The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第14話 聖獣の涙

★配役:♂4♀1両3=計8人

▼登場人物

モルドレッド=ブラックモア♂:

十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。

魔導具:【-救世十字架(ロンギヌス)-】

パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。

魔導具:【-自在なる叡知(アヴァロン)-】
魔導系統:【-元素魔法(エレメンタル)-】

ラーライラ=ムーンストーン♀
二十七歳の樹霊使い(ドルイド)(外見年齢は十三歳程度)。
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の一員。
人間の父と、エルフの母のあいだに生まれたハーフエルフ。
『ムーンストーン族』のエルフには見られない青髪と碧眼は、父親譲りのもの。

父親が魔因子を持たない人間だったので、〈魔心臓〉しか受け継がなかった。
エルフながら魔法を使うためには、魔導具の補助が必要である。

魔導具:【-緑の花冠(フェアリー・ディアナ)-】
魔導系統:【-樹霊喚起歌(ネモレンシス)-】

ベイリン=ウル=ハサン♂
二十六歳の酋長。『砂漠の人食い熊』と恐れられる熊獣人。
ブリタンゲイン五十四世の六番目の子。

母親は、獣人の血の混ざった異民族ウル・ハサン人。
皇位継承権は放棄し、砂漠の国ウル・ハサンの酋長として、ザーンの街を治めている。

獣人は準魔因子持ちの種族で、魔法を使うための〈魔晶核〉のみ形成される。
先天的に魔力を生成する〈魔心臓〉を持たないので、魔法は短時間しか使えない。

魔導系統:【-聖獣化(ガルゥ・アンドレアル)-】

トリスタン=ルティエンス♂:
二十九歳の弓騎士。『黄昏の貴公子』の異名を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の四番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、『陸軍弓兵師団』の団長。

母は、ルティエンス公爵の一人娘オリヴィア。
皇帝は類い希な美貌を持つオリヴィアを気に入り側室に迎えたが、
娘イゾルデを生んだ三年後、オリヴィアは若くして亡くなった。

祖父の公爵亡き後、皇位継承権は自ら放棄し、ルティエンス公爵家を継いだ。

魔導具:【-月弦の銀竪琴(フェイルノート)-】
魔導系統:???

聖獣アンドレアル♂
オルドネアの十三使徒の一人。
古代魔法王国の民で、獣人族の祖先とされる。
現代の獣人よりも、遙かに強力な獣に変身した。

古代人は完全な魔因子を持っていたとされる。
〈魔晶核〉も〈魔心臓〉も共に正常に形成され、優れた魔法を行使した。
長い時間が流れるあいだに、魔因子は毀損してしまい、
〈魔晶核〉か〈魔心臓〉の片方しか形成されない準魔因子となって残るのみとなった。

魔導系統:【-旱魃の大洪水(デ・リュウジ・アパオシャ)-】

※アンドレアルは、ベイリンとの二役です

帝国指揮官両
ウル・ハサン攻略を任された帝国陸軍大佐。
獣人に対して差別意識を持っており、非道な作戦を行う。

※モブキャラですが、セリフが多いので配役キャラとしました。

獣人A/帝国兵A両
獣人B/帝国兵B両

(獣人はモブキャラですが、ややセリフ多めなので配役キャラ扱いとしました)
(配役キャラとしていますが、被り役でも構いません)


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。



□1/ドーア砦、地下洞窟


ベイリン:ハアアアアアアァァ……!
     これが悪魔の魔心臓かぁぁァ……!
     この魔力……! この強さ……!
     やれるぞ……今の俺なら……!

パーシヴァル:アンドレアルは、現代の獣人たちには失われてしまった、悪魔と渡り合えるほどの獣化魔法を使う。
         早く兄さんを止めないと、とんでもない聖獣と戦わないといけなくなるよ!

モルドレッド:兄上!
        いくら獣人族を救うという大義があろうと、
        悪魔に魂と肉体を売り渡し、帝国に内乱の火種を撒くなど、
        それはアンドレアルの魂に対する冒涜(ぼうとく)だ!

