ゲネシスタ-隕星の創造者-
9話-渾沌之残滓-
★配役:♂2♀2両1=計5人
15歳。
黒髪黒瞳の
日本国の栃木県『九尾荒原』にて保護された孤児。
動物や爬虫類と心を通わせる不思議な力を持ち、周囲からは気味悪がられていた。
13歳の頃、龍仙皇国に渡り、流浪の旅を続けている。
父親は龍仙皇国の『始皇帝』こと『
母親は『
ダイノジュラグバとギオガイザーの二系譜を跨る
二系譜の
ただし、本物の
出生時期は平安末期。
玉藻前の化けの皮を剥がされた『九尾狐』が殺生石に変ずる際、戴黄麒も巻き添えで石化させられた。
幼少期は、龍と獣の血が互いに相手を攻撃し合い、自己免疫性疾患に苦しんだ虚弱児だった。
千年の眠りを経て、『麒麟』として目覚めた戴黄麒は、龍と獣の皇『麒麟王』として龍仙皇国に民主革命を起こそうと起ち上がる。
封星座珠:【瑞兆角】
唐紅の髪をした
闇商人魏難訓に『
記憶障害を負っており、過去の経歴を喪失している。
言動や振る舞いは、外見に比べてかなり幼い。
『
殴りつけると主人の気に召すままに姿を転じたとされ、皇族や官僚に珍重されたという。
現代の闇市場で『
長い若白髪で左目を隠す
白皙の貌には、
灰色狼の毛皮を羽織っており、毛皮の下には牙と爪の絡み合った異形の腕がある。
ギオガイザー系譜の
後に同系譜の
ギオガイザー系譜の降魔は、負傷すると細胞が万能細胞化する特性を持ち、生命力が著しく高い。
檮杌は万能細胞化による修復のみならず、以前より強靱な体組織を作り上げる性質を持つ。
その好戦的な気質から、命を落とす個体も多いが、歳月を経た檮杌は獰悪極まりない妖獣となる。
かつて
瀕死の重傷を負った妖獣『檮杌』の体は、原型を逸脱した新生組織として再生させた。
左眼は万物の奇穴を視る『
この血の蒸気は、ダイノジュラグバ系譜の
これらの三種は『檮杌』には本来あり得ない体組織であり、生物学上は
主君の仇である
赤い武火の髪と、焦げ色の肌をした
『焔帝』の娘であり、龍仙皇国の藩属『火釜国』を治める代理王。
宗主国の龍仙皇帝より、『焔帝』に代わり、国の統治を任されている。
ダイノジュラグバ系譜の
本来の姿は、獅子の如き鬣を逆立てた、熔岩の血を煮やす二足歩行の竜である。
封星座珠:【業炎鬣】
年齢・性別不詳。
『極楽浄土の切符から、地獄の沙汰の買収工作まで承る』闇商人。
魏難訓は一人ではなく、謎の商人集団の通名である。
皆一様に、不気味な
象骨面は、
象骨面を被せられた者は、
※今回の魏難訓は女性も可です。
※以下は被り推奨です
少年黄麒両
□1に登場。白狼琥と会話有り。
戴黄麒役の方がそのまま演じても構いません。
闇商人両
□5に登場。焔帝仔と会話有り。
※ルビを振ってある漢字はルビを、振ってない漢字はそのまま呼んでください。
ゲネシスタwiki 劇中の参考になれば幸いです。
□1/栃木県那須町、殺生石の跡地
(地中より噴き出す灰塵で、荒野は真昼でも薄暗く、灰白に霞んでいた)
(灰塵は地上に出ると立ちどころに毒気に変わり、草木を枯らし、鳥を落とし、獣を殺す)
(千年前に討たれたとされる狐の怨念が満ちた荒野を、長い白髪の男が進み、殺生石の前で膝を折る)
白狼琥:姫様……御無沙汰しておりました。
白狼琥にございます。
白狼琥:日本は随分と様変わりしましたね。
街には鉄の車が走り、電気と電波が国中を駆け巡る。
あの世界大戦以後、日本は人類統合体に取り込まれ、『鋼鉄の革命』が急速に進行しております。
白狼琥:皇国は何も変わっておりません。
姫様が覇皇に蹂躙され、皇国を追われてから千年間……
まるで時が止まっているかのように、
白狼琥:私は今でも悔いているのです。
姫様が国を追われたあの時、すぐに追いかけることができたら……
姫様はこのような――物言わぬ石に変ずることなど無かったであろうと……
少年黄麒:あなたは
どうして殺生石の前で泣いているのです?
白狼琥:……かつてこの御方は、私の主君だった。
そう言えば、信じるだろうか?
少年黄麒:はい。信じます。
白狼琥:君はおかしな子だな。
少年黄麒:昔からよく言われました。
白狼琥:一緒に来なさい。街まで送っていこう。
殺生石の噴き出す
少年黄麒:結構です。街にはもう戻りたくありません。
白狼琥:家出か。
少年黄麒:僕は
学校でも、施設でも、ひどく虐められました。
(寂しげに呟く少年黄麒を慰めるように、周囲から野良犬や野良猫、野鳥が群がってくる)
白狼琥:その野良犬や野良猫、野鳥たちは……!?
