ゲネシスタ-隕星の創造者-
8話-白き凶獣と朱き狂獣-
★配役:♂2♀3=計5人
18歳。
黒髪黒瞳の
華僑である両親を早くに亡くし、少なからぬ遺産で悠々自適の生活を送りながら中央官僚を目指す書生。
――という肩書きで、龍仙皇国を流離う『始皇帝』の落胤。
父親は龍仙皇国の『始皇帝』こと『
母親は『
本来なら異系譜の降魔同士で受精は起こらず、稀に受精に至っても奇形や虚弱など遺伝子疾患を抱えているケースが多数を占める。
しかし戴黄麒は両親の
ダイノジュラグバとギオガイザーの二系譜を跨る
二系譜の
ただし、本物の
ダイノジュラグバとギオガイザーの混血から産まれた『麒麟』は、龍と獣の天敵であり、新種の
封星座珠:【瑞兆角】
戴黄麒と旅する
金剛石のように透明で煌びやかな美貌に輝く宝玉の美女。
鎖骨の窪みに金剛石の宝珠が埋まっており、
ダイノジュラグバ系譜の
ダイノジュラグバこと
龍の遺伝子を受け継ぐ仙人ではなく、龍の化身した
五千年前の『封龍の儀』より、
ある者は龍魄のまま彷徨い、ある者は眷属の降魔を乗っ取り、ある者は
何れの
凜嶺娥は、
封星座珠:【金剛龍玉髄】
唐紅の髪をした
闇商人魏難訓に『
記憶障害を負っており、過去の経歴を喪失している。
言動や振る舞いは、外見に比べてかなり幼い。
『
殴りつけると主人の気に召すままに姿を転じたとされ、皇族や官僚に珍重されたという。
現代の闇市場で『
長い若白髪で左目を隠す
白皙の貌には、
灰色狼の毛皮を羽織っており、毛皮の下には牙と爪の絡み合った異形の腕がある。
ギオガイザー系譜の
後に同系譜の
ギオガイザー系譜の降魔は、負傷すると細胞が万能細胞化する特性を持ち、生命力が著しく高い。
檮杌は万能細胞化による修復のみならず、以前より強靱な体組織を作り上げる性質を持つ。
その好戦的な気質から、命を落とす個体も多いが、歳月を経た檮杌は獰悪極まりない妖獣となる。
かつて
瀕死の重傷を負った妖獣『檮杌』の体は、原型を逸脱した新生組織として再生させた。
左眼は万物の奇穴を視る『
この血の蒸気は、ダイノジュラグバ系譜の
これらの三種は『檮杌』には本来あり得ない体組織であり、生物学上は
主君の仇である
朱い錆色のざんばら髪が振り乱れる
龍仙皇国で猛威を振るう任侠集団『
貌を含む全身を隈無く覆う墨紋は、地煞星の刻印を通り越して、墨刑を科された古代の罪人を思わせる。
朱いざんばら髪に隠れた後頭部に、醜い
ギオガイザー系譜の
全身を覆う墨紋の正体は、数多の獣の遺伝子が色素沈着の形で表出したジャンクDNA。
自らの肉体を苗床に、異種の獣を肉腫として作り出す『
しかし『肉腫』は本体にとっては癌細胞であり、免疫系の駆除力を凌駕する勢力を持てば、本体に襲い掛かってくる危険性を孕む。
その本質が万能細胞塊と遺伝子プールである『渾沌』に、『生物としての死』はほとんど存在しない。
少数のジャンクDNAから構成された『人格』の一つが死んでも、再生可能な程度の肉体が残っていれば、新たな『人格』が誕生する。
『肆兇』もまた『渾沌』の中に産まれては消えていった『人格』の一つである。
赤い武火の髪と、焦げ色の肌をした仙人の女。
『焔帝』の娘であり、龍仙皇国の藩属『火釜国』を治める代王。
宗主国の龍仙皇帝より、『焔帝』に代わり、国の統治を任されている。
ダイノジュラグバ系譜の
本来の姿は、獅子の如き鬣を逆立てた、熔岩の血を煮やす二足歩行の竜である。
封星座珠:【業炎鬣】
※以下は被り推奨です
道人男・妖獣雄♂
道人女・妖獣雌♀
□1に登場。肆兇・白狼琥と会話有り。
入国監査官両
□2に登場。戴黄麒・凜嶺娥と会話有り。
※ルビを振ってある漢字はルビを、振ってない漢字はそのまま呼んでください。
ゲネシスタwiki 劇中の参考になれば幸いです。
□1/夜更けの火釜国、辺境の村
(闇夜の村の広場で、
肆兇:
道人女:助けて――! 助けて――!
どうしてこんな人里離れた村に妖獣の群れが……!
道人男:ちくしょう――!
これが妖獣の神隠しだってのか……!
肆兇:
道人男:
お前がこの妖獣どもを
肆兇:
道人男:死ねえ、獣の血の混ざった、この
ぐっ――……
(肆兇の背後から飛び出した妖獣の貌に、頭部ごと食いちぎられ、男の首無し死体が倒れ伏す)
道人女:ひ、ひいぃ――……!
