく、デスノートの保有者。

出典:DEATH NOTE

長門有希(ながとゆき)♀:
県立北高の女子高生。無口キャラ。
その正体は、情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。

出典:涼宮ハルヒの憂鬱

阿部高和(あべたかかず)♂:
自動車修理工のいい男。
ベンチに座っている彼を見ると、誰もが「ウホッ……」と吐息を漏らすとか漏らさないとか。

出典:くそみそテクニック

参加者♂:
エスポワールの参加者。
仕手株バッドウィルの情報を説いて回っている。

※今作は短めなので、モブキャラも独立キャラとしました。
被り役で進行する場合は、カイジと会話有りです。配役のバランスの参考にしてください。


ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、必ずしも正確とは限らないので、確認をしたほうがいいでしょう。

壁紙はこちらのサイトからいただきました。
アニメ壁紙ギャラリー


株式魔窟編


□1/二週目月曜日、ホテル大ホール

カイジ:(スペキュレーションリゾートが始まって、二週間目の月曜……)
    (ホテルエスポワールのホールは、爆上げ必至の銘柄を叫ぶ声に、江戸時代から伝わる秘伝の罫線(けいせん)……)
    (金融工学を駆使した売買プログラム、特定の銘柄の買い占めを目論む仕手(して)グループ……)
    (そんな怪しい連中がごった返す、いかがわしい空気で満ち溢れていた……)

カイジ:異様な雰囲気ですね……
    ここに連れてこられるまで、株のカの字も知らない連中だらけだったのに……

阿部高和:懐かしいねえ。
      昭和中頃の兜町(かぶとちょう)にタイムスリップしたみたいだぜ。

カイジ:阿部さん……
    ずっと気になってたんすけど、歳、いくつなんすか……?

阿部高和:カイジ、そいつはたとえるなら、裸の付き合いの先にある秘密だ。
      湯けむりを貫いて、男湯に飛び込む覚悟はあるかい。

カイジ:俺が阿部さんの歳を知ることは、永久にないってことっすね……

カイジ:(しかし……この連中も必死だ……)
    (1500万まで増やせなきゃ、どうなるかわかったもんじゃない……)
    (良くて監獄のようなところで強制労働……最悪、臓器売買の献体っ……!)

    (カネ……カネっ……)
    (切実にカネが欲しいっ……!)

ミサ:阿部さーん! 伊藤さーん!

阿部高和:よう、ミサミサ。
      気をつけろよ。パンツ見えてるぜ。

ミサ:見せパンだからいいんだもーん。
   これぐらいのファンサービスはアイドルなら常識みたいな?

阿部高和:そうかい。
      俺はレースよりビキニが好きだ。

ミサ:きゃー! 阿部さんのえっちー!

阿部高和:ただビキニなら、ミサミサよりもライトに穿いてもらいたい。

ミサ:なにそれー!
   でも、ミサもライトのビキニ見たいかも……!

ライト:二人して変な期待を寄せないでくれ……
    特に阿部さん、背筋に悪寒を感じるんだが……

阿部高和:背中が寒いならいつでも抱いてやるぜ。

ライト:……この人、いつもこうなのか?

カイジ:まあな……深く考えるな……
    考えると恐いし……

    お前、儲けはどうだ……?

ライト:カイジ、君は?

カイジ:……200万。

    損した……

ライト:そうか。
    僕はオクトパスを買った。タコさんカメラのオクトパスだ。

カイジ:オクトパス……
    この前、M&Aで怪しい会計処理を行ってたとかで、暴落してなかったっけ……

ライト:ああ。
    しかし医療用の光学機器の分野では、世界的にも圧倒的なシェアを持つ。
    独占型企業というのは、長期投資の上では大きな強味だ。

    スキャンダルさえ収まれば、ただちに値を戻すと考えたのだが……

阿部高和:そういえば多角経営の一環で、映画事業もやっていたな。

ミサ:深緑! イカ娘!

カイジ:ああ……
    海からやってきたイカ女が、木を植えて緑化活動するっていう……
    あのクソつまんない映画……

ミサ:……ちょっと、伊藤さん。
   あたし、そのイカ娘役だったんでゲソ。

カイジ:えっ……いやその……

ミサ:あーあ、初主演映画だったのに大赤字だし、はくさい映画大賞で今年のワースト映画、堂々の一位だし、
   おまけにゲソゲソ言うくせが抜けなくなっちゃうし、もうサイテーでゲソ。

   やっぱ、つまらなかったんだ……

カイジ:いや、見所もあったような……
    そうだ、軟体動物ってセクシーだと思った……!

ミサ:ほんと?
   でもセクシーなのは、イカじゃなくてミサ!