少年黄麒:動物には好かれるんです。
犬、猫、鳥、トカゲやカメやカエルたちも。
僕が悲しい時や寂しい時、ずっと側に寄り添ってくれました。
白狼琥:…………
少年黄麒:あなたも気味が悪いですか?
でもあなたからは、動物たちと同じ温かなものを感じるんです。
白狼琥:…………
その動物たちは、何故死なないのだ?
飛ぶ鳥は落ち、草木も枯れ果てる猛毒の『
何故、君やその動物たちは平気で暮らしているのだ――?
少年黄麒:『母の愛』ではないですか?
生前の母上には辛く当たられてばかりでしたけれど――
死んでからは、この殺生石が僕の唯一の拠り所です。
白狼琥:君は――!!
少年黄麒:――誰か来ましたね。
白狼琥:……武装した鉄人たちが見える。
少年黄麒:眼が良いんですね。
白狼琥:人類統合体の軍隊だ。君を探しに来たのだろう。
少年黄麒:殺生石の調査ですよ。
殺生石の活動が活発化し、有毒ガスの計測値が警戒水準に高止まりしているためです。
どうして僕をそっとして置いてくれないんだ。
(少年黄麒が殺生石に手を当てると、額に星図が浮かび上がる)
少年黄麒:
白狼琥:鉄人たちが錆びた鉄塊となって朽ちてゆく……!
殺生石の毒は、鉄の降魔も殺すのか……!
九尾様の怨念は斯くも……!
少年黄麒:これでしばらくは静かに暮らせます。
白狼琥:君の――あなたのお名前は?
少年黄麒:
母上は、僕をそう呼んでいました。
産まれて間もない、朧気な記憶の中では、愛おしさと祈りを込めて。
やがて苛立ちと失意に変わり、最後には憎悪と殺意の声で。
戴黄麒、それが僕の名前です。
□2/火釜国王都『炎』、郊外の闇市場
白狼琥:若様、先ほどのあれは何です。
戴黄麒:ああ、宿代の節約だ。
白狼琥:後で帳簿を調べれば、数字が合わないことに気づきます。
戴黄麒:間抜けな帳簿係が叱責されるだけだろう。
白狼琥:今回一度きりではございません。
不審な催眠術を掛けられた者が続出すれば、やがて直前に目撃した少年――
戴黄麒様の特定に至るでしょう。
戴黄麒:俺は龍と獣の王だ。
王が民から搾取して何が悪い。
白狼琥:それでは覇皇と同じではありませんか。
若様の母君……九尾様を辱めた、
戴黄麒:黙れ。
白狼琥:いいえ、黙りません。
若、今日こそは――
戴黄麒:安心しろ。
こんな無力な王に何が出来る。
所詮俺は、
白狼琥:若……
魏難訓:道ゆく人よ、
今宵お披露目するは、
その姿は変幻自在。その気性は従順貞淑。
ひたむきに主人を愛し、身も心も捧げる、地上に舞い降りた天女にして悪女。
世にも珍しき妖獣『
戴黄麒:
魏難訓:
しかし焚書にされた歴史書に、恐るべき真実は記される。
戴黄麒:九尾……!
魏難訓:さあさあ、立ち去るなら今の内――!
首輪を嵌めて跪く主人。
引き取った者は必ず破滅する、
九尾の狐が産み落とし、邪淫の
皆々様、お覚悟は宜しいか?
いざ、ご開陳――!
(鉄檻に被せられた紗幕を引くと、鉄格子の向こうで鎖に繋がれた猩人の少女が蹲っている)
朱紅楼:アー……
戴黄麒:なんだ、あれは……
魏難訓:落胆、罵声、大いに了察。
(鉄檻の戸を開けて猩人の少女を引きずり出すと、魏難訓は片手に鞭を取り出す)
魏難訓:然るに、この洟垂れ童子が天女に変じたとすれば――?
感嘆、歓声、大喝采――!
紛う事なき、
ご覧あれ、天竺の曲芸――!
洟垂れ童子の天女調教――!
芋虫は血化粧で麗しき胡蝶に羽化する――!
(魏難訓が鞭を振るい、少女を残虐に打ち据える)
朱紅楼:アウ――! アウ――!
(血飛沫を撒き散らして悲鳴を上げる少女の顔は、血に塗れる度に、徐々に美しくなっていく)
戴黄麒:爛れた皮膚が、滑らかな素肌に変わっていく……!
白狼琥:つまらない手品ですよ。
そういった
後は痛めつけて自己再生を促せば――
戴黄麒:
タネがわかれば、猿芝居だな。
白狼琥:
奴隷商人が愚かな客を騙して、身寄りのない孤児を売りつける。
幾度となく繰り返されてきた光景です。
戴黄麒:くだらないな。どいつもこいつもくだらない。
白狼琥:若様――?
魏難訓:おお、これは若旦那様。
戴黄麒:ああ、買おう。
魏難訓:さあ、若旦那から買い名乗りの声が上がりました。
他に購入を希望される御仁はおられませんか――?