ラーライラ:暴力に訴えたら、誰も聞く耳を持たなくなる。

      エルフ族は話し合った。
      行き違いもあった。約束を反故(ほご)にされた。
      それでもだんだん人間と分かり合えてきている。

      ベイリン、あなたも考え直して!

ベイリン:ご高説だな、嬢ちゃん。
      エルフは古代人並の魔法が使え、高い知性を持つ。
      文明が発達した近代でも、昔と変わらずに敬われている。
      エルフたちは対等の相手として、同じテーブルに着くことを認められているんだ。

      だが獣人は違う。
      人間は当たり前に文字や数字を扱えるが、獣人にはその当たり前が出来ねえ。
      文明が発達し、勉学や経済が普及するにつれ、人間と獣人の差は決定的になってきた。
      俺たちは軽んじられ、見下され、社会の底辺に追いやられていった。

      一度見下される存在に落ちると、後は何を言っても取り合っちゃもらえねえ。
      いったい帝国の何処に行けば、俺たちの話を聞いてもらえる?
      いったい帝国の誰が、獣人の境遇を(あわ)れみ、対等に扱ってくれる?

モルドレッド:大英円卓(ザ・ラウンド)だ!
       帝国の王族が共に一つの大円卓を囲み、対等な一人の騎士として、帝国の行く末を語り合う。
       兄上、あなたも円卓の騎士の一人であろう!
       大英円卓(ザ・ラウンド)で獣人族の窮状(きゅうじょう)を訴えれば、きっと道は開ける!

ベイリン:ハッ――そんなものは建前だ。
      俺は嫌というほど味わった。
      お前は円卓の騎士から外されたからわからねえんだよ、モルドレッド。
      そうだろう、パーシヴァル?

パーシヴァル:それは……
 
ベイリン:軍人はガウェインを、聖職者はランスロットを、商人はケイを、貴族はトリスタンを。
      巨大な力を持つ勢力が、それぞれの円卓の騎士を傀儡(かいらい)に仕立てて、薄汚い抗争を繰り広げている。

      力も金も無い者の声は、誰も取り合わない。
      『二等国民』なんてレッテルを貼って、差別を増長するぐらいだ。

      くだらねえ。
      大英円卓(ザ・ラウンド)なんざ、クソ喰らえだ。

モルドレッド:それこそ兄上の偏見だ!
        兄上は、もっと周りの人間に訴えていくべきだった!
        ランスロット兄さんや、トリスタン兄さんなら関心を寄せてくれるはずだ!
        ラーライラの言うように、話し合えば分かり合える!

ベイリン:モルドレッド、お前はいつまで安っぽい理想を振りかざすんだ。
      俺が六年間、何もせずに嘆いていただけだと思ってやがるのか。

      てめえら聖職者は、自分では泥を被らず汗も流さす、涼しい顔で説教をする。
      虫酸が走るぜ。

モルドレッド:兄上えぇ――っ!!!

ベイリン:しゃらくせえっ!!

(ロンギヌスを携え、突撃していったモルドレッドを、ベイリンは衝撃波を伴った気魄だけで吹き飛ばす)

パーシヴァル:モルっ!

モルドレッド:くっ……

ベイリン:モルドレッド、パーシヴァル。
      お前らはいい子だ。
      俺が十六、七の頃より、遙かに出来てやがる。
      だがな、それでもまだお前らはガキだ。

      お前たちは、挫折の味を知らない。
      誰もが幸せになれる未来があると――
      そして自分たちは、その未来を掴み取れると――

      無限の可能性を信じて、好き放題に言ってるうちは、まだガキだ。

モルドレッド:…………

ベイリン:自惚れてるんじゃねえぞ、ガキども!
      このベイリン様が、てめえらの手に負えると思ってやがるのか!
      とっとと逃げ帰って、兄貴どもに泣きつけ!

パーシヴァル:離れろモルっ!
         魔法が完成する!

ベイリン:……早く失せろ。
      俺の、理性が残っているうちに……

モルドレッド:あ……兄上……!


□2/地下洞窟の天井に届く巨獣を前に、立ち尽くす三人


ラーライラ:これがアンドレアル……?
      変身した獣人たちとは全然違う……!
      
