The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第31話 裏切りの受胎

★配役:♂2♀1=計3人

▼登場人物

モルドレッド=ブラックモア♂:

十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。

魔導具:【-救世十字架(ロンギヌス)-】
魔導系統:【-神聖魔法(キリエ・レイソン)-】

パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。

魔導具:【-自在なる叡知(アヴァロン)-】
魔導系統:【-元素魔法(エレメンタル)-】

アムルディア=ブリタンゲイン♀
十六歳の機操騎士。第一皇子ガウェインの長女。
ブリタンゲイン五十四世には、孫に当たる。
先代皇帝より、戴冠の証である聖剣を受け継ぎ、王位継承の儀を待つ次期皇帝。

ハーフドワーフ。
母親であるアンナは、洞窟人ドワーフの王族である。
ドワーフの血筋ゆえに身長は低めであり、その反対に胸は大きい。
またドワーフらしく、古今東西の武具を好み、機械弄りが趣味。

魔導具:【-太陽覇王剣(エクスカリバー)-】
魔導装機:試作専用型〈ガランテイン〉

※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。



□1/ログレス魔導装機工廠、製造ドック



アムルディア:工廠長(こうしょうちょう)、作業の進捗状況(しんちょくじょうきょう)はどうだ。

        最終工程で遅れが生じていると?
        急いで欲しい。戴冠式は、後三週間に迫っている。

パーシヴァル:アムルディア――!
         って、もう呼び捨てにしちゃまずいかな?

アムルディア:私はまだあなたの姪ですよ、叔父上。

パーシヴァル:叔父上はないだろ。一つしか違わないんだから。

アムルディア:これは失礼しました。

        ご尽力感謝します、パーシヴァル卿。
        大学院(アカデミア)の全面協力無くして、次世代魔導装機の誕生は無かった。

パーシヴァル:魔導装機の人工筋肉は、人間のような滑らかな動きを実現する他、
         装甲の下に伝わる衝撃を吸収し、金属骨格や搭乗者を守るクッションの役目を持つ。

         主に使われていたのは、モルダードの樹液で作る天然ゴム素材。
         でもモルダードの樹は、伐採で年々数を減らしているところに、『ハ・デスの生き霊』だ。
         ドルイドのエルフが大量に殺され、生産回復の見込みは絶望的になった。

アムルディア:天然ゴムを代替した新素材、シリコン製の珪素(けいそ)人工筋肉。
         安定供給と、大幅なコストダウンを達成した上、自然治癒や回復魔法による自己修復機能も持つ。
         珪素(けいそ)人工筋肉が実用化されたのも、大学院(アカデミア)の錬金術『遺伝コード』があってこそです。

パーシヴァル:いやあ。お礼よりも研究予算の増額してもらえると。

アムルディア:……善処します。

パーシヴァル:わかってるって。
         ケチだからなあ……ケイ兄さん。
         教育予算バンバン削ってるよね。

         ま、いいや。
         それより、ラモラック兄さんをねぎらってあげてよ。
         長年芽が出なかった研究に、ようやく日の目が当たったんだ。

アムルディア:はい。光子石(ヘメラストーン)は素晴らしい新素材だ。
         既に諸官庁との調整は終えています。
         年内にも光子石(ヘメラストーン)研究所が発足するでしょう。
         ラモラック卿には、そこの初代所長を務めていただくつもりです。

パーシヴァル:…………

         いやあ、驚いちゃった。

アムルディア:――?

パーシヴァル:なんていうかさ――
         成長したよね、アムルディア。

アムルディア:……そうですね。
       そうであればいいのですが。

パーシヴァル:ちょっと会わないあいだに、ずいぶん大きくなってたしさ。

アムルディア:そうでしょうか。自分ではあまり変わっていないと思っていたのですが。

パーシヴァル:本当だよ。おいら見違えるかと思った。

アムルディア:そうですか! 毎日牛乳を飲んでいた甲斐がありました!

パーシヴァル:まさかFの壁を突破して、Gに届くとは。

アムルディア:……どこの話をしているのです?

パーシヴァル:どこの話だと思ったの?

アムルディア:し、身長です……

パーシヴァル:そっちは一ミリも伸びてないと思うよ。

アムルディア:そんな……! 何が足りないというのです!?
        皇族一の長身の父に、カルシウムに睡眠時間――!

