第25話 雄たちに捧ぐ
★配役:♂4♀2=計6人
▼登場人物
モルドレッド=ブラックモア♂:
十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。
魔導具:【-
魔導系統:【-
パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。
魔導具:【-
魔導系統:【-
ラーライラ=ムーンストーン♀
二十七歳の
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の一員。
人間の父と、エルフの母のあいだに生まれたハーフエルフ。
『ムーンストーン族』のエルフには見られない青髪と碧眼は、父親譲りのもの。
父親が魔因子を持たない人間だったので、〈魔心臓〉しか受け継がなかった。
エルフながら魔法を使うためには、魔導具の補助が必要である。
魔導具:【-
魔導系統:【-
カテリーナ=ウルフスタイン♀
十六歳の
特に
ウルフスタイン伯爵の娘。
金髪縦ロールのお嬢様スタイルだが、性格は豪快を絵に描いたよう。
魔導具:【-
魔導具:【-
恐竜王ディラザウロ♂
『ハ・デスの生き霊』の幹部、
黒い玄武岩の体躯に、マグマの血脈を張り巡らせた暴君竜。
全長二十メートルを超える背中には、厳威誇る火山が聳え立っている。
死霊傀儡師『黒翅蝶』の力で蘇ったアンデッドであり、本来の姿は、太古に滅んだ恐竜の化石である。
ネクロマンシーの秘術と、人造の魔心臓を与えられたことで、化石に嵌った魔晶核が賦活し、生前の姿を取り戻した。
生命活動レベルで魔法を取り入れており、己の躯自身が魔導具と言える。
特定の魔法に特化した古式魔導具に近く、魔法・体躯ともに火山体であることに最適化されている。
現在は恐竜の姿ではなく、稀少亜人種の
その姿は、二メートル半を超す長身の、二足歩行する爬虫類である。
魔導具:【-
魔導系統:【-
首狩り孤児ゾルゾリド♂
二十五歳の
『ハ・デスの生き霊』の幹部、
トゥルードの森に住む浅黒い肌のエルフ『オブシディアン族』の母親と、人間の男の混血児であるハーフエルフ。
顔を含めた全身に
ハーフエルフであるため、魔法を使うための魔晶核を持たない。
使用する魔導具は、同じオブシディアン族のエルフの干し首で、実の母親のものも含まれている。
生体魔導具化されており、簡単な命令を与えておけば、ある程度自律的に魔法を行使することが可能である。
魔導具:【-
魔導系統:【-
以下のズァクゥは唸り声のみ。被り役推奨です。
ゾルゾリドに関係するので、キャラ設定の詳細を書いておきます。
ズァクゥ=オブシディアン♀
トゥルードの森に住むエルフの部族『オブシディアン族』の女で、ゾルゾリドの母親。
浅黒い肌のエルフ『オブシディアン族』は、魔因子を持たない人間に侮蔑感と敵意を持っており、森に入る人間には極めて攻撃的。
人間たちからは『ダークエルフ』と呼ばれ、恐れられている。
三十年前、オルドネア聖教の異端狩りによって捕らえられ、近隣の村に引き渡された。
『ダークエルフ』に村の人間を殺されてきた村人たちの怨みは深く、男のエルフは魔晶核を抜き取られ、女のエルフは慰み者にされた。
その後、和平会議が開かれ、ズァクゥはオブシディアン族に還されたが、既にゾルゾリドを身籠もっていた。
悪夢の落とし子であるゾルゾリドを憎み、殺そうともしたが、最後は逆にゾルゾリドによって殺される。
※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。
□1/コーンウォール密林の洞窟
ラーライラ:んっ……ここは……
そうだ、私……『ハ・デスの生き霊』に攫われて……
ゾルゾリド:よぉ、お目覚めかい。
ラーライラ=ムーンストーン。
ラーライラ:ゾルゾリド=オブシディアン……!
――っ!?
手足が、縛られてる……!
私をどうするつもりなの……!?
ゾルゾリド:ママに言われたんだ。
『ハ・デスの生き霊』の幹部、
モルドレッド=ブラックモアを倒せってな。
てめえはその撒き餌だ。
ラーライラ:モルドレッドを……!?
そんなこと――!
――……?
ゾルゾリド:へっへっへ、探しものはこいつか?
ラーライラ:
ゾルゾリド:馬鹿が。
てめえの魔導具なんざ、とっくに剥いであらぁ。
ラーライラ:返して!
それは母さんの形見――!
ぐうっ――!
(ゾルゾリドの蹴りが入り、苦鳴を漏らしてうずくまるラーライラ)
ゾルゾリド:ビービー喚くんじゃねえよ。
うざってえな。
ラーライラ=ムーンストーン。
お前のことは、ずっと前から見ていたんだぜ。
ラーライラ:げほっ、げほっ……
私を……!?
ゾルゾリド:族長と親子のように並んで歩くお前を……
他のエルフのガキどもと仲良く遊んでるお前を……
俺は、ずっと見ていた……!
ラーライラ:ゾルゾリド……あなたのことは聞いていた。
オブシディアン族には卑しまれる、人間の血を引いている……
私と同じ、ハーフエルフ……
ゾルゾリド:お前と俺。
同じハーフエルフなのに、何でこんなに違うんだろうなぁ?
教えてくれよ……
なあ――!!
ラーライラ:服を……
きゃああっっ――!!
ゾルゾリド:ラーライラ=ムーンストーン。
てめえを不幸のどん底に叩き落としてやる。
惚れた男が助けに来ても手遅れ。
犯し汚し尽くされた裸体を、男の前に晒す。
ククク……
その時のてめえの絶望を想像しただけで、いきり立ってくるぜ。
ラーライラ:どうして……!?
どうして私を憎むの……!
ゾルゾリド:言っただろう……!
俺はずっとお前を見ていたんだ……!
乞食のようにタイガーズアイ族の食い残した残飯を漁っている時も……
ムーンストーン族の森に忍び込んで、木の実を盗み食いしてる時も……
いつもお前の顔が浮かんできた……!
俺の舐めてきた屈辱と不幸を、てめえにも味わわせてやらねえと、気が済まねえんだよ――!
ラーライラ:いやっ……! やめてっ――!
族長様――! モルドレッド――!
ディラザウロの声:GAAAAAA……
ラーライラ:竜人――!?
ディラザウロ:離れろ、ダークエルフ。
そのエルフは、お前のものではない。
ゾルゾリド:こいつは俺のもんだ。
犯そうが殺そうが、俺の勝手だ。
てめえに指図される、いわれはねえ。
ディラザウロ:領土と雌は、原始より続く宝。
降参か死によって、宝の所有権は移る。
その雌が欲しくば、正しき所有者と闘争し勝利せよ。
ゾルゾリド:恐竜の王だか何だか知らねえが、アンデッドがでかいツラしてんじゃねえぞ。
前々から気に食わなかったんだよ……無駄に偉そうなてめえがな。
ディラザウロ:奇遇だな。余もお前が不愉快だ。
ゾルゾリド:いいものをプレゼントしてやるぜ。
太古の死に損ないに見事な最後≠チて奴をよぉ……!
ディラザウロ:
ゾルゾリド:吼えたな、化け物。
化石に戻って、博物館の王様でもやってなあああ――!
