The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第17話 封じられし姫

★配役:♂3♀2両1=計6人

▼登場人物

モルドレッド=ブラックモア♂:

十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。

魔導具:【-救世十字架(ロンギヌス)-】
魔導系統:【-神聖魔法(キリエ・レイソン)-】

パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。

魔導具:【-自在なる叡知(アヴァロン)-】
魔導系統:【-元素魔法(エレメンタル)-】

トリスタン=ルティエンス♂:
二十九歳の弓騎士。『黄昏の貴公子』の異名を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の四番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、『陸軍弓兵師団』の団長であると同時に、
『ハ・デスの生き霊』の幹部、逆十字(リバースクロス)の一人「クドラク」という裏の顔も併せ持つ。

吸血鬼(ヴァンパイア)。古代人の一派、夜魔一族の血を引いている。
完全な魔因子を持っており、魔導具無しでも魔法を使える。
額には魔晶核(ましょうかく)があるが、人前では目立つため、人間時には隠している。

血を吸った人間を、半吸血鬼(ダンピール)に変え、自身の下僕にする。
半吸血鬼(ダンピール)に変えられるのは、異性に限られ、同性にはただの吸血行為で終わる。

魔導具:なし
魔導系統:【-高貴なる夜(ローゼンブラッド)-】

イゾルデ=ルティエンス♀
十八歳。トリスタンの実の妹。
ブリタンゲイン五十四世の十番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、『帝国博物館』と『帝国美術館』の館長。
ただしほとんど名誉職で、実際の施設運営は館長代理に委ねられている。

ルティエンス家の遺伝病とも言われる、慢性壊血病を患っているが、
その原因は、高い魔力を産み出す代わりに赤血球を壊してしまう、吸血鬼特有の体質である。

真祖吸血鬼(ヴァンパイアロード)シモーネとの関わりが示唆されるが……?

クレハ=ナイトミスト♀
二十四歳の侍女。大英円卓(ザ・ラウンド)の事務官も勤める。
大英帝国の植民地である倭島国(わじまこく)出身。
身分は二等国民で、純血のブリタンゲイン人である一等国民より、法律上の権利に制限を設けられている。

クレハ=ナイトミストは、倭島国の名をブリタンゲイン風の名に改めたもの。
本名は夜霧紅葉(よぎりもみじ)という。

蠱蟲(こちゅう)(さなぎ)レ・デュウヌ両
『ハ・デスの生き霊』の幹部、逆十字(リバースクロス)の一人。
蟲を使役する蟲虫使い(ネルビアン)
千年前の魔法王国時代に滅亡した、古代人の生き残り。

身体のあちこちに昆虫の部位を持った美少年。
感情豊かでよく笑うが、虫が人に擬態しているような不自然さを匂わせる。

古代人は完全な魔因子を持っていたとされる。
〈魔晶核〉も〈魔心臓〉も共に正常に形成され、優れた魔法を行使した。
長い時間が流れるあいだに、魔因子は毀損してしまい、
〈魔晶核〉か〈魔心臓〉の片方しか形成されない準魔因子となって残るのみとなった。

魔導具:???
魔導系統:【-蟲虫使役法(アヌバ・セクト)-】

以下はセリフ数が少ないため、被り役推奨です。

ワラキア公♂
トリスタンとイゾルデの祖父。
8年前のワラキア公殺害事件で殺される。没年七五歳。

※□1のみの登場となります。トリスタンと会話あり。

邪教司祭両
ワラキア公国の首都ヴラドーを任されている『ハ・デスの生霊』の司祭。
バナト山の洞窟に、誘拐された娘たちを運ぶ任務を任されている(性別不問です)。

邪教徒/(むじな)
第五皇子ケイ配下の『情報戦略局・百鬼衆』の一員であり、倭島国の間諜『影渡り』。
中年〜初老の倭島人。邪教徒に変装して、『ハ・デスの生霊』を探っている。

娘/鬼女郎(おにじょろう)
第五皇子ケイ配下の『情報戦略局・百鬼衆』の一員であり、倭島国の間諜『影渡り』。
十代後半〜二十代前半の倭島人。狢と同じく『ハ・デスの生霊』を探っている。

※邪教司祭、狢、鬼女郎は、三人とも□7のシーンのみに登場します。
 その他のキャラクターとの絡みはありません。


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。

ひらひらのひらがなめがね
上記のサイトに、この台本のURLを入力すると、漢字に読みがなが振られます。
ただし、当て字でルビを振ってある漢字(例:救世十字架(ロンギヌス))にも、読みがなが振られてしまうので、カタカナで振られている文字を優先して読んでください。

□1/八年前、ワラキア公爵邸

トリスタン:皆、死んでいる……
      一体何があったのだ……!?

ワラキア公:ト、トリスタン……戻ったか……

トリスタン:お祖父様、この惨状は一体……!

