The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第22話 騎士姫の初陣

★配役:♂1♀1両1=計3人

▼登場人物

ガウェイン=ブリタンゲイン♂
三十七歳の機操騎士。『大英帝国の要塞』の異称を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン陸軍元帥。
自身も優れた搭乗型魔導具『魔導装機』の乗り手であり、数多くの武勇伝を打ち立てている。

第一皇子であり、皇位継承権第一位。
しかし寵姫ラグネルの子であるため、側室の子であることを問題とする勢力もある。

搭乗する魔導装機は、専用重量型〈グレートブリテン〉。
全身を重火器で武装し、斥力障壁も備えた、移動要塞とも呼べる帝国最強の魔導装機である。

アムルディア=ブリタンゲイン♀
十六歳の機操騎士。第一皇子ガウェインの長女。
ブリタンゲイン五十四世には、孫に当たる。
ブリタンゲイン陸軍第八師団『魔導装機隊』の隊長を務める。

ハーフドワーフ。
母親であるアンナは、洞窟人ドワーフの王族である。
ドワーフの血筋ゆえに身長は低めであり、その反対に胸は大きい。
またドワーフらしく、古今東西の武具を好み、機械弄りが趣味。

魔導具:【-聖銀の伯叔(カリバーン)-】
魔導装機:専用軽量型〈アルトリオン〉

蠱蟲(こちゅう)(さなぎ)レ・デュウヌ両
『ハ・デスの生き霊』の幹部、逆十字(リバースクロス)の一人。
蟲を使役する蟲虫使い(ネルビアン)
千年前の魔法王国時代に滅亡した、古代人の生き残り。

身体のあちこちに昆虫の部位を持った美少年。
感情豊かでよく笑うが、虫が人に擬態しているような不自然さを匂わせる。

古代人は完全な魔因子を持っていたとされる。
〈魔晶核〉も〈魔心臓〉も共に正常に形成され、優れた魔法を行使した。
長い時間が流れるあいだに、魔因子は毀損してしまい、
〈魔晶核〉か〈魔心臓〉の片方しか形成されない準魔因子となって残るのみとなった。

魔導具:???
魔導系統:【-蟲虫使役法(アヌバ・セクト)-】


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。

□1/騎士叙勲式、式典会場


アムルディア:永世(えいせい)に渡り輝く、祖国ブリタンゲインの光輝(ひかり)を、我が(つるぎ)に宿し。
        騎士見習い、アムルディア=ブリタンゲイン。       
        『白き竜』の御旗に、終生(しゅうせい)の忠義を誓います。

        全世界に、帝国の新秩序を――!


□2/騎士叙勲式会場、右側通路


アムルディア:父上ーっ!

ガウェイン:無事に騎士叙勲を済ませたようだな。

アムルディア:はい! 父上と同じ機操騎士(きそうきし)です。
        魔導装機アルトリオンを駆り、民のため祖国のために、身を捧げる所存です。

ガウェイン:俺はお前を『魔導装機団』に入れるつもりはない。
       騎士勲章だけで満足しておけ。

アムルディア:何故です!
        騎士団に入らなければ、勲章などただの飾りではありませんか!

ガウェイン:お前には、飾りで十分だと言っている。
       戦場は、女子供の出る場所ではない。
       お前は女であり子供だ、アムルディア。

アムルディア:私は、剣の腕前では、他の騎士見習いたちに引けを取りません!
        魔導装機の試合だって、幾度も優勝を果たしてきました!

ガウェイン:ただの練習試合と戦場は、全く違う。
       戦場にルールやモラルなどない。
       闘争の熱狂と恐怖が渦巻く、人間の本性を剥き出しにした、修羅の世界だ。

       剣の腕が、強い弱いの話ではない。
       女は戦場に向かん。それだけだ。

アムルディア:父上……

        父上は、本当は男の子が欲しかったのでしょう……!
        でも私は娘で、母上は子供を産めない体になってしまった。

ガウェイン:アム。
       俺は、娘に息子の代わりを求めた覚えはないぞ。
       お前は女らしくなって、立派な男を婿に取れ。
       それが俺の息子だ。

アムルディア:私は……!
        父上の期待を裏切らぬよう……男に負けぬよう……
        今日まで剣に身を捧げてきました……!

        なのに何故、何故私の騎士叙勲を喜んでくれないのです――!?

