賭博相場録カイジ〜株式魔窟編〜 第三話-希望-
※この作品は、カイジ、その他の作品を元にしたクロスオーバー二次創作です。
カイジが題材としているギャンブルの代わりに、株式や商品などの金融市場が舞台となっています。
なお作中の取引シーンは、実際のトレードに比べて、かなり簡略化されています。
★配役:♂4♀1=計5人
▼キャラクター
伊藤カイジ♂:
二十代のフリーター。現在無職。
普段はダメ人間だが、博打になると類い希な才能を発揮する。
出典:賭博黙示録カイジ
21歳。東応大学の大学生。
死を操るデスノートを使い、新世界の神となることを目論む。
出典:DEATH NOTE
ティーン向け雑誌エイティーンのモデル。
ライトと同じく、デスノートの保有者。
出典:DEATH NOTE
自動車修理工のいい男。
ベンチに座っている彼を見ると、誰もが「ウホッ……」と吐息を漏らすとか漏らさないとか。
出典:くそみそテクニック
利根川♂:
ホテル『エスポワール』の総支配人。
帝愛金融グループの重役で、スペキュレーションリゾートを取り仕切る。
(設定に改変あり)
出典:賭博黙示録カイジ
以下は被り役推奨です。
黒服A♂ 黒服B♂:
Aは一言で、ライト、ミサのシーンに登場。
Bは二言で、カイジ、阿部高和のシーンに登場。
ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、必ずしも正確とは限らないので、確認をしたほうがいいでしょう。
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株式魔窟編
□1/一週間前〜ヨシダプロダクション事務所〜
ミサ:えぐっ、うぐっ……
ごめんね、ライト……
ごめんね……
社長が「絶対に大丈夫、名前を書くだけだから」って……
ライト:連帯保証人か……
ライト:(計画が滅茶苦茶だ……)
(どうする、こいつ……?)
ミサ:あたし、二億円なんておカネ……
えっちなビデオに売られちゃうのかな……
ライト:(それで片がつくなら、脱ぐなり何なりすればいい)
(しかしそうすると、付き合っている僕の世間体が丸潰れだ)
ミサ:ヤクザのおじさんたちに、あんなこととかそんなことまで……
嫌だよ……!
ライト以外の変態さんに、目隠し監禁おもらしプレイなんて……!
ライト:(……まさかとは思うが、僕の家にまでヤクザが押しかけてきたりしないよな?)
(……ちょっとシャレにならないぞ。足も震えてきた)
(なんとしてもミサ一人に返済の意志を持たせないと)
ミサ:そうだ! いいこと思いついちゃった!
借金の取り立てにきたヤクザは、みぃんなデスノートで殺しちゃえばいいんだ!
殺して殺して殺しちゃえば、取り立てにくる人もいなくなる!
ミサ、あったまいいー。あはっ☆
ライト:(そんなことでデスノートを乱用したら、すぐLに目をつけられるだろう……!)
(ダメだこいつ、早くなんとかしないと……!)
ライト:ミサ、僕が必ず君を守る。
だから、無益な罪を重ねないでくれ。
ミサ:ライトぉーっ!!
でも、どうやって……?
ライト:(そうだ、どうやってだ……)
(いきなり二億円なんて、さすがの僕でも見当もつかない……)
(なんとか債務の免責が出来ないか、法律を調べて……)
黒服A:弥海砂さん、ですね……
私は帝愛金融の者ですが――
□2/真夜中のバス停
カイジ:(夜中の11時50分……)
(そろそろ日付が変わる……)
(もうじきエスポワールへ向かうバスがくるらしいが……)
カイジ:(俺一人か……?)
(いや、ベンチに若い男が座っている……)
(ウホッ、いい男……)
カイジ:(そう思っていると……)
(突然その男は、俺の見ている目の前で、ツナギのホックを外し始めた……!)
