ゲネシスタ-隕星の創造者-
3話-夢幻氷蝕-
★配役:♂2♀3両3=計8人
20歳。デルモネリゾン系譜の
人工皮膚の化粧外装を施した
喫煙者だが
口癖は「めんどくせー」で、何事にもやる気がないが、昔は明るく積極的な性格だった。
量産型ではなく、特注の調整をされたカスタマイズ
封星座珠(
16歳。デルモネリゾン系譜の
特製の放熱索が銀髪を思わせる姿から『リトルシルバー』とあだ名されている。
人類統合体の広告塔であるアイドルグループ『ベイヴィメタル』の一員。
淡々としてクールな振る舞いを演じているが、本当は感情的でプライドが高い。
降魔化以前は身体障害者であり、義足と車椅子に慣れているため、
機体改造に積極的なため、スサノオとは相性良好である。
奈美とは従姉妹同士である。
量産型ではなく、特注の調整をされたカスタマイズ
作中で
封星座珠:【七色錦之眼】
21歳。『高天原』に所属する
自称・東大中退のエリート。
奈美の
奈美からオフの誘いを受けているが、頑なに会うことを拒んでいる。
その正体は『高天原』こと『氷山基地』が動かす
伊勢宮那義は『高天原』が人間だった頃の名前であり、人格データも本人を元にしている。
プリンセス・レムリア♀
正式名はサナト=クマラ=レムリア。
超大陸パンゲアを統治していた、古代王国レムリアの女王。
微睡みの中で大陸の未来を見晴らす、夢見の予言者でもあった。
ディープアビス系譜の
本来の姿は、最大の捕食動物と言われる
超大陸パンゲアとは、
海の魔神ポセイドンは、海上に姿を現したムーを目撃した民が、大海への恐れを入り混ぜて産み出した神である。
即ちレムリア王国で語り継がれる『地母神パンゲア』と『海の魔神ポセイドン』は同一の存在であり、
浮上した超大陸パンゲアで、唯独り真実を知る者であり、真実の姿を見つめている者。
眷属の
※年齢は設定していません。演じる方にお任せします。
封星座珠:【
神官アトラ両
大地神パンゲアを信奉するレムリア国教の神官。
夢寐の中で呟かれるプリンセス・レムリアの予言を解釈し、国民に告げ知らせる役割を持つ。
レムリア王国では、神官が執政官でもあり、女王に代わり国政の実務を執り行っていた。
神官アトラもまた、古代王国レムリアと共に海底に沈んだ。
ディープアビス系譜の
レムリアの白日夢に囚われており、自らを人間だと思い込まされている。
王国復活後のプリンセス・レムリアの言動に疑念を抱き、神官の座を剥奪される。
シャルルオルカに
※年齢・性別は設定していません。演じる方にお任せします。
封星座珠(
神官ヌーナ両
大地神パンゲアを信奉するレムリア国教の神官。
ディープアビス系譜の
レムリアの白日夢に囚われており、自らを人間だと思い込まされている。
プリンセス・レムリアを崇拝する反面、放逐された神官アトラにも忠誠を誓っており、両者の間で揺れ動くことになる。
※年齢・性別は設定していません。演じる方にお任せします。
封星座珠:【
劇場文士シャルルオルカ♂
ディープアビス系譜の
片眼鏡を掛けた人相の悪いシャチの姿をしている。
海洋の生態系の頂点に立つオルカ一族は、『生きるための闘争』から解放されている。
オルカ一族の社会では、評価経済が高度に発達しており、芸術家や創作者が高い地位を持つ。
オルカ一族は、ディープアビス系譜の突然変異種である。
祖となる
『超音波SNC』は中央サーバーを持たない点で、P2Pアーキテクチャとの類似が窺われる。
一匹のオルカの要求は、高効率の仲介と拡散によって応答され、評価の高いオルカほど応答率が高い。
『超音波SNC』は、
ディープアビス系譜の
他の
プリンセス・レムリア以外の
封星座珠:【
機動熔鉱炉スサノオ両
デルモネリゾン系譜の