精霊召喚……
ぐう――!?
ディラザウロ:GAAAAAA!!
ゾルゾリド:はあ、はあ……
くそっ……また発作がっ……!
――!?
(後ろ脚で地を蹴り肉薄したディラザウの腕に、頭を捕まれてつるし上げられるゾルゾリド)
ゾルゾリド:は、離せ――!
アンデッドの分際で俺を殺したら、ママが黙っちゃいねえぞ!
ディラザウロ:その魔導具を寄越せ。
ゾルゾリド:くそっ……!
心臓の動悸さえなけりゃ、てめえ如き……!
外の空気を吸ってくる……
その女を見張っとけ……!
(左胸を押さえつつ、洞窟の外に去っていくゾルゾリド)
ラーライラ:あ、ありがとう……
あなた、ひょっとして……
ディラザウロ?
ディラザウロ:そうだ。
余は恐竜王ディラザウロ。
久しいな、エルフのドルイド。
□2/コーンウォールの密林
カテリーナ:大自然の迷宮コーンウォール……
でも、女の友情を阻むには役不足ですわ。
草を薙ぎ払い、木を蹴り倒し、冒険のついでにモルドレッド様と愛まで育みます!
ラーライラ、待っていなさい!
パーシヴァル:女の友情って言った二言目に裏切ってるよ、カテリーナ。
モルドレッド:パーシヴァル、何であいつにまで声を掛けたんだ……
パーシヴァル:まあまあ。
カテリーナもラーライラの友達だし、接近戦ならモルより強いしね。
モルドレッド:俺はまだ、あいつに負けたことはない!
カテリーナ:まあモルドレッド様!
スポーツデートのお誘いですの?
喜んでお受けいたしますわ!
モルドレッド:お前の言うスポーツは、金槌を振り回して人を殴ることだろうが!
俺は、お前とは絶対に闘わないぞ!
パーシヴァル:スポーツデートって言葉に騙された人、多いんだよ……
カテリーナ:密かに恋い焦がれていた憧れのエルフを攫うダークエルフ。
それを助けに向かう聖騎士。
二人の間で揺れ動く乙女心。
ああんもう、淑女のロマンですわ!
ラーライラ、羨ましすぎますことよ――!
モルドレッド:そんな馬鹿な話があるか。純愛小説の読み過ぎだ。
パーシヴァル:いや、案外いい線ついてるかもよ。
オブシディアン族とムーンストーン族。
トゥルードの森のエルフたちは、数が少ないし、顔見知りでもおかしくない。
ラーライラに個人的な感情がある可能性は高いよ。
モルドレッド:もしもラーライラに
カテリーナ:純愛ならいいんですの?
モルドレッド:それも嫌だな……
カテリーナ:モルドレッド様、そんなケツの穴の小さいことを言ってはいけませんわ。
ウルフスタイン伯爵家、家訓二条。
恋とは、戦争と心得るべし
ライバルとの駆け引きは、一分の気も弛められぬ野外戦。
貴婦人の心を落とすは、難攻不落の砦を攻める攻城戦。
恋路の一歩は、誰もが一兵卒となる総力戦である。
モルドレッド:それは……励ましなのか?
しかし何というか……
俺が言うのも変だが、敵に塩を送ることになるんじゃないのか?
カテリーナ:ふふん。
わたくしの方が、一歩リードしてますもの。
モルドレッド様のくちびるの感触は、生涯忘れられません。
わたくしのファーストキスだったんですのよ――!
モルドレッド:俺もだっ!
なんてことをしてくれたんだっ!
不意を突いて騙し討ちに……!
カテリーナ:不意打ちだろうと騙し討ちだろうと、キスはキスですわ。
わたくしのヴィクトリーは、絶対確実ですわ!
パーシヴァル:モル、用心しなよー。
牧師の前に引きずり出されてキスされたら、
ヨーゼフ派は二度と取り消せない、悪徳商法も真っ青の契約が結ばれる。
モルドレッド:やめてくれ、花嫁がカテリーナなんて……!
新婚初夜が、プロレスリングのデスマッチになるぞ……!
カテリーナ:わたくしのバージンロードを阻むライバルは叩き伏せます。
教会の赤絨毯を血に染めて、駆け抜けますわ。
勝利のハネムーンまで、わたくしは止まりませんわ――!
□3/密林の洞窟
ラーライラ:…………
あの……服が欲しいんだけど……
ディラザウロ:無い。
ラーライラ:な、何でもいいんだけど……
着るもの……
私……裸……!
ディラザウロ:余も裸だ。
ラーライラ:あなたは恐竜だからっ!
私はエルフなの! エルフは服を着るの!
隠したいのっ――!
ディラザウロ:これを使え。
ラーライラ:
ディラザウロ:お前の
ラーライラ:で、でもあなたを捕縛することだって出来る……!
ディラザウロ:お前は情けを仇で返す真似はせん。
余を騙し討ちにしたならば、叩き殺すまで。
ラーライラ:……私を信用してくれたの?
私はあなたの敵だった。族長様の仇。
モルドレッドも、あなたの野望を打ち砕いた敵……
ディラザウロ:余を倒したパラディンには、敬意を払う。
強き者は、余を更なる高みに導いてくれる。
パラディンのものであるお前も、余が守り抜く。
ラーライラ:私……モルドレッドのものになってるの?
ディラザウロ:違うのか。
お前は誰の所有物だ、エルフ?
ラーライラ:所有物って……私は誰のものにもなっていない。
ディラザウロ:雄に所有されん雌が居るとは。
お前は余程醜いのだな。
それとも奇病にでも罹っているのか。
ラーライラ:エルフと恐竜は違うの!
私の体も心も、私のもの。
私が許した人にしか、開かない。
ディラザウロ:余が強奪した雌で、体を開かなかった雌は居なかった。
心は知らん。余にとっては関心の埒外だ。
雄を殺し、邪魔な遺児を皆殺しにすれば、雌どもの発情は始まる。
ラーライラ:あなたも……ゾルゾリドと変わらないのね。
…………
私……あんな剥き出しの悪意……
それに……欲望の対象にされたのは初めて……
ディラザウロ:何故お前は、青ざめた顔で震えている。
記憶は過ぎ去った事象だ。
未来に及ぼす力など無い。
ラーライラ:忘れたいのに、忘れられない……
より鮮烈に思い出されてくる……
記憶は、出来事の再生じゃないの……!
ディラザウロ:感情か。
哺乳類どもは、猿族は、
猿どもの膨らませた脳味噌が、感情に費やされ、その感情に振り回されているようでは。
愚にもつかん無駄。明らかな生存の妨げだ。
ラーライラ:ディラザウロ、あなたは何を思って生きてきたの。
ディラザウロ:何も無い。恐竜族は感情に価値を置かん。
ラーライラ:恐竜族にも、家族や伴侶はいるのでしょう?
ディラザウロ:余が成竜になったばかりの頃、初めて雌とつがった。
だが若き余は、雌を奪いに来た雄と闘い、敗北した。
卵は踏み潰され、幼子は食い殺された。
若き余は血塗れの重体を引きずって、巣に背を向けた。
雌は何もせず、己が子の殺される様を眺めていた。
雌は雄のものとなり、余の子ではない、新しい雄の子を成した。
ラーライラ:私には、あなたたちの世界が理解出来ない……!
