ゲネシスタ-隕星の創造者-
17話-新世界へ-
★配役:♂3♀3=計6人
金剛石のように透明で煌びやかな美貌に輝く宝玉の美女。
鎖骨の窪みに金剛石の宝珠が埋まっており、
ダイノジュラグバ系譜の
ダイノジュラグバこと
凜嶺娥は、
本体である
封星座珠:【金剛龍玉髄】
赤い武火の髪と、焦げ色の肌をした仙人の女。
父である『焔帝』を討ち、『
宗主国である龍仙皇国に反旗を翻す。
ダイノジュラグバ系譜の
本来の姿は、獅子の如き鬣を逆立てた、熔岩の血を煮やす二足歩行の竜である。
しかし火釜国の龍脈は、五千年前の『
封星座珠:【業炎鬣】
射干玉の黒髪と蒼醒めた肌を持つ仙人。
不気味な象骨の面を被り、暗色の
その仮面の下の素顔は、始皇帝と呼ばれた男の影とも言うべき、歪んだ鏡像である。
ダイノジュラグバ系譜の
ダイノジュラグバこと
天魔神龍は天帝の被創造物ではなく、天帝自身の分身であり、
常に世界を脅かし続け、時代の発展を促し、停滞に澱んだ時、末法を将来して、一つの
神龍と称されながら、神龍とは別次元の存在。
しかしまた天魔神龍も、無限輪廻に縛りつけられた虜囚なのである。
龍仙皇国の初代皇帝。
最後の
〝龍と獣と人の共存する国〟を志し、支配者として君臨する
始皇帝の施策の下、竜の化身した
始皇帝は自らの王朝『秦』が滅びた後、本来の
事実、
しかしその総ては、始皇帝と呼ばれた人間が描いた、壮大な創作史記であり、お伽噺である。
彼の本名はダイバダッタ。
彼は現代の龍仙皇国でいえば
かつて〝龍と獣の王〟となるべく生まれた麒麟を弑逆し、〝龍と獣と人の共存〟を掲げた
ダイバダッタはその罪滅ぼしに、自らが第二の麒麟となり、〝龍と獣と人の共存〟の
しかしその後も、〝龍と獣と人の共存〟を終わりに導こうとする、天魔神龍の策動は続き、ついに末法へ到達する。
ダイバダッタは太極の渦に飛び込むことで、天帝に己の意思を伝え、〝龍と獣と人の共存〟の
そして彼は、太極の渦の中で、跡形もなく消滅した。
彼の魂は、太極の渦の中で生き続けていた。
そして再構築され、復活を果たす。
天帝の意思を継いだ操り人形として――
東洋人と白人のハーフじみた風貌の、隻眼の男。
老賢者を思わせる喋り方とは裏腹に、肉体は若々しく、槍を扱う武闘派でもある。
ゴッドゲルゼ系譜の
北欧神話の老獪なる賢者神。ルーン文字の星図と、〝投げれば必ず命中する〟
憑代となった
儒学者は生粋の東洋人であったが、オーディンを宿したことにより、屈強な肉体とアングロサクソンの特徴が発現した。
封星座珠:【
トリックスター♂
東洋人と白人のハーフじみた風貌の男。
端整だが軽薄な顔立ちと、染めたような安っぽい金髪の持ち主。
ゴッドゲルゼ系譜の
類稀な美男子でありながら、気ままでひねくれた性格の、北欧神話のトリックスター。
北欧神話の世界の終焉『神々の黄昏ラグナロク』を招き寄せた元凶。
氷狼フェンリル、大沼蛇ヨルムンガンド、死人姫ヘルは子供にあたる。
儒学者と同じく火釜国の内乱で命を落とす。
封星座珠:【なし】
リトル・ヘル♀
東洋人と白人のハーフじみた風貌の少女。
狼の頭蓋骨を大事そうに抱え、干涸らびた蛇の干物をベルトのように体に巻きつけている。
薄汚れた金髪で隠れた左半身は、屍蝋化の進んだ青ざめた肌をしている。
ゴッドゲルゼ系譜の
『
ロキの呪われし子供であり、氷狼フェンリルと大沼蛇ヨルムンガンドはそれぞれ兄にあたる。
水子の父親は、ロキの
画家も儒学者も死亡しており、ヘルの創成によって蘇った。ただし彼らはその事実を知らない。
封星座珠:【
氷狼フェンリル
氷の結晶化した狼。
リトル・ヘルの抱える狼の頭蓋骨から
ゴッドゲルゼ系譜の
北欧神話のラグナロクでは、オーディンを飲み込む宿命にある。
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
大沼蛇ヨルムンガンド
