現代妖怪のハロウィンの夜


★配役:♂5♀1=計6人


▼キャラクター


狼男♂:
人間から狼人間に変身する獣人。
世を忍ぶ仮の姿は、フリーターの兄ちゃん。

バンシー♀:
すすり泣くと不幸を招く妖精。
世を忍ぶ仮の姿は、OL。

デビル♂:
地獄からやってきた下っぱ悪魔。
世を忍ぶ仮の姿は、デスメタルバンドのボーカル。

バンパイア♂:

西欧に住んでいた吸血鬼。
世を忍ぶ仮の姿は、大病院の勤務医。


※以下はチョイ役です

観客A、家の住人、サラリーマンA、店員♂:

観客B、警官、サラリーマンB♂:

チョイ役の配役は目安です。
各自お好きに調整・配分してください。
特に性別の指定もありません。


壁紙はこちらのサイトからいただきました。
フリー素材・今日もわんパグ様




□1/夜、とある街の公園


狼男:オオオオオオ――ン!

    ついに待ちに待った日がやってきた!
    年に一度のハロウィン! 化け物のねり歩くカーニバル!
    ハロウィンの夜には、本来の姿で出歩いても人目を引きやしねえ!

バンシー:集めてる……集めてるって……

狼男:うおっ、本当だ!?
   みんな、どうして俺を見るんだ!?

バンシー:ハロウィンの夜でも、街中で吠えてたら頭のおかしい人決定よ……
      あんたバカじゃないの……

狼男:くぅぅん……
    違うんだ、俺は仮装してるだけで本当は人間なんだ。
    だから銀の弾丸とか銀の十字架とかやめてくれよぉ……

バンシー:あんた狂犬病に罹っちゃったんじゃないの……
      ワクチン打っとくぅ……?

狼男:狂犬病だぁ!?
    俺を犬扱いするんじゃねえ!
    この根暗女!

バンシー:ふっ……そうよ……
      今日も私の話し相手は、テレビの中……
      みのもんたのコメントに、一人相づち打ってたわ……

狼男:うわっ、暗っ!

バンシー:ほっといてよ……

狼男:一年振りだってのに、相変わらず暗いな。

バンシー:あんたもね……
      また飼い主の家に転がり込んで生きてるの……犬。

狼男:犬っていうな!
    俺は寂しい女に、癒しを提供するサービス業をやってるんだよ!

バンシー:世間じゃ、そういうのをヒモっていうのよ……
       ああ〜……私もヒモを飼える経済力が欲しいわ〜……

狼男:最近景気はどうよ、OLさん?

バンシー:とぉ〜っても、いいことがあったわぁ。
      私をおつぼね扱いしていた社長のハゲ親父……
      会社が不渡り出して、倒産しやがったわ。
      あははははぁ〜、ざまぁ〜!

狼男:でお前、今何やってんの?

バンシー:…………

      そうよ。
      いいことがあったのに、どうして私は不幸なのか今気づいたわ……

      私はバンシー……求職中の妖精さん……

デビル:フハハハハハ!!
     偉大なる大サタンの信徒どもよ!
     よくぞ今宵のサタニストライブに集まってきた!

狼男:おっ、騒がしいな。
    あそこの人だかりか?

バンシー:どこのバカどもよ……
      うるせえわね……

デビル:地獄の大貴族サドラー!!
     地獄の底から、ライズ・フロォム・ヘル!!!

バンシー:ああ〜……
      あいつも呼んでたのね……

狼男:地獄の大貴族って、ホントは男爵の息子なのになぁ。

デビル:ハロウィンの夜……
     悪魔が跋扈(ばっこ)する恐怖の一夜……

     夜道で気に食わないあのヤロウと出くわした!
     今夜なら、悪魔の仕業に見せ掛けるチャンスだ!
     さあ、どうすればいいー!?

観客A&B:殺せー!!!

デビル:どうすればいい!?

観客A&B:殺せー!!!

デビル:フハハハハハハ……!
     ハロウィンの一曲目『殺人鬼』!!

観客A:おおっ、狼男が走ってきたぞ!

