The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第16話 流血の乙女たち

★配役:♂3♀2=計5人

▼登場人物

モルドレッド=ブラックモア♂:

十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。

魔導具:【-救世十字架(ロンギヌス)-】
魔導系統:【-神聖魔法(キリエ・レイソン)-】

パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。

魔導具:【-自在なる叡知(アヴァロン)-】
魔導系統:【-元素魔法(エレメンタル)-】

ラーライラ=ムーンストーン♀
二十七歳の樹霊使い(ドルイド)(外見年齢は十三歳程度)。
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の一員。
人間の父と、エルフの母のあいだに生まれたハーフエルフ。
『ムーンストーン族』のエルフには見られない青髪と碧眼は、父親譲りのもの。

父親が魔因子を持たない人間だったので、〈魔心臓〉しか受け継がなかった。
エルフながら魔法を使うためには、魔導具の補助が必要である。

魔導具:【-緑の花冠(フェアリー・ディアナ)-】
魔導系統:【-樹霊喚起歌(ネモレンシス)-】


カテリーナ=ウルフスタイン♀
十六歳の戦乙女(ヴァルキュリア)
特に重装乙女(ブリュンヒルデ)に分類される近接戦闘のエキスパート。

ウルフスタイン伯爵の娘。
大学院(アカデミア)の高等部を退学し、父親の口利きで聖騎士団に加入した。
金髪縦ロールのお嬢様スタイルだが、性格は豪快を絵に描いたよう。

魔導具:【-轟雷の雄叫び(ミョルニル)-】
魔導具:【-金剛怪力帯(メギンギョルズ)-】

トリスタン=ルティエンス♂:
二十九歳の弓騎士。『黄昏の貴公子』の異名を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の四番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、『陸軍弓兵師団』の団長。

母は、ルティエンス公爵の一人娘オリヴィア。
皇帝は類い希な美貌を持つオリヴィアを気に入り側室に迎えたが、
娘イゾルデを生んだ三年後、オリヴィアは若くして亡くなった。

祖父の公爵亡き後、皇位継承権は自ら放棄し、ルティエンス公爵家を継いだ。

魔導具:【-月弦の銀竪琴(フェイルノート)-】(損壊)
魔導系統:【-高貴なる夜(ローゼンブラッド)-】

石棺(ひつぎ)の歌い手クドラク♂:
『ハ・デスの生き霊』の幹部、逆十字(リバースクロス)の一人であり、トリスタンの裏の顔。

吸血鬼(ヴァンパイア)。古代人の一派、夜魔一族の血を引いている。
完全な魔因子を持っており、魔導具無しでも魔法を使える。
額には魔晶核(ましょうかく)があるが、人前では目立つため、人間時には隠している。

闇夜に流れる銀髪の美しさとは真逆に、醜貌を象った仮面兜で顔の上半分を隠す。
仮面兜の額には、冷酷さを象徴するような、氷河色の魔晶核(ましょうかく)が備わっている。

血を吸った人間を、半吸血鬼(ダンピール)に変え、自身の下僕にする。
半吸血鬼(ダンピール)に変えられるのは、異性に限られ、同性にはただの吸血行為で終わる。

魔導具:なし
魔導系統:【-高貴なる夜(ローゼンブラッド)-】

※トリスタンとクドラクは二役になります

以下はセリフ数が少ないため、被り役推奨です。

アガサ=バグスター♀
十七歳の大学院の生徒。
クドラクに半吸血鬼(ダンピール)に変えられる。

セシリア=フォード♀
十六歳の大学院の生徒。
クドラクに拉致される。

※セシリア、アガサの出番は序盤のみ。

狼♂
クドラク配下の半吸血鬼(ダンピール)
唸り声のみ。飛ばし可。
狼の唸り声のSEなどで代用してもいいかもしれません。

治療師♂
モルドレッド、パーシヴァルと会話有り。


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。

□1/夜、帝都西区大学院周辺


アガサ:ん〜あ、よく寝たぁ。
    もう夜かあ。
    ごめんね、セシリア。
    待たせちゃって。

セシリア:大丈夫、アガサちゃん?
     元素魔法演習の時に、いきなり倒れちゃうんだもん。
     びっくりしちゃった。

アガサ:あたしもびっくり。
    魔力が抜けたら、意識も急にスーッって。
    やっぱり寝不足で魔法を使うのって危ないのね。

    昨日ね……お泊りだったの。

セシリア:えっ、お泊りって……
     じゃ、じゃあついに?

アガサ:えへへ……

セシリア:ど、どうだったの?

アガサ:うん。
    彼がね……

    うぐっ――

セシリア:き、霧が人の形に……
     な、なんなのこれ……

アガサ:離して! 離せっ!

    痛あっ……

クドラク:甘い……
     雄の精を浴びた血は、舌に残る甘ったるさ。
     まるで腐った糖蜜だな。

アガサ:痛……痛くない?

    ううん、これは……
    はあ、ああん……

セシリア:アガサちゃん!?
     アガサちゃん!?

クドラク:友人の身を案じるよりも、お前の心配をしろ。
     俺の目当ては、この売女(ばいた)ではなく、お前なのだからな。

セシリア:わ、私? どうして……

クドラク:女、俺の目を覗け。

セシリア:こ、これは精神魔法……
     も、もしかして……あなたが噂の吸血鬼……

     ううっ……意識が……

クドラク:口直しに、清涼なる血を啜りたいところだが。
     純潔を、我が毒牙で汚すわけにはいかぬ。

アガサ:……クドラク様。

クドラク:目覚めたか、半吸血鬼(ダンピール)
     何事もなかったように帰宅しろ。必要になれば呼ぶ。

アガサ:かしこまりました。

クドラク:後はこの女を、我が領地へ運ばなければ。

狼:WOOOOOO……

クドラク:お前に任せたぞ、我が僕よ。

狼:WOOOON!

