The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第26話 太陽は遠く……

★配役:♂2♀2両2=計6人

▼登場人物

アムルディア=ブリタンゲイン♀
十六歳の機操騎士。第一皇子ガウェインの長女。
ブリタンゲイン五十四世には、孫に当たる。
ブリタンゲイン陸軍第八師団『魔導装機隊』の隊長を務める。

ハーフドワーフ。
母親であるアンナは、洞窟人ドワーフの王族である。
ドワーフの血筋ゆえに身長は低めであり、その反対に胸は大きい。
またドワーフらしく、古今東西の武具を好み、機械弄りが趣味。

愛用する大剣は、自身のものも魔導装機アルトリオンのものも、同名のカリバーン。
表面にコーティングされた粒子の超振動で、対象の分子結合を切断する魔導具である。
性能も全く同じで、白兵戦でも魔導装機操縦でも勝手が違わないよう造られた、兄弟剣である。

魔導具:【-聖銀の伯叔(カリバーン)-】
魔導装機:専用軽量型〈アルトリオン〉

ガウェイン=ブリタンゲイン♂
三十七歳の機操騎士。『大英帝国の要塞』の異称を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン陸軍元帥。
自身も優れた搭乗型魔導具『魔導装機』の乗り手であり、数多くの武勇伝を打ち立てている。

第一皇子であり、皇位継承権第一位。
しかし寵姫ラグネルの子であるため、側室の子であることを問題とする勢力もある。

搭乗する魔導装機は、専用重量型〈グレートブリテン〉。
全身を重火器で武装し、斥力障壁も備えた、移動要塞とも呼べる帝国最強の魔導装機である。

キルッフ=カー両
十六歳の機人操士(きじんそうし)
アムルディアとは士官学校時代の同期だった。
アムルディアに片想いをしている。

機人兵隊は、電脳面(でんのうめん)を被り指令を下す機人操士と、等身大サイズの歩兵『機人兵』数体〜数十体からなる。
機人兵は、やや高コストながら通常歩兵を圧倒する戦闘力を持ち、特殊兵装の装備も可能である。
通常歩兵と魔導装機の中間を担う兵種で、戦略上重要な位置づけながら、軍での評価は必ずしも高くない。

守護霊メサイア♀:
キルッフが占い師からもらったという水晶玉に宿る、古代人の亡霊。
守護霊と名乗り、キルッフを導くが……?

※黒翅蝶と同役になります

黒翅蝶(こくしちょう)♀:
性別不明・年齢不詳の死霊傀儡師。
『ハ・デスの生き霊』の主教で、逆十字(リバースクロス)を取り纏める教団のトップである。
闇色の魔導衣に身を包む、色素の抜けた白髪と、赤い虹彩のアルビノ。

その正体は、千年前の魔法王国時代に滅亡した古代人の亡霊であり、救世主オルドネアを十字架に架けたとされる、裏切りの十三使徒ジュダ。
死霊傀儡師『黒翅蝶』は、十三使徒ジュダの操る死体傀儡であり、本体はその手に持つ水晶玉。
錬金術の秘法でジュダの〈魔心臓〉と〈魔晶核〉を融合させた生体魔導具であり、魔導具自体が魔力を産出し、魔法を行使する。

生体魔導具は、魔因子を全く持たない人間でも魔法を使えるなど、多大な利点がある反面、
魔導具自身が思念を残しているため、使い手が肉体を乗っ取られる事例が後を絶たない。
現存する多くの生体魔導具は、厳重に管理・封印されている。いわゆる『呪われた魔導具』である。

魔導具:【-呪縛されし魂(ソウルクリスタル)-】
魔導系統:【-死霊傀儡法(ネクロマンシー)-】

蠱蟲(こちゅう)(さなぎ)レ・デュウヌ両
『ハ・デスの生き霊』の幹部、逆十字(リバースクロス)の一人。
蟲を使役する蟲虫使い(ネルビアン)
千年前の魔法王国時代に滅亡した、古代人の生き残りであり、
その正体は、オルドネアの使徒の一人として活動した、第八使徒ヤコブ。

身体のあちこちに昆虫の部位を持った美少年。
感情豊かでよく笑うが、虫が人に擬態しているような不自然さを匂わせる。

古代人は完全な魔因子を持っていたとされる。
〈魔晶核〉も〈魔心臓〉も共に正常に形成され、優れた魔法を行使した。
長い時間が流れるあいだに、魔因子は毀損してしまい、
〈魔晶核〉か〈魔心臓〉の片方しか形成されない準魔因子となって残るのみとなった。

魔導具:【-群体脳髄(レギオン・ブレイン)-】
魔導系統:【-蟲虫使役法(アヌバ・セクト)-】

雷角王グラニトプス♂
死霊傀儡師『黒翅蝶』のネクロマンシーで蘇った、恐竜のアンデッド。
草を食む一族の長で、自由に分離する砂鉄の躯と、電磁石の骨を持つ角竜。

生命活動レベルで魔法を取り入れており、己の躯自身が魔導具と言える。
特定の魔法に特化した古式魔導具に近く、魔法・体躯ともに電磁魔法に最適化されている。

魔導具:【-超伝導電磁骨(マグネボーン・キング)-】
魔導系統:【-電磁魔法(エレキマグネ)-】


以下はセリフが少ないため、被り・飛ばし推奨です

立蜥蜴A両:
□1〜2まで登場。
黒翅蝶、レ・デュウヌと会話有り。


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。



□1/真夜中、ベイナン山脈の原生雨林


レ・デュウヌ:ベイナン山脈の原生雨林(げんせいうりん)に棲む、立蜥蜴(リザード・ピテクス)
        これって、僕たちの造った人造の亜人間(デミヒューマン)だっけ?
        それとも、元々棲んでた自然の亜人間(デミヒューマン)

        なーんにも思い出せないや。
        千年以上も昔のことだから、忘れてしまったよ。

        3,2,1――ばーん!

