The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第27話 落日は朱く染めて

★配役:♂2♀2両3=計7人

▼登場人物

アムルディア=ブリタンゲイン♀
十六歳の機操騎士。第一皇子ガウェインの長女。
ブリタンゲイン五十四世には、孫に当たる。
ブリタンゲイン陸軍第八師団『魔導装機隊』の隊長を務める。

ハーフドワーフ。
母親であるアンナは、洞窟人ドワーフの王族である。
ドワーフの血筋ゆえに身長は低めであり、その反対に胸は大きい。
またドワーフらしく、古今東西の武具を好み、機械弄りが趣味。

愛用する大剣は、自身のものも魔導装機アルトリオンのものも、同名のカリバーン。
表面にコーティングされた粒子の超振動で、対象の分子結合を切断する魔導具である。
性能も全く同じで、白兵戦でも魔導装機操縦でも勝手が違わないよう造られた、兄弟剣である。

魔導具:【-聖銀の伯叔(カリバーン)-】
魔導装機:専用軽量型〈アルトリオン〉

ガウェイン=ブリタンゲイン♂
三十七歳の機操騎士。『大英帝国の要塞』の異称を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン陸軍元帥。
自身も優れた搭乗型魔導具『魔導装機』の乗り手であり、数多くの武勇伝を打ち立てている。

第一皇子であり、皇位継承権第一位。
しかし寵姫ラグネルの子であるため、側室の子であることを問題とする勢力もある。

搭乗する魔導装機は、専用重量型〈グレートブリテン〉。
全身を重火器で武装し、斥力障壁も備えた、移動要塞とも呼べる帝国最強の魔導装機である。

キルッフ=カー両
十六歳の機人操士(きじんそうし)
アムルディアとは士官学校時代の同期だった。
アムルディアに片想いをしている。

機人兵隊は、電脳面(でんのうめん)を被り指令を下す機人操士と、等身大サイズの歩兵『機人兵』数体〜数十体からなる。
機人兵は、やや高コストながら通常歩兵を圧倒する戦闘力を持ち、特殊兵装の装備も可能である。
通常歩兵と魔導装機の中間を担う兵種で、戦略上重要な位置づけながら、軍での評価は必ずしも高くない。

守護霊メサイア♀:
キルッフが占い師からもらったという水晶玉に宿る、古代人の亡霊。
守護霊と名乗り、キルッフを導くが……?

※黒翅蝶と同役になります

黒翅蝶(こくしちょう)/ジュダの霊体♀:
性別不明・年齢不詳の死霊傀儡師。
『ハ・デスの生き霊』の主教で、逆十字(リバースクロス)を取り纏める教団のトップである。
闇色の魔導衣に身を包む、色素の抜けた白髪と、赤い虹彩のアルビノ。

その正体は、千年前の魔法王国時代に滅亡した古代人の亡霊であり、救世主オルドネアを十字架に架けたとされる、裏切りの十三使徒ジュダ。
死霊傀儡師『黒翅蝶』は、十三使徒ジュダの操る死体傀儡であり、本体はその手に持つ水晶玉。
錬金術の秘法でジュダの〈魔心臓〉と〈魔晶核〉を融合させた生体魔導具であり、魔導具自体が魔力を産出し、魔法を行使する。

霊とは、脳に宿る意識を、魔力の塊に移植した非物質体である。
死霊や怨霊と呼ばれ、あらゆる物理攻撃を無視し、物理現象を引き起こすことによって作用する魔法にも影響を受けない。
アンデッドでも上位の存在であり、神聖魔法以外の手段では、倒すことはおろかダメージを与えることすら困難である。

無敵に近い霊体だが、魔力の塊である性質上、魔力供給者は不可欠である。
そのため、生きた人間に憑依したり、ネクロマンサーに使役されるものが多数を占めており、魔力供給源を絶つことで霊も消滅する。
極稀に魔心臓を保ったまま、物質と非物質の境界を自由に往き来することに成功した者がおり、不死邪霊(ネクロゾォム)と呼ばれる。
不滅の一歩手前まで届く、最高位のアンデッドである。

魔導具:【-呪縛されし魂(ソウルクリスタル)-】
魔導系統:【-死霊傀儡法(ネクロマンシー)-】

蠱蟲(こちゅう)(さなぎ)レ・デュウヌ両
『ハ・デスの生き霊』の幹部、逆十字(リバースクロス)の一人。
蟲を使役する蟲虫使い(ネルビアン)
千年前の魔法王国時代に滅亡した、古代人の生き残りであり、
その正体は、オルドネアの使徒の一人として活動した、第八使徒ヤコブ。

身体のあちこちに昆虫の部位を持った美少年。
感情豊かでよく笑うが、虫が人に擬態しているような不自然さを匂わせる。

何億もの蟲を独立した個体として操り、ほぼ不死身に等しい能力を持つ、最強最悪のネルビアン。
その原理は、数億を超す蟲の一匹一匹が、レ・デュウヌの神経細胞の一つであり、蟲の群れに脳活動の代替させることで実現している。
蟲の半数以上を瞬時に全滅させなければ、魔法で直ちに増殖してしまい、永遠に滅ぼすことは出来ない。
しかし瞬間的に蟲の大多数が死滅、もしくは混乱すれば、意識障害を起こし、不死身の肉体に綻びが生じる。

魔導具:【-群体脳髄(レギオン・ブレイン)-】
魔導系統:【-蟲虫使役法(アヌバ・セクト)-】

雷角王グラニトプス♂
死霊傀儡師『黒翅蝶』のネクロマンシーで蘇った、恐竜のアンデッド。
草を食む一族の長で、自由に分離する砂鉄の躯と、電磁石の骨を持つ角竜。

生命活動レベルで魔法を取り入れており、己の躯自身が魔導具と言える。
特定の魔法に特化した古式魔導具に近く、魔法・体躯ともに電磁魔法に最適化されている。

魔導具:【-超伝導電磁骨(マグネボーン・キング)-】
魔導系統:【-電磁魔法(エレキマグネ)-】

帝国中佐両
帝国陸軍の魔導装機隊の機操騎士。
飛空機体ヤクタ・エストに乗り、セベキア魔源炉防衛戦で、ガウェインの副官を務める。

※キルッフ死亡後の登場になるので、キルッフ役と被りでもいいかもしれません。

以下は被り推奨です。

機人兵A♂
機人兵B♂

キルッフ、アムルディア、レ・デュウヌの登場パートです。叫び声のみ。

帝国兵A/帝国兵の死霊A両
帝国兵B/帝国兵の死霊B両

アムルディア、ジュダ、レ・デュウヌの登場パートです。
帝国兵はどちらもセリフ有り、死霊は唸りのみです。


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。



□1/セベキア魔源炉建屋内部


キルッフ:死んでる……これで二十三人目だ。
      警備に残っていた部隊は、全滅してるんじゃないか……?

アムルディア:魔導具を持ち、拳銃でも武装した彼らが立蜥蜴(リザード・ピテクス)に殺害されるとは……

        急ごう――!
        事態は私たちが想定するよりも、遙かに深刻な状況に陥っているのかもしれない――!

キルッフ:あ、ああ……

      ――!?
      通路の曲がり角から、誰か来るぞ――!

アムルディア:立蜥蜴(リザード・ピテクス)――!?

キルッフ:機人兵! 杭打腕(パイルアーム)射出――!

アムルディア:カリバーン! はあっ――!

(十匹近い立蜥蜴の一群を全滅させた二人は、一息ついて死体を見下す)

キルッフ:ふう……いきなり遭遇するとは思わなかった。
      でもこいつら、外にいた連中と特に変わらないよな?

