賭博相場録カイジ〜商品先物地獄編〜 第一話-暴落-

※この作品は、カイジ、その他の作品を元にしたクロスオーバー二次創作です。
  カイジが題材としているギャンブルの代わりに、株式や商品などの金融市場が舞台となっています。
  なお作中の取引シーンは、実際のトレードに比べて、かなり簡略化されています。


★配役:♂2両1=計3人


▼キャラクター


伊藤カイジ♂:
二十代のフリーター。現在無職。
普段はダメ人間だが、博打になると類い希な才能を発揮する。

出典:賭博黙示録カイジ

一条♂:
帝愛(ていあい)金融グループの一企業、
先物取引業者である帝愛フューチャーズの営業マン。

営業成績はナンバーワンで、近々本社勤務になるとの話も……?
(設定に改変あり)

出典:賭博破戒録カイジ

ナレーター両:
性別不問です。


ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、必ずしも正確とは限らないので、確認をしたほうがいいでしょう。

壁紙はこちらのサイトからいただきました。
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□1/カイジ、おんぼろアパートの自室

カイジ『未来は 僕らの手の中』

ナレーター:そう……
      確かに それはそうかもしれない。

      しかし その未来の行方が 誰もみな 明るいとは限らない。
      野茂や ダルビッシュや なでしこの未来は明るそうな気がする。
      なぜなら 彼らは積み重ねているから。
      積み重ねていない者にとって この言葉はつらい……

カイジ:5−7、5−7……
    ミドリノマキバオー号と、ダバ=マイロード号……
    ビリっ……最下位っ…ドンケツっ……!
    くそったれっ……! たれ蔵がっ……!

カイジ:そうだ……っ! この前買ったサマージャンボ……!
    今週、当選番号が出てるはず……!

    新聞……!
    ダメだ、そんなもの取ってない……
    ネット……!
    先月、料金滞納で止められた……

    仕方ない……外で新聞立ち読みしてくるか……


□2/カイジ、駅前の本屋で立ち読み中


ナレーター:東京に来て三年……カイジは最悪だった。
      正月明けてから びた一日働いてない。
      しょぼい酒と しょぼい博打の日々。

      そして、そんな毎日のあせりがつのれば、
      ぶらーと外へ行き、パチンコ、競馬、宝くじ。
      分の悪いギャンブルでわずかな貯金をすり減らし、貧乏をこじらせる日々……

カイジ:外した……
    働いてないのに また外しちゃった……
    宝くじ外しちゃった……

カイジ:ハハハハ、ハハハハ……

    あれ……?
    な……なんだこれ……
    泣いてどーすんだよ……オレは……

    くそっ!

ナレーター:この苦境を切り拓く何か……
      有効な手だてはないものか……?

カイジ:(やっぱ……働くしかないか……)

ナレーター:そりゃそうだ……


□3/駅前をぶらぶら歩き回るカイジ




カイジ:帝愛フューチャーズ……
    『金1キログラム、10万円から』

     なんだこれ……安いぞ……

ナレーター:カイジの目にとまった、摩訶不思議な広告……
      金1キロを10万円で売っている店……
      そんな値段で売って破産しないのか……?

      なんのことはない……
      つまるところ、商品先物業者(しょうひんさきものぎょうしゃ)……!

      しかしカイジは商品先物取引を知らない……
      話だけでも聞いてみるか……
      そう思い、タバコの煙が立ちこめる、帝愛フューチャーズの店内に足を踏み入れた……


□4/帝愛フューチャーズ店内


一条:ようこそ。当取引店は誰でもウェルカム。
   金でもガソリンでも、お好きな商品をお気になさらず、ご自由に取引してください。

カイジ:あの……
    金が1キロ10万円って書いてあったんだけど……

一条:お客様、10万円とは証拠金(しょうこきん)の話。
   先物取引について、知識はおありでしょうか?

カイジ:いや、全然……
    騙されたとかいう話なら聞いたことあるけど……

一条:ご安心ください。
   帝愛フューチャーズは、あの有名な帝愛グループ。
   悪名高い客殺し≠フ営業などするはずがございません。その必要もない。

カイジ:…………

一条:商品取引所では、企業を始めとした、数多くの参加者が商品の取引をいたします。
   そのため取引される単位も巨大……
   たとえば金なら2グラム、3グラムといったチンケな量ではなく、1キロ丸ごと取引される。

   本日の1グラム辺りの終値(おわりね)が4000円だから、1キロだとその千倍……
   400万円の単位で取引される……!

