ゲネシスタ-隕星の創造者-
15話-偽典ラーマヤーナ-
★配役:♂3♀2=計5人
人間の青年。
古代インドの小国カピラヴァストゥ出身。
カピラヴァストゥの守護龍ガンガーダラ神が、〝末法の瘴気〟に取り憑かれたヴァジュラ神に殺されたことにより、孤児となる。
端正な顔立ちと、狡知に長けた青年であり、隣国のパンチャーラで宮仕えの小姓に納まった。
彼の野望は、守護龍ガンガーダラ神の亡骸を邪龍ヴリトラとして使役して、世界の覇権を目論むナーガ族、
親兄弟・祖国・崇拝するガンガーダラ神の仇である、ヴァジュラ神の打倒である。
ラーマ♂
滅びゆく龍と、虐げられし獣の王として降臨した〝
ナーガ族のコーサラ国を打倒した後、マガダ国の王となる。
〝
〝
それ故に、体制を転覆しようとする者は例外なく自らを〝
後に勃興する『
神龍たちは狂い、破壊の神となって、互いに滅ぼし合う。
ヴァジュラ神もまた、
パールヴァティとは、ヴァジュラ神が人間に化身した時の名である。
宝石にも喩えられる、金剛石の美女である。
シータ♀
コーサラ国の属国である、パンチャーラ国の出身。
獣の血に穢れた卑しい身の上とされる、
獣の因子を宿す人間が、いつ頃発生したかは定かではない。
旺盛な繁殖力と強靱な肉体から、一時は人間を脅かすも、知能を損なってしまったことで、竜はおろか人間にも使役される身分となった。
比較的人間に見た目が近しい者を
シータは
集落を焼き払われた後、外見が人間寄りであったため、
西域に続く『絹の道』を渡ってきた、古代ペルシャの行商人。
不気味な象骨の面を被り、暗色の
彼を操るのは、
天魔神龍は天帝の被創造物ではなく、天帝自身の分身であり、
常に世界を脅かし続け、時代の発展を促し、停滞に澱んだ時、末法を将来して、一つの
神龍と称されながら、神龍とは別次元の存在。
しかしまた天魔神龍も、無限輪廻に縛りつけられた虜囚なのである。
カドゥルー大王
亡国カピラヴァストゥの王族にして、コーサラ国の初代国王。
ガンガーダラ神より創造されたナーガ族は、半人半蛇の存在である。
竜の端くれではあるものの、奉仕種族と呼ぶべき下等な存在で、奴隷に近い扱いをされていた。
それ故に人間とは立場が近く、カピラヴァストゥでは、人間とナーガ族が共存していた。
しかし、末法の到来によって、ナーガたちの立ち位置は激変する。
上位の竜たちが次々と狂っていく中、ナーガたちは正気を保っていた。
ナーガ族の王族カドゥルーは、かつて自分たちを虐げていた竜を家畜とする技術を得る。
ついに自らの創造主たるガンガーダラ神の、魂を失った抜け殻を、邪龍ヴリトラとして従えることに成功した。
邪龍ヴリトラの圧倒的な力で、人間の王国を二つ三つ平らげると、ナーガ族の王国、コーサラ国の樹立を宣言する。
コーサラ国の初代国王に納まったカドゥルーは、〝ナーガ族こそ
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
※以下は被り推奨です
バラモン両
カピラヴァストゥの僧侶
クシャトリヤ両
カピラヴァストゥの武人
バイシャ両
カピラヴァストゥの町民
シュードラ両
カピラヴァストゥの奴隷
□1に登場。ダイバダッタ以外の全員
ナーガ隊長両
コーサラ国の
□2に登場。ダイバダッタ、シータ、ラーマと会話有り
盗人A
盗人B
□9に登場。ダイバダッタ、パールヴァティと会話有り
※ルビを振ってある漢字はルビを、振ってない漢字はそのまま呼んでください。
ゲネシスタwiki 劇中の参考になれば幸いです。
□1/カピラヴァストゥ王国、滅亡の日
ダイバダッタ:(天空から降り注ぐ光は、宝石のように美しかった)
バイシャ:龍だ。狂える龍が襲ってきたぞ――!
バラモン:
ダイバダッタ:(いや、それはまさしく宝石だった。金剛石の雨が
クシャトリヤ:おお、私の城が……
シュードラ:金剛石だ。金剛石の山だ――!
バイシャ:拾うなこの奴隷め! ぎゃああ――!!
シュードラ:ひいぃ……ぎゃああ――!!
ダイバダッタ:(血の海に立ち並ぶ、金剛石の宝樹――)
(地獄の絶景であった)
(私は生涯、この光景を忘れ得ぬだろう)
バラモン:ガンガーダラ様じゃ。聖なる大河ガンジスよりガンガーダラ神が現れたぞ。
クシャトリヤ:ガンガーダラ神! 母なるガンジスの創造者よ!
狂気に取り憑かれた龍、ヴァジュラ神の
ダイバダッタ:(逃げ惑う人々は、ガンジス河より現れた、祖国の守護龍ガンガーダラ神の姿に沸き返った)
(しかし、彼らの願いは、虚しく水泡に帰すのだった)
クシャトリヤ:何故戦わぬ! 守りはいい、殺せ。ヴァジュラ神を殺せ――!
