The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第34話 救世主(メシア)の偶像

★配役:♂2♀3両2=計7人

▼登場人物

モルドレッド=ブラックモア♂:

十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。

魔導具:【-救世十字架(ロンギヌス)-】
魔導系統:【-神聖魔法(キリエ・レイソン)-】

パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。

魔導具:【-自在なる叡知(アヴァロン)-】
魔導系統:【-元素魔法(エレメンタル)-】

※今回パーシヴァルは名前だけの登場で、セリフはありません

アムルディア=ブリタンゲイン♀
十六歳の機操騎士。第一皇子ガウェインの長女。
ブリタンゲイン五十四世には、孫に当たる。
先代皇帝より、戴冠の証である聖剣を受け継ぎ、王位継承の儀を待つ次期皇帝。

ハーフドワーフ。
母親であるアンナは、洞窟人ドワーフの王族である。
ドワーフの血筋ゆえに身長は低めであり、その反対に胸は大きい。
またドワーフらしく、古今東西の武具を好み、機械弄りが趣味。

魔導具:【-太陽覇王剣(エクスカリバー)-】
魔導装機:試作専用型〈ガランテイン〉

ラーライラ=ムーンストーン♀
二十七歳の樹霊使い(ドルイド)(外見年齢は十三歳程度)。
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の一員。
人間の父と、エルフの母のあいだに生まれたハーフエルフ。
『ムーンストーン族』のエルフには見られない青髪と碧眼は、父親譲りのもの。

父親が魔因子を持たない人間だったので、〈魔心臓〉しか受け継がなかった。
エルフながら魔法を使うためには、魔導具の補助が必要である。

魔導具:【-緑の花冠(フェアリー・ディアナ)-】
魔導系統:【-樹霊喚起歌(ネモレンシス)-】

カテリーナ=ウルフスタイン♀
十六歳の戦乙女(ヴァルキュリア)
特に重装乙女(ブリュンヒルデ)に分類される近接戦闘のエキスパート。

ウルフスタイン伯爵の娘。
大学院(アカデミア)の高等部を退学し、父親の口利きで聖騎士団に加入した。
金髪縦ロールのお嬢様スタイルだが、性格は豪快を絵に描いたよう。

魔導具:【-轟雷の雄叫び(ミョルニル)-】
魔導具:【-金剛怪力帯(メギンギョルズ)-】

ステファン=ヘレニスト両
十四歳の、聖パウェル救貧院の出身の孤児。
元は子爵家の長男だったが、両親の魔因子を受け継がなかったために、子爵家から落籍された。

ツァドキエルの人造天使計画の一端で洗礼を受け、後天的に魔因子を獲得した。
階級は第七位の『権天使(けんてんし)プリンシパリティ』であり、亜人間(デミヒューマン)である小天使(しょうてんし)アンゲロスを率いる役目を持つ。
エルフの一種族であるタイガーズアイ族の魔因子を埋め込まれており、魔心臓の他に、額に魔晶核を有する。
耳も尖っているなど、外見上はほぼ純血のエルフと見分けがつかない。
しかしその代償に、免疫が埋め込まれた魔因子を異物と認識して攻撃する、自己免疫性疾患を患っており、免疫抑制剤の服用が不可欠となっている。

魔導系統:【-狩猟伎倆(ワイルドハント)-】

救世主オルドネア両
千年前の古代魔法王国時代を生きた古代人。
神の声を聞き、十三人の使徒と共に、大悪魔(ダイモーン)に立ち向かい、世界を救った救世主。
十三番目の使徒ジュダの裏切りによって、最後に残る大悪魔(ダイモーン)と畏れられ、十字架に架けられて死んだとされる。

救世主伝説は後の世に編纂されたもので、一部の神学者からは、オルドネアの実像を表していないという批判もある。
また裏切りの使徒ジュダと類似点が多く、聖典ではそれゆえジュダがオルドネアを妬んで罠に掛けたと伝えている。

救世主オルドネアの魔晶核は、オルドネア聖教の聖遺物として扱われ、ロンギヌスの槍となっている。

慈悲深きツァドキエル♂
オルドネア聖教の異端審問機関『黙示録の堕天使』の一人。
階級は第四位の『主天使』であり、マスタードミニオン≠ニも呼ばれている。
人為的に新種の亜人間(デミヒューマン)を造り出し、神の兵士とする、人造天使計画の立案者。
孤児院から選りすぐった少年少女に 天使の聖餅(エンゼル・プロスフォラ)≠与え、亜人間(デミヒューマン)に転生させる実験を行っている。

表の顔は、オルドネア聖教の聖パウェル大聖堂を治める、大司教ピレロ。
帝都ログレス全域を教区として、パウェル派の教会および施設を監督している。
パウェル派は、第七使徒パウェルの教典を重んじる宗派であり、戒律は緩やかで、愛と奉仕を信条とする。
戒律の厳しいヨーゼフ派とは、解釈の違いでたびたび論争が起こっているが、一つの宗教という認識は一致しており、互いに尊重し合っている。