(空中で男の首を咀嚼するのは、肆兇の背に走った傷跡から生まれ出た、へその緒で繋がれた妖獣の貌だった)
首無しの道人男:グ、ググ……
(首無し男は腹這いの姿勢から四つ足で起ち上がり、首の断面から獣の貌が生え出してくる)
妖獣雄:グ、ググ……
アアア……
アオオオオ……!
道人女:道人が、妖獣に……!
きゃあっ――!
(頭上に踊る妖獣の口腔から、酸性の唾液を掛けられた女は、人の形を失って崩れていく)
道人女:なに、これ……!
融けていく……!
私ノ、身体……
アアア……
(皮膚が融け落ち、粘体の肉と化した女の顔は、獣毛に覆われた獣の貌となり、四つん這いになって咆哮する)
妖獣雌:アアアア……!!
ウオオオオオ……!!
肆兇:
白狼琥:
一夜にして村人全員が忽然と姿を消す。
後に残っているのは、無数の獣の足跡。
いつしか
だがその神隠しの妖獣が、たった一匹だとは誰も思うまい。
(一つの短躯に数十匹の獣を宿す、
肆兇:
白狼琥:妖獣『
万の獣を身に宿す、千貌の
ただ一匹でありながら、万の爪と牙を持つ、恐るべき異形の妖獣。
肆兇:
妖獣雄:アオ――!!
妖獣雌:ウオ――!!
白狼琥:邪魔だ、
(白狼琥の肩に纏った毛皮が捲れ、牙と爪が絡み合った異形の左腕が顕わになる)
(左の骨腕が樹枝状に生え伸び、疾走する二匹の妖獣を串刺しにする)
妖獣雄:ギャ……!!
妖獣雌:ウオォォン……!!
白狼琥:……
私を覚えているか?
肆兇:…………
白狼琥:……戴黄麒様は?
肆兇:
白狼琥:……渾沌に記憶を求めるなど詮無きことだったか。
(夜風に長い白髪が流れ、白狼琥の左の魔眼が覗く)
(憎悪の唸りを響かせて疾走してくる肆兇を、白狼琥の左腕が牙と爪の樹枝骨となって串刺しにする)
肆兇:
(串刺し刑になった肆兇の背中に瘤のような肉腫が膨れ上がる)
(肉腫を突き破って生まれた妖獣の顔が、骨の樹枝の隙間から襲い掛かってくる)
白狼琥:不死身の妖獣『渾沌』――
だがその綻びを突けば――
渾沌は形を失い、太極の肉塊に戻る。
肆兇:
(鋳型を外されたように粘体状に崩れ落ちる躯を、肆兇は不思議そうに見下ろしながら融けていく)
白狼琥:
私の左眼をもってしても、仮の死を視ることしか出来なかった。
……私の手に、再び渾沌が転がり込んだのか。
クックックック……
(遙か遠方より、闇夜を焦がす火柱が噴き上がる)
白狼琥:火柱――!
あの山の中腹に陣取った遊撃隊は――!
(白狼琥の魔眼は、山の中腹に布陣した精鋭部隊と、武火の髪を逆立てた女王を視認する)
焔帝仔:暗闇を這い回る人攫いども。
ようやく尻尾を掴んだぞ。
白狼琥:焔帝仔……!
焔帝仔:お前たちの狼藉も今夜が最後だ。
一匹残らず焼き尽くし、肥やしと一緒に畑にぶち撒いてやる。
(焔帝仔の首に巻かれた毛皮が鬣のように逆立ち、星図を映す投影幕となって輝き出す)
(焔帝仔が蛇矛を振り上げて突き立てると、大地を噴き上げて、紅蓮の猛炎が走り抜けていく)
白狼琥:ぐ――!
生き残りの村人も構わず、妖獣ごと焼き払うつもりか――!
(大地を断ち割って趨る猛火は、村に到達するや、炎の竜蛇となって妖獣たちを焼き尽くす)
焔帝仔:露払いは済んだ。
全軍突撃――!
害獣どもを焼却炉に叩き込むぞ――!
(鬨の声を挙げ、熔岩鰐に跨った焔帝仔に率いられた精鋭たちが突撃してくる)
白狼琥:……
上等だ、小便臭い
俺様かテメエらか、最後の一人がくたばるまで戦おうじゃねえか。
(白狼琥が前傾姿勢になると、全身が筋肉と白い獣毛で膨れ上がっていく)
(異様に太く隆起した左肢が地を踏み締め、潰れた眼窩の上に盛り上がった異形の左眼が爛々と輝く)
(幾多の妖獣の爪と牙が無数に組み合わさった尻尾を振るい、白き凶獣は竜の女王を睨み据える)
焔帝仔:ほう、あの時の
貴様が人攫いどもの頭目か。
檮杌:クハハハハ。
久々だなァ、
親殺しの逆賊王、焔帝仔様?