阿部高和:やらないか。
(SE:ざわ・・・ざわ・・・)
黒服B:伊藤様に……阿部様ですね。
お待たせいたしました。さあ、こちらへどうぞ……
カイジ:(バスは俺たちを乗せると、そそり立つ阿部棒など見なかったように走り出した)
(男はツナギを着直し、涼しい顔で隣に座っている……)
カイジ:(こうしていると、さっきのやらないか≠ヘ俺の錯覚に思えてくる……)
(そう、きっとそうだ……なにかをナニと見間違えたんだ……)
阿部高和:俺は阿部高和。自動車の修理工をやってる。
よろしくな、カイジ。
カイジ:はあ……
阿部さんはなんでエスポワールに……?
阿部高和:最近、円高が進んだだろう。
俺も、自動車業界の端くれでな。
カイジ:それで不況になって……?
阿部高和:ああ……
ある日、仕事の帰りに酒を飲んだんだ。
その後、酔った勢いで、全裸になって町中を疾走した。
おまわりに捕まって……クビだ。
カイジ:(円高関係ねえっ……!)
阿部高和:直接の原因は、昔世話してやった予備校生。
おっと、今は大学生か。そいつがヤミ金に捕まっちまってな。
俺が話をつけてやった。
そいつの借金を肩代わりするってことでまとまったものの、仕事をクビになっただろう。
カネを払えず、利息だけが膨らんで一千万。エスポワール行きさ。
カイジ:阿部さん……いい人なんすね。
ちょっとワルっぽく見えたけど……
阿部高和:いいのかい、そんなホイホイ信じ込んで。
俺はノンケだって構わず食っちまう男なんだぜ。
いいか、カイジ。
エスポワールは……ただのお遊びじゃない。
簡単に人を信じ、人に流されるな。
己(じぶん)を保てなくなった奴は、負けるぜ……
カイジ:はあ……?
阿部高和:……キンタマが縮み上がるんだ。
ただ事じゃない予感がするぜ……
黒服B:到着しました……
ここが希望の地……
ホテルエスポワール≠ナす。
□3/ホテルエスポワール、玄関ロビー
利根川:いらっしゃいませ。
支配人の利根川と申します。
伊藤様、阿部様……
お二人のチェックインが完了いたしました。
阿部高和:男同士でチェックイン、か。
ゲイカップルだと思われそうだな。
カイジ:思いませんよ、誰も……
利根川:第三回スペキュレーションリゾート。
まもなく開始となりますが……
その前に、こちらをどうぞ。
カイジ:なんだこの箱……
タブレットPC……?
利根川:そのタブレットPCは、参加者一人ひとりに与えられる個人用端末。
これからのスペキュレーションに使う他、連絡事項の伝達など、様々な場面でご利用いただきます。
ログオンはこちらのICカードを差し込んで、パスワードを入力。
最後に指紋認証装置で本人確認がすむと、パソコンが起動します。
カイジ:そういやパソコン持ってこなかったんだけど……
このタブレットで、ネットしてもいいの……?
利根川:むろん、インターネットは可能です。そのための機器。
ですが、メールの送受信や掲示板の書き込みなど、外部と連絡を取る手段は制限させていただいておりますので、
あらかじめご了承を……
カイジ:外部との連絡を制限……!?
阿部高和:穏やかじゃないね。
利根川:これから行われるスペキュレーションは、長期戦になるもの。
外部の人脈に頼ることで、特定の参加者が有利になる事態があってはいけません。
参加者同士の公平を期すために、制限を掛けさせていただいた次第です。
阿部高和:そうかい。まあいいや。
ホモセックスの相手を募集しても、ハッテン場まで
カイジ:(そういう問題じゃないだろ……)
利根川:お二人には、あちらのラウンジで各種設定・申込を行っていただきます。
何かわからない点があれば、スタッフになんなりとお声をおかけください。
では……
□4/エスポワール、ラウンジ
阿部高和:ひゅう〜、沢山集まってるな。
カイジ:あちゃ〜……
どいつもこいつも、マイナスのオーラに満ちてやがんの……
阿部高和:ああ。顔に不能と書いてあるような連中ばかりだぜ。
カイジ:しかし、まあ……
考えてみりゃ、うんざりするほど借金かかえて、返済不能……
そういうダメ人間の集まりだからな。無理もないっすよ……
阿部高和:おっ、いい男。
ちょうど、あそこの席が空いてるぜ。
カイジ:あっ、待ってくださいよ阿部さん……!