ワラキア公:オリヴィアは……我が娘は悪魔を呼び覚ましてしまった……
      知っていながら目を瞑ってしまった……わしの甘さが招いたこと……

      トリスタン、あれを殺せ……
      あれはもはや人間ではない……
      あれは古の悪魔、忌まわしき大悪魔(ダイモーン)……
      完全に覚醒してしまえば、このブリタンゲインに大いなる災いを……

トリスタン:お祖父様、あれとは?

ワラキア公:この銀の短剣なら、あやつも……
      頼む、トリスタン……我が孫よ……

トリスタン:お祖父様、お祖父様――!!

イゾルデ:お兄、様っ……

トリスタン:イゾルデ――!
      無事だったのですね!

イゾルデ:近づかないでください!

     早く、逃げてください……
     私に構わないで……

トリスタン:何を言っているのです。
      外に出ましょう。話はその後に――

イゾルデ:ああ……どうしてきてしまったのです……
     近づかないでと言ったのに……

トリスタン:これは……血!?
      イゾルデ――?
      そんな、まさかお前が……!?

イゾルデ:ごめんなさいお兄様……
     ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……

トリスタン:ぐ、あああ――――!


□1a/帝城敷地内の外れ、幽閉塔の頂上


(頂上の独房で、覗き窓から半月を見上げているトリスタン)

トリスタン:…………

クレハ:第四殿下、お食事をお持ちいたしました。

トリスタン:ありがとうございます、ナイトミスト事務官。
      ところで、吸血鬼事件はどうなっていますか?

クレハ:失礼ながら、何も申し上げることは出来ません。
    ご寛恕(かんじょ)を。

トリスタン:そうですか。申し訳ないことをしました。

クレハ:第四殿下には、いくつかの嫌疑(けんぎ)が掛かっておられます。
    その中には殺人罪、国家反逆罪も含まれている。

トリスタン:私が吸血鬼クドラクであり、カルト教団『ハ・デスの生霊』に通じていると。

クレハ:…………

    無論、殿下を(おとしい)れる謀略(ぼうりゃく)である可能性も十分に考えられます。
    全ての疑いが晴れるまで、どうぞご忍耐を。

トリスタン:わかっています。
      この幽閉塔に入ったのは、ガウェイン兄さんから話を聞いて、私自ら決断したこと。

クレハ:第四殿下は、我々倭島人(わじまじん)……非ブリタンゲイン人の地位向上にご尽力いただきました。
    その殿下にこのような仕打ちをする没義道(もぎどう)、どうぞお許しくださいませ。

トリスタン:いえ……あれはただの罪滅ぼしに過ぎません。
      ブリタンゲイン帝国は、あなたたちの国を侵略し、植民地にした。
      文化保護も、現地人……倭島人による統治権の拡大も――あなたたちが本来持っていたものを返しただけなのですから。

クレハ:――――
    ご用命の際は何なりとお申し付けください。

    それでは失礼いたします。

トリスタン:……罪滅ぼし、か。
      一つの善行を積めば、一つの悪行(あくぎょう)は消えるのだろうか。

      月よ……お前はどう思う。
      呪われし夜の女王よ……



□2/ワラキア公国、バナト山の山路


モルドレッド:パーシヴァル、生きているか?

パーシヴァル:も、もう死にそうだよ〜……
       山道を馬車に揺られて一時間以上……
       拷問だよ。

モルドレッド:馬車に乗せて連れ回せば、秘密を吐くと。
       平和的な拷問になりそうだ。

パーシヴァル:秘密じゃなくて、普通に吐きそう。

モルドレッド:見えてきたぞ。もうじき山頂だ。

パーシヴァル:あの山のてっぺんに建つ屋敷が……

モルドレッド:ワラキア公国公爵邸(こうしゃくてい)
       俺たちの目的地だ。


□3/ワラキア公爵邸、エントランス


パーシヴァル:お邪魔しまーす……

モルドレッド:本当に誰もいないな。

パーシヴァル:ちょっと驚きだよね。
       出迎えてくれたお手伝いさんが一人だけってのは。

モルドレッド:財政の悪化で、使用人を減らす貴族が増えているとは聞くが……

イゾルデ:パーシヴァル、モルドレッド!

パーシヴァル:えっ――!?

       イゾルデ、だよね?

イゾルデ:そうよ。もう忘れてしまったのかしら?
     無理もないけれど。最後に会ったのが八年以上前だものね。

パーシヴァル:いや、そうじゃなくて……
       ねえ、モル?

モルドレッド:あ、ああ――

       確かに見違えるようだな。
       面影は残っているが……

パーシヴァル:(モル、すっごい美人だよ!)
       (おいら、柄にもなく緊張してきちゃったよ……)

モルドレッド:(俺も正直なところ驚いている)
       (だがしかし、相手は異母姉(きょうだい)だぞ)

パーシヴァル(おいら、禁断の愛に落ちてもいいかも――)

モルドレッド:(何を言ってるんだお前は……)

イゾルデ:パーシヴァルもモルドレッドも、随分変わったわ。
     あの頃はまだ、九歳と八歳だったものね。

     パーシヴァル? モルドレッド?
     どうしたの? 二人でひそひそ内緒話なんかして?