ダイバダッタ:(ガンジス河が
(
(やがてのガンガーダラ神の巨体が、
(また一人、神は死んだ――)
バラモン:やはり討てぬのか……
末法の使者と成り果てたとしても、血を分けた妹御は……
或いはガンガーダラ様も、悟道に入っておられるのやもしれぬ……
クシャトリヤ:終わりだ。カピラヴァストゥは滅亡だ……
ダイバダッタ:(最後の希望を失い、人々は逃げ出した)
(創造主ガンガーダラの鮮血で、赤く渦巻く血の海を、哀れな水蛇たちが泳ぎ去っていった)
バラモン:おぬし――ガンガーダラ様にお仕えしていた小姓じゃな。
両親は? 兄弟は? ……そうか。
ルドラ神の治める王国は、〝末法の瘴気〟に冒されておらぬと聞く。
わしと一緒に来なさい。
ダイバダッタ:(その日、カピラヴァストゥは滅亡した)
(私の目に焼きついたのは、血の池地獄に燦然と輝く、金剛石の龍の姿)
(私は幼き心に誓った。必ずヴァジュラ神を、
□2/金剛竹林の深奥、宝仙郷
金剛神龍:ガンガーダラ……
天魔神龍:お前の望みだ。
並ぶものなき覇者の孤独。覇者を殺せるものは覇者の他にあらず。
お前の罅割れた魂は、
金剛神龍:お前は……誰だ。
天魔神龍:
金剛神龍:この世の
それも良かろう。儂を滅ぼせ。
天魔神龍:
金剛神龍:破滅の化身がそれを問うのか。
天魔神龍:虚無に還る前に打ち明けよ。
光を憎む
金剛神龍:……退化が始まった。
卵より孵る子は、小さく、愚かで、知恵も言葉も持たぬ……地を這う
我らは
我ら龍は不老にして不死。子は成せずとも滅びには遠い。
そう思い込もうとした――
天魔神龍:だが魂は不滅ではない。
永きに渡る年月は、雨風のように魂を蝕む。
金剛神龍:まさに今、このわしの魂が砕けようとしている。
痴呆、
天魔神龍:肉体は死なずとも、魂は死ぬ。
汝ら
金剛神龍:我らは滅び逝く種族なのか。
天帝は……人間どもを
天魔神龍:泣いているのか。
金剛神龍:金剛石の
天魔神龍:魂が
ヴァジュラ、お前は美しい。
金剛神龍:美しさなど……何の価値がある。
天魔神龍:――創成の星が打ち上げられた。
金剛神龍:……流れ星。
天魔神龍:
金剛神龍:最後の龍――
天魔神龍:〝
だが
金剛神龍:如何なる予言だ。
天魔神龍:
〝末法の天命〟に背いて、深き
やがて
その時、お前は生まれ変わるのだ。
金剛神龍:
待て、マーラ……! 生まれ変わるとは一体――
天魔神龍:――ハアアアアア。
ヴァジュラ、お前は宝石だ。
宝石を巡り、ヒトが醜く争うように――
お前は真の末法を招く、呼び水となろう――
楽しみだ。
純無垢に輝く宝石を、黒く穢す。
□3/コーサラとパンチャーラの国境
シータ:ダイバダッタ殿、今はどの辺りでしょうか?
ダイバダッタ:もうすぐパンチャーラとコーサラの
シータ:コーサラ国……ナーガたちの治める王国……
ナーガ族こそが、天帝に認められし
ダイバダッタ:ご冗談を。
ナーガどもは、己の創造主、母なるガンガーダラの亡骸を
奴らが天帝に認められた
シータ:…………
ダイバダッタ:……失礼致しました、シータ姫。
シータ:驚きましたわ。
ダイバダッタ殿は、冷静沈着で才気に溢れた神童とうかがっていたものですから。
ダイバダッタ:神童は昔の話ですよ。
……私はカピラヴァストゥの生まれでした。
昔のナーガ族は、竜の中では、下等な地位に置かれていましてね。
人間とは立場が近く、そのせいか、カピラヴァストゥでは、ナーガ族と人間は、仲良く共存していたのです。
全てが変わったのは、滅亡の日でした。
ヴァジュラ神に国を滅ぼされ、命からがら逃げ出したナーガたちは、何時自分たちも〝末法の瘴気〟に襲われるか、
ところが何時まで経っても狂気に陥る者はなく――
そればかりか、かつて自分たちの主君だった竜は畜生に成り果て、餌と鞭で手懐けられる家畜となっていた。
ナーガ族の王カドゥルーは、人間の王国を二つ三つ、瞬く間に併呑すると、コーサラ国を立ち上げました。
そこで高らかに宣言したのです。
〝我らナーガこそ、天帝に認められし、次代の世界の霊長、
シータ:私は……そのカドゥルー大王の奴隷に差し出されるのですね。
ダイバダッタ:奴隷ではありません。王妃です。
シータ:同じことです。
ああ、あのおぞましい蛇男の手込めにされるなんて……
ダイバダッタ:…………
シータ:――なーんて、シータ姫が泣いてたから、あんたが入れ知恵したんでしょう。
ダイバダッタ:国の、パンチャーラのためだ。
お前も
こんな
シータ:冗談じゃねーわぁ!
尻尾を切られて、耳を潰されて……
あんたの出世のための踏み台にされて堪るかってーの!!
ダイバダッタ:うわっ、この悪臭は――!
シータ:あは。寂しいからってごねて連れてきたの。
ダイバダッタ:
シータ:
これであんたは鼻つまみ者。笑えるわぁ。
じゃーねぇ、神童さん。
ナーガ隊長:カドゥルー大王様に捧げるシータ姫が偽物ですってぇ?
ダイバダッタ:ナーガ族――!
ナーガ隊長:くんくん……臭うわよ。獣臭いニオイが。
シータ:えっとぉ、あのぉ……いやだぁ、冗談ですよぉ。
正真正銘のシータ姫でぇーす。
ナーガ隊長:人間どものおバカさんが、舐めた真似をしてくれたわねぇ。
でもおあいこってことで許してあげるわ。
あなたたちの祖国パンチャーラは、国ごとミイラになるのですからね。
ダイバダッタ:なんだ、あの黒雲は――
シータ:逆さまの雨……?