魔導具:【-教導の錫杖(ゲドゥラー・サイケデリック)-】
魔導系統:【-精神異能(サイコカルト)-】

※ツァドキエル、ピレロ大司教の年齢の詳細は、設定していません。
演じる方の声質、解釈にお任せします。作者は三十代〜六十代ぐらいを想像しています。
両キャラを演じ分けするかしないかもお任せします。ツァドキエルは仮面をつけており、素顔はわからない状態です。

以下は被り役推奨です。

近衛兵♂ 侍女♀
□1のみ登場。アムルディアと会話有りです。

※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。



□1/帝城キャメロット上層階太陽宮殿″c帝食事処

(護衛の近衛兵に囲まれる中、侍女の運んでくる食事を独り黙々と口に運ぶアムルディア)

侍女:ヒラメのクネル、ロブスターソース掛け。
    鴨肉のオレンジソース、ロイヤル風味でございます。

アムルディア:…………

        うっ――!
        が、は――!

(鴨肉を切り分けるナイフの動きが止まり、瞳孔が大きく開かれ、吐血するアムルディア)

近衛兵:アムルディア様――!?

     これは毒……!
     おい貴様――!

侍女:ひっ――! わ、私は何も――!

近衛兵:取り押さえろ――!

アムルディア:ま、待て……!
        彼女は犯人ではない……!

近衛兵:殿下……!?

アムルディア:聖剣の鞘は失われた……
         かつての不老不死の奇蹟は既に無い……

         しかし聖剣の輝きは消えず、我が手の中にある。
         毒薬程度で、ブリタンゲインの太陽は沈まぬ。

         真の反逆者は――

近衛兵:…………

(アムルディアに駆け寄った近衛兵は、主君を案ずる表情を消し、腰元の短剣に手を伸ばす)

アムルディア:――お前だ!

近衛兵:ちいっ――!

アムルディア:やあっ――!

近衛兵:ぐあっ――!

(瞬時に抜剣したアムルディアの一閃を受け、両断された短剣の刃が宙を舞い、断ち割られた鎧の断面を抑え、近衛兵はうずくまる)

近衛兵:ぐう……うううっ……!

アムルディア:誰の差し金だ。

近衛兵:父君の理想を捨て、金の亡者に魂を売り渡した逆賊め……
     貴様の統治は、混沌と荒廃の果てに、終焉を迎える……

     祖国ブリタンゲインに、栄光あれ……

侍女:ち、血を吐いて死んで……

アムルディア:歯に自害用の毒薬を仕込んでいたか。

        この者の身辺、遺品を調査しろ。
        この周到さでは、証拠となるものは残していないだろうが……

侍女:アムルディア様、おいたわしい……

アムルディア:…………

        ――――!?

(気遣わしげに近寄ってきた侍女の手元で、拳銃の火が噴き上がり、金属の激突した絶叫が響き渡る)

侍女:くっ――!

アムルディア:エクスカリバーは悪意に反応する。
         貴様も賊の一味か。
         
         はあっ――!

侍女:ぐうっ――……

アムルディア:…………

侍女:神よ……今、あなたの御許へ向かいます……
    呪われよ、簒奪者アムルディア……

    ぐはっ……

アムルディア:…………
         早朝からこんな有様か。

         戴冠の儀まで、今日を含めてあと四日……
         私の周りは……敵だらけだな。


□2/聖パウェル教護院、パーシヴァル個室



モルドレッド:今日は水曜日か……
        先生は一時的な心神喪失で、すぐに良くなると言っていたが……
        日曜日にこうなって以降、容態は一向に戻る兆しがない……

パーシヴァル:…………

モルドレッド:パーシヴァル……
        抜け殻のようなお前を見ているのは辛い……

カテリーナ:失礼いたします。

モルドレッド:……カ、カテリーナか。

カテリーナ:ご機嫌よう、モルドレッド様。

モルドレッド:どうしたんだ、今日は?

カテリーナ:パーシヴァル様が入院されたと聞いてやって参りましたの。
       お加減が(かんば)しくないようで心配です。

       これ、お見舞いの品ですわ。
       南国の珍しいフルーツで、果実の王様と言われているそうです。

モルドレッド:ドリアンじゃないか……
        ザーンの街で出されて、ラーライラが吐いていたな。

        そうだ。
        カテリーナ、ラーライラの行方を知らないか?

カテリーナ:まあ、連絡がつきませんの?

モルドレッド:ああ……

カテリーナ:昨日、お城で見かけましたわ。遠目にでしたけれど。

       トゥルードの森の統治権の話で、エルフの三部族と、帝国政府の間で、話し合いが行われていたそうです。

モルドレッド:そ、そうか……
        無事ならいいんだ。

カテリーナ:では、わたくしはこの辺で失礼させていただきますわ。

モルドレッド:……カテリーナ!