立蜥蜴A:GYAA――! 

      GI……GIII……

レ・デュウヌ:真っ白くてコロコロしてて、可愛いでしょう?
        君の体を苗床にして育った、可愛い可愛い蛆虫だよ。

        次は誰が爆発するかな〜?

黒翅蝶:汝ら、頭蓋に収まる魂の座の下命(かめい)を聞き、早鐘打つ心臓を鎮めよ。
     意思の力をもちて、恐怖に逃げ出す足を押さえ込み、黒き蝶の宣告に耳を傾けよ。

レ・デュウヌ:逃げたら殺す。話を聞け。

黒翅蝶:我が名は黒翅蝶。
     冥府の神ハ・デスの神慮(しんりょ)を代行せし、救済の導き手。

     運命の三姉妹が織り成す、時の天鵞絨(ビロード)(ほころ)びを見た。
     其れは過去(ウルズ)を手繰り寄せる一糸。
     白亜の断層に埋もれし、汝ら爬虫類の栄光を取り戻さん……

レ・デュウヌ:君たちの崇める王様のところに案内して欲しい。
        悪いようにはしない。君たちもきっと喜んでくれるはずだ。

立蜥蜴A:SHU……SHU……

黒翅蝶:惑いも怯えもジュダに預けよ。
     汝らが身の内に植えられし、白き蛆の肉芽は、天命に背を向けて駆け出す者に芽吹く。

レ・デュウヌ:君らさあ、わかってる?
        拒否権なんて無いんだよ。

        ぐずぐずしてると、全員爆発させちゃうよ?

立蜥蜴A:GUU……

黒翅蝶:黒き蝶の触覚は、言葉無き応諾に触れた。
     往こう、古き友ヤコブ。

レ・デュウヌ:ねえジュダ。いつから僕は君の翻訳係になったんだい?

黒翅蝶:我が戯れ句に繋がりはあらず、故に耳に流すべし。
     散らかした言の葉の断片より意味を拾えば、ジュダの意思は通ず。

レ・デュウヌ:相変わらず意味不明だけど、肝心なところはちゃんと答えるんだね。
        ジュダ、君は昔よりずっと面白いよ。


□2/原生雨林奥深くの地底洞窟


レ・デュウヌ:この地底洞窟にある、草食恐竜の化石。
        これが立蜥蜴(リザード・ピテクス)たちが崇める王か。
        足下に積んである生肉は、供物かな?

        馬鹿だね。
        骨なんて拝んでも、何も起こるわけないじゃん。

立蜥蜴A:SHU……! SHU……!

レ・デュウヌ:そんなに息を荒げないでよ。
        信じる者は報われる。
        僕たちがそれを起こしてあげようっていうんだ。

黒翅蝶:汝らの祈りを、黒き蝶が冥府の底まで届けよう。
     時の彼方に埋もれし、太古の王は掘り返される……

グラニトプス:AAAAAA……
        私を……眠りから呼び覚ます者は……誰だ……

黒翅蝶:汝、無念の(うち)に倒れし、いにしえの王……
     太古の地上を支配した、恐竜族の王……

グラニトプス:眠りを起こすものよ……
        此処は……何時(いつ)だ……?
        恐竜族は……私の種族はどうしている……

黒翅蝶:汝の生きた時代を下ること、六千五百万年。
     汝の種族は滅亡し、爬虫類は地上の片隅に追いやられている。

グラニトプス:寒い……
        恐竜族が生きるには、あまりに寒すぎる……
        太陽は……我ら爬虫類を見放したのか……

黒翅蝶:いにしえの王よ。
     汝は、爬虫類の未来を照らす者。
     汝は王を超え、神となるがよい。

グラニトプス:神か……
        
        私が仰ぐとすれば、あの太陽……あの暖かな日差し……

        今一度……あの光で恐竜族を照らせるならば……
        今一度……あの熱の時代を取り戻せるならば……

        私は……墓場に横たえし骸を起こす……

黒翅蝶:いざ蘇れ……Dead Symphony(デッド・シンフォニー)……

グラニトプス:GAAAAAAAAA……!!


□2/半年前、帝国士官学校の卒業式後


キルッフ:アムルディア、好きだ……

アムルディア:…………

        すまぬ……
        お前の気持ちには応えられん。

キルッフ:そ、そうだよな……迷惑だよな……
      俺みたいな、後方で機人兵(きじんへい)を操ってるだけの、機人操士(きじんそうし)なんて……

アムルディア:そんなことはない――!
         一人で何十体もの機人兵を操る機人操士は、歩兵戦の要だ。
         自分を卑下するようなことは言うな。

キルッフ:でもお前が好きなのは、俺みたいなのとは正反対の……
      魔導装機(まどうそうき)乗りで、剣の腕も立つ機操騎士(きそうきし)……
      ガウェイン元帥のような……強い男なんだろう……?

