円卓外伝-サタンの黄金 後編-
★配役:♂3♀3両1=計7人
▼登場人物
ガウェイン=ブリタンゲイン♂
二十一歳の機操騎士。ブリタンゲイン五十四世の一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン陸軍少将。
北米十三植民地の
自身も魔導装機乗りとして最前線で戦い、大英帝国の英雄として国民の圧倒的支持を得た。
しかし北米十三植民地がフリードニア合衆国として独立した後は、国内の評価は二分される。
帝国主義と長引く戦後不況の元凶とされる一方、極右政党『鉄血党』からは熱狂的な支持を得ており、
オルトヨーゼフ教では第二使徒ヨーゼフの再臨≠ニまで崇められている。
ガウェイン本人の意思とは無関係に、大英帝国分断の象徴となっている。
魔導装機:専用重量型〈グレートブリテン〉
ランスロット=ブリタンゲイン♂
十八歳の聖騎士。ブリタンゲイン五十四世の二番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、オルドネア聖教の魔導装機隊『クルセイダーズ』の隊長も務める。
正妻アルテミシア皇后の子。
信仰篤く、文武両道にして、金髪碧眼の美男子。
まさに大英帝国の完璧なる皇子であり、皇位継承権は二位ながら、次代皇帝に望む声は高い。
魔導装機:特殊中量型〈シルバーテンペラー〉
魔導具:【-
魔導系統:【-
ケイ=ダリオ両
十三歳の
しかし学校には行かず、
ブリタンゲイン五十四世の庶子であり、皇位継承権は持たない。
母親は城で働いていた元侍女で、ケイの幼少期から精神を病んでいる。
ディアンナ=マーテル♀
十九歳の魔導技師。防塵眼鏡と作業着のドワーフ女性。
ドワーフ王家の末裔で、クロノ=マーテルの実妹。
魔導装機『スコロペンドラ』を一人で造り上げた、腕利きの技術者。
『スコロペンドラ・ギガンテア』のサブパイロットも務める。
言葉遣いは荒っぽいが、兄クロノと違い、優しい性格。
ドワーフは、エルフと同じく、完全な魔因子を持つ種族。
魔力を生成する〈魔心臓〉のみならず、額に魔法を使うための〈魔晶核〉を有する。
ただし、ディアンナは魔法の修養を積んでいないため、魔法の行使はできない。
ドワーフ族は、オルトヨーゼフ教では被差別人種に分類され、『
クロノ=マーテル♂
二十四歳の
ドワーフ王家の末裔で、髭面と短躯のドワーフ男性。
魔導装機『スコロペンドラ・ギガンテア』のメインパイロット。
植民地連合で結成された『黄金同盟』の盟主であり、宗主国である大英帝国の打倒を掲げる。
魔導装機:専用戦車型〈スコロペンドラ・ギガンテア〉
魔導系統:【-
チェアマン♀
黄金の
暗黒金融街ゴモラ街の違法取引所『シティ』を取り仕切る、金融マフィアの会長。
長身痩躯で、年齢も人種も不詳。声で唯一、女性とだけわかる。
その正体は、旧タルタロス跡地の地底深くの黄金宮殿で眠る、黄金の邪龍の化身。
かつて千年王国エルサレムを襲撃した、
ログレス暗黒金融街のボス、黄金仮面の麗人チェアマン。
黄金の邪龍に姿を変えた、欲深き錬金術師ファーヴニル。
オルドネアの第四使徒テラの錬金術を支えた、真の第四使徒。
その全てが彼女である。
シスター・カミラ♀
二十三歳。
新興宗教オルトヨーゼフ教の修道女で、『
極右政治団体『鉄血党』の党首でもあり、庶民院の最大野党として、国政への影響力を強めている。
オルトヨーゼフ教とは、本流のオルドネア聖教ヨーゼフ派から派生した、新宗教。
第二使徒ヨーゼフを『
『鉄血党』はオルトヨーゼフ教を支持母体とする極右政党で、帝国主義への回帰や、奴隷制復活を政党公約に掲げている。
裏の顔は、元オルドネア聖教の異端審問機関『黙示録の堕天使』の一人『赤錆のカマエル』。
前階級は第六位の『能天使』であり、戦闘員の中核となる、
能天使は別名アイアン・パワーズ≠ニ呼ばれ、生体にバイオマテリアルを埋め込まれ、過酷な任務に就く。
魔導具:【-
□6
門番A 両
門番B 両
牢屋番 両
※クロノ、シスター・カミラと会話あり。
※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。
ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、当て字でルビを振ってある漢字(例:
□1/キャメロット城下層、地下牢獄
シスター・カミラ:ああ、神よ――
牢獄に囚われし、なんじの
能天使パワーズに、鉄の
ケイ:波が引いた時、誰が裸で泳いでいたかわかる。
ウォーレン・バフェット。
シスター・カミラ:――第五皇子ケイ!
何故お前が地下牢獄へ――!?
ケイ:第五皇子だからだよ。
シスター・カミラ:お前は皇族の身分を放棄したはずでしょう。
ケイ:しかし公表はされていない。
シスター・カミラ:恥知らずめ――!
ケイ:使えるものは何でも使うまでさ。
シスター・カミラ:名誉ではなく、実利のみを追い求める――!
これぞアダムの林檎を
ケイ:精神鑑定で無罪でも狙っているのかね?
ログレス大虐殺――極右政党とカルト宗教による、異人種の大量虐殺。
あれだけ殺人を行えば、通常の裁判では、死刑以外ありえんからな。
シスター・カミラ:私は無実です。
民衆は愛国者である私を、聖女である私を支持している。
必ずや
ホーリーブラッド――!
正義は赤く血塗られている。
ケイ:これは本当に精神異常者かもしれんな。
まあいずれにせよ無駄なことだ。
裁判は開かれない。
君は異端審問行きだ。
シスター・カミラ:異端審問――!?
何故私が――!?
ケイ:帝国政府は国際社会の批難からさっさと解放されたい。
だが裁判は時間が掛かりすぎる。
よってログレス大虐殺に関与した、オルトヨーゼフ教および『鉄血党』の幹部を、オルドネア聖教に引き渡す。
異端者として異端審問の魔女裁判で迅速処刑。
シスター・カミラ:そんな、そんな……
我らオルトヨーゼフ教の
ケイ:今朝の新聞だ。
シスター・カミラ:
楽園の蛇
ケイ:異端審問に掛けられたバノンは、めでたく
信者どもは、バノンに全ての罪を押し付けて、被害者ヅラを決め込んでいる。
実に醜い。大笑いだね。
シスター・カミラ:あ、あああ……
ガウェイン
ガウェイン
私の
ケイ:ガウェインは失脚した。
ログレス大虐殺の火種を起こした責任を取り、自粛している。
近いうちに、円卓の騎士の座を
君の後ろ盾はもうどこにもいない。
シスター・カミラ:おお、おお……!!!