あらゆる地形を沼地に変え、その泥沼の中を泳ぐ巨大蛇。
リトル・ヘルの蛇の干物から
ゴッドゲルゼ系譜の
局所的な
北欧神話のラグナロクでは、雷神トールと相打ちになる。
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
狼戦士ウルフサルク
ゴッドゲルゼ系譜の
狼の毛皮を纏った、オーディンの戦士。
作中に登場するウルフサルクたちは、英雄シグルドの
竜相手には〝躰が鋼鉄になる〟〝剣は竜殺しの魔剣グラムとなる〟
火釜国の人民が、北欧神話の信者となり、狼戦士となった。
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
※以下は被り推奨です
有翼戦士エインヘリャルA両
有翼戦士エインヘリャルB両
有翼戦士エインヘリャルC両
ゴッドゲルゼ系譜の
賢者神オーディンが擁する有翼戦士。
作中に登場するエインヘリャルたちは、英雄シグルドの
竜相手には〝躰が鋼鉄になる〟〝剣は竜殺しの魔剣グラムとなる〟
火釜国の人民が、北欧神話の信者となり、有翼戦士となった。
彼らの肉体は世界樹の根に絡め取られて眠っており、世界樹の
□5に登場。焔帝仔と天魔神龍と会話有り。
ゴッドゲルゼ系譜の降魔概要
情報生命体、もしくは
神話・伝奇・物語といった形で、人々に語り継がれてきた創作キャラクターが自我を持った生命体。
創作キャラクターたちは、人間の精神活動を間借りする形で、物語の世界を生き、時に二次創作として原典から外れた冒険に出て、人格情報が形成されていった。
集積された人格情報に、皇祖ゴッドゲルゼの隕石灰が感染し、情報が自我を持った。それがゴッドゲルゼ系譜の降魔である。
彼らは、自らを
より多くの人々が、より多く自らを知ることによって力を増すため、自己顕示欲は総じて高い。
憑代は
例外的に
肉体や物理法則に制限されず、神話上の武器の他、魔獣や龍なども
ただし膨大な
多くは一つの神話・物語の中核となる建造物である。
※ルビを振ってある漢字はルビを、振ってない漢字はそのまま呼んでください。
ゲネシスタwiki 劇中の参考になれば幸いです。
□1/火釜国、祝融山の頂上
凜嶺娥:シャオめ。
何度試みようと、無駄なことだ。
凜嶺娥:かつて我が姉、
しかしそれも遠い昔。不死身を支えた
もはや
凜嶺娥:シャオ、どこにいる。
お前が留守にしている間、王都では外法遣いどもが幅を利かせている。
衆目の前に姿を現せ。
トリックスター:いよう。
凜嶺娥:お前は外法遣い――
シャオをどこにやった。
トリックスター:さぁね。知りたかったら
凜嶺娥:は――!
トリックスター:おわっ、と、とぉ。
ダイヤモンドダストブレスか。
吐く息までお綺麗だこと。
凜嶺娥:わしの吐息は万物を
次はお前を消し去るぞ、蝿。
トリックスター:俺様ちゃんがこれ以上男を磨いたら、一目見ただけで股を濡らしちまうぜ。
凜嶺娥:死ね。
トリックスター:カモン! ウルフサルク!
凜嶺娥:狼の毛皮をまとった男ども……
トリックスター:うひゃひゃひゃ。やっちまいなあ。
凜嶺娥:……わしの体に
トリックスター:そこらへんの露天でパクってきた、なまくら。
凜嶺娥:なんだと。
トリックスター:そいつらはなぁ、龍を殺す宿命を背負っている。
英雄シグルドの
龍相手には、
竜殺しの
凜嶺娥:
トリックスター:そう、オメーはここで討ち取られる運命なわけよ。
凜嶺娥:くだらん。
トリックスター:あ? ウルフサルクの肉体を貫きやがった。
凜嶺娥:運命など、天地を統べる力の前では、偶然の幸運に
まぐれだ。まぐれは長くは続かん。
イカサマを引き起こす代価は、すぐに底をつく。
トリックスター:
そういうこと!?
ワイズマン:
凜嶺娥:お前は――
ワイズマン:さすれば我がグングニルの
凜嶺娥:ぐっ――
ワイズマン:
破裂せよ。
凜嶺娥:――!!