カテリーナ:はい?

モルドレッド:あの……この前のことだが……

カテリーナ:その節は大変失礼いたしました。
       これからもよき臣下、よき友人としてお付き合いいただけると幸甚(こうじん)ですわ。

       それでは――

モルドレッド:…………

        なんというか、女は切り替えが早いよな。
        なあ、パーシヴァル?

パーシヴァル:…………

モルドレッド:パーシヴァル……


□3/聖パウェル大聖堂、最奥部の至聖所



ピレロ大司教:モルドレッド皇子。
         決心はつきましたか。

モルドレッド:はい……
        しかしピレロ大司教、私は――

ピレロ大司教:日曜日の戴冠の儀まで、あと四日。
         簒奪者アムルディアが王冠を戴けば、ブリタンゲインは悪魔の手に堕ちます。

モルドレッド:…………

ピレロ大司教:皇帝殺しの濡れ衣を着せられ、聖人の列より外されたランスロット皇子。
         彼を生贄の十字架から下ろすことが出来るのは、あなただけです。

モルドレッド:ランス兄さん……

ピレロ大司教:モルドレッド皇子。
         簒奪者アムルディアを討ち果たし、あなたが真の皇帝として、名乗りを上げなさい。

         憂いも迷いも要りません。
         この教導(ゲドゥラー)錫鳴(すずな)りに総てを委ねれば――

モルドレッド:う――……

(ピレロ大司教の錫杖の音色がモルドレッドの意識を揺らす――と同時にロンギヌスの槍が淡く光る)

オルドネアの声:揺れ動くなかれ。
          鼓膜を揺さぶる音色は、涼やかなる雑音(ノイズ)

          耳を塞ぐべし。
          汝の平穏は、孤独の内に――

モルドレッド:はっ――!?

ピレロ大司教:モルドレッド皇子、どうなされましたか。

モルドレッド:いえ……すみません、ピレロ大司教。

        今しばらく、時間を戴きたい。
        戴冠式の前日までには、返事を返します。

(寝起きのようにふらつく足取りで、至聖所を後にするモルドレッド)

ピレロ大司教:――ふむ。
         やはりロンギヌスに、精神魔法は通じませんか。

         まあよいでしょう。
         あなたは、行く先のわからぬ不安に苛まれています。
         もうじきあなたはそれを抱えきれず、自ら差し出すでしょう。
         自我という果実……アダムの林檎を。


□4/帝城キャメロット、アムルディア寝室



カテリーナ:ここがブリタンゲイン帝国の頂点に君臨する、皇帝陛下の寝室なのですわね。
       想像していたより、ずっと質素ですのね。

アムルディア:カテリーナ殿、ありがとうございます。
        戴冠式を控え、暗殺と謀略の跋扈する帝城キャメロット。
        そんな渦中に、大切な一人娘を私の護衛に就けてくださったウルフスタイン伯爵家の忠節……
        感謝の念に堪えません。

カテリーナ:ウルフスタイン伯爵家は、代々ブリタンゲイン皇帝に仕える武門の家柄。
       父も母も、わたくしのじゃじゃ馬が、皇帝陛下のお役に立てたと、躍り上がって喜んでおりましたわ。

アムルディア:私はまだ皇帝ではありませんよ。
        それと、公式の場以外では、自然体で構いません。
        ついこの間まで士官学校にいたので、同世代に(かしこ)まった礼を取られると、困惑してしまいます。

カテリーナ:あら、よろしいんですの?

       それではアムルディア様。
       不躾(ぶしつけ)を承知で、お願いしたいことがございますの。

アムルディア:何でしょうか?

カテリーナ:わたくしとお手合わせ願えませんこと?

アムルディア:――いいでしょう。
        あなたの武勇は聞き及んでいます。
        (いかずち)の令嬢カテリーナ=ウルフスタイン。
        私も一度、戦ってみたいと思っていた。

        聖剣エクスカリバーと、雷神の鉄槌ミョルニル。
        正々堂々、勝負しましょう。

カテリーナ:それもいいですけど、そっちじゃありませんわ。

アムルディア:巻き尺――?

         へ?
         ちょ、ちょっと、何をするつもりです!?

カテリーナ:大人しくしてくださいませ!
       正確なサイズが測れませんわ!

アムルディア:ふ、服を脱がさないでください!

        ああっ、ホックが――!
        ひゃあ! うわあああああ――!!!

カテリーナ:……………………
       ……………………

       負けましたわ……
       完膚無きまでに、わたくしの敗北です。

アムルディア:一体何を争っていたのです!?

カテリーナ:アムルディア様……王者の風格ですわ。

アムルディア:私の胸を見て言わないでください!