『人類統合体』極東改造軍に所属している空飛ぶ熔鉱炉。
炉体全高15メートルの中型熔鉱炉であり、鉱石から
通常、落着した
その代償に
不沈洋上拠点『
デルモネリゾン系譜の
人類統合体軍のカントウエリア拠点であるメガフロート
全高30メートルの造成氷山。
本体は氷山の核ともいえるニューロ・ナノマシンの凝集した冷媒機関。
『新大陸』に齧りつくように広がる氷床大地の他、氷山も
『氷山基地』の躯とも言える氷は、海水と
麾下の
自我を失った『
基本外装は、
限定された環境下ながら、『氷山基地』は運用面・コスト面で極めて優れたコンセプトの
ただし
また
※伊勢宮那義との二役になります
ディープアビス系譜の
現存する
その超巨体は大陸一つに匹敵すると言われ、身動ぎ一つで大津波を引き起こし、噴気は嵐となって地上を荒れ狂う。
巨大なる海の王者であり、海洋に点在する島は、かつてムーに砕かれた陸や山の残骸だという。
大地の破壊者である反面、肥沃な海洋資源を育み、陸の生物たちに恩恵をもたらした。
また多種多様な海洋の生態系を産み出した海棲生物の父でもある。
ホエール一族の祖であり、ホエール一族では『ビッグムー』の尊称で敬われている。
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
※以下の三役は被り推奨です
レムリアの民A両
ディープアビス系譜の
レムリアの民B両
ディープアビス系譜の
レムリアの民C両
ディープアビス系譜の
□8に登場。レムリアと会話有り。
※ルビを振ってある漢字はルビを、振ってない漢字はそのまま呼んでください。
ゲネシスタwiki 劇中の参考になれば幸いです。
□1/氷柱の突き立つ氷床大地、氷床を打ち貫いた穴に浮かぶ潜水艇の群れ
(氷床の穴から顔を出した奈美は、咳き込みながら氷の大地によじ登る)
奈美:げほっげほっ……
ここは……南極――?
辺り一面、氷の風景――……
詠:無事だったのね、奈美ちゃん。
奈美:詠、あんたも――!
ひっでー目に遭ったよね。
お化け貝に襲われて、
詠:そうね。
でも見て。
この
奈美:さっきのお化け貝――!?
詠:氷漬けになって死んでるわ。
奈美:すっごい大きさ……
これなら潜水艇も丸呑み出来るよ……
スサノオの声:そう。軍事利用すれば低コストな対艦生物兵器。
食用にすれば、世界の食糧問題解決の糸口となる。
奈美:スサノオ――! あんたどこにいるの――!
スサノオの声:君の真上だよ、ナミ。
奈美:いないじゃん。
スサノオの声:いつもの光学迷彩だ。
奈美:嘘吐け。てめー、ホントはまだ日本にいて、ぬけぬけ通信してきてるんだろ。
スサノオの声:
詠:スサノオ、『新大陸』攻略には、師団クラスの軍が投入されると聞いたわ。
前線基地には、新型の
スサノオの声:この氷床大地こそ前線基地。
新型
奈美:どこが前線基地だよ。
氷の大地に、生き残った
師団1万人どころか100人もいねーよ。
日本に帰せボロ熔鉱炉。
詠:…………
奈美:何やってるの、詠?
詠:
公式アカウントに投稿してる。
騙されて南極に連れてこられたって。
奈美:やるじゃん、リトルシルバー!
詠:早く迎えの艦を出したら?
このまま南極に放置するなら、あなたの名前も出すけど?
スサノオの声:ネットが繋がるということは、近くに基地局がある。
ヨミの
詠:あれが
デルモネリゾンは、鉄と石を素体とする
あんなものが喋るなら、山も雲も空気だって喋り出すわ。
1万人の
スサノオの声:君の言う通り、デルモネリゾンは鉄と石の
もちろんあの氷山も例外ではない――
(広大な氷床大地の至る所に、全高3メートルの氷柱がダイヤモンドダストを噴き散らしながら何百、何千と突き立っていく)
奈美:氷の柱――!?