アムルディア:ああ――
         魔法か何らかの特殊技能を持つ、精鋭部隊だと思っていたが……
         一体何故、警備隊は……

         ――――!?

(立蜥蜴の死体を食い破り、紐状の線虫が飛び出して、アムルディアを雁字搦めに捕縛する)

キルッフ:ア、アムルディア――!?

アムルディア:な、何だこの黒い紐は……!
        立蜥蜴(リザード・ピテクス)の腹から……!

        くっ……捕縛された――!

キルッフ:立蜥蜴(リザード・ピテクス)の腹に、黒い紐が隙間無く詰まってる……
      いや……紐じゃない……線虫(せんちゅう)だ……!

レ・デュウヌ:や、あ……騎士姫様、お久しぶり。

キルッフ:線虫が寄り集まって捻れ合い、人の形に……

レ・デュウヌ:これはカマキリに寄生する虫、ハリガネムシ。
        僕の蟲は特別製でね。人間や亜人種も宿主に出来るんだ。

アムルディア:蠱蟲の蛹レ・デュウヌ……
        『ハ・デスの生き霊』の幹部、逆十字(リバースクロス)の一人……!

レ・デュウヌ:覚えていてくれて嬉しいよ、騎士姫様。

        こんな頭の悪い蜥蜴に、『ミトラスの心臓』奪還なんて、大仕事は任せられないからね。
        ずっと僕が潜んで、操っていたんだ。

        ん? なんだいこの機人兵……
        ぐえっ――!

キルッフ:杭打腕(パイルアーム)引き戻し(プルバック)……
      何者だ、こいつ……
      蟲のモンスターが、人間に擬態しているのか……?

アムルディア:キルッフ! 下がれ!
        その男は心臓を潰したぐらいでは殺せない――!

キルッフ:き、機人兵の腕が腐り落ちた……!?
      あの白い粒……う、蛆虫……!

(壊死した杭打腕の断面から白い蛆虫が溢れ、風穴を穿たれたレ・デュウヌの心臓に群がって修復していく)

レ・デュウヌ:いきなり何するんだよ。

        でも、今日の僕は優しいよ。
        君を殺したら、友達に怒られちゃうからね。
 
キルッフ:くそっ、機人兵――!

      ……動かない。
      どうしたんだ? 電脳面が壊れたのか……!?

レ・デュウヌ:ねえ、機人兵って、どうやって造られてるか知ってる?

キルッフ:当たり前だろう――!
      俺は機人操士だぞ――!

レ・デュウヌ:魔導装機と機人兵。
        どちらも構造は、強化骨格に人工筋肉をつけ、装甲板で覆ったもの。

        魔導装機は巨大だし、人も搭乗するものだからね。
        骨組みから人工筋肉まで、人の手で造られるわけだけど。

        量産型で、サイズが小さい機人兵はどうするか――

機人兵A:アアアアアア……

キルッフ:そ、装甲が弾け飛んでいく……
      な、何だ……あれ……剥き出しの筋繊維……

アムルディア:ヒト、なのか……!?

レ・デュウヌ:正解、正解、大正解――!
        そう、わざわざ手間を掛けて造らなくても、人間サイズなら細胞ってナノマシンが全自動で組み立ててくれる。

        機人兵の素体は、食人鬼(オーガ)巨人(ジャイアント)、その他の亜人種(あじんしゅ)を掛け合わせた専用の亜人間(デミヒューマン)で、知能は著しく低い。
        それでも自我は残ってしまうから、虚心状態にするべく、薬剤と調教で徹底的に自我を壊す。
        これで素体の出来上がりってわけ。後は皮膚を引っぺがして、装甲を貼り付ければ完成さ。

キルッフ:……知っているとも。
      だから何だっていうんだ――!?

レ・デュウヌ:君、酷い汗だよ。
        知ってるだけで、製造現場は見たことないんじゃないの?

        じゃあついでに、最近の素体には、獣人が使われてるって言うのは知ってる?

アムルディア:ほ、本当なのか……?

キルッフ:う、噂には……

レ・デュウヌ:野生の亜人種たちも、君たちが乱獲するせいで、すっかり数を減らしてしまったからね。
        残っているのは、小鬼(ゴブリン)犬鬼(コボルド)みたいな、殺しても生ゴミにしかならない連中ばかりだ。
        そうなったら、皮膚を剥がしても生きられるぐらいタフで、繁殖力の強いニンゲン……獣人を使うしかないだろう?

キルッフ:何が言いたいんだ……!?
      俺の機人兵が獣人だとでも――!?
      お前は、それを糾弾したいのか――!?

レ・デュウヌ:おっと、怒らないでくれよ。
        僕は糾弾したいわけじゃない。
        君たちを心配してあげてるんだよ。

        獣人は食人鬼(オーガ)とは違って、言語を操れるぐらい脳が発達している。
        だからね、自我を壊しきれずに、残ってしまうことがあるんだ――

機人兵A:アアアアアア……

機人兵B:オオオオオ……

レ・デュウヌ:彼らは君たちを、酷く恨んでいるよ。
        獣人には、怨みを抱いて、それを記憶に留めるだけの知能がある。
        素体として使うには、ちょっと不適格だよね。

アムルディア:こ、こちらに近付いてくる……
        狙いは、私か……!?

キルッフ:やめろ――!
      おい! 命令を聞け――!

レ・デュウヌ:おまけに性欲も残っていて、対象はヒト属全般。
        女の子は大変だよね。僕は女の子じゃないから関係ないけど。

アムルディア:来るな……来るな……
         来るなああああっ――!!


□2/セベキア荒原、格闘戦に持ち込まれて防戦一方のグレートブリテン


グラニトプス:WOOOOOO!!

ガウェイン:ぐうっ!
       超重量型のグレートブリテンでは、小回りが利かん。
       格闘戦は著しく不利だ……

       トラペゾロン合金ブレード――!

グラニトプス:雷角(らいかく)帯電――!

ガウェイン:トラペゾロン合金を溶断しただと――!?

       敵機直進――
       回避、間に合わんっ――!
       ぬおおおっっ――!

グラニトプス:胸部の装甲を破壊した。
        このまま人工筋肉を焼き切りながら、魔心臓を貫く。

ガウェイン:隠し腕三番、起動――!
       大鉄球……喰らえ――――!

グラニトプス:WOOO――!?

ガウェイン:よし、発動距離確保。
       魔力増幅水晶チャージ――!
       集束魔導砲八〇%……てっ――――!!!

グラニトプス:右角(ライトホーン)(プラス)左角(レフトホーン)(マイナス)……
        左右で加速した粒子を、電極で結び、中性子に変え……
        迎え撃つ……荷電粒子光線――!

(集束魔導砲と荷電粒子光線が激突。激しい鬩ぎ合いの雷火を散らした末、両奔流消滅)

ガウェイン:ぬう……相打ちか――!