カテリーナ:わたくし、結構自信ありましたのに。
       ショックのあまり、寝込んでしまいそうですわ。

アムルディア:寝るなら勝手に寝てください。ベッドはそこです。

カテリーナ:ではお言葉に甘えて。
       あら、でもベッドが一つしかありませんわ。

アムルディア:そうでしたね。失念していました。

カテリーナ:アムルディア様、大変申し上げにくいのですけれど――
       わたくし、手足をのびのび伸ばせるスプリングの利いたベッドの上でしか眠れませんの。

アムルディア:そうですか……

カテリーナ:でも無問題(ノープロブレム)です。
       このベッド、ダブルですもの。

アムルディア:今日はソファーで寝ます……私が。

カテリーナ:次期皇帝陛下を差し置いて、わたくしがベッドを占有するなど心苦しいですわ。

アムルディア:いえ、士官学校時代の軍事演習で慣れてますから。

カテリーナ:まあ、そうでしたの。
       それでは今夜はわたくしが寝台を使わせていただきますわ。

       うーん……むにゃむにゃ……

アムルディア:も、もう寝てしまった……
        彼女と四日間、寝食を共にするのか……

        帰ってくれないかな……この人。


□5/ブラックモア邸、真っ暗な自室


(月明かりが差し込むだけの薄暗い自室で、モルドレッドは寝台の縁に腰掛けている)

モルドレッド:生まれてから十六年――
        災厄(わざわい)の皇子と畏れられていた俺が、唐突に救世主の再来と祭り上げられている……

        そうかと思えば、信仰に篤く、武勇と知恵を兼ね備えた完璧なる騎士ランスロット――
        国中の誰からも慕われたランス兄さんは、皇帝殺しの逆賊だ……

モルドレッド:俺は……オルドネア聖教のことがわからなくなってきた……

        パーシヴァル、ラーライラ、カテリーナ……
        ランス兄さん……

        俺は何処へ向かって歩いているんだ……?
        行く先が何も見えない……

        教えてください……
        オルドネア……救世主よ――!

(壁に立て掛けてあるロンギヌスの槍が淡く光り、月明かりの下に朧な人影が投影される)

オルドネアの霊体:迷える子羊よ。汝に問おう。

モルドレッド:聖人……!?
        その半透明の姿……

        あ、あなたは……

オルドネアの霊体:QuoVadis(クォ・ヴァディス)
            汝は何処へ往くのか。汝は何を望むのか。

モルドレッド:救世主……オルドネア――!


□6/異端審問機関、秘密拠点『天使の巣』


(地下深くの石造りの天井にも関わらず、発行素を充填した角灯により、煌々と輝く地下礼拝堂)
(祭壇の上に掲げられた磔刑の御子像の前で、主天使の仮面を嵌めた男が、祈りを捧げている)

ツァドキエル:神は愛なり。
        穢れ果てし我さえ愛したもう。
        嗚呼、神は愛なり――

ステファン:ツァドキエル様、朝のアムルディア暗殺失敗の報より、日付が変わって木曜。
       続報がありませんが、我らに疑いの目が向いている可能性は?

ツァドキエル:案ずることはありません。

        近衛兵はガウェイン皇子の信奉者。
        侍女は敬虔なオルドネア教徒です。
        彼らは心の奥底から、アムルディアに叛意を抱いていました。

        私は封じ込めた心の鍵を開け、真実の心へ導いたに過ぎません。

ステファン:安心しました。
       平民風情の安い命で気を揉むなんて、馬鹿げていますからね。

ツァドキエル:権天使(けんてんし)プリンシパリティ。
        あなたが戦場の空に、羽ばたく時が巡ってきました。

ステファン:フフフ――
       洗礼の儀式に耐え、神に選ばれし転生者。
       この選ばれし者の力を振るう機会――待ちわびていたんですよ。

ツァドキエル:頼もしい言葉です。
        この聖女ラーライラが、聖戦の御旗(みはた)を守る、旗振りの乙女となるでしょう。

ラーライラ:はい、ツァドキエル様。

       失われし楽園に緑の芽吹きを。
       あなたに総ての意思を委ねます。

ステファン:ハーフエルフですか。
       もう一人の女はどうしたのです?

ツァドキエル:彼女は既に彼の者と接触し、帝城に潜り込んでいます。

        人造の天使の指揮官よ。
        小天使(しょうてんし)たちを組織し、悪魔の牙城に突入なさい。
        二人の聖女と力を合わせ、簒奪者アムルディアを打ち倒すのです。

ステファン:慈悲(ケセド)の王座と、蒼玉(サファイア)の木星に誓って。
       このステファン=ヘレニスト――
       いえ権天使プリンシパリティが、必ずや悪魔の亡骸を持ち帰ってご覧に入れましょう。

       我ら人造天使の統治者、マスタードミニオン。


□7/昼下がり、ナザレト地方の行路


モルドレッド:(馬車の荷台に揺られて、地方へ巡遊……)
        (戴冠式をあと三日に控え、俺は何をやっているんだろう……)