アムルディア:…………

        キルッフ、これからも良き僚友(りょうゆう)であって欲しい。
        我々の友情は、不壊(ふえ)の絆で結ばれていると信じている。

キルッフ:あ、ああ……


□3/セベキア砦、司令室


(司令室の映像盤に映るガウェインに向かい、敬礼するアムルディア)

アムルディア:父上、おはようございます。
         今日は母上のお誕生日。おめでとうと一言――

ガウェイン:アムルディア、軍の通信盤を利用している以上、今は(おおやけ)の会話だ。
       私語は慎め。
       ……アンナには伝えておく。

アムルディア:はっ……元帥閣下。
         セベキア魔源炉(まげんろ)、本日も異常ありません。

ガウェイン:うむ。報告ご苦労。

アムルディア:元帥閣下、他に任務はないでしょうか。何なりとご命令ください。

ガウェイン:魔源炉警備は退屈か。

アムルディア:いえ、決してそういうわけでは。
         ただ、こうも毎日毎日、何もない日が続くと……無駄に(ろく)()んでいるようで、申し訳ない気持ちになります。

ガウェイン:セベキア魔源炉は、帝都ログレスを始め、周辺地域三千万人の生活を支えている、帝国最大のインフラだ。
       貴公に任されている責は重いぞ、アムルディア中尉。

アムルディア:はっ。

        しかし……驚いています。
        セベキア魔源炉の動力はブラックボックスとされていましたが――
        まさかこのような秘密があったとは……

        よく昔のオルドネア聖教が許しましたね。

ガウェイン:当然のごとく、猛反発を受けた。
       (おおやけ)にはなっていないが、強硬派で名の通った大臣の不審死は、オルドネア聖教による暗殺と言われている。

       しかし、ブリタンゲイン三十六世は、セベキア魔源炉の建設を断行した。
       帝国の今日(こんにち)の発展は、魔導産業革命によるものと言われるが、
       それを支える潤沢な魔力――セベキア魔源炉無くしては、産業革命も成り立たなかったであろう。

アムルディア:中世のオルドネア聖教は、皇帝も恐れるほどの権威を誇っていた。
         歴代の皇帝たちは、さぞ苦慮されたことでしょうね。

ガウェイン:……うむ。

       時にアムルディア、セベキア砦の暮らしに不便はないか?

アムルディア:飲料水、糧食(りょうしょく)、予備兵装や重火器の燃料にも不足はありません。

        現在のところ、補給物資は不要です。

ガウェイン:いや、そうではない。
       セベキア砦に、女はお前だけだろう。
       何かと不自由をしているのではないかとな。

アムルディア:閣下、我が僚友(りょうゆう)たちは、騎士道精神を身につけた、誉れ高い英国騎士です。
         私のみ個室をあてがわれておりますし、入浴の時間も区切られています。
         セベキア砦の生活に、何の不自由もありません。

ガウェイン:そうか……それなら良いが。
       しかし機操騎士は、男ばかりだ。
       俺としては、全員が女で構成された戦乙女(ヴァルキュリア)……こちらの兵科を勧めたかったのだが。

アムルディア:私は自分の意思で、魔導装機乗りを選びました。
        男が多いか、女が多いかなど、関心を払ったこともありません。
        子供扱いするのはやめていただきたい――!

キルッフ:失礼します。

      あ……通信中に失礼を。

アムルディア:……構わない。
        報告を頼む、キルッフ曹長。

キルッフ:哨戒鳥(しょうかいちょう)による、セベキア地方一帯の定時偵察。
      午前九時、異常ありません。

ガウェイン:ご苦労だった、キルッフ曹長。

キルッフ:ガウェイン元帥閣下、……アムルディア中尉。
      全世界に、帝国の新秩序を。

ガウェイン:……アム。
       好きな男はいるか?

アムルディア:は、はあっ?

ガウェイン:これだけ男に囲まれて暮らしていれば、恋の一つや二つはあるだろう。

アムルディア:ありません――!

        私には、恋愛にうつつを抜かす暇など微塵もない。

ガウェイン:お前も年頃だ、付き合うなとは言わん。
       しかし俺に紹介しろ。
       素性も知れぬ男では、安心して見守ることも出来ん。

アムルディア:ですから、無いと言っているではありませんか!
         軍の通信盤を私事(わたくしごと)に使うのはやめていただきたい!

ガウェイン:そ、そうか……ならば良いのだが。

       しかしアム、お前はブリタンゲイン帝国の姫なのだからな。
       交際は許すが、プラトニックな関係に留めておくのだぞ――!

アムルディア:アムルディア=ブリタンゲイン、通常任務に戻ります――!

(通信盤に映るガウェインの顔が消え、司令室にアムルディアの溜め息が漏れる)

アムルディア:……父上の過保護も嫌になってくる。
        そのせいで、私がセベキア魔源炉の警備隊長を任されたことまで、身贔屓(みびいき)と言われる始末だ。

        断じて違う――!
        父上は、親子の情と軍人としての評価は、厳格に分けて考える方だ。
       親の七光り≠ネど……それは私のみならず、父上への侮辱だ――!

        もっと目に見える戦果が欲しい……!
        陰口を叩かれぬほどの、誰もが認める戦果が……!


□4/セベキア砦、格納庫


(無人の格納庫で、一人、淡く光る水晶玉を覗き込んでいるキルッフ)

キルッフ:はあ〜……
      半年前、何で告白なんてしちまったんだ……
      まさかアムルディアが司令官を務める砦に配属になるなんて……

守護霊メサイア:汝、騎士姫の何処に心惹かれた?