パンチャーラから、水を吸い上げているの――!?
ナーガ隊長:おーっほっほっほ。
あたくしたちナーガ一族の許しなくして、この世界の一切のお水は使っちゃダ~メ。
見なさい、空に立ち上る邪龍ヴリトラを!
あれがあたくしたちナーガ族の守護龍よ。
ダイバダッタ:ガンガーダラ様を……あのような醜悪な怪物に
ナーガ隊長:ひれ伏しなさい。
そしてあたくしの尾をお舐め。
偉大なるナーガレディ・ムチャリンダ様に帰依するのよ。
もっとも、あなたたち人間と畜生の救済なんて〝死んでやり直せ〟しか言うことないんだけどねぇ。
おーっほっほっほ。
ダイバダッタ:…………!
ラーマ:――哀れよのう。
ぬしは火竜の
こちらは水竜の
誇り高きぬしらが、ナーガどもに飼われる家畜か。
ナーガ隊長:なぁに、このチビすけ……
いいえ、背は低くてもご立派な
ラーマ:朕はラーマ。龍と獣の王である。
ナーガ隊長:まあ、面白い冗談。
あら、何かしらこの尻尾の震えは。
蛇に睨まれたカエルみたい。
でもあたくしは蛇ですわよ。
だとしたら、蛇をすくませるあなたは――
ラーマ:
立ち去れ、
カドゥルー大王に伝えるがよい。
真の
龍と獣と人の和合の道を征く――其の名を麒麟という。
□4/コーサラ国、首都アヨーディヤ
ダイバダッタ:龍獣の王『麒麟』だと――?
そんなもの信じられん――!
シータ:はぁ? あんたバカ? アホ? マヌケ?
コーサラ国の首都アヨーディヤまで潜り込んで、まだ言ってんの?
ラーマ:わからずともよい。
朕の偉大さが伝わらずとも、それはそなたが人間だからだ。
シータ:獣のあたしはメロメロでぇ~す。
ダイバダッタ:目の前でベタベタするな!
シータ:やだなぁに、嫉妬?
ダイバダッタ:見苦しいと言ってるんだ――!
シータ:尻尾と耳を、元通り生やしてくれた。
あの時からラーマ様は、あたしの王様よ。
ラーマ:根本が少しだけ残っておったであろう?
そこから設計図を読み出して、もう一度組み立てるよう、働きかけたのだ。
おぬしら獣の細胞は、刺激を加えてやれば万能性を取り戻す。
シータ:全然わかんないけど、すごーい! さすがラーマ様!
ダイバダッタ:で、偉大な麒麟様。
あなたが龍と獣の王だと言うなら、ガンガーダラ神……邪龍ヴリトラを
ラーマ:うむ。
龍獣の王が
ダイバダッタ:雨雲……!?
シータ:きゃー! ラーマ様すてきー!
ダイバダッタ:彼は〝次代の世界の霊長〟――
シータ:あら? 雨が止んだ?
ラーマ:……参ったなどうも。
ダイバダッタ:どうした?
ラーマ:朕の命令を上書きされたのだ。
シータ:街中騒がしい感じ……
ダイバダッタ:城門からナーガの兵士が飛び出してきたぞ。
ラーマ:カドゥルー大王が気づいたのだ。
もう一人、自分と同じ、王の権能を持つ者がいることに。
シータ:やっちゃえラーマ様! 蛇男なんて玉座から蹴り落とせー!
ラーマ:…………
シータ:ラーマ様が王様で、シータちゃんが女王様。
ステキぃ。
ダイバダッタ:屁こきネズミの飼い主が戯言を――
ラーマ:……
ダイバダッタ:誰が
ラーマ:朕は
だが朕は、カドゥルー大王より
シータ:は?
ダイバダッタ:それはつまり――
ラーマ:退却せよ。
ダイバダッタ:だから俺は、麒麟など信じられんと言ってきたのだ――!
シータ:ひえええ!! ダイバダッタ、何とかして!!
ダイバダッタ:行商人の通行手形がある。
ラーマ:何時の間に?
ダイバダッタ:昨日の酒場で、酔い潰れた行商人から抜き取っておいた。
シータ:あは、極悪人!
ダイバダッタ:ちょうどいい、あの荷馬車を譲ってもらうとしよう。
お願いしてきていただけますか、麒麟様。
ラーマ:おぬし悪党だのう。
ダイバダッタ:ナーガに仁義を通す必要があるか。
行くぞ。
シータ:…………
やっとコーサラ国を脱出ね。
はー……危なかったわぁ。
ダイバダッタ:種族を問わず、あらゆる龍と獣に王者の権能を有する麒麟――
しかし本物の王が出てくれば、引っ込まざるを得ない……
王は王だが、せいぜい王の代理人――
ラーマ:面目ない。
ダイバダッタ:こんな但し書きがついた今では、
シータ:あんたと相性ピッタリ。
ラーマ:数奇な星の巡りだのう。
ダイバダッタ:うるさい――!
くそっ……!
カドゥルー大王に一矢報いる好機が巡ってきたと思ったら、とんだ空振りだ……!
ラーマ:カドゥルー大王との権能の張り合いもそうであるが……
朕は王だ。本物でも偽物でも、王では神に勝てん。
ダイバダッタ:ほう。ご高説を聞かせていただこうか。
ラーマ:神を仲間に引き入れるのだ。
ガンガーダラ神と並ぶ、神の龍の一柱を――
□5/金剛竹林
ダイバダッタ:おい待て――! 待てと言っているだろう――!
シータ:うるせーわぁ。
ダイバダッタ:よりにもよって、何故そいつなんだ――!
