賭博相場録カイジ〜株式魔窟編〜 第五話-長門-

※この作品は、カイジ、その他の作品を元にしたクロスオーバー二次創作です。
  カイジが題材としているギャンブルの代わりに、株式や商品などの金融市場が舞台となっています。
  なお作中の取引シーンは、実際のトレードに比べて、かなり簡略化されています。


★配役:♂2♀1=計3人


▼キャラクター


伊藤カイジ♂:
二十代のフリーター。現在無職。
普段はダメ人間だが、博打になると類い希な才能を発揮する。

出典:賭博黙示録カイジ


長門有希(ながとゆき)♀:
県立北高の女子高生。無口キャラ。
その正体は、情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。

出典:涼宮ハルヒの憂鬱


阿部高和(あべたかかず)♂:
自動車修理工のいい男。
ベンチに座っている彼を見ると、誰もが「ウホッ……」と吐息を漏らすとか漏らさないとか。

出典:くそみそテクニック


ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、必ずしも正確とは限らないので、確認をしたほうがいいでしょう。

壁紙はこちらのサイトからいただきました。
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株式魔窟編


カイジ:スペキュレーションリゾート……
    早くも一週間目の週末、土曜日……
    何の成果もなく、むしろ損を積み重ねた俺は、朝イチから図書室にこもる……


□1/一週目土曜日、図書室


カイジ:くそっ、全然頭に入ってこねえ……
    ローソク足とか見たって、何もわかんねえよ……
    一週間のデイトレで、全然当てにならなかったし……
    わけわかんねえ……
    テクニカル分析が、オカルト扱いされてるのも、うなずけるぜ……

長門:テクニカル分析は、規定の売買条件を、過去のデータで検証できる。
    その定量性に価値がある。
    テクニカル指標のシグナルを、その都度(つど)直感で採否(さいひ)を決めていてはダメ。

カイジ:とすると、ファンダメンタルズ分析……
    でも、好決算(こうけっさん)でも下がれば、決算ズタボロでも上がったりする……
    そもそも景気が良ければ決算はよくなるし、悪ければ営業利益も落ちる……
    決算は常に後追い……遅行指標でしかないんじゃないのか……?

長門:ファンダメンタルズ分析は、市場参加者の見落としを収益源とするもの。
    目先の営業利益よりも、会社の資産価値に注目したバリュー投資。
    企業のビジネスモデルに注目し、成長性に期待するグロース投資。

    どちらも定性分析の要素が大きく、過去の再現は難しい。
    だけど歴史的にリターンが証明されている投資法でもある。

カイジ:(何なんだ、この女……)
     (さっきから俺の独り言に、イチイチ突っかかってきやがって……)

長門:でも、テクニカル分析にもファンダメンタルズ分析にも背を向けるなら、これ。

カイジ:『ウォール街のランダムウォーカー』
     なんだ、この水晶玉持ったハゲの表紙……

長門:今日中に全部読んで。

カイジ:えっ、でもこんな分厚いハードカバーを……?
    自慢じゃないが、最近はマンガのセリフを読むのすらめんどくさくなって、読み飛ばすぐらい……
    それぐらい活字は苦手なんだけど……

    というか、そもそもあんた誰……?

長門:長門有希。

   それじゃ、さようなら。

カイジ:えっ、ちょっと……

    どうすんだ、この水晶玉ハゲ……


□2/カイジ自室


カイジ:えーと、株価の動きはランダムである……
    よって、チャートパターンも、企業情報の分析も役に立たない……

    なんだこりゃ……
    何やっても儲からないってことじゃないか……

カイジ:くそっ、こっちは切羽詰まってるってのに……
    こんな学者のお説教なんて、読んでられるかよ……

    ん……?
    このしおり……何か書いてあるぞ……
    『夜の九時に中庭の噴水前で』

    あいつからか……?

(部屋のインターホンが鳴る)

阿部高和の声:カイジ、メシ食いにいかないか。

カイジ:あっ、ちょっと待っててください。

    へへ、どうも。

阿部高和:どうしたい。何かいいことでもあったかい。

カイジ:まあ、ちょっと……

    阿部さん、逆ナンとかされたことあります……?

阿部高和:ああ。男になら。

カイジ:そりゃ全然嬉しくないっすね……

阿部高和:カイジ、お前も逆ナンされたのかい。

カイジ:へへへ……まあ……
    読書にいそしんでる、知的な姿がぐっときたんじゃないですかね……

阿部高和:よかったじゃないの。
      でも、エイズには気をつけろよ。

カイジ:そんなホモじゃあるまいし……

    いや、別にゲイだけの病気じゃなかった……
    まさか、な……


□3/夜九時、中庭噴水前


カイジ:(ちょっと早く来すぎたかな……)

    (あ、いた……)

カイジ:よう、待ったか……?

長門:そうでもない。

カイジ:それで、何か用……?

    先に言っておくと……
    今、彼女はいないっ……!

長門:それで?

カイジ:えっ、そういう話じゃなくて……?

長門:もちろん。

カイジ:…………

    なんだよ。話って。

長門:うまく言語化できない。
   情報の伝達に齟齬(そご)が発生するかもしれない。
   でも、聞いて。

   わたしのこと。
   そして夜神月(やがみらいと)のこと。

   わたしは、あなたと同じ人間じゃない。

カイジ:それはどういう……?