あれ……?
あの場違いなゴスロリ女って……
阿部高和:よう。
ここ、いいかい?
ライト:ええ、構いませんよ。
阿部高和:俺は阿部高和。自動車修理工だ。
ライト:僕は夜神月。月と書いてライトと読みます。
変わった名前でしょう?
東応大学で法律を学んでいます。
阿部高和:東応大。凄いじゃないの。
ライト:いえ、それほどでも。
まだ社会を知らない子供ですよ。
カイジ:(おいおい、阿部さん……)
(なんでそんな見ず知らずの他人と仲良く喋ってんだよ……)
ライト:そちらの方は?
カイジ:あ……えーと……
阿部高和:俺の連れ、伊藤カイジだ。
カイジ:ども、よろしく……
ライト:こちらこそ。
カイジ:(夜神月……)
(イケメン、高学歴……特徴を並べただけで、虫酸が走る……!)
阿部高和:しかし、意外だね。
君は、こんなところにくるタイプには見えないんだがね。
おっと、野暮だったかい。
ミサ:違うの、ライトのせいじゃないの。
あたしのせいなの……
阿部高和:うん? 君は?
ミサ:弥海砂、23歳!
エイティーンでモデルやってまーす。
ミサミサって呼んでね☆
阿部高和:おう、よろしくなミサミサ。
カイジ:(うっ……やっぱりエイティーンのミサミサ……)
(ポーカーで勝って、安藤から巻き上げた、ミサミサの握手会のチケット……)
(興味はなかった……でも、もったいないから一度だけ……一度だけ行った……)
カイジ:あの……
俺と会ったことあるような気がしない……?
ミサ:ううん。初対面だと思いますー。
カイジ:あ、うん……
悪い、人違いだった……
知り合いに似た女がいたもんで……
ははっ、はははは……
阿部高和:それで、さっきの話はどうしたい?
ミサ:あたしの所属していたプロダクション……
名前を書くだけだからって言われて、連帯保証人にサインしちゃったの。
そしたら倒産……二億円の借金を払わないといけなくなって……
エスポワールには、あたしだけでこようと思ったの。
でも、ライトは……
ライト:ミサ、その話はもうよそう。
僕たちは二人で生きていこうと、将来を誓った。
二億円の十字架を、君一人に背負わせたりなんかしない。
僕たち二人で、乗り越えていこう――!
阿部高和:いい彼氏だな。
俺が付き合いたいぐらいだぜ。
ミサ:うんっ!
ライト、大好きー!
カイジ:(ひどいっ……ひどすぎるっ……こんな話があるかっ……)
(俺たちはみんな彼氏……今はいません≠ニいうインタビューを信じて……)
(グッズにポスター、サイン会に握手会に出かけていく……)
(なのに、ごく当たり前にイケメンと付き合って、いちゃこらしてやがる……)
(そのうえ高学歴……極めつけは性格まで超イケメン……)
(何ひとつ勝ち目無し……完膚無きまでの完敗……!)
阿部高和:カイジ。女なんて、そんなもんさ。
カイジ:阿部さん……!
阿部高和:男は、いいぞ。
カイジ:いやそれは……
利根川の声:各人、すみやかにホールにお集まりください……
全員入場次第、すぐスペキュレーションの説明に入ります。
すみやかにお集まりください……
阿部高和:おっと、いいところだったのに。
行こうぜ、カイジ。
カイジ:うっす……
カイジ:(脂汗がどっと出てきやがった……)
(なんなんだ、あの人は……)
□5/エスポワール、豪華な装飾電灯の吊された大ホール
ミサ:うわー、広いホール! シャンデリア!