パーシヴァル:えっ、いやそのこれは……
       そうだ! モル、見惚れてる場合じゃないよ。

モルドレッド:見惚れていたのはお前だろう。
        俺が確かめる。
        パーシヴァル、魔法の援護の準備を頼む。

イゾルデ:今度はなに? 急に恐い顔になって……

モルドレッド:姉上、髪を掻き上げろ。
       首筋を見せてもらう。

イゾルデ:えっ?


□4/ワラキア公爵邸、大食堂


イゾルデ:そうだったの。
     帝都ではそんなことが……

モルドレッド:すまない。驚かせてしまった。

イゾルデ:大丈夫よ。二人が変な趣味に目覚めたのかと思ったけど。
     だからお兄様も、帝都のお仕事に出かけられたのかしら。

パーシヴァル:…………

       そういえばさ、『ハ・デスの生霊』って知ってる?

イゾルデ:『ハ・デスの生霊』?

モルドレッド:大悪魔(ダイモーン)ハ・デスを崇めるカルト教団だ。
       それらしい人物が、屋敷を訪ねてきたことはあるか?

イゾルデ:いいえ、まだ一度も……

モルドレッド:本当に知らないのか?

イゾルデ:ごめんなさい、世間のことに疎くて……

     そんな人たちが、あちこちで布教をしているのね。
     ジェーンさんにも、怪しい誘いに乗らないように伝えておかないと。

モルドレッド:(……パーシヴァル)

パーシヴァル:(本当に知らないみたいだね)

イゾルデ:でも、久々に二人に会えて嬉しいわ。
      シモーネゲートの調査の間、ほんの二週間だけど、ゆっくりしていってね。


□5/ワラキア公爵邸、客室


パーシヴァル:うーん、ふっかふかだよこの羽毛布団!
       さすがワラキア公国製マザーグース羽毛だね。

モルドレッド:この広い屋敷にしては、使用人の数が少なすぎないか。
       しかも夜になったら、宿直の者をわずかに残して、全員帰ってしまうとは。

パーシヴァル:八年前の事件があったからじゃないかなあ。
       先代ワラキア公爵を始め、屋敷にいた使用人が一人残らず殺された、ワラキア公殺害事件。

モルドレッド:ブリタンゲイン帝国との同盟に反対する独立派の仕業とされたが……
       犯人はいまだ捕まっていないのだったな。

パーシヴァル:大きい声じゃいえないけど、ルティエンス公爵家って不吉な噂が絶えないんだ。
       トリス兄さんやイゾルデを見ての通り、皆、美男美女揃いなんだけど……

モルドレッド:領地の少年少女をさらい、地下室で拷問にかけて愉しんでいた、
        青髭公爵(あおひげこうしゃく)こと、八代ワラキア公爵、ジルドレイ=ルティエンス。

        ドライゼン五代公爵のいとこであり、妻のエリザ公爵夫人は、領地の内外を問わず、
        若い女を集めてきては、鋼鉄の処女(アイアンメイデン)で生き血を搾り、その血を浴びていたという。

パーシヴァル:そうかと思えば、帝国の第三后妃(だいさんこうひ)オリヴィア様――
       トリス兄さんやイゾルデの母上みたいに、若くして亡くなってしまう人も多い。

       先代公爵は、ルティエンス公爵家でも指折りの名君と讃えられていたけど……

モルドレッド:実は異常者だったのではないかと、(ささや)かれた。
       それで殺害事件の後、屋敷に人が集まらない――ということだな?

パーシヴァル:これも言っておいたほうがいいかな。
       初代ワラキア公は、真祖吸血鬼(ヴァンパイアロード)シモーネの側近だったんだ。
       ジルドレイやエリザ公爵夫人は、実は吸血鬼だったんじゃないかって説もある。

モルドレッド:では兄上は……!?

パーシヴァル:ちょっと待った。結論を急いじゃダメだ。
       シモーネが君臨していた時代から、千年以上の時間が流れている。
       仮にルティエンス家が吸血鬼の家系だったとして、吸血鬼の性質はほとんど薄まっているはずだ。

モルドレッド:先祖返りは考えられないのか。
       吸血鬼の王国を復活させるため、『ハ・デスの生霊』に荷担した。

パーシヴァル:もし密かに生き残った吸血鬼がいたとしても、表立って活動すれば、人間社会と敵対することになる。
         青髭公爵やエリザ公爵夫人の時代とは違って、妙なことをすればすぐにバレて捕まっちゃうよ。

         王国を作って名乗りを上げようって話があっても、吸血鬼たちの間で、意見がまとまるとは考えにくい。

モルドレッド:なるほど……
       冷静に考えれば、動機に乏しいというわけか。

パーシヴァル:逆に言えば、出来すぎてる気もする。
        トリス兄さんを(おとしい)れるには、これ以上ないぐらいの筋書きだ。

モルドレッド:トリス兄さんの政敵といえば……ケイ兄さん。
       まさかケイ兄さんが仕組んだ罠――!?