トリックスター:
ワイズマン:流れ星――
トリックスター:ダイヤモンドの隕石だぜ。
こっちに落ちてくるぞ。
傀儡女:…………
トリックスター:のっぺらぼうの
ワイズマン:
遠く離れた金剛竹林から撃ち込んできおった。
トリックスター:なんかこいつら、動きが緩慢だなあ。
ワイズマン:『
傀儡女:…………
トリックスター:……へえ、マジだな。
勝手にコケて動かなくなっちまった。
ここまではオメーの読み通りだな、ワイズマン。
ワイズマン:これよりが本番よ。
トリックスター:来るか?
ワイズマン:来るとも。
残り少ない高位の竜、
たとえ直系の眷属でなくてもな。
金剛神龍:外法遣いども。
よくも
トリックスター:来やがった……龍の本体が――!
ワイズマン:手はずは良いな。
トリックスター:ああ。
金剛神龍:祝融山よ、アグニの眷属を護るため――
粉微塵に打ち砕かれろ。
リトル・ヘル:WOOOOOOOOOOO――!!!
ワイズマン:やれい、
金剛神龍:離れろ、下郎。
トリックスター:金剛石の
バラバラにされちまったぞ!
リトル・ヘル:にいさまは死なない。あたしが黄泉還らせるから。
ワイズマン:フェンリルとヨルムンガンドが……
トリックスター:戻っていくぞ、テープを巻き戻すみてえに――バラバラ死体が。
ワイズマン:
リトル・ヘル:ごかがああああ……!!
ぎいいいい……!!!
金剛神龍:くっ……
ああっ――!!!
ワイズマン:やった――!
トリックスター:
リトル・ヘル:はー、はー……
ワイズマン:目に鼻に耳。全身から出血しておる。
トリックスター:生理じゃねえの。
それより
女に変身していくぜ。
ワイズマン:『
トリックスター:触るなよ。俺が運ぶ。
ワイズマン:――やったぞ。
晴れて我らは、ドラゴンスレイヤーじゃ。
アースガルド再興の日も近い。
ぬふふふ、ぬははははは――!!
リトル・ヘル:運命は変わらない。
あの人もあいつも……黄昏に流れていく。
だけど、にいさま。
悲しいよ。
どうしてだろ。
わかってるのに。
とうさま……
□2/5000年前、竜と獣の死体が折り重なる九黎平原
始皇帝:朕は始皇帝――!
龍仙皇国を統べる、人間の
我が呼び声に応えよ、
凜嶺娥:空間に黒い爪痕が
やはりお前が手を引いていたのか、
天魔神龍:
あるじの命じるまま、
凜嶺娥:おのれ、マーラ――!!
始皇帝:待て、
マーラよ、朕を天帝の元へ連れて行け。
凜嶺娥:――!?
始皇帝:天帝が何を欲しているのか。
何故幾度も時代を終わらせては、新たなる時代を始めるのか。
果てなき退屈、予定調和。
それに
壊しては創り、壊しては創り――
だが、ある時、人間が生まれた
人間は、天帝と同じく、モノを創り出す。
面白くないはずがあるまい。
朕は人間の
最も面白き人間であるぞ。
マーラよ、うかがいを立てに往け。
天帝に――世界の創造者に。
天魔神龍:…………
(空間の断裂から始皇帝を見下ろしていた天魔神龍は、無言で裂目を閉じて姿を消す)
凜嶺娥:……
始皇帝:朕はかつて、本物の
龍と獣と人が共存する
凜嶺娥:だが今は、お前のものだ。お前が築いたのだ。
始皇帝:長い猿芝居だった。
少しは俺も、皇帝の威厳を出せていたか?
凜嶺娥:……わしのためか?
始皇帝:自信家だな。
凜嶺娥:お前はまだわしを――
始皇帝:好きだとも、
凜嶺娥:…………
始皇帝:おい黙るな。気まずいじゃないか。
凜嶺娥:…………
始皇帝:――どうした?
凜嶺娥:お前はわしの命を救うため、己の命を天帝に捧げる。
その代価だ。
想いを遂げていけ。
始皇帝:ふ、ふふふ――
凜嶺娥:何がおかしい。
始皇帝:それで唐突に服を脱ぎだしたのか。
凜嶺娥:わしの肌を見て笑うなど……
お前は豚か。金剛石の価値がわからぬ畜生か。
早く抱け。
マーラが戻ってくる前に――
始皇帝:お前は龍だな、
凜嶺娥:何を当たり前のことを。
始皇帝:
凜嶺娥:こころ――愛とでも?
