ゲネシスタ-隕星の創造者-
2話-白日夢の王国と夢遊の民-
★配役:♂2♀3両2=計7人
20歳。デルモネリゾン系譜の
人工皮膚の化粧外装を施した
喫煙者だが
口癖は「めんどくせー」で、何事にもやる気がないが、昔は明るく積極的な性格だった。
16歳。デルモネリゾン系譜の
特製の放熱索が銀髪を思わせる姿から『リトルシルバー』とあだ名されている。
人類統合体の広告塔であるアイドルグループ『ベイヴィメタル』の一員。
淡々としてクールな振る舞いを演じているが、本当は感情的でプライドが高い。
降魔化以前は身体障害者であり、義足と車椅子に慣れているため、
機体改造に積極的なため、スサノオとは相性良好である。
奈美とは従姉妹同士である。
21歳。『高天原』に所属する
自称・東大中退のエリート。
奈美の
奈美からオフの誘いを受けているが、頑なに会うことを拒んでいる。
その正体は『高天原』が動かす
伊勢宮那義は『高天原』が人間だった頃の名前であり、人格データも本人を元にしている。
プリンセス・レムリア♀
正式名はサナト=クマラ=レムリア。
超大陸パンゲアを統治していた、古代王国レムリアの女王。
微睡みの中で大陸の未来を見晴らす、夢見の予言者でもあった。
ディープアビス系譜の
本来の姿は、最大の捕食動物と言われる
超大陸パンゲアとは、
海の魔神ポセイドンは、海上に姿を現したムーを目撃した民が、大海への恐れを入り混ぜて産み出した神である。
即ちレムリア王国で語り継がれる『地母神パンゲア』と『海の魔神ポセイドン』は同一の存在であり、
浮上した超大陸パンゲアで、唯独り真実を知る者であり、真実の姿を見つめている者。
眷属の
※年齢は設定していません。演じる方にお任せします。
神官アトラ両
大地神パンゲアを信奉するレムリア国教の神官。
夢寐の中で呟かれるプリンセス・レムリアの予言を解釈し、国民に告げ知らせる役割を持つ。
レムリア王国では、神官が執政官でもあり、女王に代わり国政の実務を執り行っていた。
神官アトラもまた、古代王国レムリアと共に海底に沈んだ。
ディープアビス系譜の
レムリアの白日夢に囚われており、自らを人間だと思い込まされている。
しかし復活した古代王国に違和感を感じ始めており、レムリアへの疑念へ繋がっていく。
※年齢・性別は設定していません。演じる方にお任せします。
劇場文士シャルルオルカ♂
ディープアビス系譜の
片眼鏡を掛けた人相の悪いシャチの姿をしている。
海洋の生態系の頂点に立つオルカ一族は、『生きるための闘争』から解放されている。
オルカ一族の社会では、評価経済が高度に発達しており、芸術家や創作者が高い地位を持つ。
ディープアビス系譜の
他の
プリンセス・レムリア以外の
機動熔鉱炉スサノオ両
デルモネリゾン系譜の
『人類統合体』極東改造軍に所属している空飛ぶ熔鉱炉。
炉体全高15メートルの中型熔鉱炉であり、鉱石から
通常、落着した
その代償に
人工巨大浮体『
デルモネリゾン系譜の
人類統合体軍のカントウエリア拠点であり、複数の
東京湾に根を張った『高天原』は、人類統合体の工廠のみならず、海上工業地帯として民間にも開放されている。
降魔による人類の革命を掲げる人類統合体の理念を体現する存在であり、様々なテーマで議論の対象となっている。
元々は戦後復興期に建設され、開発途中で放置されていた埋め立て地。
そこに
※伊勢宮那義との二役になります
ディープアビス系譜の
現存する
その超巨体は大陸一つに匹敵すると言われ、身動ぎ一つで大津波を引き起こし、噴気は嵐となって地上を荒れ狂う。
巨大なる海の王者であり、海洋に点在する島は、かつてムーに砕かれた陸や山の残骸だという。
大地の破壊者である反面、肥沃な海洋資源を育み、陸の生物たちに恩恵をもたらした。
また多種多様な海洋の生態系を産み出した海棲生物の父でもある。
ホエール一族の祖であり、ホエール一族では『ビッグムー』の尊称で敬われている。
(※作中に登場するのみで、セリフはありません)
※以下の三役は被り推奨です
レムリアの戦士A両
ディープアビス系譜の
レムリアの戦士B両
ディープアビス系譜の
パンゲア教神官両
ディープアビス系譜の
□1と□4に登場。
レムリア、アトラと会話有り。
※ルビを振ってある漢字はルビを、振ってない漢字はそのまま呼んでください。
ゲネシスタwiki 劇中の参考になれば幸いです。
□1/『潮の雨』が降りしきる大草原
(『潮の雨』に濡れそぼつ大草原を、神官アトラに率いられた一団が進む)
(後に続くのは、御輿の寝台で眠るレムリアを運ぶ人夫と、それを警護する戦士たちの隊列)
パンゲア教神官:神官アトラ。
我らの宮殿は何処にあるのでしょうか?
この見渡す限りの大草原――
建物どころか、大木の影すら見えてきません。
アトラ:レムリア様は、この大草原に
進め。
必ずや旧王国に比肩する大宮殿が、絢爛たる威容を現すであろう。
レムリア:ん、んんっ……
(御輿で眠るレムリアが寝息を漏らすと、大草原に蜃気楼のように揺らめく宮殿が浮かび上がる)
レムリアの戦士A:し、神官アトラ――!
正面をご覧ください――!
アトラ:宮殿が……夢幻の如く……!
レムリアの戦士B:幻ではありません……!