ディラザウロ、あなたは哀しくなかったの……?
ディラザウロ:恐竜族は、泣きもしなければ、笑いもしない。
怒りと恐怖。生存に直結する単純な感情しか持たない。
感情の欠落した世界に生きる種族、爬虫類の王だ。
ラーライラ:本当に恐竜は、哀しまないの……!?
あなたの子供が殺された時も、あなたが敗北して巣を追いやられた時も……
あなたは何も感じなかったの……?
ディラザウロ:覚えている。
地に倒れ伏した泥の味も、背中越しに聞こえた我が子の断末魔も。
死してアンデッドと化した今でも朽ちぬ、余の魂に刻まれた記憶の一つだ。
ラーライラ:ディラザウロ、それはきっと哀しみ。
感情に乏しい種族だから、気づかなかったのかもしれないけど……
あなたの心は、傷ついて、哀しんでいた。
ディラザウロ:余に心など無い。あるのは思考と本能だけだ。
ラーライラ:私があなたとつがいの雌だったら、あなたと共に戦っていた。
子供たちを見殺しにしなかった。
闘いに負けて巣を
私が今ここにいるのは、エルフが感情を持つ生き物だったから。
感情は、私たちの生存を助けてきた。
ディラザウロ:…………
かつて草を
互いの主張は噛み合わず、平行線を辿る徒労に終わった。
お前と話して、再度問うてみたくなったが最早叶わん。
あの
恐竜族は、絶滅した。
余だけがネクロマンシーの秘術で
ラーライラ:不思議ね……
あんなに恐ろしかったあなたと並んで、こんな話をしているなんて……
……ディラザウロ。
私とあなたは違う。心の仕組みも、感情の激しさも。
でも私の心は、あなたの心と通じてると思う。
ディラザウロ:わからん。
しかしお前と交わす言葉は、余の意識に変革をもたらす。
続けよう、ラーライラ=ムーンストーン。
□4/コーンウォールの密林の中
カテリーナ:パーシヴァル様、この道で合ってますの?
パーシヴァル:うん。
密林の上空に飛ばした水晶飛行体による
地図上の進路を正確に辿っているか、常時、位置情報の交信を――
カテリーナ:まあ、それは凄いですわねパーシヴァル様!
モルドレッド:今の説明を理解出来たのか……!?
カテリーナ:さっぱりわかりませんわ。
要はパーシヴァル様について行けばいいってことですわよね。
パーシヴァル:ま、それでいいけどさー……
でも二人とも、原理とか仕組みとか気にならないのかな。
モルドレッド:お前を信頼してるんだ、パーシヴァル。
パーシヴァル:あーあ、モルもこういう時だけ調子いいんだから。
『ハ・デスの生き霊』が指定してきた洞窟まで、後、徒歩十分ぐらいだよ。
モルドレッド:二人とも、道中助かった。
ここから先は、俺一人で行く。
パーシヴァル:何言ってんだよ。人質を取って、一人で来るよう脅す。
あからさま過ぎるぐらい、罠に嵌める気満々だね。
モルドレッド:しかし、ラーライラに万一のことがあれば……!
パーシヴァル:モル、冷静になれよ。
三人でバレないように接近して、バレたら各々の長所を生かして対処。
モルが一人で行くより、こっちのほうがよっぽど勝算が高い。
カテリーナ:そうですわ。
か弱い淑女を攫う悪党に、遠慮なんていりません!
三人でボコボコにぶちのめして差し上げましょう!
モルドレッド:……すまない。
やはり、二人に来てもらってよかった。
俺一人だと、焦燥に駆られる余り、捨て鉢になるところだった。
パーシヴァル:とにかく、ここから先は『ハ・デスの生き霊』の領域だ。
敵に気づかれないよう、今まで以上に慎重に進んでいこう。
カテリーナ:パーシヴァル様、残念ながら手遅れのようですわ。
モルドレッド:地面から生えた、上半身だけの泥の巨人――!?
来るぞ――!
(密林の下生えを押し退けるように滑って移動してきた泥の巨人が、カテリーナに拳を振り落とす)
カテリーナ:そんな軟弱な泥のボディじゃ、わたくしのハンマーは受けられませんことよ。
てえいっ――!!
モルドレッド:カテリーナっ――!
カテリーナ:楽勝ですわ。
モルドレッド:まだそいつは死んでいない!
カテリーナ:えっ……?
泥が逆巻く壁に……
きゃあっ――!
パーシヴァル:モル、そいつは土の精霊キングゥだ。
魔法の術式を破壊しないと何度でも再生する。
モルドレッド:魔獣や対人戦には無敵の
実体を持たない魔導生命体や精霊魔法の類には、著しく不利か……!
形無きもの、命無き命を、あるべき姿に。
ロンギヌス――! はあっ――!
(ロンギヌスの槍が泥の巨体にめり込むと、術式の戒めを失ったキングゥは、土くれとなって崩れ落ちる)
モルドレッド:大丈夫か、カテリーナ。
カテリーナ:げほっ、げほっ……
口の中まで、泥が一杯ですわ〜……
モルドレッド:こういう非生命体には、俺の神聖魔法が威力を発揮する。
カテリーナ、お前は俺の後ろに回れ。戦闘の補助を頼む。
カテリーナ:訓練場の外、帝都を出た世界には、
普通の攻撃が通用しないモンスターが、ぞろぞろ居ますのね……
またまた惚れ直しましたわ、モルドレッド様。
――!?
伏せてくださいませっ!
モルドレッド:――っっ!!
か、間一髪……
何を考えてるんだ、お前は――!
パーシヴァル:違うよモル。カテリーナのお手柄だ。
モルドレッド:イタチ……!?
半透明の、鎌の手を持つ……!
パーシヴァル:風の精霊ズー。
イタチの姿を象った精霊で、よくある疾風の刃と同じ性質の魔法なんだけど、
標的を狙って軌道修正する疑似知能を備えている。
シルフィードより下級の精霊だけど、使いやすいからシャーマンは多用するって聞く。
モルドレッド:パーシヴァル……
精霊には普通の武器は通じないんじゃなかったのか……!?
こいつ、ズーを金槌で撲殺してるぞ……
パーシヴァル:猛烈な力で振り回された金槌は、激しい風圧と気流を産み出す。
風圧も気流も風に属するものだから、風の元素の塊である精霊を相殺することは可能だ。
理論上は……理論上はね。
カテリーナ:モルドレッド様、おわかりになりました?
聖騎士は正義! 正義は勝つ! わたくしは勝った!
故にわたくしカテリーナ=ウルフスタインは、正義の聖騎士なのですわ!
モルドレッド:どこから突っ込めばいいんだ、この三段論法……!
パーシヴァル:二人とも、話は後だ。
森の樹木の間から、キングゥが何体も滑り寄ってくる。
カテリーナ:モルドレッド様、ズーはわたくしにお任せくださいまし!
モルドレッド:……わかった。俺はキングゥを倒す!
カテリーナ:補い合える関係は、わたくしの理想の恋愛……!