錯覚だ。生殖の本能に衝き動かされた理性が見せる幻に過ぎん。
始皇帝:幻でもいい。幻はときに現実を超える。
天帝は――だから人間を愛したのではないか。
凜嶺娥:…………
始皇帝:俺はお前を抱かない。
お前に愛だけ押しつけて、太極に還る。
凜嶺娥:貴様――!
始皇帝:……お前と俺の間に、子は成せぬ。
だが俺の想いは、お前のこころに残された。
画家が絵を描き、書家が書を記すように――
俺が生きた、魂の結晶を……伝えていってくれ。
龍と獣と人の共存が果たされた、
さらばだ、
(寂しげに微笑む始皇帝の顔が消え、大空洞の龍骨崖に埋まった、酷薄な笑みを浮かべる男のものに変わる)
始皇帝の上半身:マーラに
そこで太極の渦に投げ落とされ、肉体も魂もバラバラとなり、天帝に取り込まれた。
始皇帝の上半身:朕の着想の幾つかは、天帝のお気に召したのだろう。
『
焔帝仔:物語だと……!?
始皇帝の上半身:
滅びゆく龍に、もっともらしい理由付けをしてくれる悪役を仕立て上げた。
ぬしも心穏やかに暮らせたのではないか、
焔帝仔:親父様は……
始皇帝の上半身:アグニの奴はさぞ難儀しておったろう。反逆の象徴に祭り上げられて。
あるじに敵うはずなどない。さりとて捌け口とならなければ、『
茶番だ。
愚かな竜どもが黙るよう、派手に痛めつけたら、アグニの奴め、瀕死の重体になりおった。
焔帝仔:貴様……!
始皇帝の上半身:何を怒っている。
お前たち竜のために一芝居打ってやったのだぞ。
この全知全能たる天帝が。
焔帝仔:全知全能の力を持っているなら、なせ龍を滅亡から救えない!
あなたが神なら、龍を救ってみせろ!
始皇帝の上半身:くだらん。無意味だ。
焔帝仔:無意味……?
始皇帝の上半身:朕は新たなる生命の、未知の事象の誕生と遭遇を楽しみに生きている。
繁栄だの滅亡だの、瑣末な面倒ごとは
この世は適者生存。これこそ朕の定めたことわりよ。
そこから零れ落ちた失敗作は、ただ太極に還るのみ。
狻猊王竜:おのれ天帝……!
始皇帝の上半身:挑むか。天帝に。全知全能のあるじに。
蛙の子は蛙よの。アグニも本気で牙を向いた。
だが、
ぬしでは役不足だ。
(大空洞の肉壁から生えだした蛇腹触手の竜頭が襲い掛かり、狻猊王竜を咥えて急上昇する)
狻猊王竜:蛇腹の
始皇帝の上半身:
そこで興じてもらおうではないか。
神の眷属……至高の存在としての役割を剥ぎ取られた、竜の末期の芝居を。
ははははは――
□3/王都『烟』、凱旋パレード
ワイズマン:火釜国の民よ――!
見よ、
凜嶺娥:う、うう……
ワイズマン:神を
さあ我らが神話を讃えよ。
リトル・ヘル:熱狂。歓声。熱病のように伝染していく。神話が。
片目の賢者。トリックスター。三匹の怪物。
ワイズマン:溢れていく、溢れていくぞ、
トリックスター:おいワイズマン。俺の
ワイズマン:おお、これはすまなんだ。
トリックスター:へっへっへっ。
凜嶺娥:……何を笑っている。
トリックスター:泥に塗れた顔も、綺麗だねえ。
凜嶺娥:…………
トリックスター:テメエはもう龍じゃねえ。
俺の女になれ、
凜嶺娥:……何故わしを求める。
トリックスター:テメーがダイヤモンド級の美女だからだよ。
凜嶺娥:金剛石に……何の価値がある。
トリックスター:あん?
凜嶺娥:言え。
トリックスター:めんどくせーな。宝石を漁るババアにでも聞いてきな。
凜嶺娥:……聞かせろ。
美しい。気高い。宝石。聞き飽きた。
わしが知りたいのは、その先だ。
トリックスター:……お前に魅せられたんだよ、
お前を所有したい。誰にも渡したくない。俺だけのものにして汚してやりたい。
誰かを殺してでも……お前が欲しい。
邪龍ファーブニルがお宝に取り憑かれたのもわかるぜ。
全部テメーのせいだ。
それが金剛石……お前なんだよ、
凜嶺娥:……こころは。
トリックスター:あ?