キルッフ:メサイアも見てきただろうけど……
      帝国陸軍じゃ、『魔導装機隊』が花形だ。

      機人兵は『魔導装機隊』の抱える、等身歩兵部隊という扱い。
      魔導装機が敵主力を倒した後に駆り出される掃討戦……文字通り、戦場のゴミ掃除係りだ。

守護霊メサイア:搭乗者の意識を神経ケーブルで機体と精神連結する、トランスソウルシステム。
          本人の技量が直に反映される仕組み故に、優れた機操騎士は、優れた剣士でもある。

          電脳面(でんのうめん)を被り、感応糸(かんのうし)を通じて、数十、数百の機人兵を操る、機人操士。
          必要な資質は、感応糸(かんのうし)から流れ込む、膨大な情報を処理する頭脳。
          自身で剣を振るう機会は皆無に等しく、剣の技量は不必要。

          故に、騎士道精神の根付くブリタンゲインでの地位は低い……

キルッフ:士官学校の頃から、もう上下関係は徹底していた。
      俺の同級生は、機操騎士たちにペコペコして、自腹を切ってパシリまでやる奴もいた。
      俺はそういうのが嫌で、連中を無視していたら、目をつけられて虐められるようになった……

守護霊メサイア:汝と騎士姫の出会いは、士官学校の合同演習。
          汝が騎士姫に惹かれた時……

キルッフ:俺は、アムルディアの指揮する部隊に配属された。
      他の機操騎士が、自分が目立つことしか考えない中、アムルディアは歩兵や工兵を上手く運用して、次々と拠点を制圧していった。
      もちろん本人も抜群に強かった。魔導装機でも、屋内戦の敵指揮官との決闘でも……

      二位と大差をつけて、俺たちの部隊が優勝……
      拍手に包まれ、部隊の仲間が手を叩いて喜び合う中……

守護霊メサイア:汝は騎士姫アムルディアに恋をした。

キルッフ:……わかってたんだ。

      アムルディアは帝国の姫で、軍でも出世コースの機操騎士……
      俺は士官学校でほんの一時期一緒に過ごした、ただの機人操士……
      俺なんか置き去りにして、どんどん高みへ昇っていく、最初から手の届かない存在……

      せっかく忘れかけてたのに……

守護霊メサイア:汝の恋心に恥じることは無し。
          己を卑しむ自虐を止め、無為な畏れを抱くなかれ。
          愛情は、常に対象の幸福を望む。其れは誰にとっても良いこと。
          愛情と所有欲の混同を止めれば、苦しみから解放される。

          忘れる必要はあらず。
          恋心を認め、執着と切り離すべし。

キルッフ:立派だよ……綺麗な言葉だ。
      だけどそれは……俺は何も掴めない。
      潔く諦めて、空っぽの人生を肯定しろってことじゃないか。

守護霊メサイア:万人に説かれた普遍の道徳で、人間(ひと)は救われぬ。
          其れは知悉(ちしつ)している。故に此れは戯れ句……

キルッフ:どうせ俺は日陰者だ。
      スポットライトの当たる存在にはなれない。
      羨ましいよ、魔導装機乗りが。本当は悔しいんだ。

      ああ……俺の人生にも、好きな女の子を命懸けで守ったり、世界を救うような……
      太陽のように輝く瞬間があれば……

守護霊メサイア:汝、悲観するなかれ。
          セベキア魔源炉に配属されたのも、現代の女神(ヴェルダンディ)の織り成す運命の巡り合わせ。
          汝の望む未来は、未来の女神(スクルド)の導きによって現れる。

キルッフ:お前が言うなら、そうなる気がしてきたよ。
      なあ、メサイア。
      お前って、生きてた時は何してたの?

守護霊メサイア:救世主。最初に人は私をそう呼んだ。

キルッフ:なんだそれ。お前はオルドネアってこと?
      だったら俺、オルドネア聖教の聖遺物を持ってることになるぞ。

守護霊メサイア:汝はまさに。

キルッフ:んなわけないだろ。

      でも古代人の霊が宿る水晶玉……
      こんな貴重な魔導具を、タダでくれるなんて。
      あの夜道で出会った占い師、一体誰なんだろう?

守護霊メサイア:彼の者は世界の敵……
          闇に堕ち、悪に染まった故に、かつて果たせなかった救済の道を歩む者。

キルッフ:ふーん。まあ、怪しそうな占い師だったよな。
      お前のことも、最初は悪霊かと思ったぜ。

守護霊メサイア:当たらずとも遠からず。

キルッフ:よせよ。何度も俺を助けてくれたじゃないか。
      これからも俺を導いてくれ、メサイア。
      俺の守護霊――

守護霊メサイア:汝の魂は、何処(いずこ)へ向かう?
          我は問う……QuoVadis(クォ・ヴァディス)……


□5/一週間後、セベキア砦の司令室


アムルディア:おはようございます、ガウェイン卿。
         セベキア魔源炉、本日も異常ありません。

ガウェイン:うむ、ご苦労。

アムルディア:本日はどうしてもお尋ねしたいことがあります。
         私事(わたくしごと)で、軍の通信盤を使うことをお許しください。

ガウェイン:……うむ。

アムルディア:何故先日の円卓会議で、軍事予算の削減に賛成されたのです!?
         基地の閉鎖、魔導装機や機人兵の廃棄、植民地駐屯軍(ちゅうとんぐん)の撤退……

ガウェイン:安全保障への影響が軽微に留まるよう、熟慮に熟慮を重ねた上で出した削減計画だ。
       帝国の大地が、戦禍に見舞われることは万に一つもない。

アムルディア:それに退役軍人や傷痍軍人(しょういぐんじん)への恩給の廃止……
         ブリタンゲインのために一生を捧げた先人たちへの、感謝の念は無いのですか!?
         忘恩は亡国への第一歩です!