クドラク:行ったか――

     夜に眠りし満月の女王。
     お前のひび割れた唇を、乾いた喉を潤す、鮮血の口づけを。
     我らが真祖、ヴァンパイアロードシモーネ――


□2/教会、資料室


モルドレッド:ついに三十一人目。
       犯人は一体何が目的なのだ……

カテリーナ:いましたわ。ここでしたのね。
      モルドレッド様ー。

モルドレッド:カテリーナ……
       手合わせの相手はお断りだぞ。

カテリーナ:ええーっ、どうしてですの。
      聖騎士の方々、こう言っては失礼ですけど雑魚ですわ。
      やはりモルドレッド様でないと、わたくしの相手は務まりませんの。
      モルドレッド様、わたくしと血湧き肉躍る全力勝負いたしましょう!

モルドレッド:全力で断る!
       そもそも何故ただの戦闘訓練が、血生臭い決闘のようなものになっているんだ。

カテリーナ:ははーん、わかりましたわ。
      わたくしに負けるのが怖いのですわね。
      初めて戦ったときから、ずっとわたくしとの戦いを避けているのですもの。

モルドレッド:なんだと……?

カテリーナ:いいんですのよ。
      モルドレッド様がチキン野郎の汚名を甘んじて受け入れるのなら、
      わたくしから申し上げることは何もありませんわ、このチキン野郎。

モルドレッド:貴様……表へ出ろ。
       どちらが上か神の庭で示してやる。

       ……いや、待て。
       俺はお前に構っている暇などないのだ。

カテリーナ:もう、面白くありませんわー。

モルドレッド:お前も知っているだろう。大学院(アカデミア)の生徒の拉致事件。
       一週間前、セシリア=フォード、大学院(アカデミア)の生徒がまた行方不明になった。

カテリーナ:セシリアさん?
      大学院(アカデミア)を辞める前、授業でご一緒したことがありますわ。

モルドレッド:拉致されたと思われるセシリア=フォードは、帰宅途中一緒だったアガサ=バグスターと別れた後、行方が知れなくなっている。
       幸いアガサ=バグスターは、拉致の被害に遭わなかったようだ。

カテリーナ:拉致犯の手がかりは掴めてますの?

モルドレッド:いや、全く。
       セシリア=フォードに限らず、子女をさらったきり、身代金の要求は今までに一度もきていない。

カテリーナ:犯人は身代金目当てじゃないのではありませんこと?

モルドレッド:何故そう思う?

カテリーナ:アガサさんのおうちは、あの有名なバグスター魔導機械。
      お金目当てだったら、真っ先にアガサさんを狙うはずですわ。

モルドレッド:ならば、犯人の目的は何だ。

カテリーナ:うーん、制服姿の女子学生マニアじゃありませんの?

モルドレッド:お前……真面目に考えろ。

       仮にもし制服姿の女子生徒のマニアだったとしよう。
       しかし何故わざわざ魔導大学院(アカデミア)に通う子女を狙う。
       名前の通り、魔導大学院(アカデミア)に通う学生は魔導師の見習いだ。

       見習いとはいえ、魔導師は銃器で武装した兵士、数十人の力を持つ。
       単なる趣味で狙うには危険すぎる相手だ。

カテリーナ:まったくわかりませんわ。
      こうなったら犯人を捕まえて、動機を聞き出すしかありませんわね。

モルドレッド:それを考えるのが、帝都の治安を(にな)う聖騎士の勤めだろうが!
       そもそも順番が逆じゃないか。
       犯人の行方が知れないから動機から探り出そうとしているというのに……!

       はあ……こいつの相手をしていては日が暮れてしまう。
       資料に戻らなければ……

カテリーナ:あら、誰か資料室に入ってきましたわ。

モルドレッド:ラーライラか。どうした?

ラーライラ:パーシヴァルが連続拉致事件で、新しいことがわかったって。
      パーシヴァルは、大学院(アカデミア)研究棟(けんきゅうとう)にいる。

モルドレッド:なんだって!?

カテリーナ:こうしちゃ、いられませんわね!

モルドレッド:わかった! すぐに向かう!

カテリーナ:急ぎましょう、モルドレッド様!

ラーライラ:……あなたもくるの?

カテリーナ:行きますわ。

ラーライラ:来なくていいのに。

カテリーナ:あなたもお使いは終わりですわ。
      エルフは、山にでも森にでも、野生に帰ったらいかがかしら。

ラーライラ:捜査は、金槌を振り回せばいいものじゃない。
      あなたが役に立つの?

カテリーナ:捜査に金槌が役立たないなんて、誰が決めましたの?
      トリックもアリバイも、真犯人ごとぶちのめして差し上げます!
      これがわたくしの名推理ですわ!

ラーライラ:い、意味がわからない……

      あ、モルドレッド?

カテリーナ:あらら。
      こんなアスパラガスみたいな体型のエルフに付き合ってる暇はありませんわ。

      モルドレッドさまー!
      待ってくださいませー!

ラーライラ:ア、アスパラガス――!?

      人間って、ああいう筋肉質な女が美人なの?
      エルフは痩せてるほうが美人なのに――

      私、筋肉つくの……?


□3/大学院研究棟、パーシヴァル研究室


モルドレッド:で、パーシヴァル。
       拉致事件の新事実とは何だ?

