円卓外伝-サタンの黄金 前編-
★配役:♂3♀3両1=計7人
▼登場人物
ガウェイン=ブリタンゲイン♂
二十一歳の機操騎士。ブリタンゲイン五十四世の一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン陸軍少将。
北米十三植民地の
自身も魔導装機乗りとして最前線で戦い、大英帝国の英雄として国民の圧倒的支持を得た。
しかし北米十三植民地がフリードニア合衆国として独立した後は、国内の評価は二分される。
帝国主義と長引く戦後不況の元凶とされる一方、極右政党『鉄血党』からは熱狂的な支持を得ており、
オルトヨーゼフ教では第二使徒ヨーゼフの再臨≠ニまで崇められている。
ガウェイン本人の意思とは無関係に、大英帝国分断の象徴となっている。
魔導装機:専用重量型〈オーバーロード〉&〈グレートブリテン〉
ランスロット=ブリタンゲイン♂
十八歳の聖騎士。ブリタンゲイン五十四世の二番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、オルドネア聖教の魔導装機隊『クルセイダーズ』の隊長も務める。
正妻アルテミシア皇后の子。
信仰篤く、文武両道にして、金髪碧眼の美男子。
まさに大英帝国の完璧なる皇子であり、皇位継承権は二位ながら、次代皇帝に望む声は高い。
魔導装機:特殊中量型〈シルバーテンペラー〉
魔導具:【-
魔導系統:【-
ケイ=ダリオ両
十三歳の
しかし学校には行かず、
ブリタンゲイン五十四世の庶子であり、皇位継承権は持たない。
母親は城で働いていた元侍女で、ケイの幼少期から精神を病んでいる。
ディアンナ=マーテル♀
十九歳の魔導技師。防塵眼鏡と作業着のドワーフ女性。
ドワーフ王家の末裔で、クロノ=マーテルの実妹。
魔導装機『スコロペンドラ』を一人で造り上げた、腕利きの技術者。
『スコロペンドラ』のサブパイロットも務める。
言葉遣いは荒っぽいが、兄クロノと違い、気弱で優しい性格。
ドワーフは、エルフと同じく、完全な魔因子を持つ種族。
魔力を生成する〈魔心臓〉のみならず、額に魔法を使うための〈魔晶核〉を有する。
ただし、ディアンナは魔法の修養を積んでいないため、魔法の行使はできない。
ドワーフ族は、オルトヨーゼフ教では被差別人種に分類され、『
クロノ=マーテル♂
二十四歳の
ドワーフ王家の末裔で、髭面と短躯のドワーフ男性。
魔導装機『スコロペンドラ』及び『スコロペンドラ・ギガンテア』のメインパイロット。
後に
魔導装機:専用戦車型〈スコロペンドラ〉&〈スコロペンドラ・ギガンテア〉
魔導系統:【-
チェアマン♀
黄金の
暗黒金融街ゴモラ街の違法取引所『シティ』を取り仕切る、金融マフィアの会長。
長身痩躯で、年齢も人種も不詳。声で唯一、女性とだけわかる。
その正体は、オルドネアの十三使徒の一人、第四使徒テラ。
ドワーフの錬金術師で、地底王国タルタロスの女王。
千年王国エルサレムの建国に助力し、
シスター・カミラ♀
二十三歳。
新興宗教オルトヨーゼフ教の修道女で、『
極右政治団体『鉄血党』の党首でもあり、庶民院の最大野党として、国政への影響力を強めている。
オルトヨーゼフ教とは、本流のオルドネア聖教ヨーゼフ派から派生した、新宗教。
第二使徒ヨーゼフを『
『鉄血党』はオルトヨーゼフ教を支持母体とする極右政党で、帝国主義への回帰や、奴隷制復活を政党公約に掲げている。
裏の顔は、元オルドネア聖教の異端審問機関『黙示録の堕天使』の一人『赤錆のカマエル』。
前階級は第六位の『能天使』であり、戦闘員の中核となる、
能天使は別名アイアン・パワーズ≠ニ呼ばれ、生体にバイオマテリアルを埋め込まれ、過酷な任務に就く。
魔導具:【-
以下はセリフ数が少ないため、被り役推奨です。
リーダー♂
□5のみ。
ケイ、ディアンナの登場パートです。
※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。
ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、当て字でルビを振ってある漢字(例:
□1/北米十三植民地、メリーランド平原
(砂塵を噴き上げて高加速する、機体の左右に巨大車輪を装着した魔導装機の軍団)
(巨大車輪の間で宙吊りになった魔導装機の軍団の先頭を走る、指揮官機オーバーロード内部で、ガウェインが叫ぶ)
ガウェイン:
フリードニア反乱軍の根城、ワシントンは近い――!!
(空中に輝くのは、
ランスロット:こちらオルドネア聖教聖騎士団、
応答願う。
ガウェイン:こちらブリタンゲイン帝国陸軍、『
聞こえている。
ランスロット:お戻りください、ガウェイン
本日午後より、フリードニア修道会で、帝国と十三植民地の
北米十三植民地の
ガウェイン:
奴らは内乱を起こし、大英帝国
ランスロット:北米十三植民地は、ブリタンゲインの民が移り住んだ入植地。
我々の同胞です。
ガウェイン:奴らはもはや、ブリタンゲイン人ではない。
フリードニア合衆国人を名乗る
ランスロット:よろしい。フリードニア人は
では反戦平和を唱えるオルドネア教徒は?
併合した国の先住民は?
国民の分断を煽る言動は、大英帝国を切り刻むことにほかなりません。
ガウェイン:黙れランスロット。貴様ら聖騎士の綺麗事は聞き飽きた。
お前たちオルドネア聖教は、信仰を通じて、フリードニアにも影響力を行使できる。
平和の美辞麗句の下、帝国の弱体化を目論み、権力の拡大を図ろうという魂胆だろう。
ランスロット:これは辛辣ですな。
ガウェイン:告げ口したければ好きにしろ。
ランスロット:生憎記憶力が悪いもので。
忘れてしまいました。
微力ながら、私もお供しますよ。
ガウェイン:お目付け役か?
俺の邪魔をするならば、聖騎士であろうと蹴散らすぞ。
ランスロット:聖騎士の私が同行していれば、帝国陸軍と連帯責任です。
オルドネア聖教は、軍の暴走を理由に非難するのは難しくなる。
ガウェイン:お前はワシントン侵攻に反対ではないのか。
ランスロット:ええ、私見では。
ガウェイン:ならば何故。
ランスロット:天秤です。私は天秤の傾きを見ているのですよ。
ガウェイン:……お前もあの訓話を。
ランスロット:兄上、
ガウェイン:反乱軍に雇われた魔導装機乗りか。
名前から察するに、ドワーフ族のようだが。
ランスロット:異形の魔導装機を駆る凄腕と聞きました。
その実力、一騎当千とも。
ガウェイン:負け犬が撃墜された言い訳に、持ち上げているだけだろう。
ドワーフ如き
ランスロット:お気をつけください。
フリードニア最後の切り札が、
ガウェイン:地底どころか、
完膚なきまでに勝利するぞ。
帝国の威信を示し、十三植民地の連中に、
□2/地底深く、空洞格納庫
クロノ:地上の様子はどうじゃ?
ディアンナ:瓦礫の山だ。
クロノ:そりゃあいい。フリードニアの連中はションベンちびって震え上がっとるぞ。
獲物は肥え太らせよ。オルドネアもペテロも言いました。アーメン。
ディアンナ:そんな聖句、どこにあるんだよ……
こっちで
クロノ:男がそんなコソコソ覗きなんてやれるかい。
わしが覗きをやるのは、女風呂だけと決めとる。
ディアンナ:はいはい。
クロノ:ペンドラを建造するのに、すっからかんじゃ。
女を買うカネもないわい。
ディアンナ:建造したの、ほとんどおれ一人だぞ。
それにしても不細工だよなあ。
魔導戦車スコロペンドラ……
クロノ:ええことじゃ。
見栄っ張りの
ディアンナ:兄貴は本当にドワーフだよな。
クロノ:お前もドワーフじゃろ。何じゃそのモグラのような
ディアンナ:便利なんだよ。手袋に工具も仕込めるし、穴も掘れる。
クロノ:わはは、お前もドワーフじゃのう。
ディアンナ:うるせえな、どうせドワーフだよ。
背は低いし、骨も太いし、剛毛だぞ。
エルフみたいなヒラヒラの服着たって、気持ち悪いだろ。
クロノ:エルフと同じ土俵で戦うな。
ドワーフの女には、ドワーフの女なりの魅力がある。
ディアンナ:……あのな。
もうちょっとデリカシーってもんを考えろよ。
これでもおれは、十九の女なんだぞ。
朝から晩まで、兄貴の下品な話、耳が腐りそうだ。
クロノ:なに
一皮剥けば、みんなポコチンとコーマンじゃろうが。
わしはポコチンで、おまえはコーマンじゃぞ。
ディアンナ:はぁ……
世が世なら、あれがドワーフの王子かよ……
クロノ:
格好だけのヘッポコ剣術に、飾り立てた魔導装機でご出陣。
キンタマの小さそうな奴らばかりじゃ。
その点わしは、ポコチンで、
ドワーフの尊称『小さき巨人』とは、『小さき巨チン』が
どう思う?
ディアンナ:知らねえよ。
――来た。
土煙を巻き上げて、
クロノ:出陣じゃ。ニューロスーツに着替えろ。
ディアンナ:……いよいよ。
クロノ:太らせた七面鳥を平らげるとするかのう。
□3/メリーランド平原、ワシントン街門前
ランスロット:ワシントン、
魔導装機メメント、目視でおよそ四〇機。
残る全兵力と思われます。
ガウェイン:田舎の自警団レベルではないか。
マックス! オリバー! ギアアップ!