焔帝仔:
何時まで死んだ神に縋りついて、くだらん
檮杌:ほざきやがれ、俺様に殺され掛かったヘボ竜が。
俺様はアグニを、ブラフマーを、この龍仙皇国に蔓延る総ての龍を、一匹残らず喰い殺す。
焔帝仔:三年前に『
余の怒りに触れ、消し炭となって便所に流されたはずだが。
檮杌:そうとも……『麒麟皇』は死んだ。
蜥蜴の血が混ざった冷血野郎なんざ、獣の王じゃねえ。
肆兇の声:
(粘体状の細胞塊の表面に、無数の緋色の裂け目が生まれ、妖獣の貌が生まれ出てくる)
焔帝仔:妖獣の貌の群れ……
いや、
肆兇の声:
(細胞塊から夥しい数の触貌が飛び出し、妖獣の巣となって数百の獣が襲い掛かる)
焔帝仔:此奴はまさか……
檮杌:そうとも……!
『渾沌』だ――!
(檮杌の尾が砲弾の勢いで伸び、妖獣触貌の荒れ狂う妖獣の巣から肉塊をえぐり取る)
(月夜に翳された牙爪骨尾の指先で、朱いざんばら髪が広がり、錆びた唸りが響き渡る)
肆兇:
焔帝仔:…………!
檮杌:新しい王都の住み心地はどうだ、焔帝仔?
また潰してやるぜェ……
三年前と同じように……
『渾沌』の力でなァ――!!
焔帝仔:余の国を
それが『渾沌』であろうともな――!
檮杌:お前如きに渾沌が殺せるかよ。
焔帝仔:吼えたな、
焔帝仔の気炎に焼かれてみよ――!
檮杌:ククク……!
残念だがテメエの狼煙は、ボヤ騒ぎでズッコケだぜェ……!
焔帝仔:――!?
檮杌:檮杌は死ぬまで戦うだと――?
黴臭え巻物を、ハナから信じ込みやがって――!
焔帝仔:…………!?
狂犬から負け犬に堕したか。
檮杌:覚えておけ、
我らは『
龍を殺戮し、人を根絶やし、大地に獣の
必ずお前の竜顔を引き裂いてやる。
ハハハハ――!!!
(大地を断ち割る猛火の龍脈が立ち上がり、数十条の炎竜蛇となって襲い掛かっていく)
(夜空を焦がす炎竜蛇の急襲を避けながら、白き凶獣は闇夜に消えていく)
肆兇:
(火釜国の山奥に、狂える獣の雄叫びが、激しい憎悪と、微かな哀愁を含んで、遠く長く響き渡った)
□2/火釜国、入国関門
入国監査官:火釜国へようこそ。
入国手形をご呈示願えますか?
戴黄麒:ああ失礼。
何処かで紛失してしまいまして。
通していただけませんか。
入国監査官:それは出来かねます。
他に身分証は――
戴黄麒:通していただけませんか。
(戴黄麒の額に星図が浮かび上がり、入国監査官の瞳に転写される)
入国監査官:……かしこまりました。
どうぞお通りください、王よ。
凜嶺娥:小癪な手を使うものだな。
戴黄麒:龍獣の王の権能だ。
お前の身元保証もしてやろう。
凜嶺娥:要らん。
入国監査官:お連れの方――
入国手形はお持ちでしょうか?
凜嶺娥:凜嶺娥だ。焔帝を訪ねてきた。
入国監査官:は、はあ……?
凜嶺娥:城へ遣いを出せ。
(上司に相談しようと詰め所に戻った監査官は、しばらく後、慌てて駆け戻ってくる)
入国監査官:し、失礼いたしました。
どうぞお通りください、凜嶺娥様。
戴黄麒:……顔パスだと。
凜嶺娥:わしには紙切れの保証など要らん。
金剛石の美貌は、唯一無二だ。
戴黄麒:いいご身分だな。
その金剛石の美貌とやらで、何処へ行っても悪目立ちしてることに気づかないのか。
凜嶺娥:往くぞ、密入国者。
愚図ついていると捕まるぞ。
戴黄麒:くそっ……!
とんだ『
□3/火釜国新王都『烟』、宿場の一部屋
凜嶺娥:
新王都『
三年前に旧王都『
戴黄麒:祝融山――大陸最大の活火山にして、
凜嶺娥:焔帝仔か。
戴黄麒:
ところが五百年前、直系の
奴は覇皇より『代理の王』の位を授かり、『焔帝の子』を名乗って火釜国に君臨している。
凜嶺娥:義憤か? お前にそんな徳があったとは。
戴黄麒:お前はどう思うんだ、
凜嶺娥:別に何も。
戴黄麒:
ならば国が焦土と化す前に親を売った、焔帝仔の判断は合理的だったと?