パーシヴァル:やっぱさっきの勘違いかなー……
        見たいものしか見ないんじゃ、王様失格だよ。

アムルディア:くっ……母上を恨みます。
        何故ドワーフの血がこんなに強く出てしまったのだ……!

パーシヴァル:何言ってるんだよ。
        女の子でガウェイン兄さん似だったら悲惨だぞ。

アムルディア:父上の侮辱は、パーシヴァル卿でも許しません。

パーシヴァル:ムキムキでゴツゴツしてる上、剛毛で毛深い女がよかったの?

アムルディア:……それは。

        しかし身長は欲しいのです!
        せめて150センチ台には……!

パーシヴァル:ラモラック兄さんが動きやすい厚底靴開発してくれるよ、きっと。

アムルディア:…………
       彼の様子はどうです?

パーシヴァル:いやあ、それがさあ……


□2/帝都ログレス西区、オルドネア聖騎士団駐屯地の礼拝堂



パーシヴァル:はあ〜……やっぱりまだ残ってたんだ。

モルドレッド:パーシヴァルか。

パーシヴァル:聖騎士や修道女、炊事洗濯をして働く侍者(アコライト)たち。
         他のみんなは、一人残らず退去したよ。
         意地を張って残ってるのは、モルだけだ。

モルドレッド:ここはオルドネア聖騎士団の駐屯地だ。
        俺は帝国政府の不当な要求を、断固として跳ね除ける。

(礼拝堂の扉が打ち開かれ、昼光を背に小柄な少女が入ってくる)

アムルディア:不当に帝国の施設を占拠しているのは、貴公の方だ――モルドレッド卿。

モルドレッド:アムルディア……!

アムルディア:帝国政府とグレゴリオ枢密院の審議の結果は、貴公にも通達されているはずだ。
         数百年に渡り続いてきた、帝国と教会の軍事協力は解消された。

モルドレッド:貴様に何の権限があって、そんなことを勝手に決めた!?

アムルディア:政府の決定だ。貴族院、庶民院の審議でも賛成多数で承認されている。

         教会より、独立部隊として派遣されていた聖騎士団は、帝国軍の編制から外れる。
         それに伴い、聖騎士団の駐屯地は、帝国に返還された。
         早急に明け渡してもらいたい。

モルドレッド:まだ大英円卓(ザ・ラウンド)は承認していない。
        大英円卓(ザ・ラウンド)の決議は、両院の決議を覆し、差し戻しが出来る。

アムルディア:五十五代皇帝の即位に当たり、大英円卓(ザ・ラウンド)は解散する。

モルドレッド:な――!?

アムルディア:以降の最高議決権は、皇帝が掌握する。
         私の命令は、あらゆる決定に優越する。

モルドレッド:貴様はまだ皇帝ではない……!

アムルディア:ならば三週間後、戴冠の儀の後に引き渡すということだな?

モルドレッド:万事が貴様の思い通りに進むと思うなよ。

アムルディア:どういう意味だ。説明してもらいたい。

パーシヴァル:まーまーまー!
         二人とも、そんな喧嘩腰にならないで。

アムルディア:私は平和的な話し合いに来たつもりだ。

モルドレッド:全てに優越する決定とやらでか?

パーシヴァル:モルもそんな突っかかるなよ。
         アムルディアは素直でいい子だよ。話せばわかるって。

モルドレッド:今話したが、何一つ長所が見出せなかったな。

パーシヴァル:ふふん、アムルディアはなんとGカップ!
         モルだって、この超爆乳は、嫌いになれないはずだ!

アムルディア:私の長所は、そこなのですか!?
         胸以外、何もないみたいじゃないですか……!

モルドレッド:パーシヴァル。
        美女の胸の膨らみは、男のロマンだ。夢が一杯詰まっている。
        だがブスの巨乳は、ただの贅肉だ。
        そこのチビなど、胸元に脂身を二つぶら下げた牛だ。
        牧場で牛乳でも搾られていろ。

アムルディア:う、牛……!

         パーシヴァル卿……!
         彼は本当に聖騎士なのですか……!?

パーシヴァル:いやあ……ちょっとひねくれてるんだよね。
         でもモルはいい奴だよ。ずっと組んでたおいらが保証する。

アムルディア:彼の長所は?

パーシヴァル:え――?

         …………………………
         …………………………

モルドレッド:おいっ、何でそこで黙り込むんだ!?
        俺の長所はゼロなのかっ!?