マックス? オリバー?
応答しろ――!
ランスロット:兄上! 後方を――!
ガウェイン:地中からドリルだと――!?
ランスロット:ドリルアーム出現――!
十、二十、三十
土中を並走しながら攻撃を仕掛けているようです――!
ガウェイン:やむを得ん。
ヘヴィ・メメント、全隊緊急停止――!
ランスロット:土中からの熱源――
きます。
ガウェイン:
大盾でドリルを弾け――!
(地表を割り、飛び出した巨影が宙を駆け昇り、縦横無尽に走るドリルが複数の機体を貫く)
クロノ:――貫いたのは五匹か。
ランスロット:な、なんだこの機体は……
ガウェイン:ムカデ……! ドリルの脚を持つ鋼鉄のムカデ……!
クロノ:『
ブリタンゲインの花形が勢揃いじゃのう。
ディアンナ:『
自走能力の低さを、
無敵の蹂躙戦車。駆け抜けた後には瓦礫の山が築かれる。
『クルセイダーズ』のシルバーテンペラー。
その優美な外装は、儀礼的な意味合いが強いが、高い魔法耐性は実戦でも遊撃部隊として活躍する。
クロノ:聞いてるだけでションベンちびりそうじゃ。
ガラにもなく震えが止まらん。
ディアンナ:……や、やっぱ逃げようぜ。
おれ、チビッちゃったよ。
クロノ:クソでもションベンでも好きなだけ漏らせ。
こいつらを皆殺しにすれば、わしらは世界に大威張りじゃ。
ランスロット:ムカデのドリルアーム、急襲――!
ガウェイン:あの腕はなんだ。
ゴムのように自在に伸縮してしなる。
しかも斬り落としてもまた生え出す。
ランスロット:機体の機動性も相当です。
あの巨体にも関わらず俊敏に動き回り、土中に逃げ込み、そしてドリルの急襲。
ガウェイン:まるでムカデだ。あの魔導装機は生き物か。
ディアンナ:
クロノ:スコロペンドラの機体には、元々脚もドリルもない。
わしの魔法、
ディアンナ:兵装をパイロットの魔法に頼れるからこそ、機動性と装甲を両立できる。
ドワーフならではの設計思想……
けど、パイロットに掛かる負荷も相当だ。
魔心臓がバクバクいってるぜ……
クロノ:気張れ、ディアンナ。
車輪無しじゃ、連中の魔導装機は、ヨタヨタ歩きのデク人形じゃ。
重すぎて自分の脚じゃ身動きが取れん。
ガウェイン:ドリルを捌き切れん――!
ランスロット:兄上、援護を――!
我々が格闘戦を仕掛けます――!
ガウェイン:くっ……ヘヴィ・メメント隊!
ランスを捨て、ライフルを出せ――!
シルバーテンペラーを援護する――!
クロノ:銀蝿どもが群がってきたわい。
まだクソは漏らしとらんぞ。
ディアンナ:軽装だけど、シルバーテンペラーの武装はミスリル銀だ。
ペンドラの装甲もバターのように切り裂くぞ!
クロノ:ひょろっひょろの機体が。
ディアンナ:テールポンプ起動。充填四〇%。
ランスロット:格闘戦域に入った。
ミスリルソード――!
クロノ:ぶっ放せ。
ランスロット:土砂の
直撃する――!
クロノ:ほーれ、銀蝿ども。
総大将が落ちたぞ、助けにこんかい。
そこじゃ――!!
ディアンナ:おい、もっと充填速度考えて放射してくれよ――!
クロノ:わはは、また一機落としたわい。
知っとったか、ディアンナ。
わしはションベンで蝿を落としたこともある、ションベン射的の名人なんじゃぞ。
ディアンナ:知らねえし、知りたくもねえよ。
ガウェイン:『クルセイダーズ』が全滅だと……
ランスロットを始め、オルドネア聖教の精鋭たちが……
クロノ:まともに動けるのは、おどれだけじゃのう。
ガウェイン:名を聞こう。
クロノ:おどれから名乗ったらどうじゃ。
ガウェイン:俺は全世界に名だたる大英帝国の第一皇子、ガウェイン=ブリタンゲインだ。
クロノ:わしはクロノ=マーテル。
マーテルの名を聞いたことがあるか?
ガウェイン:知らん。だが貴公の名は覚えた。
クロノ:そうかい。
マーテルっちゅうのはなあ――
千年前におどれら
ガウェイン:ホバークラフト起動――!
ディアンナ:早いっ!?
ガウェイン:捕まえたぞ、ムカデの化け物――!
クロノ:馬鹿たれ! 捕まったのはおどれじゃ。
ディアンナ! 締め上げろ!
ガウェイン:ぐおおお――!!
クロノ:わはは、どうじゃ。鋼鉄のムカデに締め上げられる気分は。
ディアンナ、さっさと粉砕しちまえ。
ディアンナ:やってるよ! けどびくともしねえ――!
魔導装機オーバーロード……なんて頑丈な機体だ。
ガウェイン:この超重装甲を支える素体の
人工筋肉、エネルギーチャージ。
ぬおおおお――!!!
ディアンナ:うわあっ――!
クロノ:なんじゃと――!?
ガウェイン:はあ、はあ……
ランスロット:兄上――!
ガウェイン:無事か、ランスロット――!
ランスロット:ええ、土砂に呑み込まれましたが、機体はどうにか――
ムカデの魔導戦車がバラバラに――
ガウェイン:ああ。
ドワーフめ。オーバーロードの筋力を侮ったのが命取りになったな。
ランスロット:全く、機体も兄上も。
ガウェイン:男は筋肉たぞ。
ランスロット:生憎と筋肉をつけすぎると、御婦人に縁遠くなります故。
ガウェイン:馬鹿な、そういうことだったのか。
ランスロット:はは――
兄上――!
ガウェイン:ムカデの頭部――!
ぐああああ――!!!
ランスロット:
ディアンナ:スコロペンドラ、体節パーツ再連結――!
機体復元率二〇%――! ドリルアーム使用可能――!
ランスロット:バラバラになったのではなく、切り離したのか――!
クロノ:そういうことじゃ。死に晒せ、気取り屋の銀蝿が――!
ランスロット:ミスリル装甲損壊、人工筋肉断裂、メインエンジン――
脱出する――!
ディアンナ:体節パーツ再連結、九〇%、九五%――
スコロペンドラ、復元完了。
クロノ:……やったぞディアンナ。
ディアンナ:あ、ああ……
クロノ:がはははは!! わしらの天下じゃ!!
ガウェインとランスロット、帝国の皇子二人をまとめて討ち取ったわい。
ディアンナ:兄貴! あの軍勢を!
クロノ:フリードニアとブリタンゲインの連合軍。
停戦信号じゃ。
ディアンナ:離脱交渉が終わったんだ……
ガウェイン:ぬ、うう……
ランスロット:う、うう……
クロノ:帰るぞディアンナ。
フリードニア独立の英雄様の
ガウェイン:ま、負けたのか……
俺は……ブリタンゲインは……
畜生、畜生――!!!
□4/ホワイトハウス、別館
クロノ:おう将軍、お疲れさん。
よかったのう。
フリードニア独立宣言文書、使者団は持ち帰って検討するっちゅうことじゃが、オルドネア聖教修道会のお墨付きじゃ。
ブリタンゲイン皇帝も
ディアンナ:…………
クロノ:で、大統領閣下はどうした?
わしらの報酬の話をしたいんじゃがのう。
名誉市民籍と、政府の役職と――それと土地が欲しい。
わしらドワーフは国無し、土地無しの根無し草じゃけえ。
安住の地っちゅうもんに、根を張ってみようかと思ってのう。
まあわしはすぐ飽きるかもしれんが、ディアンナは――
ディアンナ:なあ、兄貴……
クロノ:なんじゃおどれら、その鉄砲は――
ディアンナ:粗暴な振る舞い、戦地での略奪……
戦犯として逮捕……
クロノ:はっ、ドワーフ風情に土地をやるのが惜しくなったか。
ディアンナ:約束が違うじゃねえか――!
クロノ:おどれら腐れ
ディアンナ――!
ディアンナ:無人送迎機能オン――!
(ホワイトハウス別館の床が割れ、土砂と木材の破片をふるい落として地中から魔導戦車が姿を現す)
クロノ:うわはは!
わしのスコロペンドラは、お迎えにも来てくれる可愛い奴じゃ――!
ディアンナ:おれが徹夜で乗っけたシステムだぞ――!
銃弾の嵐だ――!
ペンドラまでたどり着けない――!
クロノ:ここが
わしの
(窒化ケイ素の防壁を築いて銃撃を防ぐクロノとディアンナ。爆音と共にホワイトハウス別館の壁が破壊される)
ディアンナ:――――!
ホワイトハウスの壁が――!
魔導装機メメント……!
クロノ:……侮られているだろうと侮ったのが、痛恨の失敗じゃ。
……魔導装機まで準備しとったとは、奴ら本気じゃのう。
ディアンナ:なんでそこまで……
クロノ:わしらは
フリードニアでも、ドワーフ如きが独立の英雄なんぞ、
ディアンナ:……ちくしょう。
クロノ:……走れ、ディアンナ。
わしがペンドラまでの
ディアンナ:兄貴はどうするんだよ――!