モルドレッド:(抜けるような青空だ――)
        (草原を渡る風、馬蹄(ばてい)が地面を叩く響き、土の匂い……)

        (何もないな……)
        (友も敵も……重圧もしがらみも……)
        (ログレスを離れ、田舎に来れば何もない……)

オルドネアの声:十三皇子。此処で降りよ。

モルドレッド:あ、ああ。

        道中すまない。ここで降りる。
        これが運賃だ。

(御者に硬貨数枚を渡した後、草原に立ちつくすモルドレッド)

モルドレッド:これからどこへ向かえばいいんだ?
        草原のど真ん中だぞ。

オルドネアの声:次なる行く先は、あのガラリア山。

モルドレッド:今度は山登りか……
        山へ繋がる道が見当たらないんだが。

オルドネアの声:人の行く先に、前人の踏み締めた道無きは常。
          草の原の下生えを踏み締め、進め。

モルドレッド:…………
          

□8/ガラリア山の頂上へ続く山道


モルドレッド:はあ、はあ……
        本当に俺は、何をやってるんだろう……

オルドネアの声:其処の林道を脇へ。
          足下は腐葉土。慎重に。
          その先に木の根がある。
          足を取られぬよう気をつけよ。

モルドレッド:ひょっとして、これは幻聴なのではないか……?
        大体、ロンギヌスから声が聞こえたことなど、過去に一度もなかった。
        俺はオルドネアの声に従う振りをして、全てを投げ出して現実逃避しているのでは……

オルドネアの声:今の汝に取り得る術は無し。
          (ただ)、汝を取り巻く状況が変わる時を待つのみ。
          同じ時を待つなら、答え無き思索の霧に迷い込むも、大自然の中を散策するも等しく。

モルドレッド:……オルドネアよ。
        俺の知らないことを喋ってみてくれないか。

オルドネアの声:カテリーナ=ウルフスタインのスリーサイズは、上から87/59/86。

モルドレッド:ラーライラの一番多い下着の色は。

オルドネアの声:ムーンストーン族のエルフに、下着を身につける習慣はない。

モルドレッド:……!?

        知らなかった……

オルドネアの声:汝の求むる答えには足りたか。

モルドレッド:……あなたは救世主(メシア)だ。

オルドネアの声:救世主(メシア)……懐かしい響きだ。

モルドレッド:ひとまず俺の幻聴ではなさそうだが……
        あなたが本当にオルドネアなのかどうか、まだ確証は得られていない。

オルドネアの声:私がオルドネアと呼ばれた古代人であろうとなかろうと。
          古ぼけた槍に取り憑いた、古代の亡霊の半生を巡る遊楽の旅。
          其れだけでよかろう?

モルドレッド:…………
        辺りが暗くなってきたな。

        夕暮れか……
        山道で夜に入るのは避けたい。

オルドネアの声:もうじき山の中の(いおり)が見える。

モルドレッド:あの石の洞窟は――

オルドネアの声:あれが私の住処。
          今夜は彼処(あそこ)で、身を休めよ。

モルドレッド:あの洞窟が、あなたの家――?

オルドネアの声:千年の時が流れても変わっていない。
          私はあの石室(いしむろ)で、数百の時を過ごし、ペテロと名乗る人間と出会った。
          救世主伝説の始まりの場所――


□9/ガラリア山の夜、縦穴洞窟の内部

(石壁よりせり出した台に腰を下ろし、ロンギヌスの穂先に灯る光で、がらんどうの石室内を見渡すモルドレッド)

モルドレッド:がらんどうだ……
        衣類や本はともかくとして、かまどや寝床、人間の生活していた痕跡が何一つない。
        古代魔法王国の工芸品(アーティファクト)なら、そんな設備は必要なかったのか?

オルドネアの声:私は食べもしなければ飲みもせぬ。
          暑さも寒さも、私の芯には届かなかった。
          昼も夜も同じ視界で、私は暮らしていた。

モルドレッド:中華龍王国の仙人のような話だな。
        あなたはずっとこの洞窟に住んでいたと?

オルドネアの声:いいや、彼方此方(あちこち)を巡った。
          この洞窟に移り住んだのは、魔法王国とやらの末期だった。

モルドレッド:オルドネアよ。
        あなたはベツレ・ヘイムの街で生まれ、ナザレトの街で育ったのではなかったか?

オルドネアの声:それは、聖典にそう書いてあるのか?

モルドレッド:……ああ。

オルドネアの声:汝に一つ、オルドネアしか知り得ぬ知識を授けよう。
          それは第一使徒ペテロの出生だ。
          オルドネアの前半生は、ペテロとヨーゼフの幼少期を継ぎ合わせて作られている。

モルドレッド:……では、あなたは本当はどこで生まれ育ったというのだ。

オルドネアの声:私の生まれか。
          私の生まれは――忘れてしまった。

モルドレッド:忘れた?