ケイ:いいザマだな。
波が引いて、丸裸で取り残された間抜けの醜態だ。
グッバイ、シスター・カミラ。
せいぜい行き先が天国であることを祈っているよ。
アーメン、ハハハ――
シスター・カミラ:…………
ケイ=ダリオ。
何故戻ってきたのです?
ケイ:新聞の号外だ。
シスター・カミラ:こ、これは……!?
神よ……お答えください……
何故このような
ケイ:――ちっ。
他人の不幸は蜜の味というが、こいつの不幸を見ても私の口座残高は回復しない。
これはポンドの上昇材料だ。
ディアンナ王女――君の行動力を見くびっていた。
シスター・カミラ:誉れ高き大英帝国の第一皇子ガウェインと――
卑しき
世界の
悪徳と欲望の街、ソドムとゴモラの腐敗が、ログレスを侵した――!
ケイ:こうしてはいられん。
ギルターポンドの為替相場を確認しなければ。
じゃあな。さっさと十字架に架けられろ。
シスター・カミラ:
黙示録は来たり――!!!
黙示録は来たり――!!!
□2/キャメロット城、応接の間
ガウェイン:新生タルタロスのディアンナ王女が、俺に面会希望だと?
ランスロット:はい。
着の身着のままで、教会の門を叩き――
聞けばログレス大虐殺の騒乱に巻き込まれたとのこと。
ガウェイン:――亡命か?
ランスロット:事情は対面してから話すと述べています。
いかがされます?
ガウェイン:――会おう。
ランスロット:では、応接の間にお連れします。
ディアンナ:――――
ディアンナ=マーテルです。
ガウェイン:ガウェイン=ブリタンゲインだ。
ランスロット:ランスロット=ブリタンゲインです。
ディアンナ:ガウェイン皇子、ランスロット皇子。
ご機嫌麗しゅう……
ガウェイン:
本題に入っていただこう。
ディアンナ:……あの。
わ、私と、結婚してください――!!
ガウェイン:…………
ランスロット:――――
ガウェイン:そのー……なんだ。
例えばお手洗いを貸してください≠ニか――
ディアンナ:ないよ、ブリタンゲイン語と一緒だよ――!!
ガウェイン:ん――!?
ディアンナ:あ――……
ブリタンゲイン語と同じ意味です。
ガウェイン皇子、私と結婚してください。
ガウェイン:…………
ディアンナ:
けど、どうかそこを堪えて――
ガウェイン:いや、貴女の容貌に不満があるわけではない。
ディアンナ:気を遣ってもらわなくても――
ガウェイン:貴女のそのバスト。
それは我々
ディアンナ:――えっ!?
ガウェイン:いや待て、誤解されるな。
これは言葉の綾というもので――
ランスロット:親睦も深まったところで、本題に戻られてはいかがですか?
ディアンナ:あ、ああ――
ガウェイン:ディアンナ王女、貴女の本意を聞かせてもらいたい。
ディアンナ:……それは、ガウェイン皇子も想像がついていると思います。
ガウェイン:政略結婚か。
ディアンナ:はい。
ガウェイン:わざわざ俺を指名したというのにも、合点がいく。
俺は白人至上主義の『鉄血党』が担ぐ
ディアンナ:…………
たとえ形だけでも、ガウェイン皇子とドワーフの私が婚姻関係を結べば、
このままじゃ
ガウェイン:――――
これは貴女の兄上――クロノ=マーテルの意向か?
ディアンナ:……兄は関係ありません。
ガウェイン:貴女の独断か。
ディアンナ:はい。
ランスロット:新生タルタロスの王女ではなく、
ディアンナ:それは――
ガウェイン:私人ということはあるまい。
どれほど私人と強弁しても、世界は新生タルタロスの王女ディアンナとして見る。
貴女もそう自覚している故、政略結婚に思い至ったのだろう。
ディアンナ:…………
ガウェイン皇子、お返事は――?
ガウェイン:新生タルタロスの国王――
帝国政府は、タルタロス自治区を国とは認めていないが――
クロノ=マーテル殿の合意を取り付けてから、改めて協議しよう。
ディアンナ:兄が認めるわけがありません――!
兄はドワーフだけど、分断で利益を得ている男だ。
ランスロット:これは
クロノ=マーテルは、
ディアンナ:自分たちが正義で、ブリタンゲインは悪……
ランスロット:極度に単純化した世界観――しかし単純であるが故に強い。
黄金同盟の大転換――グレートローテーションは、言ってみれば、
物価高騰に
だが、ここで兄上がディアンナ王女と婚姻を結べば、新しい
ディアンナ:…………
ガウェイン:ディアンナ王女、貴女はそれでいいのか。
ディアンナ:私は……このままでは取り返しがつかないことになると思って……
ガウェイン:――取り返しはつく。
新生タルタロスで、
ランスロット:兄上――!
ガウェイン:率直に言おう。
現政府の方針に不満があるからと、私的に敵国と交渉を進める。
俺はそういう
貴女が善良な
素朴な善意を政治利用することにもな。
ランスロット。
ディアンナ王女を、タルタロス自治区まで送って差し上げろ。
ランスロット:お待ち下さい、兄上――
――申し訳ない。
ディアンナ:……ご尽力、感謝します。
ランスロット:お力になれず、心苦しい限りです。
ディアンナ:……あの、私と結婚してくれませんか?
ランスロット:兄上と破談して、十分と間を置かずに私ですか?
ディアンナ:節操がないのはわかっています――!
恥を忍んでお願いします――!
ランスロット:婦人から求婚されるとは、男冥利に尽きます。
しかしオルドネア聖教のヨーゼフ派は、聖職者は生涯独身を奨励されておりまして。
ディアンナ:けど、ランスロット皇子の社交界でのご活躍の噂は色々――
ランスロット:独身主義とは矛盾しませんよ。
ディアンナ:えっ、それでヨーゼフ派に!?