カイジ:(よくわからないが、機嫌は直ったのか……?)

阿部高和:株式市場がオープンしたぜ。
       タブレットPCを起動して、持ち株のチェックだ。

(朝九時――大ホールに集まった大衆は、一斉にタブレットPCを覗き込む)

ライト:日経平均は先週から変わらず。
    オクトパスも先週と同じ2000円からスタート。
    しばらく小動きなのか……

カイジ:おい、オクトパスが動き出した……!

ライト:前日比マイナス5%、7%、10%……

カイジ:何が起こったんだ……?

ミサ:ライトぉ、大丈夫だよね?

ライト:…………っ。

    落ち着くんだ。
    まず何が起こったのかを確認しなければ……

阿部高和:この動きは尋常じゃないぜ。
      インサイダーがぶん投げてるんじゃないのかい。

カイジ:速報が出たぞ。

ミサ:オクトパス、巨額の損失隠し。
   多角経営の失敗で、特に映画事業の赤字が顕著(けんちょ)
   1350億円の損失を簿外に飛ばしていた――

カイジ:マイナス15%、20%……
    これ、ストップ安までいくんじゃないか……

ミサ:で、でもこれだけ下がったんだし!
   ちょっとぐらいは戻るかも。ねえライト?

長門:それは無理。
   事件前のオクトパスの株価は、1350億円の内部留保(ないぶりゅうほ)を含んだ価値で評価されていた。
   事件後は1350億円がないものとして、再評価されている。
   これはファンダメンタルズの価格訂正。心理にもとづくパニックや恐怖だけじゃない。

カイジ:わかったような、わからないような……

阿部高和:ピカソの絵だと思って買った絵が、実は幼稚園児の落書きだったとわかったようなもんさ。

ライト:なんだ、あんたは。

    オクトパスの医療用機器の事業価値は毀損(きそん)していない。
    少しは見直しの買いが入ってもいいはずだ。
    それに、カノンや富士野のM&Aだって考えられる。

    1700円が安すぎると言うことは……

長門:オクトパス、1700円で1000株空売り(ショート)約定(ダン)

ライト:な――!?

    くそっ! 僕は1700円で1000株追加買いだ!

阿部高和:ライト。意地商(いじあきな)いは大怪我の元だぜ。

ライト:阿部さん、あんたはオクトパスの事業を調べたわけじゃないだろう。
    横から口を挟まないでくれ。

阿部高和:やれやれ。

長門:オクトパス、一日の値幅制限を超えて下落。売買停止。

カイジ:ストップ安か……

ライト:くっ……

    だが明日はきっと……!


□2/二週目月曜日の夜、エスポワールバー


カイジ:(エスポワールホテル地下……)
    (豪華ホテルとして作られただけあって、地下は洒落たカフェラウンジになっている……)

カイジ:ジャンジャン好きなものを頼んでくれ……
    つっても、参加者は何を頼んでもタダなんだけど……

長門:あなたは?

カイジ:俺?
    えーと……とりあえず、ビール……

長門:水。氷抜きで。

カイジ:…………

長門:わたしに用は?

カイジ:…………

    頼みがあるっ……!

長門:わたしは、この銀河を統括(とうかつ)する情報統合思念体によって造られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
   わたしは、あなたのような大多数の人間と同じとは言えない。
   宇宙人だから、肉体的形質に差異がないと考えるのは正しくない。
   通俗的な言葉で示すと、「わたし、普通の女の子じゃありません!」

   あなたの愛の告白を、受け入れることは出来ない。

カイジ:違えよっ……!

長門:えっちなことはできない。

カイジ:だからおいっ……!

長門:下着も売れない。

カイジ:パンツなんか要るかっ……!

    株だ、株っ……!
    株のことを教えてくれっ……!

長門:…………

   ごめんなさい。
   情報の解釈に非対称性が生じていた。

カイジ:あの……
    俺、そんなギラギラしてるように見える……?

    いや、実際そうだがオンナじゃなくてカネっ……!

長門:バッドウィルを買う。

カイジ:それだけ……?

長門:そう。

カイジ:どのぐらい……?

長門:まずは100株。

カイジ:どこまで……?

長門:上昇モメンタムが失われるまで。

カイジ:だからそれは……

長門:わたしにもわからない。

(テーブルの上の水を飲み干すと、長門は席を立つ)

長門:ごちそうさま。

カイジ:えっ、ちょっと……

長門:金曜日の夜に、またここで。

カイジ:行っちまった……

     にしても……何であんなに全力拒否モード……
     その気がなかったにせよ……
     心を塗り潰す鉛色の後味っ……


□3/二週目火曜日の朝、ホテル大ホール


参加者:へへ、兄さんも連日暴騰(ぼうとう)しまくりのバッドウィルに眼がいったかい。
    バッドウィルに入ってる仕手筋(してすじ)は、外資系大手シルバーマンサックスだ。

    大きい声じゃ言えないが、俺の仲間に社内の極秘情報を盗み見た奴がいる。

カイジ:ふーん……
    どんな経緯(いきさつ)で……?