クロノ:わしはドワーフ王家の末裔、最強の
スコロペンドラが無くとも、
ディアンナ:でも――
クロノ:女は邪魔なんじゃ――!
はよう行け――!!!
ディアンナ:っ――!!!
(操縦槽に駆け上ったディアンナは、神経ケーブルを接続)
(再起動するスコロペンドラを取り押さえようと、魔導装機メメントが突進してくる)
ディアンナ:離せ、このっ――!
ダメだ、おれは魔法が使えないから、暴れるしか出来ない。
兄貴――!
(スコロペンドラの複眼と視界を共有するディアンナの目に映ったのは、銃弾の嵐の中で血飛沫を上げて倒れるクロノの姿だった)
クロノ:ぐふっ――……
ディアンナ:あ、兄貴……
クロノ:でぃ、ディアンナ……
逃げろ……
ドワーフ王家の、血を……
ディアンナ:ちくしょう……
ちくしょう――!!!
(スコロペンドラは体節をくねらせ、大穴の中に潜行していく)
(北米十三植民地がフリードニア合衆国として独立したのは、それから数日後のことだった)
□5/株式会社セルバ、物流倉庫の物陰
ケイ:貨幣とは鋳造された自由である――
ドストエフスキー。
フゥ――
ディアンナ:ダリオ! こんなところにいたのか!
ケイ:君も休憩か。
ディアンナ:そんなわけないだろ。
ケイ:一服どうだね。
ディアンナ:いらねえよ。お前いくつだよ。未成年だろ。
ケイ:私は若く見られるたちでね。
ディアンナ:仕事に戻れ。
ダリオはピッキングの途中で行方をくらますって、リーダーたちカンカンだぞ。
ケイ:よくもクソ真面目に働くものだ。
資本家が得をするだけだと言うのに。
手を抜こうがサービス労働をしようが、労働者の賃金は変わらん。
ディアンナ:そんなことはない。
今は日雇いだけど、頑張ればリーダー、その後は社員にだって。
ケイ:小作人の等級が大事かね。所詮は小作人だ。どうでもいいではないか。
ディアンナ:どうでもよくない。やっと見つけた仕事なんだ!
リーダー:ダリオにドワーフ。こんなところでサボってやがったのか。
ディアンナ:あ、リーダー……
リーダー:何をくっちやべってるんだ。給料はマイナス差っ引いておくぞ。
ディアンナ:は、はい。申し訳ありません。
リーダー:二等国民の
お前らがいるから、善良なブリタンゲイン人が職にあぶれるんだ。
ケイ:待て。それは労働基準法違反だ。
彼女は会社の指揮命令の下、私を呼びにくるという職務を、忠実にこなしていた。
結果として私を持ち場に戻すことはできなかったが、パフォーマンスが悪いことを理由に、減給とすることはできない。
ディアンナ:おい、いいって――!
リーダー:ならお前はどうなんだダリオ。
職務を放棄して、読書とタバコ。
ケイ:
誰も私に指示をしなかったので、待機していた。
手待ち時間も労働時間にカウントされる。
リーダー:ならいますぐ持ち場に戻れ!
ケイ:今は休憩時間だ。
手待ち時間が六時間。
六時間労働したのでね。四十五分の休憩を取る権利がある。
リーダー:くそっ。もういい。お前だけ戻れ。
ディアンナ:――は、はい!
リーダー:どこかの貴族の隠し子が。
ダリオ、お前はただの平民だ。
いい気になってるんじゃねえぞ。
(勤務終了後、物流倉庫の敷地内を走ってケイに追いすがるディアンナ)
ディアンナ:はあ、はあ……追いついた。
退勤と同時にいなくなるんだから。
ケイ:ああ、君か。礼ならいらんよ。
ディアンナ:礼じゃねえよ! 明日から来なくていいって言われた。
ケイ:奇遇だね、私もだ。
ディアンナ:お前は、その――
ケイ:平民の母子家庭だよ。取り立てて裕福ではない。
ディアンナ:…………
ケイ:とはいえ、最低限の社会保障の対象になっているのは確かだ。
公金で、義務教育も受けられるしね。
二等国民の君に比べれば、まあ恵まれているといえるだろう。
ディアンナ:その代わり、勤労奉仕に駆り出されてるってわけか。
ケイ:私は
若年者を遊ばせておくわけにも行かないので、国は勤労奉仕に出しているが、雇用を奪うと労働者からは評判が悪い。
潤っているのは企業だけさ。
ディアンナ:どうするんだよ。勤労奉仕先をクビになって。
ケイ:新しい勤労奉仕先が見つかるまで遊んでいるよ。
ディアンナ:お前、それでわざと……
ケイ:私の分、雇用枠が空いたのだから感謝してほしいものだね。
ディアンナ:――なあ。
ケイ:まだ何か用かね。
ディアンナ:妙に羽振りが良くないか。
ケイ:ほう? 何故?
ディアンナ:タバコ。今高いだろ。なんで気軽にスパスパ吸ってるんだよ。
ケイ:ふっ。
ディアンナ:なんだよ、その笑い。
ケイ:タバコは値上がりなどしていない。
ディアンナ:先月も価格改定されただろ?
リーダーがぼやいてたぜ。
ケイ:それはタバコが値上がりしたのではない。ポンドが値下がりしたのだ。
ディアンナ:おい、この区画……
ケイ:ゴモラ街だが。
ディアンナ:知ってるよ――!
金融マフィアの集まる、暗黒金融街じゃねえか……!
ケイ:君はソドム通りのほうに用事があるのかね?
ディアンナ:い、いかねえよ、あんな
ケイ:では私はこれで。
ディアンナ:待てよ! 犯罪に手を出しているんじゃないだろうな!
ケイ:グレーゾーンだな。
ディアンナ:……
ケイ:タバコ代を引き出してくる。本も買いたいのでね。
ディアンナ:……なんだ、あの
ケイ:くそっ! 泥棒め!
ディアンナ:ダリオ! どうしたんだ! その服の乱れ……
ケイ:
フリードニアドルは、先週からブリタンポンドに対して10%も上昇した。
だが呑み屋の連中は、2%上がったところで、勝手にクローズしたんだ。
ディアンナ:フリードニアドルって、あのフリードニア合衆国の通貨か。
ケイ:そうだ。新興国ゆえに
ポンドからの逃避で大幅に値上がりしている。
ディアンナ:個人の為替取引は、違法なんじゃなかったっけ?
ケイ:
ポンドドルのレートを見て、売買したことにして差額をやり取りする賭博さ。
ディアンナ:賭博も違法だからな!?
ケイ:しかし弱ったね。
私が口座を持っている最後の店だったんだ。
他に取引させてくれる店があれば……
ディアンナ:……!?
ガラの悪い奴らに囲まれてる……
ケイ:……そういうことかね。
ディアンナ:どういうことだよ。
ケイ:債権回収さ。私がカネを巻き上げた呑み屋のね。
そういうことだろう?
(ケイの問いかけに、ゴロツキたちは薄笑いで肯定の意を返す)
ケイ:君、ドワーフだろう。攻撃魔法で一掃できないかね。
ディアンナ:無理だよ……おれは魔導装機の技工だし。
スパナでぶん殴るぐらいしか……
ケイ:――やれるか?
ディアンナ:やれるわけないだろ!
ケイ:……仕方あるまい。
ディアンナ:財布……有り金出すのか?
ケイ:ああ、命あっての物ダネだからね。
ディアンナ:そんな……
ケイ:だが……一つ言わせてくれ。
卑怯だぞ、貴様ら。
(ゴロツキたちの間で爆笑が沸き起こる。嘲りの笑いを刻んだゴロツキの一人がケイの腹に拳を叩き込む)
ケイ:ぐうっ……
ディアンナ:ダリオ――!
ケイ:げほっ、げほっ。
ディアンナ:おまえ、結局カネ出すんだったら言わなきゃいいのに……
ケイ:……わかっているさ、私がバカなのは。
だが思ったことも言えなければ、身の安全は守れても、それは自由とは言えないだろう。
チェアマン:――見上げた根性だ。
その子の言う通り。
卑怯だよ、お前たち。
カネはその子のものだ。
ディアンナ:黄金の
ケイ:…………
チェアマン:帰って雇い主に伝えな。
全店、営業ライセンス取り消しだ。
ディアンナ:ゴロツキが逃げていった……
何者なんだ、あの
チェアマン:噂通りの無鉄砲だね、
ケイ:……あなたは。
ディアンナ:あの、助けていただいてありがとうございました。
おい、帰るぞ!
ケイ:暗黒金融街ゴモラ街を支配する、金融マフィアの会長。
ディアンナ:すみません、すぐ連れて帰りますんで。
ケイ:頼む! 私を『シティ』で取引させてくれ! 手数料は落とす!
ディアンナ:やめろよ、さっきのゴロツキより遥かにヤバいぞ。
マフィアの会長って何だよ――!
チェアマン:君のリスクの取り方は滅茶苦茶だ。
カネも命も、幾つあっても足りはしないよ。
ケイ:お言葉だが、私の取引は常にリスク限定だ。
チェアマン:へえ?
ケイ:最大でも命までしか取られない。
チェアマン:――ははは。
どこまで無鉄砲なんだ、君は。
面白い子だね、気に入ったよ。
ケイ:では――
チェアマン:付いてきな。
帝都ログレスの
□6/キャメロット城、魔導式昇降機のドア正面
ガウェイン:ランスロットか。
ランスロット:間に合った。私も同乗させてください。
(滑り込んできたランスロットを載せると、魔導式昇降機の扉は重々しく閉ざされる)
ランスロット:兄上自ら魔導式昇降機の操作ですか。
昇降機係の見習い魔導師はどうしました?