       いや、しかしそれではカテリーナの証言は……

パーシヴァル:これ以上は考えてもしょうがないよ。

モルドレッド:そうだな……

パーシヴァル:寝よ、寝よ。

         おやすみ、モル。

モルドレッド:おやすみ、パーシヴァル。


□6/バナト山中腹、森林の奥地に潜む霊園


モルドレッド:山の中腹……
       その奥の森林に、まさかこんな霊園があったとは……

パーシヴァル:ごめんね、イゾルデ。
       真っ昼間なのに引っ張り出しちゃって。

イゾルデ:気にしないで。
     シモーネゲートの調査は、二人の任務でしょう?

     聖騎士(せいきし)宮廷魔導師(きゅうていまどうし)
     二人とも、私より年下なのに立派に働いている――

モルドレッド:姉上だって『帝国博物館』と『帝国美術館』の館長を任されているだろう。

イゾルデ:どっちも開館式に出席しただけ……名誉職ね。
     私の絵も飾られているけど、それは帝国の皇女(おうじょ)だから――

パーシヴァル:そんなことないよ。
       イゾルデの描いた絵、『夜の静寂(しじま)』なんか、闇の奥深い静けさを表現した、いい絵だと思うな。

イゾルデ:ありがとう、パーシヴァル。

モルドレッド:本格的に画家を(こころざ)すつもりはないのか?
       姉上にセンスがあることは俺も認めるが、我流で片手間に描いていては、伸びる才能も伸びん。

パーシヴァル:モル、イゾルデの病気は知ってるだろう。
       日光に当たれず、満足に外も出歩けない。
       重度の貧血で、常にめまいと疲労感がつきまとう。

       明日も知れない身で、未来を信じて、希望を持てるのかい?

イゾルデ:いいのよ、パーシヴァル。

     優しいお祖父様にお母様、お兄様。
     貴族学校でも、いじめられたり、悪意を向けられたことは一度もなかった。 
     私は体が弱いし、お勉強もできなかったけど、素晴らしい人たちに囲まれていた――

     でも、ずっと密かに感じていた。
     私には、一体何があるの――?

パーシヴァル:ええっ?
       何って……イゾルデは、ものすごい美人じゃないか!
       ねえ、モル?

モルドレッド:ああ。
       俺は人間がそれだけとは思わんが、美しさの価値は極めて高い。
       まして女なら尚更だ。それ以外に望むものはあるのか?

イゾルデ:美しさ――……
     美しさは、ただ生まれついてのもの。
     傲慢(ごうまん)かもしれないけど、お父様とお母様が授けてくださっただけ。

     私は……私の手で掴みたかったの。
     人から与えられたものではない、私自身で努力して手に入れたものが。

パーシヴァル:…………

イゾルデ:だから、二人のことはとても尊敬しているわ。

モルドレッド:…………

       姉上にだって出来るはずだ。
       何故それをしない。

パーシヴァル:だからモル――……

モルドレッド:それでも屋敷に画家を呼んで、教えを請うこともできた。
       希望は与えられるのを待つのではない、見いだすものだ!

イゾルデ:ふふふ。
     モルドレッドは本当にパラディンが板についてるわ。
     叱られちゃった。

     私、パリス共和国に留学することにしたの。

パーシヴァル:えっ、病気は大丈夫なの?

イゾルデ:今日の私、手袋も日傘もしてないでしょう?
      最近、とても調子がいいの。
      あれほど日の光や貧血に悩んでいたのが嘘みたい。

モルドレッド:自然治癒、という奴か?

イゾルデ:そうね。そうとも言うかもしれないわ。

      あの方に巡り会うまで、私は生きることに絶望していた。
      あの方は、私に生きることを教えてくださったわ。

パーシヴァル:ひょっとして……恋?

イゾルデ:なあに、急に?

パーシヴァル:好きな人が出来て、生きる気力が湧いた。
         そしたら病気も治っちゃった――って話?

モルドレッド:俺にもそう聞こえたが。

        ……相手はどんな男だ?

パーシヴァル:気になるよね。

モルドレッド:ああ。

イゾルデ:あの方はそういう人じゃないわ。
     私の理想の人は……お兄様のような人。

モルドレッド:はぐらかさないでくれ。

イゾルデ:はぐらかしてないわ。本当よ。

モルドレッド:姉上……今年幾つだ?

イゾルデ:淑女(しゅくじょ)に年齢を聞くのは失礼に当たりますわよ、聖騎士殿?