阿部高和:ふうん。九十年頃に建ったホテルか。
ミサ:なんでわかるの?
阿部高和:内装が九十年頃に流行ったものだからな。
昔ちょっと建築関係の仕事もやっててね。
ミサ:すごーい!
っていうか、阿部さんって何歳なの?
阿部高和:いい男には秘密が多いものさ。
利根川:静粛に、静粛に……
こんばんは。
わたくし、今回皆様のスペキュレーションのお手伝いをさせていただく、
当ホテルの総支配人、利根川と申します。
ではさっそくですが、これから皆様の行う、スペキュレーションの説明をしましょう。
ただ……説明は一度のみで、くり返しません。
後に質問されてもお答えしかねますので、どうか皆様、集中力をもってお聞きください。
各人、タブレットPCに登録してある、一番上のショートカットをクリックしてください。
カイジ:これは……エスポワール証券ホームページ?
利根川:カードスロットにICカードが挿入されている状態で、
各人の個人口座にログインできます。住所、氏名その他の個人情報に間違いがないかご確認を。
カイジ:俺の個人情報……
住所、氏名、電話番号……全部入力済み……!?
阿部高和:素肌に剥かれちまったな。
ミサ:やだ……なんで。気持ち悪い……
ライト:(こいつらは債務者……)
(どうせどこかのヤミ金業者から、エスポワールに流れたんだろうが……)
(何故消費者金融の利用はおろか、クレジットカードも作ったことのない僕まで……)
利根川:ククク……間違いはありませんでしょうか。
もし個人情報に間違いがあると、後で訂正は出来ません。
今一度入念なチェックを。よろしいですか。
では次の説明に移ります。
口座管理の画面に移動してください。
カイジ:これは……現金1000万円……!?
利根川:我々は考えました……
皆様を救済する、もっとも有利なスペキュレーションとは何かと。
およそ二百年に渡り、不動産・債券・原油・貴金属・銀行預金……
その他あらゆる金融商品を上回るパフォーマンスを叩き出し、数多くの財閥や富豪を産み出してきたもの……
我々スタッフで鋭意検討を重ね、たどりついた結論が株式です。
阿部高和:株か。
カイジ、おまえ知ってるか。
カイジ:はあ……漬け物のカブなら。
阿部高和:そうか。安心しろ。俺が教えてやるぜ。
カイジ:阿部さんに教わるのは、逆に不安っすよ……
利根川:期限は一ヶ月。
一ヶ月後、1500万円以上……
50%の収益を上げていれば、口座残高をそのまま……
つまり賞金1000万円にプラス、成功報酬分が皆様の債務返済に充てられます。
逆に一ヶ月後の口座残高が1500万円未満だった場合……
貸し与えた1000万円プラス、損失分が皆様の負債となりますので、くれぐれもお気をつけを。
以上、これで私の説明の全てを終わらせていただきます。
皆様の健闘、心からお祈りいたしております。
カイジ:えっ……それだけ?
一ヶ月間って、そのあいだどうすれば……?
利根川:どうぞ、ご自由に。
カイジ:はあ……?
利根川:最初に申し上げました通り、説明は一度。
質問は一切受け付けません。
当ホテルエスポワールの施設は、すべて無料でご利用いただけます。
温水プール、図書館、アロマサロンにスポーツジム。
食事は一日三回。お部屋にお運びする形式も、ホールでのバイキング形式も行っております。
カイジ:自由って……
そういうことじゃなくてさぁ……
ミサ:ねぇ、おじさん。負けたときはどうなるの?