ガウェイン:…………

       一週間後に、討伐作戦がある。
       アルトリオンの整備をしておけ。

アムルディア:は――、はい!

        父上、ありがとうございます!
        必ず武勲を立てて見せます!

ガウェイン:…………


□3/一ヶ月前――帝国東部、ザモア平原


(若草のそよぐ平原に、一人の青年が立っている)

レ・デュウヌ:ブリタンゲイン帝国東部、ザモア平原。
        バルドメロイゲートは、ここにあったはず。

レ・デュウヌ:あれ? おっかしいなあ。
        確かに、ここだったと思ったんだけど。
        最近、記憶が曖昧になってきて困るな。

(下草を踏む駆動輪の音を響かせ、魔導装機の一団が青年を取り囲む)

ガウェイン:『ハ・デスの生き霊』の者だな。

レ・デュウヌ:なんだい、君ら。
        魔導装機なんかに乗って。
        ひょっとして、僕はハメらたわけ?

ガウェイン:私の名はガウェイン=ブリタンゲイン。
       ブリタンゲイン帝国の第一皇子であり、陸軍元帥である。

       お前の探すバルドメロイゲートは、此処にはない。
       二百年前の洪水で、封印の霊碑(れいひ)は移管されたのだ。

レ・デュウヌ:ああそうだ、そうだ。
        バルドメロイゲートは、シモーネゲートと同じように、移せる性質のものだった。
        すっかり忘れてたよ。

ガウェイン:バルドメロイゲートの再封印の儀式。
       その直前の、最も封印の力が弱くなる瞬間を狙ったのだろうが――
       全て虚構だ。

       二百年も前から、この地には何もなかったのだ。

レ・デュウヌ:ははははははは――!
        見事に騙されちゃったよ。
        むっかつくなぁぁぁ〜。

ガウェイン:『ハ・デスの生き霊』の者よ。
       お前が古代の魔導師であっても、我らは魔導装機大隊。
       抵抗は無駄だ。大人しく同行してもらおう。

レ・デュウヌ:ははははははは――

        死んでくれる?
        死ねよ。

(草原に隊列を組んで並ぶ魔導装機の大隊。その足下が沈み、機体が傾いでいく)

アムルディア:父上、足場がすり鉢状に――!
        蟻地獄……デザートヘルです――!

ガウェイン:何故砂漠の蟻地獄≠ェ、草原に……!
       全飛空機体、フロートドライブ稼働――!

アムルディア:後列のメメントが、蟻地獄の餌食に……!

ガウェイン:魔導装機は、人工筋肉の上に、鋼鉄の皮膚をまとった鉄の巨人だ。
       蟲の牙ごときでは、そう易々(やすやす)と噛み砕かれん。

       『ハ・デスの生き霊』を倒すぞ。今はそれが先決だ――!

レ・デュウヌ:出ておいで、僕の分身たち。
        空飛ぶ鉄の塊を、地べたに引きずり下ろすんだ。

(レ・デュウヌの服の隙間からこぼれ落ちるように、大量の小蜘蛛が這い出してくる)
(見る間に巨大化した蜘蛛の蟲は、粘つく糸塊を噴き出して浮遊する魔導装機隊を狙う)

レ・デュウヌ:墓蜘蛛(クリプトスパイダー)
        珍しいでしょう。
        古代遺跡の奥深くに潜らないと見られない蟲だよ。

アムルディア:大蜘蛛の群れが、糸を吐き出してきました――!
        我々を地上に引きずり下ろすつもりのようです――!

ガウェイン:全隊、神経ケーブルの情報伝達速度を上げろ。

       高機動機体は回避。
       鋭敏になった知覚なら、十分に見定められる。

       重武装機体は、斥力(せきりょく)フィールドを展開。
       糸が止んだ合間を縫って、魔導砲を叩き込め――!

レ・デュウヌ:十匹撃破、二十匹撃破、おおぅ三十匹目!

        でも遅いなぁ。
        全然追いついてないよ。

        ほぉら、百匹目のクリプトスパイダーの誕生だ――!

アムルディア:父上!
        大蜘蛛の繁殖に、撃滅が追いついていません!
        地上は……大蜘蛛で溢れ返っていきます――!

ガウェイン:ぬうう――……!