パーシヴァル:まあまあ、そんな急かさず。
       あれ、後ろにいるのは……

カテリーナ:ご機嫌よう、パーシヴァル様。

パーシヴァル:げげっ、カテリーナ!

ラーライラ:知り合いなの?

パーシヴァル:うん、昔パーティーで。
       これでもおいらは王族の端くれだから、色々お呼ばれするわけ。
       そのときにちょっとお誘いを。

モルドレッド:お前……女なら誰でもいいのか?

パーシヴァル:違うよ! おいらは可愛い子しかデートに誘わないよ。
       あのときはドレス姿だったし、普通の女の子だと思ったんだよ。
          
ラーライラ:可愛ければ、誰でもいいの?

パーシヴァル:ラーライラまで。ひどいなあ。
       モンスター闘技場とか帝国軍基地とか連れ回されたあげく、
       最後は酷い目にあって、散々だったよもう。

カテリーナ:別れ際、無理矢理キスを迫ってきたんですもの。
      ぶっ飛ばすのは当然ですわ。

ラーライラ:パーシヴァル……

カテリーナ:無理矢理が嫌なわけじゃありませんわよ?
      むしろ殿方は、強引にねじ伏せるぐらいでないと。

モルドレッド:重装乙女(ブリュンヒルデ)をねじ伏せるなど、そんな奴、変身した獣人か後はモンスターぐらいしかいないぞ。

パーシヴァル:ともかくね、カテリーナとは青春の苦い一ページだったってわけだよ。
        あ、でもおいら根に持ったりはしてないからね。骨折られたけど。

カテリーナ:パーシヴァル様、あの節は申し訳ございませんでした。
      知的な殿方にも迷いましたけれど、やっぱりわたくし、強い殿方でないと愛せませんの!

パーシヴァル:そういうわけだからモル。お幸せに!

モルドレッド:どういうわけだ、パーシヴァル!
       俺はお前の苦い青春の後始末をしにきたんじゃない!

       離れろカテリーナ、このこのっ!

ラーライラ:どうしてそこでモルドレッドに抱きつくの……!

パーシヴァル:ラーライラも対抗して抱きついたら?

ラーライラ:わ、私が? どうして? わからない!

トリスタン:賑やかですね。

パーシヴァル:トリス兄さん! 待ってたよ。

モルドレッド:兄上もパーシヴァルに呼ばれたのですか。

トリスタン:ええ。
      連続拉致事件について進展があったとか。

モルドレッド:パーシヴァル、早く話せ。

パーシヴァル:ゴホン。それじゃ発表しようかな。
       帝都ログレスの連続拉致事件――
       今回の事件に関わっているのも『ハ・デスの生霊』だ。


□4/パーシヴァル研究室、吸血鬼伝説


モルドレッド:『ハ・デスの生霊』……死霊傀儡師(ネクロマンサー)が率いるカルト教団。
       その実態は、現世と冥界を隔てる封印の門を破壊し、地上に悪魔どもを呼び出そうと企むテロリスト。

       何故奴らと拉致事件が繋がる?

パーシヴァル:大学院(アカデミア)女子学生連続拉致事件――
       これまで拉致犯は、現場に一切の痕跡を残してこなかった。
       おまけに連絡もしてこない。だから動機もわからず、ずっと正体不明のままだった。

       でも一週間前のセシリア=フォード拉致事件、その現場になったとおぼしき場所から、ごく少量の血痕が発見された。
       その血痕からは、微量の魔因子(まいんし)――ある特殊な種族の魔因子が検出された。

       そしてその手口は、ラーライラ。

ラーライラ:うん。
      トゥルードの森のエルフ、タイガーズアイ族を襲った者と同じ。
      『ハ・デスの生霊』の幹部、石棺(ひつぎ)の歌い手クドラク――。

トリスタン:何故、クドラクと名乗る吸血鬼の仕業だとわかったのです?

ラーライラ:クドラクは、タイガーズアイ族のエルフたちを半吸血鬼(ダンピール)、自らの僕に変えた。
      でもタイガーズアイ族は狩人の種族。身体に作用する魔法には、高い抵抗力を持つ。
      半吸血鬼(ダンピール)の呪いに打ち勝ったエルフが教えてくれた。

トリスタン:…………

カテリーナ:吸血鬼って、そんなもの実在しますの?
      お伽噺の怪物だと思ってましたわ。

モルドレッド:お前……吸血鬼討伐は、オルドネア聖騎士団結成の理由の一つだろう!

カテリーナ:まあ、勉強になりましたわ!
      
モルドレッド:何てことだ……
       こんな信仰心の欠片もない奴が、聖騎士団に入ってしまうとは……

トリスタン:カテリーナさんがそう思うのも無理はありません。
      吸血鬼は何百年も昔に、オルドネア聖騎士団を始め、エルフやドワーフ、
      獣人を含めた全人類によって討伐され、大陸から姿を消しました。
      普通の人の間では、吸血鬼はお伽噺の怪物、と思われていても不思議ではありません。

ラーライラ:仲の悪い人間やエルフ、獣人までが手を組んで?
      信じられない。

モルドレッド:吸血鬼とは、人間や獣人を含む人類を餌とし、その社会にまぎれ込む、いわば人類共通の敵。
       邪悪な寄生虫のような存在だ。

       先人たちの苦闘の末、我々は吸血鬼に怯えることのない平穏な社会を手に入れたのだ。

ラーライラ:なんだか可哀想……

トリスタン:かつての獲物から迫害を受けるようになった吸血鬼たちは、吸血鬼の血を保つことを諦め、
      人間や他の亜人種との間に子供を作り、その種族として生きることにしました。