凜嶺娥:……聞くまでもない。
空っぽだ……
わしは――……
ワイズマン:――――
これより人類の、真の歴史を開幕する。
我らを虐げし、悪しき龍の断末魔を
トリックスター:ワイズマン、テメエ――!
ワイズマン:やはりその龍は危険じゃ。
見よ、
人を超越した、金剛石の美貌だけで、人々は
トリックスター:ケチケチすんなよ、うるせえな。
ワイズマン:我らの
トリックスター、やつがれの忠告を聞け。
トリックスター:知らねえーよ。
おいワイズマン! いくらテメエでも、俺の女に手を出したらぶっ殺すぜ。
ワイズマン:神話は再演される。
二次創作でも、我らの決別は避けられなんだか。
トリックスター:ごぶっ……
お、俺の胸から槍が……グングニル……
ワイズマン、テメエ……
リトル・ヘル:WOOOO――!!!
ワイズマン:
リトル・ヘル:……ぶあ。
ワイズマン:切り刻めい、ウルフサルクよ。
ネクロマンシーの
凜嶺娥:外法遣い……お前は自らの眷属を……
ワイズマン:記憶の封印が解けたのよ。
我らの神話は滅亡を孕む。
ラグナロク――神々の黄昏。
その引き金となるのが魔人ロキと――
ロキの呪われし子……フェンリル、ヨルムンガンド、ヘル。
だが奴らは討ち取った。
ラグナロクの到来は回避された。
『運命の三姉妹』を、ついに征したのじゃ。
ぬははははは――
凜嶺娥:……流星。
ワイズマン:――円盤じゃ。
空飛ぶ円盤――
うおっ、頭が……
凜嶺娥:思念の波動……頭蓋の奥に響き渡る……
ワイズマン:わ、わからん……
何を言っておるのか……
だが、あれの意思はわかる……
凜嶺娥:敵意だ……
底知れぬ憎しみを、龍にも人にもぶつけている……
あれは……
天魔神龍の声:
古き霊長の覇者『龍』と……『人間』を根絶やし、自らが地上の支配者たらんとする――
新しき人類の箱船。
(空に浮かぶ円盤は、機体下部に備わる投光器から、突如怪光線を放ち、地上を灼き払う)
ワイズマン:怪光線……!
ぬおおお――――!
凜嶺娥:マーラ! どういうことだ!
天魔神龍の声:説明は後だ。それよりも感じぬか。
凜嶺娥:……体が軽い。
重圧が消え去っている。
天魔神龍の声:半万年の時を経て、『
今こそ金剛石の龍の姿を取り戻せ。
ワイズマン:
(ワイズマンの投げたグングニルは、投擲と同時に巨大化していき、UFOを撃墜する)
金剛神龍:
見事に円盤を撃墜したな。
ワイズマン:お、お前は……何故、龍の姿に……!
金剛神龍:
自分で考えたらどうだ、オーディン。
ワイズマン:墜落した円盤から、白いヒトガタが……
金剛神龍:膨れた頭に白く痩せた手足……
あれが
っ、躰が――!
ワイズマン:サイコキネシス……!
エイリアンども、龍を攻撃しおった。
金剛神龍:
身動きが取れん……
天魔神龍の声:ヴァジュラよ、
金剛神龍:マーラ、しかし此処は
天魔神龍の声:
金剛神龍:お前に借りを作るなど、後で何をされるかわからん。
天魔神龍の声:だがこのままでは、お前は滅ぶ。
人間は言ったぞ。長期的には我々は死んでしまうとな。
金剛神龍:…………
ワイズマン:金剛石の
ぬおおお――――!!
金剛神龍:マーラの
全身を汚された気分だ……
天魔神龍の声:歳を食えば、純潔も誇れるものではないぞ。妹よ。
金剛神龍:黙れ。
天魔神龍の声:いじらしい奴だ。
金剛神龍:…………
オーディン……そして
どうする……
天魔神龍の声:北欧の賢者、あれは捨て置け。
放っておいても自滅する。
あの神話は死を孕む故に。
金剛神龍:そうか、またお前が裏で……
天魔神龍の声:あるじがお呼びだ。
金剛神龍:…………
ワイズマン:逃げていきおる、
……何故奴は
『
解かれたのか――!