最高のライバルは、最愛のダーリンですわ!
モルドレッド:誰がお前のライバルでダーリンだ。
行くぞ、カテリーナ!
カテリーナ:承知ですわ、モルドレッド様!
(最前線に並び立つモルドレッドとカテリーナより、やや距離を取った後衛のパーシヴァルは自律飛行水晶体を巡らす)
パーシヴァル:意外といいコンビじゃん、あの二人。
よーし、二人が敵を引きつけてる間に、おいらは敵のシャーマンを探さないと。
精霊魔法の使い手を倒さなければ、ズーやキングゥは幾らでも召喚される。
魔法発動源、探知開始――!
パーシヴァル:密林の樹木の上……!
エルフの生首が、魔法を唱えてる……!
天を翔ける猛き稲妻よ。
ゼウス・ガベル――!
(水晶飛行体の視覚共有で操作に没頭するパーシヴァルの背後、樹木の枝に逆さにぶら下がった人影が映る)
ゾルゾリドの声:クククク――……
パーシヴァル:ズーやキングゥを操っていたのは、エルフの生首……
待てよ……
シャーマンはどこへ行ったんだ――!?
うあああああっっ――!?
(背後より疾る太刀風に気づいて身を引くも、切り裂かれた肩口が血飛沫を噴き出す)
ゾルゾリド:おいおい、一人で来いつったよなあ?
パーシヴァル:おいらたちの背後……
完璧にハメられた……!
っうう……!
モルドレッド:パーシヴァル――!!
ゾルゾリド:聖騎士の癖に、約束破りやがってよぉ。
俺が間引いて、頭数合わせとくぜ。
精霊召喚、風の魔王パズズ――!!
パーシヴァル:天を翔ける猛き稲妻よ……
ダメだ、間に合わない――!
ゾルゾリド:まずは一人殺したぁぁぁぁ――!!
カテリーナ:落雷せよ、必殺のミョルニル――!!!
ゾルゾリド:空に稲光――!
俺に向かって落ちる――!?
パズズ――!!
(背後に実体化したパズズが、ゾルゾリドを庇うように避雷針となり、雷神の大電流に悶絶する)
ゾルゾリド:くそったれ……何て
身代わりにしたパズズが、くたばりやがった……
カテリーナ:行きますわっ! 覚悟なさい!
ゾルゾリド:再召喚を……!
咆哮せよ風の元素……
カテリーナ:遅いですわっ!
ゾルゾリド:くそっ……!
ディラザウロの声:GAAAA!!
カテリーナ:後ろ――!?
はあっ――!
(振りかぶった大金槌の一撃を潜るように、地を這い疾走してきた竜人がカテリーナを押し倒す)
カテリーナ:空振り――!?
ハンマーの旋回の下を潜る影――
きゃあっ――!
ディラザウロ:押し倒した。噛み殺す!
GUU!?
硬い……!?
カテリーナ:わたくしのメギンギョルズは、体を鋼鉄の硬さに変えますのよ!
大人しく組み敷かれる女だと思ったら、大間違いですわ!
わたくしがっ、組み伏せますっ!
ディラザウロ:余と体勢を入れ替えただと……!?
カテリーナ:竜人――!?
でも、関係ありませんわ。
淑女を押し倒す不埒な輩は、ボコボコのタコ殴りです――!
ディラザウロ:GAAAAA……!
余を組み伏せる怪力と鉄の体……
なんだこの猿は……
面白い……
ならば、恐竜王の息吹を受けよ。
大火山の
カテリーナ:誰が猿ですのっ!!
硫黄の臭い……
きゃああああああああああ――――!!!
モルドレッド:カテリーナ――!!
パーシヴァル:あの白い雲……火山灰だ!
モルドレッド:
白い雲が燃えて、あっという間に赤い巨大な火柱に……!
パーシヴァル:火山ガスは可燃性を備えてるんだよ……
あ、あんなものに飲み込まれちゃ……
うっ――!
モルドレッド:まだ喋るな、パーシヴァル。
治癒魔法の途中だ。
なあ、あの火砕流……
パーシヴァル:ああ……考えたくないけど……
よし、サンキューモル。
ともかく、先にダークエルフを倒そう。
今ならまだ――
ゾルゾリド:クックックック!
遅えんだよ、へっぽこ魔導師。
化け物の時間稼ぎが、役に立った。
悪霊の風が、吹き荒れるぜぇ……!
精霊召喚、風の魔王――
ラーライラ:
地中を這い進み、根を張り巡らすもの――
押さえつけて、クリーパー!
ゾルゾリド:手足を蔦がっ!
おい化け物! どういうことだ!
何であの糞エルフが、魔導具を持ってやがんだ!
ラーライラ:モルドレッド! パーシヴァル!
モルドレッド:ラーライラ! 無事だったか!
カテリーナ:はあ、はあ……
モルドレッド様ぁ〜……
モルドレッド:カテリーナ……お前も!
よく生きていられたな……!
カテリーナ:もう身も心もボロボロですわぁ〜……
モルドレッド様、癒してくださいませ……
ラーライラ:カテリーナ!
カテリーナ:ラーライラ、助けに来ましたわ。
ラーライラ:嬉しいけど、嬉しいけど……
モルドレッドから離れて!
ディラザウロ:パラディン、シャーマン。
此より、余が立ち会いを務める。
エルフのラーライラを巡り、闘争を開始せよ。
モルドレッド:はあ?
ゾルゾリド:はあああ??
パーシヴァル:ちょ、ラーライラ!
どこへ行くんだよ――!?
ラーライラ:ごめんなさい。私は人質。
逃げない約束だから。
モルドレッド:全く話が見えてこないんだが……
さっきカテリーナが言っていた、ラーライラを巡って争うとかいう妄想……
まさかあれが、現実になっているのか……!?
カテリーナ:まあ、これはわたくしも人質になるしかありませんわ!
わたくしを巡って、熱い恋の争奪戦を繰り広げてくださいませ!
モルドレッド:俺の負けだ。
ディラザウロ:お前の不戦勝だ。
ゾルゾリド:要らねーよ、こんな金槌女。恐竜の餌にでもしとけ。
ディラザウロ:硬くて食えん。
ブリュンヒルデ、お前の引き取り手は居ない。
帰れ。
カテリーナ:こ、こんな屈辱的な扱いを受けたのは初めてですわ……!
メギンギョルズは体を鋼鉄に変えても、心は傷つきやすい乙女のままですのよ……!
ゾルゾリド:おい、化け物!
さっきから訳のわからねえことやってないで、俺に加勢しろ!
この邪魔な
ディラザウロ:GAAAAA……役者は揃った。
原始地球、生命誕生の
雄に
恐竜王ディラザウロが、闘争の幕を開ける!!
ゾルゾリド:聞こえてるのか化け物!
そんなもんやるわけねえだろうが!
ママに言いつけてやるぞ!
おい、こらああ――!!
□5/コーンウォールの密林、樹木の開けた地点
モルドレッド:何とも……妙なことになったな。
ゾルゾリド:はっ、とんだ三文芝居だぜ。
モルドレッド:貴様……ラーライラに手出しはしていないだろうな!?