オルドネアの声:そう――

          私は男であったのか、女であったのか。
          肌の色は白かったのか、黒かったのか、黄色かったのか。
          若かったのか、幼かったのか、年老いていたのか。

          余りに遠すぎて、自分自身がどのような人間だったのか覚えておらぬ。
          名も無き山の頂上で、大いなる存在の声を聞き――私の刻は止まった。
          以来私は、凍れる刻の中で、終わり無き永遠の生を流離っている。

モルドレッド:……あなたは、何者なのだ?
        本当にあなたは、救世主オルドネアの聖霊なのか……?

オルドネアの声:私は、唯の名も無き亡霊。
          呼びたくば、汝の好きなように呼ぶがいい。
          古き友がくれた名オルドネアでも、古代の人々が崇めた救世主でも。
          ロンギヌスの槍に宿る精霊でも、汝の幻聴でも構いはせぬ。

モルドレッド:あなたの目的は何だ。
        俺をこんな場所に連れてきて、何をさせたいんだ。

オルドネアの声:汝に求むるは、私の生涯に(ゆかり)のある地を巡る足となること。
          思い出話に相槌を打つ聞き役となること。
          旅には道連れがなくば、寂しいものであろう?

モルドレッド:はぐらかさないでくれ。

オルドネアの声:そろそろ眠れ。眠りは魂の癒し。
          なれど汝の魂は休まらず、降り積もる心の(おり)に圧迫され、眠れぬ夜を明かした。

          汝の内にわだかまる苦悩も葛藤も、今は私に預けよ。

モルドレッド:…………

オルドネアの声:汝の魂に安らぎがあらんことを。
           おやすみ、モルドレッド。


□10/深夜、帝城キャメロットの一室

(照明の消えた無人の客間。窓ガラスの隙間に緑の蔦草が滑り込み、内側から開け放つ)
(蔦草をつたい、城壁を登ってきた二つの人影が、室内に降り立つ)

ステファン:よっと。

       城壁から蔦草を上って、客間の一つに侵入。
       ちょろいじゃん。
       こんなので城に潜り込めるなんてザルもいいところだね。

ラーライラ:カテリーナが常駐式の警報結界を無力化してある。
       ここはその一部。気を緩めないで。

ステファン:そんなのわかってるよ。
       ハーフエルフの分際で、僕に意見しないでくれる?

       僕は権天使プリンシパリティ。
       古代人と同じ、完全な魔因子を持つ選ばれし存在だ。
       お前とは血統が違うわけ。わかる?

ラーライラ:あなたは生まれついての古代人じゃない。
       あなたは人造天使計画で造られた存在。
       後天的に魔因子を注がれた。

ステファン:黙れよ。

       僕は本当は、選ばれし者として生まれつくはずだった。
       なのに、父親か母親かその両方か……
       奴らが無能なせいで、僕は魔因子を受け継げなかった。

       あろうことか奴らは、僕を魔因子を持たない出来損ないとして、孤児院に捨てたんだ!
       貴族の子爵家に生まれた高貴な血筋の僕が、汚い貧乏人のガキどもと同じ暮らしを強いられたんだぞ!
       お前に、この屈辱がわかるか――!?

ラーライラ:魔因子を持つこと。
       魔法への適性を身につけることは、多くの人間たちの悲願のはず。
       どうしてあなたと同じ、後天的古代人が増えないの?

ステファン:言っただろう? 僕は選ばれし者なんだ。
       誰にだって僕のような権天使、高位の存在に転生出来るわけじゃない。
       大抵は、あの下等な小天使(しょうてんし)ども――醜い亜人間(デミヒューマン)止まりさ。

       お前が僕や純血のエルフと同じ、完全な魔因子を持ちたいと思っても、止めておいたほうがいいよ。
       不細工な化け物になるだけだからね。ハハハ。

(笑いながらピルケースを取り出し、白い錠剤を噛み砕くステファン)

ラーライラ:それは――錠剤?

ステファン:大したものじゃない。
       選ばれし者には、ちょっとした体調管理が必要なだけさ。

(夜の闇が満ちた部屋のドアが開き、廊下の灯りと共に、暗がりの室内に一つの人影が伸びる)

カテリーナ:ご機嫌よう。首尾は上々のようですわね。

ステファン:こいつがもう一人の聖女か。
       ウルフスタイン伯爵家の一人娘。
       いちいち仕草が気取っていて、嫌味な奴だ。

カテリーナ:どういたしまして。わたくしにはこれが自然体ですの。
       気取って見えるとしたら、それはその方の品性が貧しい証拠ですわね。

ステファン:ふん。
       金持ちを鼻に掛けた虚飾女と、貧乏臭い雑草のような女。
       聖女なんて、便宜上の意味以外では、間違っても使いたくないね。

ラーライラ:どこへ往くの?
       今はまだ、金曜日になったばかりの深夜。
       計画の実行は日曜日――戴冠式の前の深夜。

ステファン:お前に言われなくてもわかってるよ、ハーフエルフ。

       僕は狩人。
       タイガーズアイ族のエルフの魔因子を完璧に受け継いだハンターだ。
       獲物を仕留めるには、罠が必要だろう?