何百、何千、何万……!
詠:この
外装のない骨格だけの
スサノオの声:インド洋の大津波は記憶に新しいだろう?
ディープアビスは、
その
(氷柱の奥の汎用機兵の眼が点灯し、氷床大地に立ち並ぶ数千もの氷柱が一斉に砕け散る)
奈美:うわっ――!
詠:氷の破片――っ!
スサノオの声:さあ、起動するよ。
鉄の氷
奈美:氷の装甲を持つ機兵……!
詠:彼らが『新大陸』攻略の軍勢……
スサノオの声:メガフロート
『ムー』を氷の棺に葬り去る、デルモネリゾン系譜の新型
□2/王都アクロポリスの大宮殿、地下神殿『地母神の間』
(閉ざされた地母神の間の扉を叩く神官ヌーナと祭司たち)
ヌーナ:レムリア様、レムリア様――!
お目覚めください、レムリア様――!
ヌーナ:どうすればよいのだ……
レムリア様は大地の眠りから目覚めず……
我ら神官の
(閉ざされていた扉が軋みを立てて開き、やつれた顔のレムリアが姿を現す)
レムリア:見えております――……
王国の危機ですね、神官ヌーナ――……
ヌーナ:はい、レムリア様――!
王国周辺の海域を凍てつかせ、パンゲア大陸を蝕むように広がる大氷原。
その氷の大地に
これほどの規模の海魔は、見たことがありません……!
海の魔神ポセイドンの総攻撃が始まろうとしているのでは……!
レムリア:夢を見ました――……
幾度となく打ち寄せた侵略のさざ波――……
その最後の大津波が降り掛かろうとしています――……
ヌーナ:おお――……!
レムリア様、夢の続きは――!
レムリア:紅き満ち潮がパンゲアの大地を浸す――……
寄せては返す真紅の波間にたゆたうは、海の魔神ポセイドンの骸――……
海を染める紅き満ち潮は、海魔たちの
さあ、決戦の刻です――……
我らの住まう母なる大地、パンゲアに海の魔物を招き寄せ、
人類の黎明より続いた、陸と海の戦いに終止符を打ちましょう――……!
ヌーナ:はっ、レムリア様。
王国全土にレムリア様の予知夢を――……
王国の未来を告げ知らせます。
皆の者よ、本土決戦を宣告せよ――!
女子供も砂の一粒となりて、海の侵略を塞き止めるのだ――!
(神官ヌーナと祭司たちが立ち去った後、レムリアは地母神の間の寝台にくずおれるように座り込む)
レムリア:…………
見えません……見えないのです……
幾度眠りの淵に身を落としても……
パンゲアよ……
いいえ、ポセイドンよ……
何故です……?
何故突然……
□3/『氷山基地』周辺、氷鉄兵団の展開した陣営
奈美:氷と鉄の機兵か……
詠:何が
ここを札幌雪祭り会場と勘違いしてるんじゃないの?
奈美:強いのかな、
詠:あんなの氷の塊じゃない。
イチゴシロップを掛けられているのがお似合いよ。
(奈美のスマホがTWILINEの新着投稿を表示する)
那義の投稿:口悪いな、
奈美の投稿:遅えーよ。既読になってるなら返事しろ。
那義の投稿:電波が途切れてたんだ。
奈美の投稿:どうなの、この
どう見てもただの氷の塊にしか見えないんだけど……
那義の投稿:
奈美の投稿:でも氷でしょ? 鉄には敵わないんじゃ?
那義の投稿:もちろんそうだ。
だが特筆すべきは、低コストと高い修復性にある。
奈美の投稿:詳しいじゃん。
那義の投稿:俺は
奈美の投稿:やっぱ
那義の投稿:もう知ってるからいいだろ?
奈美の投稿:開き直るな。
詠:――それ、
奈美:うわっ、覗き込むなよ!
