ゲネシスタ-隕星の創造者-
16話-
★配役:♂3♀3=計6人
金剛石のように透明で煌びやかな美貌に輝く宝玉の美女。
鎖骨の窪みに金剛石の宝珠が埋まっており、
ダイノジュラグバ系譜の
ダイノジュラグバこと
凜嶺娥は、
本体である
封星座珠:【金剛龍玉髄】
赤い武火の髪と、焦げ色の肌をした仙人の女。
父である『焔帝』を討ち、『
宗主国である龍仙皇国に反旗を翻す。
ダイノジュラグバ系譜の
本来の姿は、獅子の如き鬣を逆立てた、熔岩の血を煮やす二足歩行の竜である。
しかし火釜国の龍脈は、五千年前の『
封星座珠:【業炎鬣】
射干玉の黒髪と蒼醒めた肌を持つ仙人。
不気味な象骨の面を被り、暗色の
その仮面の下の素顔は、始皇帝と呼ばれた男の影とも言うべき、歪んだ鏡像である。
ダイノジュラグバ系譜の
ダイノジュラグバこと
天魔神龍は天帝の被創造物ではなく、天帝自身の分身であり、
常に世界を脅かし続け、時代の発展を促し、停滞に澱んだ時、末法を将来して、一つの
神龍と称されながら、神龍とは別次元の存在。
しかしまた天魔神龍も、無限輪廻に縛りつけられた虜囚なのである。
龍仙皇国の初代皇帝。
最後の
〝龍と獣と人の共存する国〟を志し、支配者として君臨する
始皇帝の施策の下、竜の化身した
始皇帝は自らの王朝『秦』が滅びた後、本来の
事実、
しかしその総ては、始皇帝と呼ばれた人間が描いた、壮大な創作史記であり、お伽噺である。
彼の本名はダイバダッタ。
彼は現代の龍仙皇国でいえば
かつて〝龍と獣の王〟となるべく生まれた麒麟を弑逆し、〝龍と獣と人の共存〟を掲げた
ダイバダッタはその罪滅ぼしに、自らが第二の麒麟となり、〝龍と獣と人の共存〟の
しかしその後も、〝龍と獣と人の共存〟を終わりに導こうとする、天魔神龍の策動は続き、ついに末法へ到達する。
ダイバダッタは太極の渦に飛び込むことで、天帝に己の意思を伝え、〝龍と獣と人の共存〟の
そして彼は、太極の渦の中で、跡形もなく消滅した。
彼の魂は、太極の渦の中で生き続けていた。
そして再構築され、復活を果たす。
天帝の意思を継いだ操り人形として――
東洋人と白人のハーフじみた風貌の、隻眼の男。
老賢者を思わせる喋り方とは裏腹に、肉体は若々しく、槍を扱う武闘派でもある。
ゴッドゲルゼ系譜の
北欧神話の老獪なる賢者神。ルーン文字の星図と、〝投げれば必ず命中する〟
憑代となった
儒学者は生粋の東洋人であったが、オーディンを宿したことにより、屈強な肉体とアングロサクソンの特徴が発現した。
封星座珠:【
トリックスター♂
東洋人と白人のハーフじみた風貌の男。
端整だが軽薄な顔立ちと、染めたような安っぽい金髪の持ち主。
ゴッドゲルゼ系譜の
類稀な美男子でありながら、気ままでひねくれた性格の、北欧神話のトリックスター。
北欧神話の世界の終焉『神々の黄昏ラグナロク』を招き寄せた元凶。
氷狼フェンリル、大沼蛇ヨルムンガンド、死人姫ヘルは子供にあたる。
儒学者と同じく火釜国の内乱で命を落とす。
封星座珠:【なし】
リトル・ヘル♀
東洋人と白人のハーフじみた風貌の少女。
狼の頭蓋骨を大事そうに抱え、干涸らびた蛇の干物をベルトのように体に巻きつけている。
薄汚れた金髪で隠れた左半身は、屍蝋化の進んだ青ざめた肌をしている。
ゴッドゲルゼ系譜の
『
ロキの呪われし子供であり、氷狼フェンリルと大沼蛇ヨルムンガンドはそれぞれ兄にあたる。
水子の父親は、ロキの
画家も儒学者も死亡しており、ヘルの創成によって蘇った。ただし彼らはその事実を知らない。
封星座珠:【
氷狼フェンリル
氷の結晶化した狼。
リトル・ヘルの抱える狼の頭蓋骨から
ゴッドゲルゼ系譜の
北欧神話のラグナロクでは、オーディンを飲み込む宿命にある。
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
大沼蛇ヨルムンガンド
あらゆる地形を沼地に変え、その泥沼の中を泳ぐ巨大蛇。
リトル・ヘルの蛇の干物から
ゴッドゲルゼ系譜の
局所的な
北欧神話のラグナロクでは、雷神トールと相打ちになる。
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
狼戦士ウルフサルク
ゴッドゲルゼ系譜の
狼の毛皮を纏った、オーディンの戦士。
作中に登場するウルフサルクたちは、英雄シグルドの