カテリーナ:せいぜい見回りの兵に、見つからないようにしてくださいましね。

ステファン:お前こそボロを出して、城からつまみ出されるなよ。

       さあ、狩りが解禁された。
       選ばれし者が、下等な連中をもてあそぶ、貴族のスポーツの幕開けだ。
       悪魔を追い立て、天使の罠に掛けてやる。

       クックックック……

(夜の森を走る狼のように、気配を殺して、忍び足で廊下に出て行くステファン)

ラーライラ:カテリーナ……

カテリーナ:お久しぶりですわね。
       日曜日に聖パウェル大聖堂で、顔を合わせて以来だったかしら?

ラーライラ:あなたと会うと、心の草原がざわめく……
       どうしてなの――?

カテリーナ:わたくしのことが嫌いなのかしら?

ラーライラ:そう……

       初めて会った時とは違う。
       激しくて、燃えるような感情を抱いた。

カテリーナ:わたくしは、あなたのことが好きですわ。

ラーライラ:うん……

       あなたは私の大切な友達。
       振り回されてばかりだけど、あなたのことを思い浮かべると、明るい緑の葉が広がる。

カテリーナ:ラーライラ。
       あなたはわたくしをどう思っているのかしら?

ラーライラ:わからない……
       蒼き木星が、私の心を曇らせる。

       あなたについての、一つの記憶が堅き種に封じられた。
       決して芽吹かせてはいけない記憶。考えてはいけない。
       それが慈悲だと、主天使は言った。

カテリーナ:ラーライラ、あなたはどうしたいのかしら?
       思い出したくない記憶から目を背けて、蒼き木星の雲に包まれていれば幸せなのかしら?

ラーライラ:私は、私は……

カテリーナ:わたくし、そんなモヤモヤした関係のまま、付き合いたくありませんわ。
       木星だか王座だか知りませんけど、真実に目を凝らすべきじゃありませんこと?

ラーライラ:うん……でも……
       きっと恐くて、悲しい記憶……
       だから……でも……

       ううっ、頭がっ……

(困惑した顔から、不意に苦痛に呻いたラーライラは、次の瞬間、一転して無表情に変わる)

ラーライラ:そう……
       私の周りには、哀しみや苦しみが取り巻く。
       私はそこに生き続けなければならない。魂の牢獄。

       でも教導(ゲドゥラー)錫鳴(すずな)りに従えば、私を導いてくれる。
       マスタードミニオン……主天使ツァドキエルが慈悲(ケセド)の心で。

カテリーナ:…………

ラーライラ:邪魔をしないで、カテリーナ。
       私たちは、十三皇子に寄り添う二人の聖女。
       そして――大切な友達でしょう?

(作り物めいた笑顔で応じるラーライラが退室した後、カテリーナが死人のような冷たい薄笑いを浮かべる)

カテリーナ:魂を打ち砕かれた、心無き人形。
       あれが失われし楽園(エデン)に生きた、人間の理想形なのかしら?

       ねえペテロ……
       あなたとわたくしは、いつからすれ違ってしまったのかしらね。


□11/巡礼の道、旧千年王国の跡地


モルドレッド:旧千年王国の跡地……
        俺も一度、ランス兄さんに連れられて訪れたことがある。

        こんな時期だというのに、何人もの巡礼者たちとすれ違うな。
        こんな時期だからこそ、か――?

オルドネアの声:神の声を辿りながら歩いた、聖戦の旅路の終わり。
          オルドネアと聖三使徒(せいさんしと)は、此の地に千年王国を打ち建てた。

          在りし日の姿を覚えている。
          この雨風に朽ちた瓦礫の残骸も、記憶を辿れば、鮮やかな白亜の街並みとなって蘇る。

モルドレッド:オルドネアと使徒たちが、世界各地で大悪魔(ダイモーン)を封じた聖戦の旅路。
        これも聖典にある伝承と異なるのか?

オルドネアの声:『聖戦の旅路』の章節は、私の見聞きした記憶とそう違いはない。

          心優しく聡明な、賢者ペテロ。
          厳格だが、胸に熱い正義感を秘めた裁判人ヨーゼフ。
          勇敢で公平な騎士で、民衆に慕われたフィリポス。

          オルドネアと聖三使徒は、大陸を巡り歩き、行く先々で異教の神々と対峙した。
          神々は、信徒に恵みを与える反面、多くの代償を求めていた。
          聖戦の最中、オルドネアと聖三使徒に協力した者たちは、其の(のち)使徒の列座に加わった。

モルドレッド:オルドネアよ。
        何故あなたは大悪魔(ダイモーン)と戦う決意をされたのだ?
        数千、或いは数万年もの間、あなたは俗世を離れ、唯一人で暮らしていたのだろう?