ゾルゾリド:だったらどうするんだ、十三皇子?
ラーライラ:私は何もされていない!
服を破られただけ! 信じて!
モルドレッド:信じられん……!
服を破られて何もないということがあるのか……!?
ディラザウロ:パラディン、お前の雌は無事だ。
ラーライラ:ディラザウロが、助けてくれたの……!
モルドレッド:そ、そうか――!
いや待て。
爬虫類の言う無事と、俺の考える無事は同じ意味なのか……!?
ラーライラ:あなたが疑うなら……た、確かめてもいい!
モルドレッド:た、確かめる……!?
パーシヴァル:ラーライラ、時々凄い大胆だよね。
カテリーナ:ラーライラ……!
さすがはわたくしの
わたくしも負けてはいられません!
わたくしを選んだ殿方には、ああん≠ネことやダメ!いけませんわ!≠ネことまで許しちゃいますわ!
政略結婚もウルフスタイン伯爵家も知ったこっちゃありません!
目一杯汚してくださいませ――!
モルドレッド:確かめる……目一杯汚す……
落ち着け、落ち着け……!
鎮まるんだ……よし!
首狩り孤児ゾルゾリド!
オルドネアに誓って、貴様を倒す――!
ゾルゾリド:見ちゃいられねえ腑抜けヅラだぜ。
女の一人や二人で、目の色変えやがって。
ママはこんな童貞野郎の、どこを気に入ってやがるんだ。
モルドレッド:な……誰が童貞だと……!?
お前こそさっきからママ、ママと……!
マザコンに
ゾルゾリド:へっ。いいかよく聞け。
この
ママは俺に禁呪法を教えてくれた。
こんなに尊敬出来て優しい人は、どこを探したっていやしねえ。
俺のママは世界一だ――!!
モルドレッド:おい……
パーシヴァル:何というか……
ラーライラ:…………
カテリーナ:どん引きですわ……
ゾルゾリド:どうだ、ぐうの音も出ねえか。
モルドレッド:皆、絶句してるんだ、マザコンエルフ!
パーシヴァル:いやー。でもあそこまで開き直れるのって、ある意味男らしいよ。
ゾルゾリド:な……
ママが好きで、何が悪いんだ!
女の代わりなんざ腐るほどいるが、ママは世界にたった一人だろうが!!
カテリーナ:ママと結婚なさってはいかがかしら?
ラーライラ:それしかないと思う。
ゾルゾリド:てめえら……
揃いも揃って俺を馬鹿にしやがって……!!
全員晒し首にしてやるぜぇぇ――!!
精霊召喚……来い、パズズ――!
モルドレッド:オルドネアよ、暴威を阻む結界を――!
ゾルゾリド:パズズ――!
略奪の時間だ……掻っ払い、ばら撒けえっ!
モルドレッド:くうっ……!!
ゾルゾリド:
シャーマンを中心とした範囲に台風を巻き起こす、空の凶賊の羽ばたきだ。
モルドレッド:木の破片や石のつぶてが、襲いかかってくる……!
防御にして攻撃の結界か――!
ラーライラ:ゾルゾリドの刺青が……薄青く発光している……!
パーシヴァル:あれは
古代魔法王国の
あんなものを全身に彫り込むなんて、常軌を逸してる……!
ゾルゾリド:こいつはママの彫ってくれた、古代魔法王国の
魔力の流れる経路を増やす、人工の血管みたいなもんだ。
おかげで純血のエルフ以上の魔力が、俺の全身に漲っている……!
パーシヴァル:確かに瞬間的な魔力は増大するけど、魔心臓への負荷も著しく上昇する。
古代魔法王国でも、心臓麻痺や心不全で、命を落とす事故が多発した。
古代人自身が捨て去った、失敗した技術≠セからなんだよ――!
ゾルゾリド:ビビってろよ、雑魚が。
お陰で俺は、ちょっとの度胸を据えるだけで、簡単に力が手に入るんだ……!
ラーライラ:凄い突風……! 私、飛ばされそう……!!
カテリーナ:ラーライラ、しっかり! わたくしの手に掴まりなさい!
パーシヴァル:か、カテリーナ! おいらも……!
カテリーナ:もう。肝心な時に頼りないんですもの!
だから魔導師の殿方は、恋愛対象にならないのですわ!
モルドレッド:空を……大木が何本も旋回している……
ゾルゾリド:いくぜ、十三皇子――! 死ねえ――!!
□6/台風の吹き荒れる戦闘地点
モルドレッド:(上空から猛スピードで落ちてくる大木……)
(直撃すれば、一撃で結界を破られて即死だ……)
ゾルゾリド:ちょこまか逃げ回りやがって――!
モルドレッド:(しかし、奴は上空……近付くことも出来ん……!)
(カテリーナのミョルニルなら、必中必殺の
カテリーナ:モルドレッド様ー!
わたくし、勘当されるのも覚悟で応援してますのよ――!
ここで負けたら、淑女の夢とロマンがぶち壊しですわ――!
モルドレッド:(ダメだ、あいつは……!)
(パーシヴァルは――!)
パーシヴァル:聖騎士は、回復と防御を担うパーティーの
弱くはないけど、対人戦闘に特化した強味を持っているわけじゃない。
あんな超攻撃型の精霊使いと一対一なんて、そもそも無茶なんだよ……!
こうなったら、おいらが――!
ディラザウロ:メイジ、闘争に水を差すつもりか。
不審な動きをすれば、余の
パーシヴァル:う……
モルドレッド:(パーシヴァルも動きを封じられている……)
ラーライラ:モルドレッド――!
モルドレッド:(ラーライラ……)
(そうだ、誰かに頼るわけにはいかない……)
(俺にだって、男の意地がある……!)
ゾルゾリド:はあ、はあ……
モルドレッド:随分と息が上がっているな、ダークエルフ。
ゾルゾリド:はっ、心配はいらねえよ。
一撃当てれば、てめえをぶっ殺せるんだからなぁ。
モルドレッド:お前に俺を倒すことは出来ん。
首狩り孤児ゾルゾリド。
お前は
ゾルゾリド:何、だと……!?
モルドレッド:ディラザウロのような誇り高い闘争の信念も。
クドラクのように世界を敵に回して貫いた愛も。
レ・デュウヌのような狂気に達した生への執念も。
お前には何もない。
葛藤や苦悩……過程を踏み飛ばし、安易な裏道で得た強さ。
お前の力は強大だが、同時に吹けば飛ぶほど薄っぺらい。
お前如きに、
ゾルゾリド:ほざいてんじゃねえぞ……!
俺は空中だ!
槍を届かせることもできねえ雑魚が!
ぐううう……!?
おおおっっ!!
モルドレッド:
己の限界を越えた、禁呪法を駆使してきたツケが回ってきたんだ!
ゾルゾリド:はあはあはあはあ……
はあ、はあ……
次の一撃で、お前を殺してやる……!
やれええパズズ――!!!
モルドレッド:来たな、風の魔王パズズ――!
飛翔せよ、ロンギヌスの槍――!
(光の十字架となったロンギヌスを、渾身の力で投擲するモルドレッド)
ラーライラ:この風の唸り……
風の魔王パズズの断末魔……!