パーシヴァル:はっきり言っておくけど、すっげー高望みだよ。
        トリス兄さん並の美男子なんて、帝都中探したって出てくるかどうか。

        あ、おいらを除いてね。

モルドレッド:当然だ。
        お前は美男子の範疇(はんちゅう)から除いてある。

パーシヴァル:あっ、ひっどいなあ。

イゾルデ:二人とも、とっても魅力的な男性よ。
      お兄様には敵わないけど。


□6a/霊園、中央部


モルドレッド:霊園の中央に突き立つ石棺(ひつぎ)……
        これがシモーネゲートか。

パーシヴァル:冥府の魔力反応無し、魔力の乱れ……うん正常だ。
       しっかり封印されてるよ。

モルドレッド:…………

       あの石棺(ひつぎ)……
       (ふた)だけが妙に綺麗じゃないか?

パーシヴァル:そう言われてみれば……

イゾルデ:気のせいじゃないかしら?

モルドレッド:蓋を外してみる。手伝ってくれ。

パーシヴァル:ええっ、そんなことして大丈夫なの!?

モルドレッド:もしかすると、過去にあの石棺(ひつぎ)は暴かれているのかもしれん。
       念のため確認しておきたい。

パーシヴァル:言われてみれば確かにね。
       でもさ――……

モルドレッド:いざとなれば、ロンギヌスで俺が封じ込める。
       いくぞ――せーの!

パーシヴァル:よいしょおっ……

       ふう……
       どれどれ、中身は?

       うっわーっ……

モルドレッド:ミイラだ……古代人の……

イゾルデ:使徒シリウスの封印の門。
     それが何故シリウスゲートではなく、シモーネゲートと名付けられたか。

パーシヴァル:知ってるよ。シモーネの力を使って封印を完成させたからでしょう?

       ってことは、このミイラってまさか……

イゾルデ:吸血鬼シモーネ。
     大悪魔(ダイモーン)の一柱にして、真祖吸血鬼(ヴァンパイアロード)シモーネその人よ。

モルドレッド:魔晶核が静かに明滅している……
       生きているのか、このミイラは……!

パーシヴァル:も、モルっ! 早く蓋しちゃおうよ!

モルドレッド:あ、ああ……

パーシヴァル:よいしょっと……

       はあ〜……
       なんだか見ちゃいけないものを見た気分だよ。
       祟られたりしないかなあ〜……

モルドレッド:シモーネは女の吸血鬼だったはず。
       しかしあのミイラは男……

パーシヴァル:実はシモーネは男だったんじゃないの?

モルドレッド:姉上。
        ルティエンス家には、世間に広まった伝説とは異なる、異聞(いぶん)などは伝わっていないか?

イゾルデ:ごめんなさい。
     私が知っているのは、みんなも知っているものしか……

パーシヴァル:天気も悪くなってきたし、おいらあんまり長居したくないよ。帰ろ帰ろっ。

イゾルデ:そうね。モルドレッド、あなたも戻りましょう?

モルドレッド:ああ……


□7/謎の洞窟、荷車を押す人影


邪教司祭:(われ)、放熱の終わりと共に消え去りしもの……

邪教徒:されど、散りゆく自己(おのれ)を、朽ち果てた(むくろ)に留めん……

邪教司祭:(とき)を凍らせ、(こころ)を凍らせ――……

     到着した……
     荷車の荷を下ろせ……

邪教徒:娘はここに置けば……?

邪教司祭:そうだ……
     我らの責務はそれで終わり……

娘:むぐーっ! むぐーっ!

邪教徒:洞窟の壁一面……
    鎖に繋がれた、裸の女たち……

邪教司祭:……彼女たちは生け贄。
     我らを救う、いにしえの姫を目覚めさせるための供物(くもつ)

邪教徒:洞窟の奥にこのような牢獄があったとは……

    司祭様、生け贄とは……?

邪教司祭:お前が知る必要はない……

     このナイフで、ハ・デスの祝福を受けよ。

邪教徒:口封じというわけですか……?

邪教司祭:死の門を潜り、不滅の命として生まれ変わる。
      主教(しゅきょう)様に代わり、私がお前に永遠を授けようぞ……

邪教徒:いらんわい。

邪教司祭:なんだと……

     ぐああっ!

(洞窟の地面に転がした裸の女が縄を破り、背後から邪教司祭の首を絞める)

狢:鬼女郎よ。わしらが当たりを引いたようじゃのう。

鬼女郎:まさに……
    これぞ帝都でさらわれた女たちに違いない。

邪教司祭:お、お前たちは何者だ……!

狢:怪盗鼠小僧(かいとうねずみこぞう)と名乗っておこうかのう。

邪教司祭:き、貴様ら……
     私を死霊傀儡師(ネクロマンサー)と知ってのことか……!

鬼女郎:お前たちブリタンゲイン人の妖術には、幾度となく煮え湯を飲まされた……
    だが、近づけばどうということはない。天狗も首を掻き切れば死ぬ。

邪教司祭:ひ、ひいいいっ……!