宮殿の外壁も……珊瑚や真珠で飾られた門も……
触れます……! しかと此処に在ります……!
パンゲア教神官:奇蹟……いえ、神の
レムリア:ん……ふあ……
アトラ:レムリア様、お目覚めになられましたか。
レムリア:神官アトラ、宮殿には着きましたか……?
アトラ:はい。レムリア様の
レムリア:ああ、よかった――……
夢で見た通りの姿です――……
アトラ:レムリア様。
この忌まわしき『潮の雨』は、何時降り止むのでしょう?
パンゲアの大地を照らしていた暖かな日差し――
この浮上した『新王国』で、私は太陽を一度も見ていない……
レムリア:夢に見ました――……
旭に浮かび上がるパンゲアの大地を――
それは明日なのか、一年後なのか、さらに遠い未来なのか――
私にもわかりません――……
ただ言えることは――……
パンゲアに太陽は昇るのです――……
アトラ:畏まりました。
雨雲の晴れる日を、太陽の目覚めを待望致します。
レムリア:少し、眠ります――……
皆も、疲れたことでしょう――……
宮殿に入り、足を休めてください――……
アトラ:レムリア様を宮殿へ。
レムリアの戦士A:畏まりました。
アトラ:…………
長い雨だ――
寝ても覚めても続く梅雨は、何時晴れるのだろう……
レムリアの戦士B:レムリア様の予言を心待ちに致しましょう。
アトラ:そうだな。そなたも先に宮殿に。
レムリアの戦士B:はっ。
アトラ:…………
パンゲア大陸の浮上は、平和と繁栄の幕開けなのであろうか――?
神の如き力を得られたレムリア様でも、『潮の雨』は払えぬ……
この『新王国』には、ポセイドンの深き
パンゲア教神官:神官アトラ、如何なされました?
アトラ:私の考えすぎであればよいが……
地母神パンゲアよ、新たなるレムリア王国に大地の安寧を。
□2/東京湾、無数の浮体が移動するメガフロート移設作業
(東京湾の海面から顔を出した奈美の目の前で、化学工場を乗せた浮体ブロックが移動していく)
(上空には浮遊する熔鉱炉と、飛行
奈美:高天原D地区-18番ブロック、移動完了。
スサノオ:了解。
ハロー、
こちらスサノオ。準備完了だ。
D-18ブロックの取込を。
詠:豊葦原の
上空よりD-18ブロックの連結を確認。
スサノオ:了解。
移設済み
引き続き浮体ブロックの移設管理を。
詠:了解。
奈美:ええと、次はF地区の26番ブロックだっけ。
オーライ、オーライ。
こっちこっち。
(水上仕様の汎用機兵が背中のスクリュー推進によって白い航跡を引きながら、浮体ブロックを押してくる)
詠:ちゃんと誘導しなさい。
F-26ブロックの予定航路を外れてる。
このままじゃ連結開始
奈美:めんどくせーな。
多少ずれてたって、
(半球体の浮遊座に座った詠が、海面から顔を出す奈美を見下ろして告げる)
詠:不良品は
体は鉄。浮力を失えば東京湾のゴミよ。
奈美:はいはい。
ってか、何であんたが
あたしと同じ
詠:あなたは一等兵。私は軍曹。ただの兵と士官階級の違い。
奈美:目くそ鼻くそだろうが。目くそが偉そうに。
詠:早く仕事してくれない、鼻くそ?
奈美:あー、もうぶち切れた――!
(奈美は近くを流れてきた浮体ブロックに乗り上げ、宙に浮かぶ浮遊座に飛び乗る)
詠:――!?
ちょっと降りてよ! 汚い!
東京湾の水で汚れるでしょう!
奈美:こっちはその汚い水の中で作業してたっての!
なんなのよ、この空飛ぶ丸い物体――!
スサノオ:オモイカネ。
僕の開発した
詠:聞こえた?
新型なの。汚さないで。
早く飛び降りて。邪魔。
奈美:あたしにもちょうだいよ、この空飛ぶ椅子。
スサノオ:ナミ、君には化粧外装をあげたばかりだ。
目・鼻・くちびる・肌質・色――
君の要望を全て聞くと、全くの別人になって自我乖離症を引き起こす。
でも原形を崩さないようにすると、苦情が出る。
度重なる修正要望に応えて、やっとOKが出たんだよ。
奈美:こ、これぐらい化粧すりゃ誰でも変わるわよ。
こいつだって別人じゃん。
詠:別人――!? どこが――!?
奈美:存在そのもの。
銀髪の日本人がいるわけねーだろ。
何が『リトルシルバー』だっての。
詠:何よ、最底辺の
奈美:てめーも
詠:スサノオ――!
スサノオ:G-47ブロック、指定の連結開始
詠:無視した……
奈美:ざまあみろ。
詠:あなたの仕事は、東京湾海上での浮体ブロック移行作業でしょう。
奈美:んで、あんたの仕事は空飛ぶ椅子に座ってあれこれ指示するだけ。
詠:監督役よ。現場の移設状況を、司令塔の
奈美:楽でいいね。
詠:やれば? あなたに進捗管理が出来る?
奈美:いいよ。じゃ、あんたが水中ね。
詠:私、汚れ仕事は嫌。
奈美:あたしだって嫌だっての!
詠:頭脳労働が出来ないんだからしょうがないでしょう。
奈美:あー、ほんとむかつく。
詠:それはこっちのセリフ。
奈美:…………
こんなに話したの、三年ぶりじゃない?
詠:……そうね。
奈美:変わったかなって思って、実際変わってたけど……
でも、根っこのところは変わってない。
詠:…………
どうしていきなり化粧外装始めたの?
奈美:干物脱出。
詠:恋人――!?