竜相手には〝躰が鋼鉄になる〟〝剣は竜殺しの魔剣グラムとなる〟
火釜国の人民が、北欧神話の信者となり、狼戦士となった。
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
ゴッドゲルゼ系譜の降魔概要
情報生命体、もしくは
神話・伝奇・物語といった形で、人々に語り継がれてきた創作キャラクターが自我を持った生命体。
創作キャラクターたちは、人間の精神活動を間借りする形で、物語の世界を生き、時に二次創作として原典から外れた冒険に出て、人格情報が形成されていった。
集積された人格情報に、皇祖ゴッドゲルゼの隕石灰が感染し、情報が自我を持った。それがゴッドゲルゼ系譜の降魔である。
彼らは、自らを
より多くの人々が、より多く自らを知ることによって力を増すため、自己顕示欲は総じて高い。
憑代は
例外的に
肉体や物理法則に制限されず、神話上の武器の他、魔獣や龍なども
ただし膨大な
多くは一つの神話・物語の中核となる建造物である。
※ルビを振ってある漢字はルビを、振ってない漢字はそのまま呼んでください。
ゲネシスタwiki 劇中の参考になれば幸いです。
□1/火釜国、業火の猛る夏州の街
儒学者:焼け落ちていく……
私の家、書物、故郷……
生涯を費やしてきた、私の理想が……
画匠:おーい、この柱を退けてくれ――!
足が挟まって動けねえんだ――!!
儒学者:くっ――
画匠:助かったぜ、
賤業婦:ああ
儒学者:よ、よし! この柱を退ける。手伝ってくれい。
画匠:ああ、ありゃもうダメだ。
足はグチャグチャ、肋骨は飛び出してる。
助からねえよ。
賤業婦:あ、あんた――!
あたしを見殺しにするのかい……!
あ、あ、炎が、足に――
熱い、熱い――!!!
画匠:恨んでくれるなよ。毎日念仏あげるから。
賤業婦:あ、あたしのお腹にはあんたの……
画匠:あっそ。
賤業婦:あ、ああ、家が崩れる――
ぎゃあああああ――!!!
画匠:なんまんだぶ、なんまんだぶ。
儒学者:お前さん、なんと惨い……
まるで――
画匠:ケダモノ?
見ての通り、俺は顔に
さ、行こうぜ、
儒学者:――――
はあ、はあ……
画匠:おいおい、もう息が上がってるのかよ。
儒学者:や、やつがれは
晴れた日は畑を耕し、雨の日は書に親しむ、
画匠:俺様ちゃんだって、
儒学者:お前さん、画家じゃったのか。
画匠:犯罪者かと思った?
儒学者:返事は差し控えさせてもらう。
画匠:そうさ、俺は罪人さ。
儒学者:画家と犯罪が結びつかん。
画匠:不敬罪。
儒学者:
画匠:逆だよ、逆。
竜に惚れちまったのさ。
儒学者:ほう?
画匠:
芸術家ってのはモテるんだよ。
女なんざぁ、おだてて似顔絵一つくれてやりゃあ、コロッと落ちる。
さっきの
画用紙と絵の具を花代の代わりにする、そんな腐れ稼業さ。
儒学者:聞いていて反吐が出そうじゃなあ。
画匠:ならそこらへんに吐き捨てりゃいい。
俺様はそんなド三流だからよ、食いっぱぐれて出稼ぎに行ったんだ。
ちょっと前に、
儒学者:
獣の血を引く
画匠:俺様、
儒学者:その顔の
画匠:入れ墨。
儒学者:生涯
生きながら畜生道に落とされる……
画匠:あの当時は、キレイなお顔だった。
儒学者:ではどうやって?
画匠:ペイント。お顔に落書き。
儒学者:なんとまあ。
画匠:ザルだろ?
あんな体たらくだからポシャったんだろうけど、まあどうでもいいや。
何日目の夜だったかなぁ。
会ったんだよ、金剛竹林の天女に。
儒学者:
金剛竹林を荒らす木こりたちに
一度目は見逃してくれるが、二度目は
画匠:もちろん俺は、会ったその日に、荷物引っつかんで、夜逃げしたぜ。
だがなぁ、
どんな女を抱いても、いつもどこかで醒めている。
金剛石の残光が、目の奥に焼き付いて離れない。
キャンバスに向かってみたが、ダメだった。
俺みたいなド三流にゃ、金剛石の美貌を描ける画力がなかった。
俺は初めて後悔したぜ。真剣に画家の勉強をやってこなかったことに。
そしてもう一度、一目でいいから見たかった。
金剛竹林の天女、凜嶺娥を――
俺は金剛竹林に忍び込み、役人に取っ捕まってこのザマだ。
儒学者:
それはあまりにも過酷じゃ。
画匠:あー、捕まった後、工房を漁られてな。
見られちまったんだよ、凜嶺娥の絵を。
儒学者:それが不敬と?