凜嶺娥:親を売って、覇皇に屈した。
それがお前の癇に障ったか。
戴黄麒:一般論だ。
火釜国は元より、龍仙皇国でも評判だろう。
親殺しの逆賊王、焔帝仔と。
凜嶺娥:真実を隠すには、道理を詰めよ。
兄弟姉妹の誰の言葉だったか。
戴黄麒:――どういう意味だ。
凜嶺娥:問えば答えが返ってくると思うな。
この世は理では動かん。
(部屋の戸を叩く音がし、男の声が聞こえてくる)
白狼琥の声:若、白狼琥にございます。
戴黄麒:ハクか。
白狼琥の声:……若、傍らの
戴黄麒:ちょうどいい。入ってこい。
(扉を開けて入ってきたのは、白皙の貌に墨紋が刻まれた
凜嶺娥:
戴黄麒:白狼琥という。俺の目付役のような奴だ。
白狼琥:私は白狼琥。
獣帝を祖とし、九尾の
今は龍獣の王を主君と仰ぐ、
戴黄麒:ギオガイザー系譜の
古文書によれば、退くことを知らずに戦う凶獣と伝えられている。
白狼琥:同族の悪名には
私のように孔子の教えに触れれば、仁徳も身に付くのでしょうが。
戴黄麒:どうだかな。
凜嶺娥:凜嶺娥。
戴黄麒:またの名を
白狼琥:
では若の
戴黄麒:ああ、見ての通りだ。
白狼琥:流石は若でございます――!
凜嶺娥:誰が従者だ。お前の目は節穴か。
白狼琥:生憎と眼には自信がございます。
凜嶺娥:畜生には宝石と石塊の区別もつかんか。
白狼琥:宝石……光るだけで何の価値もない砂利のことですね。
龍にはよく似合いの象徴だ。
凜嶺娥:お前には真珠も過ぎたるものだ。
金剛石の価値を知って恥を知れ、豚。
白狼琥:おい図に乗るなよ、小便臭い
凜嶺娥:それがお前の本性か、畜生。
戴黄麒:従者同士で争いは止めろ。
白狼琥:はっ――……!
お許し下さい、若。
つい昔の悪癖が……
凜嶺娥:おい主人。下剋上を起こしてやろうか。
戴黄麒:借り受けとはいえ、お前の所有者は俺だ。
金剛石なら、大人しく俺の胸元で輝いておけ。
凜嶺娥:ふん。
白狼琥:おお、若――!
若の弁舌の前では、
戴黄麒:覇者は力を、王者は言葉を武器とする。
龍獣の王は、王道をもって臣を御する。
白狼琥:若……ご立派になられましたな……!
この白狼琥、ようやく亡き九尾の妃殿下に顔向けが出来るというもの……!
凜嶺娥:くだらん。
戴黄麒:何処へ征く。
凜嶺娥:昔馴染への顔見せだ。
戴黄麒:焔帝か。それとも焔帝仔か。
凜嶺娥:両方だ。
戴黄麒:晩飯までには戻って来いよ。
凜嶺娥:
戴黄麒:ああ。腕によりを掛けて、ハクが
(鼻を鳴らすように一笑して、凜嶺娥は部屋から出て行く)
白狼琥:若……
戴黄麒:言いたいことはわかっている。
調伏というのは言い過ぎだ。
単なる旅の道連れ、同行人といったところだな。
白狼琥:では、
戴黄麒:個人的な理由でもなければ無理だろうな。
先頃あいつは
白狼琥:龍をもって龍を制す……
思惑通り、上手く事は運ぶのでしょうか。
戴黄麒:まだわからん。
だが
お前が龍を嫌いなのはわかるが、それまでは協力してもらうぞ。
白狼琥:……心得ております。
若。
仮に
戴黄麒:わかっている。
出来るか――?
白狼琥:はい。
戴黄麒:頼もしいな。
白狼琥:覇皇の残した爪痕が、この左眼と左腕をくれました。
この魔眼と魔爪があれば……
□4/祝融山、山道入り口
(祝融山の入り口で、山岳守備隊と押し問答になっている凜嶺娥)
凜嶺娥:もう一度言う。
祝融山に通せ。
わしの名を伝えれば、アグニは入山の許可を出す。
(頑なに入山禁止を解く守備隊に、凜嶺娥は不意に思い出したように尋ねる)
凜嶺娥:風の噂で聞いた。
アグニは焔帝仔に幽閉されていると。
それは誠か。
焔帝仔:親父様は眠りに就かれている。
余がお休み遊ばすよう、固く申し上げた。
(熔岩鰐に跨った焔帝仔が烈火の視線で、金剛石の女を見下ろして告げる)
凜嶺娥:
焔帝仔:息災でしたか、金剛の
立ち話も何だ。余の城にお連れしよう。
□5/新王都『烟』、王城の代王私室
焔帝仔:
凜嶺娥:白檀。
焔帝仔:そうか。余は竜涎香を好む。
(焔帝仔は不敵に笑い、竜涎香に火種を落とすと、麝香に似た濃密な香気を吸い込む)
凜嶺娥:人を食った奴だな。
焔帝仔:
人など喰わん。喰っても不味い。
凜嶺娥:アグ二はどうした。
焔帝仔:巷間の噂で存じ上げているだろう?