奈美:内緒。
詠:
奈美:詠だってファンが沢山居るじゃん。
「詠たーん」とか言ってる、『ベイヴィメタル』のキモオタが。
詠:……ただの見せ物よ。
二次元のヒロインと同じ。
都合の良い幻想を見てるだけ。
奈美:だよね。あんた性格ねじ曲がってるし。
詠:そう、全部幻想よ。
そうとも知らず、私に熱狂する豚の鳴き声を聞くのって快感。
たった一人の恋人より、何千人の歓声に包まれる方がずっと幸せ。
奈美:これ録音してネットに流出させたいわ。
詠:すれば? 無駄だけど。
私は毒舌キャラで通っているもの。
奈美:キャラじゃなくて本性だって、どんだけのファンが気づいてるんだろう。
メガフロート移設作業、結構進んだね。
高天原があんな小さくなってる。
詠:進捗状況は6割ね。
これからは豊葦原が人類統合体カントウエリア基地よ。
奈美:一日で終わるって信じられない。
高天原って、東京24区に数えられてたこともあるんでしょう?
詠:同系譜の
高天原と豊葦原は同じメガフロート型だから、
奈美:高天原、どうなるんだろう。
詠:さあ。
気になるの?
奈美:戦後すぐから、百年近く東京を見つめてきたんでしょう?
人類統合体への通信で自分は役目を終えた≠チて……
なんか……寂しいよね。
□3/深夜、東京湾海上
スサノオ:ハロー、タカマガハラ。
高天原:大人から子供に戻ったような気分だ。
東京湾が広く見える。
スサノオ:すぐ大人に戻れるよ。
人類統合体本国から大量の鉄鉱石が届く。
高天原:
私自身の再改造、眷属降魔の生産、各種兵器のエネルギー源。
配分シミュレートを行い、最適解を算出しなければ。
スサノオ:もう一つ輸送予定の物資があるようだけど。
高天原:その情報は君にはアクセス権がない。
スサノオ:ふうん。
『高天原』所属の
高天原:その情報は君にはアクセス権がない。
スサノオ:僕の
ログを解析すると、毎日イセミヤナギと交信してるんだ。
高天原:交信の有無をどうやって調べたのだね。
スサノオ:言えないね。
高天原:
スサノオ:軍兵型(カデット)の化粧外装にトロイを仕込んだ。
高天原:不正アクセスか。君の処分を検討しなければならんな。
スサノオ:イセミヤナギは、あなただろう?
タカマガハラ。
高天原:回答不能だ。
スサノオ:これがあなたの言うメンテナンスかい?
ナミはあなたのことが好きだよ。
高天原:フレーム問題発生のため、回答処理を中止する。
論理の飛躍が著しく、因果関係の類推が出来ない。
スサノオ:質問を変える。
一般論として聞かせてもらいたい。
あなたの定義する
高天原:
それらの不適応は鬱病を招き、精神活動を停滞させる。
降魔化して数年間は、神経系の再形成時期に当たる。
シナプス再形成時期に、精神活動の停滞が続くと、高い確率で精神劣化を起こす。
スサノオ:同じく一般論としての質問だ。
精神活動の刺激に、疑似恋愛を体験させることは?
高天原:極めて有効だと言えよう。
スサノオ:
高天原:いいや。架空の恋人からは卒業してもらう。
スサノオ:恋の高揚感は、反転すると激しい落ち込みを招くよ。
高天原:精神劣化の主因は無感動だ。
ストレスコントロールが良好であれば、失恋も精神刺激剤として作用する。
スサノオ:玩んで捨てるんだ。
高天原:極めて感傷的な感想だね。
スサノオ:あなたの眷属の
高天原:直近10年では68.3%。全期間の平均では44.6%。
スサノオ:3体に1体は壊しているんだね。
高天原:60%を越えていれば、エビデンスとして機能していると言えよう。
スサノオ:
高天原:残りの31.7%の内、20%弱。
スサノオ:失恋のショックが強く効き過ぎて死んだ例は?
高天原:13%。
スサノオ:ほらオペレーションミス。
高天原:しかし68%を救える。
これからも期待値の高い
スサノオ:家畜の飼育だね。餌も発情もモニタリングされてる。
高天原:
等しく家畜として扱わねば、公平性は保てない。
スサノオ:名言だ。百万体の
高天原:スサノオ、君の戦略プログラムの提出を要求する。
スサノオ:了解。
高天原:――プラズマフィールドか。
新発明の創成(ジェネシス)を出すと予想していた。
スサノオ:相手は超巨大
実戦データの豊富な『タケミカヅチ』が最適と判断した。
高天原:了解した。
君の戦略プログラムを組み入れた上、『ムー』攻略の総合戦略を構築する。
スサノオ:現時点の勝算は?
高天原:80%以上。
スサノオ:大した勝率だね。
僕の計算では、どう環境変数をいじっても30%を越えないんだけど?
高天原:君とは兵力の初期数値が異なるのだろう。
スサノオ:どこがどう違うんだい?
高天原:私の戦闘機能だ。
君は『高天原』のデータしか保有していまい。
私は自らを大改造する。
それは『高天原』ではない。
『ムー』殲滅に特化した、新型
□4/『潮の雨』が降りしきる古代都市アクロポリス、宮殿より張り出した大理石のテラス
パンゲア教神官:おはようございます、神官アトラ。
アトラ:朝の礼拝か。
パンゲア教神官:はい。ご覧くださいませ。
王都アクロポリスを取り巻く大運河を。
地母神パンゲアはその堅固なる
陸が海を征した風景は、人間が海の脅威に打ち勝った、栄光の証でございましょう。
(アクロポリスの城下町では、レムリアの民が行き交い、朝の賑わいを見せている)
アトラ:……まるで夢を見ているかのようだ。
一夜にして海底の奈落に沈んだレムリア王国が、
一夜にして復興し、人々は変わらぬ暮らしを営んでいる……
パンゲア教神官:一夜にして沈んだ? レムリア王国が?