カイジ:400万……!

一条:もちろん1キロ分の丸代金(まるだいきん)を用意するのは、企業にとっても大変……
   さらに売り買いが成立するたびに、商品をあちこちに運ぶ苦労はそれ以上……

   そこで取引所では、売り買いの契約・およびその更新だけを行い、商品自体の引き渡しは決められた納会日(のうかいび)に行う。
   証拠金とは、その契約履行(けいやくりこう)の意志を保証する、預かり金のようなものでしょうか。
   だから金1キロの丸代金でなく、数十分の一のお金でよいのです。

   この契約と更新のみで済ませる先物取引によって、スムーズな流通が可能になる、というわけでございます。

カイジ:なるほど……

ナレーター:相づちを打ったものの、さっぱりわからない……
      そんなカイジの真意を察して、一条はさらにたたみかける。

一条:たとえばアカギ貴金属店が、金1キログラムを400万円で売りたいと注文を出す。
   お客様は、それを買う契約をする。必要な証拠金は10万円。
   受渡日(うけわたしび)がきたら、400万円の丸代金を用意して、金1キロを受け取る……

ナレーター:無理だ……
      よくわからないが400万円なんて無理……っ!
      自分とは無縁……!

      カイジが諦めて、席を立とうとしたそのときである……!

一条:金の価格が値上がりし、1キロ500万円になったとしましょう……!
   黒沢興業がその値段で買いたいという注文を出してきた……!

   お客様はアカギ貴金属店から、400万円で買うという契約を持っている……
   それを黒沢興業に売るっ……!
   400万で売りたいアカギ貴金属店と、500万で買いたい黒沢興業を結びつける……っ!

   するとその差額、100万円は、お客様の利益でございます……!

ナレーター:そのときカイジに電流走る……!
      たった10万円の証拠金から、100万円が産み出される……
      それはまさに、錬金術に思えた……!

カイジ:俺も金、買える……?
    俺、無職なんだけど……

一条:どうぞどうぞ。
   帝愛フューチャーズは、無職でも乞食でも、分け隔てはいたしません。
   
   この書類にサインして、ハンコを押していただければ、
   今すぐにでも金の取引が可能でございます……!

ナレーター:カイジはなけなしの貯金をはたき、証拠金10万円を預けた。
      そして買った金1キロ……

      果たして価格は上がった……!
      1グラム4000円から、4500円……!
      カイジは売った……! そして手にした利益……!

一条:先ほど約定(やくじょう)いたしました。
   お客様の買い単価1グラム4000円に、本日の終値1グラム4500円、差額は500円。
   1キログラムでの売買になりますので、50万円をお客様の口座に振り込ませていただきます。

ナレーター:預金通帳に記入された振込50万……!
       止まっていたネット、ガス、電気、水道すべて復活……!
       滞納していた家賃その他を精算しても、手取りは20万以上あった……

カイジ:もう一度金を買う……!
    この前の証拠金と合わせて30万……!
    金3キロ……! いますぐ買ってくれ……!

一条:ありがとうございます。
   1グラム4500円で、3キロ分すべて約定いたしました……!

ナレーター:そして暴騰……!
       金は、1グラム5000円へ駆け上る……!

       手にした利益は、以前の取引の三倍……!

カイジ:150万っ……!

    うはっ、うははははははっ……!

ナレーター:カイジ、豪遊っ……!
      夜の街にくり出し、一週間続けて豪遊っ……!

カイジ:これがGカップっ……!
    ボインボインに、揺れてやがるっ……!

ナレーター:手にした利益を湯水のごとく使い切り、残りは100万円……
      さすがのカイジも猛省っ……一週間で50万円浪費は猛省……!

      となれば、カネを増やす道は一つ……!

カイジ:一条……いいものはないか?
    金は二度も儲けたから、少し怖い……

一条:それでしたら、銀などいかがでしょう。
   金と連動性が高く、それながら、まだ金ほどの高値圏ではありません。

   銀は1グラム100円……二倍にも三倍にもなる余地がございます……!
   1980年のハント兄弟の買い占め事件に匹敵する、大相場(おおそうば)が期待されております……!

カイジ:よし、じゃあ銀だ。銀を買おう……

一条:銀の取引は10キログラムからとなっております。
   証拠金は金と同じく10万円でございます。

カイジ:俺の手持ちは100万円……
    銀は10キロが10万円だから、100キロ……!
    俺は100キロの銀を買える……!