ガウェイン:前回の円卓会議で、人員整理の対象となったろう。
ランスロット:そうでした。連絡先を聞いておくべきだった。
なかなか可愛らしいレディでした。
ガウェイン:貴族どもに国債は売り込めたか。
ランスロット:ええ、神と国への献身を説いて。
ガウェイン:
ランスロット:ブリタンゲインの物価上昇率は年率8%です。
金利を3%もらっても、実質は5%のマイナスだ。
正味のところ、取り付く島もありませんでした。
ガウェイン:どうやって貴族どもをたぶらかした。
ランスロット:ドル連動のノックアウトオプションを付けたのです。
ドルに対してポンドの値下がりが一定以下になれば、国債は
ひとまず現金は確保しましたが、ポンドが値下がりすれば早期償還で、手元流動性は枯渇します。
ポンド相場の維持が至上命題になりました。
ガウェイン:わけのわからん金融商品を次々と思いつく。
金融屋は、詐欺師のようだな。
ランスロット:はは、疲れました。
当面数字を見るのはごめんですな。
兄上は視察帰りですか?
ガウェイン:『
ランスロット:ああ……
ガウェイン:魔導装機の製造が大幅に削減された。街は失業者で溢れかえっていた。
ランスロット:誠に心苦しいですが、今回の円卓会議でも、さらなる軍事費の削減を主張しなければなりません。
ガウェイン:軍人の数が多い、魔導装機の数が多い。新兵器の開発は無駄。
これで一体どうやって国を守れという。
ランスロット:プライベートで言い争いは避けたい。政策論争は
さて、最下層ですな。
ガウェイン:……うむ。
(大理石の歩廊を進み、大広間に入った二人を出迎えたのは無人の静寂だった)
ランスロット:誰もいない……叔父上たち、先代円卓の騎士たちはどうした?
シスター・カミラ:現五十四代皇帝陛下のご兄弟、先代円卓の騎士たちには勇退いただきました。
ランスロット:
シスター・カミラ:オルドネア聖教
第六位の座を占める、
ランスロット:何故
シスター・カミラ。
シスター・カミラ:まだ
ランスロット:これは失礼。あなたはヨーゼフ派から異端として破門された一般人でした。カミラ嬢。
シスター・カミラ:第一使徒ペテロの
ヨーゼフの真実は、我々が語り伝えます。
ランスロット:オルトヨーゼフ教――オルドネア聖教のヨーゼフ派から分派した新興宗教。
第二使徒ヨーゼフの言動の一部を切り取り、反体制と異人種排撃を
白人至上主義と
ガウェイン:
そこで『鉄血党』のカミラ党首に、オブザーバーとして列席してもらうこととした。
ランスロット:『鉄血党』が民意の代表ですか。
シスター・カミラ:我ら『鉄血党』は、庶民院の最大野党です。
今のオルドネア聖教こそ、民意からかけ離れた、
ランスロット:前回の円卓会議の後、立ち話で聞きました。
叔父上の屋敷のメイドが、暴行と脅迫を受けて、立て続けに辞めていった。
叔母上は、飼い犬が餌に毒を盛られて殺された。
シスター・カミラ:お可哀想に。
ランスロット:ガウェイン
オルトヨーゼフ教と『鉄血党』により、ブリタンゲインの最高意思決定機関、
シスター・カミラ:ランスロット
お頭は大丈夫ですか?
ガウェイン:先代円卓の騎士は引退した。
円卓の騎士の代替わりだ。
ランスロット:成人した円卓の騎士は、私と兄上だけです。
第三皇女のギネヴィアは十六歳のうら若き乙女、第四皇子のトリスタンは十四歳になる前だ。
政治参加できる年齢ではない。
ガウェイン:第一皇子の俺は二十一、第二皇子のお前は十八だ。
子供ではあるまい。
ランスロット:傭兵団の旗揚げですか。それとも学生ベンチャーか。
二十一と十八の青二才二人で、
シスター・カミラ:失礼ながらランスロット
まるでご自身がブリタンゲイン帝国を統べるかのような物言い、聞く者が聞けば、
私は、案じてしまいます。
ランスロット:この後に及んで、建前はわざとらしい。
皇帝陛下はご病気で、意思決定などできない。
周知の事実だろう。
ガウェイン:二十一と十八。大いに結構ではないか。
ブリタンゲインには若き太陽が必要だ。
始めるぞ、二人だけの円卓会議を。
ランスロット:……植民地の相次ぐ
今日の議題は?
ガウェイン:軍事予算を三倍に増やす。財源には特例国債を発行する。
利回りは1%。
ランスロット:正気ですか?
ガウェイン:お前こそ、借金取りの貴族や神父どもの伝書鳩になっている。
植民地の連中が、
今こそ大英帝国の威信を示し、太陽はここにありと
ランスロット:一理ありますが、国債の引き受け手がいません。
ガウェイン:
自国通貨建ての国債で破綻した例はない。
ランスロット:不当に安い利回りで、元本償還の財源もおぼつかない財政赤字国の国債大量
その見合いに
ガウェイン:資本規制を敷けばいい。
ランスロット:既に資本規制は敷かれています。
実需以外の外貨取引の禁止。
ガウェイン:それでも企業は、外貨を溜め込んでいるだろう。
すべての企業に、外貨を九十日以内に、ポンドに転換するよう義務付ける。
ランスロット:それは前回の円卓会議で棄却されました。
ポンドは国際通貨としての地位を失う。
事実上、ポンドは基軸通貨から転落しているというのに、さらに流動性を壊すつもりですか。
シスター・カミラ:
ランスロット:オブザーバーに発言権はない。
ガウェイン:よい、特別に許す。
シスター・カミラ:ありがとうございます。
市中に
ガウェイン:
ランスロット:
自国通貨に信用のない国の富豪は、自国通貨ではなく、ゴールドで持つことを好みます。
シスター・カミラ:ポンド安の一因は、
新たな資本規制に、
ランスロット:私は反対です。
ガウェイン:
ランスロット:全てですよ。
先代円卓の騎士追放から、今日の円卓会議で話し合われた事柄全てです。
ガウェイン:俺は賛成だ。
ランスロット:賛成一票、反対一票。
円卓の騎士二人ではまとまりませんね。
ガウェイン:次はトリスタンを呼ぶ。あれは聡明な男だ。
十四での政治参加でも、早いということはあるまい。
シスター・カミラ:では、新体制で発足した今日の円卓会議は、これにて閉会とさせていただきます。
ランスロット:かつてない無駄な会議でした。
ガウェイン:すぐに二回目を開く。
ランスロット:…………
シスター・カミラ:オルトヨーゼフ教にも、聖務がございますので。
ランスロット:まさか……
シスター・カミラ:円卓会議で決まらなければ、仕方ありません。
民間の愛国者として
ブリタンゲインの害虫駆除。
□7/ゴモラ街、地下総合取引所『シティ』
ケイ:ヘッドラインの流れる電光掲示板に、リアルタイムチャート。マーケットメイカーの怒声。
ディアンナ:……嬉しそうだな。
チェアマン:資本規制が敷かれてから、為替レートの公表は一日一回。
帝国財務省が大手金融機関に、機密保持条項付きで、流すのみとなった。
一日の取引高も縛りあり。
けど『シティ』ではそんなケチなことはしない。
リアルタイムのレートで、好きなだけ取引していただく。
ケイ:はは、素晴らしい。ここが私の
ディアンナ:思いっきり違法だよな?
ケイ:法に触れるから何だというのだね。
ディアンナ:犯罪だろ!
ケイ:君、リスクとリターンの計算だよ。
捕まるリスクと利益の上がる
私は十三歳になったばかりだから、帝国少年法だと前科にならん。
ディアンナ:お、おまえ、おれよりだいぶ年下じゃないか!?
ケイ:若く見られるといったね。あれは嘘だ。私は老け顔と言われる。
ディアンナ:そういう問題じゃなくて……
チェアマン:資本移動の自由は、先進国なら当然の国民の権利さ。
帝国政府の圧政こそ非難すべきだよ。
ケイ:じつに教養深い人格者だ。こんな立派な人物が悪人なはずがない。
ディアンナ:悪人じゃないかもしれないけど、犯罪者だろ……
ケイ:開発中止になったログレスの郊外。
それがゴモラ街の始まりと言われる。
やがて帝国政府が経済統制を強める中、ゴモラ街に地下総合取引所が出来、裏経済の中枢を担うようになった……
ディアンナ:文字通り、地下にこんな巨大な施設が……
秘密裏にこれだけの施設を築くなんて……
ケイ:資金の出処はどこだろうね。
ディアンナ:この土木建築の技術は……
チェアマン:余計な勘繰りは無用だ。それは誰も知らない話なのさ。
ケイ:ポンドの見通しはどうだ?
チェアマン:チャートと資料。
ケイ:不親切な店だな。
チェアマン:
ディアンナ:フリードニアドル、ベルリッヒマルク……
ブリタンポンドは、世界中の通貨に対して暴落だ……
ケイ:ポンドは構造的に下がるようになっているのだよ。
帝国政府は、企業や投資家に責任をなすりつけようと必死だがね。
チェアマン:それで君は荒稼ぎしたんだろう、
ディアンナ:どういうことだ?