ランスロット:冗談です。
ディアンナ:半分本気ですよね?
ランスロット:これは手厳しい。
ディアンナ:あの……私はこれからどうなるのでしょう?
新生タルタロスに送還されるのでしょうか?
ランスロット:まあ、それは後日改めて。
今日のところはお休みください。
客間にご案内します。
□3/新生タルタロス地底深く、黄金宮殿の跡地
(新生タルタロス地底深くの旧タルタロス王国、黄金宮殿の鎮座する黄金郷)
(黄金郷の大広場の中心で、水晶で串刺しになって鎮座する黄金龍の足元に、クロノとチェアマンの姿があった)
クロノ:ぬううううう――……
うおおおおおおお――!!!!
チェアマン:――驚いたね。
クロノ:……うはは。
どうじゃわしのテクニックは。
パンツが濡れ濡れじゃろ。
チェアマン:そういう君は、額をロストバージンしたのかい。
クロノ:――なんじゃこりゃあ!?
チェアマン:額の
他にも鼻血に、血の涙、無意識に舌を噛み切って、顔中血みどろだ。
クロノ:――ああそうかい。
……額が割れそうなぐらいガンガンしよる。
――ちとカッコつけすぎた。正直死にそうじゃ。
チェアマン:死にそうなだけで済んでるんだから、大したものだよ。
ザイフェルタイトの錬成中に命を落とした錬金術師は、数えたらきりがない。
君は紛れもなく、錬金術の真理に到達した
クロノ:えらく持ち上げるのう、ミダス王。
わしのポコチンは、オルドネア聖教並に博愛精神に溢れたご神体じゃ。
二本足で立っていて雌なら、アーメンザーメンじゃ。
あんたにもくれてやっても構わんぞ?
チェアマン:さて、ギルター金貨の相場だがね。
クロノ:
チェアマン:君のご神体が縮み上がるサプライズだ。
クロノ:……これは。
チェアマン:ギルター金貨、そして
クロノ:……何が起こった。
チェアマン:ブリタンゲイン帝国、フリードニア合衆国、ワラキア公国――
先進国が協調して金利を引き上げ、通貨防衛に乗り出した。
購買力の逃避先として高騰していた
クロノ:……
チェアマン:――どうかな。
世界は、
故に膨大な量の
だがもし誰かが聖書に書かれた
その時、世界は疑いの目を向ける。
新生タルタロスは、
クロノ:……急落しても、ギルター金貨には、まだこれだけの市場価値がある。
先進国連合の反撃にビビって、小口の投機家が蜘蛛の子散らして逃げていっただけじゃ。
錬金術の秘密は、まだ
錬金術の秘密を知っているのは、世界にたった三人。
わしとあんた、そしてわしの妹ディアンナ――
チェアマン:そのディアンナは、ブリタンゲインに身を寄せている。
クロノ:あいつはわしを売る真似はせん。
チェアマン:大した信用だね。
クロノ:……あのじゃじゃ馬め。
わしを困らせるにしても限度があるぞ。
チェアマン:ブリタンゲインの世論は、融和歓迎ムードだ。
ログレス大虐殺で、ドワーフに負い目があるからね。
今なら新生タルタロスの独立だって押し通るかもしれない。
クロノ:あのガウェインとかいう
チェアマン:ああ。
エルフの
ドワーフ族にも箔がつくだろう。
クロノ:あんたも悪党じゃのう、ミダス王。
ディアンナは、王女でもなんでもない、どこぞの馬の骨じゃぞ。
チェアマン:皆が価値があると信じれば、価値はあるのさ。
馬の骨でも、
クロノ:――いつから気づいとった。
チェアマン:女王テラに子供はいない。
テラ=マーテルの末裔を
勢いのあるドワーフの成り上がり者がマーテルの看板を掘り返してきた。
クロノ:何もかもお見通しじゃったか。
チェアマン:けれどクロノ、君は
知力、魔力、武力、カリスマ――比類なき名君の器だ。
クロノ:おだても過ぎると嫌味に聞こえるぞ。
わしは傭兵崩れの野良犬じゃ。
チェアマン:そう、君は野良犬だった。
人間だったら、宮仕えの身となっていただろう。
貴族階級だったら――皇族と婚姻を結ぶことも夢じゃない。
けれど、君は野良犬だった。
少なからぬカネと、贅沢な食事、美女をあてがわれ――功績は召し上げられた。
君とディアンナは、並外れた才能を持ちながら、その名声に輝き無し。
クロノ:
ずっとそれでやってきた。だがもう
胃袋が倍になるわけでも、キンタマが四つに増えるわけでもない。
大金を手にしても、いい女を抱いても、心の片隅で醒めていた――
ドワーフの王様、マーテル姓を名乗ったのは、物足りなさだったのかもしれん。
程度の低い欲望を満たすだけの人生から、もっと高次の欲望に手を伸ばしたい。
チェアマン:ドワーフの王様を飛び越えて掴んだじゃないか。
クロノ:あんなもの、
だがわしの皮肉を真に受けて、頭を下げにくる
あっという間に、本物の王様のように祭り上げられてしまった。
最初はそう思ったんじゃがのう。
なかなかどうして、悪くない。
チェアマン:君が本当に欲しかったのは、名誉だったのさ。
或いは
クロノ:わはは、そうかもしれん。今度ケツでも掘ってやるわい。
チェアマン:――蛮人王。
これは新生タルタロスの行く末を左右する、重大な決断だ。
ブリタンゲインと和平を結ぶか、徹底抗戦か。
王よ、ご下命を。
クロノ:…………
わしら
新生タルタロスは、ブリタンゲイン傘下の
晴れてわしは
ドワーフ一族も格上げされて、名誉白人にしてくれるかもしれん。
だがドワーフ以外の
奴らは今のまま、
蛮人王は、もはやこのわし、クロノ=マーテルの自称ではない。
チェアマン:あくまでブリタンゲインと戦うつもりか。
クロノ:
のう、そこの水晶で串刺しになった邪龍さんよ。
あんたも一緒に、大欲を
□4/帝都ログレス、ゴモラ街の会員制シガーラウンジ
ケイ:フゥ――
チェアマン:『モンテクリスト』だね。
ケイ:
チェアマン:暗黒金融街じゃ、君はすっかり有名人だよ。
ケイ:あなたのお陰で快適な
チェアマン:これが口座の引き出し分だ。
ケイ:どうも。小銭を切らしてしまってね。
チェアマン:ギルター金貨100枚を小銭とは言うようになったね。
ポンドに換算すれば、50000ポンド。
ちょっとした勤め人の年収分だよ。
ケイ:賃金の上昇が追いついていないだけさ。
今の50000ポンドは、一年前の1/5の価値もない。
チェアマン:新規の注文だがね。
ケイ:何か?