詠:誰、この人?
奈美:誰でもいいだろ。
詠:彼氏?
奈美:さーね。
詠:ふーん。
こんな氷の塊を高評価してるって、かき氷屋?
安物
奈美ちゃん、もっとマシな男選んだら?
奈美ちゃんには、この程度の
(詠が立ち去った後、TWILINEの音声通話の着信がある)
那義の声:散々な言い様だな、『リトルシルバー』。
奈美:あいつ、嫉妬深いんだよね。
自分が
おまけにあたしが
那義の声:俺と奈美は付き合って何日目だっけ?
奈美:0日。
那義の声:付き合ってるんじゃないのか?
奈美:詠が勝手に勘違いしただけだっての。
それよりあたし、何すればいいの?
スサノオからも
那義の声:奈美の任務は、
『新大陸』――『ムー』の
奈美:あたし、何もすることなくない?
那義の声:行きたいか、『新大陸』?
奈美:絶対行かねー。
那義の声:じゃあ、のんびりしておけ。
単一の兵種だけでは、戦術の幅が狭まる。
奈美:あんたは行くんだよね、『新大陸』――……
ディープアビスの
どんな
那義の声:もうしばらくすれば、見物出来るぜ。
お、そろそろ視認出来る距離になった。
(奈美が『新大陸』を見やると、泥深い沼地を蠢くように這い進んでくる大群が見える)
奈美:な、何あれ……!
那義の声:『ムー』の
数千――いや、万はいるな。
ご丁寧にお出迎えにいらしたらしい。
奈美:……化け物!
□4/氷山の風が吹きつける『新大陸』の畔
(岬に立つ神官アトラとシャルルオルカは、眼下に広がる氷床大地の戦争を眺めている)
(氷床大地に雪崩れ込むレムリア王国の軍勢を、氷鉄機兵の軍勢が氷の弾雨で迎え撃つ)
シャルルオルカ:始まりましたな、大決戦。
氷床大地で待ち受ける氷と鉄の軍勢――!
それを雪崩の如く押し潰さんと迫るレムリアの民――!
どちらが勝つか――!?
居眠りしていた読者諸氏も刮目あれ――!
万軍と万軍がぶつかり合う、一大スペクタクルですぞ――!
アトラ:…………!?
シャルルオルカ:どうされましたかな、神官殿?
アトラ:氷の化け物に混ざっている人影――
凍土に銀の髪を輝かす美しき乙女に……
煙草を咥えた不良女……
あれは……人間ではないのか……!?
シャルルオルカ:ほう――?
アトラ:どういうことだ――……?
ほんの一刻前まで、氷の軍勢に人間の姿などなかった……
それと入れ替わるように、岩塩の海魔が姿を消している……
まさか……
シャルルオルカ:そうです。岩塩の海魔などおりません。
最初から居たのは、あの美少女たち――
おっと、一人は遺憾ながら美少女でも少女でもありませんな。
ヤニ臭い成人女性です。
アトラ:私が見ていた海魔とは……
私が手に掛けた海魔とは……
私と同じ人間だった――
何故私は……彼女たちを海魔だと錯覚していた……?
私は……今まで、何を見ていたのだ――?
シャルルオルカ:夢を見ていたのですよ。
プリンセス・レムリアの見せる
貴殿は少しだけ微睡みから覚め、現実に目を開きつつあるのです。
(氷山基地の噴き上げた氷塊の霰が、レムリア王国軍の本陣を直撃する)
(鋭い砕氷が飛び散り、司令官である神官ヌーナも氷の散弾を浴びて白衣を血に染める)
ヌーナ:ぐうっ――!
アトラ:神官ヌーナ――!
ヌーナ:全軍、退却せよ――!
海魔の群れは恐るべき妖術を使う……!
レムリア様の膝下――
パンゲアの大地に引き返し、戦線を立て直すのだ――!