グラニトプス:ガウェインよ、小技の応酬では埒が空かぬ。
        その巨人の最強の兵器を使え。
        私も全魔力を込めた突撃を仕掛ける。

ガウェイン:決戦ということか。

グラニトプス:私が生前に上り詰めた進化の高み……
        人間の築き上げた知恵の結晶がどこまで追いついているのか。
        それを確かめたいのだ。

ガウェイン:いいだろう……

       グレートブリテン、魔晶核(ましょうかく)発動。
       炉心点火……斥力場による密閉。

       核融合開始――

(グレートブリテンの機体胸部に、眩い光を放つプラズマ光球が産み出され、原子核融合の加速により徐々に膨張していく)

グラニトプス:何という眩い光と熱だ……
        それが人間の、支配者の宿す輝きか。

ガウェイン:グレートブリテンは大英帝国が誇る、最強の魔導装機だ。
       帝国の大地を侵す者たちを焼き払ってきた……『白き竜』の御旗に並ぶ、ブリタンゲインの太陽なのだ。

グラニトプス:私は太陽を掴む。
        その輝きと熱を、衰退の道を歩む子孫に手渡すために。

        右角(ライトホーン)(プラス)左角(レフトホーン)(マイナス)……
        仮想レール設置、射出対象……私自身……

ガウェイン:太陽核弾頭、爆誕……
       人類の太陽を受けられるか、いにしえの王よ――!

グラニトプス:受けて立とう、人間の王よ――!

        電磁加速突撃……ゼロ距離荷電粒子光線――!
        太陽を撃ち落とし……我が物に――!!!

ガウェイン:太陽核弾頭、発射あああ――!!!


□3/セベキア魔源炉建屋内部


アムルディア:う……うう……ああっ!

キルッフ:あ、アムルディア……!
      くそっ、撃ち殺してやる――!

(筋肉繊維を剥き出しにした素体に拳銃を向けて発砲するキルッフ)
(肩口から血飛沫が噴き上がり、素体が振り返る)

機人兵A:ギャアッ!

      ガアアアアア――!!

(拳の一撃で振り払われ、壁に激突するキルッフ)

キルッフ:ぐうっ……! こいつら……!

レ・デュウヌ:おやおや、まだやるの?
        それ以上無茶をすると、君が死んじゃうよ?

キルッフ:貴様があいつらを操っているんだな――!
      止めさせろ――! 撃つぞ――!

レ・デュウヌ:撃てば?

キルッフ:そ、そんな……額の魔晶核を撃ち抜いたのに……

      ぐうっ――!

レ・デュウヌ:惨めだね。好きな女の子が目の前で犯されてるのに何も出来ないなんて。

キルッフ:あ、アムルディアは帝国元帥の娘……
      こんなことをしても、お前は必ずガウェイン閣下に討たれるぞ……!

レ・デュウヌ:こんな状態になってもまだ人頼み、人任せか。
        情けないね。だから振られるんだよ。

        そんなことより、見てごらん。
        今を逃したら、騎士姫様の裸を見る機会なんて、君には一生巡ってこないよ?

アムルディア:ぐうっ……ううっ……

レ・デュウヌ:わあ、痛そう。

        ねえ君たち。
        せっかくだから、足を広げて、もっとよく見えるようにしてくれないかな?

        ははは、サービス精神旺盛だね。
        ほら、顔を上げろよ。見たかったんだろう?
        見ろよ。

キルッフ:うううっ……うう……アムルディア……

レ・デュウヌ:泣いてるの?
        泣くほど喜んでくれて僕も嬉しいよ。

キルッフ:(メサイア……なんで何も言ってくれないんだよ……!)
      (メサイア……俺を導いてくれよ……!)

アムルディア:っう……!
        わ、私を慰み者にしても……!
        父上が……貴様を……必ず……!

        っううっ、ああっ!

レ・デュウヌ:悲しいなあ。
        騎士姫様なら、僕のことをもっと知ってくれてると思ったのに。

        人間には、決して僕を殺せない。
        一つの命しか持たない人間が、何億もの命を持つ僕にかないっこないのさ。

        僕を殺せるとしたら、そう、大悪魔(ダイモーン)ぐらいだ。
        ははははは――

守護霊メサイア:(汝に今一度問う……)
          (QuoVadis(クォ・ヴァディス)=c…)
          (汝は何処(いずこ)へ向かうのか……汝は何を望むのか……)

キルッフ:(やっと届いた……)
      (決まっているだろう……!)
      (アムルディアを救う……!)

守護霊メサイア:(セベキア魔源炉の炉心へ向かえ……)
          (其処に汝の求める救いがある……)

キルッフ:(魔源炉の炉心……?)
      (古代魔法王国の遺失錬金術(ロスト・アルケミー)が使われてるっていう……)

守護霊メサイア:(その遺失錬金術(ロスト・アルケミー)こそ『ミトラスの心臓』……)
          (大悪魔(ダイモーン)ミトラスの魔心臓……)

キルッフ:(大悪魔(ダイモーン)……!)

(床面に這いつくばらされたキルッフの目に、思案と憤怒の火が灯り、そして決断する)

キルッフ:(『ミトラスの心臓』を手に入れれば、アムルディアを救えるんだな……?)

守護霊メサイア:(必ず――救済は成される)

キルッフ:(わかった……俺を導いてくれ……!)

(勢いよく立ち上がり、レ・デュウヌに背を向けて走り出すキルッフ)

アムルディア:キルッフ……

レ・デュウヌ:彼は逃げたわけじゃないよ。
        その反対、君を助けるために走り出したんだ。

アムルディア:どういう、ことだ……?

レ・デュウヌ:騎士姫様、君って野暮ったいのに、意外と男泣かせだね。
        今日は君のために、沢山の男が泣くよ。
        沢山ね――


□4/セベキア荒原、戦場の跡


(太陽核弾頭の直撃を受けたグラニトプスは、顔半分を溶解させ、体を形作る砂鉄がさらさら零れ落ちている)

グラニトプス:み、見事だ……
       人間の知恵の結晶は、血で血を洗う、恐竜族の進化の道程に打ち勝った……

ガウェイン:……雷角王グラニトプス。
      貴公は私が戦った中でも、最も有能な指揮官であり、最も強き戦士だった。
      あの立蜥蜴(リザード・ピテクス)たちが、再び地上の覇権を握れると、本気で考えているのか?

グラニトプス:ガウェインよ。
        我が子が病弱で愚かであれば、見切れるものか?

ガウェイン:立蜥蜴(リザード・ピテクス)や地竜、飛竜どもは、もはや恐竜族とは違う種族であろう。

グラニトプス:私はネクロマンサーの手で、最果ての世界に蘇った。

        私の一族の面影を残す子孫たちは、私の意思がわからぬ。
        河鰐竜(ドラゴダイル)飛竜(ワイバーン)は、ただの獣だ。私の力に平伏し、餌のために従っているに過ぎぬ。
        辛うじて立蜥蜴(リザード・ピテクス)が、私を王と崇め、縋りつく知能を残しているが心≠ニ呼ぶには到底足りぬ。

        初めて意思の通じた相手が、猿族の末裔というのは何という皮肉であろう。
        誰よりも強き個を目指した、彼の暴君竜の王ならば、何を想ったのだろうか。

        しかし私は捨て置けぬのだ。
        どれほど衰退していようと、私の一族の面影を残す子孫たちを……

ガウェイン:…………

       こちらグレートブリテン。
       レオン少佐か。
       ――了解した。

       グラニトプスよ。
       アンデッドと化した爬虫類軍も全滅した。
       残るはお前と――

黒翅蝶:この黒翅蝶のみ。

ガウェイン:帝国全土を混乱に陥れたカルト教団……
       貴様と『ハ・デスの生き霊』の命運もこれまでだ。

       第二狙撃班、麻酔銃を撃ち込め。
       よし、機人兵隊! 奴を確保――

(遠距離から銃弾を撃ち込まれ、身を傾いでいく黒翅蝶に、機人兵隊が前進していく)
(取り押さえられた死霊傀儡師のローブが滑り落ち、フードで覆い隠されていた素顔が露わになる)

ガウェイン:立蜥蜴(リザード・ピテクス)……だと?
       ネクロマンサーは、立蜥蜴(リザード・ピテクス)の死体を傀儡(くぐつ)にして、自身の代わりに仕立てていたのか……!?