しかしそれだけで――
画匠:だよな?
儒学者:それはちと……
だがそれでも――
画匠:ああ、さすがにそれだけじゃねえよ。
人間が、猿よりは少しマシな生き物が、
だから俺は言ってやったのよ。
テメエら竜は、竜の姿のまま生きられねえから、人間に化けた。
天帝は、テメーら竜は要らねえって、思し召しなんだよ。
ちったぁ人間様に遠慮して生きろ、クソ
竜どもカンカン。
儒学者:お前さん、よく生きておるのう。
画匠:ひひひ。
だが、俺様の悪運もこれまで。
あっちもこっちも火の海だ。
もうじき丸焼けよ。
儒学者:…………
画匠:なあ
儒学者:わかるか。
画匠:わかるわ。
気の利いた説教してくれよ。
徳を積めば、来世で竜になれるってのは無しだぜ。
儒学者:仁は人の心なり、義は人の道なり。
画匠:勘弁してくれよ。
焔帝仔と
儒学者:左様、続きがある。
哀しいかな。
其の道を捨てて
そもそも
画匠:マジかよ。
儒教やってても食えないし、クソ貧乏の末、のたれ死ぬ。
そいつが儒教的真理?
儒学者:やつがれは
画匠:
儒学者:うむ。
画匠:どうよ?
儒学者:どうということはない。
やつがれの欲望は、
画匠:うひゃあ。
儒学者:やつがれは本の森で、いにしえの
孔子、老子、
彼らはやつがれと同じ人間であった。
人間であるからこそ、思想を……魂の結晶を残そうと、筆先に全身全霊を振り絞った。
彼らの魂は……死んで灰となって数千の月日が流れた今も、やつがれの心に宿り、蘇る。
画匠:で、その結論があれ?
儒学者:うむ。圧倒的な力の前には、法も徳も兵法も、あらゆる思想は無力であった。
さながら伝奇小説の如し。法も徳も兵法も……
画匠:人生棒に振っちまったなぁ、
俺様も人のこと言えねーか。
ひひひ。
儒学者:おお、炎が……
画匠:なあ
竜は絵を描かない。儒学もやらない。
竜は不老長寿で、美男美女。
美味いもの食いてえとか、女とヤリてえとか、低俗な欲望からも解脱しきっている。
取っ捕まる前、金剛竹林に絵を残していったんだ。
金剛竹林の天女、凜嶺娥の姿絵……
あんたの言葉を借りれば、俺の魂の結晶。
あんなものしか残せなかった。
何か一つでも、竜どもをあっと言わせることが出来ねぇかなぁ……
そしたら俺は、あの金剛石の龍に、得意顔で言ってやるんだ……
人間サマにひざまずけ、バーカってな……
儒学者:……流れ星。
業火の猛る大地からでも、星空は望める……
儒学者:神よ、
我らの集積してきた、思想、芸術、物語……魂の結晶は――無価値であるのか。
生まれながらに偉大な、竜の吐息一つで消し飛ぶ、ガラクタなのか。
のう、神よ……
この炎に焼かれる、無名の、つまらぬ
儒学者:……やはりおらなんだか。
おお、走馬灯が見えるわい……
儒学者:……星が、落ちてくる。
神がいなければ……
願わくば、やつがれが、人間の、神に……
我が名は――
□2/火山大地、蒸気の噴き出す平原に無数の卵が鎮座している
凜嶺娥:鎮圧は終わったか。
焔帝仔:ああ。奴らを
凜嶺娥:カーンマーンはお前を産湯につけた。
焔帝仔:…………
凜嶺娥:シュンバニシュンバはお前の武術の師だった。
焔帝仔:先代の創り出した五大明王は、ことごとく余に反逆した。
裏切り者は粛清する。異議があるなら申し立てろ。
凜嶺娥:異議など無い。
焔帝仔:不満顔を浮かべれば、周りがご機嫌を窺い、尊公の意のままに事が運ぶ。
金剛石の美貌は、大したものだな。
生憎この
凜嶺娥:
焔帝仔:余が
凜嶺娥:
焔帝仔:二度と戯言をほざいて見ろ。
金剛石の美貌を、薄汚い消し炭に変えるぞ。
凜嶺娥:卵が孵る――
焔帝仔:そうとも……余に歯向かう五大明王など要らぬ。
この焔帝二世自身の
殻を破り、炎の産声を噴き上げよ――!
天を焦がし、地を焼き払う、火竜の子らよ――!
(溶岩台地が蒸気を噴き出し、ひび割れた卵から硫黄の悪臭と共に、腐った流体が零れ出る)
焔帝仔:これは……
腐っている……
どれも、これも……
凜嶺娥:生まれてきた子もいる。
焔帝仔:……なんだこれは。
何の変哲もない、ただのちっぽけな
それに、この蜥蜴も……
凜嶺娥:死んだ。濃すぎる龍の
焔帝仔:何故だ……
凜嶺娥:子供が産まれなくなった。
辛うじて産まれた子も、目を開いて、まもなく死ぬ。
そして――産まれてきた子は、竜ではない。
焔帝仔:余は……聞いておらぬ……!