狢:殺すでないぞぉ、鬼女郎。
  洗いざらい全て吐かせんとなぁ。

鬼女郎:承知しておるわ。

    ブリタンゲインの天狗よ。
    よくも我ら倭島人を、犬畜生のように扱ってくれたのう。
    日頃の礼をたんまり返してやるぞ。

狢:洗いざらい吐かせた後は、わしの新しい顔≠ニして使うかのう。

邪教司祭:しゅ、主教様、お助けを……!

狢:さて、わしはお頭様に早馬を出すように伝えに……

鬼女郎:狢……おぬし、その白いものは……

狢:何じゃい?

  じ、地虫じゃ……!
  わしの装束に地虫がびっしりと……

  ぎゃあああっ!!

鬼女郎:こ、こちらにも地虫が……

    きゃああああっっ!!

邪教司祭:レ・デュウヌ様!
     レ・デュウヌ様ですね!

     ひっ、そんな……
     な、何故私まで……ぎゃああああっっ!!


□8/二週間後、幽閉塔


クレハ:お食事をお持ちいたしました、第四殿下。

トリスタン:ありがとうございます。
      ところで吸血鬼クドラクについて、何か進展は?

クレハ:……失礼ながら、何も申し上げることは出来ません。
    ご寛恕(かんじょ)を。

トリスタン:わかりました。

クレハ:失礼いたします。

(石階段を下る足音が遠ざかり、塔の室内は静寂に閉ざされた密室になる)

トリスタン:…………

      やっと現れたか。

(塔の外壁の隙間から潜り込んだ、一匹のコオロギが羽を震わす)
(それは涼やかな虫の音ではなく、青年の人語となって響き渡った)

レ・デュウヌの声:やあ、クドラク。

トリスタン:状況はどうなっている。

レ・デュウヌの声:君に代わって、石棺(ひつぎ)の歌い手は、今日も元気に乙女を誘拐しているよ。
           君が獄中にいても、クドラクは何事もなかったように活動している。
           証拠不十分で釈放されるのは、もうじきだ。

トリスタン:ナイトミストは俺を疑っているようだが。
      二週間前よりも風当たりがきつくなった。

レ・デュウヌの声:単に君が嫌われたんじゃないの?

トリスタン:何があった。説明しろ。

レ・デュウヌの声:バナト山の食料庫に忍び込んだネズミを退治しただけさ。

トリスタン:何だと……!?
      あれを見られたのか……!?

レ・デュウヌの声:ははっ、やっと焦りを見せたね。
         そうそう、囚人は囚人らしく、恐怖と不安に駆られてなきゃ。

トリスタン:ふざけるな――!

レ・デュウヌの声:安心しなよ。
         あれから何人も間諜(かんちょう)が嗅ぎ回ってるけど、一匹も辿り着いちゃいない。

         食料庫がバレた経緯は、ワラキアの首都ヴラドーで活動する教団からだ。
         それもヴラドーから撤退させてある。もちろん秘密を知る者も残していない。

トリスタン:……ならばいい。

      今後も間諜どもに気をつけろ。

レ・デュウヌの声:こんなに僕の手を煩わせて、どうしてそんなに上から目線なのかなぁ〜。

         元はと言えば、君がカテリーナ・ウルフスタインを殺しておかなかったのが原因だよねぇ?

トリスタン:……心臓は止めた。あれで殺したと判断したのだ。

レ・デュウヌの声:前衛型の魔導戦士は、短時間なら心臓や肺が破られても耐える連中がゴロゴロいる。

         心臓だけじゃ不十分だ。狙うなら脳。
         バイコーンの角で、顔をぐちゃぐちゃに掻き回してやれば、カテリーナは確実に死んでいた。

         でも、君はそれが出来なかった。
         甘いよねえ。

トリスタン:……黙れ。
      人間を殺すのと、虫けらを踏み潰すのとは訳が違う。

レ・デュウヌの声:始まりは一匹の女王から。
         女王は兵隊を産み落とし、地中の王国に君臨する。
         その兵隊たちは、他の虫をさらい、家畜としてあるいは奴隷としてこき使う。

トリスタン:……何の話だ?

レ・デュウヌの声:蟻の生態だよ。
         不思議だよねえ、働き蟻って。
         生殖能力を持たず、女王蟻の下僕として働くために産み出された生命(いのち)

         果たして己の意志というものを持っているのかな。

トリスタン:…………

      イゾルデはどうしている?
      薬は飲んでいるのだろうな?

レ・デュウヌの声:ああ、あれね。面倒臭いことするよねぇ。
         わざわざ血を抜いて、乾かして粉にする。

トリスタン:……吸血行動と、血を飲む行為は別だ。
      理性の(たが)が外れてしまえば、一気に吸血鬼化が進んでしまう。

レ・デュウヌの声:最初は君の血を。
         成長に見合わなくなってくれば、魔因子(まいんし)を持つ処女たちの血を。

         そうやって結末を先送りにして、何になるんだい?