       爬虫類の軍勢による総攻撃……と見せかけて、それ事態が陽動……!
       奴の目的は……!

黒翅蝶:くっくっくっく……
     我が分霊は、魔源炉の炉心に有り。
     時既に遅く、『ミトラスの心臓』の封印は破られる……

(ローブを纏った立蜥蜴は低く笑いながら息絶え、元の物言わぬ死体に戻る)

ガウェイン:くっ……なんという失態を……!
       アムルディア……!!


□5/セベキア魔源炉、炉心格納容器正面


キルッフ:この小山のような器……こいつが格納容器……
      この中に『ミトラスの心臓』があるんだな……

守護霊メサイア:そう、格納容器の表面に埋められし水晶……
          使徒マルコの魔晶核……
          其れを引き抜けば、『ミトラスの心臓』の封印は解ける……

キルッフ:暑い……まるで蒸し風呂みたいだ……

守護霊メサイア:摂氏五十度。封印を解けば、気温はさらに上昇する。

キルッフ:まだ上がるのか……!?
      勘弁してくれよ……気を抜くと倒れそうだ……

守護霊メサイア:遙かなる昔、この地上には十の太陽があり、それぞれ順番に昇っていた。
          ある時、十の太陽が一時(いちどき)に昇り、世界は焦熱の地獄と化した。
          この室内の暑さなど、比較にならぬほど……

          皇帝と英雄たちは、太陽に戦いを挑み、苦難の末、ついに九の太陽を撃ち落とした。

キルッフ:それ以来、太陽は今のように一つになり、沈んでいる間は真っ暗に――夜が生まれた。
      中華龍王国(ちゅうかりゅうおうこく)の、昼と夜の神話だっけ……
     『オルドネアと十三使徒』と、大悪魔(ダイモーン)ミトラスの戦いが元になってるんだよな。

守護霊メサイア:『オルドネアと十三使徒』の神話では、此れからが物語の始まり。
          天空を追い落とされた偽りの太陽は、光も熱も失わず、今度は地上に君臨せんとした。
          水を枯らし、大地を干上がらせ、自身の理想郷……砂漠の世界を広げていく。

          オルドネアと十三使徒は、大悪魔(ダイモーン)ミトラスと戦い、地上は夜を取り戻した。
          使徒マルコは自らの命を捧げ、ミトラスを地中深くに埋め、偽りの太陽は永眠(ねむり)に就いた。

          三百年前……ブリタンゲイン三十六世が封印を破るまでは……

キルッフ:信じられないよ……
      帝都の夜を照らす明かりも、大量生産を可能にした工場の機械も……
      全部、大悪魔(ダイモーン)ミトラスの魔心臓が産み出すエネルギーだったなんて……

      メサイア、お前はどう思ってるんだ?
      古代魔法王国を生きたお前は……
      セベキア魔源炉は、オルドネアや使徒の戦いを蔑ろにする、愚行に見えるのか……?

守護霊メサイア:かつて大悪魔(ダイモーン)の力を、人々のために使った者がいた……
          最初に人々は、彼の者を救世主と呼び、最後に世界の敵と恐れた……

キルッフ:メサイア……
      俺……お前の本当の名前がわかったかもしれない……

      大悪魔(ダイモーン)の力……
      また封印することは出来るんだよな……?

守護霊メサイア:正しき魔晶核が有れば、魔心臓の鼓動は鎮まる。

キルッフ:わかった……
      俺は……俺がアムルディアを救う……!
      俺があのレ・デュウヌとかいう古代人を殺す……!

守護霊メサイア:そう……ようやく汝は気づいた。
          救われるのは騎士姫にあらず。
          汝自身だ。

キルッフ:……ああ。
      俺の好きな女の子が、俺の目の前で犯されても、俺は助けを祈るだけ……
      そんな脇役のようなことは、もう止めだ……!
      カッコよく、俺が助けてみせる……!

(格納容器の表面に埋まったマルコの魔晶核に手を伸ばし、キルッフはぽつりと呟く)

キルッフ:ひょっとしたらお前は伝承通りの悪人で……
      俺は利用されているだけなのかもしれないけど……
      それでもお前は、俺に大事なことを教えてくれた……

      俺の人生は、俺が主役なんだ……
      ありがとう、俺の守護霊……
      十三使徒ジュダ……!

守護霊メサイア:キルッフ=カー……
          汝の望んだ未来は目の前にある。
          ジュダの導きは此処まで。

          未来の先へ至るのは、汝自身……
          駆けよ……汝の黄金郷(エルドラド)へ……


□15/セベキア魔源炉敷地前


帝国中佐:哨戒鳥(しょうかいちょう)による、セベキア砦内部の状況を報告します。
       セベキア砦警備隊は、確認されているだけで十八名死亡。
       残りの生存も、ほぼ絶望的かと思われます……

ガウェイン:……続けろ。

帝国中佐:さ、さらにセベキア魔源炉の封印が解かれたようです。
       循環している冷却用流体金属が、沸騰……
       光子(ヘメラ)型非常用動源が作動し、予備冷却剤が注入されていますが反応は収まりません……
       哨戒鳥(しょうかいちょう)を炉心に近づけたところ、あまりの高温に破壊……情報は途絶しました。

       制御棒が融け落ちるのも、時間の問題かと……

ガウェイン:何と言うことだ……
       長年批判に晒されながら、三百年もの間、帝都に魔導エネルギーを供給していたセベキア魔源炉が……

帝国中佐:元帥閣下、いかがしましょう……!
       魔源炉が臨界に達し、核爆発が起これば……
       ログレスを含む帝都近隣エリア全域は壊滅……いえ、消滅……

       さらにその爆風の勢いによって、帝国全土に死の灰が降り注ぎます……!

ガウェイン:大英円卓(ザ・ラウンド)には思念波を飛ばしてあるな――?

帝国中佐:はっ――!
       ランスロット卿、ケイ卿を中心に緊急会議が開かれております。

ガウェイン:うむ……

帝国中佐:オルドネア聖教に救援を求めましょうか……!?

ガウェイン:ならん――!
       オルドネア聖教に助援を乞えば、帝国政府はゲートの管理能力無しと烙印を押されるであろう……
       あの連中は法律に優越し、憲法を嘲笑い……
       神の裁きという独断の下、人命や財産など無視して、如何なる犠牲でも平然と押しつけてくる……

       オルドネア聖教に助けを乞うということは、人が自身の手で行う政治を放棄すると言うことだ……!

帝国中佐:しかし――!

ガウェイン:……手はある。
       俺が往く。グレートブリテンなら魔源炉を押さえ込める。

       …………
       それが目的だったのであろう?

グラニトプス:すまぬな。

ガウェイン:いや……

       戦に負けても勝つ。
       芸術的なまでの戦略だ。
       完敗だ。

グラニトプス:敷地内に、砂鉄の雲を潜り込ませた。
        一人の生存を確認している。
        あの白い巨人に乗っていた、人間の娘だ。

ガウェイン:アムルディア……!
       あれは……私の娘なのだ……!

グラニトプス:そうか……
        お前と雰囲気が似ていると思っていた。

ガウェイン:全隊に告ぐ――!