デビル:♪スラッシュ!
     ♪駆け抜けるナイフの刃が〜!!
     ♪スプラッシュ!
     ♪心臓が血ヘドを吐き散らす……

      ぐおっ!

観客A:ああっ!
     狼男にサドラー大公爵が倒された!

観客B:きっと地獄の権力闘争だ!

観客A:サドラー様が拉致されていくぞ!

観客B:追え! 大公爵閣下を助けろ!


□2/人通りの少ない住宅街


デビル:フハハハハハ。
     我が輩の救出、ご苦労であった。

バンシー:あんたねぇ〜……
      なんで野次馬相手ライブ始めてんのよぉ〜……

デビル:教祖たるもの、いつ何時でも迷える子羊どもを導かねばならんのだ。

狼男:テメーのせいで生卵ぶつけられたじゃねえか。

デビル:痛っ。
     何をする貴様。
 
     地獄の大公爵サドラー様に――

バンシー:嘘吐くんじゃないわよ、男爵のボンボン。

デビル:二度もぶったな!
     パパにも殴られたことがないのに!

狼男:うるせーバカ。

デビル:ひ、ひどい!
     三度目なんてブライト艦長ですらやらなかったぞ!

狼男:誰だよそいつ。

デビル:うわああああん!!!

バンパイア:あー……リンチ中に失礼。

バンシー:あら、メール届いた?

バンパイア:ああ、集合場所が急遽(きゅうきょ)変更になったと。
       君たちと会えたのだから、ここでいいのかい?

狼男:いいんだけどよー、お前ハッカ臭えぞ。

バンパイア:ふむ。
       君の嗅覚を気遣ってメンソール入りにしたのだがね。
       じゃあ普段のマルボロを――

狼男:うおっ、今度はヤニ臭え!

バンパイア:やれやれ……
        ピースから、マルボロライトに変えたんだよ。
        君もここいらで妥協してくれたまえ。

デビル:フハハハハハ……!
     火災発生原因の上位を占める煙草に火を点けるとは、この大悪党め!

バンシー:天ぷら油も火災の原因の一つなのよ……
      私は天ぷらなんて手の込んだもの作らないし、相手もいないし関係ないけど……
      ふふふふふ〜……一人って最高に幸せ〜……

バンパイア:相変わらずのグダグダだね。

狼男:おい、てめーら!
    今日は一年に一度のハロウィンだぞ!
    人間どもから菓子を巻き上げる日だぞ!

デビル:今宵の二曲目、バーニングラブ!

    ♪アスファルトに落ちるタバコの線香花火〜
    ♪消えゆく私を救ってくれたのは、あなたでした〜
    ♪マイダーリン、ガソリン〜

バンシー:ああ〜……
      隣の部屋のリア充カップル……むかついてきたわぁ……
      ロケット花火打ち込んでやりたいわぁ〜……

デビル:♪二人の愛は、今燃え上がる〜
     ♪家を燃やして焼き殺せ〜
     ♪Lalala、Burn to death!

バンパイア:ふぅ〜……
       ああ、一服しても沈静作用が軽いな。
       さすがにライトだ。二度と買わん。

狼男:ああ、そうかよ!
    テメーらが参加しねーなら俺がやる!!!
    ハロウィンの暴れっぷりを見せつけてやるぜ!!!


□3/近くの一軒家の玄関の前


狼男:ウオオオオオオン!!!

    お菓子をよこせ!
    いたずらするぞ!!

家の住人:…………

       あんたいくつ?

狼男:え……?
    三百歳ぐらい……?

家の住人:ああそう。
 
      で、三百歳だっけ?
      いい大人なのに、ちょっとはしゃぎすぎじゃないの?
      夜中に大声出して、毛むくじゃらの着ぐるみまで着て。

狼男:ぐるるる……
    こいつは俺様の地毛だぞ……

家の住人:とにかく、うちはそういうのやってないから。
      他のうち当たってくれない?

      じゃ。

狼男:あ――……

    くぅぅぅんっ……


□3a/路地裏


バンシー:ぷっ……

デビル:フハハハハハハ!

狼男:笑うんじゃねえっ!
    噛み殺すぞ!