戴黄麒:何を言っている?
こんな偽物の乞食のガキに、カネを出すわけがないだろう。
俺が買ったのは、此処に集まったお前たちクズ全員の命だ。
値付けをするなら、お前たち一纏めで銅銭一枚だな。
(財布から銅銭を取り出し、弾いて捨ててみせる戴黄麒に観客は唖然となり、罵声や野次が飛び舞う)
戴黄麒:人買いの分際で、自分が値付けされるのは癪なのか。
買い取って早々だが、処分だ。
龍獣の王が
争え。ゴミ同士潰し合うがいい。
(戴黄麒の額の星図が強制力を放ち、争い始める人買いたち)
白狼琥:若様、やんちゃが過ぎますぞ。
戴黄麒:ああいうクズを痛めつければ、ちょっとした世直しになるだろう?
白狼琥:世直しの前に、ご自身の品行を改めて下さい。
(喧噪の中、戴黄麒の命令を無視して、人買いの一人が殴りかかってくる)
戴黄麒:うっ――!
俺の命令が通じない……!
白狼琥:若様のお力とて、万能ではありません。
戴黄麒:麒麟の頬を張って無事で済むと思うなよ……!
やれ、白狼琥――!
白狼琥:やれやれ。
(白狼琥の左腕が振られ、戴黄麒の胸ぐらを掴んでいた道人の男が吹っ飛ばされ、ゴミ溜めに突っ込む)
白狼琥:騒ぎを聞きつけ、警吏どもが動いております。
戴黄麒:腐った奴らだ。
まず先に
朱紅楼:アウー……
白狼琥:この
戴黄麒:捨ておけ。焔帝仔に押しつければいい。
白狼琥:奴は
獣の血を引く
戴黄麒:お前が子育てでもするのか?
白狼琥:いえ、しかし――
戴黄麒:行くぞ。
朱紅楼:ア――!
(朱紅楼は戴黄麒に追いすがるが、歪に変形した足は体重を支えられず、顔から地面に倒れこむ)
戴黄麒:……
朱紅楼:アー……アー……
(泥まみれになった顔を向け、手を延ばす子供の姿が、少年時代の黄麒に置き換わる)
少年黄麒:母上、待ってください――!
母上――……
戴黄麒:…………
ハク、あの
白狼琥:かしこまりました。
(戴黄麒は、白狼琥が朱紅楼を背負って戻ってくるのを見届けた後、裏道へ走り出す)
朱紅楼:アー……!
白狼琥:若様、如何様な理由で心変わりを?
戴黄麒:……幻覚。
……唯の気まぐれだ。
□3/王都『炎』、滞在先の温泉宿
白狼琥:薬湯と膏薬を持って参りました。
朱紅楼:アウー……
戴黄麒:俺は怪我の手当する。
お前は服を調達してこい。
奴隷のボロ着では外にも連れ出せん。
白狼琥:かしこまりました。
戴黄麒:…………
見れば見るほど汚いガキだな。
朱紅楼:アー……
戴黄麒:脱がせるぞ。大人しくしていろよ。
朱紅楼:…………
戴黄麒:思ったより傷は浅いな。
血と泥で汚れていただけか。
朱紅楼:…………
戴黄麒:意外と色白なんだな……
それに……胸も想定外の……
白狼琥:只今戻りました。
……!?
その娘、どうしたのです?
戴黄麒:――?
白狼琥:雌の臭いがします。
戴黄麒:何だそれは。
白狼琥:よくご覧になってください。
戴黄麒:…………!!
生えている……!?
朱紅楼:
(朱紅楼の裸をまじまじと見つめる戴黄麒の視界に、薬湯の桶が飛び込んできて、ずぶ濡れになる)
戴黄麒:うわっ――!
白狼琥:若様、聞かれましたか。
今、言葉を喋りました――!
戴黄麒:こいつ、いきなり俺に薬湯の桶を投げつけやがった――!
白狼琥:若、女体へのご興味、ご関心、重々承知しております。
しかし、凝視はいけません。見れば隠され怒られる。
男の
戴黄麒:お前が見ろと言ったからだろうが――!
そんなことよりこの変化――……!
白狼琥:ほんの
戴黄麒:
白狼琥:それで羞恥心も芽生えたのでしょう。
戴黄麒:あり得ん成長速度だろう。タケノコか、こいつは。
朱紅楼:
白狼琥:この娘、本物の
戴黄麒:だったらどうする?
白狼琥:如何です?
戴黄麒:要るものか。怪我が治ったら、どこかの孤児院に捨ててこい。
白狼琥:そうですか。若様にもそろそろ女を教える頃合いだと考えているのですが。
戴黄麒:お前に教わることなど無い。もう十分に知っている。
白狼琥:は?