凜嶺娥:伏せていたからな。
竜と竜の自然妊娠も、
我ら龍に、新たな命を生み出す力はない。
焔帝仔:何故伏せていた――!
余が知っていれば――!!
凜嶺娥:知っていたら?
先代の
焔帝仔:黙れ――!
凜嶺娥:わしを殺すか。
こうして新たな命の産まれない竜は、互いに罵り合い、殺し合い、数を減らしていく。
焔帝仔:……余は、親父様を、
凜嶺娥:…………
焔帝仔:余は親父様を殺めようと思った。それは事実だ。
余は、
だがそれは、親父様を護るためだ。
しかし親父様は、余の裏切りを真意だと考えた。
だから余は……
しかしそれは
死の瀬戸際に追い詰められた余を救うべく、封印を破り、渾身の力で最後の炎を放った
余の目の前で崩れ落ち、
凜嶺娥:シャオ――
焔帝仔:余はどうすればよかったのだ?
親父様を封印し、『逆賊王』の汚名を被らなければ、
こんな宣言をしなければ、
もう取り返しがつかぬ。真実を語る者はいなくなった。
余は名実共に、逆賊王だ。
凜嶺娥:…………
焔帝仔:その時々では、最善の選択をしてきたつもりだった。
なのに余の意思を嘲笑うかのように、未来は破滅へと進んでいく。
これが余の運命なのか。
余の意思など、大波に抗う木の葉のように、無力で無意味なのか。
凜嶺娥:お前だけではない。
それが龍に下された天命――時代は我らに滅べと告げた。
『
焔帝二世:だとすれば……
余のこの苦しみは、眠れぬ夜と胸の疼き、苦悩の末に見えた光は幻……
神よ、答えたもう。
余は、竜の一族は、どうすれば救われる――!
神よ、
凜嶺娥:…………
わしは、神ではない。
神と呼ばれているだけの……龍の一匹だ……
□3/焼け野原の王都『烟』、青空市の一角
リトル・ヘル:なぐるふぁ なぐるふぁ
むすぺる むすぺる
なぐるふぁ
ワイズマン:昔々、ファーブニルという欲深い魔法使いがおりました。
彼はせっせと宝を集めながら、悩んでいました。
せっかく集めた財宝が誰かに奪われるかもしれない。そう思うと夜も眠れません。
欲深いファーブニルは、とうとう
邪龍ファーブニルは、英雄シグルドによって討ち取られ、その財宝は貧しい人々に分け与えられます。
シグルドは邪龍の心臓から流れる血を浴びたことで不死身の肉体を手に入れ、数多の冒険に出かけますが、それは別のお話。
めでたしめでたし。
トリックスター:な? 龍は神様なんかじゃねえって言ったろ?
この閉じた世界の外じゃ、英雄にやっつけられる物語の悪役でしかねえのさ。
ワイズマン:おお皆の衆。怯えずともよいぞ。
これは北欧のお伽噺。空想じゃ。
トリックスター:そうそう、ファンタジー。
そういえばどっかの国も、欲深い龍が国中の財宝を独り占めしてるよなぁ。
ドラゴンってのは、ごうつくばりだねぇ。ひひひ。
リトル・ヘル:感染したね、にいさま。
罅を入れた。畏れ。龍への。
ワイズマン:見えるか、
トリックスター:ああ、人間どもの体からキラキラ光る粒子が立ち上ってやがる。
リトル・ヘル:
精神を侵蝕する。マインドウイルス。
ワイズマン:感染させるのじゃ。
そして
トリックスター:封印された記憶ねぇ。
そういや俺様ちゃん、金髪の超絶美形だったと思うんだよな。
なんでこんなダセー黒髪の、ヒラメ顔になってんだ?
ワイズマン:ほれ、鏡。
トリックスター:うおおおお!!! 金髪になってやがる!!!
ワイズマン:
その作用は、ときに宿主である
トリックスター:スゲーぜ、ワイズマン。
テメーのことは、名前も顔も忘れちまったけど、兄貴分だったのは覚えてるぜ。
俺様の魂がな。
ワイズマン:やつがれの魂には、お前さんを信用するなと刻まれておるがのう。
トリックスター。
トリックスター:そう言うなよ、兄弟。
ところで、あの気味悪いガキ、誰だ?
リトル・ヘル:義兄弟の契りが結ばれた。
神話が再演されている。
流れていくよ。黄昏へ。
そこでにいさま、あたしは――
ワイズマン:……わからん。
トリックスター:さっきからずっとブツブツ話し掛けてるの、両手で抱えてるヤツ?
あれ狼の頭蓋骨か?