先王焔帝には、御退位いただいた。
凜嶺娥:お前に野心の炎が燃え盛っていたとはな、シャオアグニ。
焔帝仔:野心か。俗物どもには言わせておけ。
皇国は灰燼の降り積もる焦土と化し、火釜国には蹂躙の爪痕が永久に刻まれる。
凜嶺娥:それがお前を反逆へ駆り立てたのか。
焔帝仔:火釜国は
だが既に
神の創った大地は、やがて王に委ねられ、民の住まう国土となる。
凜嶺娥:
焔帝仔:忘れてもらっては困る。
此処は貴女の
この地では王こそ神だ。
分をわきまえぬ
凜嶺娥:そうか。では早々に出て行こう。
焔帝仔:先王の妹君を無下にはせん。
祝融山の
天魔の
凜嶺娥:お前こそ『末法獣』とやらに手を焼いておろう。
焔帝仔:人畜生どもの線香花火だ。
たらいの水を被せてやれば、すぐに消え去る。
凜嶺娥:だといいがな。
『渾沌』ではないのか。
焔帝仔:
渾沌は三年前に、余が消し墨一つ残さず焼き滅ぼした。
凜嶺娥:旧王都を
焔帝仔:何、
凜嶺娥:滅びたと思うか。
焔帝仔:遺灰も残っておらん。
凜嶺娥:妖獣の
『渾沌』はお前の
あれの本質は、目に見える個体ではない。
封じ込めにしくじれば、三年前と同じ災禍を招くぞ。
焔帝仔:飛べなくなった龍は、想像の翼を羽ばたかせて
『渾沌』は死んだ。
余の王国に『渾沌』などいない。
凜嶺娥:助力が必要なら言え。
同じ龍の
焔帝仔:貴女に助けられることは無い。
さて、面会は終わりだ。
余は執務に戻らねばならん。
ごゆるりと休んでゆかれよ。
新王都の温泉は、火釜国随一だ。
宗主国にとて、これほどの薬湯はあるまいよ。
□6/祝融温泉、露天風呂
戴黄麒:ふぅ――
白狼琥:長旅でお疲れでしょう。
この祝融温泉には、疲労回復、慢性疾患、美肌効果……
あちらの岩盤浴では、末期癌の病人も完治すると、半年先まで予約が一杯です。
戴黄麒:誇大広告じゃないのか。
もしくはその奇跡の霊験は、
白狼琥:あの岩盤の発する気は、龍の
純粋に生命を活性させる、火山の気を発しているようです。
戴黄麒:放射線か、それとも未知のエネルギー線か。
流石は
白狼琥:龍は憎むべき宿敵ですが、温泉だけは功績を認めなければなりません。
戴黄麒:
白狼琥:
以前は
戴黄麒:龍仙皇国の属国になって、風呂のルールも皇国式に改めたということだな。
ところで、一見
白狼琥:私に物申す変わり者は、そうは居ないでしょう。
この異形の左半身を前にすれば――
戴黄麒:お前と居ると静かで良い。
誰も近寄ってこないから、密談もやりやすい。
『末法獣』とやらは、どうなっている?
白狼琥:三ヶ月前の出現時から瞬く間に数を増やし、
現在は総数三百、妖獣千匹を従える一大集団になっています。
戴黄麒:
人攫いは何のためにやっている?
白狼琥:わかりません。
恐らくは
戴黄麒:だったら男は要らないだろう。
それとも妖獣の生き餌か?
何れにせよ、完全にテロリストだな。
大衆の支持を広く得ることはあるまい。
いつでも切れる準備をしておけ。
白狼琥:畏まりました。
戴黄麒:肆兇の素性は?
白狼琥:不明です。ただ
戴黄麒:ギオガイザー系譜か。恐るるに足らんな。
利用するだけ利用して、使い捨ててやる。
白狼琥:…………
戴黄麒:その左の躯――
医者に切除してもらえば、元の体に戻るんだろう?
白狼琥:お目障りでしたら、申し訳ございません。
戴黄麒:いや。
……母上か。
白狼琥:これは
そして
戴黄麒:わかっている。
俺が何を言おうと、それを治すつもりはないんだろう。
お前が忠誠を誓っているのは、俺ではなく母上だからな。
白狼琥:…………
戴黄麒:騒がしいな。
白狼琥:湯煙に女の影が映っています。
あれは――
戴黄麒:男湯と女湯の入れ替え時間にはまだしばらくあるだろう。
厚かましい奴め。どうせ年増女だろう?
白狼琥:まさにご推察の通り、大年増ですが……
戴黄麒:俺は意地でも上がらんぞ。
ババアのたるんだ裸を見物してやる。
凜嶺娥:ん? お前たちもここにいたのか。
戴黄麒:ななな、何故お前が裸でここにいる!?
凜嶺娥:服を着たまま湯に浸かる阿呆がどこにいる。
白狼琥:阿呆は貴様だ。男湯を全裸で歩き回るなど狂女の振る舞いだ。
凜嶺娥:鑑賞だけなら目零ししてやる。
金剛石の美貌を、姿見だけに独占させておくには偲びない。
白狼琥:見たくもない貴様の裸を見せられて不快だと言ってるのだ。
凜嶺娥:嫌なら見るな。
白狼琥:見せつけておいて抜かすな、露出狂が。
凜嶺娥:おい。
戴黄麒:――!?
凜嶺娥:わしの裸は美しいだろう?