戴黄麒:龍獣の王を見くびるなよ。
白狼琥:若、またお力を悪用されましたな。
戴黄麒:だったらどうした。踏み躙り奪う。当然の権利だ。
白狼琥:商売女を抱けば良いではありませんか。
黄麒様はあまりに情に欠ける嫌いがございます。
戴黄麒:情など邪魔なだけだ。
白狼琥:咎め立てしているのではありません。
私は黄麒様を心配しているのです。
あなたは他人を物のように扱い、使い捨てる。
今のような振る舞いを続けていれば、いずれあなたの周りには、誰も居なくなってしまうでしょう。
戴黄麒:他人など、俺にとっては唯の駒だ。
白狼琥:私もあなたの駒ですか。
戴黄麒:……お前はあの女の仇討ちに、俺を利用しているだけだろう。
白狼琥:黄麒様、私は――!
戴黄麒:黙れ。邪魔だ、失せろ――!
(無言で部屋を出て行く白狼琥と、無言でうなだれる戴黄麒)
(その姿を、朱い瞳がじっと観察している)
朱紅楼:オ・ウ・キ……
ゴ主人様……
□4/夜、滞在先の温泉宿
朱紅楼:あの……黄麒様、白狼琥様。
戴黄麒:……さっき女湯に入っていったのは童子だったよな?
白狼琥:はい。紛れもなく断崖絶壁でございました。
朱紅楼:せっかくご用意いただいた着物なのですけど……
胸の辺りが苦しくて……
戴黄麒:……こいつは誰だ。何が起こった。
白狼琥:
戴黄麒:……この成長速度だと、十日後には要介護老人だぞ。
白狼琥:その心配には及びません。
若、おなごの胸の好みは?
戴黄麒:大きすぎず小さすぎず、適度な弾力。
白狼琥:髪の長さは?
戴黄麒:長いほうがいい。
白狼琥:性格は?
戴黄麒:貞淑で恥じらいがあって女らしい女。
白狼琥:ふむ。
朱紅楼:あの、白狼琥様……?
白狼琥:若の望んだ通りのおなごではありませんか。
戴黄麒:……それがあれだと言うのか?
白狼琥:はい。
主人の好みを嗅ぎ取り、理想の異性に成長し、そこで変化が止まる。
戴黄麒:……俺の好きな髪の色とは違う。瞳の色も。
朱紅楼:……ごめんなさい。
白狼琥:変幻自在の
あの朱い髪と紅の瞳が、紅楼の個性なのです。
戴黄麒:…………
白狼琥:さて、私は紅楼に合う服を買ってきます。
戴黄麒:今日はもう遅い。明日でもいいだろう。
白狼琥:夜の散歩がてらですよ。
それでは若、お楽しみを。
(意味深な笑いを浮かべ、白狼琥は部屋を後にする)
朱紅楼:あの、黄麒様。
私のような者を拾っていただき、ありがとうございました。
戴黄麒:ただの成り行きだ。
朱紅楼:私は
ご主人様に愛を乞い、愛の
黄麒様……愛を、ください。
戴黄麒:……それは闇商人に仕込まれたのか。
朱紅楼:……わかりません。
戴黄麒:わからない?
朱紅楼:何も覚えていないんです……
黄麒様に救われ、朱紅楼の名前をいただくまで……
自分が何をしていたのか……自分は何者だったのか……
でも、
どうすれば、男の人が喜ぶのか。
戴黄麒:…………
朱紅楼:愛して下さいなどとは申しません。
紅楼に、愛することをお許し下さい。
黄麒様……
(跪く朱紅楼の姿に、少年時代の黄麒の姿が重なる)
少年黄麒:何も、感じません……
母上……
申し訳、ありません……母上……
少年黄麒:母上――!
母上、母上……
少年黄麒:母上が私を忌むことは承伏いたしました……
けれど、私が母上を慕うことはお許し下さい……
僕は母上が好きです……
母上が僕を嫌っても、僕は――……
戴黄麒:――やめろ!
弱者の媚びた笑いを、俺に向けるな――!
純真を装った、哀れみの物乞いをするな――!
朱紅楼:――……!!
戴黄麒:…………
朱紅楼:申し訳、ありません……
戴黄麒:…………
白狼琥:只今戻りました。
……ふむ?
戴黄麒:…………
ちょうどいいところに帰ってきた。
ひとっ風呂浴びてくる。
白狼琥:行ってらっしゃいませ。
戴黄麒:……紅楼。
朱紅楼:……はい、黄麒様。
戴黄麒:黄麒様は止めろ。敬語も使うな。
朱紅楼:え……?
では何とお呼びすれば……?
戴黄麒:黄麒でいい。
朱紅楼:でも……
戴黄麒:卑屈な女は嫌いだ。
朱紅楼:はい……
うん、わかった。
戴黄麒:……明日、お前の新しい服を買いに行こう。
白狼琥:紅楼の服なら、私が買って参りましたが?
戴黄麒:お前のセンスは当てにならん。
朱紅楼:……おうき!
また明日――!
戴黄麒:……ああ。
□5/王都『炎』、火眼城謁見の間
焔帝仔:其の方、我が
相違あるまいな。
闇商人:も、申し訳ございません――!
私は王都『
昨今の油の暴落により、売るに売れぬ在庫の山を抱え、目先の現金欲しさに……
焔帝仔:言い訳は要らん。油売りがどこで奴隷商人に鞍替えした?