チェアマン:
元本の100倍のポジションを建てるなど――
相場が1%
ケイ:逆に言えば、1%上がるだけで資産倍増だろう?
チェアマン:頭の中で
ケイ:必ず勝てる、大きな賭けだ。
まあ見ていたまえ。
チェアマン:――ギルターポンドが
対ポンドだけではない、主要先進国通貨に対して、ギルターが
ケイ:フフフ、ハハハ――
私の読み通りだろう?
チェアマン:――ワラキア公国が、予想外の利下げを発表。
先進国の新生タルタロス包囲網に
君はこれを知っていたのか。
ケイ:久々に城に行った時に、目撃してしまってね。
帝国財務省の役人の怒声や哀願、会議室から凍てついた表情で出てきたワラキア公爵。
戦後不況の真っ只中、高金利と通貨高に耐えられるのは、フリードニア合衆国ぐらいだ。
ベルリッヒ連邦やパリス共和国も、ワラキアに
先進国の通貨防衛クラブは解散だ。
新生タルタロスの粘り勝ちだよ。
チェアマン:――――
ブリタンゲイン帝国、第五皇子殿はそう見ると?
ケイ:インサイダー取引の心配は要らんよ。
取り締まるべき政府機関は、もうじき破綻するのだから。
蛮人王クロノの大転換――グレートローテーションに飲み込まれてね。
チェアマン:オルドネア聖教が
ケイ:私もリスクシナリオとして検討した。
だがそれは起こり得ないと結論した。
オルドネア聖教は、ブリタンゲイン帝国を見殺しにするつもりだ。
チェアマン:――大胆な予想だ。
一体どういう根拠で?
ケイ:考えれば何も不思議なことはない。
オルドネア聖教は、千年王国時代からの遺産で、世界有数の
新生タルタロスには、内心では感謝しているのではないか。
一方のブリタンゲイン帝国は、分派した新興宗教のオルトヨーゼフ教が席巻。
民衆の支持を集めていた。
異端認定している本家オルドネア聖教には、不愉快極まりない状況だ。
オルドネア聖教側には、救済する動機がまったくない。
むしろ新生タルタロスと結託して、帝国を窮地に追いやっている黒幕という噂まである。
チェアマン:それは陰謀論ではないかね?
曲がりなりにも、初代皇帝アーサーは、オルドネアの第三使徒だ。
ケイ:まあ、陰謀論だろうね。
なにせ噂の出どころは『鉄血党』の残党だ。
しかしこれでますますオルドネア聖教に、救済の理由は消える。
テコ入れに乗り出せば、
それで割りを食った連中が、宗教の政治介入だと陰謀論に加担する。
オルドネア聖教からすれば、帝国が落ちぶれるところまで落ちぶれて、自ら泣きついてくるのを待つ方が得策だ。
その時が、私のポジションを利益確定するタイミングだろう。
チェアマン:驚いたね。私も同じマクロ展望だよ。
ケイ:あなたと同じ結論とは心強い。
チェアマン:第五皇子とはいえ、庶子で皇室入りしているわけでもない君がよくそこまで深謀を巡らせた。
まさしくオルドネア聖教の親帝国派が、介入の方針をまとめきれず、手をこまねいているところだ。
その才能で世に出るつもりはないのかい?
ケイ:個人が狂うことはあまりないが、集団はだいたい狂っている。
フリードリヒ・ニーチェ。
率先して、狂人になる趣味はないね。
チェアマン:それも道理だ。
しかし個人で満たせる欲は限られる。
やがて君も集団に関与したくなるだろう。
ケイ:100%ない。
猿山のボスをやるぐらいなら、ロビンソン・クルーソーを選ぶよ。
チェアマン:衣食住に不自由しない、都会のロビンソン・クルーソーだろう?
ケイ:ははは、その通りだ。
先進国では、カネこそが自由――
ドストエフスキーの言う通り、貨幣とは
さあ、破綻
錬金術に魔法はいらん。紙くずで
□5/キャメロット城、聖フィリポス聖堂
ディアンナ:聖フィリポス聖堂――
城の中庭の片隅にぽつんと建てられている……
チェアマン:ブリタンゲイン帝国と、オルドネア聖教の関係を象徴しているね。
ディアンナ:ミダス王――! 神出鬼没だなー。
チェアマン:ビジネスのついでに立ち寄ったのさ。
第三使徒フィリポスは、昔の同僚に当たるからね。
ディアンナ:――兄貴は?
チェアマン:絶縁宣言。公式発表の通りだ。
ディアンナ:帝国政府は、おれの扱いに困ってるみたいだ。
揉め事になりたくないから強制送還しろって派閥と、交渉材料に留めておけって派閥で割れている。
チェアマン:君は微妙な立場になってしまったね。
ディアンナ:……黄金同盟から、離反する植民地が出てくると思ってた。
……新生タルタロスが勝手に独立宣言しても、世界中から総攻撃を受けて潰されるとも。
――あんな結束が固いとは思わなかった。
チェアマン:君はクロノを守りたかったんだね。
ディアンナ:誰があんなバカ兄貴のことなんて――!
極悪非道で下品で残忍で――
チェアマン:身を寄せ合って生きてきた、たった一人の兄妹だろう。
ディアンナ:…………
チェアマン:
酒を飲んでは酔って暴れ、妻と幼い子供二人に、やり場のない
ディアンナ:泥まみれで黄金を探して、クソまみれの人生だ
チェアマン:僅かな障害手当を使い尽くすと、兄妹は奴隷商人に売り飛ばされた。
兄は父親と同じ、過酷な鉱山労働。
妹は鉱山街で、子守と飯炊き。
ある日、兄は妹に悪戯をしようとした鉱夫仲間をつるはしで殺害。
兄妹は鉱山街を逃げ出し――
ディアンナ:――兄貴から聞いたのか。
そうだよ、ドワーフ王家の末裔なんて嘘っぱちだ。
兄貴はオヤジから聞いたなんて言ってるけど、あんな飲んだくれの言うことなんて――
チェアマン:いいや、本当だ。
君とクロノは、第四使徒テラの末裔だよ。
ディアンナ:――冗談だろ?