バンパイア:まあ、昨今は物騒だからね。
       ハロウィンに参加しない家庭も多いだろうよ。

狼男:ぐるるる……

バンシー:うふふふ〜……
      次は私ね……

バンパイア:ああ、君も挑戦するのかね?

バンシー:当然でしょ……
      大人の色香は、すんごいのよぉ〜
      お菓子を山ほどゲットしてくるわぁ。


□4/夜の繁華街


バンシー:うう〜……
      ハロウィンの夜なのに誰もお菓子をくれない〜……

サラリーマンA:おっ、なんかコスプレ女がいるぞ。

バンシー:悲しくて涙が出ちゃう〜……
      だって妖精だもの〜……

サラリーマンB:ほんとだ。気合い入ってるなー。

バンシー:お菓子をちょうだい〜……
      お菓子〜……
      トリックオアトリート〜……

バンシー:(哀愁を誘う美女の涙……)
      (決まったわね……)

サラリーマンA:……どうする? ガムあるけど。

サラリーマンB:やめとけよ。あんな変なおばさん。

サラリーマンA:そうだな……なんかヤバそうな雰囲気だし。

サラリーマンB:それより急ごうぜ。
          合コン遅れちまうよ。

サラリーマンA:おお、そうだったそうだった。
          おばさんに構ってる場合じゃないよな。

サラリーマンB:そうそう。
          今日こそモノにするぞ!

バンシー:…………

      トリック、オア、トリート……


□4a/路地裏その2



狼男:……可哀想すぎて何も言えねー。

バンパイア:アンチエイジングを希望なら、私に言いたまえ。
       高齢者医療の一環として、保険でツケておくよ。
       君には十分に高齢者医療を受ける資格がある。

バンシー:ほっといてよ……
      あと、さり気に私を高齢者に含めたわね……

デビル:フハハハハハハ!
     真の妖怪である、我が輩の出番がやってきたようだな。
     人間どもを恐怖のどん底に叩き落としてくれよう!

狼男:あぁ?
    なんだテメー?

バンシー:むかつくわぁ……

デビル:ひぃっ。

バンパイア:まあまあ。
       やるだけやって見てはどうかね?
       君は外見だけなら、凶悪そうだし。


□5/交番の前


デビル:フハハハハ!!!
     地獄の大公爵サドラー十三世参上!!

警官:な、なんだお前は……

デビル:トゥリック・オァー・トリット!
     悪戯して犯してやるぞ!!
     許して欲しければ、我が輩にお菓子を捧げよ!!!

警官:……ちょっと君、署に入りなさい。
    じっくり話を聞かせてもらおう。


□5a/街路を逃げる四人


狼男:てめー何やってんだ!
    なんで俺が走らないといけねーんだよ!

バンシー:ああ〜……
      男に追われるのって生まれて初めて……
      胸がドキドキ……これって恋かしら?

バンパイア:それは息切れによる動悸だと思うよ。

警官:待て、そこの変質者四人!
    本官から逃げられると思うなよ!

デビル:地獄の大貴族サドラー十三世を舐めるなよ!
     大サタンの力をもってすれば、時効まで逃げ切るなど造作も無いわ!

狼男:地獄に堕ちろ、へっぽこ悪魔!

バンパイア:無駄口を叩いていないで走りたまえ。
       貴重な呼吸をお喋りに使うのは合理的でないよ。

狼男:おいコウモリ!
    テメーさっきから、上から目線で見下ろしてんじゃねーぞ!

バンパイア:そりゃあ飛んでいるからね。
       目線を下に向けないと話せないだろう。

狼男:オオオオン!!
    叩き落としてやりてええっ!!

バンシー:ヘボ悪魔……あんたも飛びなさいよ……
      それで私を抱えて逃げなさぁい……

デビル:我が輩の翼は、ライブ用のコスチュームなのだ。
     おお、そうだ! こいつを捨てよう。
     どおりで背中が重いと思った。

     フハハハハ。軽い、軽いぞー!

警官:待たんかー!
    本官のニューナンブが火を噴くぞ!
    ええい、こうなったらゲーセンでゾンビを撃ちまくった本官の腕前を見せてくれる!

バンパイア:おや、危ない。

狼男:うおおおっ!
    マジで撃ってきやがった!