闇商人:は、はい。
その者と同じ、象骨面と天竺織を纏った者だけで開かれるヤミ市がございます。
そこでは古今東西の
焔帝仔:
吐け。
闇商人どもの巣穴と、〝元締め〟と呼ばれる首魁の正体を。
闇商人:記憶にないのです……!
焔帝仔:ほう? 余の吐息で炙ってやれば浮き出てくるか?
闇商人:まことでございます――!
私はいつものように象骨面を被り、『魏難訓』に扮しました。
ところが、その……売上金を少々少なく申告しておりまして。
象骨面から男とも女ともつかぬ、奇妙な声が聞こえたのです。
〝
……気がつけば、牢屋の中におりました。
あのヤミ市の場所も、〝元締め〟のことも、綺麗さっぱり抜け落ちてしまったのです。
焔帝仔:燃えカスだな。
闇商人:私はどうなってしまうのでしょう――……!?
焔帝仔様、どうぞ寛大なご沙汰を……!
焔帝仔:奴隷売買は懲役二十年の実刑。
それに加え、児童虐待と詐欺、不穏分子『裏華僑』に与した罪状。
火刑の中でも最も重い、魂までも焼かれて苦しむ、業炎地獄だ。
闇商人:おお、そんな……!
なにとぞ、なにとぞ……!
焔帝仔:
(玉座に腰掛けた焔帝仔の蛇矛から、粘りつく油脂炎が放たれ、転げ回る闇商人を地獄の熱で責め苛む)
闇商人:ぎゃああああ――!!
焔帝仔:こいつの住居を競売に掛けよ。
預貯金、売掛金、商品在庫――全て差し押さえだ。
犯罪者の財産は、国庫に奉納する。
条約に基づき、特別租税の五割を宗主国へお納めする。
以上、本日の謁見は終わりだ。
扉を閉ざせ。
ああ、その前にそこの消し炭を片付けておけ。
(謁見の間に一人になり、焔帝仔の眼が憤怒の炎に燃え盛る)
(玉座の後ろに陰の気が凝り、象骨の面が天竺織に包まれるように立ち上がる)
魏難訓:御人払い頂き、恐悦至極。
天帝に祈りを届けし、
焔帝仔:余の城に潜り込むため、わざと捕まったな。
魏難訓:一介の旅商人の身の上では、火眼公にお目通りしようとも門前払いが関の山。
裏口からの拝謁、平にご容赦を。
焔帝仔:お前は余と同じ
魏難訓:流石は
焔帝仔:その先王焔帝には
余は〝
魏難訓:今宵火眼公にお願いに上がりましたのは、許認可申請にございます。
龍仙皇国を戦火に包む、災禍の花火玉の――
焔帝仔:聞こえなかったのか、闇商人。
余は自らの
余の忠節は始皇帝陛下……
魏難訓:不用意に認めてならぬは商道鉄則。
火眼公のご事情は、承伏しておりますとも。
それで許認可の方は――?
焔帝仔:余はお前の素性は知らん。
お前の持ち込んだ花火玉も知らん。
打ち上げるなら勝手に打ち上げろ。
出来映え次第では、余も見物に参加してやる。
魏難訓:有り難き幸せ。
必ずや龍仙皇国滅亡の花火を――
覇皇の頭上に降り注ぐ、
□6/王都『炎』、日本輸入服飾店
朱紅楼:うわあ、可愛い服! いっぱい!
戴黄麒:好きな服を選べ。
ハクの買ってきた服など、恥ずかしくて着ていられないだろう?
白狼琥:安くて丈夫。迷ったり比べる必要もない。ぴったりだと思ったのですが。
戴黄麒:だから人民服を選んでくる辺り、感性が獣以下だ。
白狼琥:姫様にもよくお叱りを受けました。
戴黄麒:…………
朱紅楼:
白狼琥:……失礼ながら若の感性も相当歪んでおられませんか?
戴黄麒:これが日本の最先端のファッションだ。
朱紅楼:おうき、
戴黄麒:見ろ。気に入っているじゃないか。
白狼琥:……姫様、御子息が魔道に堕ちてゆきます。
□7/王都『炎』、大衆食堂
朱紅楼:
いいの――?
戴黄麒:遠慮せず食べろ。
朱紅楼:ありがとう――!
戴黄麒:
主を破滅させるという、九尾の狐の
白狼琥:いいのではありませんか。
戴黄麒:いいのか? 俺を破滅させるかもしれない奴だぞ。
白狼琥:愛は毒だと、姫様は仰っていました。
しかし毒は薬にもなるのです。
幸い若様には、この薬はよく効いているようだ。
朱紅楼:おうき、ありがとう。
今日はすごく楽しかった。
愛されるって、とっても幸せ。
戴黄麒:大袈裟な奴だな。
朱紅楼:
戴黄麒:どういう意味だ?
朱紅楼:おうき、私の愛する旦那様――!
戴黄麒:勘弁してくれ。この歳で妻帯者にはなりたくない。
白狼琥:気づいておられますか、黄麒様。
笑い、怒り、呆れ、哀しみ――
瞳に熱を帯び、血が温かく通っていることに。
戴黄麒:――――?