ならば……
ワイズマン:信徒たちよ。『
だが案ずるな。祈るのだ。
ユグドラシルの大木は、
種を撒き、水をやれ。うぬらの心に根づきし世界樹に。
(ワイズマンの呼び声に応え、祈る信徒たちの体から隕石灰が立ち上り、巨大な光の種となり、一気に萌芽する)
ワイズマン:人類の夢の大木、ユグドラシルは再建された!
さあ信徒たちよ、世界樹の根に体を任せよ。肉体を養分として差し出すのだ。
さすれば
ぬははははは!!!
(世界樹の根が荒れ狂い、次々と人間たちを捕縛していく。絡め取った人間の想念を養分に世界樹は高く高く伸びていく)
□4/王都『烟』、世界樹の枝の上から、空に浮かぶ円盤の群れを見上げるオーディン
オーディン:死せる有翼の勇者たち……エインヘリャル。
ユグドラシルの枝より実り落ちよ。
天空に羽ばたき、異星の侵略者を討てい。
オーディン:
やつがれもついに
オーディン:だが……ええい、エイリアンどもめ。
ヴァルハラの勇者たちが、いとも呆気なく――
奴らを出すか。
ロキの呪われし子たち……
……ユグドラシルに、幹を押しつぶすほど巨大な
あれは……
ヘル:狼のにいさま、蛇のにいさま。
おはよう。
オーディン:お、おぬしは……
ヘル:馬鹿だね、あいつ。
死んだと思ったんだ。私たちが。
神話を再演するだけ。
ラグナロクの宿命は避けられない。
オーディン:ユグドラシルよ、奴らから
ユグドラシルよ! 何故オーディンの命に答えぬ!
ヘル:憑代に取り憑いていればよかった。
でももう駄目。情報生命体に戻ってしまった。
逃れられない。運命から。
ラグナロクで死ぬという、
オーディン:氷狼フェンリル……
や、やめろ。
やつがれが死ねば、お前たちも……
ヘル:いいよ、死んだって。
私たちはお前を殺し続ける。
何度でも、何度でも。
それが運命だから。
ね、にいさま。
オーディン:ぐあああああああ――!!!
やつがれの巡らせた想いも戦いも……
神よ……応えたもう……
おお、神よ……
ロキ:死んじまったかオーディン。いい奴だったんだけどなあ。
しゃーねーか。
ヘル:とうさま。
ロキ:
くっそー、おっぱいだけでも揉んでおくんだったぜ。
ヘル:とうさま、覚えてる? 私のこと。
ロキ:もちろんだぜ、ベイビー。
『
オーディンの奴に無理矢理引き裂かれた生き別れの親子だが、ラグナロクで俺様を助けに来てくれる。
ヘル:違う。神話じゃない。
ロキ:あ?
ヘル:答えて。
ロキ:あーん? あの皇国人の画家だよな?
ガキなんて居たっけ? いねーよな?
ヘル:いるよ。とうさまは知ってる。
ロキ:ひょっとして、パパって呼ばせてた援交女?
自慢じゃねーがよ、俺様ちゃんは女に貢がせたことはあっても、女に貢いだことはねーのよ。
そんなヘタレ野郎の魂とは
つーことで、わかんねーわ。
お前誰に憑依してたの?
ヘル:これ。
ロキ:赤ん坊のミイラ……水子か……?
ヘル:とうさま、私、信じてたよ。信じたかったよ。
私もにいさまも。
とうさまのいうとおり、オーディンに脅されて、仕方なく私たちを捨てたって。
ロキ:おいそんな目で見るなよ。俺はお前たちを守ろうとしたんだぜ。
ヘル:嘘つき。
ロキ:嘘じゃねえよ。
ヘル:嘘だよ。だってとうさま、自分で言ったもの。
自分と似てない魂とは
とうさまは要らなかった。私たちのこと。
わかってた。わかってたよ。
ロキ:待て待て、俺が悪かった。
話し合おう。
金髪超絶美形の素敵なパパじゃないか?
な?
ヘル:さよなら、とうさま。
ロキ:ヨルムンガンド……!!
ぎゃああああああ――!!!