       私がグレートブリテンで突入し、『ミトラスの心臓』の反応を抑える。
       三十分待って戻ってこなければ、死亡と判断し、オルドネア聖教に報告しろ。
      『大英円卓(ザ・ラウンド)』の支持を待たなくて構わん。禁止令が通達されていても、無視しろ。
       その時にはもう……帝国の民を、神に委ねるしかあるまい……

帝国中佐:はっ――!

グラニトプス:準備は整ったか。

ガウェイン:ああ……往こう。


□7/気温上昇を続ける、セベキア魔源炉建屋内


(床に倒れ伏し、気絶していたアムルディアが、うっすらと目を開ける)

アムルディア:う……うう……

レ・デュウヌ:おはよう、騎士姫様。

アムルディア:き、機人兵どもは……

レ・デュウヌ:精神を壊されていても、さすがは獣人だね。
        動物並みの直感で、玩具を捨てて、さっさと逃げ出したよ。

アムルディア:暑い……床が焼けた鉄のように感じる……

レ・デュウヌ:そうだね。炎天下のカルダン砂漠ぐらいの気温かな?

アムルディア:まさか……魔源炉は既に……!?

レ・デュウヌ:ねえ騎士姫様。
        処女の蛹を脱いで、女に羽化した気分はどうだい?

アムルディア:…………!

レ・デュウヌ:笑えるぐらいハードなことしたのに、キスはまだだっけ?
        せっかくだから、僕がもらっておこうかな?

(倒れ伏すアムルディアの前に屈み込んで、レ・デュウヌはあごを持ち上げる)

アムルディア:近付くな――! おぞましい虫けらが……!
         貴様にくちびるを許すなら、舌を噛んで死ぬ――!

レ・デュウヌ:冗談だよ、冗談。何言ってるの?
        こんな汚い女、誰も相手にしないよ?

アムルディア:貴様……!

(通路の奥から、気配の絶えた朧に霞む人物が姿を現す)

レ・デュウヌ:終わったみたいだね。

アムルディア:聖人……!?
        オルドネア聖教の者か……?
        いや……こんなところにいるはずはない……

ジュダの霊体:ミノスの迷宮で朽ち往くイカロスは、自由の空へ飛び立った。
         蝋で固めたダイダロスの翼で太陽に挑み、焼け落ちて、夢見の海に沈んだ。

         なれどイカロスが立てたちっぽけな波紋は、眠りに就いた原子核を目覚めさせ、偽りの太陽を呼び覚ます臨界を引き起こす……

レ・デュウヌ:まさかあの人間が、マルコゲートを破れるとは思わなかったよ。
        使徒マルコの魔晶核に触れれば、太陽の炎が、精神を焼き尽くす
        使命に燃える使徒にも負けないぐらいの強い自我、それが不可欠だった。

        だから僕は、ディラザウロか、ダークエルフを生贄に使うつもりだったんだけど。
        あれ? あのダークエルフって死んじゃったんだっけ?

アムルディア:何者なんだ、お前は……!?
         魔源炉で何が起こっている――!?

ジュダの霊体:仮初めの名を黒翅蝶。真の名をジュダ。
          災いの数字13th(サーティーン)を背負う、裏切りの使徒と呼ばれる。

レ・デュウヌ:ついでに僕は、第八使徒ヤコブ。
        あちこちで色んな人に明かしてるんだけど、聞いてない?
        みんな仲悪いんだね。

アムルディア:十三使徒に、第八使徒……!?
         何故オルドネアの使徒が、魔源炉を……!

レ・デュウヌ:おっと。ジュダ、急いだほうがいい。
       『ミトラスの心臓』が暴走を始めてる。

アムルディア:待て、貴様ら……!
         ぐうっ……!

(カリバーンを支えに立ち上がるも、体勢を崩して床に倒れ込むアムルディア)

レ・デュウヌ:無理に立たないほうがいいよ。
        足の関節を痛めてる。
        乱暴に扱ってたからねえ、機人兵。

アムルディア:待てと言っている!
         貴様らは、決して逃さんっ……!

レ・デュウヌ:もうじき助けが来るさ。
        誰も来なかったら、君のパパを恨んでね。

        はははは――

アムルディア:待て! ジュダ! ヤコブ!

         父上……
         ちち、うえ……


□8/セベキア魔源炉敷地内、並んで歩く魔導装機と角竜の王


ガウェイン:俺が二十も始めの頃、戦場に出るのが楽しかった。
       不謹慎だと非難を浴びるだろうから表立っては言わんが、事実楽しかったのだからしょうがない。

       貴公のような強者との戦いは、魂が震えた。
       勝利の味は格別だった。敗北の苦味もまた、振り返ってみれば味わい深い。
       僚友(りょうゆう)の死も経験し、大いに悲憤したものだが、それすら悲劇として楽しんでいた節がある。

       華々しい戦果と山ほどの勲章。兵や民の尊敬の眼差し。
       祖国のために戦っているという使命感。
      皇子の戦争道楽≠ニいう、陰口への反発。

       俺は英雄になりたかったのだ。
       そして俺は英雄になった。

グラニトプス:興味深い。続きを聞きたく思う。

ガウェイン:今にして思えば、民は英雄を求めていたのだろう。
       大英帝国……在りし日のブリタンゲインの栄光を。

       今日(こんにち)でもブリタンゲインは輝かしい。
       だがそれは残光だ。落日の光なのだ。

       拡大を続けた版図は、必ずしも利潤を生まん。
       勝利しても得るものはなく、犠牲を払っただけの戦争を経て、人々は戦争を……軍を憎むようになった。
       俺は英雄の座から転落し……戦争屋と呼ばれるようになった。

グラニトプス:お前の苦悩はよくわかる。
        それこそ私が晩年に経験した、群れの中の孤独だった。

ガウェイン:在りし日の、栄光のブリタンゲインの象徴……
       大英帝国の信奉者たちは、俺にそれを求めてきた。
       俺はそれに応えてきた。
       次第に俺自身の価値観とはずれを感じるようになっても、俺は彼らの庇護者で居続けた。

       俺はもう、がむしゃらに戦場を駆け抜けた、無鉄砲な若造ではない。
       悪を倒せば、この国は良くなり、民は幸福になると考えていた青二才は、戦場に没した。
       同じ帝国の民の中にも、俺こそ倒すべき敵≠ナあり、憎むべき悪≠ナあると考えている者がいる……
       それがわかるぐらいには、俺も分別がついた。

グラニトプス:太古の昔――
        草を()む一族……我ら角竜(つのりゅう)は栄光の頂点にあった。
        私は何の因果か、草食恐竜でありながら、肉食恐竜にも勝る力を持っていた。
        あの暴君竜ですら私を恐れ、私を恐れぬ者は串刺しとなって倒れた。
        私を(おさ)とした一族は、隆盛を極め、恐竜時代の覇者となった。

        しかしそれでも、不意を突いて幼子や年老いた者が狩られることは、ゼロには出来なかった。
        仲間たちは憤怒し、私に肉食恐竜を絶滅させろと息巻いた。
        いきり立つ仲間たちとは別に、私はもう一つのことを懸念していた。
        我らの餌とする、草木が不足してきたのだ。
        我らは栄華を極め、群れの数は史上最多となっていた……