アトラ:神官ヌーナ――
あの者も白日夢に囚われているのか……
レムリア様は――
何故私たち王国の民を、偽りの白日夢で包む――……
何故私だけが……
シャルルオルカ:それは貴殿が有能だからですよ、神官殿。
アトラ:そなたも辛辣な皮肉を申す。
女王に反逆し、国を追われた私が有能とは。
シャルルオルカ:有能だから反逆するのです。
昔々、その名に『先見する者』の意を持つプロメテウスは、天界の火を盗んで人間に与えました。
人間は暖を取り、鉄を鍛え、松明を手に世界の果てを照らしに旅立ち、
武器を作り、獣を殺し
プロメテウスはその罰を受け、生きたまま禿鷲に
プロメテウスは、人間の愚かさを、自らの末路を見通せなかったのでしょうか?
いいえ、プロメテウスは人間の愚かさも、自らの行く末も、全て見通しておりました。
プロメテウスが与えたものは、火≠セけではありません。
自ら考え、決めること。
間違っていると思えば、相手が神であろうと、異を唱えること。
プロメテウスが伝えたかったことは反逆≠ネのです。
アトラ:…………
『潮の雨』が降り止んだ……
朝も夜も降り続けた、永遠の雨が――
シャルルオルカ:女王様の滴る
『ムー』の
はてさて、これは絶頂の末の昏倒なのか。
赤い玉まで搾り取る
アトラ:…………
そなたは私を有能だと申したな。
しかし私は何も出来ぬ。
反逆の
シャルルオルカ:神官殿。
出来るか出来ないかは、この際脇に置いておきましょう。
貴殿は何をされたいのですかな?
アトラ:…………
王国の民を、白日夢の麻薬から救い出す。
そして、レムリア様にこの戦争の信を問うのだ
海魔の幻に包んでいた異国の者たちとの戦争は正しいことなのか。
和平の道……国を開くという道はないのか。
シャルルオルカ:賢き者が自らの身を顧みず愚行に及ぶ。
それを勇気と呼びます。
満員電車、パンティーに手を差し込む痴漢行為。
真冬の空の下、コートに潜めた
神秘の果実は、勇気ある者の手に落ちるのです。
強く念じてみなさい。
貴殿の内に眠る、熱き想いの現出を――
アトラ:…………
(神官アトラが眼を閉じて念じると、足下の大地がひび割れ、高熱の水蒸気が噴き上がる)
アトラ:…………!
これは……!!
シャルルオルカ:間欠泉ですな。
この高熱の水蒸気でしたら、氷の兵団は一溜まりもありますまい。
アトラ:無から有の創成……!
何故私がレムリア様と同じ、パンゲアの奇蹟を――!?
シャルルオルカ:地母神パンゲアも気づいたのですよ。
大地を阿片の夢に耽る寝台とするのではなく、見果てぬ世界へ旅立てと。
アトラ:…………
文士シャルルオルカ。
賢者の助言と、愚者の振るまい。
そなたこそ、プロメテウスの化身なのかもしれぬな。
私と共に来てくれないか。阿片の悪夢を払いに。
シャルルオルカ:はい、もちろんですとも。
古典的女湯の覗き穴から、ブルマの女子小学生が見える金網――!
淫らな昼下がりを過ごす人妻のお宅に宅配ソーセージのデリバリー!!
刑務所以外でしたら、何処へでもお供しますぞ――!!
アトラ:…………
往くぞ、真実の世界へ旅立ちに。
シャルルオルカ:畏まりまして。
神官アトラ。
プロメテウスの火を受け継ぐ者よ。
□5/初戦を終えた後の氷床大地
(氷床大地に聳え立つ氷山基地と、上空で光学迷彩を稼働させた不可視の熔鉱炉が通信している)
スサノオの声:
氷山基地の声:
スサノオの声:敵軍の損耗率28%。
我が軍の損耗率0.8%。
氷山基地の声:予想を大きく上回る成果だ。
スサノオの声:
『新大陸』攻略戦で、多様な実戦
氷山基地の声:
そして『新大陸』は
スサノオの声:冷静だね。
氷山基地の声:『ムー』の
私は水面下で静かな逆境に苦しんでいる。
スサノオの声:現在の
氷山基地の声:99%から、最低値81.2%に急低下。
以後80%台で安定。
スサノオの声:最悪の想定で、相殺不能になる時期は?