ヘル:ラグナロクで生き残るのは、賢者オーディンでも、トリックスターロキでもない。
私なの。私なんだよ。
天魔神龍の声:『
故に
叡智を求め、神となることを望んだ儒学者ではなく。
ヘル:悪いドラゴンが叶えてくれた。
私と、生まれる前に死んだ赤ん坊。
ふたりの願いを。
記憶を封印してやり直す。
とうさまと。
天魔神龍の声:しかし神話は変わらず、ラグナロクへと突き進んだ。
ヘル:見越してたくせに。神話が再演されること。
天魔神龍の声:ユグドラシルはお前のものだ。
アースガルド……神話の世界を創造するがいい。
ヘル:ずるいんだ。
神話を紡ぐ人間、
新しい人類。あいつらの味方してるくせに。
悪いドラゴン。
天魔神龍の声:どうする。
人間の想念が生み出した怪物たち。
邪悪を宿命づけられた化け物が、生みの親たる人間を守るため。
〝神々の黄昏〟の先の物語を。
ヘル:行かない。ラグナロクの先には。
狼のにいさまも、蛇のにいさまも、ラグナロクで死んじゃうから。
私もここで死ぬよ。
天魔神龍の声:ははは……それも良かろう。
ヘル:ラグナロクの終焉……炎の巨人が世界樹を焼き尽くす……
天魔神龍の声:
ヘル:それが与えられた役割……
きっと誇りと悲しみに挟まれて咆哮する……
可哀想なドラゴン……
でも私は知らない……
ぷあ……
眠くなっちゃった……
おやすみ、にいさま……とうさま……
□5/王都『烟』、火の手に包まれた世界樹と空飛ぶ円盤が飛び交う空
狻猊王竜:ここは……
天魔神龍の声:火釜国、王都『
狻猊王竜:なんだ、あの馬鹿でかい大木は……それに空飛ぶ円盤と
天魔神龍の声:旧人類の夢の樹と、新人類の箱舟。
新旧の
狻猊王竜:猿どもが。真の覇者たる竜を差し置いておこがましい。
エインヘリャルA:
狻猊王竜:大木の実から、有翼の戦士たちが生まれ落ちてくる……
天魔神龍の声:天空の勇者。賢者オーディンの戦士たち。
狻猊王竜:火釜国の民か。余を裏切って魂の寄生虫どもに鞍替えした。
天魔神龍の声:どうする?
狻猊王竜:見ればこいつらが劣勢のようだ。
大木も枯れ始めている。
まずはあの薄気味悪い、白い
エインヘリャルB:死ねぇ、化け物――!
狻猊王竜:――――!?
エインヘリャルA:エイリアンだけで手一杯だってのに、竜も現れたか。
エインヘリャルB:ユグドラシルも枯れていく……我々人類の
エインヘリャルC:諦めるな。オーディン様が導いてくださる。
狻猊王竜:なぜ余を攻撃する! 余は貴様らの王であるぞ!
エインヘリャルA:黙れ化け物め――!
エインヘリャルB:何千年にも渡り、人間を虐げて。
エインヘリャルC:もう人間は龍の奴隷じゃない。
狻猊王竜:…………!!
天魔神龍の声:慕われているとでも思っていたのか。人間たちに。
狻猊王竜:おのれ下等生物ども。
余が温情を見せてやれば増長しおって。
貴様らの思い上がり、その命ともども焼き尽くしてやる。
エインヘリャルA:うあああ――!!
エインヘリャルB:大丈夫か――!!
エインヘリャルC:しっかりしろ――!
我々には英雄シグルドの魂が宿っている。
エインヘリャルA:そうだ。このシグルドの魔剣グラムがあれば……
いやあ――――!!
狻猊王竜:ぐあああ――!!
エインヘリャルB:やったぞ――!!
エインヘリャルC:竜は神などではない――!!
人間は龍に勝てる――!!
エインヘリャルA:オーディン――!!
エインヘリャルB:オーディン――!!
エインヘリャルC:オーディン――!!
狻猊王竜:…………
天魔神龍の声:人間は強くなった。
鉄と火薬で武装し、想念を力に変える
裸のままの猿でいたのは、龍仙皇国だけ。
お前は桃源郷にいたのだ。
遠い昔のまま時が止まった……龍が至高の存在として崇められた時代の、幻の中に……
狻猊王竜:…………
エインヘリャルA:化け物を殺せ。
エインヘリャルB:龍をこの世から。
エインヘリャルC:抹殺しろ。
天魔神龍の声:どうする?