白狼琥:私は恐れていたのです。
あなたは蜥蜴のように情に薄く、蛇のように冷たく笑う。
このままでは、いずれあなたは竜になるだろうと。
そうなれば私は――……
戴黄麒:…………
白狼琥:紅楼、お前がいてくれて良かった。
朱紅楼:白狼琥様……
白狼琥:白狼琥でいい。
朱紅楼:……はい、白狼琥!
(大衆食堂に入ってきた仙人の一団が、満席と断られたことに怒り、店員を叱りつけている)
戴黄麒:……なんだ、あの横柄な客は。
白狼琥:龍仙皇国から天下ってきた
焔帝仔が
(不快感を滲ませて見やる戴黄麒と、仙人の代表の目が合い、仙人の一団がこちらにやってくる)
戴黄麒:何の用だ。
白狼琥:申し訳ございません、
すぐに席を空けます。
戴黄麒:俺は退くつもりはない。
俺たちが食べ終わるまで、そこ待っていろ。
白狼琥:若、堪えてください。
大変失礼致しました。
後できつく叱りつけておきますので、どうかご容赦を。
(特派宦官の一人が朱紅楼の腕を掴み、口答えした罰金代わりに連れていこうとする)
朱紅楼:いや! 離して!
おうき――!
戴黄麒:下等な竜どもが――!
その娘を離せ。
(戴黄麒の額に星図がうっすら浮かぶと、特派宦官は催眠術に掛かったように朱紅楼の手を離す)
朱紅楼:あ……!
戴黄麒:ハク、紅楼、行くぞ。
飯代だ。釣りはいい。
(店の外に出ると、真っ先に朱紅楼が安堵の声を出す)
朱紅楼:怖かった……!
食べられるかと思った。
白狼琥:若、よく辛抱されました。
戴黄麒:悔しくないのか?
白狼琥:悔しいですとも。
戴黄麒:だったら――!
白狼琥:だが歯向かってどうする? 奴らをぶっ殺すか?
俺もあなたも牢屋にぶち込まれて終わりだろうが――!
戴黄麒:…………
白狼琥:……失礼致しました。
若様に向かって、とんだ暴言を……!
戴黄麒:……いや、いい。
白狼琥:この国では、
ヒトによく似た畜生に過ぎないのです。
戴黄麒:…………
ハク、紅楼。
白狼琥:はい。
朱紅楼:うん。
戴黄麒:世直しを始めるぞ。
□8/王都『炎』、夜闇に浮かぶ崇華高楼
(繁華街にそびえ立つ高楼の頂上で、麒麟面の男が高らかに演説している)
麒麟王:弱き者、貧しき者、懸命に生きる人民たちよ。
よく集まった。
天帝の天地開闢より幾星霜。
空に描かれた龍の星座は、覇者の冠となって輝いた。
恥ずべき
しかし目を凝らせ。
空の天幕には
(群衆に紛れ込んだ白狼琥が声を張り上げる)
白狼琥:
白狼琥:流星か――?
白狼琥:違う――!
白狼琥:金貨――!
白狼琥:銀貨だ――!
白狼琥:拾え――!
(歓声を上げて金貨銀貨を拾い集める群衆たちの背に、麒麟王の宣誓が降る)
焔帝仔:散れ、
余の眼前で、乞食の真似などしてみろ。
灰にしてぶち撒くぞ。
麒麟王:これはこれは逆賊王陛下ではないか。
先王焔帝を裏切り、覇皇の尻尾を舐めた親殺しから、高邁な理想を賜り失笑を禁じ得ない。
焔帝仔:口先だけの俗物がよく抜かす。
人民全土、火の玉となって皇国に突撃したいか?
火達磨になりたい奴は、この場で名乗り出ろ。
望み通り余が打ち上げ花火にして、皇国に撃ち込んでやる。
麒麟王:恐怖でしか民を支配出来ぬ愚王、それを覇皇という。
焔帝仔、覇皇の猿真似をする、矮小なる覇皇。
貴様に〝焔帝の子〟の尊号は過ぎたるものだ。
即刻その名を返上し、
焔帝仔:素顔も明かさぬ、覆面の批難など痛くも痒くもない。
畜生の臭いが漏れ出しているぞ、猿役者。
麒麟王:そうだ。我が名は麒麟王。
龍と獣の合いの子、
王道と覇道の中庸、王覇の道を征く者――!
仁徳有る者よ、我が世直しの道に続け――!
天地開闢より続く、龍の支配に反逆するのだ――!
焔帝仔:王道覇道、力無き道に何の価値も無い。
火竜の吼え声に砕けろ。
(焔帝仔が星図の輝く蛇鉾を向けると、麒麟王の立つ高楼の尖塔が木っ端微塵に砕け散る)
焔帝仔:見たか。これが力無き道の行く末だ。
(地上に降り注ぐ瓦礫で煙る塵埃に、ゆらりと人影が映る)
麒麟王:教えてやろう、焔帝仔。
お前に
焔帝仔:あの楼閣の頂点から落ちて無傷だと?
麒麟王:この麒麟王が龍と獣の王たる証を示そう。
竜よ、
(焔帝仔の騎乗してきた熔岩鰐が暴れ出し、岩漿を滴らす牙を剥く)
焔帝仔:
余がわからんのか!?
