賭博相場録カイジ〜商品先物地獄編〜 第二話-破産-
※この作品は、カイジ、その他の作品を元にしたクロスオーバー二次創作です。
カイジが題材としているギャンブルの代わりに、株式や商品などの金融市場が舞台となっています。
なお作中の取引シーンは、実際のトレードに比べて、かなり簡略化されています。
★配役:♂3=計3人
▼キャラクター
伊藤カイジ♂:
二十代のフリーター。現在無職。
普段はダメ人間だが、博打になると類い希な才能を発揮する。
出典:賭博黙示録カイジ
一条♂:
先物取引業者である帝愛フューチャーズの営業マン。
営業成績はナンバーワンで、近々本社勤務になるとの話も……?
(設定に改変あり)
出典:賭博破戒録カイジ
遠藤♂:
「遠藤金融」社長のヤクザ。
カイジがあちこちで重ねた借金の回収に、カイジのもとを訪れる。
出典:賭博黙示録カイジ
ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、必ずしも正確とは限らないので、確認をしたほうがいいでしょう。
壁紙はこちらのサイトからいただきました。
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カイジ:商品先物取引で多額の負債を抱え、
最後の手段である自己破産も出来ないと知った俺、伊藤カイジ。
俺はあらゆる打つ手を失い、絶望の渦中にあった……
□1/帝愛フューチャーズ、店内
一条:クククク……
自己破産が出来ないからと言って、がっかりするには及ばない……
逆転のチャンスはまだまだ残されています……
カイジ:お、教えてくれ! 頼む!
一条:簡単なことですよ。
投機で作った借金は自己破産しても免責されない……
それは帝愛フューチャーズが、弁護士をつけて真っ向から争える表の企業だから……
ならば、法廷に出てこれない、裏の企業の借金は……?
カイジ:あ……!
一条:もちろん相手はヤクザ……
借金が棒引きされたところで、しつこく取り立てにやってくるかもしれない……
しかし、そのときこそ、お客様は堂々と警察に駆け込んで、保護を求めればいい……
一生返済し続けなければならない当社への借金5000万円と、
リスクは大きいかもしれないが法的には残らず免責される自己破産……
(SE:ざわ・・・ざわ・・・)
一条:当社はお客様に強制することはいたしません。
どうぞ……存分に考え、最善の道を選んでください……!
我々はお客様の前途を、心から応援するものです……!
カイジ:俺は考え抜いた末……乗った……!
借金、借金、そのまた借金……!
サラ金、街金、ヤミ金……!
ありとあらゆる業者からカネを借りまくり、かき集めた5000万で、
先物取引で作った借金は全額返済っ……!
後は自己破産をするだけ……
□2/泡沫不動産の店頭前
カイジ:あ、おふくろ?
俺なんだけど……今、不動産屋に行ってきてさ。
実は引っ越そうと思って……保証人になってくれない?
別にどうってわけじゃないけど……
仕事に行くのに不便っていうか……
そう、新しい仕事見つけたんだ……!
心配すんなって……何もないよ……
元気でやってるから……
ああ、じゃあな……
カイジ:ふぅ……
遠藤:カイジ君、だね。
カイジ:(見るからにヤクザ風の男……!)
(ついにヤクザの取り立てがきたか……!)
遠藤:ちょっと一緒にきてくれるかな。
うちの事務所まで……
カイジ:(携帯だ……110番……)
(ちくしょう、手が震えて……)
遠藤:ククク……おまえ、ハメられたんだよ。
帝愛フューチャーズに……
カイジ:えっ……?
遠藤:まあ、聞け。
悪いようにはしない。
うちの事務所が嫌なら、君の部屋でもいい。
いい大人が真っ昼間に、ただ突っ立ってるってのがよろしくない……
目立ちたくねえんだ……
□3/カイジのアパート
カイジ:どうぞ……インスタントですが……
遠藤:おっ、コーヒーか。すまんな。
カイジ:それで……話っていうのは……
遠藤:先物取引の失敗で作った借金は、自己破産しても免責されない。
だから、すねに傷のある金貸しから金を借りて自己破産しろ……
大方こんなことを言われた……だろう?