ガウェイン:批判は重々承知している。
       全廃までは段階を踏み、十年のスパンで削減から廃止へ移行する。
       そのための費用は、現役軍人、主に士官以上の将校の給与削減により捻出する。
       痛みを先人のみに押しつけはせん。

アムルディア:……ケイ卿ですね。
         何故父上は、叔父上の言いなりになっているのです!?
         金融先物(きんゆうさきもの)取引所の開設や、外国資本の参入規制の緩和だって、あれほど反対されていたのに折れてしまった。

ガウェイン:ケイとて、帝国の行く末を案ずる国士の一人だ。
       停滞したブリタンゲインの経済を立て直すべく、新たな産業を興そうとしている。
       経済の発展は、在りし日の帝国の栄光を呼び戻すであろう。

アムルディア:しかし、帝国国民のためにはなりません!
        新興国との過酷な競争に晒され、多数の国民は疲弊する。

        儲けるのは、銀行や大貴族、外国の資本家ばかりだ。

        国が栄えて、国民が苦しむならば、何のための国家ですか――!

ガウェイン:アムルディア、それはあまりに帝国を中心に考えすぎている。
       世界には、ブリタンゲイン以外の国々もある。
       彼らにも、豊かになるチャンスを与えるべきだ。

アムルディア:まるでケイ卿の請け売りですね……

        父上はケイ卿の支援が欲しいのでしょう。
        皇帝になるために……
        皇位継承権二位のランスロット卿に押されているから。

        父上は、帝国の未来よりも、自分が皇帝の座に就けるかで頭が一杯だ――!
        私は父上に幻滅しました……!
        確かにランスロット卿の方が、皇帝に相応しい――! 

キルッフ:し、失礼します――!

アムルディア:どうした、キルッフ曹長?

キルッフ:せ、セベキア魔源炉に向かって……
      何百、何千もの立蜥蜴(リザード・ピテクス)が押し寄せてきます……!
      地竜や飛竜……中型のドラゴンたちも。

      そして爬虫類たちを率いているのは、生きたまま動く草食恐竜の化石……アンデッドです――!

ガウェイン:アンデッド……! 『ハ・デスの生き霊』か――!

アムルディア:セベキア砦、全守備隊に次ぐ――!
         モンスター襲来――! 敵は『ハ・デスの生き霊』――!
         総員、戦闘態勢!

ガウェイン:すぐに援軍を手配する。
       俺もグレートブリテンで、精鋭を率いて向かう。

       敵を殲滅(せんめつ)しようなどとは思うな。
       飛空(ひくう)機体で、敵の空戦部隊を撃滅。
       制空権を抑えた後は、戦場を攪乱(かくらん)
       残る地上部隊で、砦の防衛に徹しろ。
       俺が到着するまで持ちこたえるのだ。

アムルディア:……御意。

        整備班、魔導装機の出撃準備を。
        アムルディア=ブリタンゲイン、アルトリオンで出る。


□6/セベキア砦周辺、荒野を埋め尽くす爬虫類の軍勢


(魔導装機十五機、数百の機人兵部隊、数十人の砲兵がカノン砲を並べて待機する)

アムルディア:魔導装機隊、全機に告ぐ。
         フロートドライブを備えた飛空機体は、私の指揮下に。
         陸戦用の機体は、クリス少尉の指揮下に入れ。

         キルッフ曹長――!

(アルトリオン内部の通信網から、キルッフの電脳面に音声が届く)

キルッフ:は、はっ――!
      機人兵部隊、全機展開完了しました。

アムルディア:敵の数は――?

キルッフ:立蜥蜴(リザード・ピテクス)約三千……
      河鰐竜(ドラゴダイル)蚯蚓竜(ワーム)などの下級地竜が百頭……
      飛空部隊は、飛竜(ワイバーン)小竜鳥(ドラゴンバード)が数十体と思われますが、
      偵察中に襲撃を受け、哨戒鳥(しょうかいちょう)が破壊……正確な数は不明です。

アムルディア:吐息(ブレス)や魔法を使う種は?

キルッフ:確認されていません。
      どれも大型の爬虫類の範疇に収まるものです。

アムルディア:警戒すべきは、あの角竜(つのりゅう)のアンデッド一体か……
         立蜥蜴(リザード・ピテクス)軍は、愚直に突撃してくる……

         砲兵隊、構え――!
         第一防衛ラインへの到達を確認後、一斉砲火を浴びせよ!

キルッフ:アムルディア――!?
      元帥閣下は防衛に徹しろと……!

アムルディア:あの恐竜のアンデッドさえ討ち取れば、立蜥蜴(リザード・ピテクス)軍は、総崩れとなって退散するはずだ。
         先制攻撃こそ、犠牲を最小に留める、最大の防御――

         カノン砲、撃て――!!!

(砦前に並んだ数十基のカノン砲が砲火を噴き上げる)
(火薬の詰まった榴弾が放物線を描いて、敵軍の最前線に突き刺さる)

キルッフ:……軌道がおかしい。
      榴弾(りゅうだん)自体が逸れていくような……
      炸裂した破片も、敵軍に注がず、てんでばらばらの方向へ散っている……

      あの黒い(もや)……防御結界か?

アムルディア:徹甲弾(てっこうだん)を使え――!
        結界の限界を超えたダメージを一点集中すれば、貫ける。

キルッフ:……なんだ、あれは。

        徹甲弾(てっこうだん)が……
        黒い靄……空中に縫い止められている……

アムルディア:砲撃止め――!
        様子がおかしい……うあああっっ――!

(空中に塞き止められていた徹甲弾が、逆向きの磁力に押し返されアムルディアたちへ殺到)
(強烈な磁力で反発してきた徹甲弾の嵐に、機人兵や砲兵が次々と倒れ、魔導装機も装甲を貫かれるダメージを負う)

キルッフ:一体、何が起こったんだ――!?
      徹甲弾が跳ね返されて、俺たちに襲いかかってきた……!