アトラ:そなたも王国最後の日を見たであろう。
不吉な潮騒が響き渡る中、海の奈落へ沈むレムリアを――
パンゲア教神官:神官アトラ、二度寝でもされていたのですか。
栄光のレムリア王国が、地母神パンゲアが、
海の魔神ポセイドンに屈するはずがないではありませんか。
アトラ:――――!?
何を申すのだ――?
王国はポセイドンの降らす『潮の雨』に沈んだ――
パンゲア教神官:まだ夢の中にいらっしゃる。
これではレムリア様にお小言も言えなくなりますね。
アトラ:『潮の雨』を見よ――!
この王都アクロポリスを濡らす、降り止まぬ『潮の雨』こそ、未だ続くポセイドンの呪いだ――!
パンゲア教神官:『潮の雨』――?
何の味もしませんが?
アトラ:…………!
(黒雲から降りしきる雨粒に濡れた指を口に含んだ神官アトラは、無味であることに驚愕する)
アトラ:では、何週間も続く雨は――
パンゲア教神官:ああ、梅雨だからでしょう。
困ったものですね。
しかし雨もいいものですよ。
アトラ:…………
パンゲア教神官:神官アトラ、少しお休みになられてはいかがですか?
夢を見たのですよ。
悪い夢を――
(下級神官が立ち去った後、テラスから宮殿内に戻ったアトラは呆然と呟く)
アトラ:…………
全ては私の夢だというのか……?
王国の滅亡も、ポセイドンの侵略も……
パンゲア教神官:神官アトラ、密入国者です。
王都アクロポリスに、不審な男が潜り込んでおりました。
シャルルオルカ:嗚呼っ、痛い。痛いですぞ。
小生は其処な御仁のように、ワサビの下ろせるサメ肌ではありませんぞ。
棘で突くのはやめてくださいませ。
嗚呼、でもこの痛み……
妙齢の美女だと思えば、小生の創作意欲は天高く突き上がってしまいますぞ。
(宮殿の大広間に、槍を突き立てられた男が、戦士たちに連行されてくる)
アトラ:なんだこの奇妙な風体の男は。
シャルルオルカ:おお、ようやく
小生、ペンネーム『J・タニザキ』と申します。
『マゾ男爵』でも宜しいですぞ。
文筆業で糊口を凌ぐ、しがない三文文士でございます。
アトラ:
パンゲア教神官:お目汚し失礼致しました。
直ちに牢屋に放り込むよう指示します。
アトラ:…………
この者……
何だこの言い知れぬ感覚は――……?
シャルルオルカ:一目惚れでございますな!?
アトラ:喩えるなら……
蒸し暑い梅雨に肌を湿らす汗、目の前にぶら下がる毒蜘蛛……
シャルルオルカ:恋の予感ですな。
アトラ:一言で言い表すなら……怖気が走るほど不愉快だ。
シャルルオルカ:いえいえ、それはやはり一目惚れでございます。
感情の強弱を
ある日を境に、大好きと大嫌いが入れ替わることはままあること。
愛から憎しみへの反転は、古今東西、現実創作を問わず、誰もが知りましょう。
アトラ:詩人だな。
では聞こう。
嫌悪が愛や親しみに変わるとしたら、そこにどのような心の動きがある?
シャルルオルカ:嫌悪からの愛情も、古くからの文学的テーマです。
『いやっ、こんな汚い男に無理矢理……』
『上の口は嫌がっても下の口は正直だぜ、ぐへへ』
『ああん、ダメえ。嫌なのに感じちゃう〜』
このように名作文学には、斯くも霊妙な心理が描かれております。
嫌悪と愛は表裏一体であり、ふとしたきっかけで、いとも容易く裏返るのです。
アトラ:その文学作品とは?
シャルルオルカ:『絶海のミンククジラ〜深海四千メートルの潮吹き〜』
小生が文学青年時代、同人誌に発表した文学ポルノです。
パンゲア教神官:このように、先程から意味不明な言動をくり返しております。
狂人です。
シャルルオルカ:ヒト――!
貴殿は小生がヒトに見えると。
貴殿は自分をヒトだと思っていると。
これは傑作ですな。
パンゲア教神官:狂人め。言わせておけば――!
アトラ:放浪の文士よ。
そなたの見聞きしてきた世界を教えて欲しい。
シャルルオルカ:ほう――?
この世界の外側に関心がお有りですかな?
アトラ:そなたの奇矯な物言いの中に、一抹の真理を感じ取った。
飾らぬ言葉で、そなたの見てきた世界を語れ。
シャルルオルカ:いやはや素晴らしい心懸けです。
では神官殿に、三文文士が卑見を開陳致しましょう。
語るは、夢の曇りガラスを打ち割った、
アトラ:夢……?
レムリア:下がりなさい、神官アトラ。
此の者との話は、私が引き取ります――……
アトラ:レムリア様――!
レムリア:お前は何者ですか――……?
シャルルオルカ:ニンゲンですよ。
貴女様や神官殿、諸兄と同じニンゲンです。
レムリア:…………
お前は――……
私と同じ存在ですね――……?
シャルルオルカ:ええ。貴女様の
小生もまた、深海に光る
レムリア:
シャルルオルカ:何も知らずに、
いやはや、まことに事実は小説より奇なり。
真実はこれほど短絡的で愚かで、誰も予想出来ないものだったとは。
これだから
レムリア:お前の目的は何ですか――……?