ワイズマン:ベルト代わりに巻いている、蛇の干物も話し相手らしいのう。
トリックスター:うへえ、キチガイかよ。
リトル・ヘル:ふうん。そうなんだ。
あの人、変わらないね、にいさま。
トリックスター:げえっ、目が合った。
ワイズマン:さすがは金髪の超絶美形じゃ。
トリックスター:冗談じゃねー。ガキとババアとブスは女じゃねー。
ワイズマン:女の定義に挑む暴言じゃのう。
焔帝仔:お前たちか、余の王国で妄言を振り撒く、外道の
ワイズマン:これはこれは。
トリックスター:欲深いドラゴンが来たぞー!
焔帝仔:聞けば『龍は人間に
衆目ども、その目玉に焼きつけておけ――!
国家騒乱の罪を犯した、異国のちんどん屋どもが、骨まで焼かれ、灰と化す様を――!
ワイズマン:父君であった先代焔帝――
自分に反逆した
焔帝仔:法律屋か?
余が世界の
(焔帝仔は、炎を纏い赤熱した蛇矛を、ワイズマンの左眼に押し当てる)
ワイズマン:ぬおおおおおおおお――!!!
焔帝仔:法とは、対等の者同士の間で成り立つ。
戦えば、互いに無事では済まない。
そこで正邪の物差しを定め、復讐の無限連鎖を絶つ。
だが――
圧倒的なまでに力の差があれば、屁理屈ごと叩き伏せればいい。
本質で考えろ、腐れ学者め。
ワイズマン:ぬふふ……
焔帝仔:片眼を焼かれた痛みで気が触れたか。
ワイズマン:そうしてお前さんは、
焔帝仔:……残る右眼も焼き潰されたいようだな。
トリックスター:
リトル・ヘル:
あいつ、本当は片眼だもの。
ね。にいさま。
ワイズマン:感謝するぞい、左眼を潰してくれて。
意図せずか、
やつがれは元々隻眼であったのじゃ。
記憶の封印が解かれた。
焔帝仔:空中に星図を――
ワイズマン:
焔帝仔:うおっ――!
ワイズマン:これより竜殺しの
思い描くのだ。
投げれば必ず敵を貫く、必中必殺の
トリックスター:
リトル・ヘル:満ちてきた。
ワイズマン:想起せよ。
焔帝仔:ぐはっ――!
ば、馬鹿な……余の心臓を……
トリックスター:へー、心臓潰されて生きてるんだ。
焔帝仔:
化身を解いて、竜に戻らねば……
トリックスター:おおっと、そうはさせねぇぜ。
ぐりぐりぐり~っと。
焔帝仔:ぐはっ……!
トリックスター:なあみんな、よく見てくれ。
血塗れで這い
こいつは竜か? 神か?
違うだろ?
ただの女、雌だ――!
焔帝仔:…………!
リトル・ヘル:怯えている。精一杯強がろうとしても。
雌だね、にいさま。
畏れと崇拝。龍の横暴を裏づけた特権。
消えていく。こいつも同じ人間。ただの雌。
ワイズマン:
おお、
我ら
リトル・ヘル:見えたね、あいつの本性。
賢者の振りをしてても、自分のことしか考えていない。
狡猾で無慈悲。
そうよね。
あの人と友達だもの。
一見正反対。
でも本質は凄く似てる。
嬉しいよ、にいさま。
あいつが変わってなくて。
待とうね、鎖が解き放たれるまで。
我慢ね、にいさま。
トリックスター:俺様がいちばーん!
おわっ――!
(ズボンを下ろそうとするトリックスターの足下を、金剛石の輝きを放つ布が一閃する)
トリックスター:あっぶねー! もう少しで
誰だ、この金髪超絶美形の俺様ちゃんのグングニルをぶった切ろうとした、クソ馬鹿野郎は!?
凜嶺娥:金蠅が。殺すぞ。
トリックスター:……
凜嶺娥:ソウルパワーと言ったな。
人間どもの想念の力を
ワイズマン:
一つ、神殺しに挑戦してみるのも悪くあるまい。
死ねい。
凜嶺娥:……――!!
生憎とわしは生身ではない。
本体は遙か遠く金剛竹林で眠る。
トリックスター:ぶち抜いた胸の風穴が結晶化して塞がっていきやがる。
あ、おっぱい見えた。
狻猊王竜:おのれ外法遣いども……!!
よくも余を辱めてくれたな――!!
トリックスター:げえっ、ドラゴンに変身しちまった。
ヤバイんじゃねえの、兄弟。
どかーんと、一発逆転のアレを使う時だぜ。
ワイズマン:…………
トリックスター:え? ないの? お前あの投げ槍だけ?