守護霊メサイア:彼の角竜の骨は、電磁石(でんじしゃく)より成る。
          あの黒い(もや)は、砂鉄の黒雲(こくうん)……
          彼の者は、磁気を自在に操る、鉄やニッケル、強磁性の金属の支配者。

アムルディア:小銃や大砲、鎧を身につけた兵まで吸い寄せられていく……

守護霊メサイア:電磁魔法による磁力の風……
          角竜の支配下にある金属を捨てよ。
          人類の強固なる従者であった鉄は、セベキアの戦場では、汝らに牙を剥く。

キルッフ:アムルディア、あれは電磁魔法だ!
      早く全軍に指令を出すんだ……!
      さもないと、あの爬虫類の群れのど真ん中に引き寄せられるぞ――!

アムルディア:電磁魔法……!?
        軍でも対近代兵器用に研究されたが、実用化の目処が立たなかったのに……
        単独で、あれほどの磁力を、あれほどの広範囲に……!?

        全部隊、即刻鉄製の武具を手放せ――!

グラニトプス:鉄と私は、太古の時代よりの友であった。
        鉄は私の呼び掛けに馳せ参じ、お前たちに反旗を翻す。

キルッフ:電磁の竜巻……!
      剣や鉄砲や装甲車が……黒雲に取り込まれ、空に巻き上げられていく……!

グラニトプス:牙を持たぬ故に剣を磨ぎ、裸体(はだか)故に鉄を纏った猿たちよ。
        お前たちの知恵には驚嘆する。

        しかし己が傷つかず、一方的に敵を殺戮する飛び道具。
        此れは邪悪だ。吐き気を催すほど邪悪だ。
        闘争には、苦痛(いたみ)と恐怖がなくてはならぬ。忘れても、和らげてもならぬ。
        お前たちに、苦痛(いたみ)と恐怖を返す。とくと味わえ。

アムルディア:装甲車や大砲……鉄塊が落下するぞ――!

        魔導装機隊、斥力(せきりょく)フィールド全開――!
        全隊、魔導装機の後方に退避せよ――!

        くううううっ――……!!

キルッフ:どうすりゃいいんだ……
      敵はもう目の前だっていうのに、大砲や装甲車のほとんどが使用不能……
      陣地は壊滅状態だ……!

アムルディア:うろたえるな――!
        魔導装機や機人兵は、磁性体(じせいたい)ではない。
        化け物の電磁竜巻も、ただのそよ風だ。        

グラニトプス:重火器の火網(かもう)は壊滅した。
        皆の者、肉薄せよ。
        飛び道具がなければ、人間は裸体(はだか)の猿だ。
        肉弾戦であれば、鱗と爪を持つ、我々爬虫類が勝る。

        往くぞ。私に続け。

アムルディア:機人兵、横列隊形!
        防御を固め、立蜥蜴(リザード・ピテクス)を食い止めろ!

        魔導装機ガイウス、メメント!
        目標、河鰐竜(ドラゴダイル)および蚯蚓竜(ワーム)
        地竜から、機人兵を守れ!

        飛空機体テンペラー、フロートドライブ稼働。
        敵の空軍を撃滅し、制空権を確保せよ――!

グラニトプス:見事だ。まるで一つの生命体であるかのように、一糸乱れぬ統制。
        立蜥蜴(リザード・ピテクス)たちには、到底真似できぬであろう。
        知能と協調の賜物(たまもの)だ。

アムルディア:ダンカン機とハンク機は、アルトリオンに続け。
        地上の横隊を飛び越え、 (さそり)の尾のように、一息に敵将を討ち取る――!

         天蝎宮の陣(フォーメーション・スコーピオン)――!
         戦闘開始(コンバット・オープン)――!


□7/セベキア荒原、乱戦の直中にある地上


(電脳面を被ったキルッフが、脳裏に流れ込む)

キルッフ:キルッフ班、機人兵! 前列で立蜥蜴(リザード・ピテクス)の前進を阻止!
     後列ダニー班! 機人兵に放電アンカーを!
     よし撃破――助かったぜ、ダニー……

守護霊メサイア:汝、その場を動くな。
          土中より這い上りし、死の(あぎと)――

キルッフ:蚯蚓竜(ワーム)――!?
      ダニー! ダニーぃぃ!!

守護霊メサイア:動くな。汝を次の獲物として認識する。

キルッフ:呑まれ、ちまった……

      くそっ、メメントやガイウスは何をやってるんだよ!
      地竜を引き受けるのが魔導装機の役割じゃないのか――!!

キルッフ:こちらキルッフ曹長……

      クリス少尉……

      え? ダニーの機人兵も俺……自分が引き受けて小隊に再編制しろと?
      そんな……! 二十の機人兵を操るのだって脳味噌が焼き切れそうなのに……!

      ……イエス、サー。
      部隊編制後、直ちに戦闘行動に戻ります。

(電脳面の通信が切れた後、一人毒づくキルッフ)

キルッフ:くそっ、クリスの奴……
      俺と同い年なのに、魔導装機乗りってだけで、もう尉官に出世してやがる……

      感応糸(かんのうし)、再接続。
      虚心状態の機人兵を、俺の意識下に……

      くううっ……頭の中に何十もの景色がぐるぐると……
      頭が割れる……吐きそうだ……

      おえええっ――……!!!