何のために『王国レムリア』に――……
『在りし日の白日夢』に紛れ込んでいるのです――……?
シャルルオルカ:偉大なる『ビッグムー』の
この三文文士め、貴女様に『世界の秘密』を献上しに参りました。
恩賞に下賜いただきたいのは、ささやかなお言葉。
いえいえ、小生にではございません。
貴女様の
『王国の秘密』を――
レムリア:…………
お前には見えているのですね。
シャルルオルカ:はい。全て見えておりますよ。
アトラ:申せ。
見えているとは……
そなたは何を見ているのだ?
シャルルオルカ:とても口に出しては言えません。
微睡みの中にいるものしか見えない服を着た女王様の、あられもない丸裸。
厭らしいビラビラや潮吹きの穴が、脳裏に焼きつくほど鮮明に映っているなど。
レムリアの戦士A:おのれ狂人め――!
レムリアの戦士B:レムリア様に何たる不敬――!
レムリア:……いいえ、構いません。
お前は何を望みますか――……?
申してみなさい――……
シャルルオルカ:小生は哺乳類でして、貴女様も哺乳類。
ですので、貴女様の乳首を哺乳させていただきたく願いますぞ。
レムリア:本気ですか――……?
シャルルオルカ:小生、いつ
レムリア:わかりました――……
お前に清めの土の眠りを――
パンゲアの
シャルルオルカ:おお、
男子、産まれ落ちては母上の乳を吸って育ち、
成人男子、違う目的で
男に生まれついた者が帰り着く故郷にして、求めて止まぬ秘境の谷間――!
読者諸兄よ――!
ズボンのファスナーは降ろされましたか。
万年筆を握り、執筆活動に勤しむ展開にございますぞ。
レムリアの戦士A:死ねい、狂人め――!
シャルルオルカ:うほうっ――!
どういうことですかな、これは――!?
アトラ:清めの土の眠りとは、海の魔物を葬り去る儀式――
パンゲアの
シャルルオルカ:小生の迸る万年筆の行く先は、淫靡な蜜穴ではなく、墓穴ですと――!?
アトラ:文士ならば、文脈で察するのだ――!
レムリアの戦士B:レムリア様への不敬、万死をもって償え――!
シャルルオルカ:ひいっ――!
助けてくだされ、神官殿――!
アトラ:レムリア様、お待ちください――!
この者の身柄は、この神官アトラにお預けくださいませぬか。
レムリア:何故です――……?
アトラ:賢者は愚者の姿を纏いて、この世の不条理を指摘する。
この者の振る舞いは
私には……この文士の言動に腑に落ちることが多々あるのです。
シャルルオルカ:おお、神官殿――!
小生、いたく感動致しました!
今なら神官殿が風呂に入った後の残り湯を美味しく飲み干せそうな、
それはもう、深い深い尊敬の念を抱いております。
レムリア:私には見えます――……
此の者は、海の魔神ポセイドンの尖兵――……
人の皮を被った、醜い海の獣なのです――……
シャルルオルカ:失敬な――!
人間の若い女性の間では、小生はキュートで愛らしいと大人気ですぞ――!
小生を醜いと言う感性は、貴女様が人間でないか年増という証明ですぞ――!
アトラ:私もそなたがキュートで愛らしくは見えないのだが……
シャルルオルカ:貴殿も人間ではないのですよ、神官殿。
レムリアの戦士A:狂人め――!
レムリアの戦士B:変質者め――!
パンゲア教神官:醜い海の魔物に災いあれ――!
シャルルオルカ:ナメクジの親戚に醜いと罵られるこの不条理……
ナンセンス文学を書き上げてみる動機になりましたぞ。
レムリア:此の者に大地の眠りを――
レムリアの戦士A:おおおお――!!
レムリアの戦士B:レムリア様のために――!!
シャルルオルカ:この場はひとまず
またお会いしましょう。
アディオス――
レムリアの戦士A:き、消えた……
レムリアの戦士B:奴の体が宮殿の床に……!
パンゲア教神官:大地に沈み、パンゲアの内に還る奇蹟……!
彼の者もパンゲアの加護を受けていると……!?
レムリア:…………
アトラ:レムリア様、どちらへ行かれるのです――!?
(眠たげな足取りで、大理石のテラスに出たレムリアを出迎えたのは、暗雲を走る稲光と土砂降りの雨)
(土砂降りの雨の中、眼下の城下町には何千何万もの民衆が集い、宮殿のテラスに立つレムリアを見上げている)
レムリア:夢を――……夢を見ました――……
大運河に続くエウメロスの海岸より、深海の魔物が這い上がってくる悪夢を――……
新王国レムリアに再び侵略の波が打ち寄せる――……
レムリアの戦士A:おお、水平線の向こうに禍々しい影が幾つも……!
レムリアの戦士B:
レムリア:けれど、恐れることはありません――……
間もなく大海原に大地震が引き起こされます――……
パンゲアの怒りが嵐を呼び、海を揺らし波を千切る――……
パンゲア教神官:この潮騒……
海の底が震える鳴動――……
アトラ:波が逆巻く……!
深海より立ち上った大波が……
雲を……空を……稲妻を……森羅万象を飲み干す――!
レムリア:さあ――祈りましょう――……
王国の大地を侵す、愚かなる侵略者の惨たらしい死を――……!
数えましょう――……
海の藻屑となって深海の奈落に沈む、哀れな魔物の
(新大陸を護る結界の如く立ち上った大海嘯は、逆さの大瀑布となって暗雲の空へ落ちる)
(暗い天蓋の滝壺をひっくり返した大瀑布は、雨雲も風も雷も万象全てを呑み込み、深海の奈落まで引きずり込む)
アトラ:…………!!!