パーシヴァル:咄嗟に言われると、なかなか出てこなくて。

モルドレッド:パーシヴァル。
        お前が仲を取り持とうと、おどけているのはわかる。

        だが、俺はこいつが許せん。
        この場に存在していること自体が不愉快だ。

パーシヴァル:モル……!

アムルディア:そうか。ならば何も言うまい。
         貴公の強制退去を、執行せざるを得ない。

パーシヴァル:何でそこまでアムルディアのことを……!

モルドレッド:おかしいと思わないのか――!?

        第一皇子ガウェイン、第二皇子ランスロットの相次ぐ死。
        皇位継承権第三位の、第五皇子ケイも即位を辞退。

        回り回って皇帝の座が転がり込んできたのが、注目すらされていなかった、戦死した第一皇子の娘――
        立て続けに帝国を襲った不幸の中、唯一人、巨大な利益を得た人間……
        それが貴様だ! アムルディア!

アムルディア:簒奪者か。

パーシヴァル:アムルディア……

アムルディア:聞き慣れた陰口だ。
         直接言ってきた分、いっそ清々しい。

モルドレッド:貴様の悪行を探っている勢力は、帝国中にいる。
        いずれ全ての罪は、明るみに出るぞ。

アムルディア:そう思いたければ、そう思うがいい。
         エクスカリバーは、選定の剣にして、戴冠の証。
         聖剣の輝きは、我が手の中にある。

モルドレッド:いつまでその詭弁で押し通す気だ?
        皇帝殺しの反逆者が。

アムルディア:モルドレッド卿、貴公の暴言もそろそろ限度を超えてきた。
         私にも我慢の限界があると知ってもらいたい。

モルドレッド:限度を超えたらどうする。俺を闇討ちするのか。
        実の父親を殺したように――!

パーシヴァル:あちゃあ〜……
         やっぱりこうなっちゃったかあ……

         だからおいら、二人を会わせたくなかったんだ……

アムルディア:……来い、十三皇子。
         貴様に聖剣の輝きを示す。

モルドレッド:望むところだ。
        法の裁きを逃れても、正義の裁きは逃れられん。


□3/オルドネア聖教駐屯地、訓練場のグラウンド



アムルディア:勝負は一本。
        武器を手離した時点で、敗北とする。

モルドレッド:負けを認める時も、武器を捨てる形で示すのか。

アムルディア:そうだ。

モルドレッド:面白い。貴様から王冠の剣を叩き落としてやる。

アムルディア:初代皇帝アーサーより託された聖剣の輝き。
         私は決して手離さぬ。

         エクスカリバー――!

モルドレッド:救世主オルドネアよ。
        玉座の上で足を組む簒奪者に、正義の鉄槌を。

        ロンギヌスの槍――!

アムルディア:やあああ――!!

モルドレッド:くっ――!

アムルディア:あれだけ大口を叩いて、結界に籠もるだけか!

         やあっ! はあっ!

モルドレッド:これがエクスカリバーの斬撃か……!
        担い手が貴様では、なまくら刀も同然だな……!

アムルディア:虚勢だ。
         一撃ごとに、結界に揺らぎが生じている。

         次で勝負を決める。
         聖剣よ――!

モルドレッド:オルドネアよ。
        聖地を侵す悪しき侵略に、報復と応報(おうほう)を――!

アムルディア:結界から無数の剣が――!?

(結界の波紋から生まれ出た無数の蒼白い霊剣が、空中でアムルディアに切っ先を向ける)

モルドレッド:貴様の斬撃をそのまま返してやる。
        怒りの祈り(ディエス・イレ)――!!

アムルディア:うあああっ――!!!

モルドレッド:とどめを刺してやる――!

アムルディア:せ、聖剣よ……!
        天頂に輝く、勝利の風を吹かせ……!!

モルドレッド:太陽の熱風――!?

        ぐうあああ――!!

(グラウンドの隅に吹き飛ばされたモルドレッドと、血塗れのアムルディアが、お互い蹌踉めきながら身を起こす)

アムルディア:はあ、はあ……

モルドレッド:っ……
        オルドネアよ、我に治癒(いやし)と安息を。

アムルディア:……手強い。
         聖騎士の強味は、先手を譲って隙を窺う、後手にあるのか……

モルドレッド:ランスロット卿に教わった戦闘法だ。

アムルディア:……そうだな。剣と槍で違うが、よく似ている。

モルドレッド:ランス兄さんの仇……
        今、俺が討つ――!