氷山基地の声:6時間以内。
スサノオの声:深刻だね。
相殺は、敵
彼我の力の差が大きければ、相手の
氷山基地の声:『ムー』の覚醒
あと1時間程で、氷床大地の周縁部が『ムー』の
5時間以内の決着でも、私の
『ムー』が休眠期に戻り、『新大陸』が海底に沈むと同時に、私の
スサノオの声:『氷鉄兵団』は、
氷山基地の声:そのために
精神劣化を起こした
スサノオの声:
氷山基地の声:私と共に、海の粗大ゴミだね。
二つの
スサノオの声:巻き添えだね。
氷山基地の声:世界平和のためだ。誇りを持って死んで貰おう。
スサノオの声:彼らにも選ぶ権利があるはずだよ。
名誉の殉職≠ゥ敵前逃亡の生還≠ゥ。
氷山基地の声:君の意見は、
物事は
スサノオの声:
死はあらゆるものを無に帰するゼロ。
自分の死と世界の平和を
主観の世界では、自らの死と引き換えたものは、決して手に入らない。
死の
他者の自己犠牲によって生じた結果を、生きて享受することが最も合理的だ。
氷山基地の声:君に『合成の
個体が合理的に振る舞うことが、全体の合理性を落とすことだ。
無論、
短期的・
スサノオの声:
君の描くマクロの部品だと――?
氷山基地の声:君も私もマクロの部品だよ。
日本国の、または人類統合体の――
□6/王都アクロポリスの大宮殿、地母神の間
ヌーナ:レムリア様、レムリア様――!
レムリアの声:……よく戻りましたね、神官ヌーナ。
ヌーナ:この甘酸っぱい臭い……
空の薬瓶、香炉の燃えさしは……
レムリア様……
この香炉の燃えさしは、ヒュプノスの眠り薬……
阿片ではありませんか……!!
レムリア:……あなたが心配することはありません。
(寝台に腰を下ろしたレムリアは、死んだ魚のように濁った眼差しを神官ヌーナに向ける)
ヌーナ:しかし……
レムリア:見えておりました――……
敗北したのですね。
ヌーナ:はい……
海魔の軍勢は、剣も槍も弾く、氷の鎧を纏っておりました……
あれは不死身の、不滅の魔軍……!!
深海の奈落より現れた氷の魔兵たちです……!!
レムリア:…………
ヌーナ:レムリア様、今一度パンゲアの奇蹟を――!
あの水平線を埋め尽くす海魔を海の藻屑とせしめた大津波……
地母神パンゲアの奇蹟で、王国を蝕む氷の魔を払ってください――!
レムリア:…………
ヌーナ:レムリア様……
夢を、見られないのですか……?
地母神パンゲアの夢……
あの阿片は……
レムリア:……わかりました。
今一度奇跡を起こしましょう。
畏れることはありません。
氷の海魔が不死身の軍勢であるならば……
我がレムリア王国の民草も不滅なのです――……
ヌーナ:おお、レムリア様――!
レムリア:神官ヌーナ、私はどのような姿に見えますか?
ヌーナ:民の誰もが敬愛する、プリンセス・レムリア――
いいえ、王国を護る地母神パンゲアの化身でございます。
何故そのようなことを――?
レムリア:いいえ、ふと気になったのです――……
ヌーナ:…………
神官アトラですか――?
レムリア:…………
ヌーナ:神官アトラは、私に授戒の儀を授けてくださった御方でした。
我ら神官の長であり、善政によって多くの民からも敬われた。
何故神官アトラは、レムリア様に叛意を抱かれたのでしょう。
あまつさえレムリア様を、無慈悲な大地の魔神などと――……
…………!?
レムリア:どうしました――?