守護霊メサイア:汝、しばし身を休めよ。
          敵影はない。
          戦場の空隙(くうげき)に生まれた、刹那の安寧に身を寄せ、魂の休息を。

キルッフ:はあ……はあ……
      メサイア……俺はもう、軍なんて沢山だよ……

      こんな酷い劣悪な環境で……
      血と硝煙の臭いに塗れ、魔導装機乗りから言いたい放題言われる……

      いや、俺たち機人操士はまだいい……敵と直接戦わないでいいだけマシ……
      魔導騎士や、そもそも魔因子すら持たない一般兵は……生き地獄だ……

      どうせ俺は……英雄になんてなれない……
      名も無き兵士として死んでいく、脇役の一人だ……

      …………
      あれはアルトリオン……!
      黒雲を切り裂いて、恐竜のアンデッドと激突する……!

守護霊メサイア:汝、支配できぬ機人兵は捨て置け。
          ()く汝の操る兵を、メサイアの導く位置に移動させよ。

キルッフ:理由は? メサイアの言うことなら間違いはないんだろうけど……

守護霊メサイア:予言が広げる、未来図を覗き見よ。
          汝は、騎士姫を救わねばならぬ。
          汝の騎士姫は、角竜の王に敗北する。


□8/砂鉄の渦巻く敵陣を突っ切るアムルディア隊


アムルディア:ダンカン機、ハンク機――!
        魔導バルカン! 弾幕を張れ!
        フロートドライブ、加速――!!

グラニトプス:太古、空は翼ある者の世界だった。
        私ですら、引力より解き放たれることは叶わなかったし、望まなかった。

        大地では飽きたらず、空をも侵略しようとする知恵ある猿よ。
        まがいの翼に、翼有る者の苦痛(いたみ)を示す。

アムルディア:黒雲……砂鉄の渦――!
        ダンカン機! ハンク機!

        通信、沈黙……
        おのれぇっ!

グラニトプス:白き巨人を駆る人間よ。名を聞こう。

アムルディア:アムルディア=ブリタンゲイン――!
        帝国の大地を侵略の魔の手より護る大英帝国の要塞=c…
        ガウェイン=ブリタンゲインの娘だ――!

グラニトプス:私はグラニトプス。草を()む一族の(おさ)
        恐竜族の間では『雷角王』と呼ばれていた。

        人の子よ、私は闘争を好まぬ。
       『ミトラスの心臓』を渡すならば、全軍を引き上げよう。
        年若いお前を殺すのは忍びない。

アムルディア:『ミトラスの心臓』――!?
         やはり目的はセベキア魔源炉……マルコゲートの解放か――!
         たとえこの身が燃え尽きようと、断じて渡すわけにはいかぬ――!

グラニトプス:残念だ。
       
        ならば私は闘わねばならぬ。
        かつて私に挑んだ暴君竜たちを迎え撃ったが如く。

アムルディア:黒雲が化石に渦巻いて……

        恐竜の姿に戻っていく――!?

グラニトプス:決闘を挑んできた勇者に、骸のままで応じるのは非礼に当たる。
        不格好だが、生前の似姿(にすがた)を作った。

アムルディア:いいだろう――
        高周波魔導エネルギーチャージ――!
        超振動粒子、励起(れいき)――!

        カリバーン、斬――!!

(カリバーンの銀の刀身が、表面にコーティングされた粒子の超振動で光に包まれる)
(超振動で分子結合を破壊する必殺モードのカリバーンを、首飾りのフリルで受け止めるグラニトプス)

アムルディア:斬れない――!?
        たかが鉄塊を、粒子励起モードのカリバーンが――!?

グラニトプス:現存する金属は、原子間結合に欠陥があり、理想強度より遙かに脆い。
        私の躯を構築する鉄は、金属結晶の欠陥を修復した完全なる鉄=\―
        お前たちの合金の技術は興味深いが、諦めが早すぎる。
        一つの金属を深く掘り下げれば、ありふれた鉄ですら、この強度で応えてくれるのだ。

アムルディア:アルトリオン――!
         応えてくれ……頼む――!

グラニトプス:精神(アストラル)空間に仮想レールを設置。
        発生した磁場を物質(マテリアル)空間に転移。

アムルディア:くっ……!
        斥力(せきりょく)フィールド全開っ――!

グラニトプス:私の電磁加速突撃は、何体もの暴君竜を葬ってきた。
        射出対象、私自身……

        さらばだ、人の子よ。

アムルディア:敵機激突――!

        フィールド突破――……
        うああああああ――っっ!!!


□9/セベキア荒原、黒雲たなびく地上


キルッフ:あ、アルトリオンが……木っ端微塵に……
      装甲板や人工筋肉の断片が、バラバラと降ってくる……

守護霊メサイア:あの白い箱。

キルッフ:操縦槽(そうじゅうそう)――!

守護霊メサイア:受け止めよ。

キルッフ:機人兵! アムルディアを――!

(脱出ポットとなって射出された操縦槽を、数体の機人兵が受け止める)

アムルディア:う……うう……

キルッフ:アム! 大丈夫か……!?

アムルディア:キルッフ……
         
グラニトプス:敵の指揮官は倒した。
        立蜥蜴(リザード・ピテクス)よ、魔源炉に向かえ。
       『ミトラスの心臓』を奪還するのだ。

アムルディア:戦わねば……!

キルッフ:何考えてるんだよ――!
      生身で剣なんか持ったって、敵の大軍を止められるわけ無いだろう――!?

アムルディア:敵前逃亡など皇族の恥だ――!
        私はこの身が果てるまで、戦い抜く――!

グラニトプス:……何だ、あの光は。

        ――――!?