ゾルゾリド:俺の、最強の禁呪精霊が……!?
うおおおっっ!?
モルドレッド:地上に落ちた!
往くぞ――!!
ゾルゾリド:ぐ、うう……
モルドレッド:俺の勝ちだ、ダークエルフ――!
ラーライラ:モルドレッド、足下――!
モルドレッド:――!?
ズァクゥの首:ガアアアアアアアア――!!!
モルドレッド:土の巨龍――!?
うああああああっっ――!?
カテリーナ:土の龍がモルドレッド様を丸呑みに……!
ゾルゾリド:ククク……
接近さえすれば、何とかなるってかぁ?
甘え、甘え、甘えんだよ……!!
のこのこやってきた馬鹿を喰い殺す……
俺の切り札……母なる邪龍ティアマトー!!
土中に潜むもう一つの禁呪精霊――!!
パーシヴァル:土の龍の腹部……
泥の躯が、激しく渦巻いている……
モルは、土石流の中で掻き回されてるような状態だよ……!
カテリーナ:あんな激しい土石流に巻き込まれたら……
脳震盪、全身打撲、複雑骨折……
パーシヴァル:そもそも真っ先に窒息死してるよ――!
モル……!
ゾルゾリド:クーックックック……!
対集団戦用のパズズと、対個人戦用のティアマトー……
風と土の精霊を総べる俺は、当代最強の
ぐああっ――!?
痛えっ、痛えっ、痛えええっ!!
ラーライラ:ゾルゾリドの皮膚に、赤黒い痣が広がっていく……!
パーシヴァル:敵から受けた外傷を、相手にもそっくりそのまま移し返す……
神聖魔法、
ゾルゾリド:ティアマトー……!
奴を吐き出せえっ……!
モルドレッド:――っぁっ!
パーシヴァル:モル、大丈夫かい?
モルドレッド:ああ……
ゾルゾリド:い、いつの間に俺に魔法を……!
モルドレッド:パズズを貫いた時だ。
精霊とシャーマンは、
その経路を辿ったんだ。
精霊魔法の操作性の高さが、
パーシヴァル:パラディンとシャーマン……
元々体力ではモルが勝り、さらにロンギヌスの回復魔法まである。
ゾルゾリドは、攻撃すればするだけ、一方的にダメージが蓄積していく。
モルドレッド:お前の負けだ、ゾルゾリド――!
ゾルゾリド:っぅぁあ……!
俺は、負けねえ……!
ズァクゥの首:アアアアァァァ……!!!
ゾルゾリド:聖痕の呪いが返ってくる前に、一撃で仕留めればいいんだろう……!
モルドレッド:……来い、ティアマトー!!
ゾルゾリド:この一撃、この一撃で仕留めれば――!
モルドレッド:この一撃、この一撃を耐えきれば――!
モルドレッド&ゾルゾリド:俺の勝ちだああああ――――!!!
□7/戦闘後、密林の広場
モルドレッド:はあ、はあ……
パーシヴァル:やったね、モル――!
カテリーナ:胸が熱くなる激闘でしたわ!
ディラザウロ:パラディン、勝者はお前だ。
モルドレッド:ディラザウロ……
ディラザウロ:若き日を思い出した。
勝利の陶酔も、敗北の苦味も。
雌を巡る闘いの、何と熱きことよ。
ゾルゾリド:ううっ、ううう……
(自ら作った血溜まりの中で目を覚まし、呻くゾルゾリド)
ゾルゾリド:また俺は、這いつくばって、泥を舐めている……
負け犬は……永久に負け犬だっていうのか……
ちくしょう……! ちくしょう……!!
ラーライラ:ゾルゾリド……
ゾルゾリド:――……!?
なんだ、この雫は……
痛みが、引いていく……
ラーライラ:世界樹の雫。
あなたに私の命の雫を分け与える。
ゾルゾリド:俺を哀れむな……!
てめえに助けてもらうぐらいなら、死んだほうがマシだっ……!
ラーライラ:あなたはもう一人の私……
産まれる部族が違ったら、私が歩んだかもしれない、もう一つの人生……
私はあなたの存在を知りながら、深く知ろうと思わなかった。
今は違う。
私はあなたを知っている。だから出来る限りの助けは差し伸べる。
ゾルゾリド:そうやって俺に施しをして、勝ったつもりか……!
ねじ曲がっていない綺麗な心……
俺は、お前のそいつをぶち壊して汚してやりたかったんだ……!
ラーライラ:私は私のもの。
あなたが強引に奪おうとすれば、私は闘う。
私自身を、守るために。
ゾルゾリド:くそっ……!
(ゾルゾリドに背を向けて離れるラーライラ)
モルドレッド:ラーライラ……
ラーライラ:モルドレッド……
ごめんなさい。ありがとう。
私のために、戦ってくれて。
モルドレッド:その……本当に無事なのか?
ラーライラ:うん。私は誰のものにもなっていない。
モルドレッド:本当に、本当なんだな?
ラーライラ:う、うん。ディラザウロもそう言ったでしょう。
モルドレッド:いや、何せ種族が違うからな。
無事の意味が通じているのかどうかわからん。
……確かめたいんだが。
ラーライラ:ディ、ディラザウロ!
ディラザウロ:忘れた。
ラーライラ:嘘っ! あなたが助けてくれたんじゃない!
ディラザウロ:余は雄だ。種族は違えど、パラディンも雄だ。
ラーライラ:どうして男同士って、こういう時すぐ結託するの……!?
モルドレッド:……ということだ、ラーライラ。
ラーライラ:……嫌。
モルドレッド:な、何故だ!?
ラーライラ:あなたの顔……鏡で見せてあげたい。
そうすれば、わかると思う。
モルドレッド:……カテリーナ。
カテリーナ:あら、モルドレッド様。
わたくしの
モルドレッド:聞いてないぞ……!
カテリーナ:先にラーライラを選んだのだから当然ですわ!
淑女は、自分を安売りしないものです。
モルドレッド:俺は……一体何のために戦ったんだ!?
パーシヴァル:まあまあ、元気出しなってモル。
おいらが
ラーライラ:モルドレッド。
エルフは一夫多妻制じゃないから。人間よりも厳格な一夫一妻制。
覚えておいて。
カテリーナ:あちこちの女性にコナかけておくなんて、許しませんことよ。
片想いでも浮気は浮気ですわ。浮気はボコボコです。
両想いでの浮気なら、ギッタンギッタンですわ!
モルドレッド:これが女同士の同調行動……!
パーシヴァル:一斉値上げしてこれだもんね。えげつないよね。まるでカルテルだ。
ディラザウロ:雌とはそういうものだ。余もハレムの維持には難儀した。
パーシヴァル:それでもさ。いいよなあ、ハーレム。
モルドレッド:ああ、男のロマンだ……
ディラザウロ:ならば闘争せよ。ハレムの構築を阻む一切合切を打ち倒すのだ。
モルドレッド:戦うか、パーシヴァル? 現代社会と。
パーシヴァル:オーケー。モルとならやれそうだよ。
ラーライラ:男って……バカね。
カテリーナ:負けていられませんわ、ラーライラ!
わたくしたちも、逆ハーレムを作りますわよ!