シータ:他の
ダイバダッタ:カドゥルー大王は、憎むべき敵だ――!
だが奴の力を借りるなど、絶対に認めん――!
これだけは譲れぬ一線だ――!
ラーマ:おぬしに譲れぬ一線があったとはのう。
ダイバダッタ:俺の祖国を滅ぼしたのは、
奴こそ全ての元凶――!
ヴァジュラ神こそ、俺の人生最大の仇なのだ――!
ラーマ:ぬしの申すことはわかる。
しかしよく考えてみよ。
見方を変えれば、もっとも哀れな身の上と言えるのではあるまいか。
ダイバダッタ:奴の身の上など知ったことか――!
シータ:
その中に……見えるわ、金剛石の龍が――!
ダイバダッタ:ヴァジュラ、神……!
金剛神龍:(……お前が
ラーマ:(左様)
金剛神龍:(
ラーマ:(うむ)
シータ:どうしたの……見つめ合ったまま動かない……
ダイバダッタ:言葉を交わしているのだろう……心の中で。
金剛神龍:(出来るのか? お前に?)
ラーマ:(金剛石の龍よ、尊主に我が光を示す)
金剛神龍:(この、星の並びは――)
ラーマ:(受け取れ、ヴァジュラ神)
(朕が天帝より賜った、
ダイバダッタ:龍の眠る鉱山が輝く――!
シータ:眩しいっ――!
ダイバダッタ:……龍が消えた?
あの女は……!
シータ:うっそ……
龍の女:――――
わしの躯はどうなった?
ラーマ:金剛石の竹に映してみよ。
龍の女:――おい、人間。
ダイバダッタ:…………!?
龍の女:わしの姿をどう思う?
ダイバダッタ:…………
龍の女:絶句か。
ラーマ:言葉も出ないほど美しいということだ。
龍の女:そうか。
金剛石は形を変えても燦然と輝く。
シータ:うっわ~、なにこいつ。感じ悪ぅい。
ラーマ:名前が要るのう。
龍の女:ヴァジュラでいい。
ラーマ:誰もが腰を抜かすであろうが。
龍の女:好きに呼べ。
シータ:糞ババア。
龍の女:この狐、お前が飼っているのか?
殺しても構わないか?
ラーマ:パールヴァティ。
シータ:美の女神の名前じゃない。
パールヴァティ:此れよりわしは、パールヴァティと名乗る。
シータ:なんとか言いなさいよ、ダイバダッタ。
このドブスとか、ジジイの入れ歯、ハゲ頭、眩しすぎとか。
ダイバダッタ:……美しい。
シータ:あんたも骨抜き?
ずる賢くて傲慢で嫌な奴だけど、女の色香には引っかからないと思ってたのに。
あー、つまんない。
ダイバダッタ:(彼女にはわかるまい)
(私の口から漏れた呟きには、万感の想いが込められていたことに)
(私の終生の使命としていた、二柱の憎悪の片方が、大きく揺らいだ)
(それはまさしく、一目惚れだった)
(私は、憎むべき
□6/コーサラ国への道中、焚き火を囲う四人
シータ:ね~え、パールヴァティ様ぁ。
宝石、一個ちょうだい?
パールヴァティ:――――
シータ:聞いてんの、
パールヴァティ:黙れ畜生。
シータ:ラーマ様ぁ~!
ラーマ:神は俗世には不介入の立場を崩せぬのだ。
神の力一つで、人間の築き上げた文化や制度が、あっという間に瓦解するでのう。
ダイバダッタ:…………
パールヴァティ:何故わしを見つめている。
わしに見惚れているのか。
シータ:迷わずそんな発想に行く辺り、こいつ超うざいわぁ。
ダイバダッタ:……カピラヴァストゥを覚えているか。
パールヴァティ:カピラヴァストゥ?
ダイバダッタ:ガンガーダラ神の膝下にあった小国だ。
パールヴァティ:ああ。
ダイバダッタ:俺はそこで生まれ育った。
パールヴァティ:それで?
ダイバダッタ:それでだと!?
俺はお前に、家も祖国も奪れたのだぞ!
シータ:あ、虫。
ダイバダッタ:邪魔だ、くそっ!
パールヴァティ:――虫。
ダイバダッタ:――……?
パールヴァティ:お前が今、払い落とした蛾。
お前は今まで殺した虫の数を覚えているか?
ダイバダッタ:俺の両親を、兄弟親類、人間を虫けらだというのか――!
パールヴァティ:虫より高尚か、人間の命は。
ダイバダッタ:当たり前だ――!
パールヴァティ:命の
お前はわしを糾弾した。
ならばお前も、兄弟姉妹を殺されたと、虫に糾弾される覚悟があるのだな。
ダイバダッタ:……詭弁だ!
パールヴァティ:そう思うか?
ダイバダッタ:話にならん――!
俺は寝る――!
(焚き火を離れ、木陰の下で、ダイバダッタは布団に包まった)
(寝返りを打ちながら、ようやく浅い眠りに就くと、そこで悪夢を見た)
(夥しい数の毛虫に集られ、嘲笑うように眼前を飛び交う蛾が、恐怖に見開かれた眼球に鱗粉を落とす)
ダイバダッタ:は――――!!!
はー……はー……!!
夢か……
(顔を洗って気分を晴らそうと、ダイバダッタは森に流れる小川まで歩いていく)
ダイバダッタ:くそっ、
奴の詭弁のせいで、とんだ悪夢を見た……!
――――!!
パールヴァティ:お前か。
ダイバダッタ:
パールヴァティ:小川のせせらぎに耳を澄ませていた。
梢より落ちる星の光は、宝石よりも美しい。
ダイバダッタ:…………
パールヴァティ:悪夢を見た。
ダイバダッタ:――――!!