        降誕せよ、断罪の秘蹟!
        再臨せよ、審判の天使!

(光の十字架となったロンギヌスを携え、疾走するモルドレッド)

アムルディア:だが、聖騎士の弱点も見破った。

        聖剣よ。
        曙光(しょこう)の一閃となりて、我が敵を絶つ……!

モルドレッド:救済の十字架で、全ての悪を贖わん!
        貴様の抱える闇を、俺の正義が暴き出す――!
        簒奪者アムルディア――!!!

アムルディア:貴公のちっぽけな正義が、帝国の大義を害するなら……!
         王道(エトス)の太陽で、正義を燃やし尽くす――!
         エクスカリバー――!!!


□4/訓練場、決闘の後


モルドレッド:う、うう……

(曙光の熱と輝きが直撃し、モルドレッドは全身焼け焦げた、瀕死の大火傷で倒れている)

アムルディア:決着はついた。
         貴公の負けだ。

モルドレッド:ま、まだだ……!
        俺はロンギヌスを手離していない……!

パーシヴァル:モル、もう止めなよ。
         エクスカリバーを防ぐので、全魔力を使い果たしてる。
         回復魔法を使う余裕なんて残ってないよ。

アムルディア:モルドレッド卿。
         貴公には、軍団長の役職を用意している。
         聖騎士団無き後も、我が帝国へ尽力してくれないか。

モルドレッド:ふざけるな……!
        誰が貴様の支配する帝国など……!

アムルディア:何故貴公は、オルドネア聖教に忠誠を誓うのだ?
         十三番目に産まれたというだけで、貴公に災いの皇子という汚名を着せた宗教なのだぞ。

モルドレッド:それは……それは……

アムルディア:貴公は災いの皇子などではない。
         神と聖人に翻弄された、生贄の羊だ。

         ランスロット卿はもういないのだ……
         預言の呪縛から解き放たれろ――!

モルドレッド:黙れ――!

        黙れ黙れ黙れ――!!!

アムルディア:――――

        執行は三週間後だ。
        それまでに、この土地と施設から立ち退くように。

(アムルディアが立ち去った後、ようやく魔力が回復したモルドレッドは、治癒魔法の効果で、弱々しく立ち上がる)

パーシヴァル:モル……

モルドレッド:俺は、信じないぞ……!
        ランス兄さんが、皇帝陛下の亡骸を操り、帝国の支配を目論んでいたなど……!
        オルドネア聖教から破門され、異端者に堕とされるなど……!

パーシヴァル:おいらは、政治やら権力闘争やら、裏舞台のことはわからないけどさ……
         エクスカリバーは、モルのロンギヌスと同じ、使い手を自ら選ぶ魔導具だ。
         もし(よこしま)な陰謀を巡らせて聖剣を奪ったとしても、鞘から抜くことすら叶わないはずだ。

         アムルディアは……間違いなく聖剣に認められた、真の使い手――
         ブリタンゲイン帝国の、次代皇帝なんだよ。

モルドレッド:パーシヴァル……
        俺は……俺の人生は……一体何だったんだ……?

        俺を拒んだ父上も、大英円卓(ザ・ラウンド)も、既に無い……
        俺に信仰と正義を教えてくれた兄上は、逆賊だったという……

パーシヴァル:でも、よかったじゃないか!
         あの預言……災いの十三皇子の預言を、アムルディアは迷信だって言い切った。
         モルは自由の身なんだよ――!

モルドレッド:違うんだ、パーシヴァル!
        俺にあるのは、喪失感だ……

        俺は……あの預言を、俺の手で覆したかった……
        あの預言は、産まれた時からついて回った、俺の一部……
        乗り越えるべき、試練だったんだ……

        俺の半身……災いの十三皇子は討たれた。
        聖剣の輝きの影に、闇を抱えた、簒奪者アムルディアに――!

パーシヴァル:…………

モルドレッド:神は俺に試練を与え……唐突に全てを奪い去った……
        これも新たな試練……喪失という試練なのか……?

        だが俺は、何を為せばいいのかわからない……

        オルドネアよ……教えてください……
        俺はこれから……何処へ向かえばいいのですか……!
        オルドネア……救世主よ――!!



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