あたし、ヤクザ屋さんから、エスポワールで聞けって言われてきたんだけど。
ライト:僕も詳しく聞いておきたいな。
負債が増えるって、増えた負債はそのままではないんだろう。
阿部高和:俺も一つ質問がある。
男の裸に興味はないか。
はいかイエスで答えてくれ。
利根川:残念ながら、質問には一切お答えできません。
ミサ:はあ?
マジ意味わかんないんですけど。
カイジ:俺は負けた奴は、施設に送り込まれて強制労働って聞いたぞ……
ライト:……それは聞き捨てならないな。
ゲームに参加する僕たちには、すべての条件を知る権利がある。
阿部高和:渋みの利いた白髪に、よく肥えたビールっ腹。
中年の色気がムンムンしてやがる。
このままじゃ収まりがつかないんだよな。
利根川:Fuck you……
ぶち殺すぞ、ゴミめら……!
(SE:ざわ・・・ざわ・・・)
カイジ:(は……?)
ライト:(何だ……?)
利根川:おまえたちは皆、大きく見誤っている……
この世の実体が見えていない……
質問すれば答えが返ってくるのが、当たり前か……?
バカがっ……! とんでもない誤解だ。
世間というものは、とどのつまり、肝心なことは何一つ答えたりしない。
大人は質問に答えない。それが基本だ。
ミサ:な、なによあのオヤジ……
利根川:無論、中には答える大人もいる。
しかし、それは答える側にとって都合のいい内容だから。
そんなものを信用するってことは、のせられているってことだ。
何故それがわからない……? 何故そのことに気付かない……?
そりゃあ、おまえらの質問に答えること、それ自体は容易い。簡単だ。
しかし、今、俺がそんな話をしたとしても、その真偽はどうする……?
ライト:……たしかにそうだ。
すでに僕たちは、このホテルに軟禁状態にある。
利根川の話の裏を取る術はない。
どんないい話を聞こうとも、ただの気休めに過ぎない……
カイジ:暴言だ……!
暴言だ、暴言だ……暴言だ……!
利根川が何を語ろうと……
ただそれを盲目的に信じるか、真っ向から疑って掛かるか。
その二択しかない……
つまり結局、堕ちた先の保証はないってことだろうがっ……
たとえ それがどんな生き地獄でも……
利根川:世の中の大人どもが言わないから、俺が教えてやる。
おまえたちの大好きな、そしておまえたちを地獄に突き落としたカネの話だ。
カネを手にするにはどうすればいい。カネとはどこで産み出される。働く∴ネ外で答えてみろ。
カイジ:働く以外って……競馬?
いや、バクチ……物乞いは違うよな……?
ミサ:ミサ、ぜんぜんわかんなーい。
阿部高和:カネは、
昔は、宝石や価値のある石、株や商品のことを
カイジ:阿部さんが頭の良さそうなことを……!
阿部高和:ところで俺の
こいつをどう思う?
ミサ:えーっ、ここでまさかの下ネタ!?
すごく……バッチィです……
ライト:……はあ。
答えは投資だよ。
現在の資本を投資することにより、将来の資本増加を狙う行為。
広く行われているのは、株式や土地のインカムゲイン・キャピタルゲイン獲得だ。
利根川:答えは投資……
が、投資と聞いて、株や土地しか思い浮かばなかった奴は失格だ。
ライト:……!?
じゃあ、なんだって言うんだ、あいつめ……
利根川:現代社会に生きる者がカネを得るには、方法は二つしかない。
労働市場に労働力を投資するか、金融市場に資本を投資するか。
この二つの市場を定義できて、マルをくれてやれる。
そう、働く≠ニいうのも投資の一つ。
労働市場には資本ではなく、頭脳や体を投資して利益を得る。
カネを投じたい株や土地を探すように、おまえたちは働きたい会社を探しているだろう。
これはまったく同じ行為。投じるのがカネか自分かの違いだけだ。
ライト:自分で労働という答えを封じておいて何だこいつは……!
トンチのような問題を出し、答えられない相手を嘲笑い、優越感に浸る……!