チェアマン:私はテラを間近で見てきた生き証人だ。
女王テラは子供を残さなかったけど、テラの弟は子供を残した。
テラ=マーテルの魔因子は、子孫たちに脈々と受け継がれている。
ディアンナ=マーテル。
君は正当なる誇り高きドワーフの王女だ。
ディアンナ:おれが……本当にドワーフの王女……?
チェアマン:そうでもなかったら、私がここまで力を貸す道理はないだろう?
ディアンナ:兄貴に騙されてるのかと――
チェアマン:私を誰だと思っている。
ディアンナ:…………
さっき、第四使徒テラの肖像画を見た。
黄金の仮面、輝く義手。
背格好は小柄でドワーフだとわかるけど――
ミダス王そのまんまじゃないか。
チェアマン:――――
ディアンナ:第四使徒テラ、欲深き錬金術師ファーヴニル、
地底深くの、旧タルタロス王国跡地で見た、水晶で串刺しになった黄金龍――
聖書の登場人物たちの関係性がまるでわからない。
あなたは――本当は誰なんだ?
ランスロット:――私もぜひお聞かせ願いたい。
ディアンナ:ランスロット皇子――!
ランスロット:慌てなくていい。
ログレス暗黒金融街の会長殿が、新生タルタロスの財務大臣も兼ねていることは存じ上げています。
チェアマン:ディアンナ、席を外してくれ。
私はこの聖騎士様と話がある。
ディアンナ:――えっ。
ランスロット:ディアンナ王女、
兄が円卓の騎士の座を辞すると、聖剣を返納した。
どうにか撤回するよう、引き止めていただけないでしょうか?
ディアンナ:ガウェイン皇子が――!?
けど……
チェアマン:心配は無用だ。
ランスロット:私の身を案じてくれているのかもしれませんよ。
チェアマン:私は君の知る人物の中で、最も強い。
何も心配することはない。
ディアンナ:……わかった。
ふたりとも、また――
(ディアンナが聖堂を去った後、無人の礼拝堂で向かい合う両者)
ランスロット:――さて、貴方のことを何とお呼びすればよろしいのか。
ミダス王?
ファーヴニル?
真の第四使徒?
チェアマン:好きなように呼べばいいさ。
ミダス王の伝説だって、多分に脚色されたお伽噺だ。
私は名もなき錬金術師に過ぎない。
ランスロット:では聖典の
千年前、真の第四使徒は別人格だったことを見抜けなかった。
それはペテロ、ヨーゼフ、フィリポス――聖三使徒の大きな過ちでした。
まさかテラの嵌めた仮面と義手が、真の
チェアマン:流石は皇子様だ。
オルドネア聖教の枢密に触れている。
ランスロット:何故テラは
金貨のみが正貨だった時代――
錬金術は、まさしく無から購買力を創造する、真の通貨発行益でした。
中央銀行の通貨発行益など、国債の金利収入を言い換えた、欺瞞でしかない。
チェアマン:錬金術の存在を
千年王国のやり口についていけなくなったのさ。
ランスロット:その献身には、十分に報いたはずです。
ドワーフの王国、地底王国タルタロスを与えた。
テラは、ドワーフからの突き上げに屈しただけではないですか?
千年王国と同じ蕩尽が出来るほどの黄金を、自分たちにも分け与えよと。
チェアマン:そうかもしれないね。
けど、
その希少性の喪失から、錬金術の実在を信じる者が出てくるのは、必然だった。
ランスロット:テラは良貨を悪貨に
その罪は、千年王国を揺るがす大罪だ。
チェアマン:だからペテロとヨーゼフは、テラを――
ランスロット:異端として、審問はしました。
しかし殺害するつもりはなかった。
テラを殺したのは貴方だ。
チェアマン:拷問と
テラは私に死を願った。
そして錬金術と黄金の遺産を、永遠に地底に葬り去るよう、遺言を残した。
ランスロット:しかし貴方は、遺言に従わなかった。
テラの遺志を継ぐ錬金術師を名乗り、黄金の邪龍の
それが貴方だ、ファーヴニル。
チェアマン:――君は、次期教皇の候補者か?
ランスロット:まさか。私ごときが聖ペテロの名を継ぐなど恐れ多い。
チェアマン:――ランスロット皇子、君の
ランスロット:世界の平和と
チェアマン:何故、新生タルタロスへの締め付けを強めている?
『鉄血党』を
ランスロット:
私は天秤の傾きを見ている。
それが
私はタカでもハトでもない。
あえて言うならば――私は
(教会の空間がひび割れ、虚空から出現した銀鎖が、背広の黄金仮面を捕縛する)
チェアマン:虚空から現れた鎖が――
お前は――!?
ランスロット:新生タルタロスは力を持ちすぎた。
身に余る力は、戦乱の火種となり、混沌を振り撒くであろう。
天秤の傾きは修正されなければならぬ。
チェアマン:ランスロット皇子が、白銀の甲冑に覆われていく……
その光輪、十二枚の翼……
ああ……お前は――
ランスロット:神の威光を超えて輝こうとする黄金よ。
汝から光を奪う時が来た。
我は汝に敵対する。
チェアマン:第二使徒、ヨーゼフ――……!!
ランスロット::灰は灰に、塵は塵に。
黄金を
裁かれよ。
無国籍通貨、
汝、まつろわぬ
□6/キャメロット城、裏門
門番A:止まれ。何用だ。
修理工:ヘエ、メイド長様より流しの排水詰まりで、すぐ駆けつけるよう
門番B:貴様、ドワーフか。
門番A:身分証を見せろ。
修理工:ヘエ、こちらです。
門番A:確かに。
門番B:いいのか、ドワーフだぞ。
門番A:仕方あるまい。配管工のほとんどはドワーフだからな。
門番B:チッ。厨房まで案内する。ついて来い。
修理工:ヘエ、ありがとうございます。
(裏門を抜け、搬入通路へ通される)
門番B:帝都大暴動――
あれでどれだけのブリタンゲイン人が被害を
わかっているのか。
修理工:ヘエ、すみません。
門番B:新生タルタロスなんて国が出来たんだ。
ドワーフはさっさと国へ帰れ。
修理工:おう、言われんでもそうするわい。
(搬入通路の地面から、コーサイトを錬成したクロノは、珪素の斧を力任せに振るう)
門番B:地面から斧を――!?