長門:この銀河を統括(とうかつ)する情報統合思念体によって造られた、
    対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
    それが、わたし。

カイジ:…………

長門:わたしの仕事は夜神月を観察して、入手した情報を統合思念体に報告すること。
    産み出されてから三年間、わたしはずっとそうやって過ごしてきた。

    夜神月によって引き起こされる突然死は、線形(せんけい)で定義される人間の生涯を、非線形(ひせんけい)にジャンプさせる。
    『法律と制裁』という、人間社会の秩序モデルは元より、自我や生死の概念すら(くつがえ)す、カオスの源。
    果ての国から現れた、黒い白鳥(ブラックスワン)

カイジ:……はあ。

長門:それでも夜神月によって膨張した情報エントロピーは、徐々に平均に回帰すると予測されていた。
   それは情報エントロピーが拡大するにつれ、人間社会にも、夜神月がカオスの発生源であると、気づく者が現れるから。
   人間社会の自己修正的に、夜神月は排除され、人間社会は安定を取り戻す……はずだった。

カイジ:あー、悪いんだけど……
    俺、ちょっと便所行きたくて……

長門:わかった。待ってる。

カイジ:腹の方だから、長くなるかもしれない……
    あいたたた……晩メシの刺身が当たったのかも……


□4/中庭の男子トイレ、個室


(タブレットPCを取り出し、T-Iボイスメッセンジャーを起動するカイジ)

カイジ:阿部さん、阿部さーん……

阿部高和の声:おう、どうした。
          上手いことヤってるか。

カイジ:ヤる、ヤらないじゃないっすよ……

    人を呼び出しておいて……
    『わたしは、あなたと同じ人間じゃない』とか……
    『この銀河を統括する、それがわたし』とか……
    もう想像を絶する電波女で……

    あれ、絶対にヤクやってますよ……

阿部高和の声:男は度胸。そして愛だ。
         ヤク中でも、シャブ中でも相手してみるのさ。
         しゃぶってチューしてやれば、真人間に目覚めるかもしれないぜ。

カイジ:つまらないシャレ言ってる場合じゃないんすよ……
    それに、電波女は俺じゃなくて、ライトのストーカーらしくて……
    三年前からずっと監視してたって、唐突に告白されましたよ……

阿部高和の声:そいつは穏やかじゃないな。
         わかった。俺がそっちに行くよ。
         で、今どこにいるんだい?

カイジ:恩に着ます……!
    えーと俺のいる場所は……

    あれ? 阿部さん?
    くっそ、切れちまった……
    wi-fi(ワイファイ)の電波が弱いのかな……

    ん……?
   『YUKI.Nがコンタクトリストに追加されました』
    俺、こんな操作してないぞ……

    うわっ、勝手にメッセージウインドウが……!

YUKI.N:あなたの通信端末には、接触時にバックドア型トロイを仕掛けた。
     端末に進入。通信記録を傍受(ぼうじゅ)

     阿部高和(あべたかかず)の介入対策として、情報操作を実行。
     阿部高和への通話内容を改変。

     彼には、無難な内容の音声通信が届いている。
     彼が、こちらにやってくることはない。   

カイジ:…………

    マジかよ、これ……

YUKI.N:また噴水の前に――


□5/中庭、噴水前


カイジ:えーと……

長門:おかえりなさい。

カイジ:す、すまんっ……悪気はなかったっ……
    だから、UFOで連れ去って、ロボトミー手術は勘弁してくれ……

長門:言語で伝えられる情報には限りがある。
    統合思念体の思考を完全に伝達するには、わたしの処理能力ではまかなえない。

カイジ:要するに怒ってはいないんだな……?

長門:そう。

カイジ:そうか……
    で、阿部さんには何で送ったんだ……?

長門:あなたが助けを求めた通話を遡及(そきゅう)して改変した。
    彼は、あなたがこう喋ったと認識している。

   『阿部さん、聞いてくださいよ』
   『有希ちゃんマジで可愛いっすよ、眼鏡属性っすよ』
   『こんな知的な美少女とお話できて、萌え萌えっすよ』

カイジ:……凄いんだけど。
    その内容、自分で考えたの……?

長門:…………

   さっきの話の続きをする。

カイジ:(無視しやがった……)

長門:夜神月は、人間社会の自律修正によって排除されるはずだった。
    けれども今、夜神月の情報エントロピーは、再び拡大している。
    未来は予定調和ではなく、予測不可能な方向へ進もうとしている。

カイジ:よくわからないんだけど……
    それってライトの運命が、変わったってこと?

長門:その理解で、齟齬は生じていないと思う。
    そしてあなたこそ、夜神月のカオスを拡大するノイズ。

カイジ:俺が……?

長門:統合思念体は、夜神月に興味を抱いた。
    人間の築き上げた社会通念を覆す、果ての国の来訪者(らいほうしゃ)として。
    あらゆる者に死を与え、死の直前の行動までも操る……
    もしかすると統合思念体すら殺しうる、新世界の神として。

カイジ:悪いんだけど……
    あんたの言ってることが、さっぱりわからねえ……

長門:わからなくていい。

   でも、覚えておいて。
   あなたは世界を変革する存在に、影響を与えうる唯一の存在。

   わたしはこの銀河を統括する情報統合思念体によって造られた、
   対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
   ライトとカイジ、あなたたちを観測する者。



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