カイジ:あ、当たってます……
遠藤:投機で作った借金は、チャラにならん……
ということになっているが、実際の裁判では免責されたケースは多数ある。
さすがに全額チャラということはないが。
逆に1円も免責されなかったケースの方が圧倒的に少ない。
カイジ:じゃあ一条は……
俺の負債が棒引きされると、自分の会社が貸し倒れになるから……
俺にヤミ金から借金させて、その穴を埋めた……
遠藤:クククク……
鈍いな、カイジ君……
帝愛フューチャーズとヤミ金業者……
奴らは最初からグルだったんだよ。
カイジ:…………!?
遠藤:証拠金取引……
丸代金の数十分の一から、数百分の一のカネを預ければ、取引が出来る。
400万円の
もし金が10%値上がりすれば、40万の儲け……
一方、10万円が10%値上がり値上がりしたって、たったの1万円だ。
一見ウマい話に聞こえるだろう……
ところが……!
カイジ:もし金が10%値下がりすれば、40万の損失……
10万円しか預けてないのに、その四倍の損失を被るハメになる……!
遠藤:そのとおり。
帝愛フューチャーズは客殺し≠ナ有名な悪徳店でな。
客から受けた注文は、取引所に取り次がず、店で呑んじまう……
つまり客が損をすれば、そいつが丸々店の儲けになる……
レバレッジをべらぼうに高くすれば、ちょっとの値動きでドボン……
これは古くからある先物屋の手口でね。
ノミ行為って奴で、素人はよくひっかかるんだ。
カイジ:超過した分の損失は、ヤミ金業者からカネを借りさせて埋める……
くそっ……!
遠藤:ひどい話だが……欲を掻いた君も悪い。
こうなった以上、もうコツコツ返すしかねえな。
カイジ:ふざけろっ……
俺は払わないぞ……絶対に……!
だいいちおまえらのめちゃくちゃな金利、違法に決まってる……!
払う義務はないはずだ……!
遠藤:ククク……
カイジ君、違法も法だよ。
この界隈をざっと見渡してみ。トイチ≠フ金貸しがいくらでもいる。
そしてその商売が、みな成立している。
つまりみんな払ってんだよ。
言い換えれば……取り立ててるってことだ。
俺たちはプロだから、取り立てると言ったら、取り立てる。
遠藤:例えば、カイジ君のお姉さん。
公務員のお姉さんにも話は及ぶだろう。
あと、父親はいないが……おふくろさんはまだパートで働いてる。
このおふくろさんも 話せば協力してくれる
そう……家族で一致協力して返せば、
30年とは言わぬ、20年でいけるんじゃないか。
カイジ:貴様っ……もし……!
遠藤:……本意じゃねえ。
本意じゃねえんだ、俺だって……
家族で罵り合う様を、俺はもう見たかねえ。
カイジ:……
遠藤:落ち着け……俺もそれはしたくない。
本題に入ろう……
カイジ:本題……?
遠藤:そうだ……
これから話すことが 俺の本意……
カイジ:…………
遠藤:一カ月後……
駅前のバス停に真夜中、秘密のバスがくる。
行き先はエスポワール
フランス語で希望≠ニいう意味……
今……このバスに乗る参加者を募っている……
カイジ:参加者……?
遠藤:そうだ………
その行き先で数ヶ月……上手くしのげば、
おまえが二十年で返す借金がチャラになる。
□4/二時間後、カイジのアパート
(遠藤が帰った後、タバコの臭いが残る部屋に寝っ転がって、天井を見上げているカイジ)
カイジ:希望=c…
エスポワール≠ノ向かうバスか……
カイジ:エスポワールで行われるのはギャンブル……
勝てば借金はチャラ、負ければそこで強制労働……
五年はシャバに戻れない……
(遠藤との会話を回想するカイジ)
遠藤:このイベントのスポンサーは、名前を聞けば誰でも知ってる、大手のファイナンス会社。
無茶なことはしねえよ。そんなことしなくても充分儲かってんだ。
遠藤:むしろ逆……
若き負債者の救済が、このイベント創立の骨子。
カイジ:救済……?
遠藤:もちろん……この救済って話は、半分は詭弁。
さっき、俺たちは取り立てのプロだから どんな者からも取り立てると言ったが……
実際、若いみそらで何百万というバカげた借金をつくる輩から、長期に渡って借金を回収するのは並大抵のことではない。
俺たちだってカスミを食って生きてるわけじゃない。人件費からしてバカにならない。
カイジ:それがこのエスポワール……ってことですか?