ぐああっ――!!
(砂地に門番の死体を放り投げると、すり鉢状の穴が穿たれ、みるみる飲み込まれていく)
クロノ:さて、一仕事始めるかのう。
(光子石の魔力光が灯る地下牢で、牢屋番のあくびが響き渡る)
牢屋番:ふあああ〜……今日も平和だな。
クロノ:こっちじゃったかのう?
牢屋番:ドワーフの職人かい?
ここは政治犯が
厨房はあっちのほうだよ。
クロノ:おお、ここか。
牢屋番:その手に握った斧――
全身返り血に塗れている……
クロノ:静かにせい。大人しく従えば命は取らん。
わしと一緒に来てもらうぞ。
(光射さぬ地下監獄の奥で、祈りを捧げているシスター・カミラ)
シスター・カミラ:
シスター・カミラ:――――
騒がしいですね――何事ですか?
クロノ:凶悪犯の諸君――!! 元気にしとるか?
わしはクロノ=マーテル。新生タルタロスの国王じゃ。
たった今、わしが諸君らに
見事、キャメロット城を脱獄して、わしの国へ逃げてこい。
ブリタンゲイン皇族の首を持ち帰った者は、首一つにつき100万ギルター!
ブリタンゲイン皇帝、第一皇子ガウェイン、第二皇子ランスロットなら、首一つ1億ギルターじゃ――!
一生遊んで暮らせるどころか、城も買えるぞ。
(唖然としていた囚人たちは、沈黙とざわめきの後、大歓声となってクロノを歓迎する)
クロノ:武器は用意した――!
奮って狩りに参加してくれい――!!
さあ、釈放じゃ――!
ほれ、さっさとせい。
牢屋番:ああ、なんてこった……
クロノ:まあ泣くな。
どうせ帝国にはいられんじゃろ。
新生タルタロスに来い。
シスター・カミラ:…………
クロノ:政治犯の監獄に、白人の女――?
おどれは――
シスター・カミラ:おお、クロノ様――!
私はカミラ。
『鉄血党』の党首カミラです。
私にこのような仕打ちをしたランスロットに爆炎の
私を見捨てた民衆に、血塗れの正義を――!!
どうか私に牢獄より羽ばたく翼をお与えください――!!
クロノ:そうかそうか。
昔のことは水に流そう。
存分に戦ってくれ。
シスター・カミラ:何と寛大なるお言葉――!
必ずや貴方に
私はカマエル。
その別名を復讐の天使。
屈辱に噛んだ唇を
必ず復讐を果たします。
必ず――
□7/七賢者の祭殿
ディアンナ:ガウェイン皇子――!
ガウェイン:――ディアンナ王女か。
ディアンナ:聖剣は? ガランテインは?
ガウェイン:返納した。
ディアンナ:それって――!
ガウェイン:円卓の騎士を辞めてきた。
ついこの間、同じ件で
ディアンナ:そんな……皇位継承権を放棄したのか……
ガウェイン:故に
私は一人の軍人として、祖国に尽くす所存だ。
ディアンナ:ログレス大虐殺の責任を取ってか?
ガウェイン:直接の理由はそうだが、それだけではない。
ディアンナ:……あなただけが悪いわけじゃないだろう。
ブリタンゲイン国民だって、『鉄血党』を支持していた。
ガウェイン:国民と皇子では、その権限も重みも違う。
私の保身が、祖国の名誉を
ディアンナ:そんなことはない! あなたは民を守った!
ブリタンゲイン人だけじゃない、ドワーフや他の異人種も区別なく――!
ガウェイン:貴女がそこまで
ログレス大虐殺の現場を見たわけではないだろう。
ディアンナ:見た。
おれはあの現場にいた。
あなたに命を救われた。
――覚えてないか?
ガウェイン:……貴女はあの時のドワーフか!
いやすまなかった。
あの時とは、服装も随分違っていたのでな――
ディアンナ:いいって。
ついでに言っちゃうと、もっと前から知ってたんだ。
わかるか?
ガウェイン:……二年前のフリードニア戦役か?
ディアンナ:当たり。
ガウェイン皇子とも戦ったんだ。
スコロペンドラ、あれ複座式なんだぜ。
ガウェイン:とすると、俺を負かしたのは――貴女か!?
ディアンナ:操縦はほとんど兄貴だけどな。
ガウェイン:……驚きで言葉が出ない。
ディアンナ:へへへ。
あなたのことは、ずっと前から知っていた。
世間じゃ白人至上主義の筆頭のように言われてるけど、本当は違うんじゃないかと思ってた。
ガウェイン:……確かに俺は、『鉄血党』を積極的に支持していたわけではない。
だが表立って異を唱えることはなく、黙認していたのも事実だ。
ディアンナ:それが普通じゃないか?
普通でいいんだよ。
おれは哀れんだり、優遇して欲しいわけじゃない。
ガウェイン:……時にディアンナ王女。
貴女は魔導装機開発に造詣が深いと聞き及んでいるが――
ディアンナ:造詣が深いっていうか、
ちゃんと勉強したわけじゃないし……
ガウェイン:
ディアンナ:魔導戦車スコロペンドラ、あれを作ったのはおれなんだ。
ガウェイン:たった一人でか!?
ディアンナ:一人っていっても、兄貴の尻叩いて手伝わせたし、機関部は他の技師に頼んだけど――
ガウェイン:……信じられん。
貴女は素晴らしい技師だな。
ディアンナ:そ、そんなことないって!
それよりグレートブリテン。
あれこそ凄い機体だよ。
ガウェイン:――グレートブリテンか。
気づいているだろうが、あれは試作機なのだ。
ディアンナ:火器管制システムが未完成なのか?
ガウェイン:ああ。
ディアンナ:あんな頑丈そうな機体がか――!?
一体どんな
ガウェイン:すまないが、これ以上は国家機密だ。
ディアンナ:ちぇっ。
ガウェイン:曲がりなりにも貴女は敵国の王女だからな。
……少々喋りすぎた。
ディアンナ:じゃあ結婚しないか?
ガウェイン:唐突だな。
ディアンナ:結婚したら、おれもブリタンゲインの皇族だし。
なー、ガウェイン皇子。結婚しようよ。
グレートブリテン触らせて。
絶対今より良くしてみせる――!