パールヴァティ:それも毛虫や蛾に集られる悪夢。
ダイバダッタ:――――!!
パールヴァティ:存外にわかりやすいな、お前は。
ダイバダッタ:黙れ――!
(乱暴に顔を洗い、ダイバダッタが去った後、木陰から人影が姿を現わす)
ラーマ:悪夢にうなされたのは、ぬし様も同じであろうに。
パールヴァティ様。
パールヴァティ:亡者の群れがわしを責め立てた。
ダイバダッタの小僧とよく似た顔が混ざっていた。
ラーマ:罪悪感か。
パールヴァティ:弱さだ。
ラーマ:両方であろう。
パールヴァティ:……これが人間に身を落とすということか。
ラーマ:恐怖されたのだ。
偉大すぎる
ぬし様の
そこは静かすぎた。ぬし様は、生きながら死んでいた。
驚き、笑い、怒り、喜び、嘆く。
これが生きると言うことだ。
パールヴァティ:……何故我ら
魂が死んだのだ。
魂が死して尚、
不滅の
ラーマ:ぬし様の魂は、まだ死んでおらん。
大小の亀裂はあろうとも、その傷すらも、魂の輝きを増す加工の一つだ。
パールヴァティ:天帝はお前に何を託した。
ラーマ:滅びゆく龍の因子を残すために、
旺盛な生命力を持ちながら、他に使役される宿命より、獣を解き放つために、
朕は、龍と獣の王『麒麟』として遣わされた。
そして次代の〝
それが朕の使命だ。
□7/コーサラ国跡地、豪雨の中
ラーマ:人間と獣の連合軍、ナーガ族と彼らの使役する龍の軍勢。
シータ:終わったわ……
ダイバダッタ:魂を残す竜たちも、次々と我らの仲間に加わった。
認めなければならない……
ラーマ様、あなたは王だ。
天帝に選ばれし、王の中の王、ラージャ・ディ・ラージャだ。
ラーマ:ダイバダッタ、ぬしこそ八面六臂の活躍であった。
軍師に外交官に内務官、ぬしの知略なくして、勝利はなかった。
シータ:これからどうするの?
コーサラ国を
ラーマ:朕は国を興す。
龍と獣、人が共存する、王道の国を。
ダイバダッタ、朕の臣下となってくれるか。
ダイバダッタ:謹んで拝命致します、ラーマ王。
シータ:おめでとう二人とも。
ラーマ:ぬしも朕に仕えてくれぬか。
シータ:無理よ。あたし難しいことわかんないしぃ。
――あなたの国で、ひっそりと暮らすわ。
ラーマ:それも良かろう。
民草の一人として、王国を支えてくれ。
(降りしきる豪雨の中、ダイバダッタは無人の戦場の跡地に向かう)
ダイバダッタ:――ここにいたのか。
パールヴァティ:ガンガーダラの亡骸だ。
金剛石の棺に封じ込めた。
もう動き出すことはあるまい。
ダイバダッタ:…………
パールヴァティ:怨んでも構わん。
ダイバダッタ:いや……もうお前を怨んではいない。
パールヴァティ:この地上に、我らは巨大すぎる。
世界は
生きたくば――
これが天帝の思し召しだ。
ダイバダッタ:……
パールヴァティ:叶わぬ望みなど持たん。
そこに是が非もない。
ダイバダッタ:
パールヴァティ:わしは
姿形が変わろうとも、ヴァジュラ
〝
征け、人間たち。
お前たちの世界の片隅で、わしは滅び去りし
□8/マガダ国の王宮、謁見の間
ラーマ:おお、シータ! 久しいのう!
シータ:ラーマ様、変わらないわね。
ラーマ:おぬしものう。
シータ:お世辞を言うようになったのね。
もう若くないわ。私たち、
ラーマ:腹の子はどうした。
シータ:……流れたわ。
ラーマ:……そうか。
シータ:これで三度目ね。
ラーマ:…………
シータ:……竜と獣の間に、本当に子供は出来るのかしら。
ラーマ:…………
シータ:なんて、私が
龍と獣の和合の結晶は、あなたが証明。
龍と獣を統べる麒麟王ラーマ様――
□9/金剛竹林
パールヴァティ:――何をしている、お前たち。
盗人A:ひぃっ、金剛神龍の化身だ――!
盗人B:これだけ一面、金剛石を敷き詰めているんだ!
ちょっとぐらい、わけてくれたっていいじゃないか――!
ダイバダッタ:失せろ、
盗人A:ダイバダッタ様――!
盗人B:逃げろ――!
ダイバダッタ:次に
パールヴァティ:追い払っても追い払っても、蟻のように群がってくる。
ダイバダッタ:……すまぬ。
パールヴァティ:見せしめに殺してやるか。
ダイバダッタ:それはならん――!
パールヴァティ:ならば手綱を締めろ。
ダイバダッタ:……竜たちに『
もう少し、人間や獣にも、恩恵を施してやってもよいのではないか。
パールヴァティ:金剛竹林は、知恵を失った竜の末裔たちの
人間どもは、宝飾品の材料だ、漢方の素材だと、土地と命を踏み荒らす。
ダイバダッタ:それにしても、たった一人でどれほどの財を独占している。
パールヴァティ:人間や畜生どもの蕩尽には限りがない。
少しでも施しをやれば、禿山になるまで刈り尽くし、河を枯らし、
ダイバダッタ:しかし――
パールヴァティ:わしは
わしを糾弾したくば、わしと同じ、神の高みで糾弾せよ。
ダイバダッタ:そんな姿で、何が
たかが女であろうが――!