      ただの獣じゃない。
      伝説上の獣……地上にはいない獣……

モルドレッド:なんて大きさだ……
        ロック鳥や砂漠の蟻地獄(デザートヘル)が小物にしか見えない。

パーシヴァル:失われた変身魔法の一つなんだろうね。
        昔の獣人――古代人は、ただの獣以上の獣に変身出来た。
        魔心臓の因子が無くなっていくにつれ、魔晶核の魔法も弱くなっていって、
        短い時間、普通の獣に変身する程度になった――

アンドレアル:ガアアアア……
        俺ハ誰ダ……

        獣人族ノ酋長ベイリン……
        オルドネアノ使徒アンドレアル……

        一体ドチラノ存在ダッタノカ……
        ワカラン……俺ハ何者ナノダ……

モルドレッド:記憶が混乱している――?
        パーシヴァル、これはどういうことだ?

パーシヴァル:大学院(アカデミア)で読んだ論文によると、魔晶核には記憶の断片……古代人の残留思念が残っているとされる。
         魔晶核を直接額に埋め込んでいた時代、多くの魔導師が精神に異常をきたした。その原因の一つじゃないかって言われてる。

         魔導具を仲介して魔法を使う理由の一つだよ。

ラーライラ:私、ときどき夢に見ることがある。
       行ったことのない場所、知らない人間やエルフたち。
       緑の花冠(フェアリー・ディアナ)……母さんの魔晶核の記憶なのかも。

モルドレッド:魔晶核に残る残留思念か……
        あのネクロマンサーも、自分自身の魔晶核に魂を封じ込めて現世に留まり続けていた。
        同じ古代人のアンドレアルなら――

アンドレアル:何モワカラン……

        ダガ地上カラ、声ガ聞コエル。
        哀シミ嘆ク声ガ……
        俺ヲ千年ノ眠リカラ呼ビ覚マシタ声ガ……

パーシヴァル:アンドレアルが動き出したよ!

モルドレッド:使徒アンドレアル! 待って欲しい!
        あなたが地上に出ては、事態は混乱を招くだけだ!

アンドレアル:アンドレアル……

        ソウダ! 俺ノ名ハ、アンドレアル!
        オルドネアノ使徒!
         此ノ世ニ蔓延ル悪ヲ食イ殺ス。
        ソレガ俺ノ使命ダ――!

モルドレッド:あなたは怒りと哀しみの念に囚われている!
        そんなあなたが地上へ出ては、さらなる怒りと哀しみを生んでしまう!

アンドレアル:邪魔ダ退()ケッ!
        俺ノ邪魔ヲスル奴ハ容赦セン!

モルドレッド:くっ、話し合いは無理かっ!

アンドレアル:グオッ! 光の障壁――ッ!

モルドレッド:今度はこちらからだ!

アンドレアル:遅イッ!

モルドレッド:空振り!?
        この巨体で、なんて身軽さだ……!

        動きを封じてくれ!
        攻撃が当てられん!

パーシヴァル:時の風化に晒されし黄砂(こうさ)よ。
        今一度いにしえの姿を取り戻し、
        我が敵を岩石に封じ込めよ。

        ロック・プリズン!

        あれ……?

ラーライラ:岩石の(おり)が分解されて砂に戻っていく。
       あれって……パピルサグと同じ魔法耐性?

モルドレッド:兄上は夥しい数の悪魔を、その肉体に宿した。
       ならば、悪魔の魔法免疫を獲得していてもおかしくはない……

パーシヴァル:げっ……!
       ひょっとしておいら、また役立たず?

アンドレアル:ガアアアア……

       俺ハ百獣ノ(おさ)アンドレアル!
       鳴動(めいどう)セヨ! 躍動(やくどう)セヨ!
       大地ヨ荒ブレ! 罪深キ命ヲ圧殺シロ!

モルドレッド:地震だ! 気をつけろ!

ラーライラ:激しい揺れ!
       立っていられないっ!

パーシヴァル:地面の揺れだけならまだいいよ!
        それより危ないのは――

ラーライラ:きゃあっ!
       天井から大きな岩の塊!