僕の答えの、どこが間違っているんだ……!
阿部高和:ライトは負けず嫌いだな。
利根川:つまり……ろくでなしども。
働かないでいるというのは、貴重な投資機会をドブに捨てているということになるのだ……!
カイジ:(くっ……働く=c…)
(それをしたくないから、俺はこんなところにいるんじゃないかっ……)
(働きたくない……働きたくないでござるっ……!)
利根川:勘違いしている輩も多いが、働いたら負けは間違いだ。
自己資本は体一つ、頭一つのみ。仕事に失敗しても負債を背負わされることもない。
これが起業家や自営業者、投資家なら、己のミスが収支に直結……
収入は不安定で、仕事の出来が悪ければ、元本を失う……
労働市場はノーリスク。
エリートコースに乗れば、元本保証で年収1000万、2000万も可能……!
カイジ:(2000万……!)
ライト:(2000万……)
カイジ:(俺のバイトの年収10年分……遙か雲の上……)
ライト:(安いな。僕なら最低年収5000万はもらって当然だろう)
利根川:ただし……!
小学中学と塾通いをし、常に成績はクラスのトップクラス。
有名中学、有名進学校と、受験戦争のコマを進め、一流大学に入る。
入って三年もすれば、今度は就職戦争……
頭を下げ、会社から会社を歩き回り、足を棒にしてやっと取る内定……
やっと入る一流企業……これが労働市場の参入障壁……
必死に勉強したわけでもなく……懸命に働いたわけでもない……
何も築かず……何も耐えず……何も乗り越えず……
ただダラダラと過ごしてきたおまえたちには、もう決して開かれぬ扉……!
カイジ:ううっ……!
ミサ:がああん……!
阿部高和:そう悲観するものじゃないと思うがねえ。
利根川:しかし、金融市場は違うぞ。
正しい銘柄に、正しい時期に、正しい投機をすれば、対価が得られる。
そこには学歴、性別、人種の壁はない。ただ純粋な勝敗のみ……!
おまえらはシャバでの闘いに、負けに負けて今ここにいる、折り紙付きのクズだ。
今日はそのクズを集めた最終戦……
ここで、また負ける奴……そんな奴の運命など俺はもう知らんよ。
負けた時の処遇なんて、そんな話はもうやめろ。
それが無意味なことはもう話した。これ以上は泣きごとに等しい。
泣きごとで人生が開けるか……!
そうじゃない、おまえらが今することは、そうじゃないだろ……!
語ってどうする……?
いくら語ったって状況は何も変わらない。今、言葉は不要だ……!
おまえらが成すべきことは、ただ勝つこと。勝つことだ……!
勝ったらいいな……じゃない……!
勝たなきゃダメなんだ…………! 勝って道を切り開け……!
(SE:ざわ・・・ざわ・・・)
カイジ:(利根川の退出後……ホールは騒然っ……)
(暴動の気配はどこへやら……感動して泣き出す者多数……)
ミサ:うっ、うううっ……
利根川さん……あたし、目が覚めました……
カイジ:(ここにも……)
ミサ:二十歳を過ぎて、ゴスロリなんて……
ミサ、全然わかってなかった……
ミニスカじゃ、10代のJKに勝てない……
戦う前から敗北してるっ……
カイジ:いや、それはいいんじゃないの……
それより……
阿部高和:ああ……鉄のように熱いセリフだった。
こんなに俺のハートを高ぶらせておいて逃げるって、そりゃあないぜ。
重役だって気持ちいいことしたいんだろう?