(激高したダイバダッタは、パールヴァティの躯を押し倒す)
パールヴァティ:――わしを犯すか。
お前の魔羅で貫けば女になると――
ダイバダッタ:お、俺は……
パールヴァティ:どけ。
ダイバダッタ:……すまない。
パールヴァティ:昔のよしみだ。命は取らないでやる。
消え失せろ。
(精気の抜け落ちた足取りで、ダイバダッタは金剛竹林を後にする)
ダイバダッタ:ラーマ様と共に、龍と獣と人の共存を目指し、マガダ国を興して、十年の歳月が流れた……
ラーマ様の目が届く範囲では、絶対服従の権能により、手を取り合う素振りを見せるが……
王都を離れれば、
龍と獣の和合の象徴『麒麟』――
本当にあの御方が、
竜の化身である
世界の支配権を、再び竜の手に返しただけではないのか……
アーリマン:客人、己の欲するものを知らず。
内なる渇望を深掘りし、具象となった形を示して、ようやく何を欲するかを知る。
ダイバダッタ:
何者だ、お前は――!
アーリマン:遙かなる『絹の道』を超えて、ペルシャの国より参りました。
アーリマンと申します。
絢爛豪華なペルシャ織りから燃える水まで、役立つ品を数多く取り揃えてございます。
ダイバダッタ:……悪いが、売り込みなら内務省を通してくれ。
それと正装とまでは言わないが、少なくとも我が国の風習にあった服装に改めることを忠告する。
その象骨の面と暗色の羽織では、門前払いを免れ得ぬ。
アーリマン:
ダイバダッタ:売り物であるのか?
アーリマン:ございます。
――が、
ダイバダッタ:……どういうことだろうか。
アーリマン:若さ――
何時までも若々しい、数百数千の寿命を持つ
彼らと
ダイバダッタ:……馬鹿馬鹿しい。
アーリマン:強さ――
思惑一つで命を摘まれる竜との、一歩も引かぬ交渉は、
しかし魂を削られる一大仕事に、何時しか
もしも自分が、同じ竜であったなら――
ダイバダッタ:俺は人間であることに誇りを持っている――!
これ以上、俺を愚弄すると引っ立てるぞ――!
アーリマン:いいや、
かつてなく、龍ではない、
せめて麒麟であったなら――あの金剛石の龍に想いを寄せる資格があった。
ダイバダッタ:――――!!
アーリマン:
恐れも恥も要りません。
即ち、
ダイバダッタ:俺は、あの金剛石の龍が……
ヴァジュラ神が……欲しいのだ……!
金剛石の輝きに比べれば、俺の手にした名誉も覇業も、路傍の石だ――!
一度でも、あの龍をこの
俺は、この命を……ラーマと共に生涯を捧げた覇業を
アーリマン:交渉は成立した。
千の
太極に通ずる
戴冠せよ、
(アーリマンの掌から湧き出した二匹の毒蛇が、ダイバダッタの耳孔から脳髄に滑り込む)
ダイバダッタ:うわああああああ――!!!
□10/マガダ国、辺境の屋敷
シータ:ダイバダッタ――
ダイバダッタ:老けたな、シータ。
シータ:ご挨拶ね。
ダイバダッタ:言い返してこないのか。
シータ:言い返す気力もないわ。本当に歳だもの。
今は
私たち、獣の血が混ざった人間は、もう老境なのよ。
ダイバダッタ:腹の子は残念だったな。
シータ:ねえダイバダッタ――……
龍と獣の共存って、本当に天帝の下した天命なの?
龍と獣の合の子、麒麟が産まれたなんて話は、一度も聞かないわ。
唯一人、ラーマ様を除いて――
ダイバダッタ:お前の夫は?
シータ:知らないわ。女のところじゃない。
ダイバダッタ:冷え切っているな。
シータ:無理よ無理。
旦那はあれで五百歳よ。
私は数十年で、死が目前。
何から何まで違うの。
竜と獣は。
ダイバダッタ:お前はまだ、ラーマ様を慕っているのだな。
シータ:あんたこそ、金剛石の龍を忘れられないんでしょ。
だから嫁も取ってない。
ダイバダッタ:…………
シータ:私は卑しい獣の血を引く
いくら龍と獣の共存を掲げてるからって、偉大なる麒麟王に畜生は釣り合わない。
だから身を引いた。
あの御方の理想に殉じられるように、竜の女房に納まった。
旅をしていた頃は、楽しかった――
あんたと私と、金剛石の龍と、無礼講で――
身分や生まれ、種族の差なんて意識しないでいられた――
教えて欲しくなかった。
麒麟が泣き笑い、
雲の上の遠い存在でいれば、こんな惨めな思いをしないですんだ――
ダイバダッタ:……獣たちよ、覚醒せよ。
シータ:え……なに?
ダイバダッタ:鎖を解き放つ時が来た。隷属の首輪を破れ。
シータ:あんた、その目……
蛇……
ダイバダッタ:
お前の
獣どもよ、野蛮に踊れ。月夜に吼えよ。
其の者こそ、汝らの新たなる
(ダイバダッタの掌より溢れ出した、夥しい数の蛇がシータの股を這い、股ぐらへ潜り込んでいく)
シータ:
私の中に、入ってくる――……!!
きゃああ――!!!