(空の彼方に閃いた魔導エネルギー波が、光の速度で地表に到達)
(セベキア魔源炉に攻め懸かっていた立蜥蜴の群れを薙ぎ払い、爆発した大地が土砂を噴き上げる)

キルッフ:す、凄え……陸上戦艦の主砲並だ……
      セベキア魔源炉に群がっていた立蜥蜴(リザード・ピテクス)が一瞬で全滅……

アムルディア:グレートブリテン……父上――!

ガウェイン:目標撃滅。
       ヤクタ・エスト隊! 地上にピレスロイド充填弾頭を打ち込め!

グラニトプス:立蜥蜴(リザード・ピテクス)河鰐竜(ドラゴダイル)蚯蚓竜(ワーム)飛竜(ワイバーン)小竜鳥(ドラゴンバード)……
        皆、どうしたというのだ……!?
        突如苦しみ出して、悶えている……

キルッフ:毒ガス……!?
      元帥は、俺たちまで巻き添えに……

アムルディア:安心しろ。ピレスロイド系の神経毒だ。
        昆虫を始め、両生類や爬虫類には強い毒性を発揮する反面、哺乳類や鳥類への毒性は低い。
        モンスター討伐によく使われる。

ガウェイン:セベキア魔源炉守備隊長、アムルディア中尉――!

アムルディア:は、はっ――!

ガウェイン:先の魔導砲で立蜥蜴(リザード・ピテクス)多数を殲滅したものの、少なからずの敵を撃ち漏らした。
       敵は魔源炉敷地内に侵入している。
       貴公も機人兵を率いて魔源炉へ向かえ。
       内部の警備隊と連携し、『ミトラスの心臓』を守り抜くのだ!

アムルディア:了解しました!

ガウェイン:セベキア魔源炉守備隊、全軍に次ぐ――!
       唯今より全部隊の指揮権は、ガウェイン=ブリタンゲインが掌握した。

       レオン少佐、マドック少佐。
       それぞれ守備隊を再編制し、部隊指揮を務めよ。
       俺が戦端(せんたん)を開く。

       全砲門、開放。
       目標補足(ターゲットロック)、目標二十。
       グレートブリテン、拡散魔導砲発射――!!

グラニトプス:GUUUUUUU……

ガウェイン:ぬ……魔導エネルギーが放散されている……
       砂鉄による歪曲磁場か――!

(砂鉄の黒い靄が覆い尽くす戦場の中心部では、電磁石の化石の姿に戻ったグラニトプスの姿があった)

グラニトプス:何という惨たらしいことをするのだ。
        あの獰猛で残忍な暴君竜ですら、堂々と名乗りを上げて襲ってきた。
        飛び道具のみならず、神経毒を散布して虐殺するとは。

ガウェイン:お前が爬虫類どもの親玉か。
       帝国の平和と安寧を乱す輩に、人道を語る資格はない。
       またモンスター如きに支払う命も、帝国には唯の一つもない。
       最小の犠牲で、速やかに掃討する。

グラニトプス:闘争に儀は求めぬ。
        だが、戦う者の尊厳を踏み躙る闘争はしてはならぬ。
        何故ならば、生き残った者たちが復讐の念を抱くからだ。
        私はお前たちに静かな怒りを感じている。

ガウェイン:…………

(爬虫類たちの骸が積み重なる戦場に、黒いローブの人影が浮かび上がる)

黒翅蝶:一つの理想が振りかざす刃の下に、死体はまた一つ積み重なる。
     やがて勝利した理想は歴史に記され、正義の美名で飾られる。

     正義の剣に葬られた名も無き者たちの墓碑銘(エビタフ)をなぞり、汝らに聞かせよう。
     勝利者たちの凱歌(かちどき)を引き裂いて突き刺さる、害獣たちの悲鳴(なきごえ)を。

ガウェイン:――……!?
       爬虫類たちの骸が立ち上がった……!

       ネクロマンサー……!
       奴が『ハ・デスの生き霊』の首謀者か――!

グラニトプス:……子孫たちよ、無念か。
        私には、お前たちの嘆きが聞こえる。
        命ある者よ、命潰えし者よ。
        私も最後まで戦おう。この身が朽ち果てるまで。

(線上に渦巻く砂鉄が凝集し、グラニトプスは角竜の姿を形作る)

グラニトプス:人間の王よ。
        我が名は雷角王グラニトプス――!
        私と闘争せよ――!

ガウェイン:電磁加速の突撃――!
       グレートブリテン、斥力フィールド全開――!

       ぬおおおおお――!!

(斥力フィールドの反発障壁を突破し、雷角王の巨躯がグレートブリテンに激突)

ガウェイン:フィールド突破……!

       腹部装甲、全損……
       人工筋肉に断裂有り……

       エネルギー急速チャージ――

グラニトプス:我が雷角が、巨人の腹部にめり込んだ。
        放電開始――!

ガウェイン:ぐおおおおっ……!

       充填率三〇%、集束魔導砲……
       てっ――――――!!!

グラニトプス:GUU――!?

(胸部の魔導砲が直撃したグラニトプスは、砂鉄の躯を消滅させられ、魔導光エネルギー束の奔流に吹き飛ばされていく)

グラニトプス:生死を分ける境で、よくエネルギーの充填を待てた。
        生半可(なまはんか)な攻撃では、私の躯には傷一つ付かぬ。
        お前には、戦の直感がある。

ガウェイン:私は、ガウェイン=ブリタンゲイン。
       この世界に名だたる、大英帝国の第一皇子だ。

グラニトプス:しかと記憶に刻んだ。
        ガウェイン、歴戦の勇者よ。

ガウェイン:雷角王グラニトプス……手合わせを願う。

       往くぞ、戦闘開始(コンバット・オープン)――!



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