ラーライラ:カテリーナも!?
私、ロマンがないの……?
ゾルゾリド:咆哮せよ風の元素……
モルドレッド:――!?
まだ戦うつもりか、ゾルゾリド!
ゾルゾリド:へっ……当たり前だ……!
俺がいつ負けを認めた……!
これから使う禁呪法は、半端じゃなくヤベエからな……
下手すりゃ、俺の命まで無に還る……
ギリギリまで使いたくなったが、負け犬だけは死んでもご免だ……!!
がああああああ……!!!
はああああああ……!!!
ラーライラ:血が、全身から血が噴き出している……!
パーシヴァル:
ゾルゾリド:はあ、はあ、はあ……
ディラザウロ:ダークエルフ、お前は負けた。
これ以上の悪あがきは、目に余る。
降伏しろ。
さもなくば余がお前を倒す。
ゾルゾリド:ちょうどいい……
まずはてめえにさっきの礼をしてやるぜ、化け物……!
来い……
パズズ! ティアマトー!
モルドレッド:パズズとティアマトー……!
二体の禁呪精霊が、互いを喰らい合っている……!
ディラザウロ:身の程を知れ、
余の火口に煮え滾るマグマは、お前の
カテリーナ:燃える火山弾――っ!?
三人はこんな炎の雨の中を、勝ち残ったのですわね……!
ゾルゾリド:効かねえ効かねえ効かねえ……!!
この禁呪法は、てめえのちんけな石ころとは、次元が違うんだよ……!!
発動前の余波だけで、触れたものを消し飛ばす、無敵の結界となる――!!!
ディラザウロ:
あのちっぽけな体に、あれほどの魔力は何処から……
パーシヴァル:風と土……
古代魔法王国の
ゾルゾリド:てめえも
パーシヴァル:正気かよ……!
古代魔法王国にだって、アンチマターを使いこなせる魔導師は数えるほどしか居なかった。
しかもその全員が、魔法の制御に失敗して自滅している……!
ラーライラ:あなたは馬鹿よ、ゾルゾリド――!
そんな全身血塗れで……発動もやっとなのに……間違いなく死ぬ――!
ゾルゾリド:俺はハーフエルフだ……
父親は復讐代わりにダークエルフの女を犯した、どこの誰ともわからねえ人間……
母親は部族から孤立し、産まれた赤ん坊を憎み続け、最後はその赤ん坊に殺された、馬鹿な女……
出自からしてくだらねえ、俺は、生まれついての負け犬だ……!
だが、負け犬だって勝ちてえんだよ……!
ヘラヘラ
俺は、奪い、虐げ、支配する
ディラザウロ:これが哺乳類の、霊長類を名乗る猿どもの熱……!
マグマの体熱を誇る、この恐竜王にも無い、感情の生み出す熱……!
ダークエルフ……!
猿族の
どちらの熱が勝るか、勝負せよ!!!
ゾルゾリド:ハーフエルフの俺が勝つには……
負け犬が勝つには……
命削って、命張るしかねえだろうが――……!!!
モルドレッド:超禁呪法が発動した――!?
ディラザウロ:GAAAAAA!!!
ラーライラ:ディラザウロの火砕流も――!
トゥルードの森を焼き払った、炎の悪夢……!
カテリーナ:物凄い勢いの熱雲ですわ……!
さっきは、かなり手加減してましたのね……!
ラーライラ:でも……
ディラザウロ:GA、HAAAA……!
パーシヴァル:ディラザウロでも、押さえ込めない……
あれ以上の魔法は、おいらたちの誰も使えないよ……
一巻の、終わりだ……
ラーライラ:……モルドレッド。
アンドレアルゲートを護った、封印の儀式魔法。
封印の門を代替する、デュミナス・アーク。
モルドレッド:そうか……!
時空ごと遮断するデュミナス・アークなら、アンチマターを押さえ込めるかもしれない!
パーシヴァル、ラーライラ、カテリーナ!
力を貸してくれ!
一人では足りなくても、四人の魔力を合わせればアンチマターを押さえ込める――!
パーシヴァル:よーし、死なばもろともだ!
分割した詠唱の整合は、おいらに任せてくれ!
いくぞ――!
おぞましき冥府の
カテリーナ:光射す世界に忍び寄る、悪魔の魔の手に
わたくし、とっても冒険してますわ!
変わり者と言われても、これがわたくしの生きる道なのですわ!
ディラザウロ:余が、押し負ける……!?
火砕流が吹き散らされていく……
WOOOOO……!!
ゾルゾリド:火山は死んだ……!!
俺を押さえ込むものは何もねえ……!!
皆殺しだぁぁ……!
行くぜえええ……!!
吹き荒れろ、破壊の
超禁呪法……
死ねええっ! ラーライラあああっ――!!
ラーライラ:全ての災いを封じるパンドラの箱の封印を
モルドレッド――!!
モルドレッド:ゾルゾリド、お前はもう一人の俺なんだ……!
忌まわしき子の原罪を背負って産まれてきた……
栄光と力だけを追い求める……隣り合わせにあった俺の人生……!
だが、俺には仲間が出来た!
俺は、お前と違う道を往く!
開かれよ伝説の
デュミナス・アーク――!!
□8/聖櫃の封印が解けて露わになる破壊魔法の跡地
パーシヴァル:はあ〜……
どうにか封じ込めたみたいだね……!
ラーライラ:地面がすり鉢状にえぐれて消し飛んでいる……
モルドレッド:凄まじい破壊の跡だな……
カテリーナ:……っ!
何ですの、この酷い悪臭は……
吐き気を催すような、湿った風と腐った土の臭い……
ディラザウロ:GUUU……
瘴気の風と、不浄の土だ。
禁呪精霊が消滅し、汚染元素が一帯にばら撒かれた。
モルドレッド:無事だったか、ディラザウロ。
ラーライラ:ゾルゾリドは……?
パーシヴァル:跡形もないよ……
アンチマターの中心にいたわけだからね……
ディラザウロ:見よ。爆心地の中央。
モルドレッド:地面が
土の龍……ティアマトー……!
(ティアマトーの土の腹部から、満身創痍のゾルゾリドが吐き出される)
ゾルゾリド:うう……
ティアマトー……
俺はしくじったのか……
ママ……
パーシヴァル:やっぱり失敗してたんだ……
禁呪精霊が残ってるってことは、元素の衝突が不完全だった証。
だから、おいらたちは生き残れたんだろうけど……
ラーライラ:ゾルゾリド――!
ゾルゾリド:来るんじゃねえ――!
ここには……不浄地帯には……高濃度の汚染元素が渦巻いている……
うかつに足を踏み入れりゃ……全身が腐り落ちるぜ……
俺みたいな……ククク……
ラーライラ:ゾルゾリド……
ゾルゾリド:同情なんざいらねえよ……
どの道、俺は五年前……
同じようなザマで、スラムに転がって死を待つだけだった……
オブシディアン族の里を追い出され、家も戸籍も無い俺が行き着く先は、スラムしかなかった……
ラーライラ:ねえ、モルドレッド……!