ワイズマン:お前さんこそ、切り札を持っているなら早く出してくれんかのう。
トリックスター:ねーよ。俺様ちゃん、荒事はおまかせなの。
狻猊王竜:余の
そのちっぽけな槍で、余の燃え滾る熔鉱炉の心臓を、貫けるものならば、貫いてみよ。
お前たちのくだらん神話の結晶を、一瞬で蒸発せしめた後は、生きたまま地獄の釜で、骨も融けるまで煮詰めてくれる。
トリックスター:ひいい、助けてくれ――!!!
リトル・ヘル:なぐるふぁ なぐるふぁ
むすぺる むすぺる
なぐるふぁ
凜嶺娥:なんだこの調子外れの歌は。
リトル・ヘル:狼のにいさま、蛇のにいさま。
WOOOOOOOOOOOOOOOOOO――!!!
ワイズマン:狼の頭蓋骨が、氷の
狻猊王竜:オオっ――!!
凜嶺娥:シャオ――!
トリックスター:足下が
まるで沼地に立っているような――
ワイズマン:沼地になっているのだ。
地形を自らの棲息圏に作り替える、沼のヌシによってな。
凜嶺娥:
リトル・ヘル:KI、SYAAAAAA……!!
ワイズマン:氷の
トリックスター:何なんだありゃ?
ワイズマン:神話の怪物であろう。
神々と人間の敵対者となる――
トリックスター:つーことは、あの気味悪いガキも――
ワイズマン:うむ。
だが今は好機。
混乱に乗じて退却じゃ。
トリックスター:そういやあのガキだけ、名無しのままだったなぁ。
ワイズマン:今、決まったわい。
トリックスター:へー、どんな?
ワイズマン:小さな地獄――リトル・ヘルじゃ。
□4/火眼城、焔帝仔の寝室
凜嶺娥:傷が浅くて何よりだ。
焔帝仔:……あの外法遣いは何者だ。
凜嶺娥:絹の道の最果て、西欧と呼ばれる地域に墜ちてきた降魔だ。
人間どもの物語る逸話が集積され、やがて記憶となり……魂となった。
人間どもの脳を憑代に、想念を糧に生きる情報生命体。
ゴッドゲルゼと自称している。
焔帝仔:絹の道の最果ては天外魔境、外道の世界と伝えられていた。
それは奴らに、龍の支配が及ばなかったということか。
凜嶺娥:……そうだ。
焔帝仔:龍は、最も天に近き、至高の存在ではなかったのか。
龍は、その数を減らしているのみならず、いにしえの偉大な力も霞んだ……か弱き種族なのか?
あなたたち
凜嶺娥:…………
焔帝仔:答えよ、
凜嶺娥:お前に知る資格はない。
焔帝仔:なんだと。
凜嶺娥:お前は
知らぬが仏だ。
焔帝仔:余を見下げるか――!
凜嶺娥:お前は子供だ。
もはや数えるほどしか残らぬ、
わしの子ではなくとも、お前を護る。
焔帝仔:あなたが
凜嶺娥:そうだ、わしは
お前は
焔帝仔:…………
凜嶺娥:シャオ――
焔帝仔:言えぬならいい。余にも考えがある。
□5/祝融山の麓、松林
焔帝仔:
天陰:呼んだか。
焔帝仔:応えたか。
天陰:
いつでもお前を見守っている。
焔帝仔:気色悪い奴だ。
用件はわかっているだろう。
天陰:ヴァジュラは口を割らなかったか。
焔帝仔:お前の口なら、
天陰:心外だ。信用は商人の肝心要。
元締めたる
焔帝仔:お前に都合の良いことだけは、口を滑らせるだろう。
勿体振らず、さっさと話せ。
余の時間を無駄に燃やす馬鹿商人は、火釜国から叩き出すぞ。
天陰:交渉上手になったな、シャオ。
よかろう、
それでは
(五千年前の龍仙皇国、
凜嶺娥:龍は滅ぶだと?
始皇帝:学者に易者、数多の識者に尋ねた。
皆、異口同音に同じ結論に達した。
凜嶺娥:何故だ。子が産まれぬ。それはわかる。
しかし何故、我ら
始皇帝:下等生物ほど多数の子をばら撒く生殖戦略を、高等生物ほど少数の子を産んで育てる生殖戦略を志向するという。
ある学者の仮説だ。
だが朕は思ったのだ。これは戦略ではなく、大自然の摂理なのではないか。
一つの種が増えすぎぬよう、天帝が計らっているのではないか。
凜嶺娥:ならば天帝は、我ら龍に滅べと……
始皇帝:龍は滅ばぬ。
凜嶺娥:人の血を混ぜると?
始皇帝:しかり。
凜嶺娥:その話は終わった。竜の子種は全て流れた。
始皇帝:逆なのだ。
竜の男が人間の女を孕ませるのではない。
竜の女が人間の種を宿すのだ。
凜嶺娥:竜が……人間の子を……?
始皇帝:人間の
だが竜の女は違う。
人間の体に、竜の因子を織り込んだ新人類――
凜嶺娥:わしに人の子を孕めと?