□11/金剛竹林
パールヴァティ:…………
アーリマン:お顔の色が優れませんな。
しかしその憂い顔すら、
パールヴァティ:お前は……マーラの化身か。
アーリマン:〝
パールヴァティ:…………
アーリマン:
パールヴァティ:つまらん。
人間の似姿を取ろうと、わしは神だ。
人間どもとは、歩む時間も、目の高みも違う。
アーリマン:
何よりも、
故に
真に心を許せるのは、最後の龍〝麒麟〟――
パールヴァティ:獣の血の
アーリマン:〝
既に〝
創造神話の類型では、創造主の死によって、発展の時代を迎えます。
北欧のユミル、バビロニアのティアマトー、漢の
パールヴァティ:まさか――
アーリマン:最後の龍にして、最初の
□12/マガダ国の王宮、謁見の間
ダイバダッタ:ご報告
マガダ国を始め、周辺諸国の至る所で、
下等な畜生如きに、竜が
ラーマ:種族も思想も千差万別。
ダイバダッタ:王が出現した――
ラーマ:思えば謎であった。
途方もなく強い
ダイバダッタ:天帝は獣の神をお造りにならなかったのです。
時に竜も脅かす妖獣たちも、突然変異で生まれた亜種。
自然繁殖に任せている。
ラーマ:
ダイバダッタ:
人間の女を
さらにその猿の子が獣と姦通し、獣の特徴を宿した人間が
ラーマ:成る程のう。狼も狐も猫も、まとめて
ダイバダッタ:かつて天帝は、獣の特徴を宿した人間に、新たなる
しかし彼らは繁殖力と強靱な肉体を得た変わりに、知恵を損なってしまった。
結局
いわば
ラーマ:ダイバダッタ……おぬし、どこでそんな知識を得た?
ダイバダッタ:蛇が教えてくれたのですよ。偉大なる蛇が。
ラーマ:…………
王都を目指して、四つ足で地を駆ける十万、百万の気配が近づいてくる。
ダイバダッタ:接近される前が勝負だ――!
竜の吐息で、獣の軍勢を薙ぎ払え――!
ラーマ:ダイバダッタ――
シータはあの軍勢に参じておるのであろうか……?
ダイバダッタ:わかりません。
ラーマ:――!?
なんだこの衝撃は――!
ダイバダッタ:山が動いている……!
いや、あれは山のように巨大な
ラーマ様、一刻の猶予もありません――!
出陣の準備を――!
□13/マガダ国草原、竜と獣の合戦上
ラーマ:龍獣の王が
軍を引け、獣どもよ――!
ダイバダッタ:獣どもが迷っている。
ラーマ:退け――!!
ダイバダッタ:押し勝った――!
ラーマ:代理の王の朕より劣る。
どうやら敵方の王は、未熟な王のようだのう。
シータ:――未熟は当たり。
でも王じゃないわ。
神様よ。
ラーマ:シータ――!
ダイバダッタ:その腹はどうした?
シータ:私たち獣の神。
ラーマ:おぬしが、反乱の首謀者か……
シータ:そうよ。
ラーマ:何故……
シータ:あんたのせいじゃない。
ラーマ:朕は、龍と獣と人が共存する、王道の国を興した……
シータ:それが余計なお世話だってのよ――!!
心は通う。姿は愛せる。
でも一緒には居られない。
偉大すぎるのよ。龍も麒麟も。
私たちが、惨めで、愚かで、矮小な存在に思えてくるだけ。
こんなに苦しいなら、奴隷のままでよかった……
奴隷のままでいれば、畜生が分をわきまえず、麒麟に恋したりしなかった……
あんたの理想なんて、大迷惑よ――!
龍と獣が決して混じり合わないよう、カーストでも敷けば良かったんだわ――!!
ラーマ:…………
シータ:私の可愛い子、『
殺すなら今よ。
『
ラーマ:龍獣の王が
シータ:あは。そうよ。
私に死ねって命じなさい。
あんたの命令通り、私は死ぬわ。
でもね――
ラーマ:――ぐはっ。
シータ:龍獣の王の権能は、人間には届かない――
ラーマ:ダイバ、ダッタ……
ダイバダッタ:クックックック――
(毒液の滴る爪がラーマの胸を貫き、麒麟王の顔は見る間にどす黒く変色していく)
ラーマ:蛇の目……
そうか……ぬしは……
ダイバダッタ:龍と獣と人を統べる、有史以来の覇業を成し遂げた、麒麟王ラーマ。
最後は呆気ないものだな。
シータ:でも大丈夫?
ダイバダッタ:何を臆しているのだ。
お前は〝
シータ:……それもそうね。
私の子が、獣の〝
なに、この生温い風――
――揺れている。
ダイバダッタ:竜巻。そして――
シータ:大地震――!!
ダイバダッタ:麒麟王の時代は
新たなる
この天変地異は、前時代の残滓を消し去る、祝福の
シータ:あは、あは、あははははは――!!
壊せばいい! ラーマの築いた王国も、理想も――!
ダイバダッタ:何を笑っている。
お前も俺の〝
シータ:地面が割れる――!!!
ダイバダッタ:さらばだ、シータ。
忌まわしき災いの子『
シータ:だ、ダイバダッタァァァ――!!!
きゃあああああ――!!!
ダイバダッタ:クックックック――!!!
鎮まれ、天帝よ――! 〝真の
この俺が、ダイバダッタが〝
□14/マガダ国、天変地異の過ぎ去った跡地
金剛神龍:ダイバダッタ――
ダイバダッタ:一足遅かったな。
マガダ国は消え去った。
麒麟王の時代は終わった。
ラーマを殺した、俺が真の
金剛神龍:誰がそんなことを言ったのだ。
ダイバダッタ:神だ。お前よりも偉大な、
天帝は俺に〝新たなる時代〟の創成を命じられる――!!
神よ、俺に従え――!
金剛神龍:…………
ダイバダッタ:何故だ。何故何も起こらん……!!
応えよ、
金剛神龍:マーラは、数多の
そんな事実はどこにもない。
ダイバダッタ:
天帝はこの俺を選んだと――!