ヌーナ:いえ……
壁に映るレムリア様の影が……
巨大な魚のように見えたもので……
レムリア:蝋燭の悪戯です。
灯火が私の眠る寝台を魚のように歪めているのです。
ヌーナ:……大変な不敬を。
レムリア:張り詰めているのですね、神官ヌーナ。
あなたは戦場から帰ったばかり。
壁に映る人影にも、海魔の影を見てしまう。
ヌーナ:レムリア様の
レムリア:布告の準備を。
王国の民に、大地の奇蹟を啓示します。
ヌーナ:畏まりました。
(神官ヌーナが立ち去った後、阿片の香炉を焚いたレムリアは、芥子の煙に身を包む)
レムリア:氷と鉄の北極星よ――……
お前がパンゲアを夢すらも見ない深淵の眠りに沈めたのですね――……
深海に輝く
神官を誑かし、反逆の目覚めに誘う深海の夢喰い――……
お前の目的は未だにわかりません――……
新しく仕立て上げた予言者を傀儡とし、王国レムリアの乗っ取りを企んでいるのでしょうか……
(石壁に映る女王の人影が歪み、大海獣の魚影となって広がって地母神の間を暗く飲み干す)
レムリア:けれど、お前たちには見えているはずです――……
鮫も鯨も小魚のように食い殺す――……
パンゲアが深淵の眠りにあるのなら構いません――……
今や私は、パンゲアの夢無くしても、大地に通ずる力を手にしました――……
このサナト=クマラ=レムリアが地母神パンゲアに成り代わります――……
□7/氷山基地、がらんとした氷床大地
奈美:あー、暇ー。
那義の奴、TWILINE既読になってんじゃん。
返事ぐらい返せよ。
詠:奈美ちゃんの彼氏、『氷鉄兵団』を率いて行軍中でしょう?
TWILINEなんて、やってる暇無いわ。
四六時中スマホいじってる、暇人の奈美ちゃんとは違うのよ。
奈美:うるせーな。
お前だってさっきからずっとTWILINEやってんじゃん。
詠:これ、『ベイヴィメタル』の公式アカウント。
仕事。勤労は国民の義務よ。
奈美:あっそ。過労死しちまえ。
詠:奈美ちゃんの彼氏ってイセミヤ?
奈美:なんで知ってるんだよ?
詠:さっきTWILINEで名前出てたから。
奈美:だから彼氏じゃないっての。
詠:伊勢宮って変わった苗字よね。
奈美:うん、まあ。
詠:偽名だったりして。
奈美:まさか。
詠:男に騙されないように気をつけてね。
奈美:いちいち嫌味ったらしいな、お前。
詠:伊勢宮って、伊勢神宮に関係があるのね。
奈美:らしいね。あたしも検索したら出てきた。
詠:ストーカー?
奈美:検索ぐらい普通だろ。
変わった苗字なんだから――!
詠:この伊勢宮さんは、代々神職の家系だって。
奈美:神主のブログか。
………………
…………
……
詠:どうしたの、奈美ちゃん?
奈美:これ……
詠:『祖母の想い出と
代々
そんな中、祖母だけは『人類と降魔の共存』に理解を示し、その象徴である『高天原』を愛していました
古い考えに凝り固まった老人の集まりの中、一人だけまともな頭の持ち主が居たって話?
奈美:もっと先だよ。
祖母の兄は大変優秀で、先見性のある人でした
戦時中、
終戦後、東大に復学。しかし結核に罹り、21歳で命を落とした
詠:伊勢宮那義さん。
生きてたら100歳ぐらい?
あら? でもこの人――
奈美:同じ名前なんだよ……
あたしのTWILINEの相手と……
(上空から地表を押し潰すような不可視の圧迫感が降下してくる)
スサノオの声:ハロー、ヨミ。
詠:スサノオ――?
スサノオの声:出撃要請だ。僕と一緒に来てもらう。
奈美:よっしゃー! 行くかー!