レムリアの戦士A:見ろ、水平線を……!
レムリアの戦士B:海上を埋め尽くしていた、海魔の群れは影も形もない――!
パンゲア教神官:奇蹟……いえ、そのようなものは通り越した……
これは神の権能……まさしく創世の力の一端です……!!
レムリア:夢を見ています――……
眠りに落ちて見る夢ではなく……――
私の見る夢は現実となる――……
そう――……
パンゲアの夢を見る私は――……
パンゲア――……
大地母神パンゲア――……
我が名は大地母神パンゲア――……
パンゲア教神官:おお、レムリア様――!
プリンセス・レムリア――……
いえ、偉大なる地母神パンゲア――!
レムリア王国は、今此処に女神が君臨した――!
レムリアの戦士A:パンゲア神万歳――!
レムリアの戦士B:パンゲア神万歳――!
レムリア:レムリアの民よ、武器を取るのです――
侵略を始めましょう――……
深き海底が埋まるまで、無尽の土砂を。
陸を、森を、岩を、山を――
あの大海原に、我らの新大陸を築き上げるのです――……!
レムリアの戦士A:パンゲア神万歳――!
レムリアの戦士B:パンゲア神万歳――!
レムリアの戦士A:ポセイドンを殺せ――!
レムリアの戦士B:ポセイドンを殺せ――!
(熱狂する王都アクロポリスの渦中にいるレムリアを、神官アトラは呆然と見つめている)
アトラ:……レムリア様。
レムリア:……はい。
アトラ:あなたはレムリア様なのですか……?
それともパンゲア神なのですか……?
レムリア:あなたには、どちらに見えますか……?
アトラ:私が仕えたプリンセス・レムリアはもういない……
明日を夢見る予言者であり……変わらぬ明日に泣いていた……
無力で心優しいプリンセス・レムリアはもういない……
あなたはパンゲアです……
地母神パンゲア……
海を無惨に圧殺する、無慈悲な大地の神なのだ……
レムリア:…………
そう、私はパンゲア――……
サナト=クマラ=レムリアは死にました――……
この『新王国』を――侵略から護るために――……
雨を――……夢を――……
神官アトラ――……
今よりあなたから神官の身分を剥奪します――……
消えなさい――……
王国の大地から――……私の夢から――……
□5/潜水艇ミノガメ、
(潜水艇の壁にモニタを眺めながら、奈美はスマホに溜め息をつく)
奈美:すっげー……
インド洋に大津波発生。
事前に避難指示は出ていたものの、周辺諸島が呑み込まれ、大惨事……
インド、パキスタン、ミャンマーに物凄い勢いで津波が接近中……
那義の声:あれが
今回は
『新大陸』近海の海水も動員した相乗効果もあって、凄まじい破壊力を示した。
奈美:ディープアビスの
那義の声:ディープアビス系譜の
超古代大陸鯨『ムー』だろうな。
奈美:……でさ、あたしら潜水艦に詰め込まれてるわけじゃん。
那義の声:
奈美:どっちでもいいっての。
……あたしらの行く先ってまさか。
那義の声:ああ。『ムー』の
奈美:はあ〜…………
那義の声:元気出せって。言わないほうがよかったか?
奈美:……あたしさ、これからどうなるんだろう。
毎回毎回、生きるか死ぬかの戦いに放り込まれてさ。
暇な時は東京湾でドブ
もうやってらんねー……
那義の声:出たな、『やってらんねー』。
奈美:はー……普通の女子に戻りたい。
那義の声:普通の女子?
奈美:なんだよ。
那義の声:普通の基準が随分低めだなって思っただけさ。
奈美:今のあたしはめっちゃ女子してるわよ!
那義の声:ああ、知ってる。
奈美:えっ?
那義の声:見たぜ。化粧外装、写真そっくりだった。
奈美:また覗きかよ。声ぐらい掛けろっての。
那義の声:俺、シャイだからさ。
可愛すぎて声掛けられなかった。
奈美:よく言うぜ。
そういや那義、あんた化粧外装は?
那義の声:『高天原』でイケメンを見たら俺だと思ってくれ。
おっと、もう『豊葦原』か。
奈美:はいはい。
『高天原』かー。
あんたの
那義の声:ああ。
奈美:どんな
那義の声:謎だな。
奈美:
那義の声:さあな。お前のスサノオは?
奈美:知らない。
あいつ、気に入った
あたし、放置されてる側。
那義の声:スサノオは
一方の『高天原』は、
奈美:『高天原』みたいに全員無視のほうがいいよ。
那義の声:どっちがいいかは、人それぞれだろうがな。
奈美:『高天原』には民間企業の工業地区もあったじゃん?
あの工場で働いてる
那義の声:あれも『高天原』の
ちなみに給料は日本政府ではなく、民間企業から支払われている。
奈美:
那義の声:
『高天原』のように民間企業と提携している
ただ多くの
奈美:いいな、『高天原』――
那義の声:そうか?
『高天原病』と『東京湾埋め立て事件』は、人類と
奈美:なんだっけ、『高天原病』って。
『高天原』に行った人は、みんなボケちゃうって病気だっけ?
那義の声:『夢の島』高天原――餓えず、疲れず、眠らない夢の
戦後、人類統合体と日本政府の煽りで、沢山の若者が
ところが降魔化した若者たちは、次第に人間らしい反応が消えていき、最後は全く動かなくなる――
生きたまま死ぬ病気が多発した。
奈美:ああそれそれ。まだ裁判やってるよね。60年近く経つのに。
那義の声:精神汚染だ。デルモネリゾン系譜では絶対に起こらないとされていた――
五感の消滅が精神活動に悪影響を及ぼすことは、あの当時は誰も知らなかった。
餓えず、疲れず、眠らない夢の
奈美:……あんた、『高天原』要らない派?