ケイ:さあね。
チェアマン:メシの種だから教えたくないんだろうさ。
まずブリタンゲインは貿易赤字国だ。
外国や植民地からの輸入ばかりで、本国から輸出するものはろくにない。
恒常的にポンド流出のフローが生じている。
ディアンナ:それじゃ、ポンドの価値はゼロになるんじゃ……
チェアマン:その通り。ちゃんとポンド流入のフローもある。
植民地のインフラや企業は、ほとんどブリタンゲインが出資しているのさ。
税金や利息の支払いという形で、ブリタンゲイン本国に、ポンドが
ディアンナ:なるほど……
でもそれって、植民地は、働いても働いても、儲けをブリタンゲインに召し上げられるってことだよな?
ケイ:
植民地は、本国への利払いや税金に不満を持っている。
要はカネの問題なのだよ。
チェアマン:お、話に入ってきたね。
ケイ:そして数ヶ月前から、一部の植民地が相次いで利払いを拒否した。
ポンド買いのフローが止まった。
つまりポンド売りで含み損になろうと、耐えていれば、輸入業者のポンド売りで、自然と利益勘定になったのだよ。
私が天才トレーダーというわけではない。
チェアマン:
どんくさい呑み屋が、間抜けにもプライスを出し続けて、仕組みがわかってる小利口にカモられる。
そしてド派手にやられて、チンピラを使って、強引な債権回収というわけだ。
ケイ:ここではポンドを売っても、債権回収されないだろうね。
チェアマン:もちろんさ。
ケイ:しかし、さすがにポンド安も一本調子ともいかなくなってきた。
フリードニアも通貨高に業を煮やし、
これで
チェアマン:そこの端末でセルフサービスだ。
ケイ:呑み屋以下のサービスだな。
……!!
チェアマン:驚いたかい。
ケイ:三ヶ月で三倍。なぜこの一大トレンドを見落としていた。
チェアマン:公示価格がないからね。
暗黙の資本規制で、金取引は企業も民間人も禁止だ。
表向き金の価格は存在しない。バケットショップでもプライスを出せる店は一部だけさ。
ケイ:くそっ……
考えてみれば、
ディアンナ:――なんで
宝飾品や、歯の詰め物ぐらいしか使い道ないだろう。
チェアマン:はは、なんでだろうね。
ケイ:私も別に金の現物が欲しいわけではない。
チェアマン:元々すべての通貨は、幻想だ。
ポンドもドルも紙切れで、金は光る石ころさ。
違うのは、金は、現代から古代まで時代を超えて、世界中の人間が、価値があるという幻想を共有している。
そしてポンドやドルは、中央銀行が裏付けの怪しい国債を見合いに大量発行されるのに対し、金は物理的に採掘しなければ、供給量が増えない。
ケイ:つまり価値保存の媒体として、金は最高の媒体の一つということさ。
だがポンド安も一服しそうだ。
さすがに金も調整するだろう。
今からの買いは分が悪い。
チェアマン:それなら、この金融商品はどうだい。
とある新興国の通貨だ。
ケイ:ギルター金貨――
チェアマン:名前は明かせないが、その某国の財務大臣と知り合いでね。
なるべく広く流通させて欲しいそうだ。
1ギルター金貨、30ポンド。
ケイ:純金かね?
チェアマン:だったらこんな安いと思うかい?
ケイ:ただのメッキコインか。
みやげ物屋で、記念硬貨として売ったらどうだね。
ディアンナ:ダリオ……ちょっと。
ケイ:なんだね。
ディアンナ:これ、純金だぜ……
ケイ:なぜそんなことがわかる。
ディアンナ:
ケイ:まさか。
ディアンナ:おれはドワーフの技工だ。
赤ん坊のときから金属を触ってきた。間違いない。
ケイ:……ちなみに重さは?
ディアンナ:……5グラムかな。
ケイ:金の
1ギルダー金貨は、金価格で75ポンド。
チェアマンの出した
ギルター金貨一枚につき、45ポンドのサヤ抜きができる……!!
ディアンナ:や、やっぱりおれ、勘違いしてるかも。
ケイ:ギルター金貨の売れ行きはどうかね?
チェアマン:正直なところ、さっぱりさ。
名前も明かさない新興国の硬貨なんて、コイン収集家にしか相手にされなくてね。
自称国王から押しつけられたけど、ほとほと参ってるよ。
ケイ:あなたから見て、その国は伸びそうかね?
チェアマン:ああ、将来有望さ。
ケイ:ふむ。ならば売ってくれ。
ギルター金貨を買えるだけ買う。
チェアマン:取り消しはできないよ。
ケイ:もちろん。あなたを信用している、チェアマン。
ディアンナ:ダリオ、おまえ――
溶かして売るつもりだろ……
ケイ:そんな面倒なことはしない。
転売するだけだ。コインではなく、
ディアンナ:チェアマンが気づいてないのを良いことに、安く買い叩いて……
それでよく信用なんて、ぬけぬけ言えるな……
ケイ:それが相場の世界だよ。
それに私とて無リスクではない。
君の見立てが間違っていれば、メッキコインに全財産をはたくことになる。
そういう意味では、私が真に信用したのは君だな。
ディアンナ:おまえって性格捻じ曲がってるくせに、妙なところで純粋だな……
ケイ:――騒がしいな。
チェアマン:――客人各位。火災発生。
本日の取引は中止。
避難経路から直ちに避難するように。
ディアンナ:火事――!?
ケイ:警察のガサ入れだろう。
参ったね。
ディアンナ:金属音……
このかん高い駆動音は、チェーンソー?
カマエル:
ケイ:防火扉が蹴破られるぞ。
カマエル:
(取引会場の防火扉を蹴破り、電動鋸を携えた仮面の能天使たちが雪崩込んでくる)
ディアンナ:こいつらは……天使……!?
チェアマン:チェーンソーを振り回す天使がいるものか。
あれは異端審問官――ただの人間だよ。
カマエル:
ディアンナ:異端審問官の隊長格――
全身の赤い模様、あれ、乾いた血糊か……?
チェアマン:そう。あれを
ケイ:洗濯ぐらいしたらどうだ。
カマエル:
チェアマン:赤錆のカマエルは、『鉄血党』の武装組織の隊長だ。
『黙示録の堕天使』から、結構な数の
ケイ:神話の能天使も数多く離反したという話だが、天使の仮装集団でもそれを再現とはね。
ディアンナ:……どうしよう。
おれドワーフだから、『鉄血党』に捕まったら……
ケイ:さっさと始末してくれ。ここはゴモラ街だ。死体の十や二十転がっていようと誰も気に留めん。
チェアマン:気に留まるよ。どんな世紀末都市を想像してるんだい。
まあ落ち着きな。悪いようにはならないよ。
ランスロット:――待て!
ディアンナ:聖騎士団……!
ケイ:――第二皇子ランスロットか。
ランスロット:元異端審問官、
今の貴公に聖罰執行の権限はない。ただの私刑だ。
カマエル:…………
ランスロット:即刻手を引け。
さもなくば、この聖騎士ランスロットが貴公に聖罰を下す。
カマエル:HYAAAAAAAAAA――!!!
ランスロット:
ケイ:
ディアンナ:……防御結界で耐えてるけど、劣勢だ。
チェーンソーでぶった切られる――!
カマエル:
ランスロット:アイアンパワーズ……武装外骨格を装着した
人間離れした怪力だが……技巧も何もない。
水難の爪となり、我が敵を引き裂け。
アロンダイト――!
ケイ:水撃の刃――! 深いぞ――!
チェアマン:まだまだ。
あの程度の傷でやられちゃ、
カマエル:HYAAAA……! HYAAAAAAAAAA……!!
ディアンナ:武装外骨格が食い込んで、強引に止血してる……
しかも、痛がってるっていうより、興奮しているような――
チェアマン:痛覚が遮断され、アドレナリンでハイになってるのさ。
骨が折られても無理矢理繋ぐし、肺や心臓をぶち抜かれても、人工心肺で戦闘続行。
恐れを知らない正義の執行者、
カマエル:HYAAAAAAAAAA――!!!
ランスロット:…………
イザヤの深海を泳ぐ、罪深き海龍よ。
魔剣の戒めを今、解き放たん……
ディアンナ:魔剣の波動が変わった――
カマエル:――――
ケイ:退却していった……どういう心変わりかね。
チェアマン:脳内麻薬でハイになってても、思考力は失われていないからね。
聖騎士様も自分らに負けず劣らず、イカれてるって悟ったのさ。
こんな地下施設で、リヴァイアサンに変身しようだなんてさ――!
ランスロット:裏取引所『シティ』、全関係者に告ぐ――!
貴公らには、外国為替管理法ならびに、資本逃避防止法――
その他多数の資本規制に違反している疑いがある。
オルドネア聖教聖騎士団は、聖務執行権を行使し、貴公らを拘束する――!
ケイ:一宗教の私兵団が、国の警察権に準ずる権利を振るっている。
これを異常と思わない社会が異常だね。
チェアマン:昔は、警察も軍もあってないようなものだったからね。
治安維持は、聖騎士に頼りきりだった頃の名残さ。
ランスロット:貴公が金融マフィアのボス、通称『チェアマン』だな。
チェアマン:ああ、そうさ。
ランスロット:大人しく
抵抗すれば――
チェアマン:参った参った、降参だ。
ランスロット:その仮面を外してもらおう。
チェアマン:いいとも。
ケイ:……不謹慎だが、興味があるね。
金融マフィアのボスは、どのような人間か――
――!?
ディアンナ:――空っぽだ。
背広も抜け殻になってる。
手品みたいに、一瞬で消えた――
ランスロット:探せ――!
まだ『シティ』に潜んでいるはずだ――!