白狼琥:若、女色に惑っては
母君が誘惑しながら、内心で最も軽蔑していた人種ですぞ――!
戴黄麒:いい加減にしろ二人とも――!
上がるぞ!
犬猿の仲というが、龍獣の仲に比べれば、犬も猿も
□7/夢の中、移り変わる記憶
(闇市の裏街道で、鉄檻の前で座り込む幼女を見下ろす戴黄麒と白狼琥)
戴黄麒:これが
朱紅楼:アー、アー……
白狼琥:はい。
戴黄麒:馬鹿馬鹿しい。知能が低く、大人しいだけの
まともに言葉も喋れない。虐待のせいかもしれないがな。
朱紅楼:アー、アー……
白狼琥:歯は全て折られ、足にはきつく
どんな扱いを受けていたのか……
戴黄麒:こんな子供を売り物にする闇商人も、喜んで買う役人にも反吐が出る。
朱紅楼:アウー、アウー……!
白狼琥:若様に恩義を感じているようです。
戴黄麒:知恵遅れのガキに懐かれても迷惑だ。
農村の下働きにでも出しておけ。
(寝台の上で目を覚ました戴黄麒の寝惚け眼に、一回り成長した、赤毛の少女の貌がぼんやり映る)
朱紅楼:おうき、おうき。
戴黄麒:昨日の
あの
朱紅楼:足――!
戴黄麒:……!
あれだけ変形していた足が、正常になっている……
お前、下半身丸出しじゃないか――!
下着ぐらい穿け――!
白狼琥:若様、おはようございます。
……若様!?
若様が 思春期の男子であることは承知しておりましたが……
まさか
この白狼琥、亡き母君になんと申し開きすれば……
戴黄麒:おい勝手な勘違いをするな!
見ろ――!
白狼琥:
歯も綺麗に生え揃って……
それに……
朱紅楼:おうき、なまえ。
白狼琥:喋っている……
朱紅楼:なまえ! なまえ!
白狼琥:伝え聞くところによれば、
戴黄麒:冗談じゃない。
朱紅楼:なまえ! なまえ!
戴黄麒:うるさい黙れ。騒がしいガキは嫌いだ。
朱紅楼:う、ううう……
戴黄麒:ハク、こいつをさっさと追い出せ。
白狼琥:しかし若様、世にも珍しい
戴黄麒:俺が要らないと言ったら要らないんだ。
朱紅楼:おうき。
うるさいの、嫌い……
子供、嫌い……
わかった――
(食卓に料理の皿を並べ、さらに成長した少女が割烹着姿で一礼する)
朱紅楼:おはようございます、戴黄麒様、白狼琥様。
お食事の準備が出来ております。
戴黄麒:……
白狼琥:……
朱紅楼:粗食ではございますが、どうぞお召し上がりくださいませ。
戴黄麒:こいつは……本物なのか?
白狼琥:そうとしか言いようがありません……
戴黄麒:
一体この
白狼琥:若は犬と猫、どちらがお好きですか?
戴黄麒:犬だ。
白狼琥:差し支えなければ、理由は?
戴黄麒:忠実だからな。
白狼琥:犬や猫は 何故これほど人間に愛されているのでしょう?
戴黄麒:人間の役に立つ益獣だからだろう。
犬は狩猟の
白狼琥:最初はそうだったでしょう。
しかし狩りの役にも立たず、番犬にもならない、愛玩用の犬も多い。
最近の猫など、ネズミも捕らず、寝てばかりです。
戴黄麒:……
しかし、一晩で外見どころか精神まで変容する生態は、どう説明する――?
白狼琥 :それは……
朱紅楼:黄麒様。
私をお気に召したなら、どうぞ名前をくださいませ。
お気に召さなければ、お気に召すまで……
私はあなたの望むままに変じます。
戴黄麒:…………
白狼琥:若、折角です。この者を飼ってみては?
戴黄麒:飼ってどうする? 抱くのか?
朱紅楼:黄麒様がお望みでしたら。
戴黄麒:…………
朱紅楼:覚えて居るんです……
どうすればいいのか……
私には記憶が無くても……
顔の
戴黄麒:朱紅楼――
『
お前の髪の毛は、いつでも朱い。
朱紅楼:朱紅楼……
ありがとうございます、黄麒様――!
どのようなことでも、何なりとお申し付けください。
戴黄麒:お前は俺の愛玩用の
朱紅楼:はい。
私は黄麒様の下僕です。
総て黄麒様の望む通りに。
戴黄麒:なら命じよう。
うるさいガキは嫌いだが、媚びた女も嫌いだ。
馬鹿な女も、卑屈な女も、図々しい女も嫌いだ。
朱紅楼:では……黄麒様の理想の女性は?
戴黄麒:知るか。
朱紅楼:……え?
戴黄麒:お前が俺の理想の女になれ。
始皇帝も寵愛したという、
朱紅楼:はい、黄麒様。
朱紅楼……
黄麒様よりいただいた名前……
決して忘れません――
(張り詰めた表情で白狼琥が戴黄麒に告げる)
白狼琥:若、紅楼の……
戴黄麒:……妖獣『
白狼琥:これは千載一遇の好機です――!