      長い年月が過ぎるにつれ、人間の血を求める魔因子は薄れ、魔力を持つ普通の人間となっていきました。
      純血の吸血鬼は、ほとんど絶滅してしまいましたが、彼らの子孫は今も生き残っているでしょう。

パーシヴァル:この場にいるおいらたち、魔力を生成する魔心臓を持つ人間は、
       エルフや吸血鬼といった、古代人の血を引く子孫なんだ。

       ラーライラはお母さんが純血のエルフだったし、ひょっとしたら吸血鬼の子孫もいるかもね。

モルドレッド:で、そのクドラクは何を企んでいる。
       闇に葬られた吸血鬼一族の復興を目論み、『ハ・デスの生霊』に荷担しているのか。

パーシヴァル:それはわからないけど、これまで『ハ・デスの生霊』が関わってきた事件は、全て封印の門の破壊に繋がっている。

        吸血鬼に(ゆかり)がある封印の門といえば――

トリスタン:シモーネゲート。
      我が領地ワラキア公国にある、使徒シリウスの残した門ですね。

ラーライラ:使徒シリウス……知ってる。
      でも、シモーネって?

トリスタン:シモーネとは、シリウスの討った女吸血鬼の名前。
      吸血鬼の中でも最も古く、強大な力を持つ、ヴァンパイアロードです。

      使徒シリウスの封印した門が、シリウスではなく、シモーネの名を冠しているのは、
      打ち倒したシモーネの魔晶核(ましょうかく)を使って封印の儀式魔法を構築したことが由来だそうです。

モルドレッド:使徒シリウスの両親は吸血鬼に殺害され、生き残ったシリウスも血を吸われ、半吸血鬼(ダンピール)となった。
       成長したシリウスは吸血鬼狩人(ヴァンパイアハンター)となり、救世主オルドネアと共に、大悪魔(ダイモーン)や吸血鬼、邪悪な種族を討ったのだ。

トリスタン:わかりました。
      シモーネゲートが『ハ・デスの生霊』に狙われていることは、間違いない。
      公国の警備を強化し、国内で不審な活動をする団体がいないか調査することにしましょう。

モルドレッド:これで犯人の目星はついた。
       がしかし、大学院(アカデミア)の女子学生連続拉致事件、『ハ・デスの生霊』、吸血鬼……
       まるで繋がりが見えん。

パーシヴァル:『ハ・デスの生霊』は色々やってるけど、目的は単純明快。
       封印の門を破壊して、大悪魔(ダイモーン)を呼び出すこと。

       大学院(アカデミア)の女の子をさらってるのも、封印解放の儀式に関係してるんじゃないかな。

トリスタン:成る程、さすがですねパーシヴァル。

モルドレッド:封印解放の儀式か。
       若い女を生贄に捧げる、とはよく聞く儀式だが……迷信の域を出ない。

       待てよ、大学院(アカデミア)の生徒ということは、皆魔因子を持つ。
       魔心臓を持つ者を生贄にすれば、高度な儀式魔法を使うことも――

       いや、それでは若い女である必要はない。
       ううむ……繋がりが見えなくてイライラする。

カテリーナ:吸血鬼だけに、うら若き乙女を狙ってるんじゃありませんの?

モルドレッド:お前……さっきから真面目に考えろと言っているだろう!

パーシヴァル:そうとも言い切れないよ。

       魔法を使うための魔晶核(ましょうかく)と、個人の相性問題は知られてるだろ?
       たとえばモルみたいな神聖魔法の使い手は、奔放すぎると魔晶核(ましょうかく)にハネられる。
       よかったじゃん、モル。やったね! って、あ痛っ〜!

モルドレッド:今度は槍の石突きではなく、穂先で刺すぞ。

パーシヴァル:と、ともかく話を続けると、魔晶核(ましょうかく)の相性問題は、先天的な遺伝要素と、後天的に獲得した特性、二種類が関係する。
       一説によれば、魔晶核(ましょうかく)を使うには、その本来の持ち主、つまり古代人と気質が合うかどうかって話がある。

       オルドネアはたぶんモルみたいにガチガチに頭の固い古代人だろうし、
       ラーライラの魔晶核(ましょうかく)は実のお母さんのものだし、ミョルニルの持ち主はきっとカテリーナみたいな豪傑だよ。

モルドレッド:そしてお前の【-自在なる叡知(アヴァロン)-】の持ち主は、頭が切れるがお調子者だったのだろうな。

パーシヴァル:純潔を失うとどうのこうのっていうのは迷信だけど、処女かどうかっていうのは、魔導師なら無視できない要素の一つだ。
         魔晶核との相性や、魔法の発動の条件になっていることも珍しくない。

モルドレッド:クドラクは、シモーネゲートの開放のため、何らかの条件の下に処女をさらっている――
        こう推測していいのか?

パーシヴァル:おっと、女の子は魔因子持ちってことを忘れずに。
       正しく定義すると、「魔因子を持つ処女」ってところかな?

カテリーナ:まあモルドレッド様! 一大事ですわ!
      わたくし、吸血鬼の格好の標的になっておりますのよ!

モルドレッド:大丈夫だ、お前なら狙われても撃退できる。

       それよりも。
       ……ラーライラ。

ラーライラ:えっ、なに?