トリスタン:明日よりも今日を守る。
      喩え破滅を招くとしても――

      それに今の『ハ・デスの生き霊』にとっても、真祖吸血鬼(ヴァンパイアロード)は手に負えまい。
      主教の死霊傀儡師(ネクロマンサー)は肉体を失い、恐竜王ディラザウロの復元も遅れ、この俺クドラクも獄中に囚われている。

レ・デュウヌの声:まあね。しばらくは君の思惑通りに事が運ぶよ。

トリスタン:フン――……

レ・デュウヌの声:ところで君の妹への愛情――
         それは果たして、本当に君自身のものなのかな?

トリスタン:何を言っている。

レ・デュウヌの声:真祖吸血鬼(ヴァンパイアロード)吸血鬼(ヴァンパイア)半吸血鬼(ダンピール)
         女王と下僕と奴隷。蟻と吸血鬼は、よく似ている。

トリスタン:…………

レ・デュウヌの声:君の愛情は、仕組まれたものかもしれない。
         働き蟻が女王蟻を(した)い、自らの全てを捧げて尽くすように――

トリスタン:……失せろ。貴様は不愉快だ。

レ・デュウヌの声:ふふふっ。
           またくるよ、クドラク――

トリスタン:…………


□8a/八年前〜惨劇の後で〜


イゾルデ:お兄、様……?

トリスタン:ぐう、はあ……

イゾルデ:お兄様、その首筋の血……!?
     すぐに手当を!

     ううん、違う……
     これは私がつけた傷――……

トリスタン:イゾルデ――!!

イゾルデ:――!?

トリスタン:……賊は倒しました。
      ……怪我はありませんか。

イゾルデ:賊……?

トリスタン:そうです。
      この惨劇は……屋敷に忍び込んだ賊が引き起こした悪夢……

イゾルデ:お兄、様……?

トリスタン:悪夢は……終わりです。
      私が、終わらせました。

      だから、お前が案ずることは何もないのです。


イゾルデ:お兄様……

     はい、わかりました……

トリスタン:イゾルデ……お前は私が守る――
      たとえ全てを失うことになろうとも……
      


□8b/幽閉塔、回想から振り返って


トリスタン:あのとき――
      私の血に吸血鬼(ヴァンパイア)の魔因子が流し込まれ、私は吸血鬼と化した。
      闇に(うず)めた秘密を守るために、私は帝国の王位継承権を放棄し、ワラキア公国に引きこもった。

      人間を捨て、王位を捨て、正義を捨て……

      皆、私の意志で決めてきたはず……
      だが、もしその意志が操られていたとしたら……


□9/ヴラドーの街、公立図書館


モルドレッド:やはり見つからん……
       首都ヴラドーの公立図書館でも、残っている伝承は同じ。
       半吸血鬼(ダンピール)と化した元人間のシリウスが、真祖吸血鬼(ヴァンパイアロード)シモーネを打ち倒し、
       その力を用いて冥府の門を封じたという、通り一遍(いっぺん)のものだけ……

モルドレッド:伝承通りであれば、あのミイラは吸血鬼シモーネ……
       しかし、ミイラは古代人の男だった。

       可能性として一番高いのは、あのミイラは使徒シリウス本人……
       だが伝承ではシリウスは人間だったとされる。

モルドレッド:辻褄(つじつま)が合わん。
       どこかで伝承が改竄(かいざん)されている……

       くそっ。こういうときにパーシヴァルがいれば。


□9a/三時間前、ルティエンス公爵邸の客室


パーシヴァル:ええ〜っ、また今日も図書館で調べ物?
       めんどくさいなあ……

モルドレッド:シモーネゲート解放条件の見当をつけるためにも、正しい伝承の把握が大切だ。

パーシヴァル:ちゃんと封印されてるんだからいいじゃん。
       それよりさ、明後日でイゾルデとお別れなんだよ。
       のんびりお茶でも飲もうよ。

イゾルデ:今年はインドゥー産のアッサムが美味しいの。
      モルドレッドもいかが?

モルドレッド:いや、結構だ。

       パーシヴァル、どうしたんだ?
       お前は言動こそ軽いが、無責任な男じゃなかったはずだ。

パーシヴァル:だからさあ、無駄なことをやるのが嫌なんだよ。
       伝承なんて時代を下ればいくらでも変化するし、
       第一モルの信じてるオルドネア教自体が、史実とかけ離れまくってるじゃないか。
       アホくさ。

モルドレッド:お前……言っていいことと悪いことがあるぞ。

パーシヴァル:何だよ、事実だろ。

モルドレッド:貴様……!