バンシー:わ、私の髪がちぎれ飛んだ……
      呪ってやるわ、呪ってやるぅぅ……

バンパイア:安心したまえ。
       然るべきところにタレ込めば、数週間後には、彼は懲戒免職だ。

デビル:貴様に贈る鎮魂歌(レクイエム)
     三曲目『職を取り戻せ』!

    ♪YOUはMuShock!
    ♪採用試験、落ちてくる〜!!

バンシー:貯金という頼りない浮き輪に掴まって、世間という荒波を漂うがいいわぁ〜……

狼男:実感こもってんなぁ、お前。

バンパイア:では、私は先に行っているよ。
       低空飛行だと、被弾の危険性があるからね。

狼男:あっ、一人だけズリいぞ!

バンシー:あんた……
      友達を見捨てて、幸せになれると思ってるの……

バンパイア:死んでしまえば、不幸も体感出来ないよ。
       ゲームオーバーよりは、ハードモードの人生をコンテニューするだろう?

デビル:我が輩が倒れても、この世の悪は不滅なり!
     先に地獄で貴様を待っているぞ!

狼男:勝手に死に台詞吐いてんじゃねー!
    俺のライフは、まだゼロじゃねんだよ!

バンパイア:お菓子も調達しておくから安心したまえ。
       君たちの健闘を祈る。

バンシー:ああ〜……
      裏切りものぉぉ〜……!!


□6/コンビニ



バンパイア:お菓子をくれないかい。

店員:はい、全部で3420円になります。

バンパイア:Trick or treat。

店員:……は?

バンパイア:気にしないでくれ。
       私たちがお菓子をもらうときの合い言葉だよ。

店員:はあ……
    ありがとうございましたー!


□6b/真夜中の空き地


狼男:金払って、菓子買ってんじゃねーよ!

バンパイア:Trick or treatとは言ったんだがね。
       残念ながら、レジ番の彼には伝わらなかったようだ。

バンシー:もういいわよ、どぉ〜でも……
      はぁ〜……疲れた身体にチョコレートが染み渡るわぁ〜……

デビル:おお!
     地獄の釜で煮詰めてとろかした牛の皮膚に、
     アダムとイブの果実の汁を垂らした、禁断の菓子!

バンパイア:アップルグミはお気に召したかい?

狼男:ちっくしょー!
    コンビニで駄菓子買うなら、ハロウィンの意味ねーじゃねーか。

バンパイア:そうでもないさ。
       狼男が、バンシーが、デビルが、そしてバンパイアが、
       人目をはばかることなく、大手を振って街を歩いたんだ。

       これだけでも、楽しい一夜だったと思わないかね?

バンシー:そうね〜……
      久々に人間の格好しないで外に出たわぁ〜……

デビル:かつて我々の住み処であった闇は、人工の灯りに放逐された。
     明る過ぎるのだ、我らにとって人間の夜は――

狼男:テメーがまとめてんじゃねー、へっぽこ悪魔。

バンシー:ほんとうぜえわぁ〜……

バンパイア:さあ、今宵は年に一度のハロウィン。
       過ぎ去りし落日を偲ぼう。
       常夜灯に掻き消された夜もまた一興。

狼男:ウオオオオオオオオン!!
    今夜は月を飲み干すまで酔い潰れてやるぜ!!
    トリックオアトリット!!!

バンシー:長く生きていると、人生泣き笑いね〜……
      たまには嬉し泣きもしてみたいわぁ〜……
      トリックオアトリート……

デビル:三十路(みそじ)を過ぎてもカボチャの馬車を待つシンデレラたちに捧ぐ。
     ハロウィンの四曲目『負け犬パンプキンスープ』!!!

バンシー:あぁ!?

デビル:……くっ!
     突然、我が輩の頭の中からメロディーが消えてしまった!
     おのれ、大天使ミカエルの妨害か!

     今日のところは、資本主義に堕したポップスでも歌ってやろう。
     トゥリック・オァー・トリット!

バンパイア:夜の王座を人間に明け渡して、百年以上が過ぎた。
        一年に一度、一夜限りの復権を楽しませてもらおうじゃないか。

        君もよきハロウィンの夜を。
        Trick or treat――



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