       全機体に告ぐ! その場で滞空待機!
       動くなよ――巻き添えにしてしまうのでな。

       全砲門、開放。照準三六〇度。
       魔力増幅水晶フルチャージ。

       グレートブリテン、全方位拡散魔導砲……
       てっ――――――――!!!

(空に浮かぶ巨大魔導装機が、全砲門から拡散魔導砲を全方位発射)
(百匹以上を数える大蜘蛛を照準した魔導砲は、狙いを過たず、一匹残らず各個撃破を果たす)

レ・デュウヌ:わぁお――!
        百匹以上いたクリプトスパイダーが一瞬で全滅しちゃった。

アムルディア:今だ――!
        アルトリオン、フロートドライブ全開っ――!

ガウェイン:待て、アム――!
       迂闊に近づくな――!

アムルディア:この戦いで、武勲を立てる――!

        『ハ・デスの生き霊』確保――!

レ・デュウヌ:はは、捕まっちゃった。

        そっと持ってくれない?
        乱暴に扱うと、蟲は簡単に手足がもげちゃうんだよ。

アムルディア:蠱蟲の蛹レ・デュウヌ。
        大人しく我らに従ってもらう。
        抵抗すれば、この魔導装機アルトリオンで貴方を握り潰す。 

レ・デュウヌ:へえ、僕の名前を知ってるんだ。
        そこまでわかってるならさぁ、簡単に近づいちゃ駄目だよ。

アムルディア:レ・デュウヌの体が……
        (おびただ)しい数の蟲に――!?

        アルトリオンの隙間から内部に侵入……
        ち、父上――!!!

ガウェイン:アム――――!!!


□4/魔導装機アルトリオン、操縦槽内


(神経ケーブルが切断され、視界が外部から操縦槽内に戻るアムルディア)

アムルディア:神経ケーブル、全切断……
        アルトリオンとの精神連結、解除……

アムルディア:ここは……アルトリオンの操縦槽(そうじゅうそう)内……
        ひっ――!?

        む、蟲……!
        操縦槽内を一面ビッシリ……
        イナゴが覆い尽くしている――っ!

レ・デュウヌの声:や、あ――……

アムルディア:む、蟲が人の顔に……!

レ・デュウヌ:夜這いにきたよ、騎士姫様。
        密室に二人っきりだねぇ。
        ひひひっ。

アムルディア:生身の人間でありながら……
        魔導装機を相手に戦うなんて……!

レ・デュウヌ:魔導装機なんて、古代魔法王国の一時期に流行った、ただの玩具だよ。
        魔導装機と精神連結してる間は、自分の魔法を使えない。
        僕はすぐ飽きちゃった。

        ま、魔心臓しか持たない君たちには、画期的な兵器かもね。

アムルディア:お前は……やはり古代魔法王国の人間なのか……!?

レ・デュウヌ:そんなことよりさ、僕と楽しい遊びをしようよ。

        君の肌を這い回るイナゴの群れ。
        体中の穴という穴に潜り込まれるのと、少しずつ全身を(かじ)り取られていくの。
        ねえ、君ならどっちが恐い?

アムルディア:生きて(はずかし)めを受けるぐらいならば、この身など――!
        カリバーン――!

レ・デュウヌ:おっと、自殺なんていけないなぁ。
        命を粗末にしたら、君のパパが悲しむよ?

アムルディア:く、蜘蛛の糸……!

        わ、私には自刃(じじん)すら許されぬと……!

レ・デュウヌ:ははははは。いい顔だねぇ。

        恐怖、絶望、嘆き。
        僕は全部忘れてしまった。

        感情が、記憶が、僕自身でもわからない色々なものが、抜け落ちていく。
        こうやってたまには思い出さないと、感情が何なのかを忘れてしまいそうになるんだ。

アムルディア:ば、化け物……!
        お前は、人間ではない……!

        精神の、怪物……!

レ・デュウヌ:そうさ。
        だから、見せておくれ。
        恐怖、絶望、嘆き……爆発した感情の発露を――!

アムルディア:いや……助けてパパ……!

        パパ、パパぁぁぁ――っっ!!!

(アムルディアが絶叫した直後、操縦槽内に猛烈な熱気と炎が吹き込んでくる)

レ・デュウヌ:炎……!