オルドネアの声:私にあれほどの力があるとは、私自身も知らなかった。
          私に起こせるものは、小さな怪我や病気を治す、ささやかな奇蹟……そう思っていた。

          聖戦の旅路の道程で、大いなる存在との結びつきが強まったのやもしれぬ。
          私の奇蹟はささかな癒しではなく、生と死を自在に操る、神の如きものとなっていた。

          何時しか人々は、私を救世主と呼んだ。
          人々はオルドネアの下に集い、此の地に王国が出来上がった。

モルドレッド:千年王国エルサレム。
        地上で最も楽園に近い場所と讃えられた、永遠の王国。
        しかし、このエルサレムこそ、あなたの生涯の終わり――

オルドネアの声:そう――
          異教の神々は眠りに就き、唯一なる神の支配する、秩序と平和が訪れた。

          世界は救われた。
          しかし人々の心は、救われていなかった。
          私は人の心を救いたかった。
          だがそのことで、オルドネアと聖三使徒の絆に亀裂が走った。

          私は、総ての人々を救いたかった。
          世界ではなく、人間(ひと)を救いたかったのだ。

モルドレッド:…………

        十字架の道が見えてきた。
        オルドネアが十字架を背負い歩かされた、最後の道……

オルドネアの声:さあ、往こう。
          救世主の旅の終わり、ゴルゴタの丘へ。


□12/夕陽に暮れなずむ、ゴルゴタの丘


モルドレッド:夕焼けだ……
        ゴルゴタの丘が血のように朱い……

オルドネアの声:夕刻、ゴルゴタの丘は朱く沈む。
          千年前の磔刑(たっけい)を思い出すかのように、夕暮れ時に繰り返す。
          蘇らせる……鮮やかな血の色を。

モルドレッド:丘に突き立つ、古びた木の杭……
        あの十字架に架けられて、あなたは死んだのだな。

        あなたを罠に掛けた十三使徒ジュダとは、誰のことだ?

オルドネアの声:汝は既に気付いていよう。
          ジュダなど居ない。
          十三番目の使徒の座は、常に空席だった。

モルドレッド:……あなたは、俺にこれを伝えたかったのか。

        オルドネア聖教の真実……
        救世主を殺した、聖三使徒たちの正体を……

オルドネアの声:悠久の時を彷徨う亡霊の影より生まれし影絵(シルエット)
          一人の古代人はその生涯を終え……そして伝説となった。
          聖典の中に息づく、創られた聖人として。

          見よ、ゴルゴタの丘に打ち立てられた、(あがな)いの十字架を。
          あれは救世主(メシア)の偶像――
          一人の古代人の墓標であり、救世主という架空の神の力の源。

(黄昏に朱く染まるゴルゴタの丘に、夕焼けに透き通る聖人の姿が浮かび上がる)

オルドネアの霊体:QuoVadis(クォ・ヴァディス)
            汝は何処へ往くのか。汝は何を望むのか。

モルドレッド:わからない……俺にはもう……

        教えてください、オルドネア!
        俺はこれから……何をすればいいのです……!?

オルドネアの霊体:答えを私に求めても、何も在らず。
            汝の答えは、汝の心の内に。

モルドレッド:わからないんだ……!
        誰を信じればいいのか……何を為せばいいのか……
        俺には何もわからない……

オルドネアの霊体:理想を捨てよ、正義を忘れよ。
            形無き茫漠(ぼうばく)たる理念ではなく、形在る強き願望(ねがい)に目を凝らせ。

            さあ、今一度、心を覗け。
            其処に見えた光こそ、汝の進むべき行く先。

モルドレッド:俺は……

        俺は、かけがえのない親友の心を取り戻したい……!
        深く敬愛し、反逆者の汚名を着せられた兄上の真実を知りたい……!

オルドネアの霊体:そう、それが汝の答え。
            正義という、気高き黄金の輝きに眩んだ眼では見えなかった。

            往こう。
            汝の聖杯を取り戻す、帝都ログレスへの帰路へ。


□13/聖パウェル大聖堂、最奥部の至聖所



ピレロ大司教:金曜日は終わった。
         柱時計の鐘の音が土曜日を告げる。

         いよいよ今日が、大悪魔(ダイモーン)の戴冠を前にした最終日。
         黙示録の訪れは、あらゆる犠牲を払っても防がねばなりません。

(ピレロ大司教は主天使の仮面を嵌め、異端審問官ツァドキエルに装いを変える)

ツァドキエル:堕天使よ。
        空を追われ、地上に堕ちた天使たちよ。
        大地に横たえた身を、目覚めさせる時が来た。

        黙示録は来たり。
        今、堕天使の背中に羽根が戻る。

        聖戦の空に羽ばたき、邪悪なる正義を討ち取らん。
        この世に、秩序(ロゴス)の復活を……



※クリックしていただけると励みになります

index