モルドレッド:ここから視認出来るだけでも、皮膚全面が壊死……
内臓や骨までも、汚染元素に冒されているはずだ。
ああなってしまえば、いかなる治癒魔法も受け付けない。
奴はもう手遅れだ……
ゾルゾリド:ジュダ様に拾われ、『ハ・デスの生き霊』に入って五年間……
まるで夢のような早さだった……
そう、こいつは夢……
ゴミ溜め場で野垂れ死ぬ
いい夢だった……
最高にいい夢だったぜ……
ズァクゥの首:アアア、アアアア……
(ティアマトーの額に埋まっていた干し首が崩れ、同時に土の龍の体も瓦解していく)
パーシヴァル:ティアマトーが……崩れていく……
カテリーナ:まるで彼を埋葬しているようですわ……
ゾルゾリド:ママ……
やっぱり、俺のママは……
ママ一人だ……
おやすみ……ママ……
ディラザウロ:知恵と感情。
我らが軽んじ、捨て置いた特性に、王冠の輝きは宿った。
恐竜族は、滅ぶべくして滅んだのかもしれん。
余の明け暮れた闘争の果てには、敗北と滅亡しか待っていなかったのだ。
賢く、
哀しいことだ。とても哀しいことだ。
こう使えばいいのか、エルフのラーライラ。
ラーライラ:ディラザウロ……
ディラザウロ:パラディン。
お前は、人間の皇子であり、オルドネア聖教の聖騎士。
余は『ハ・デスの生き霊』の幹部にして、滅び去りし恐竜族の王。
闘わぬわけにはゆくまい。
モルドレッド:ディラザウロ……
何故お前は、竜人の姿を取っている?
ずっと疑問に思っていた……だがさっきの火砕流で確信した。
今戦えば、お前は負ける……
パーシヴァル:ええっ、何でそんなこと!?
モルドレッド:パーシヴァル、お前は直接見ていないからわからないだろうが、
トゥルードの森で目撃した火砕流の威力は、あんなものではなかった。
そうだろう、ラーライラ?
ラーライラ:ディラザウロ……
あなたは恐竜の姿に戻れないのね……
ディラザウロ:そうだ。
この体は、余の
ネクロマンサーが、竜人の骸に、余の魔晶核を移植したもの。
お前たちとの闘いは、熾烈を極めた。
ネクロマンサーに与えられた魔心臓は、生前の姿を
モルドレッド:そうか……
魔法の威力が弱いのも、お前が竜人の姿を取っていたのも、そのためだったのか。
ディラザウロ:さあ、お前たち猿どもの武器、心に激情を燃やせ!
余は爬虫類の頂点、恐竜族の誇る闘志を燃やす!
いざ、闘争の第二幕を開けん!!
ラーライラ:何故戦うの!?
負けるとわかっているのに……!
ディラザウロ:エルフよ、雌のお前にはわかるまい。
闘争を
勝利か死。
それ以外を考えたことはない。
余は、敗北せん。
死ぬだけだ。
ラーライラ:ディラザウロ……
あなたも馬鹿よ。ゾルゾリドと同じ。
あなたとは心が通じたと思ったのに……!
モルドレッド:…………
パーシヴァル:モル、これはディラザウロを倒す絶好のチャンスだぞ……!
おいらが援護する。モルは『断罪の十字架』を早く――!
モルドレッド:ディラザウロは、俺に男としての義を尽くしてくれた……
そんな相手の弱味につけ込んで倒すことが、正義に適うのか……!?
パーシヴァル:気持ちはわかるけどさ……!
ディラザウロは『ハ・デスの生き霊』の幹部だよ。
モルが戦わなくても、帝国の誰かが戦わないといけない。
あの火山の噴火に立ち向かうには、旅団や師団クラスの軍が投入される。
何百ではすまない、多くの兵が死ぬだろう。
軍の兵隊にだって、家族はいるんだ。
戦死者の家族は、モルに怒りの矛先を向けるぞ。
モルドレッド:戦いなら、何をしてもいいのか――!?
最低の戦争にも、法と規律はある。
そうしなければ、無限に続く報復の連鎖を止められない――!
パーシヴァル:モルがやろうとしてることは、帝国への反逆だよ!
正義に縛られて、反逆者の汚名を被ることになるぞ!
ディラザウロを倒せば英雄になれるんだ!
災いの十三皇子から、英雄に――!
モルドレッド:…………!!
ディラザウロ:パラディン、闘え。
勝利の栄光は、此処にある。
恐れるな。
勝利の裏側に潜む、死を乗り越えてやってこい!!
モルドレッド:……ディラザウロ、行ってくれ。
パーシヴァル:モル――!
モルドレッド:英雄とは……
本来の力が出せない相手に、嬉々として槍を向けるものなのか。
そんな逆境でも堂々と迫る相手に、何の引け目も感じないのか。
大事な友を助けてくれた相手に、敬意すら払わないのか。
そんなものが、英雄と呼べるのか……!
ディラザウロ:……パラディン。
お前には二度負けた。
だが此度の敗北は、借りとしたい。
お前が窮地に陥った時、余はお前の命を助ける。
必ずだ。
モルドレッド:ディラザウロ……
ディラザウロ:また会おう。
誇り高き人間の勇者、モルドレッド=ブラックモアよ!
□9/汚染元素の漂う不浄地帯、一人立つラーライラ
ラーライラ:…………
カテリーナ:モルドレッド様もパーシヴァル様も先に行ってしまわれましたわ。
ラーライラ:うん……
カテリーナ:彼、ラーライラのことが好きだったんですわ。
ラーライラ:私を? そんなはずない。
ゾルゾリドは私を憎んでいた。
カテリーナ:好きの反対は、嫌いじゃなくて無関心ですわ。
苦汁の日々の中で、彼は何度もあなたのことを思い返していた。
それはきっと、恋に近いものになっていた。
馬鹿にしながらモルドレッド様との決闘に応じたのは、あなたに見せたかったからですわ。
憎み続けていたあなたに、強くなった自分の勇姿を。
ラーライラ:憎しみも、恋心も……
私、そんな激しい感情を向けられたことがなかったから……
どうしていいか、わからないの。
カテリーナ:こっぴどく振っても、気遣いを忘れないのが淑女ですわ。
あなたに出来ることを、考えたらいかがかしら?
ラーライラ:…………
胞子に眠る、漂いし命。
地を這い、石に
カテリーナ:胞子……
不浄地帯におびただしい数の胞子が漂っていく……
ラーライラ:あらゆる生き物が死に絶える、不毛の地。
藻やコケ、シダ……
原始の植物なら、その生命力で、緑を芽吹かせることが出来るかもしれない。
カテリーナ:彼へのはなむけ、ということですわね。
モルドレッド:ラーライラ! まだここにいたのか!
パーシヴァル:あんまり遅いから戻ってきちゃったよ。
汚染元素に当てられて、二人とも倒れてるんじゃないかって心配になってさ。
モルドレッド:早くしろ。置いていくぞ。
パーシヴァル:あ、不機嫌だね。ちょっと妬いてるだろモル。
モルドレッド:な……そんなわけないだろう!
カテリーナ:行きましょう、ラーライラ。
ラーライラ:うん。
ゾルゾリド。
刹那の夢に生きたあなたに……
私が贈る、緑の夢……
さようなら、もう一人の私……
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