――妙な気は起こさないように。
逃亡を図るなど、不審な動きをしなければ、手荒な真似はしない。
ディアンナ:どうなっちまうんだ……
『鉄血党』よりはマシだけど……
ケイ:浮き沈みの激しい一日だったが……
最後に特大の
ランスロット:少年――!?
いや、君は――
ケイ:……どうも。
ランスロット:ケイ――!
ケイ:ご無沙汰しております、ランスロット皇子。
兄上と、お呼びすべきですかな。
□8/キャメロット城最下層、大英円卓
シスター・カミラ:何故、
ランスロット:
それに帝国少年法では、十三歳以下の児童は刑事責任年令に達していない。
半年間、教会の奉仕活動参加で、更生保護の指導を行う。
ケイ:教会で無賃労働の次は、城で無賃労働か。
やれやれだ。
ガウェイン:……全く反省の色が見えないが。
ランスロット:これから厳しく指導していきます。
ケイ:前回の議事録は読ませていただきました。
ガウェイン:それで、お前はどう思う。
ケイ:条件付きで、特例国債の増発は賛成です。
ランスロット:……その条件とは?
ケイ:あらゆる資本規制の撤廃です。
外国為替取引の完全自由化および非課税化。
少なくとも、これは最低条件ですな。
ガウェイン:冗談ではない――!
そんなことをすれば、ポンド相場の暴落を招く――!
ケイ:それが特例国債――赤字国債乱発の報いですが。
ガウェイン:適切に資本規制を運用すれば、ポンドの下落は緩やかに留まる。
ケイ:ポンドの購買力を
これを政府の搾取と言わず何と言うのでしょうな。
ガウェイン:一定の通貨安は、国内の輸出産業――特に製造業に有利に働く。
製造業は雇用吸収力が大きい。それは失業者の雇用に寄与する。
ケイ:失業者のために購買力を奪われ、資本移動の自由まで奪われるのか。迷惑な話です。
ガウェイン:そもそも事の発端は、植民地の踏み倒しだ。
帝国は、鉄道を敷設し、上下水道を整備し、英語を教えてやった。
その恩を忘れ、税や利息の不払いという仇で返した。
我がブリタンゲインは、対外債権国だ。
植民地の連中からカネを取り立てれば、ポンド安はすぐに終息する。
ランスロット:――対外債権が消滅するとしたら?
ガウェイン:それを狙っての、
ランスロット:そうです。
合意なき離脱とは、債務問題も話し合われないまま、離脱すること。
ケイ:――ブリタンゲインが植民地に持つ債権の消滅。
ひいては、国内の植民地債権者の
ランスロット:その通りだ。
今はまだ、債権者は利払いや配当といった、フローに着目している。
しかしいよいよ、債権消滅というストックの
ケイ:信用収縮、そして資本逃避。
ガウェイン:それを防ぐための軍備増強だ。
ランスロット:もちろんそれは正しい。
しかし、敷設した鉄道や民間の工場は持ち帰れるものでもない。
武力衝突となれば、インフラは破壊され、産業は荒廃する。
それはブリタンゲインの対外資産を自ら損なう、自傷行為となります。
合意なき離脱とは違った形で、ストックが失われる。
ケイ:植民地の連中の開き直りですな。
カネの取り立てに来れば、カネのなる木が枯れるという。
ガウェイン:ではどうする。
ランスロット:合意ある離脱――
債権保全を入念に担保した上で、植民地の独立を承認します。
ブリタンゲインの帝国主義政策を、抜本から見直す。
シスター・カミラ:ガウェイン卿――!
ランスロット卿は、帝国の解体を目論む
このような売国的思想、円卓の騎士にあってはならないこと――!
ケイ:いいですな。私も妙案と思います。
そもそも植民地ビジネスは、割に合いません。
インフラ整備に莫大な初期投資を要し、人種問題、法の整備、文化衝突と、厄介事ばかり噴出してくる。
名を捨てて実を取る。
時代遅れの帝国主義は、損切りの頃合いです。
シスター・カミラ:帝国主義こそ、ブリタンゲイン復興の
軍事費の削減、領土拡大の放棄、どれも緊縮的施策ばかり。
今こそ帝国の新たな領土を開拓し、軍備拡張とインフラ投資を行い、経済を活性化しなければなりません。
大英帝国を、再び復興しましょう。
ケイ:その帝国主義バブルが、
不良債権をどう軟着陸させるか話し合っている最中に、性懲りもなく侵略バブルを起こせというのかね。
シスター・カミラ:――バブルにはなりません。貸し倒れは起こさない。
思えば帝国は、現地の
二度と歯向かうことがないよう、血塗れの正義をその身に刻みつけましょう。
ランスロット:原住民虐殺の歴史を繰り返すつもりか。
シスター・カミラ:虐殺の何が悪いのでしょうか。
我々人間、それも
ドワーフや獣人のような
平等の建前を捨て去り、神の定めし階級を、復活させなければなりません。
即ち奴隷制を――
ガウェイン:…………
ランスロット:おわかりになりましたか、彼女が破門された理由が。
シスター・カミラ:ランスロット卿、あなたは
あなたの説く
世界には、奴隷が必要です。
これが嘘偽りのない真実です。
であるならば、
ランスロット:これがオルトヨーゼフ教の
ケイ:面白いブラックジョークだ。
ランスロット:残念ながら、彼女たちは大真面目だ。
兄上はいつまでこのような女を身辺に置くつもりですか。
ガウェイン:…………
合意ある離脱の採決を行う。
ランスロット。
ランスロット:賛成です。
ガウェイン:ケイ。
ケイ:棄権します。
ガウェイン:どういうことだ。
ケイ:合意ある離脱は、現在考え得る中で、もっともマシな策の一つでしょう。
しかし、成立するとは思えません。
しかしブリタンゲインは、庶民院の最大野党が『鉄血党』。
国会は紛糾し、世論を巻き込んでの大反対となるでしょう。
その決定に関与したと思われると、私の身の安全が脅かされる。
その見返りは何かありますかな?
なにもない。
バカバカしい。
なので棄権です。
シスター・カミラ:
ああ、嘆かわしいことですわ。
ケイ:今日限りで、もう来ないので安心したまえ。
ガウェイン:待て、もう来ないとはどういう意味だ。
ケイ:そのままの意味ですが。
ガウェイン:お前は帝国の第五皇子だ。
ケイ:返上しますよ、皇子の肩書きなど。
ガウェイン:――なんだと。
ランスロット:ケイ――!
ケイ:よくわかりましたよ、ランスロット卿。
さしずめブリタンゲインは、潰れかけの動物園といったところでしょうか。
私は、そこの
近いうちに、退園させていただきますよ。
せいぜい国家破綻まで、白猿の飼育係を頑張ってください。
それでは失礼。
ランスロット:……兄上は、どうお考えですか。
合意ある離脱について。
ガウェイン:…………
ランスロット、お前の言うことは常に正しい。
合意ある離脱も、俺がどれほど難癖をつけようと、完璧に切り返すのだろうな。
だが現実はどうだ。
フリードニアの独立も、お前は認めるべきだと言った。
あれから二年後の今、
帝国を解体して、ブリタンゲインはどうなる?
年老いた
民は、文化は、歴史は、国際社会での地位は――
ブリタンゲインは、どうなる?
フリードニアやベルリッヒと並ぶ、先進国でいられるのか――?
ランスロット:それは――わかりません。
ガウェイン:――そうか。
ならば、俺の答えは否だ。
大英帝国の体制は、どれほど非難を浴びようと死守する。
滅ぶならば、年老いた
帝国の第一皇子……いや、帝国の臣民の一人としての、俺の本懐だ。
□9/タルタロス自治区に向かう、護送車の中
ディアンナ:まさかダリオが帝国の皇子だったなんて……いろんな皇子がいるんだな。
ディアンナ:護送車の中は、おれと同じドワーフ系ばかり。
行き先はどこだっけ。鉱山労働させられるって聞いたけど。
チェアマン:行き先はタルタロス自治区。
かつてドワーフの地底王国タルタロスがあった場所さ。
ディアンナ:あんた、ゴモラ街の……
あんたもタルタロスに送られるのか?
チェアマン:まあね。
ディアンナ:その黄金の仮面……よく警官に外されなかったな。
チェアマン:私の素顔を見た奴はこの世にいないよ。
ディアンナ:うわっ、マフィアのボスっぽい。
チェアマン:はは。
ディアンナ:……おれ、これからどうなるんだろう。
チェアマン:タルタロス自治区に送られた流刑者は余命三年。
ディアンナ:余命三年――!?
チェアマン:そうさ。みんな鉱山労働の鉱毒でやられる。
ドワーフはもうちょっと長生きして五年ぐらいかね。
ディアンナ:…………
チェアマン:ショックだったかい?
ディアンナ:おれがドワーフだからか?
チェアマン:そうだね。
ディアンナ:どうしてだよ。同じ
ヒューマンもエルフもドワーフも、背格好や
チェアマン:同じ
むしろ同じ仲間だからこそ、行動範囲も利害も被る。
動物だって一番熾烈に争うのは、縄張りや異性を巡る、同種の仲間だろう。
ディアンナ:…………
チェアマン:万人の万人に対する闘争――
自然状態では、ヒトは孤独だ。
だから共通点を探す。君と私は同じ
そして敵を探す。あいつらは違う
ディアンナ:それが……ヒューマンにとっての、ドワーフってことか?
けど、なんでドワーフなんだ?