赦しを乞うか。龍は本当は絶滅寸前のか弱い生き物なのだと。
保護を求め、動物園の檻の中で余生を過ごすか。
子のことは心配するな。繁殖法を見つけてくれる。
人間は偉大な霊長の
狻猊王竜:黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ――――!!!
エインヘリャルA:竜が咆哮を上げた――!
エインヘリャルB:苦しんでいるぞ――!
狻猊王竜:
あなたはこの結末を見透かしていたのか……
天魔神龍の声:盛者必衰。因果応報。
狻猊王竜:…………
エインヘリャルC:とどめだ――!!
狻猊王竜:
エインヘリャルC:ぎゃああああ――!!!
狻猊王竜:握り潰してくれる。
エインヘリャルB:英雄シグルドは邪龍ファーブニルの血を浴びて鋼鉄の体を……
ぐああああ――!!!
狻猊王竜:最後は貴様だ。
エインヘリャルA:ひ、ひいぃぃぃ! 化け物――!!!
狻猊王竜:燃え尽きろ。
エインヘリャルA:うあああああ――!!!
狻猊王竜:新旧の人間ども――!
余は
地上の覇者たる竜の王である――!
霊長の
魂の結晶たる世界樹も、新世界の方舟も、ことごとくを灰燼に帰してやる。
(エイリアンと有翼戦士の殺到する中に、狻猊王竜は嗚咽のように火炎を噴き上げて突撃していく)
狻猊王竜:生き残った人類よ。
子々孫々に語り伝えよ。
龍は強く邪悪で、恐ろしい怪物だったと。
お前たちの魂に刻まれた物語の中で、龍は生き続ける。
永遠に――
天魔神龍の声:はははは……滅べ滅べ。
龍も人も。
ようやくだ、ようやくだ。
森羅万象
□6/始皇帝陵、地上陵墓正面
凜嶺娥:お前は……お前なのか。
始皇帝:見飽きた顔であろう。マーラが化身に使っていた。
凜嶺娥:ダイバダッタ――!
始皇帝:懐かしい名だ。龍仙皇国皇帝となる前の……遠き日の名だ。
凜嶺娥:お前はわしを恨んでおるのだろう。
始皇帝:何故?
凜嶺娥:お前は輪廻の円環から外れ……
天帝の代弁者として、永遠を生きることになった……
始皇帝:半万年か。長かった。
凜嶺娥:
いずれ魂が狂う。死は救いなのだ。
始皇帝:何故お前はマーラの囁きに乗らなかった。
あれは幾度もお前を、
凜嶺娥:それは……
始皇帝:朕のためか。
凜嶺娥:………
始皇帝:人間風情が自惚れるな、とはもう言わぬか。
凜嶺娥:わしはお前に会って確かめたかった。
始皇帝:答えはどうだ。
凜嶺娥:わからぬ。
だが何故お前の顔を見ると、喉が震え、胸の奥から込み上げる。
言い知れぬ感情が。
これが万感の思いか。
愛というものなのか。
始皇帝:龍が人を愛したか。朕はもう人ではないが。
はははは。半万年の年月があれば、ちっぽけな想いも複利で回って、ついに龍を揺り動かす。
はははは、愉快だ。
それが知りたかった。
凜嶺娥:ぐは……
(始皇帝陵の大地より生え出した蛇腹竜頸が、背後から凜嶺娥の心臓を食い破る)
凜嶺娥:な、何故……
始皇帝:お前は空っぽだ。五千年もの間、何をしていた。
過去に思いを馳せるだけの、つまらぬ時の
まさにお前は金剛石よ。
美しいだけで何の価値もない。
凜嶺娥:あ、あ……
始皇帝:龍の涙か。
なるほど、訂正しよう。
お前は美しい。
美しき涙は、胸を打つ。
凜嶺娥:ダイバダッタ、やはりお前はわしを……
始皇帝:恨んでなどいない。
むしろ感謝しておる。
天帝と合一を果たし、世界の真理に触れられたことを。
そしてやはり龍は滅ぶべきだと結論した。
凜嶺娥:…………
始皇帝:朕は何故、お前のような女が欲しかったのであろうな。
もはやそれもわからぬ。
さらばだ、
(始皇帝の言下、土中から現れた蛇腹竜頸が縦横無尽に、凜嶺娥に殺到する)
(蛇腹竜頸の暴食の嵐が吹き荒れた後には、金剛石の美女がいた痕跡は残らず消えていた)
始皇帝:今は新世界の創造が面白い。
天帝の最も優れた創造物である人間を超えた人間――
古き霊長の
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