モルドレッド:その、お前は吸血鬼の標的となる可能性があるのかと聞いている。

ラーライラ:どうしてあなたに、そんなこと言わないといけないの。

モルドレッド:言っておくが、護衛の必要があるのかないのかを把握しておきたい、それだけだ。
       お前はムーンストーン族の族長。
       万一のことがあれば、人間とエルフの友好問題にもなりかねん。

ラーライラ:護衛なんて必要ない。

モルドレッド:必要がない、だと!?

ラーライラ:違う! そういう意味じゃなくて――

パーシヴァル:モルー、全然さり気なくないよ。露骨すぎるよ。
       ねえ兄さん。

       兄さん?

トリスタン:……ああいえ、すいません。少々ぼんやりしておりまして。
      ワラキア公国からの、旅の疲れが抜けていないようです。

      ……………………


□5/一週間後、パーシヴァルの屋敷



モルドレッド:はあ〜〜…………

パーシヴァル:まだラーライラと喧嘩してんの?

モルドレッド:あれから一週間、俺の屋敷に帰ってきていない。
       手持ちの金はあまり持っていないはずだが、どこでどうしているか。

       もしや既に吸血鬼の毒牙に掛かっているのでは……!?

パーシヴァル:あれ? まだ聞いてない?
         ラーライラは、カテリーナの屋敷にいるってさ。

         あの二人、仲悪いと思ったけど、意外と上手くやってるみたいだよ。

モルドレッド:なあ、パーシヴァル。
        お前は……どう思う?

パーシヴァル:ん? ああ、ラーライラのことね。

モルドレッド:お前から見た、率直な感想を聞かせてもらいたい。

パーシヴァル:彼氏、いないんじゃないかなあ。
        恋人がいたことがある態度には見えないんだよね。

モルドレッド:そうか! お前に太鼓判を押してもらえると心強い!

パーシヴァル:あ、でも未経験かどうかはわからないよ。
       性風俗は、文化によって、色々違うから。

モルドレッド:この世は地獄だ……
       所詮(しょせん)、俺たちはエデンを追い出された罪人なのだ……

パーシヴァル:まあまあ、捨てる神あれば拾う神ありだよ。

       それよりさ、連続拉致事件。

モルドレッド:ああ、この一週間で十二人。
       帝都大学院(アカデミア)の生徒だけでなく、やや地方の都市、
       そしてエルフやドワーフの娘にも被害者が出た。
       
       一連の拉致事件と関連性があるのか、ただの家出か、
       確証を取るのに時間が掛かっているから、実際はより以上の数に上るだろう。

パーシヴァル:急に拉致のペースを上げてきた感じだね。
        慎重に狙いを定めていた今までと違って、形振(なりふ)り構わなくなってきた印象。
        はっきりとした目撃証言も出た。

モルドレッド:石棺(ひつぎ)の歌い手クドラク……

パーシヴァル:ねえモル、妙だと思わない?

モルドレッド:お前もそう思っていたか。
       警備の強化が決定して以降、ログレスでの拉致件数は数を減らし、地方へ移った。
       その一方、隠密に事を進めていた行動からは一転、堂々と正体を晒すようになった。

       まるで俺たちの捜査情報を知っているかのようだ。

パーシヴァル:捜査情報が漏れている疑惑は別にして、クドラクは形振り構わなくなったってことだろ。
        大丈夫かな、みんな。
        おいらの知り合いの女の子にも被害が出そうで怖いよ。

モルドレッド:まさかとは思うが――
       ラーライラ……ついでにカテリーナ。
       無事、だろうな――?


□6/帝都ログレス、夜の繁華街


カテリーナ:ふんふんふ〜ん♪
      今夜も正義と、熱き闘いのためにパトロールですわー。

ラーライラ:やっぱり、聖騎士たちに相談したほうがいいと思う。

カテリーナ:先週の話を忘れてしまいましたの?
      吸血鬼は、魔因子を持つ乙女だけを狙うのですわ。
      だから、わたくしたち自らが囮になって吸血鬼を引きつけるのです!

ラーライラ:吸血鬼クドラクは慎重で狡猾(こうかつ)
      聖騎士たちが同行していたら、狙いを外す。

      それは間違ってないと思うけど……無事ですむとは思えない。

カテリーナ:わたくしだって、『ハ・デスの生霊』の幹部に打ち勝って見せます。
      モルドレッド様に負けていられません。

      そのために、あなたを屋敷に招いたのですわ。

ラーライラ:わからない……
      あなたはモルドレッドが好きなの? それともライバル視してるの?

カテリーナ:ライバルと書いて、ダーリンと読みますわっ!

ラーライラ:どっちもブリタンゲイン語……

カテリーナ:淑女(しゅくじょ)は、細かいことは気にしないものですわ。

ラーライラ:変な人間。

カテリーナ:あら、褒め言葉ですわ。
      型に嵌るなんて、真っ平御免ですもの。

ラーライラ:……私はずっと型に嵌りたかった。
      ハーフエルフだから、自分の魔晶核(ましょうかく)がないから。
      族長様やみんなと同じ、純粋なエルフになりたかった。

カテリーナ:観念することですわね。
      人間の社会にきた以上、あなたはどこへいっても変わり者ですわ。

ラーライラ:カテリーナ、どうしてあなたはそんなに強くいられるの?
      伯爵家の娘なのに、戦乙女(ヴァルキュリア)に志願してモンスターと戦うなんて。

カテリーナ:…………

      わたくしは幼い頃から神学、詩文、礼法……淑女の(たしな)みとして様々な習い事を受けてきました。
      でも、ちっとも身が入りませんでしたの。退屈で退屈で、仕方ありませんでした。
      言葉遣いだけは身につきましたけれど。