ガウェイン:生きていけば、多くのものを抱えていく。
       家族、仲間、名誉……自分自身の経験。

       それは財産だ。
       しかし、時として重荷でもある。

グラニトプス:一族は、肉食恐竜を片っ端から殺すことを決定した。
        私もそれに従った。(おさ)であっても、群れの決定には従わねばならぬ。

        私は肉食恐竜たちを殺害して回り……彼の王に出会った。
        火山のように大きく、マグマのように熱い闘志を燃やす、孤高の暴君竜だった。

        彼の王は強く、私と一族は、激闘を繰り広げた。
        降り注ぐ火山弾から一族を守るために、私は多くの力を裂いた。
        やがて決定的な瞬間が訪れた。
        火砕流が猛煙を噴き上げ、私は逃げ遅れた仲間を庇い、致命の傷を負った。

        暴君竜の王は言った。
       お前は群れたから負けた。個であれば、自分にも勝る力を持っていた≠ニ。
        私は返した。
       お前は個でお前だ。しかし私は、群れの中にあって私なのだ≠ニ。

        私の生涯は幕を閉じた。
        そして草を()む一族の栄光も、落日の彼方に沈んだ。

ガウェイン:…………
       なあ、グラニトプスよ。

       俺は帝国の発展ために、魔導装機を駆り、剣を振るってきた。
       ある異母弟(おとうと)は、帝国の貧しい民を救うため、より貧しい国から搾取することだと、植民地政策を批難した。
       また別の異母弟(おとうと)は、帝国主義とは、自由を弾圧し、個人を集団の(にえ)とする怪物(リヴァイアサン)だと論難(ろんなん)した。

       異母弟(おとうと)たちの言うことにも、一定の正しさは認められる。
       しかし、俺の信じる正義とは相容れんのだ。

グラニトプス:私は角竜であり、草を()む一族の長だ。
        これまでもこれからも、肉食恐竜の立場には立てぬ。

ガウェイン:そうか……そうだな。

       だが、だからこそ……
       俺と貴公はわかり合えん。

グラニトプス:心が鉄を抱えたように重い……
        これは生前に感じた孤独と同じ……群れの中にいる故の孤独だ。

ガウェイン:貴公が人間であったなら、酒を一献(いっこん)、酌み交わしたいものだ。
       きっと、いい酒であろう……

グラニトプス:…………

        お前の娘はあそこだ。

ガウェイン:感謝する、太古の王よ。

       待っていろ、アムルディア――!


□9/セベキア魔源炉建屋、冷却装置が失われ、摂氏九十度近い気温の通路


アムルディア:はあ、はあ……

         熱い……
         意識が遠くなる……

         私は、死ぬのか……
         父上……母上……

(薄れゆく意識の中で、遠くにガウェインの声が聞こえる)

ガウェインの声:……ディア!

         アムル……

         アムルディア――!

アムルディア:父上……?

        父上――!!

ガウェイン:アムルディア……

アムルディア:父上、申し訳ありません……
         何の役にも立てず……

         マルコゲートの開放を許してしまいました……

ガウェイン:いいんだ……もういいんだ。

       俺の父……皇帝陛下は家族を省みなかったのでな……
       俺はよい家庭を築こうと勤めてきたが、軍一筋で生きてきた武骨者故……
       剣を通じてしか、お前と話が出来なかった……

       俺が普通の父親であったら、お前は軍になど入らず、こんなことには……

アムルディア:父上、何故謝るのです――!?
        謝らないでください――!!

ガウェイン:もう軍は辞めろ。女に軍は向かん。
      
アムルディア:父上!
        私は騎士の道に生涯を捧げてきました!
        それを今更捨てよとおっしゃるのですか!?

ガウェイン:だからだ。
       お前の人生は、まだほんの入り口だ。
       道を戻ってやり直す時間は十分にある。

アムルディア:いいえ違います!
         騎士の精神は、既に私の人格の一部!
         女だてらに剣を振るい、魔導装機を駆る娘ではなく、
         貴族の子女たちと、社交界(サロン)で文学や絵画の話題に花を咲かせる娘……
       
         それはもう、私ではありません……
         父上は……私を否定なさるのですか……?

ガウェイン:……そんな目に遭ってもか。
       そんな目に遭っても、まだ軍人として生きるというのか。

アムルディア:私の生涯は『白き竜』の御旗(みはた)に捧げました。

ガウェイン:後悔はないのか。

アムルディア:はい。

ガウェイン:わかった……
       渡そうかどうか迷っていたが、これをお前に託そう。

アムルディア:これは……記録石――?

ガウェイン:安全な場所に移動したら聞いてくれ。
       ただし、誰もいないところでな。

       グラニトプスよ、話は終わった――!

(魔源炉建屋の壁が崩壊し、角竜の顔が姿を現す)

アムルディア:ら、雷角王グラニトプス――!?

ガウェイン:心配無い。今の彼は味方だ。
       お前を外まで連れて行ってくれる。

アムルディア:どういうことです――?

        砂鉄の雲が……

(壁の亀裂から砂鉄の靄が滑り込み、アムルディアを抱えて外へ移動していく)

ガウェイン:……娘を頼んだぞ。

グラニトプス:心得た。

アムルディア:ま、待ってください――!
         父上はどうなさるおつもりですか――!?

         私も魔源炉に残ります――!

ガウェイン:アムルディア……
       産まれた子が女の子と聞いて、俺に似ないことを祈った……
       幸い顔はアンナ譲りで胸を撫で下ろしたが、気性の方はどんどん俺に似てきてしまった。

       嬉しいやら困ったことやら、複雑な心境だ。
       お前が息子であったらなあ。

       いや……
       心の通う親子でいられたことを、感謝しなければならんな。
       ありがとう、アムルディア。

アムルディア:父上……命を(なげう)つおつもりなのですね……

ガウェイン:セベキア魔源炉を止める。
       神との契約を破り、人が呼び覚ました大悪魔(ダイモーン)だ。
       ならば封印も、神ではなく、人の手で成されなければならん。

アムルディア:父上……
        私に、出来ることは……

ガウェイン:ブリタンゲインを……
       俺の愛した祖国を、人の手に……
       国は、神でも悪魔でもなく――人が治めるものなのだ。

アムルディア:誓います……『白き竜』の御旗に……
         全世界に、帝国の新秩序を――!

ガウェイン:頼んだぞ、我が娘……
       アムルディア=ブリタンゲインよ――!!

(砂鉄の黒霞に連れられ、遠ざかっていくアムルディアの姿を見届けると、ガウェインは背を向ける)
(建屋の入り口に停めてあるグレートブリテンに乗り込むと、フロートドライブを稼働させ、浮上)

ガウェイン:目標地点、魔源炉炉心――
       大悪魔(ダイモーン)め、俺がお前の心臓を止めてやる。

       往くぞ、グレートブリテン――!
       俺とお前の、最後の出撃だ――!

       戦闘開始(コンバット・オープン)――!