       落盤が起こる……!

モルドレッド:二人とも近寄れ!
        ロンギヌスの結界で守る!

パーシヴァル:このまま地震が続けば、天井が崩落する。
         そしたら、おいらたちは生き埋めだ。

モルドレッド:結界に籠もって、チャンスを見つけるしかない……!
        何かいい作戦を考えてくれ、パーシヴァル!

パーシヴァル:よーく考えた結果、おいらには手の打ちようがないって結論が出た。
         ラーライラ、何とかならない!?

ラーライラ:……待って。考える。

アンドレアル:鼠ドモ、巣穴カラ(いぶ)リ出シテヤルゾ。
         ガアハアアア――!

パーシヴァル:口腔から岩の塊を撃ち出してきた!

モルドレッド:ぐうっ――!!
        まるで砲弾並の威力だ……!
        あまり何度もは、耐えられないぞ――!

アンドレアル:俺ノ邪魔ヲスル奴は、叩キ殺ス!

パーシヴァル:きた! 大岩の塊!

モルドレッド:オルドネアよ、暴威を阻む結界を――!

ラーライラ:この音色は……竪琴?

モルドレッド:っ――!

        衝撃が軽い……?
        小石の飛礫(つぶて)……?

アンドレアル:大地ノ鉄槌ヲ、木端微塵ニ……

        何者ダ――!?

トリスタン:危ないところでしたね。
       間に合って良かった。

パーシヴァル:トリスタン兄さん!
         どうしてここへ!?

トリスタン:帝国陸軍は、獣人の反乱軍を破り、ウル・ハサンに突入しました。
       現在、ザーンの街で市街戦が繰り広げられています。

       私はあなたたちの救出と、ベイリンの説得を試みるべく、
       単身でドーア砦に乗り込んだのですが……遅かったようですね。

モルドレッド:俺たちを地下牢から助け出してくれたのは兄上が?

トリスタン:地下牢、ですか?
       いいえ、私は真っ直ぐ広間に向かったので――

アンドレアル:ガアアアアア――!!!

パーシヴァル:また岩の砲弾を飛ばしてきた! 今度は何連発もっ!

トリスタン:掻き鳴らせ、女神の指先よ。

       獣たちの雄叫びを、譚詩(バラード)に変えて。
       虐げられし者たちの、反逆の歌を唄おう……

ラーライラ:不思議な音色……

       見て!
       飛んできた岩石が、空中で砕け散ってる!

トリスタン:魔力を指先に乗せ、月光銀の(げん)で、振幅(しんぷく)増幅(ぞうふく)して弾き出す。
       私の竪琴、月弦の銀竪琴(フェイルノート)は、魔力の衝撃波を放つ魔導具なのです。

ラーライラ:竪琴が弓で、音色が矢……

パーシヴァル:トリスタン=ルティエンス。
        戦場で奏でる竪琴で敵を射る、黄昏(たそがれ)の貴公子。
        『陸軍弓兵師団(りくぐんきゅうへいしだん)』の団長で、おいらたちの兄さんさ。

トリスタン:……オルドネアの十三使徒の一人、アンドレアル。
       あれは、ベイリンなのですね?

モルドレッド:ええ。
        ベイリン兄さんは無数の悪魔を肉体に受け入れることで、
        悪魔の魔心臓を宿し、使徒アンドレアルの魔晶核を使った。
        そして、精神までもアンドレアルそのものになってしまった……

        そしてアンドレアルは、あの通り――

ラーライラ:怒りと憎しみに囚われて、理性を失っている。
       ……正気じゃない。

パーシヴァル:聖獣っていうより、もうあれは魔獣だよ。

アンドレアル:コノ血ノ臭イ……間違イナイ、夜ノ一族――!

トリスタン:唄え、月弦の銀竪琴(フェイルノート)
       怒れる聖獣の咆哮(こえ)に、鎮めの詩歌(しいか)を――

モルドレッド:飛沫(しぶき)になって飛び散った――!?