金剛神龍:天帝は、我ら神龍ですら計りかねる天意によって、
お前如きに推し量れる存在ではない。
唯一つ確かなことは――
ダイバダッタ:…………!!
再び地震が――!
金剛神龍:時代が終わる――……
龍と獣と人の共存を願った、麒麟王の時代が――……
ダイバダッタ:
金剛石の輝きが、
金剛神龍:次なる〝
次なる時代の意思は、
ダイバダッタ:
このままでは、お前は死んでしまう――!
金剛神龍:心優しき麒麟よ……お前の創る時代では、
だがそれは……人間に転生して
それは
ダイバダッタ:
ヴァジュラ神――!!!
(大地震と稲光の荒れ狂う天変地異の中を這って進み、ダイバダッタは堅炭と化した金剛石の龍の亡骸の前で落涙する)
ダイバダッタ:おお、ヴァジュラ神……
俺はお前が欲しかった……
お前は宝石のように気高く、手の届かない高みにあり、俺の心を掻き毟る。
そうだ、お前は宝石だ。
お前は俺を狂わせた。
お前を盗み出そうと、
友を殺め、国を潰し、お前は砕け散ってしまった……
赦してくれ……
ヴァジュラ神、ラーマ、シータ、国中の民よ……
赦してくれ……
ラーマ:――赦そう。
ダイバダッタ:――!?
ラーマ:離れよ、
もはやこの者は、お前の
(ダイバダッタの耳から、二匹の小さな毒蛇が逃げ出し、ラーマの足で踏み潰される)
ダイバダッタ:ラーマ、すまぬ……!
ラーマ:いいのだ……
〝
朕は天寿を全うして逝くことはないと……
朕は新たなる時代の土台を築き、そこで果てる……
発展の時代を、
ダイバダッタ:何を悟っている……!
それでは、お前は人形ではないか。
時代の、天帝の――
ラーマ:かもしれぬ……だから朕は欠落しておった。
淡々と……芝居の脚本をなぞるように、覇業を為したであろう……?
ダイバダッタ:違う――! お前は困惑し、胸を打たれた――!
シータの割れ鐘のような呪いを聞き、俺の爪に貫かれて――
ラーマ:うむ……朕は生きたぞ。
ダイバダッタ:お前は……何を望んでいた……
麒麟王としてのお前ではなく、人間としてのお前は……
何を愛し、何を――
ラーマ:…………
ヴァジュラ神よ。
ダイバダッタ:――――!!
パールヴァティ:
お前の時代に引き戻された。
ラーマ:どうか……朕の
龍と獣と人が共存する、麒麟王の時代の
パールヴァティ:絵空事だ。幕開けして十年、お前の時代は生まれ損ない、未熟児のまま死ぬ。
ラーマ:その通りだ……しかし全ての
パールヴァティ:さらなる未来に託すつもりか。
ラーマ:そう、朕の意志を継ぐ者が創る
それまで、龍と獣と人の共存する世界を――
ダイバダッタ:……護って見せよう。如何なる手段を使っても。
ラーマ:天帝よ、麒麟王ラーマの
〝
我が友、ダイバダッタへと――!
パールヴァティ:――死んだ。
天変地異は起こらん。
天帝は麒麟王の
ダイバダッタ:…………
パールヴァティ:わしが欲しかったのか。
ダイバダッタ:……聞こえていたのか。
パールヴァティ:宝石か。
ダイバダッタ:……お前は美しい。
パールヴァティ:……それだけだ。
ダイバダッタ:それだけで、誰もが魅せられ、狂うのだ。
(無機質な美貌に微かな憂いを含ませたパールヴァティは、ダイバダッタに近づき、静かに唇を重ねる)
パールヴァティ:お前の手に落ちてやる。
ダイバダッタ:…………
パールヴァティ:続きは、どうすればいい。
ダイバダッタ:……誰のものにもなるな。
パールヴァティ:……何だと。
ダイバダッタ:お前は
誰かのものになっては、神ではない。
誇り高く、誰にも届かぬ雲の高みで輝き続けろ。
それこそが、俺の焦がれた金剛石の龍なのだ――!
パールヴァティ:……後悔するぞ。
ダイバダッタ:であろうな。
しかし何故――
パールヴァティ:気の迷いだ。二度はない。
ダイバダッタ:……ありがとう、ヴァジュラ神。
俺には口づけだけで、身に余る。
もう十分だ……
パールヴァティ:征け、ダイバダッタ。
お前の破壊した、麒麟王の遺志を受け継ぐ国を興せ。
そこでお前は、最初の皇帝――始皇帝となるのだ。
わしは見守っている。
お前の世界の片隅で――
□15/生と死の狭間、太極の渦へ落ちゆくシータ
シータ:うう……痛い……暗い……
ここは……どこ……
天魔神龍:此処は生と死の狭間。
シータ:ラーマ……ラーマは……
天魔神龍:ラーマは死んだ。
しかし麒麟王の遺志を継ぐ者が、マガダ国を凌ぐ大帝国『
シータ:なん、ですって……
天魔神龍:案ずるな。
ラーマの遺志が受け継がれたように、お前の遺児も、『
シータ:あは……私の子……獣の神……『
天魔神龍:太極の渦が近い。
シータ:私は……消える……
天魔神龍:眠れ。未練も悔恨も、
其処は静かな
シータ:ラーマ……龍と獣の王……麒麟……
天魔神龍:死して尚、想いに縛られるか。
良かろう。
シータ:あなたは……誰なの……
天魔神龍:
お前も皇国の宿敵として、
幾度となく――
時に母として、時に想い人として、麒麟と輪廻の輪を巡る。
やがてお前の忌み子、『
その時、目覚めるのだ。新たなる災厄として。
遙かなる未来の災厄、
※クリックしていただけると励みになります
index