(滞空するグレートブリテンが巨星となって急降下し、魔源炉建屋の炉心に突入)
(直後、臨界に達した魔源炉が紅い火球となって核爆発を起こす――かに見えた)


□10/セベキア魔源炉敷地内、魔源炉のあった爆心地


アムルディア:何が起こったんだ……?
        魔源炉は紅い火球となって、核融合の爆風を広げるかに見えたのに……

        まるで……記憶盤の巻き戻しのように……
        爆風は止み、火球は縮んで消えてしまった……

グラニトプス:『ミトラスの心臓』は、常温で熱核融合を続ける物体。
        規模は桁外れだが、原理的にはあの太陽と同じ物質と言える。
        お前たちは、核融合反応が一定以上に至らぬよう調整をしながら、無尽の魔導エネルギーを取り出していた。

アムルディア:父上から聞いた……
        大悪魔(ダイモーン)ミトラスは、都市どころか、大陸すら消し飛ばす大規模破壊魔法を使ったという……
        その力の源……ミトラスの魔心臓から、少しずつエネルギーを汲み出しているのがセベキア魔源炉だと……

グラニトプス:あの黒い巨人……グレートブリテンと言ったか。
        あのグレートブリテンに搭載された魔晶核こそ、大悪魔(ダイモーン)ミトラスの魔晶核だ。

        さすがはミトラス自身の魔晶核だ。
       『ミトラスの心臓』の熱核反応を、完全に制御している。
        マルコという古代人の魔晶核では、熱核反応を抑えるに過ぎず、限界を超えて核融合が加速すれば、瞬く間に燃え尽きてしまった。

アムルディア:それならば何故、わざわざ使徒マルコの魔晶核を――?
       ミトラスの魔晶核を制御に使えば、魔源炉の暴走を招くことはなかったはずだ。

グラニトプス:その答えは、魔源炉の跡地にある。
        見よ、勇者の娘。

アムルディア:小さな光の球……
        眩しい……これはまるで……

        太陽、だ……

グラニトプス:分かたれた魔晶核と魔心臓は、千年の時を経て結びついた。
        偽りの太陽は、再び地上に昇った――!
        大悪魔(ダイモーン)ミトラスは復活したのだ――!

帝国中佐:姫――!

(陸戦飛空それぞれの魔導装機が接近し、遅れて機人兵や一般兵の部隊が魔源炉跡地に突入してくる)

アムルディア:中佐――

帝国中佐:化け物から離れてください。
       全軍で攻撃を仕掛けます。

アムルディア:待て!彼に攻撃してはならない!
         彼と話をさせて欲しい。

帝国中佐:しかし――

グラニトプス:太陽を我が種族の手に――

帝国中佐:――全機、アンデッドを包囲。

アムルディア:中佐――!

帝国中佐:姫。あなたは皇族だが、陸軍では私の階級の方が上です。
       私の状況判断を優先する。

       全機、攻撃態勢――!
       姫を巻き込んでも構わん。
       亡き元帥閣下もそれを望まれるであろう。
       如何なる犠牲を払っても、敵に大悪魔(ダイモーン)の力を渡してはならん――!

グラニトプス:右角(ライトホーン)(プラス)左角(レフトホーン)(マイナス)……

アムルディア:中佐、あなたは私の意図を誤解している――!
         彼には……雷角王グラニトプスには……

         勝てないのだ……!

グラニトプス:荷電粒子光線――

帝国中佐:斥力フィールド……

       うわああああ――!!

(魔導装機ヤクタ・エストは、斥力フィールドを展開するも、一瞬で破られ、空中に爆散する)
(角竜の姿を形作っていた砂鉄が零れ、鉄の黒雲となって魔源炉跡地の空を覆っていく)

グラニトプス:砂鉄の黒雲は、群れを守る盾だった。
        しかし、敵を噛み砕く牙でもある。

アムルディア:砂鉄の電磁竜巻――!
        魔導装機が紙細工のように引きちぎられ、破壊されていく……

        グラニトプス、もうやめてくれ――!
        我が軍は……あなたに降伏する――!

グラニトプス:…………

        私を恨んでおろうな……

アムルディア:…………

        あなたは知っていたのだな……
        『ハ・デスの生き霊』の計画を……

グラニトプス:……ああ。

アムルディア:…………
         一つだけ教えて欲しい。
         父とあなた、どちらが勝った。

グラニトプス:ガウェインだ。

アムルディア:それは……計画のために、わざと負けたのか。

グラニトプス:あの闘争に、思惑など入る余地はなかった。
        全力を振り絞っていなければ、私は塵となって消えていたであろう。

アムルディア:グラニトプス……
        あなたは本心から、爬虫類の世界を復興出来ると思っているのか……?

グラニトプス:……私は太陽を掴む。
        邪魔立てはしないでくれ、勇者の娘。
        そうなれば、私はお前を倒さねばならぬ。

(沈黙するアムルディアを背に、グラニトプスは魔源炉の跡地へ四肢を進める)
(夕日に抗うかのように、真昼の輝きを放つ小太陽に向かって、グラニトプスは祈るように宣誓する)

グラニトプス:大悪魔(ダイモーン)ミトラスの残照よ――!
        私はグラニトプス。太古の時代に没した恐竜族の亡霊。

        私の身を、お前に捧ごう。
        地上に墜ちた小太陽の日の出に、支配者の座を追われた爬虫類の夜明けを。
        たった一匹の恐竜族の前途を照らす、旭となって昇らんことを――!

(グラニトプスの宣言を聞き届けたかのように、小太陽は角竜の躯に吸い込まれる)

グラニトプス:GU……WOOOOOOO……!!!

アムルディア:グラニトプス――!!

グラニトプス:WOOOO……

        熱い……躯の内に炎が灯ったかのようだ……!
        これが大悪魔(ダイモーン)の力……神の力か……!

        GUOOOO……
        熱い……躯が融けていく……

レ・デュウヌの声:あーあ、成り損ないだよ。
           やっぱり、こいつはダメだったね。

(焦土となった地表から、巨大な芋虫状の蟲が続々と姿を現し、溶解した角竜を取り囲む)

アムルディア:装甲蟲(ドゥーム)――!?
        黒き樹海の蟲がこんなところに何匹も……!

        あのネルビアンか――……!

グラニトプス:太陽は……私を見限っタのか……
        私は……神の高ミには届かヌと……

(装甲蟲の傍らに茫漠と現れた半透明の聖人が、グラニトプスに諭すかのように呟く)

ジュダの霊体:グラニトプス、草食恐竜の王よ。
         汝は賢く優しい。そして富める者。
         故に神の領域に届かず。

         汝は最果ての未来で、また一つ財をこしらえた。
         人間の友という財産。
         汝は欺きに罪の意識を感じ、友の忘れ形見に後ろめたさを捨てきれぬ。

         汝は聡明。だからこそ悟った。
         人間を押し退けて、立蜥蜴(リザード・ピテクス)に王座を渡す無価値を。
         汝の光で照らし続けなければ、瞬く間に追いやられる種族でしかないと。

グラニトプス:私は一族ノ決定と責任ヲ、引き受けテきた……
        仲間への情や愛ハ、イツしか義務に替わり……
        そレでモ、皆が預ける荷を、背負っテ歩いてきた……
        信頼を……期待ヲ……
        無邪気ナ崇拝と、無責任な批判ヲ……

        私ハ疲れタ……

        一筋の光明モ見出せぬ子孫たちノために……何の怨みモ無い人間たチを殺すこトは、トテも辛イ……
        シかシ、私は他ニ生き方を知ラぬ……

ジュダの霊体:グラニトプス。
         汝の真なる心は、神になることを望んでおらぬのだ。

グラニトプス:私は倒れるわケにハゆカぬ……
        私ガ滅んデしまエば……恐竜族の未来ハ……

ジュダの霊体:もう眠るがよい。
         (とき)を凍らせ、(こころ)を凍らせ……
         氷河の棺が、汝に(くすぶ)る未練を鎮めて永久に眠らせる……

         汝の無念は、汝を殺した者が背負うであろう。
         六千五百万年前と同じく――

(太陽の熱に熔解していたグラニトプスの顔が、生命活動を止める霜に覆われていく)

グラニトプス:そウか……
        お前モ、こノ最果テの世界ニ……

        闘争の中にシか生きラれぬお前と、群れノ中にシか生キらレぬ私……
        ドちラが孤独なのダろう……

        ディラザウロよ……
        恐竜族ノ、未来ヲ……

(グラニトプスが氷漬けの眠りに就く直前、地中から鍬形虫の大顎が突き出し、角竜の首を切断する)

レ・デュウヌの声:魔因子のもたらす肉体変化は、遺伝子から肉体を再設計する代謝活動の一種。
           極低温で生命活動を止めてしまえば、魔因子を封じ込めた、氷の封印の出来上がりってわけだね。

           この角竜の首を持って帰ればいいんだよね、ジュダ?