スサノオの声:ナミはここで待機だよ。
奈美:えー!? なんで詠だけ。
詠:軍隊なんてやってらんねーんじゃなかったの?
奈美:働きたいです。働かせてください。
スサノオの声:ダメ。不採用。
奈美:あっそ。こっちから願い下げだ、くず鉄のゴミ箱。
スサノオの声:熔鉱炉がくず鉄のゴミ箱なら、君はゴミ箱にも拒絶される産廃だよ。
詠:じゃあね、産廃の奈美ちゃん。
(光学迷彩の効果範囲に入った詠の姿は忽然と消え去り、地表を圧迫する不可視の上蓋も飛び去っていく)
奈美:はー……
なんかあたし、ぼっちじゃね?
□8/王都アクロポリスの中央広場
レムリアの民A:王国の海魔討伐隊、敗北の知らせを聞いたか?
レムリアの民B:ああ、2000人以上の死者を出して潰走。
指揮官の神官ヌーナも深手を負ったそうだ。
レムリアの民C:海魔の大軍勢は、王都を目指して進軍しているようだ。
王都アクロポリスが落とされるのも時間の問題ではないか?
レムリアの民A:海魔の群れを海底に沈めた大津波――
もう一度レムリア様が奇跡を起こしてくだされば、海魔など……
レムリアの民B:無理だ……
あれからレムリア様の奇蹟は一つも起きていない……
こんな時に神官アトラがいれば……
レムリアの民C:ああ、しかし神官アトラはもういない……
神官アトラはレムリア様の
レムリアの民A:もうすぐ宮殿で、レムリア様の予言が告知されるぞ。
レムリアの民B:王国滅亡の予知夢では……
そう、こんなことが前にもあったような……
レムリアの民C:まさか。生まれてからこの年になるまで、玉音放送など一度も耳にしたことがないぞ。
レムリアの民A:第一王国が滅亡していたら、私たちは一体何なんだ?
レムリアの民B:それもそうか。
レムリアの民C:おお、レムリア様がお出ましになられたぞ。
(宮殿のテラスに神官たちを伴い現れたレムリアは、王都中に響き渡る声で告げ知らす)
レムリア:王国レムリアに根差す
絶望の氷原――……
パンゲア大陸は、氷河の毒に蝕まれています。
王国を守るべく旅立った勇士たちは、氷の魔兵と勇敢に戦い、大地の眠りに就きました。
見なさい。絶海に突き立つ氷の
あの大氷山は、海の魔神ポセイドンが海底よりパンゲアを貫いた磔刑の矛なのです。
共に泣きましょう。
私たちが大地に落とす涙が、死者たちの
生きていた頃と同じように、温かな血が通うように――
(曇天の空に稲妻が走り、潮の豪雨が王都に瀑布の如く降りそそぐ)
レムリアの民A:稲光……!
レムリアの民B:雨だ……!
降り止んでいた雨が、大雨となって降りしきる……!
レムリアの民C:ポセイドンの呪いか……!?
レムリアの民A:いや、この雨は……
レムリアの民B:温かい……
レムリアの民C:まるで血のように……
レムリア:さあ、目覚めなさい。
大地に眠りし者たちよ。
死は
魂は不滅、肉体もまた不滅なのです。
何度でも、何度でも――
魂の収まる土の器を与えましょう――……
(泥濘の大地に泡を立てながら、レムリア王国の兵士たちが続々と身を起こし、目覚めの声を上げる)
レムリアの民A:
死者が蘇ったぞ――……!!
レムリアの民B:奇蹟だ……レムリア様の奇蹟だ……!
レムリアの民C:おお、我らは不滅の存在となった!
レムリアの民A:レムリア様万歳――!
レムリアの民B:レムリア様万歳――!
レムリアの民C:レムリア様万歳――!
レムリア:歌いましょう――……
大地に生まれ落ちた、産声の賛歌を――……
眠りましょう――……
母に抱かれ、眠りに就いた、原初の安らぎのように――……
夢を見ましょう――……
無垢なる心で夢見れば――……
夢は
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