カイジ:(おいおい どうなってんだよ、みんなそろって……)
(そりゃあ俺も、ぐっときたところあるけど……)
ライト:どうしたんだ、伊藤さん。
カイジ:いや……
利根川の言っていたことにも一理あるとは思う……
けどそんなふうに感化されるってことは、結局当の利根川が言っていた、
大人の都合にのせられているバカ……そのバカそのものなんじゃねえの……
ライト:僕もそう思う。
利根川の説教はもっともらしいが、説明責任から逃げただけ。
負けた後にどうなるかは不透明なまま……
参加者を取り巻く状況は何一つ変わっていないのに、勝手に感動して納得している。
おめでたいとしか言いようがない。
ここにいる連中が、何の中身もない精神論に感動しているあいだに、
利根川はまんまと真実をかすめ取っていったんだ。
カイジ:(こいつ……切れる……)
(ただお勉強だけが得意のボンボンじゃねえ……)
ミサ:ねえねえ、ライト。これからどうするの?
ライト:そうだな……
ミサ:せっかくだしぃ、ライトとミサと、伊藤さんと阿部さん、四人で協力しない?
矢は一本だとすぐ折れちゃうけど、三本なら折れない。四本だったらきっともっと頑丈だよ!
カイジ:……いや、悪いが俺は独りでやらせてもらう。
ミサ:えーっ、なんでよ!?
カイジ:誤解しないでくれ……
夜神は頭が切れるし、阿部さんは世間慣れしてる……
ミサミサだって芸能界を生きてきた……
一方の俺は、しがないプータロー……
あんたらに比べて、格段に劣ってる……
それは自分でも認めざるを得ない……
ライト:それが当たってるかどうかはともかくとして、
その判断をして、独りでやると考えた経緯がわからないな。
カイジ:逆に……だからこそ、なんだ。
あんたたちは、俺よりも遙かにデキる……
もし俺が疑問を抱いても「これこれこうだから」と説明されたら、俺は「ああそうか」とうなずいちまう。
次第に俺は自分で考えることをやめ、代わりにあんたらの意見をうかがうようになり……
完全な思考停止人間になる……!
ついこのあいだ目に留まったんだが、投機取引……
英語でいうスペキュレーションには、「深く考える」「遠くを眺める」って意味があるらしい。
俺にエスポワール行きを勧めたヤクザは、投機を、不確実な未来に挑む決断と言っていた。
思考停止になってしまえば、その途端、俺は負けだ。
だから俺は……あえて独りで……つたなくても自分自身で決断したい……!
ライト:(こいつ……そこらのクズの人間と同類だと思っていたが……)
(もしかすると……)
ライト:よくわかった。
伊藤さん、僕も全面的に賛成する。
投機は自分独りで行うもの……
この大原則を、決して忘れないように誓おうと思う。
ただ……たまに顔を合わせて、話をするぐらいはいいだろう?
ミサも言っていたが、せっかく知り合ったんだ。このまま他人になるには惜しい。
カイジ:そうだな……
ああは言ったが、俺もこれから何かと世話になると思う……
ライト:これで決まりだな。
あと、僕のことはライトと呼んでくれ。
僕たち、そんなに年齢違わないだろう?
カイジ:……俺もカイジでいい。
「伊藤さん」っていうのは、どうもこそばゆいしな……
ライト:必ずエスポワールを攻略しよう、カイジ。
カイジ:ああ。お互いにな、ライト。
ミサ:む〜……
なんだかあの二人、いい感じぃ〜……
阿部高和:なんだい。
ホモが嫌いな女子はいないって聞いたんだがな。
ミサ:ホモは嫌いじゃないけど、ミサ疎外感。
ライトはミサのものなのにー!
阿部高和:3Pか……
腹ん中がパンパンになりそうだぜ。
カイジ:(1000万……)
(俺が見たこともない大金を振り回すことになる……)
(ク、ククク……震えてきやがった……)
(恐いのか……? 失うこと……莫大なカネが……)
(いや違う……これは血の滾り……興奮……!)
(俺は今、生きている……!)
(二十一年の人生のどの瞬間よりも、俺は生きているぞ……!)
ライト:(妙なことになったが、面白い)
(悪人どものゲームに乗ってやるのも
(恐れることはない。僕にはデスノートと、死神の目があるのだから――)
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