始皇帝:龍の
だが龍の因子は残る。
次代の霊長、
凜嶺娥:お前たち人間の尻尾や爪、翼となってか。
なにが竜人だ。そんなものが
始皇帝:だが
凜嶺娥:お前はわしを抱きたいのか。
いいだろう。好きにするがいい。
だがわしは金剛石の龍だ。生身の
お前の精を受けても、子を成すことなど決してない。
始皇帝:
凜嶺娥:龍は滅ぶ。
下等な存在と見下していた、お前たち人間の血に宿を借りて、ようやく因子を繋げる。
そして肉ではない、鉱石の体を持つわしの眷属は滅亡する。
この
(天陰の見せる悪夢にも似た光景に、焔帝仔は呆然と立ち尽くす)
焔帝仔:余の知る歴史とはまるで違う……
始皇帝……
始皇帝は……龍ではない。
人間ではないか――!
天陰:歴史とは、生き残った者の創作物だ。
不都合な事実は改変され、或いは闇に葬り去られる。
焔帝仔:
架空の存在ではない――!
余はあの憎き
そしてあなたは何故……始皇帝と同じ顔をしている!?
天陰:真実を知りたくば、真実を知る者を訪ねるがよかろう。
焔帝仔:何だと――
天陰:直接問うてみるが良い。
始皇帝と、
□6/王都『烟』、街外れの集会場
リトル・ヘル:なぐるふぁ なぐるふぁ
むすぺる むすぺる
なぐるふぁ
トリックスター:さあ 皆さんご一緒に――!
ワイズマン:……世界樹の芽が枯れる。
やはり我らの
トリックスター:
ほらほら、もっと祈って祈って。
ワイズマン:かつて始皇帝なる者が、
『
龍仙皇国全土を覆う
リトル・ヘル:感じる、にいさま? あたしは感じるよ。
神を殺す大地の呪い。あたしたちの世界樹も枯れちゃうね。
トリックスター:それであの
ワイズマン:焔帝仔とやらをどう思った?
トリックスター:おー、いいんじゃねえの。
強気な女がひいひい喘ぐのはたまんねえぜ。
テメーにやるよワイズマン。
ワイズマン:奴は弱かった。
トリックスター:殺されそうになったオメーが言っちゃう?
ワイズマン:
リトル・ヘル:ここからだね、にいさま。
ここからが賢者と小利口の分かれ道。
ワイズマン:即ち――
『
トリックスター:するってーと、ヴァジュラちゃんは、か弱い女の子?
ありえねー。
ワイズマン:次は
トリックスター:マジかよ。
ワイズマン:
またとない
トリックスター:……生け捕りにできねえかな。
ワイズマン:モノにしたいか。
トリックスター:まーな。
ワイズマン:どうした。お前さんらしくもない、神妙な面持ちで。
トリックスター:調子狂うんだよ。すんげー美人だと。
童貞チェリー君に戻っちまう。わかんだろ?
ワイズマン:わからん。やつがれの欲望は、
トリックスター:どっかで聞いた台詞だぞ。
なんかよぉ、ずっと前から知ってた気がするんだ。
生まれる前、前世からあの女に惚れてたような……
ワイズマン:お前さん、そうやって女を口説いておるのか。
トリックスター:違えーよ。
あ、違わねえ。
前世運命で口説いたことあったわ。
ワイズマン:お前さんの
トリックスター:かもな。だから魂が
まあそれはそれとしてだ。
ワイズマン:わかっておる。
お前さんの意に適うようにするよ。
トリックスター:おー、話わかるぜ兄弟!
ワイズマン:だがそれには、お前さんの協力も必要じゃ。
トリックスター:あん?
ワイズマン:化け物どもを使う。
リトル・ヘル:ふうん、ずるいんだ。
にいさまを捕まえて、海に落として、あたしを地獄に投げ捨てて。
必要になったら使うんだ。
ワイズマン:あの娘の言うことは全く支離滅裂であるが、やつがれは嫌われてるらしい。
トリックスター:なあ。
リトル・ヘル:……なに?
トリックスター:おわっ、反応が返ってきた!
ワイズマン:ほれ。
トリックスター:なあ可愛い子ちゃん。
ちいっと俺様ちゃんに協力してくれねえかな。
その狼と蛇の兄さまも一緒に。
リトル・ヘル:……いいよ。
トリックスター:なあ、なんであいつ俺に懐いてるんだ?
ワイズマン:そこはほれ、金髪超絶美形じゃから。
トリックスター:あいつの顔半分、見たか?
皮膚病? まるでミイラだぜ。
ワイズマン:よいか、物事は前向きに考えるのが、人生の智慧じゃ。
半分しかないと考えるか、まだ半分残っていると考えるか――
トリックスター:ワイズマン、テメー、いい話風にごまかしてるんじゃねーよ。
ワイズマン:すまんすまん。
しかし、どことなくお前さんと顔立ちが似ておらんか?