一条:銀100キロだと、丸代金は1億円。
   銀が1グラム10円値上がりするたびに、お客様の資産は1000万円ずつ増加していきます……!

カイジ:い、いっせんまん……!
    買った! いますぐ買ってくれ……!

一条:銀1グラム100円で、100キログラム分、すべて約定いたしました……!

ナレーター:カイジは興奮の絶頂にあった……
      しかし、それも束の間……銀は5%の下落をする!

一条:お客様……
   現在お預かりしている証拠金では、損失を担保できなくなりました。
   まことに申し上げにくいのですが、追加の保証金、追い証(おいしょう)を入れていただく必要がございます。

カイジ:追加の証拠金って……いくら……?

一条:丸代金1億円の5%の損失ですので、500万円……!
   お預かりしている証拠金は100万円ですので、400万円の追い証が必要になります……!

カイジ:よ、よんひゃくまん……
    そ、そんなの無理だ……!

    もういい……っ!
    取引を終わりにしてくれ……!

一条:取引を反対売買で閉じることも可能ですが……
   その場合でも、損失分の400万円をお支払いいただく必要がございます。

   取引を終了した場合……400万円は確定損となります……!

(SE:ざわ・・・ざわ・・・)

一条:どうなさいました、お客様。
   さあ、さあ、お気を確かに……!

カイジ:一条……銀の価格は、戻ると思うか……?

一条:はい、たしかなスジからの情報もございます。

カイジ:戻る……銀は戻る……

一条:大暴騰の可能性は、まだまだ残されている……!
   400万円を入金していただければ、取引を継続できます……!

カイジ:でも……
     400万なんてカネが……

一条:そういえば……
   当ビルの向かいに、個人金融がありまして……
   そこは金利は高いが、無担保で高額融資だとか……

   もちろん、おすすめするわけではありませんが。

カイジ:(400万……今しのげば戻ってくる……)
    (上手くすれば1000万、2000万の大金も転がり込んでくる……)
    (今さえしのげば、今さえ……!)

ナレーター:今この瞬間だけ……
      その考えに取り憑かれたカイジは、法定金利を無視した、違法営業の街金(まちきん)に足を運び、400万円を借りた……

      しかし……っ!

      ビンラディン射殺……原油急落……!
      それに引きずられるように、金や銀、商品相場、軒並み下落……!

      銀は高値から20%の下落……!
    
カイジ:うああ、あああ…………

ナレーター:カイジは追い証の請求が鳴り止まない携帯の電源を切り、
      ネットカフェに駆け込んで、怯えるように漫画を読み耽った。

      そして一週間……!

一条:クククク、お待ちしておりましたよ。
   あれから銀は、暴落に次ぐ暴落……!

   1グラム50円を切った!
   お客様は1グラム100円で、丸代金1億円の契約をしたから、
   その損失額、なんと5000万円……!

カイジ:俺が5000万の負債なんて……
     夢だ……悪夢だ……

一条:ところがどっこいっ……!
    夢じゃありません、これが現実ですっ……!

カイジ:い、一条ぉ……
    カネ、貸してくれないか……!

    必ず儲けて返すから……!
    俺の腕なら、5000万なんてあっという間に……!

一条:バ――カ……!
   終わりなんだよ、カネがなくなりゃ……!
   それが投機の鉄則だ……!

   お前はもう客じゃない……!
   対等な口を利くな……!

カイジ:後悔するぞぉ……一条……!

一条:アホか……!
   さっさと耳をそろえてカネを返せ……!

カイジ:ク、クククク……
    ハハハハハハ……

    後悔するぜ、一条……
    俺が一週間、何もせず漫画喫茶にこもっていただけだと思ったのか……

    自己破産……!
    こいつで借金はすべてチャラ……! お前の取り分はパー……!

一条:ク、ククク……
   何を企んでいるのかと思えば……カイジ君……!

   【破産法 第252条第1項第4号】
   浪費又は賭博その他の射幸行為(しゃこうこうい)をしたことによって、著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。

   つまりだ……
   投機でスって作った借金は、免責の対象にならないんだよ、バ――カ……!

(SE:ぐにゃ……ぐにゃ……)

カイジ:(長い間……と言っても15分ほどだが、俺は椅子に座り込み、放心状態)
    (頭はオーバーヒート。何かを考えられる状況になく、ただ眼前に積み上がった5000万)
    (人生に永久について回る、逃れられない、莫大な負債に押し潰されていた)
    (光明はなかった。よって次の手も見出せない。どう考えても無理に思えた……)



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