エルフだって……
チェアマン:エルフは美しいからさ。ヒューマンの基準だけどね。
簡単に言うと舐められる。下に見られるのさ。
ディアンナ:それでおれたちは、
チェアマン:その通り。
ディアンナ:そんな……
チェアマン:もちろん実利的な理由もある。
必要だけど、危険で実入りの悪い仕事――たとえば鉱山労働を押しつける奴隷としてね。
ディアンナ:
チェアマン:問題はそこじゃない。
そうすると、今度は
『鉄血党』のような連中がそれさ。
格差と差別と分断が、ヒトの本質なのさ。
ディアンナ:どうしたらいいんだ……
チェアマン:そこに折り合いをつけるのが政治や宗教なんだろうけどね。
私にはできなかった。
ディアンナ:……おれ、魔導装機の技工なんだ。
本当は最新の魔導装機を造れる仕事に就きたかった。
けど、無理だな。
たった一人の兄貴も死んじまったし。
おれもこの先もう……
チェアマン:君の兄貴かい?
あいつは殺したって死ぬタマじゃないよ。
ディアンナ:えっ、兄貴を知ってるのか?
チェアマン:ああ。そろそろ迎えだよ。
ディアンナ:――うわっ!
チェアマン:乱暴だね、あの子は。
車体を横倒しにして。妹を圧死させるつもりかい。
ディアンナ:これ、ドリルの音か!?
チェアマン:護送車の扉を破る。じっとしてな。
ディアンナ:……空いた!
チェアマン:そろそろ大丈夫そうだね。出るよ。
ディアンナ:護送車の列が横倒しに……
あれは――スコロペンドラ!?
クロノ:二年ぶりじゃのうディアンナ! 元気にしとったか。
お前、またパイオツでかくなったんじゃないか。
ディアンナ:あ、兄貴――!!
□10/帝国魔導装機工廠、建造ドッグ
(ガウェインは建造ドック回廊から、中央で沈黙する未完成の超巨大魔導装機を見下ろしている)
ガウェイン:…………
シスター・カミラ:――ガウェイン卿! ガウェイン卿!
ガウェイン:カミラか。
シスター・カミラ:お探ししましたわ。
先程の演説、素晴らしかったです。
大英帝国を再び復興しよう
『
ガウェイン:うむ。
シスター・カミラ:試作魔導装機『グレートブリテン』ですわね。
ガウェイン:ああ。
シスター・カミラ:グレートブリテンの完成が間に合っていれば、北米十三植民地の
ガウェイン:詳しいな。
シスター・カミラ:父は、陸軍の魔導装機開発の技師でした。
グレートブリテンの建造にも携わっておりました。
ガウェイン:そうか……父上は健勝か?
シスター・カミラ:……いえ。
ミトラスの
施設で寝たきりですわ。
ガウェイン:それは……すまないことをした。
シスター・カミラ:いいえ、そんな――
父は何よりも、グレートブリテンの完成を願っておりました。
父だけでなく、『
ガウェイン:…………
シスター・カミラ:ガウェイン卿は、私を避けていらっしゃいますね。
円卓会議の後から――
ガウェイン:……いや、そんなことはない。
シスター・カミラ:――告白します。
私の罪と穢れを……
ヨーゼフよ。
どうか赦しと哀れみを――
ガウェイン:…………
その全身から突き出したチューブと金属の台座は――連結インプラントか。
シスター・カミラ:はい。
武装外骨格を接続するためのバイオマテリアルです。
ガウェイン:…………
シスター・カミラ:――お見苦しいものをお見せしました。すぐ服を着ます。
ガウェイン:……お前も
シスター・カミラ:はい。私の
ガウェイン:……なぜ
シスター・カミラ:私はこの『
父が労災で働けなくなり、恩給では暮らしは成り立たず、一家は困窮していました。
そんな時。教皇庁から使者がやってきて告げたのです。
異端審問官として、神に身を捧げるつもりはないか≠ニ――
父の介護施設入所と、弟と妹の
私は天使に堕ちました。
ガウェイン:…………
シスター・カミラ:世界には奴隷が必要だと言いました。
ランスロット卿は、嫌悪の眼差しで、私を罵った。
けれど人種平等、世界平和、自由貿易――
美麗なステンドグラスの下に、誰も手をつけたくない汚れ仕事は、歴然と存在する。
それは貧困という格差によって、無能力者という差別によって――
望まざる自己決定を迫られ、自ら奴隷に堕ちる弱者が背負わされているのです。
そして自己責任という分断によって、弱者は世界から隔離される。
オルドネア聖教はもはや弱者を救いません。
彼らは
ガウェイン:…………
シスター・カミラ:ガウェイン卿、あなたはヨーゼフです。
第一使徒ペテロの偽善を告発してサタンと呼ばれた、オルドネア亡き後の、真の救世主。
アダムの林檎を
ランスロットやケイ、人間の皮を被った
ヨーゼフ、
あなたの他にいないのです。
ガウェイン:…………
『鉄血党』の主張には、共鳴する部分がある。
だが俺は、オルトヨーゼフ教の信者ではない。
俺は不信心な信徒だが、俺の信仰はあくまで、国教であるオルドネア聖教だ。
シスター・カミラ:――ええ、ガウェイン卿はガウェイン卿です。
自覚される必要はありません。
ヨーゼフの自覚がなくとも、ガウェイン卿は
我々
ヨーゼフ、
□11/地中潜行中、スコロペンドラ・ギガンテア内部
ディアンナ:何だよ、ずっとタルタロス自治区にいたのかよ。
クロノ:すまんすまん、わしも忙しかったんじゃ。
ディアンナ:どうせおれのことなんて、忘れてたんだろ。
クロノ:なに言うとる。お前のことは片時も忘れたことはなかったぞ。
魔導装機の建造ドックに入る度に、お前が恋しくてしょうがなかったわい。
チェアマン:四十人だよ、二号機を造るまでに辞めさせた魔導装機工。
クロノ:どいつもこいつも、へっぽこ工員ばかりでのう。
ケツを蹴っ飛ばしてようやく再建したわい。
その名もスコロペンドラ・ギガンテア。
一号機より一回り大きくなって、体節パーツも五十
とはいえ、ちゃんと動くか怪しいけえ。あとで点検してくれ。
ディアンナ:それはもちろんだけど――
兄貴、いつから金融マフィアと知り合いになったんだよ?
クロノ:何を隠そう、フリードニアでわしを助けてくれたのがこの人じゃ。
タルタロス自治区の
チェアマン:護送警官殺しちまうとは思わなかったよ。
クロノ:しょうがないじゃろ、カネで転ばなかったんじゃ。
可愛い妹を助けるため、『死人に口なし』っちゅうことじゃ。
チェアマン:総督府の役人には、またカネを握らせないとね。
クロノ:わはは、頼んだぞ財務大臣。
ディアンナ:どういう関係なんだ。
ペンドラはこんな地中深くに潜ってどこへいくんだよ。
チェアマン:タルタロス。
クロノ:わしらドワーフが暮らしておった、いにしえの地底王国の跡地じゃ。
さあ、着いたぞ。降りろ。
ディアンナ:こんな地下に大空洞が――
魔導具の数々も――
クロノ:ご先祖の遺産じゃ。わしにはようわからん。暇なときにでも調べてくれ。
ディアンナ:……この歩廊、全部純金か?
クロノ:黄金宮殿。昔のドワーフの王様が住んどったそうじゃ。
ディアンナ:…………
クロノ:声も出んか。お前は貧乏性じゃけえのう。
ディアンナ:うるせえな。それもあるけど……
――兄貴、すげえ嫌な感じしないか。
肺が圧迫されるような、呼吸する度に体中を冷気が巡るような――
クロノ:それはほれ、あれじゃ。
ディアンナ:――黄金の龍!?
水晶に串刺しになって死んでる……
チェアマン:
クロノ:その時代、オルドネアはもういなかったんじゃろ。
チェアマン:そうだね。
聖三使徒、ペテロ、ヨーゼフ、アーサー。
千年王国エルサレムの時代だ。
ディアンナ:チェアマン……あんた一体何者なんだ……
チェアマン:私の本名は、テラ=マーテル。
オルドネアの第四使徒『錬金術師テラ』――
地底王国タルタロスの女王『
君たちの遠い先祖さ。
クロノ:のう、ディアンナ。
この黄金宮殿の、ありったけの黄金を見ろ。
これが全部わしらのもんじゃぞ。
ディアンナ:――えっ!?
テラ:私には使い道がないからね。好きに使いな。
クロノ:わはは、どうするディアンナ。
わしがいい婿取ってやろうか。
結納金なんぞ、いくらでも払ったるぞ。
ディアンナ:余計なお世話だよ――!
それより兄貴はどうするんだよ。
こんな山積みの黄金――
クロノ:わしか? わしはもう使い道は決めとる。
太母テラに頼んで、
テラ:もうちょっとお待ち。
ゴモラ街の『シティ』が営業停止に追い込まれてしまってね。
流通が滞ってる。
ディアンナ:二人は、何をしようとしてるんだ――
クロノ:戦争じゃ。
血を流さない、じつに平和的な、黄金の
□12/ログレス裏通りの寂れた古本屋
ケイ:邪魔をするよ。
チェアマン:いらっしゃい。
ケイ:古びた書棚の奥に浮かぶ、黄金の
なかなかのホラーだね。
チェアマン:
ケイ:再進出おめでとう。仮設営業所かね。
チェアマン:古本屋の店主がフリードニアに移住するっていうから、店ごと買い取ったのさ。
一般客は来ないし、カウンターも奥まっていて、外からじゃ目につかない。
常連相手の商売にはうってつけだ。
ケイ:ストーカーも店内には入ってこないな。
あれから『鉄血党』の党員と、聖騎士、両方に付きまとわれていて、大変迷惑している。
チェアマン:ご愁傷さまだね。けど聖騎士は、君の護衛じゃないのかい。
ケイ:まあそうなのだろうがね。これではポルノも買えん。
チェアマン:この店の古本で良ければ、好きなもの持っていっていいよ。
ケイ:あとで物色させてもらおう。
『シティ』での私のギルター金貨買いは、
チェアマン:もちろん、すべて
値洗いは、1ギルダー100ポンド。
ケイ:この短期間で、三倍以上の利益だ……!