トリスタン:迂闊でしたね。あれは岩ではなく泥の塊……

パーシヴァル:兄さん、その腕――!

トリスタン:ええ、動きません。
      泥の飛沫が瞬く間に硬化してしまった……

      この泥は、超速乾性のセメントです。

ラーライラ:不用意に泥の塊を撃ち落とすと、セメントの飛沫を浴びて、石化させられるってこと!?

モルドレッド:兄上! ひとまずロンギヌスの障壁の中へ!
        凝固する泥を浴び続ければ、石化させられてしまう!

トリスタン:ありがとう、モルドレッド。
      しかし、気遣いは要りません。

      ここは私が食い止めます。
      三人とも、先に脱出を。

モルドレッド:そんな――!
        兄上を置いて逃げるなど――!

パーシヴァル:トリスタン兄さんなら大丈夫だよ。
       戦場の単身突入から何度も生還した、天才なんだ。

トリスタン:フフ、日差しに弱い虚弱体質でもありますが。

アンドレアル:貴様ラ溝鼠(どぶねずみ)ドモヲ地上ニハ出サセンゾ。
        コノ地底ガ、オ前タチノ墓場ダ――!

パーシヴァル:また地震だ! どうあってもおいらたちを逃がさないつもりだよ!

モルドレッド:落盤の危険がある限り、結界を解いて逃げ出すのは不可能……
        どうすれば……

ラーライラ:崩落なら、私が防ぐ。

       種に眠りし、緑の命。
       地中を這い進み、根を張り巡らすもの……

       天井を支えて、クリーパー!

モルドレッド:植物の根が、崩れる洞窟の天井を支えている……!

ラーライラ:パーシヴァルに言われてから、ずっと準備してた。
       しばらくは大丈夫なはず。

パーシヴァル:凄いよ、ラーライラ!
         落盤の酷かった天井が、嘘みたいにしっかりしてる。

トリスタン:私も機会を見つけて脱出します。
      行きなさい、三人とも。

モルドレッド:兄上、ご武運を――!

パーシヴァル:またね、兄さん!

ラーライラ:……ありがとう。

トリスタン:――行きましたか。

アンドレアル:貴様ガ人間ノ味方ヲスルトハ……
         ドウイウ風ノ吹キ回シダ……

トリスタン:誰かと誤解しているようですね、アンドレアル。
       私はトリスタン=ルティエンス。ブリタンゲイン帝国の第四皇子です。

       さあ、暗闇の地底で、私と夜会を踊ろう。
       奏でてくれ、月弦の銀竪琴(フェイルノート)……
      砂漠の人食い熊≠フ血塗れの正義と、偽善すら偽りの黄昏の貴公子≠フ円舞を……


□3/戦火の広がるザーンの街


モルドレッド:帝国陸軍……!
       既に戦端(せんたん)の火ぶたは切って落とされていたか!

パーシヴァル:【自在なる叡智(アヴァロン)】、起動(ブート)
         〈紅蓮ノ山(ティルナ)〉、〈氷霜ノ山(ノーグ)〉、巡視仕様(パトロールモード)開始――……

モルドレッド:様子はどうだ、パーシヴァル?

パーシヴァル:市街戦だね。
         街のあちこちで戦闘になっているよ。
         下手に動くと、流れ弾に当たりそう。

ラーライラ:これが鉄砲?
       耳から頭を撃ち抜かれるみたい。
       街中がすごく凶暴な音で満たされてる……

帝国指揮官:鉄砲隊第一列、構え!
        目標、前方の狼獣人(ガルゥ・ウルフ)六体!
        獣人の俊敏さを考慮し、扇状に立体射撃!

        撃て――!