ジュダの霊体:氷漬けにした大悪魔(ダイモーン)の精髄は、我らの手の内。
         聖地の巡礼は終わった。

レ・デュウヌの声:まだ僕たちの宣教は終わっていないさ。
           騎士姫様に『ハ・デスの生き霊』の領聖(りょうせい)を。

ジュダの霊体:よかろう、使徒ヤコブ。
         アムルディア=ブリタンゲインに血と肉の聖餐(せいさん)を振る舞おう。
         尊き命の犠牲を記銘(きめい)するために、さらなる命の犠牲を。
         魂の復活の一片を、神の世界の一端を垣間見せんことを。

(ジュダの霊体が繊手を掲げると、戦場に倒れた死者の体から霊魂が抜け出す)

ジュダの霊体:腐りゆく器に囚われ、消滅(ほろび)運命(さだめ)に道連れられし魂よ。
         汝らに告げ知らす。死者の復活を。

         解き放たれよ。肉の牢獄の鍵は開けられた。
         汝ら高次の次元より、肉と骨に幽閉されし生者を嗤え。

         Soul Easter(ソウル・イースター)……

帝国兵の死霊A:オオオオオオ……

帝国兵の死霊B:アアアアアア……

アムルディア:死霊……怨霊の招魂術(しょうこんじゅつ)……!
                  
レ・デュウヌの声:凄いでしょう。魂の復活だ。
           オルドネア聖教の説く、奇蹟が目の前にある。
           ジュダ、悪に堕ちた救世主(メシア)御業(みわざ)だ――!

アムルディア:我が帝国の英霊を、死霊傀儡(しりょうくぐつ)で辱めるとは……!
         救世主を騙るな、ネクロマンサーめ――!

(怒りで沸騰したアムルディアが大剣を引きずって疾走する)

アムルディア:カリバーン――! 破ぁっ――!

(粒子励起したカリバーンが、ジュダの霊体を縦一文字に斬り下ろすが、体をすり抜けるだけで、ジュダは不動の位置に佇んでいる)

アムルディア:手応え、無し――!?
         そんな……

レ・デュウヌの声:バカだね騎士姫様。
           幽霊が剣で斬れるわけないじゃん。

アムルディア:やあっ! はあっ! てええやああっ!!

ジュダの霊体:猛る魂よ、鎮まりたまえ。

(ジュダの半透明の手がかざされると、糸が切れた人形のようにその場にくずおれるアムルディア)

アムルディア:あ――う――……

(戦死者の肉体を離れた亡霊が彷徨い出、かつての戦友に取り憑いて、温もりを貪るかのように体熱を奪う)
(生体エネルギーを吸い尽くされて死んだ兵の体から、また新たな死霊が抜け出て、魂の饗宴の群れに加わる)

帝国兵A:うわあああ! 来るな! 来るな!

帝国兵B:銃も、剣も……何一つ通じない……!

帝国兵A:命が……吸い取られる……

帝国兵B:ああ……呼び声が……呼び声が聞こえる……魂を喚ぶ声が……

レ・デュウヌの声:はははは、愉快だねえ。
           毒ガスを撒いてモンスターを皆殺しにした軍隊が、幽霊相手となると手も足も出ないなんて。
           オルドネア聖教は安泰だね。

アムルディア:使徒ジュダ……使徒ヤコブ……
         何故お前たちは、無慈悲な虐殺を行う……!?
         千年前にあなたたちの守った平和を、何故自らの手で壊す……!?

ジュダの霊体:死者は滅ばず、一時(ひととき)の眠りに就くだけ。
         死者は復活し、魂は永久のものとなるのか、闇と混沌に消えゆくのか。
         総てが聖断(さだま)るは、最後の審判の日。

レ・デュウヌの声:最後の審判で総てが決まるんだよ。
           裁きに勝てば君たちは蘇るし、否定されたら消滅だ。
           ちょっと前に死んだぐらいで、いちいち気にするなよ。

アムルディア:ジュダ……ヤコブ……
         お前たちは狂っている……!

レ・デュウヌの声:ジュダ、僕たちは狂ってるって。

ジュダの霊体:ペテロとヨーゼフが遠ざけし黙示録を、ジュダが招き寄せる。
         まずは第一のラッパを吹き鳴らす。
         戒めより悪竜を解き放ち、世界の三分の一を滅ぼさん。

帝国兵の死霊A:オオオオオオ……

帝国兵の死霊B:アアアアアア……

レ・デュウヌの声:さあ、肉体の監獄に囚われた魂を解き放とう!
           冷たい死霊の手で――! 朽ちた死人の爪で――!
           僕も蛆虫とイナゴによる、救済を成そう――!

ジュダの霊体:アムルディア=ブリタンゲイン。
         汝に、死者のパンと凍れる血の葡萄酒を。
         絶望の洗礼を受け、憎悪の信仰に目覚めよ。

         白き馬にまたがり、勝利の上に勝利を重ねる、黙示録の第一の騎士とならんことを。

レ・デュウヌの声:殺せ、殺せ、殺すんだ――!
           はははははは――!!


□11/血に濡れたように赤いセベキア魔源炉の跡地


アムルディア:セベキア魔源炉が……夕陽に無惨な残骸を晒している……
         帝都を支える魔源炉が……破壊の熱と死の灰を撒き散らす瀬戸際にあったとは……
         日常とは、平和とは……かくも脆く儚いものだったのか……

         あれは……グレートブリテンの頭部……!

(アムルディアは、おぼつかない足取りで、魔源炉の跡地へ歩いていく)

アムルディア:額の魔晶核が空になっている……
         そうか……
         ミトラスが復活する時、魔晶核の嵌っていた頭部だけは、核爆発の直撃を免れたのか……

         しかし、心臓部にある操縦槽(そうじゅうそう)は跡形もなく……

ガウェインの声:アムルディア、騎士を名乗るなら人前で泣くな。
          これだから女は軍人に向かんと言っているのだ。

アムルディア:父上……

ガウェインの声:アルトリオン……お前が設計した魔導装機か。
          装甲が薄すぎる。機動性さえあれば、全ての攻撃を見切れると思うな。
          斥力(せきりょく)フィールドがあるだと?
          あれは軽い攻撃を弾く魔除けのようなものだ。
          最後の(かなめ)となるのは、やはり魔導合金の重装甲なのだぞ。

          こら、待てアムルディア――!

アムルディア:父上……父上……

ガウェインの声:アムルディア……
          お前はもう、立派な騎士だ。

          お前に俺の遺志を託す。
          帝国に秩序と平和を……
          神のもたらす秩序ではない……人の手による新しき秩序を……

          俺の愛した祖国の未来を……頼む……
          アムルディア……我が娘よ……!

アムルディア:父上……父上……
         父上ぇ……父上ええええ――!!!

(夕陽に照らされたグレートブリテンの残骸の前で、アムルディアは慟哭する)

アムルディア:私は今日限り、女でも子供でもありません……
         神にも悪魔にも渡しはせぬ――!
         私は祖国を……ブリタンゲインを守る、(つるぎ)となりましょう――!



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