『渾沌』を使えば、火釜国を……いえ、龍仙皇国全土を動乱に叩き落とすことが出来ます――!
戴黄麒:龍仙皇国……覇皇の君臨する
白狼琥:『渾沌』を使えば……
若と……私の仇……
戴黄麒:
□8/新王都『烟』、温泉宿の一室
戴黄麒:……湯あたりでもしたか。
嫌な夢を見てしまった。
……あれから三年か。
皇国は何も変わっていない……
俺も……余計に年を食って、挫折を味わっただけだ……
(部屋の外で暴れる物音や、獣の唸り声が聞こえてくる)
戴黄麒:獣の唸り声……?
妖獣でも連れ込んだ客がいるのか――?
――!?
(戴黄麒の部屋の戸を破り、棍棒片手に飛び込んでくる大猿の化け物)
戴黄麒:大猿の
龍獣の王が
獣よ、死ね――!
(戴黄麒の命令で、棍棒で自らの頭を殴りつけ、脳漿を散らして絶命する
(戴黄麒は荷物を手に取り、廊下に飛び出る。それを出迎えるように部屋のあちこちから妖獣が姿を現わす)
戴黄麒:温泉宿が妖獣の巣になっている……!
俺を襲撃しにきたか――!
(我先に廊下を駆けて襲い来る妖獣たちを前に、黄麒の額に星図が輝き出す)
戴黄麒:まとめて始末してやる、
麒麟の名に於いて、
(疾走する妖獣たちの全身から、生命の気が抜け落ちるように、
(先頭を走り、戴黄麒の足下に滑り込んできた妖獣は、乾涸らびた亡骸となっていた)
戴黄麒:この妖獣どもは何処からやってきた……?
王都の外――?
だとしたら、大騒ぎになっているはずだ。
召喚――?
ありえない。
火釜国は全域が
ギオガイザー系譜の
それよりも――
すぐ近くに
肆兇の声:
戴黄麒:天井か――!
(天井に張りついていた肆兇の背から生まれ、襲い掛かってくる妖獣の貌の群れ)
戴黄麒:
我が
肆兇:
(妖獣の貌の群れを鬣で貫かれながら、天井から着地した肆兇が戴黄麒に疾走していく)
戴黄麒:お前が
馬鹿め、麒麟の角に貫かれて死ね――!
肆兇:
(額から伸びた麒麟の角に貫かれた肆兇は、短躯を震わせ、やがて粘体質の細胞塊となって崩れ落ちる)
戴黄麒:これは……万能細胞の塊……!
ギオガイザー系譜の降魔は、外的刺激を与えられると、細胞が万能細胞化する性質を持つ。
その程度は種族により様々だが、これが妖獣のしぶとさに繋がっている……
しかし、万能細胞そのものに戻る妖獣は――……!
(戴黄麒は息を呑み、蠢く万能細胞の塊を見据える)
戴黄麒:渾沌……!
肆兇の声:
(万能細胞が胎児のように人型になり、錆色の髪が広がって狂獣の女を象っていく)
戴黄麒:紅楼なのか……?
(戴黄麒の呼び掛けで万能細胞塊の蠢動が止まる)
(錆色の髪は鮮やかな唐紅に染まり、濁った狂獣の眼は、哀しみを湛えた少女の眼に変わっていく)
朱紅楼:黄麒……
名前、くれた……
この貌、この躯、くれた……
戴黄麒:……黙れ。
朱紅楼:だいすき……だった……
戴黄麒:獣よ、黙れ――!
朱紅楼:
だから、憎い……
殺してやる……!
紅楼、殺したように……!
(唐紅の髪が情念の炎のように燃え上がり、戴黄麒に妖獣の群れが殺到する)
□9/夜闇に噴煙を燻らす祝融山、麓の山道入り口
凜嶺娥:祝融山が夜闇に噴煙を
眠っているのか。眠らされているのか。
アグニよ……
白狼琥:龍でも肉親の幽閉には、
凜嶺娥:お前はわしを嫌っているようだな。
白狼琥:あなただけではありません。
龍という種族そのものを忌み嫌っているのです。
凜嶺娥:何故だ。
白狼琥:これはどういう風の吹き回しか。
誇り高き龍が畜生風情に問いを投げるとは。
凜嶺娥:この火釜国の地は、
カラクリを回す地熱も、金銀鉄の鉱脈も、病を治す薬湯も龍の産物だ。
白狼琥:その目線と物言いだ。
お前たちはまるで神の如く、人と獣を見下ろし、尊大に振る舞う。
凜嶺娥:事実だ。
白狼琥:ああ、その通りだ。
けれど
やがてそれは恐怖と憎悪となり、龍殺しの武器を取らせる。
凜嶺娥:龍殺しの英雄の殆どは、龍の血を引く
龍を殺した龍を英雄に祭り上げ、崇め讃える。
くだらん。
白狼琥:それでも
神と王は、天と地ほども違う。
凜嶺娥:予言しておこう。
次にお前たちは王を引き摺り下ろす。
白狼琥:だからどうした。
凜嶺娥:お前たちは何一つ変わらん。
白狼琥:ちっぽけで無力な存在だと?