イゾルデ:怒らないでモルドレッド。

     ねえ、せっかく会えたのに、もうすぐお別れなのよ。
     私、モルドレッドともっとお話したいわ。

モルドレッド:姉上、しかし……

イゾルデ:お願い、モルドレッド。

     お願い――

(モルドレッドの脳裏で、イゾルデの声がこだまのように響き渡る)

モルドレッド:うっ――……

       あ、ああ……そう、だな……

(ロンギヌスの槍が淡く発光し、モルドレッドの意識を正気に返す)

モルドレッド:――はっ!?

イゾルデ:どうしたの、モルドレッド?

モルドレッド:……い、いや。

       ともかく、俺は街へ出る。
       お茶会でも何でも勝手にしてくれ。


□9b/ヴラドーの街、公立図書館


モルドレッド:(姉上のあの眼……)
       (あれは魅了(みりょう)魔眼(まがん)だ)

       (ロンギヌスの加護がなければ、俺も心を奪われていた……)

モルドレッド:(魔心臓を持つ人間は、決して少なくない)
       (魔導具(まどうぐ)を持っているのも、皇族なら当たり前と言える)
       (たとえば目立たない宝飾品の形で、魔導具(まどうぐ)を身につけていたのかもしれん)

       (しかし、魅了の魔眼とは……)

モルドレッド:(各地に残る伝承によれば、吸血鬼は、醜悪な化け物として描かれている)
       (だが、吸血鬼が人類の寄生者ならば、その逆――)
       (誰からも好かれ、受け入れられるよう、美しい姿をしているのではないか)

       (ルティエンス家が、奇妙なほど美男美女で占められているのは……)
       (姉上のあの常人離れした美しさは……獲物を魅了するため……)

クレハ:――――

    モルドレッド様。

モルドレッド:――誰だ!?

クレハ:お考え中に失礼いたしました。

    私はクレハ=ナイトミスト。
    キャメロット城で侍女(じじょ)を勤めさせていただいております。

モルドレッド:ナイトミスト?

       ああ、あの倭島人の事務官……
       何故あなたがここに?

クレハ:大英円卓(ザ・ラウンド)より指令を伝えに参りました。
    十一殿下、十三殿下――待機任務は終了……お二方の出番です。


□10/翌日夜、ルティエンス公爵邸の客室


パーシヴァル:あ〜あ。
        今夜が任務の最終日なのに、イゾルデは、ヴラドーの街の町議会に出席なんて。
        おまけにモルと二人っきりかよ。

モルドレッド:パーシヴァル。

パーシヴァル:えっ、何だよロンギヌスなんか構えて。
       まさか、おいらを殺すつもりじゃ……

       うわーっ……あれ?

モルドレッド:目が覚めたか。

パーシヴァル:うーん……

       ついさっきまでモルに対して凄いイライラしてたのに、
       憑き物が落ちたみたいにさっぱりと――

       おいら、何で怒ってたんだっけ?

モルドレッド:お前は魅了の魔眼に掛かっていたんだ、パーシヴァル。
        まさか宮廷魔導師のお前を(とりこ)にするとはな……

パーシヴァル:魅了の魔眼? 何の話をしてるの?

モルドレッド:時間だな――

       いくぞ、パーシヴァル。屋敷を出る。

パーシヴァル:へっ? おいら全然話が見えないんだけど?

(パーシヴァルを引っ張るように、屋敷の玄関へ移動するモルドレッド)

クレハ:お待たせいたしました、十一殿下、十三殿下。
    馬車の用意がございます。お乗りくださいませ。

パーシヴァル:クレハさん?

       もう何が何だか……

モルドレッド:説明は馬車の中でする。
       急ぐんだ。

       姉上が戻ってこないうちに――


□11/幽閉塔、満月の夜


トリスタン:……きたか。

レ・デュウヌの声:こんばんは、クドラク。
         今日は君にいい知らせを持ってきたんだ。

         今宵の満月の夜――
         真祖吸血鬼(ヴァンパイアロード)シモーネが、千年の封印を破って復活する。

トリスタン:なん、だと……!?

レ・デュウヌの声:可愛い妹の晴れ舞台だ。
         嬉しいサプライズだっただろう?

トリスタン:貴様、イゾルデに吸血行動を!?

レ・デュウヌの声:ごめんね。約束破っちゃった。

           はははははっ。

トリスタン:何故だ!?
      いくら貴様でも、真祖吸血鬼(ヴァンパイアロード)を操ることは出来ぬぞ!

レ・デュウヌの声:操る?

         僕は彼女を仲間に引き入れるつもりも、倒してシモーネゲートを解放するつもりもない。
         大悪魔(ダイモーン)の一柱を復活させ、この地上に混沌と災厄を撒き散らす!
         ワクワクするだろう! これ以上の理由が要るっていうのかい?

         ひひっ、ひひひひ――ひぎっ!

(白皙の顔に憤怒を浮かべたトリスタンが、嘲弄を振り撒くコオロギを踏みにじる)

トリスタン:くっ……

      イゾルデ……



※クリックしていただけると励みになります

index