ラーライラ:…………

カテリーナ:お父様もお母様もわたくしに失望し、何度も喧嘩をして、終いには苦笑いをして認めてくださるようになりました。
      カテリーナは魔導騎士だったひいお祖父様、ウルフスタイン一世に似てしまった、と。

      でもわたくし、お父様やお母様の重圧がなくなったとき、不安になってしまいましたの。
      わたくしが変わり者で通していたのは、お父様やお母様、社会へ意地を張っていただけじゃないのかと。
      わたくしは本当は、ただ喧嘩っ早いだけの、普通の女の子。
      年頃になれば貴族の子息と結婚して、子供を産んで年老いていく……どこにでもいる貴族の女。

      破天荒(はてんこう)な振る舞いをしているのは、それがわたくしの個性。そう思っているから。
      平凡な貴族の女として生きる運命に、(あらが)っていたいから。

      だからかもしれませんわ。
      (わざわ)いをもたらす十三皇子という予言を受け、生まれついての異端を背負ったモルドレッド様に惹かれるのは。

ラーライラ:カテリーナ……

カテリーナ:あら、なんだかわたくしらしく≠りませんわね。

      さあ、パトロールを続け――……

ラーライラ:カテリーナ、聞こえた?

カテリーナ:ええ、たしかに。

ラーライラ:人間の、若い女の悲鳴――!


□6a/同時刻、ログレス街外れ


(漆黒のマントをまとった男が、強姦魔の首を締め上げている)

クドラク:弱い。弱すぎる。
     だから貴様の為す悪は、か弱い女を襲うぐらいしか出来ぬのか。

クドラク:礼か、女?

     何、礼には及ばぬ。
     純潔の代償にお前の魔心臓……
     そう、お前の命をいただくのだからな。


□7/ログレスの街外れ、屋根の崩れた廃墟の傍ら


カテリーナ:こ、これは……!?

ラーライラ:人間の男が、死んでる……!

クドラク:ほう――

     遅かったな。
     事件は既に解決した。

     暴漢は倒れ、娘は我が愛奴(あいど)に堕ちた。
     残念ながら、純潔には一歩手遅れだったようだ。

ラーライラ:その醜い化け物の仮面……
      タイガーズアイ族のエルフを襲った吸血鬼……
      石棺(ひつぎ)の歌い手クドラク!

カテリーナ:あなたは大学院(アカデミア)の女子生徒を連続で拉致した吸血鬼ですわね!

クドラク:さてな。

カテリーナ:とぼけても無駄ですわ!

ラーライラ:種に眠りし、茨の命。
      巻きつき、這い上り、流血の華を咲かせ。

      ()は美しき血染めの薔薇――
      ローズオブペイン!

クドラク:(いばら)縛鎖(ばくさ)か……

カテリーナ:覚悟!

クドラク:フッ――

ラーライラ:体を霧に――!

      カテリーナ、後ろ!

カテリーナ:え――!?

      ぐうっ……!

クドラク:じゃじゃ馬め。
     しばらく眠っていてもらうぞ。

     ――……!?

カテリーナ:わたくしの金剛怪力帯(メギンギョルズ)は、体を鋼鉄の硬さに変える力がありますの。
      吸血鬼の爪なんて、痛くも痒くもありませんわ。

      えええい……やあああああっっ!!!

クドラク:――っ!?

ラーライラ:吸血鬼を投げ飛ばしちゃった……

カテリーナ:成敗、ですわあーっ!

クドラク:そうはいかん――!

カテリーナ:手応え無し――
      また体を霧に変えましたのね!

クドラク:…………

     どうやら貴女たちを見くびり過ぎていたようだ、マドモアゼル。

カテリーナ:被害者の女性はどこへ隠しましたの!

クドラク:フッ、どこにも隠してなどいない。
     お前たちの目の前にいるではないか。

ラーライラ:どこに? 蝙蝠(こうもり)が一匹いるだけ……

      まさか――?

クドラク:往け、半吸血鬼(ダンピール)
     お前を使い潰すにはまだ惜しい。

カテリーナ:蝙蝠――!
      ペットは逃しても、あなたは逮捕ですわよ!

クドラク:勇ましいお嬢さん。
     貴女の武勇に敬意を表し、今宵の狩りはこれにて切り上げよう。

狼:WOOOOO……

  GURURU……

ラーライラ:野犬? ううん狼の群れ……
      どうして人間の街に狼が……

      カテリーナ! くる!

カテリーナ:てえいっ!

狼:ぎゃうんっ!

  …………
  ……

ラーライラ:狼が人間の姿に……

カテリーナ:あ、あれはアガサさん……!?
      どうなっていますの?

クドラク:クックックック――
     その狼どもは、我が愛奴(あいど)半吸血鬼(ダンピール)たち。

     女どもの命が惜しくなければ、存分に倒せ。

ラーライラ:なんて卑劣……!

      ――っ!?
      じゃあ、さっきの蝙蝠は。

クドラク:さらばだ、マドモアゼル。
     貴女たちに、血塗れの夜を――

カテリーナ:大蝙蝠(おおこうもり)に姿を――
      逃げる気ですの、クドラク!

狼:WOOOOOO――……WOON!!!

ラーライラ:追わせないつもり……!

カテリーナ:もう、邪魔ですわーっ!
      でも叩き潰してしまったら……
      でもでもクドラクが逃げてしまいます!

ラーライラ:種に眠りし、堅き命。
      常緑(じょうりょく)の葉を茂らせ、強固なる幹で森を守るもの。
      我らムーンストーン族の友にして、守護者。

      樫樹霊(トレント)たち、狼を押さえつけて!