凜嶺娥:わしの口から言って欲しいのか。
この
白狼琥:言い放ちやがったな――!
たまたま運良く龍に化けただけの蜥蜴どもが……!
地上で必死にあがく人を獣を、雲の上から嗤ってやがる……!
気まぐれに神様気取って仁徳押しつけ、俺の姫様を
(白狼琥の怒気が膨れ上がり、異形の白き凶獣に姿を変じていく)
檮杌:俺はテメエら龍の、神様気取りの
(檮杌の牙尾が樹枝上に爆裂し殺到するのを、凜嶺娥は無造作に払う)
凜嶺娥:わしを闇討ちにするつもりだったか。
麒麟の逆鱗に触れるぞ。
檮杌:あいつは龍の子だ……!
獣の血が流れていようと……姫様の面影を残していようと……
冷血で尊大な……お前ら
凜嶺娥:面白い。だがお前はつまらん。
お前如きの牙と爪では、金剛石には傷一つ付かん。
檮杌:クハハハハ――! その
龍が等しく生まれ持つ
その
(凜嶺娥の衣服の上で弾かれ、折れ、砕け散る骨槍爪の一本が、金剛石の体に深々と潜り込む)
凜嶺娥:……!?
檮杌:俺様の真骨頂は、尾でも毛皮でもねぇ……!
万物の破裂点、
凜嶺娥:わしの……奇穴を貫いたというのか……
檮杌:形有るもの、形無きもの、
俺様は目に見えるもの総てを貫き砕く――!
金剛石も奇穴を突けば砂糖菓子よ――!
焔帝仔の声:それはいいことを聞いた。
お前には何も見せなければいいのだな。
(地表から噴き出した液体燃料が急速に気化し、周囲に充満していく)
檮杌:地底から噴き出すこの蒸気……!
まさか……あの三年前の……!
(猛毒のエーテル臭に満ちた空間に着火の声が告げられる)
焔帝仔:
(周囲一帯に充満した気体燃料を巻き込んだ大火柱が噴き上がる)
檮杌:グオオオオ――!!!
(爆風で粉々になった詰め所の残骸や土砂に混ざって、血塗れの檮杌が襤褸屑のように舞い飛び、擂り鉢状に抉れた爆心地に墜落する)
焔帝仔:ふん。線香花火だな。
まあいい。駄犬の口に詰める爆竹にはこれでよかろう。
檮杌:グウ、アアア……
焔帝仔:また会ったな、凶獣。
檮杌:オオオオオ――!!!
(折れた四肢を引きずって飛び掛かる檮杌に、焔帝仔は蛇矛を向ける)
焔帝仔:
(蛇矛の先端で踊った星図が、爆風と砕石の咆哮を上げる)
檮杌:ギャアアアア――!!!
(爆風が直撃し、砕片を浴びて血みどろになった檮杌は、尚も起ち上がり闘志を燃やす)
檮杌:オオ、オオオ…………!!
焔帝仔:老獪な悪知恵を身につけても、やはり檮杌だな。
死ぬまで戦う習癖は、年老いても直らん。
だがお前を死なせるわけにはいかん。
『末法獣』に『肆兇』に……
余の国を荒らす害獣どもの巣穴を、洗い浚い喋ってもらうぞ。
硫黄の煙を吸わせろ――!
もたもたするな――!
檮杌はすぐに耐性をつけるぞ――!
檮杌:ウ、オオオ……
焔帝仔:地獄の業火で炙ってやる。
楽しみにしておけ。
捕らえろ。
(焔帝仔の言下、檮杌が網に捕えられ、王城に引きずられていく)
(白き凶獣が去ったことを見届けた焔帝仔は、罅割れた体を横たえた凜嶺娥に近寄っていく)
焔帝仔:やられたな、金剛の
とどめを刺したのは、余の創成であったか。
凜嶺娥:シャオアグニ……
何故お前は
焔帝仔:繰り言を申される。
神の時代は終わった。
王が幕引きをする。
凜嶺娥:神と王ではない……
親と子だ……
焔帝仔:…………
凜嶺娥:お前はアグニを慕っていた……
焔帝仔:信念は情に勝る。
そう申し上げておこう。
凜嶺娥:シャオアグニ……
お前は時折苦しそうに笑う……
焔帝仔:…………
凜嶺娥:この
いや……お前の身を焼く、因業の炎は……
焔帝仔:
凜嶺娥:お前はアグニに反逆などしていない……
お前は
そうであろう、シャオ……
焔帝仔:…………!
凜嶺娥:何があった……
焔帝仔:…………
(焔帝仔が胸のつかえを吐き出すように呼びかけた途端、凜嶺娥の躯が砕け、金剛石から黒ずんだ炭に変わっていく)
(焔帝仔は蛇矛を向け、神龍の仮初めに火を灯し、荼毘に付す)
焔帝仔:…………
仮初めの躯が朽ちたか。
危うく口を割るところであった。
この悲憤は、余の
金剛の
余は
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