ちなみに
チェアマン:1グラム20ポンド。
1ギルダー金貨は、
ちょうど釣り合うね。
ケイ:……気づいていたのか。
チェアマン:金属には
金融屋の前は、
ケイ:ギルター金貨と
チェアマン:私から言い出しちゃ、うさん臭すぎるだろう?
君のように
ケイ:……まんまとはめ込まれたということか。
チェアマン:そう渋い顔をしないでおくれ。儲けさせてやったんだから。
ケイ:……どういう
チェアマン:ご想像をお聞かせ願おうかな。
ケイ:ギルター金貨の為替相場が出来た。
チェアマン:そう、わざわざ
ギルター金貨は、彫り物のある
ケイ:誰も知らない国の通貨が、通貨としての機能を持たないまま、しかし
教えてくれないかね。
ギルター金貨を発行している国は、一体どこだ。
チェアマン:もうじきわかるよ。今日が建国宣言の日さ。
ケイ:地震――!?
チェアマン:本棚の耐震補強しないとねえ。
急いで店の外に出ておくれ。
(店の外に出たケイは、大通りに穿たれた大穴と人だかり、その中心で天高く体節を伸ばす鋼鉄のムカデを目の当たりにする)
ケイ:鋼鉄のムカデ――!?
チェアマン:スコロペンドラ・ギガンテア。
地中を掘り進める魔導戦車だ。
クロノ:帝都ログレスの諸君――!
わしはクロノ=マーテル。ドワーフ王家の末裔じゃ。
只今をもって、タルタロス自治区は、
そして地底王国『新生タルタロス』として独立宣言を行い――
このわしが、『新生タルタロス』の初代国王、
ケイ:…………!!
クロノ:まあまあ、諸君。
わしは宣戦布告に来たわけじゃない。
友好の証に、タルタロス土産を持ってきた。
ほーれ――!
(スコロペンドラ・ギガンテアの左右150本ずつの脚から、帝都の大通りに金貨の雨が振り撒かれる)
ケイ:これは――ギルター金貨!?
クロノ:こいつは『新生タルタロス』の通貨、ギルター金貨じゃ。
その名の通り、ギルター金貨は、金100%の純金製。
『新生タルタロス』なんて、今聞いたばかりの国の通貨なんぞ信用できんじゃろうが、
わしのことは信じられなくても、
ケイ:呆気に取られていた大衆が、我先に金貨を拾い集めている……
チェアマン:ありゃ、
クロノ:のう、ログレスの諸君。
ポンドを銀行に預けても、ろくに金利もつかんじゃろ。
なのに物価は年々上がる。一年経ってみたら丸損じゃ。
だったら、わしのギルター金貨と交換せんか?
わしは
紙くずのポンドなんぞ捨てて、黄金に輝くギルターにこい。
ケイ:……通貨戦争!?
チェアマン:はは、宣戦布告だ。
ガウェイン:待て――!
(キャメロット城の上空から、黒鉄の巨塊とも呼べる機体が、フロートドライブの魔導光を曳いて急進してくる)
クロノ:何じゃあの魔導装機は……
あんな馬鹿でかい機体が、空を飛べるのか――!
ディアンナ:聞いたことがある。
フリードニア戦役で、ついに完成が間に合わず、日の目を見なかった試作機――
最新型のフロートドライブを搭載した、超大型飛空機体――
まるで、
ガウェイン:クロノ=マーテル――!
帝都ログレスで白昼堂々、国家秩序の転覆を図るとは言語道断――!
この大英帝国の黒き太陽『グレートブリテン』で天誅を下す――!
ディアンナ:急降下してくる――!
クロノ:
ディアンナ:すげえパンチだ……
石畳が木っ端微塵だ――!
クロノ:ギガンテアの手数を侮るなよ。
ペンドラ一号機より、ドリルの数は五割増しじゃ――!!
ガウェイン:
ディアンナ:弾かれる――!
クロノ:魔力障壁じゃと……!
ケイ:ガウェイン卿が圧倒的優位だね。
チェアマン:あの機体は不完全だ。そこに気づくか。
ガウェイン:フロートドライブ直進――鉄拳――!
ディアンナ:直撃――!
体節パーツ、六〇番から八〇番まで粉砕――!
クロノ:切り離せ――! 地中に逃げるぞ――!
ガウェイン:逃さん――!
クロノ:しまった――!!
ぬおおおお――!!??
ディアンナ:……兄貴。
クロノ:なんじゃい、このぶん回されている最中に――!
ディアンナ:なんであの機体、格闘戦しかやらないんだ。
クロノ:はン?
ディアンナ:一発一発のパンチは凄いけど、よく考えれば小回りは全然利かないし、沢山ついてる砲塔は飾りか?
あの機体は、格闘戦を想定した設計じゃない――
クロノ:……もう一つ、
格闘戦を仕掛けてる間は、
ガウェイン:手応えが軽い――!? 分離――!?
クロノ:ドリルで全身ズタズタにしたるわ――!!
ガウェイン:ぐああああああああ――!!!!
クロノ:わははは、ギガンテアは体節パーツの分離状態でも、ドリルアームを使えるよう改良したんじゃ。
ディアンナ:それやったの、おれだけどな!?
クロノ:これで奴も――
ガウェイン:親機はそこか……!
クロノ:バカな、動けるのか――!
ディアンナ:装甲の隙間から人工筋肉をえぐってるのに、止まらない――!
クロノ:帝国軍の本隊も押し寄せてきよった。
頃合いじゃ。
ディアンナ、体節パーツは捨てて、逃げるぞ――!
ディアンナ:あ、ああ……
ガウェイン:待て……!
クロノ:ログレスの諸君――!
新生タルタロスはいつでも、諸君らのポンドと黄金を交換してやるぞ――!
うわははははは――……
ケイ:去っていった……引き分けか。
シスター・カミラ:
ケイ:『鉄血党』のバカどもか。
シスター・カミラ:ああ、グレートブリテンが無惨な姿に……
ガウェイン卿、ガウェイン卿――!
ケイ:相場はどうなっている?
チェアマン:乱高下の後、急落だよ。
大量に
ケイ:ギルターは?
チェアマン:こっちも
さっきのガウェインとの対決は、市場はどう織り込んでいいのか、気迷いみたいだ。
ケイ:ギルターが値下がりしたら、
チェアマン:強気だね。
ケイ:もちろん、材料はこれで終わりではないのだろう?
チェアマン:さあ。
ケイ:ははは――あなたが
あなたこそ、この通貨戦争の仕掛け人だろう、チェアマン?
チェアマン:フフフ――
ケイ:あなたを信じるよ。口座の証拠金すべてで、ポンド売りギルター買いのポジションを組んでくれ。
チェアマン:君はカネの亡者のくせに、妙に純粋なところがあるね、
ケイ:投資に、色も善悪もない。
儲かる投資がいい投資で、儲からない投資が悪い投資だ。
投資先も何だっていい。株でも、商品でも、通貨でも、
あなたは儲けさせてくれると信じた。
私はあなたの戦争に、私のカネを投じる。
チェアマン:私は、帝国政府を破綻させる。
国は荒廃し、大勢のブリタンゲイン人が路頭に迷い、自殺者と失業者で溢れるよ。
ケイ:どうぞご勝手に。
国家と個人は別々の経済主体であり――個人と個人もまた異なる経済主体だ。
私が『鉄血党』のような連中の生活を案じてやる義理など、砂粒ほどもないね。
チェアマン:はは――
これがアダムの林檎をかじった、
まるで悪魔だね。
ケイ:自我とは、自由とは、世界からの絶対的な分断。
悪魔が自由の蔑称ならば、喜んで悪魔の名を受けよう。
アダムの林檎とは、きっと黄金の林檎だったのだろうね。
チェアマン:――たっぷりご馳走してあげよう。
黄金と自由の味をね。
ケイ:クククク――ハハハ――
□13/真夜中、無人のサン・ペテロ大聖堂
ランスロット:ヨーゼフは言った。
神の怒りをうけよ
これより千の
欲に溺れたソドムとゴモラを水晶で閉ざす
ペテロは言った。
ヨーゼフ、神の名を騙る悪魔よ。なんじはサタンなり
ヨーゼフは言った。
わたしを告発せよ、ペテロ。わたしはサタンである
ペテロは言った。
ヨーゼフ、わが最愛の友よ。なんじはサタンなり
――『ペテロとヨーゼフの決別』6章3節。
ランスロット:
『鉄血党』のような極右政党が熱狂的に愛国を煽るも、多数の国民は距離を保ち、素朴な国家観を維持していた。
しかし蛮人王クロノの撒いた黄金の毒が、
個人として覚醒した国民は、一体感を強要する『鉄血党』に、激しい嫌悪を抱く。
一方の『鉄血党』も、蛮人王の撒いた黄金に群がる
ブリタンゲインは、致命的なまでに分断された。
ランスロット:最愛の友をサタンと呼んだペテロ。
自らサタンを名乗ったヨーゼフ。
使徒の示した救済を、今こそ再演すべき時――
世界には、
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