麒麟王:覚えておくがいい。
我が名は麒麟王。
(引き連れてきた邪魅爬に襲われ、大混乱に陥る火釜国軍を他所に、麒麟王は高笑いを残し、人混みの中に消えていく)
(路地裏の一角で、寄り掛かった壁面に血痕を曳いて麒麟王が頽れる)
朱紅楼:はー……はー……
(割れた麒麟王の仮面の下から、血の筋にふちどられた朱紅楼の顔が覗く)
戴黄麒:紅楼、大丈夫か――!
白狼琥:早く麒麟王の衣装を捨ててしまいなさい。
朱紅楼:うん……
戴黄麒:替えの
白狼琥:若、紅楼を私の背に。
(朱紅楼を背負い、戴黄麒と白狼琥は路地裏を後にする)
朱紅楼:はー……はー……
白狼琥:若、見事な作戦でした。
卓越した再生能力を持つ紅楼を影武者に仕立て、群衆に紛れ込んで『龍獣の王』の権能を使う。
龍と獣を操る不死身の麒麟王に、
戴黄麒:……次は俺がやる。
白狼琥:若はお体が頑丈なわけではございません。
先のような焔帝仔の咆哮が直撃すれば即死です。
朱紅楼:……おうき。
いいよ、紅楼、平気。
戴黄麒:だが――!
朱紅楼:もう、治ってきたの。
白狼琥、降ろして。
ね? 歩ける。
戴黄麒:いくらお前の再生力が並外れていても、〝痛い〟だろう……?
朱紅楼:うん。でも痛いけど幸せ。
おうきに求められてるから。
戴黄麒:…………
朱紅楼:それに感覚共有の前の、あれ。
……もっと、したい。
白狼琥:あれですか。
あれは良い……
姫殿下のくちびるの感触が思い出されます……
戴黄麒:まったくお前たちは……!
絶対に死ぬな。
どんな命令よりも最優先にしろ。
白狼琥:かしこまりました。
朱紅楼:うん、
□9/王都『炎』、火眼城謁見の間
焔帝仔:やっと帰ったか、木っ端役人め。
魏難訓:御勤めご苦労様でした。
焔帝仔:釈明、謝罪、陳情。
これで一国の王と言えるのか。
それとも王足りえぬ半人前の王、
魏難訓:どうぞご辛抱を。
大義のため、耐え難きを耐え、偲びがたきを偲ぶ。
焔帝仔:お前の花火玉のせいであろうが。
魏難訓:はて?
焔帝仔:麒麟王と話をつけろ。
逆賊王が面会を希望していると。
魏難訓:かしこまりました。ではそのように手筈を。
焔帝仔:天下り役人を麒麟王に始末されたことで、余が叱責を受けたのだぞ。
どうしてくれよう。
魏難訓:お怒りをお鎮め下さいませ。
お詫びの印に、天竺の珍味を献上致します故。
焔帝仔:日本製と書いてあるが?
魏難訓:調理済みの天竺料理を、人類統合体の保存技術で封入したものです。
焔帝仔:鉄の国の技術か。
要らん。鉄臭くて食えたものではなかろう。
魏難訓:まあそうおっしゃらず。
焔帝仔:……この匂いは。
芳醇で香しく、胃袋が熔岩を滴らす。
この絶景……!
白米の大地を侵蝕する灼熱地獄の様相。
魏難訓:どうぞご賞味下さい。
焔帝仔:舌が焼ける……!
魏難訓:辛いものはお嫌いでしたか?
焔帝仔:馬鹿者、大好物だ。
この天竺料理、名を何という。
魏難訓:カレーでございます。
焔帝仔:カレー! 舌先で名を転がすだけで広がる香ばしさ……!
魏難訓:宜しければカレーの保存袋を差し上げますが。
焔帝仔:言い値で買う。卸問屋と話をつけろ。
魏難訓:お買い上げありがとうございます。
蛙の子は蛙ですな。
先王焔帝も大の辛党でございました。
焔帝仔:……愚かな親父様だ。
□10/祝融山、秘湯の火眼温泉
焔帝仔:祝融山まで御足労いただき恐縮。
麒麟王:温泉に浸かりながらの出迎えとは、
焔帝仔:火釜国の風習でな。裸になって話し合おうという意思表示だ。
麒麟王:焔帝仔陛下の
焔帝仔:裸体も晒せず、何が
余に隠すべきところも、恥ずべきところもない。
麒麟王:ご高説、感極まる。
ぜひとも拝観の栄に浴したい。
焔帝仔:よかろう。
麒麟王:――――!!