ガウェイン:政略結婚が目的なのか、技師の好奇心が目的なのか、どっちなのだ。
ディアンナ:両方。
ガウェイン:欲深いな。
ディアンナ:ドワーフは強欲なんだ。
クロノ:――お楽しみ中、邪魔するぞ。
ディアンナ:兄貴――!!
クロノ:かーっ、見てられんユルユルっぷりじゃのう。
コーマンと一緒に頭もユルユルか。
おどりゃ、腐れ
よくもわしの妹をガバマンにしてくれたのう。
チンポのでかそうな顔しよって。
ガウェイン:……何と返せばいいのだ?
ディアンナ:あーっ! あーっ!!!
バカ兄貴の言うことは、全部無視してくれ――!
ガウェイン:蛮人王クロノ、此処が何処か知っての狼藉か。
クロノ:知っとるわい。ラブホテル・キャメロットじゃろ。
ガウェイン:よくぞそこまで、キャメロット城を愚弄してのけた。
単身乗り込むとは、蛮勇を通り越して自殺志願か?
クロノ:わしだけじゃ不満か。
そう言うと思ってのう、スケベ相手を沢山連れてきたわい。
ディアンナ:城内が騒がしい――
ガウェイン:囚人を解放したのか――!?
クロノ:わははは、乱交でもスワップでも好きなだけ楽しんでくれ。
その前に、わしを倒せたらのう。
ガウェイン:――くっ!
ディアンナ:ガウェイン皇子――!
クロノ:格好だけかと思ったら、実戦もなかなかやりよる。
ガウェイン:斧使いか。
怪力と俊敏さ。
強い。
クロノ:抜かせ。
怪力はおどれのほうじゃ。
コーサイトの斧が逝っちまったわい。
ガウェイン:俺は『太陽の騎士』――
陽光の下では、力が三倍になる祝福を受けて生まれた。
クロノ:ご立派なことじゃのう。
おどれが太陽の祝福を受けた騎士なら、大地と共あるドワーフの力も見せてやる。
ガウェイン:地面の砂が蛮人王に一体化していく……
岩石の武装外骨格か――!
クロノ:おう、やっとこのデカチンを見下ろせる背丈になったわい。
ガウェイン:岩の巨人……!
クロノ:ざっと身長二メートル半ってところかのう。
戦闘再開じゃ――!
ガウェイン:くっ、凄まじい剛力――!!
先ほどとは比較にならん――!!
クロノ:おどれの腕力は耐えられても、その剣は持たんじゃろう――!
どりゃああ――!!!
ガウェイン:しまった、剣が――!
クロノ:もらったあああ――!!!
ディアンナ:――――ガウェイン皇子!!
ガウェイン:ガランテイン――!?
ディアンナ:祭殿の奥から持ってきた――!
あんたの聖剣だ――!!
クロノ:ディアンナ、おどれ――!?
ガウェイン:感謝する――!
これがあれば――!
はあっ――!
クロノ:ぬおおっ!?
ガウェイン:蛮人王クロノ、俺も同じ魔法をお目にかけよう。
ディアンナ:鋼鉄の武装外骨格――!
ガランテインは、鋼鉄の錬金魔法を操る剣だったのか……
文字通り、鋼鉄の砦だ……
クロノ:『大英帝国の要塞』とは、よく言ったもんじゃ。
ガウェイン:武装外骨格を纏い、条件は互角。
ここからが本番だ。
クロノ:ほざくな。
単に手足を伸ばしただけかと思ったか。
わしの魔法のほうが格上じゃ――!!
ディアンナ:気をつけろ――!
兄貴の手足は、シリコンゴムの人工筋肉――!!
スコロペンドラと同じ、中距離から攻撃してくるぞ――!!
ガウェイン:助言感謝する。
だが岩よりも鉄のほうが――
ディアンナ:間合いに入った――!
ガウェイン:逆転だ、蛮人王――!
クロノ:――
ガウェイン:――ごはあっ。
ディアンナ:鉄塊のようなガウェイン皇子の武装外骨格を、貫いた……!?
クロノ:……切り札っちゅうのは、最後まで取っておくもんじゃ。
ディアンナ:ガウェイン皇子――!!
クロノ:やかましい。
帰るぞ、ディアンナ。
ディアンナ:兄貴、その顔……
クロノ:知っとったか。顔も痔になるんじゃ。
気張りすぎて血管が切れた。
ディアンナ:ザイフェルタイトの錬成――
クロノ:とどめを刺したいが、情勢次第じゃひっくり返されそうじゃからのう。
こいつを連れ戻すだけで良しとしとくわい。
ガウェイン:待て――!
ディアンナ王女をどこに連れて行く――!
クロノ:門限じゃ。デートの続きはまた今度にしとけ。
ディアンナ:ガウェイン皇子――!
ガウェイン:ディアンナ王女――!!
□8/キャメロット城、中庭
ディアンナ:下ろせ、下ろせ――!!
クロノ:デブは大人しくしとれ。
肩の上でマグロが跳ねてるみたいじゃ。
ディアンナ:うるせえ!
――!?
痛てて……
いきなり
おい兄貴?
クロノ:……ああ。
ディアンナ:真っ青じゃないか……!
ともかく、物陰に行こう。
中庭じゃ、いつ近衛兵と出くわすかわからない。
クロノ:……わしから逃げるんじゃなかったのか。
ディアンナ:こんな状態で中庭に転がしといたら、殺されちまうだろうが。
クロノ:パワーが続かんわい……
わしも精力剤に頼る頃合いかのう……
ディアンナ:こんなことして……無茶苦茶だ。
他に方法あっただろ……
クロノ:無茶苦茶だからええんじゃろうが。
王自ら単身敵城に突入し、城中を引っ掻き回して、妹を奪還――
黄金同盟の
ディアンナ:危機脱出の道化師かよ。
クロノ:ばかたれ、英雄じゃ。
ま、道化師でも変わらんがのう。
ディアンナ:なんでそんなことを――
クロノ:……野心と自信が必要なんじゃ。
わしら奴隷根性が染みついた、
わしら異人種は……長年の植民地支配で、
肌が黒い、目が小さい、小太りで、背が低く、毛むくじゃら……
だがそれがどうした?
それが悪いといつ決まった?