髪の色も同じ金髪じゃ。
トリックスター:ありゃ母親ゾンビだろ?
俺様が、そんなのとヤっちまったってか?
ムラムラしてて、つい?
ヤっちまったかもしんねー……
酔っぱらった勢いでとかでよ……
ん? でもゾンビって妊娠するのか?
ワイズマン:あまりの放言に、言葉も出ん。
トリックスター:一本取ったぜ。
ワイズマン:冗談と思っておくことにするぞい。
トリックスター:まーなんでもいいけどよ、俺はあんな化け物どもの面倒見るのはゴメンだぜ。
ワイズマン:わかっておる。
事が済んだ後の処遇は――
トリックスター:悪党め。
ワイズマン:
トリックスター:あー、それそれ。コブ付きじゃ女も引っ掛けられねーしよ。
ワイズマン:ぬふふふ。
トリックスター:ひひひ。
リトル・ヘル:にいさま、
あたし、信じないよ。言葉は。
言葉は偽れる。行動は偽れない。
だから、まだ。
あたし、信じるよ。
信じてるよ。
□7/万里の長城、地中廻廊
焔帝仔:万里の長城――
天帝の、
天陰:そう。天帝が地上に出現した時に残していった外殻――
初代王朝
焔帝仔:
乾いているのが唯一の救いか。
天陰:そう顔を
焔帝仔:
だとすれば、始皇帝は天帝の化身?
ならば
天陰:いい子だ。
情報の切れ端で、よくそこまで全体図を描いた。
焔帝仔:……説明しろ。
この
天陰:話は長いが、道も長い。
(九黎平原に禍星が降り、異形の獣となって竜へ疾走する)
(迎え撃つ竜は火炎の吐息で焼き払うも、死を畏れぬ異形の獣の殺到に火線を破られ、その巨躯を地に沈める)
始皇帝:
天より降り来たる
金剛神龍:はあ、はあ……
始皇帝:おお、
なんと無残な姿に……
金剛神龍:
何故だ。何故畜生如きに……
何故
始皇帝:龍の創造者と獣の創造者、そして人間の創造者は――同一の存在なのだ。
金剛神龍:…………!?
始皇帝:龍の
彼らを
彼らがもともと一つだったのか、皇祖同士が吸収・合体した融合体なのかはわからん。
彼らは一つの大いなる意志として、一つの時代の
天帝は、次代の霊長、
金剛神龍:何故天帝は、我ら龍を滅ぼす。
龍はどの生き物よりも強く、美しく、誇り高い、完璧な存在だ。
人間や畜生など及びもつかん。
始皇帝:龍は完璧な生き物だ。
それで、龍は何を生み出した?
金剛神龍:小道具や屁理屈、歌に踊り、絵物語か。
脆弱な人間が、現実から逃げ込んだ、空想と悪あがきだ。
我ら龍にそんなものは要らん。
始皇帝:なあ
朕は思うのだ。
天帝は自らが生み出せないものを欲しているのではないかと。
お前たち龍は完璧な生命体だ。天帝の最高傑作なのかもしれん。
だがそこでおしまいだ。龍は何も生み出さない。
だから天帝には作って終わりだ。
そういうことなのではないだろうか。
金剛神龍:龍は、飽きて捨てられたのか……?
天帝に……創造主に……
それが、滅びの理由なのか……?
始皇帝:
金剛神龍:
人間が。人間風情が。
天と地を統べる
真の神に……天帝に見放された、まがい物の神を……
始皇帝:
朕は今こそ、龍と獣と人の共存する時代を築こうと思う。
朕の……いや、俺が殺めた本物の始皇帝が掲げた、
(松明の明かりに照らされた焔帝仔の顔は、暗がりでも傍目にわかるほど蒼白で、震える声が言葉を紡ぐ)
焔帝仔:竜が失敗作だと……
天陰:受け入れられぬか。無理もない。
焔帝仔:嘘だ! 貴様は余を
天陰:皆、そう言った。
ある者は笑って取り合わず、ある者は激怒し――
しかし忍び寄る絶滅の気配に怯えていた。
焔帝仔:…………
天陰:顔色が悪いぞ。
焔帝仔:暗がりのせいだ。
天陰:引き返すなら今が最後だ。
この先は
(天陰の嘲りを含んだ忠告を無視して足を進めた焔帝仔は、目の前に拓けた空間に息を呑む)
焔帝仔:……!
内臓を塗り込めたような
迫り出した
始皇帝の上半身:マーラよ……ご苦労であった……
影を消せ……
天陰:
焔帝仔:天陰が……消えた……
始皇帝の上半身:あれは
朕の
焔帝仔:あなたは……
始皇帝の上半身:よくぞ参った、強く儚き至高の子。
朕は始皇帝、龍仙皇国建国の
異国では、ダイノジュラグバと呼ばれている。
かつて取り込んだ
お前にはこう名乗ったほうがよいか。
天帝――
朕こそは、全知全能の創造者――天帝なり。
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