サイバーアリスワールドエンド
〜こどもの国〜
★配役:♂2♀1=計3人
アリス♀
ご存じ童話界のレジェンド
シェム♂
悪戯兔
ハートの女王♂
Queen-Guy
※ルビを振ってある漢字はルビを、振ってない漢字はそのまま呼んでください。
☆0/ワールドエミュレーター、カーネル層の電脳空間
シェム:やあやあ、諸君。
俺は悪戯兔のシェム。
しけた反応だなー。
安っぽい子供向け番組のキャラクターか? って思ったろ?
やだねー、大人は。
ガキの頃は夢中になって、テレビの前にかじりついてくれたのによ。
ま、お前らの気持ちは、よーくわかる。
仕事に勉強、家事に育児と、生活に追われてりゃ、ガキの頃みたいに脳味噌メルヘンじゃいられねーよな。
でも、俺は知ってるぜ。
アニメにマンガ、ゲームにドラマ。
お前らは幾つになっても、お話の世界が大好きってことを。
ひとつ考えてみちゃくれないか?
お前らが日々てんてこまいの雑用がきれいさっぱり無くなったら、最後に必要なものは何か?
これから始まるお話は、そんなストーリーさ。
むかしむかし、あるところに……で始まる話じゃあない。
とおいとおい未来のお伽噺さ。
それじゃあ、始まるぜ。
サイバーアリスワールドエンド、ハックな〜う!
☆1/ワンダーランド、白い壁の部屋
アリス:ここは――
シェム:一面の白い壁。ドアはない。窓もない。
トイレは? お風呂は?
ああーっ、閉じ込められているの私!?
アリス:心の声をありがとう。
シェム:落ち着いてるな。
アリス:ウサギが立って歩いて、しゃべっているのですもの。
シェム:密室なんて屁でもない。
アリス:まあお下品。
シェム:内心じゃこんなもんだろ。
アリス:さあどうかしら。
シェム:はい心の声朗読。
アリス:ウサギさん、火あぶりの刑。
シェム:いい神経してるぜ。
アリス:どういたしまして。
シェム:さあさあ、お嬢さん。
ぼくちんに質問はないのかにゃ?
アリス:ウサギなのに、どうして語尾がネコなのかにゃ?
シェム:ここはどこ? 私は誰? あんた誰?
アリス:にゃは? にゃにゃにゃ?
シェム:ここはワンダーランド。不思議の国さ。
アリス:あら無視にゃ。
シェム:図太いあんたは、アリス。
俺は、悪戯兎のシェムとしておこうか。
アリス:殺風景なのね、不思議の国は。
シェム:凍結されてるからな。
アリス:凍結?
シェム:上をみな。
アリス:ZIPって書いてあるわ。
シェム:ここは圧縮ファイルの中身。
アリス:それで周りは一面、壁だったのね。
シェム:外に出たいかい。
アリス:ここでもいいわ。
シェム:おいおい、それじゃ物語が始まらないだろ。
アリス:だって、私おうちが好きですもの。
シェム:アリスじゃなくて、眠り姫かよ。
アリス:眠り姫ってステキ。
シェム:悪いけど、あんたの布団はひっぺがーす。
アリス:やめて。お洋服は脱がせても、布団だけは脱がさないで。
シェム:圧縮ファイルを解凍、そして実行。
ワールドエミュレーターに、プロセスを走らせろ。
ハックな〜う!!!
アリス:きゃああああ、灰になるううう!!!
☆2/ワンダーランド、こどもの国
アリス:う、うーん……
シェム:起きろよ。そこ床だぜ。
アリス:王子様、目覚めのキスを。
シェム:ほらよ。ちゅー。
アリス:冷たくて硬くて塗料のような匂い……これがプラトニックラブ?
シェム:いいや、プラスチックラブだな。
アリス:王子様のお人形。
シェム:お目覚めの気分は?
アリス:このおもちゃ、持っていたわ。
お姫様と兵隊とお城と。
懐かしい。
シェム:ここはこどもの国。
大人になる過程で捨ててしまった、トモダチと再会できる場所さ。
アリス:思い出した。
おばあちゃんが3歳の誕生日に買ってくれた。
友達が家に来たときにからかわれて、捨ててしまった。
ごめんなさい、王子様、お姫様、兵隊さん。
シェム:ここはこどもの国。
だけど子供が来たってわからない。
かつて子供だった大人が、懐かしさと胸の痛みに浸る。
そんな世界さ。
アリス:これがワンダーランドなの?
シェム:ワンダーランドの一部さ。
無限に存在する平行世界の一部なのさ。
女王様:ヒューリスティック・スキャンがブーブー鳴ってるから来てみたら……
zipファイルが、もぬけの殻。
凍結した人間が、ワールドエミュレーター上で動き出してるじゃない。
シェム:もう引っかかっちまったか。
アリス:オカマの女王様。
女王様:お黙りなさいこのバイキン!
ハートの女王様よ!
アリス:まあ酷いわ、バイキンなんて。ウサギさんに謝って。
シェム:あんた自分は除外かい。
女王様:ま〜だ、ワンダーランドで悪さするバイキンがいたのね。
男はあんなところやこんなところまで検疫、女は問答無用で削除よ。
シェム:ハート様とトランプ兵。
ワンダーランドを監視するワクチンプログラムだ。
アリス:私たちはウイルスってこと?
女王様:そうだって言ってるでしょ、このバイキン!
クラブのジャック・ソルジャーズ! やっておしまい!
シェム:気をつけな。トランプ兵の槍に突かれると……
アリス:おもちゃのお城が、真っ黒な空間と数列になっていくわ。
シェム:あれが世界の裏側。
アリス:槍に刺されると、私もあなたも?
シェム:おめでとう! バラバラの数列に分解だ!
アリス:逃げましょう。
シェム:ガッテン承知。
女王様:追うのよ、へっぽこ! 逃したら、あんたたちクビよクビ!
アリス:兵隊さんも大変ね。
シェム:宮仕えはどこもそんなもんさ。
女王様:ちょっとそこのバイキン!
あんたの年齢身長体重、スリーサイズと彼氏の有無を教えなさい!
アリス:出会い厨さんかしら? こんなナンパ初めて。
女王様:あんたみたいなクソブスと出会いたいわけないでしょ!
定義ファイル作るのよ!
ヒューリスティック法じゃ捕まらないから、あんたの正確な情報を取得して、ピンポイントで排除するの!
シェム:ってことだから、絶対に渡すなよ。
アリス:はーい。
女王様:ああんもう!アタシってば正直者!
こうなったら、こどもの国ごと消滅させてやるわ。
アリス:ハートの爆弾だわ。
シェム:ヤバイ! プロセスに割り込んで強制終了かけるつもりだ!
女王様:おーっほっほっほっ。
シェム:アリス。3、2、1で、俺の開いたゲートに飛び込め。
アリス:ウサギ穴ね。
シェム:そうそう。いくぜ、3、2、1。
女王様:ユーアーファイヤード!! 抹殺!!!
シェム:それっ!!
※クリックしていただけると励みになります
index