那義の声:『高天原』は、終戦後の日本人の希望であり、高度経済成長の土台となった。
同時に環境汚染や生命の尊厳の侵害といった問題を引き起こした。
俺は評価は下さない。
事実を受け止めるだけだ。
奈美:ふーん……
あんたって、やっぱりエリートだよね。
那義の声:だろう? 東大中退は伊達じゃないぜ。
奈美:そっちのエリートじゃなくて、降魔の
でしょう?
隠したってわかるよ。
那義の声:やれやれ。溢れ出る知性ってのも考え物だな。
奈美:
あんな滅茶苦茶な体になっても、頭おかしくならないこと……
それが
那義の声:ほう。よく考えついたな。
奈美:あんたが会おうとしないのも……
でもあたし、那義がどんな姿でも気にしないっていうか、会ってみたいっていうか……
別に変な意味じゃなくて……その、友達として……
那義の声:んじゃ会うか。
奈美:えっ――!?
那義の声:今度の上陸戦は、結構な大作戦になるだろう。
どさくさに紛れて顔合わせぐらいは出来るじゃないか?
奈美:マジで――!?
でもなんか死亡フラグっぽくない――!?
那義の声:死亡フラグかもな。損耗率は最低でも40%ぐらいになりそうだぜ。
奈美:止めてよ、冗談に聞こえない……
那義の声:フラグは折っておくか。
奈美:待って! 会う!
那義の声:フラグ立てか。
奈美:フラグの話は終了。
どうしたの急に?
あんた、さんざん断ってたじゃん。
那義の声:奈美の妄想が膨らんでるからな。
早いところ潰しておかないと、本物の俺が永久拒絶されそうだ。
奈美:そりゃない。
せいぜい中の中か、中の下がいいとこだと思ってる。
全然期待してないから安心して。
那義の声:俺がイケメンだったらどうするんだ。
奈美:そんときは彼氏に採用。
那義の声:言ったな。採用試験突破するぞ。
奈美:今コクられてんの、あたし?
那義の声:ああ、そうだ。
で、彼氏になったら即振ってやる。
奈美:なんで?
那義の声:フラグは折っておきたいからな。
生きて会えたら告白なんて、不幸のワンパターン過ぎるぜ。
今のうちにさっさと告白しておいた。
奈美:ちょっと待って。振るっていうのは?
那義の声:いや、なんとなく……
奈美:何だよなんとなくって。
那義の声:そろそろ上陸準備に入る。
さっきの大津波で、敵の警戒態勢は緩んでいる。
哨戒の降魔は少ないだろうが、気をつけろよ。
奈美:うん、またね――!
(スマホから手を離した奈美は、隅でイヤホンで耳を塞いでスマホを覗き込んでる詠に駆け寄る)
奈美:詠、詠――!
詠:……何?
奈美:化粧外装の上に化粧するのってどうやるの。
詠:ネットで調べれば。
奈美:教えてよ。暇なんでしょ。
詠:私、忙しいの。見ればわかるでしょう。
奈美:暇だからずっとアニメ見てるんでしょ。
あんたの化粧品貸して。
詠:嫌。クレヨンでも使えば?
奈美:ケチ。どうせスサノオからの貰いもんだろ。
詠:
奈美:詠、あんたスサノオとデキてんの?
詠:は――?
奈美:あんただけ
裏で絶対なんかあるって評判だよ。
詠:裏? 何をどうするの?
奈美:そりゃこう、言えないようなことをして、その見返りに可愛い化粧外装を――
詠:熔鉱炉が
奈美:……想像したら、すごいシュール。
詠:バカじゃないの。
ゲスはゲスなことしか考えられないからゲスなのよ。
奈美:はいはい、どうせゲスですよ。
いいから化粧品貸せよ。
詠:倉庫へどうぞ。ペンキでもエナメルでも使い放題よ。
奈美:ほんとうぜー。
(潜水艦に強い揺れが走り、警報ランプが点灯する)
奈美:何、この揺れ――!?
詠:海底の岩にぶつかったんじゃ……
高天原の声:潜水艇全艦隊に告ぐ。
後方より敵襲。乗員は戦闘態勢に就け。
繰り返す。後方より敵襲。
乗員は
奈美:敵襲って――……
詠:モニタ、艦外映像を――
(艦外モニタに映ったのは、巨大貝が潜水艇ミノガメを一呑みにする光景だった)
奈美:お化け貝……!
詠:潜水艇を一呑みに……!?
(巨大貝に一呑みにされた潜水艇が、内部で反撃の魚雷を発射する)
(深海に爆発の火球が浮かんだ後、砕け散った貝殻と鉄鋼板が藻屑となって漂う)
奈美:やったあ! 魚雷一発轟沈――!
詠:バカね。お化け貝を倒すのに潜水艇が相撃ちよ。全然割に合わない。
高天原の声:一番艦隊ならびに二番艦隊、浮上開始。
三番艦隊以下は
一番、二番艦隊の上陸を支援する。
三番艦隊以下は、先発艦隊が上陸を終えるにつれ、随時浮上態勢に入る。
奈美:あたしら何番艦隊――!?
詠:二十二番艦隊……
奈美:びりっけつじゃん――!
最後尾は死ねってこと――!?
詠:水中活動用の
基本
奈美:このまま死ねるかっての――!
詠、武器倉庫に行くよ――!
詠:うん――!