狼:WOOOO!

  ………………
  …………

  ギッギッギッ!

カテリーナ:今度は蝙蝠に姿を変えてきましたわ!

ラーライラ:どうして魔晶核(ましょうかく)もないのに、人間が変身魔法を――

      っ! 咬まれた……!
      彼女たちを傷つけずに救うには、クドラクを倒さないといけない。

カテリーナ:わたくし、もう頭にきましたわ。

      怒れ雷神の鉄槌! 空へ昇り雲を貫き、天空を走る紫電となれ!
      天雷(てんらい)(とどろ)きとなりて、我が敵を撃ち砕く!
      振り下ろせ、トールハンマー! 覚悟なさいクドラク!

      喰らえ、必殺のミョルニル――っ!!!

クドラク:そ、空からの(いかずち)――!?

     ぐあああああっ――!!!

ラーライラ:大蝙蝠……クドラクが墜落した。
      凄い魔導具(まどうぐ)……!

カテリーナ:わたくしのミョルニルは、一人にしか効果がありませんけれど百発百中!
      狙った敵には必ず落ちますわ。
      おまけに、同じ(いかずち)の魔法ゼウス・ガベルの十倍以上のダメージですのよ!

ラーライラ:……死んじゃったんじゃないの。

カテリーナ:あ――

ラーライラ:…………

クドラク:ぐうう……はああ……
     な、なんという一撃だ……

カテリーナ:よかった! 生きてますわ!
      ラーライラ、今のうちに吸血鬼を捕縛するのですよ!

ラーライラ:うん!

      えっ……

カテリーナ:どうしましたの?

      そ、そんな……
      何かの間違いですわ!

クドラク:私の命が脅かされるとは……
     どうやら本当に甘く見すぎていたようだな……

ラーライラ:その仮面の下……銀色の髪……
      モルドレッドの兄さん……

カテリーナ:そんなわけありませんわ! 他人のそら似です!

クドラク:クックック……ハッハッハッハ――!!

     俺の名は、石棺(ひつぎ)の歌い手クドラク。
     そしてブリタンゲイン帝国第四皇子トリスタン=ルティエンス……

ラーライラ:どうして、あなたがこんなことを……!

クドラク:……繁華街の方が騒がしいな。
     あの(いかずち)で、野次馬どもが集まってきたか。

カテリーナ:トリスタン様、大人しく投降してくださいませ。
      事情は法廷でうかがわせていただきますわ。

狼:ギャウンッ!

(狼が苦鳴と血を吐き、変身魔法の効力を失い、人間の女に戻っていく)
(心臓を貫いた手を戻すクドラクは、瀕死の重傷から健康体へ回復していた)

クドラク:喩え俺の命の泉が枯れようと、無尽にある命の水を注げば、たちどころに傷も癒える。
     そう、此奴らは俺の命の予備(ストック)半吸血鬼(ダンピール)吸血鬼(ヴァンパイア)の奴隷なのだ。
     血の一滴も、魂すらも――

ラーライラ:トリスタン=ルティエンス……
      王位継承争いから自ら身を引いた、穏やかで争い事を嫌い、詩と竪琴を愛する第四皇子。
      そんな人間たちから愛された第四皇子は、あなたにとっては仮面だった……!

カテリーナ:あなたがこんな性根の腐ったゲス野郎だとは、思いもしませんでした。
      そのひび割れた醜い化け物の仮面が、あなたの本性なのですわ!

クドラク:ハハハハハハ! 笑わせてくれる。
     そうだな、その通りだ。

     間抜けどもめ。
     お前たちは偽善の仮面に欺かれていたということだ。

ラーライラ:…………?

カテリーナ:ラーライラ、遠慮は要りませんわ!
      こんな奴、徹底的にぶちのめしてやりましょう!

クドラク:出来れば、お前たちは無事で帰したかった。
     だが、俺の素顔を知ってしまった以上、生かして帰すわけにはいかぬ。

     高貴なる夜(ローゼンブラッド)……
     今宵の帝都を、流血の惨劇で染め上げよう。

     ガアアッ――!

(高らかに宣言すると、クドラクは自らの手首の静脈を食い破る)

カテリーナ:血が溢れ出していきますわ……
      食い破った自らの手首から……
      尽きることなく、血の池のように!

ラーライラ:見て! 血の池から何かが立ち上がる!

      四つの足、二本の角……馬……黒い二角獣(にかくじゅう)――!?

クドラク:ククク……

     吸血鬼の血潮より産まれし化身……
     不純と姦淫(かんいん)を象徴せし、悪しき聖獣バイコーン――

     呪われし夜の一族の血が産み落とす最強の魔法。
     ブラッドアバター……!

     鮮血の羊水を振るい落とし、駆けよバイコーン!

(血溜まりを蹴立てて疾走するバイコーン。突撃を受け止めるカテリーナ)
(瓦礫や埃を舞い散らしながら後退させられていったカテリーナ、煉瓦塀に激突)

カテリーナ:くううっっ――……!!

      ごふっ――!

クドラク:さすがは金剛怪力帯(メギンギョルズ)、と言ったところか。
     煉瓦塀(れんがべい)に激突して無事でいるとは。

カテリーナ:わ、わたくしは重装乙女(ブリュンヒルデ)ですのよっ……
      押しの強い殿方の猛プッシュだって、押し返して見せますっ……

      てやああああっ――!

(煉瓦塀に埋没させられたカテリーナの右手が渾身の力でミョルニルを放り投げる)

カテリーナ:落雷せよ、必殺のミョルニル――!