        悪い虫は、娘ごと焼き殺すって……
        恐いお父さん、だねえ……

        はは、ははは……


□5/ザモア平原、アルトリオンに火炎放射を放つグレートブリテン


ガウェイン:元素魔晶核、発動停止。
       燃料バーナー、ジェット噴霧停止。

       火炎放射、止め――

       アム――――っっ!!!

(グレートブリテンが接近し、トラペゾロン合金のブレードで、黒煙を噴き上げるアルトリオンのハッチを叩き割る)

アムルディア:う、うう……

ガウェイン:すまん、アムルディア……
       蟲を引き離すには、お前ごと焼き払うしかなかった。

       テンペラー! 大破したアルトリオンを後方へ移送しろ――!

(魔導装機テンペラー二機が、左右からアルトリオンを抱えて前線を離脱していく)
(大蜘蛛の一匹の背中を突き破り、蟲の体液に塗れた青年が姿を現す)

レ・デュウヌ:く、くく……

        あーあ、いいところだったのに。
        人の恋路を邪魔する奴は、虫に食われて死んじまえだよ?

ガウェイン:ぬうう……奴は不死身なのか。
       あれほど倒した大蜘蛛も、いつの間にか勢力を取り戻している……

       否……
       神ならぬ身では、必ず限界がある。
      
       テンペラー隊――!
       ニコルは二番大蜘蛛に、トラペゾロン合金ブレード!
       ジョーは四番大蜘蛛に、魔導ライフル!
       リックは七番大蜘蛛に、火炎放射を浴びせろ!

       戦闘行動開始(コンバットオープン)――!

(草原上空に待機する魔導装機テンペラー隊が、ガウェインの作戦指示に従い、地上の大蜘蛛に急降下攻撃していく)

ガウェイン:イナゴの発生までの時間……
       二番は五秒、四番は二十秒、七番は一分超過……

       やはり肉体の損壊度が激しいほど、蟲の再発生に時間を要している。

       全機――!
       近接武器の使用を止め、重火器に切り替えよ!
       蟲どもを、可能な限り消耗させるのだ――!

(魔導装機隊の猛攻が始まり、蟲の群れの増殖速度が徐々に緩やかになり始める)

レ・デュウヌ:……ちぇっ。

        何だかもう、疲れちゃったよ。
        今日のところは、痛み分けってことで、帰るとしよう。

        じゃあね、子持ちの皇子様。


□6/地方都市カッスルクーム、治療院の集中治療室


アムルディア:う、うう……

        ここは……

ガウェイン:カッスルクーム治療院の、集中治療室だ。
       命に別状はない。

       俺は公務で帝都に戻らねばならんが、治療師には伝えてある。
       ゆっくり静養していけ。

アムルディア:申し訳……ありません……
        功を焦る余り……醜態を晒してしまいました……

ガウェイン:…………
       お前には初陣だったな。

アムルディア:……はい。

ガウェイン:戦場は恐いか。

アムルディア:……はい。

ガウェイン:別の道を探すか。

アムルディア:……いいえ。

ガウェイン:そうか。

(ガウェインはしばらく黙り込んで考えた後、重々しく口を開いた)

ガウェイン:アムルディア=ブリタンゲイン。
       貴公を、我が『魔導装機団』の騎士として迎え入れる。

       騎士団では、親子の関係は元より、女だからといって一切の甘えは認めん。
       貴公が『魔導装機団』に不適だと判断すれば、即刻除隊を命ずる。
       いいな――?

アムルディア:は、はい父上――!
        いえ、ガウェイン(きょう)――!

        このアムルディア=ブリタンゲイン!
        帝国最強の『魔導装機団』に恥じぬ、立派な騎士となって見せます!

ガウェイン:うむ。
       貴公の活躍を期待する。


□7/地方都市カッスルクーム、帝国軍事基地


(司令室の椅子に身を埋め、深く溜め息をつくガウェイン)

ガウェイン:兵役の義務を逃れて、ヘラヘラしている軟弱な若者たち。
       それを良しとする親たち。
       どちらも苦々しく思っていたが……
       自分の子が、まして娘が、戦場行きに志願するとなると、胸中は複雑だな。

(合い席していた士官もうなずき、ガウェインに煙草を勧める)

ガウェイン:うむ、一本もらおう。
       妻には、内密に頼むぞ。

       フゥ――……

       なあ大佐。

       平和な時代が……
       全ての騎士が、飾りで済む時代が訪れるとよいものだな。



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