参加者:なんと、あのシルバーマンの元ファンドマネージャーで……

カイジ:なんでシルバーマンのエリートが、こんな掃き溜めに……?

参加者:い、いや……さあ……?

カイジ:そいつ、外人か……?

参加者:に、日本人だがよ……
     ともかく、バッドウィルは1株200000円まで上がる。
     今、29000円だから買えば大儲け間違いなしだ。

     いいか、目標株価は二十万だぞ。
     それまでビビって、売り抜けたりするなよ。

カイジ:…………

阿部高和:なんだ、カイジ。お前さんもバッドウィルかい。
       今週の相場は、バッドウィルとオクトパスで持ちきりだな。

カイジ:はあ、まあちょっと……

阿部高和:バッドウィル。あんまりいいイメージはないねえ。

カイジ:そうなんすよ……
    俺もバッドウィルの日雇いに登録したら、日当の20%もピンハネしやがって……

阿部高和:会社の時価総額を当期純利益で割った指標、一株当たり利益は、今の株価29000円の60倍。
       つまり投下資本29000円をペイするのに、60年掛かる計算だ。
       むろん会社の利益が激増することもあるかもしれんが、人口減少が進む日本で、人材派遣業が今以上に儲かる見込みは低い。
       ま、それでも上がるときは上がるのが相場ってもんさ。

       おっ、今日もムクムクと()がってきたな。
       どうする、買うのかい?

カイジ:…………

    買います。
    バッドウィル、30000円で100株買い……!

(青ざめた顔で、二人の横を通り過ぎるライトの姿を見かける)

阿部高和:よう、ライト。顔色が悪いようだが、大丈夫かい。

ライト:平気です……ちょっと気分が優れないだけで。

カイジ:オクトパス、まだ持っているのか……?

ライト:ああ……

カイジ:今日もストップ安……
    1300円を割り込んでるぞ……

ライト:わかってるさ……!

    くそっ……どうして空売(からう)りなんて制度があるんだ……!
    無いものを先に売って、安くなってから買い戻して決済する……
    下がれば下がるほど儲かるなんて、インチキじゃないか……!

阿部高和:気持ちはわからんでもないがな。
       しかし「先に売り契約をしてから、現物を手配して引き渡す」ことは、商取引でも普通に行われている。
       たとえば車のディーラーなんか、そうだろう。

ライト:しかし、オクトパスは売り崩されているじゃないか……!

阿部高和:値下がりした株を買う動機があるのは、空売り筋の買い戻しだろう?
       もう一つは値頃感(ねごろかん)の買いだが、値下がりが加速すれば、含み損も拡大する。
       値頃の買いも、暴落が続けば、耐えきれなくなってぶん投げに回るぜ。

       買いでしか入れない新興株(しんこうかぶ)の崩壊は、投げの応酬で、そりゃあ壮絶なもんだ。
       空売り筋は、値下がりを誘うが、最後の買い手にもなるんだよ。

カイジ:阿部さん……やけに詳しいっすね……
    もしかして、そっちの業界の人だったんすか……?

阿部高和:カイジ、過去なんて野暮なことさ。「聞かぬが花」って奴なのさ。

ライト:……すまない。
    僕は、少し頭を冷やさないといけないな。

阿部高和:ライト、投げちまえ。
      まとまったカネが残っていれば、取り戻しは幾らでも利く。

ライト:ご忠告どうも。

    しかし、大衆のパニック売りが収まれば戻る。
    ここで投げ売りをするのは、僕もパニックに囚われていることになる。

    オクトパスは戻る……必ず。

(自分の建玉一覧が表示されているタブレットPCを一瞥し、去っていくライト)

阿部高和:あいつ。エスポワールじゃ、潰れるかもしれんな。

カイジ:でもライトは、東大のエリートですよ……

阿部高和:頭がいいのは、何をやるにしても有利さ。
       だけどな、頭が良すぎる奴は、往々(おうおう)にしてプライドも高い。
      負け≠認められないことは、相場の世界じゃ即「死」――破産だ。

       これで潰れていったエリートを、俺は山ほど見てきたぜ。

カイジ:…………

阿部高和:一人で正しい値段、間違った値段を叫んでも、その値段で受けてくれる相手がいないと、相場は成立しない。
       相場は、お前一人で張ってるんじゃないんだ。

       ライト。お前の敵は、お前の中にいるんだぜ。



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