焔帝仔:もういいか。湯冷めする。
麒麟王:…………
焔帝仔:次は尊公の番だ。
この火眼温泉は、先王焔帝が余の産湯代わりに創成された秘湯だ。
余の他に入浴を許したものは、指で数えるほどしかいない。
その仮面を外し、裸になって話し合おうではないか。
フフフ――
麒麟王:…………
□11/祝融山、山道の花崗岩付近
戴黄麒:〝逆賊王から麒麟王へ――祝融山の秘湯へご招待〟か。
あちこちの反皇国組織に、無差別に送付されてきたそうだな。
白狼琥:ふざけた果たし状です。
祝融山は
臆面もなく自分の
麒麟王を闇討ちにしようとする魂胆が見え透いている。
戴黄麒:闇討ちとは限らないぞ。
祝融山ともなれば、特派宦官もおいそれとは立ち入れない。
密談には格好の場所だ。
成果が上がれば功績にすれば良し。
失敗すれば、あの果たし状は誰かの悪戯で与り知らぬと言い張ればいい。
俺か焔帝仔、どちらかが明かさない限り、真相は湯煙と雪の中だ。
白狼琥:卑怯な奴だ。
戴黄麒:好都合じゃないか。
焔帝仔は
策士策に溺れるとは、このことだ。
白狼琥:若、温泉の様子は?
戴黄麒:ノイズが酷い。
高濃度の
――!!!
白狼琥:どうされました?
戴黄麒:焔帝仔が裸身を晒した……!
白狼琥:おお、変態だ……!
戴黄麒:しかし……完璧だ。
シミ一つ、シワ一つない。
白狼琥:一皮剥けば、疣だらけの爬虫類です。
戴黄麒:そうだ、まやかしだ。
だがそんなことは問題じゃない。
あれは威嚇なんだ。
完璧過ぎる容姿を見せられると、
完璧な
白狼琥:この白狼琥、若の卓越した洞察に敬服致しました。
そうです、
戴黄麒:……Dだった。
サイズ以上の美感があった。
さすがは
白狼琥:若……
焔帝仔の声:さて、尊公が裸になる番だ。
正体不明の反動分子『麒麟王』。
はたまた美男か美女か?
そうそう、影武者という線もあったな――
戴黄麒:――!?
白狼琥:……間欠泉!?
火眼温泉に
戴黄麒:……感覚共有を切られた。
紅楼……!
□12/火眼温泉
(水蒸気と爆煙で白く霞む温泉の水面に、割れた仮面が浮かんでいる)
戴黄麒:はー、はー……
(爆風が直撃した黄麒の顔は、見る間に火傷が癒え、少女のものに変わっていく)
朱紅楼:はー、はー……
焔帝仔:見上げた再生力だ。創成でもあるまいに。
朱紅楼:どうして、わかったの……
焔帝仔:龍獣の王『麒麟』だと?
そんなものが居るはずが無かろう。
龍と獣の間に、子は出来ん。
大方、
余の火眼は、見事真相を照らしたようだな。
(温泉から出た焔帝仔は、うずくまって息を荒げる紅楼の髪を掴み、無理矢理顔を上げさせる)
焔帝仔:竜のほうを呼べ。
朱紅楼:嫌……!
焔帝仔:余はお前たちを捕らえるつもりはない。
その逆だ。カネも武器もくれてやる。便宜も図ってやろう。
ただし世直しは、この火釜国ではなく、宗主国――龍仙皇国でやってもらう。
朱紅楼:どういうこと……?
焔帝仔:知りたければ片割れを呼べ。
傀儡のお前では話にならん。
朱紅楼:
焔帝仔:……?
朱紅楼:誰も信用出来ない……誰も愛せない……
行き場の無い愛を抱えた、孤独の匂い……
おうきと同じ匂い……
焔帝仔:
朱紅楼:〝愛するものを憎んだ〟傷痕が、朱い涙に濡れている……
お前が傷痕を見せれば、おうきもきっと見せる。
お前は綺麗。
人や獣では真似できない、竜の美しさ。
きっと、おうきは……
(朱く沸騰する嫉妬の顕れのように、朱紅楼の背に醜い腫瘍が膨れ上がっていく)
朱紅楼:会わせない……!
絶対に会わせない――!!
(血汁を飛ばして弾け飛んだ腫瘍より触手で繋がった獣面が産まれ、焔帝仔に襲い掛かる)
焔帝仔:こいつは――!?
(焔帝仔の吼え声が爆風となり、殺到する妖獣の頭を血霧に変える)
朱紅楼:ハー、ハー……!
焔帝仔:麒麟王め……!
こんな化け物を飼っていたとは……!
逃さん――!
(四つん這いで逃げ出していく朱紅楼に、焔帝仔の向けた蛇矛が業火を放つ)
朱紅楼:きゃああああ――!!
焔帝仔:余の炎は、地獄の炎。
地の果てまでも追い掛け、骨の髄まで焼き尽くす。
朱紅楼:ウ、ウウ……!
(業火に包まれた朱紅楼は、驚異の生命力で火達磨のまま、温泉の外に飛び出す)
焔帝仔:しぶとい奴だ。
まあいい。
この祝融山は余の
どこへ逃れようと手に取るように――
(予期せぬ事態に顔を強張らせた焔帝仔は、苦しげな呟きを漏らす)
焔帝仔:やはり私を恨んでおいでなのだな、親父様……
もうじきだ……
もうじき親父様にお詫びと復活の炎を捧げられる……
麒麟王――!
この身一つでもお前を炙り出すぞ――!
※クリックしていただけると励みになります
index