だがわしらは、
ディアンナ:…………
クロノ:ディアンナ、お前はなんでいつも卑屈になる。
ただそれだけじゃあないか。
ディアンナ:……それは理屈だよ。
ガキの頃からこんなことが続けば、それが常識だって思うだろう。
クロノ:わしが変えたいのは、その常識じゃ。
これこそが本当の大転換――グレートローテーションじゃ。
ディアンナ:…………
クロノ:お前の策も、なかなかいい線いっとった。
ドワーフが
だがのう、それじゃ根っこのところは何も変わらん。
植民地の
何百年と繰り返されてきた、大英帝国と植民地の
ただドワーフの、
ドワーフの――いや、全ての虐げられた
わしは
ディアンナ:…………
クロノ:ディアンナ、自信を持て。
女はケツとパイオツじゃ。顔なんかどうだってええ。
お前は最高にいい女じゃぞ!
ディアンナ:全部褒めたことになってないからな――!?
クロノ:少し休んで魔力も戻ってきた。
帰るぞ、ディアンナ。
ディアンナ:……おれはここに残る。
クロノ:お前、まさか本気でガウェインのことを――
ディアンナ:ガウェイン皇子は好きだ。
けどそれだけじゃない。
おれは兄貴みたいに壮大な考えがあるわけじゃない。
上手く言えない。
上手く言えないけど……兄貴のやり方には賛成できない。
なんで
おれたちは……同じ
クロノ:あれだけ言っても、まだわからんのか――!!!
ディアンナ:わからねえよ――!
おれは兄貴の便利な工具代わりじゃない――!
おれは、ディアンナ=マーテルっていう、一人の
クロノ:…………
ディアンナ:兄貴……ごめん。
クロノ:……すまなかったのう。
十何年も昔の、わしの後ろをずっとついて来た、
四六時中、嫌になるほど一緒で、何度も死線を潜り抜けた。
お前はわしと、一心同体と思っとった。
わしもお前も、別の
ディアンナ:兄貴……
クロノ:お前は白人支配に隷属する古き時代の象徴。
わしは異人種の黄金時代を築く、新たなる時代の象徴。
古き象徴は、新たなる象徴に倒されねばならん。
我こそは新しき時代の王、クロノ=マーテル――!
さらばじゃ、古き時代の女王、ディアンナ=マーテル――!
カマエル:
ディアンナ:……あいつも解放したのか?
クロノ:――した。
ディアンナ:バカ――!
あいつが兄貴の思いどおりに動くわけがない――!
あいつの異人種への憎しみは、奈落の底よりも深い――!
クロノ:恨んでようが憎んでようが、城を掻き回す役に立てばよかったが、なんと間の悪い。
カマエル:
クロノ:下がっとれ、ディアンナ。
わしが始末つけたる。
カマエル:
クロノ:おおそうかい。
そんなにブリテンに血を撒きたかったら、わしが散らしてやるわい。
カマエル:――――!?
クロノ:胴体ががら空きじゃ。
シリコンゴムと
ディアンナ:油断するな――!
そいつは心臓を貫かれても止まらない――!
カマエル:――
クロノ:ぐあああああああ――!!!
ディアンナ:兄貴――!!!
カマエル:
ランスロット:――――待て!!
ディアンナ:ランスロット皇子――!!
助けて……兄貴が死んじゃう……!!
ランスロット:アロンダイト――!!
カマエル:KIEEEEEE――!!!
ランスロット:くっ――!!
ディアンナ:せっかくランスロット皇子がきたのに、あれじゃ回復魔法なんて使えない……!
誰か、誰か――!!
カマエル:
ディアンナ:空中機雷――!? うわあああ――!!!
ランスロット:よそ見をするとは――私も軽んじられたものだ!
カマエル:
……安心しなさい。
お前も殺してやります。
ええ、それはもう
神の名を騙る悪魔、悪魔、悪魔め――!!!
ランスロット:予備心臓で、これほどの
貴公、左胸に大穴が
命を落とすぞ――!!
カマエル:それがどうしたというのです?
私は
最前線で神の敵を
血と泥と涙に塗れ、死と隣合わせで戦う、神の兵士――!
使い捨てられる見返りに、第六位という中途半端な階級を与えられた――
誰よりも命を軽んじられる天使、それが
ランスロット:それで異端の新興宗教オルトヨーゼフ教に堕ちたか。
神話の
カマエル:
天使の亡き骸の頂上で、栄光だけを浴びる、
正義なき
お前に正義はない。
正義は血と泥と涙に塗れ、赤黒くこびりついている。
私は赤錆のカマエル――
私が正義の執行者だ――!!
ランスロット:ぐあっ――!!!
カマエル:ルビーギボール――
この空中機雷で、
ブリタンゲイン国民の敵、
ガウェイン:――カミラ。
カマエル:――ガウェイン卿!?
ガウェイン:――もうやめろ。
カマエル:ああ、ガウェイン卿。
カミラは天に召されます。
けれどそれまでに、この悪魔どもを地獄に落とさねばなりません。
ガウェイン:……カミラよ、お前の逝く先は天国ではない。
地獄だ。
ランスロット:――アロンダイト!!
カマエル:ぎゃあああああ――!!!
ランスロット:空中機雷を持つ手を切り落とした――!
今です、兄上――!!
ガウェイン:血塗れの天使よ、錆びついた夢に眠れ――!
ガランテイン――!!
カマエル:ぐふっ――!!
ガウェイン:…………
カマエル:――ああ、ヨーゼフ。
教皇ペテロに
あなたは何故……もう一度、天に昇ってくれないのですか……
ガウェイン:――ヨーゼフはペテロに反逆などしていない。
地に落ちた天使は、地の底で、神の使命を遂行している。
ランスロット:その白き翼に、栄光の輝きなし。
神の善性を完全なものとするため、罪と罰を
せめて翼は穢れなき純白であるようにと、神は願った。
ガウェイン:サタンの異名、敵対者とは、神の敵対者ではない。
神の敵に敵対する者――神とサタンは、表裏一体なのだ。
故にサタンは、白き翼の天使だった。
ペテロがヨーゼフを聖人の列から外していないことと同じく――
カマエル:おお……おお……!!
ヨーゼフもまた、
だとすれば……
弱者という哀れみも向けられず……
自己責任と突き放され、社会から見捨てられた……
我ら持たざる白人を救う
どこにいるのでしょう……
ランスロット:――――
ディアンナ王女。
今、回復魔法を。
ディアンナ:う、うう……
兄貴は……
ランスロット:――蛮人王がいない!?
ガウェイン:――あれだけの重体で、逃げ出したというのか。
ランスロット:探しましょう。
ガウェイン:うむ。
ディアンナ:兄貴……
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