遠藤:そうだ。
つまり、負債者の数を減らし、かわりに一人頭の借金の額をあげる。
その人選がギャンブル。
結果、運悪く債務が膨らんでしまった者は……可哀想だが観念してもらい、囲う。
囲って強制的に回収するのがよろしい……これなら取りっぱぐれがない……
カイジ:たしかに……
貸してる側からすれば、この形態が成立するだけで、充分メリットがある……
遠藤:フフ……
俺はな、カイジ君。
おまえがエスポワールにぶちあたったことは、非常にラッキーだったと思ってるんだよ。
カイジ:ラッキー……?
遠藤:そうさ。
東京に出てきてから、おまえの毎日は、ゴミって感じだろ?
無気力で自堕落で非生産。しょぼい仕事に、しょぼい遊び……
カイジ:はあ……
ええ、まあ……
遠藤:届かないゴールにうんざりしてるんだ。
バスケットボールのゴールは、適当な高さにあるから、みんなシュートの練習をするんだぜ。
あれが、百メートル上空にあってみろ。誰もボールを投げようともしねえ。
カイジ:(そうだ……)
(ただ何となく東京に出てきたものの……)
(高卒で何の資格もない俺は、安い仕事、キツい仕事にしかありつけず……)
(そんな未来の見えない状況が、今を投げやりにして、しょぼい博打、しょぼい酒……)
(気がつけば三年間……何もせず、ダラダラと無駄に過ごしてしまった……)
遠藤:教えてやる。
カネを掴んでないからだ……!
カネを掴んでないから、毎日がリアルじゃねえんだよ。
頭にカスミがかかってんだ。
そして……
カネを掴んだときの感覚を、おまえはもう知ってるはずだ……!
カイジ:…………!
遠藤:この国で、コネも学歴もない奴がのし上がるには……
投機……スペキュレーションしかねえ。
自分の思惑にカネを乗せて、不確かな未来に賭けるっ……!
株、バクチ、起業……本質はどれも一緒……
投機をやってない奴は、家畜と同じ……
決断を誰かに委ね、言いなりになって働く対価にカネをもらう……
自分の意志がない……
つまり、死んでいるも同然……!
(SE:ざわ・・・ざわ・・・)
遠藤:勝てっ、カイジ……!
勝って大金を掴め……!
人生を変えろっ……!
(カイジ、回想から現実に戻る)
カイジ:…………
ヤクザの言うことに感心してりゃあ、世話ぁない。
でも……
カイジ:俺はたしかに……スゲェー煮詰まっていて……
どうしょうもない毎日で……
しかし、金の取引で大金が転がり込んできたときは、パァーッと未来が明るくなった……
(灰皿の横にある、遠藤の名刺を見やる)
(おもむろに携帯を取り出すと、そこに書かれている電話番号を押し始めた)
カイジ:……もしもし。
遠藤さん。
俺……カイジです……
さっきのエスポワール行きなんですけど……
□5/遠藤金融事務所、社長室
(机の上に足を乗せ、タバコを吹かす遠藤)
遠藤:フゥー……
ようやく10人のノルマ達成か。
(胸元の携帯が震え、着信を告げる)
遠藤:はい、こちら遠藤金融。
……おお、一条か。
一条:お疲れ様です、遠藤さん。
親会社から割り当てられた、地区ごとのノルマ……
私たちの担当地区も、やっと人数を揃えられましたね。
遠藤:クククク。
帝愛フューチャーズが、ヤミ金業者と通じている……
ヤミ金業者から焦げついた債権の回収に、遠藤金融が乗り込んできた……
その遠藤金融が勧めるエスポワールは……
一条:帝愛コンツェルン……私たちの親会社が主催……!
最初から私たちの手のひらで踊っていたということ……!
遠藤:ククク……
話にならねえ甘ったれ……
エスポワールじゃそういうウスノロは、いのいちに餌食……喰い物……!
一条:……しかし、ちょっと可哀想ですね。
あいつはエスポワールから帰れないクチでしょう?
遠藤:そりゃそうだ、全然無理。
だってよ……
さっき俺がエスポワールに行くようにそそのかしたとき……
あいつたぶん、俺のこと「いい人」だと思ったぜ。
一条:クククク……バカな奴……!
こんな薄気味悪いイベントが、若き負債者の救済……
そんなわけがないでしょうっ……!
遠藤:ああいうバカがいるから、ヤクザは食いっぱぐれねえんだ。
世の中にな……「いい人」なんていやしねえんだよ。
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