(極太の稲妻が光の鉄槌となり、大地を打ち砕く)
(黒き二角獣は、全身の血を沸騰させられ黒煙を吐き、赤い霧と化して闇夜に消える)

カテリーナ:や、やりましたわ――……

クドラク:フッ――
     夜は、吸血鬼が支配する時間。
     そして夜の吸血鬼は不滅。何度倒そうとも蘇る。

ラーライラ:赤い霧が……空気中に散った霧が……
      地面にしたたり落ちて、水溜まりになっていく……

カテリーナ:黒い、二角獣(にかくじゅう)……

クドラク:戯れは終わりだ。
     閉ざされた処女地に押し入り、花弁(はなびら)を踏み荒らす。

カテリーナ:くう、あっ……
      そんな、金剛怪力帯(メギンギョルズ)の鋼鉄の体がっ……

クドラク:鋼鉄の貞操帯(ていそうたい)も、バイコーンの角には無力。
     悪しき聖獣の角は、如何なる魔法の守りも貫く。

     串刺しになれ、乙女。
     黒き獣に犯され、断末魔の絶頂を迎えよ。

カテリーナ:ぐうっ――あああああああっっ!!!

クドラク:…………

ラーライラ:クドラク……トリスタン。

クドラク:次はお前の番だ、ハーフエルフ。

ラーライラ:あなたは本当にこれを望んでいるの……?

クドラク:時間稼ぎなど無駄だ。くだらん戯れ言に付き合うつもりはない。

ラーライラ:私、見てしまった。
      ほんの一瞬、あなたの苦しそうな顔……

      冷酷な吸血鬼こそ、あなたの仮面――

クドラク:――……!?

     ちぃっ、野次馬どもが集まってきたか。

ラーライラ:早く! こっち!
      カテリーナが、倒れている人間がいる!

      ――っ!?

(立ち並ぶ樫樹霊たちを飛び越えてきたクドラクが疾走、驚くラーライラの首元に爪を打ち込む)

クドラク:大人しく眠ってもらおう。

     散れ、半吸血鬼(ダンピール)ども。
     速やかに日常へ戻れ。

     ここで捕まるわけにはいかぬ……
     惨劇の夜は、まだ宵の口に過ぎぬのだからな――


□8/帝都治療院、集中治療室



モルドレッド:カテリーナ――!

パーシヴァル:先生、カテリーナの容態は!?

治療師:現場に到着した救命士の応急措置で一命を取り留め、
     また運び込まれた当院で緊急治療を受けたので、今は外傷一つありません。

     しかし心臓など主要な臓器を破壊され、仮死状態が続いたために、脳に深刻なダメージを負っている危険があります。
     現在も昏睡状態……もし目覚めても記憶障害、半身不随など後遺症が残る可能性も……

モルドレッド:すまない……
       俺がお前の護衛についていれば、こんな事態は防げたのに……!

カテリーナ:モルド、レッド様……

モルドレッド:カテリーナ! 目を覚ましたのか!

カテリーナ:お伝え、したいことがございますの……顔を近くに……

モルドレッド:ああ。

カテリーナ:もっと、ですわ……

モルドレッド:わかった。

       ……なんだその手は。
       おい、離せ、むおぁっ!?

カテリーナ:やりましたわーっ!
      ついにモルドレッド様のくちびるを奪いました!

モルドレッド:何を考えてるんだ貴様は!

カテリーナ:ウルフスタイン伯爵家、家訓八条。
     欲しいものは力尽くで奪い取れ

モルドレッド:それはただの犯罪だろう!
       何が意識不明の重体だ、人を心配させておいて!

       ぺっ、ぺっ!

カテリーナ:ああっ、吐くなんてあんまりですわっ!
      わたくし、ショックのあまり意識が遠くなって参りました。

モルドレッド:気絶するなら勝手に気絶しろ。
       その前に、吸血鬼クドラクの情報だけは説明してもらう。

カテリーナ:…………

      石棺(ひつぎ)の歌い手クドラク。
      あの吸血鬼の正体は――……
      ブリタンゲイン帝国第四皇子、トリスタン=ルティエンスですわ。

パーシヴァル:ええっ、トリス兄さんが!?

モルドレッド:バカな……お前は何を言っている……!?

カテリーナ:トリスタンの領地を、ワラキア公国を調べてくださいませ。
      ラーライラは、まだ生きています……そこにあの子が…… 

      お願い、です……
      ラーライラを、助けてください、ませ……

モルドレッド:おいカテリーナ! カテリーナ!

        まったく、言いたいことだけ言って眠ってしまうとは。

パーシヴァル:大丈夫だよ、カテリーナなら。
         ふざけて冗談も言えるんだから、後遺症なんて残らないに決まってるさ。

モルドレッド:…………

       だがしかし、本当なのか。
       兄上が……トリスタン=ルティエンスが、吸血鬼クドラクなど……

       ラーライラ――……


□9/闇夜の荒原、岩地を駆けるクドラク



クドラク:ハーフエルフか。
     今宵の狩りは思わぬ騒動となったが、思わぬ収穫も得られた。

ラーライラ:モルド、レッド……
      助け、て……

クドラク:もはや残された時間はない。
     今まで顔見知りの女は避けてきたが……

     いや、もう後には引けぬのだ。
     悪に堕ちるとは、誇りも、絆も、人としての情も全てを捨てるということ。

     私は……俺はクドラク。
     闇に紛れ、生き血を啜る吸血鬼だ――



※クリックしていただけると励みになります

index