□6/暴風の後の空、打ち寄せる波を見晴らす『新大陸』の畔
アトラ:穏やかな風と波音だ……
だがあれほどの大地震の直撃を受けながら、ポセイドンの『潮の雨』は静かに肌を湿らせる――……
アトラ:わからぬ……
パンゲアとは……ポセイドンとは……
この浮上した新王国は、新大陸は……
レムリア様は……
シャルルオルカ:いやはや、凄まじい大海嘯でした。
さすがの『ムー』も疲弊したようです。
あの
アトラ:そなたは……! 放浪の文士――!
シャルルオルカ:ご機嫌麗しゅう、神官殿。
そうそう、申し遅れました。
小生、シャルルオルカと申します。
アトラ:J・タニザキではなかったのか――?
シャルルオルカ:それは親愛を込めて呼んでもらいたい、ペンネームでございます。
アトラ:文士シャルルオルカよ……教えてくれ……
この新王国では、全てが狂っているのか……?
それとも狂っているのは、この私なのか……?
シャルルオルカ:いいえ、正気です。
神官殿も、幾万の国民全ても。
皆、正しく理性を保ち、平穏に暮らす常識人です。
自らの見ている世界――夢の世界に於いては。
アトラ:夢――?
シャルルオルカ:夢でございますよ。
このレムリア王国は、白日夢の中に暮らす夢遊病者の王国。
神官殿は、その夢のほころびを見つけてしまったのですよ。
アトラ:私もそなたも夢の世界の住民だと申すのか?
シャルルオルカ:左様にございます。
夢の王国レムリアに於いて、唯一人眠らぬ者。
半眼に
プリンセス・レムリアその人こそ、理性の上に狂気の夢を見る、レムリア王国唯独りの狂人です。
アトラ:では、立て続けに王国を襲った海魔は――?
それを追い払ったレムリア様の数々の奇蹟は――?
シャルルオルカ:襲う? これは愉快なジョークですな。
襲われているのは、彼らのほうですぞ。
世界に降り続く『潮の雨』と、海を塗り潰す『新大陸』――
白日夢の王国に侵略を受けた、現実の王国が使者を送ったのですよ。
そして無惨に殺されたというわけです。
夢見る女王と、夢に囚われた王国の民に。
アトラ:…………
文士シャルルオルカ。
そなたの眼には、このレムリア王国はどう映る……?
シャルルオルカ:それは言えませんな。
夢は夢と気づいた途端、現実から絵空事へ消えゆきます。
真実を聞くことは、目覚めに等しいのです。
アトラ:…………
真実を。
夢から覚めた現実を。
シャルルオルカ:宜しいのですかな?
夢は夢と気づかなければ現実です。
幸福な夢を見続けるのも、また一つの賢き選択です。
アトラ:レムリア様は……真実の世界を見ておられるのだろう?
シャルルオルカ:左様で。
アトラ:真実と向き合う選択も、夢の世界の鎖国を選ぶことも――
レムリア様と同じ目線に――真実を見てこなければ、あの御方に何も申せぬ。
あの御方の与えた夢に微睡むのではなく、共に真実を見据えることこそ……
私の忠誠だ。
シャルルオルカ:おお、何と涙ぐましい忠義の誓い――!
このシャルルオルカ、哺乳類の熱い血が燃えたぎって参りました――!
微力ながら貴殿の熱意に力添え致しますぞ――!
アトラ:この翠緑の真珠は――?
シャルルオルカ:ささやかな贈り物でございます。
アトラ:…………?
シャルルオルカ:(神官殿、聞こえますかな?)
アトラ:脳裏に声が――……!?
シャルルオルカ:(この
(小生と貴殿は、風呂でもトイレでも房事の最中でも、いつ
アトラ:…………
そなたを賢者と讃えようと出てきた言葉は、水泡に帰した……
シャルルオルカ:(本能のまま腰を振るだけでは、ただの畜生と同じ)
(倒錯した性愛こそまさに
アトラ:…………
それで私は何を――?
シャルルオルカ:取り急ぎは外敵の殲滅ですな。
アトラ:――――!?
(神官アトラの目に映ったのは、荒れ狂う海面に揺られながら、徐々に質量を増していく、場違いに出現した氷山)
(氷の山体を揺さぶる波濤も凍りつき、巨大氷山は氷河となった海面を砕きながら大陸に進撃してくる)
アトラ:氷山――!?
何故こんなところに――……!?
シャルルオルカ:デルモネリゾン。
これまたユニークな
アトラ:波が……海が凍る……!
大海が凍り……氷河の大地が生まれていく――……!
レムリア様の力が途切れた瞬間を狙ったのか――!?
あの水平線の彼方に出現した海魔は……!!
シャルルオルカ:囮ですな。
『ムー』の圧倒的な力を見せつける示威行動でしたが、
何のことはありません、ただの自慰に過ぎませんでした。
比喩ではなく、本物の自慰であれば……!
妙齢の女性だけに惜しかった、じつに惜しかったですぞ――!!!
アトラ:氷河と大陸が繋がった……!
シャルルオルカ:氷河の下からも来客ですな。
(広大な氷床大地を突き破り、一角魚の群れが次々と姿を現す)
(氷床大地に乗り上げた一角魚の腹を食い破り、現れる岩塩の魔人たち)
アトラ:岩塩の海魔――!!
シャルルオルカ:おお、さすがはデルモネリゾン。
氷上用の
本土上陸まで時間の問題ですぞ。
アトラ:くっ……
王都アクロポリスに戻るべきか――?
しかし私は追放された身――……
どうすれば……
シャルルオルカ:次回予告――!
美少女
『新大陸』の行く末は――!?
面白いと思った読者諸氏は、是非超音波ネットワークに拡散を。
あ、そうそう。
次回の
連絡はこちらの周波数まで。
ではでは、しばしのお別れです。
アディオス。
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