モルドレッド:……制圧は時間の問題だろうな。
        アンドレアルのような伝説上の聖獣ならともかく、
        現代の獣人たちは、知能を持った獣に過ぎない。

パーシヴァル:さすがに獣人の生態の多様さは、一筋縄ではいかないだろうけど……
        もう昔ほど、手も足も出ない恐ろしい怪物ってほどじゃなくなってるね。

ラーライラ:……私、人間が恐ろしい。
       魔法を使えない人間でさえ、鉄砲なんて、こんなにも凶暴な力を振るう。
       だからタイガーズアイ族のルィンヘンは、人間と和を結ぼうとしていたのね。

       いずれ私たちエルフも、あの可哀想な獣人みたいに……

パーシヴァル:それはないさ。
         いくら科学の力が凄いとはいえ、まだまだ魔法の足元にも及ばない。
         鉄砲部隊がどれだけ集まっても、エルフの樹霊喚起歌(ネモレンシス)であっという間に壊滅だよ。

モルドレッド:ああ。
        それに魔法は戦争の道具だけではない。
        エルフの地位が失墜(しっつい)することは無いだろう。

ラーライラ:…………

帝国指揮官:全部隊、進路を空けろ。
       魔導装機(まどうそうき)隊が到着したぞ!

ラーライラ:あれは……
     心無き巨人兵=c…!?

パーシヴァル:あれ?
         ラーライラ、魔導装機のこと知ってるの?

ラーライラ:かつて栄華を極めた、いにしえの魔法王国。
       錬金術の秘法により、鉄の骨と人工の筋肉で造られた、心無き巨人の兵士。

       族長様が教えてくれた。

パーシヴァル:そうそう。
        魔導装機は、その巨人兵と同じ製法で造られたんだ。
        といっても、その錬金術は一部しか発見されてないから、半分オリジナルだけどね。

帝国指揮官:魔導装機メメント――
        フフン、これで戦況は一気に片がつくぞ。

        魔導装機隊、進撃開始!
        帝国陸軍の威光を示してやるのだ!

ラーライラ:ねえ、伝承通りあの巨人たちは心を持たないの?

モルドレッド:心なんてあるわけがないだろう。
        魔導装機は、生き物ではなく、魔導式の機械だぞ。
        そんなこともわからないのか?

ラーライラ:…………

パーシヴァル:えっとね、ラーライラっ!
         魔導装機は、魔導式機械と同じ原理で、搭乗者の魔心臓をエンジンに動く。
         おいらたちがウル・ハサンにくるために使ったジープと同じものさ。

ラーライラ:パーシヴァルは優しいのね。誰かと違って。

モルドレッド:誰かじゃなくて、俺だと名指しで言ったらどうだ。

ラーライラ:じゃあ、意地悪なモルドレッド。
      なんでいつもそんな、人を見下したような言い方するの?

モルドレッド:何だと!?
         お前こそ不勉強を棚に上げて俺に因縁をつけるな――!

パーシヴァル:まあまあまあまあ。
         でも心がないって言うのは、面白い(たと)えだよね。
         機械であることと、魔心臓がないことを掛けたんだろうけど。

帝国指揮官:前方より猪獣人(ガルゥ・ボア)の群れが突撃してくるぞ。
         魔導装機隊、横隊を組み、臨戦待機。

         ランス構え! 貫け!

モルドレッド:魔導装機メメント。
        旧式だが、鉄の骨と人工筋肉の生み出す力は圧倒的だな。
        猪の群れが、蟻のように蹴散らされていく……

帝国指揮官:フン。
        獣人の取り得など、せいぜい馬鹿力程度。
        モンスターと何の変わりもない。

        魔導装機隊!
        獣人どもの隠れる、邪魔な建物を根こそぎ破壊するのだ。

獣人A:家が、家が崩されていく!

帝国指揮官:フフフ、獣人が飛び出してきたぞ!
        歩兵隊、よおく狙え!

獣人B:ベイリン様は――! 『ハ・デスの生き霊』は――!

帝国指揮官:フハハハハ。
        撃て! 撃ち殺せ!

        大英帝国(ブリタンゲイン)に逆らった、劣等人種どもを皆殺しにするのだ!

獣人A:血が、血が止まらないっ……!

獣人B:誰か助けて……! 誰か……!

獣人A:畜生……!
     ベイリンなど、『ハ・デスの生き霊』など信じたのが間違いだった……

獣人B:獣人は……人間の奴隷として生きる宿命(さだめ)……
     変えられるはずなど、なかった……!

帝国指揮官:よし、残るは反逆者ベイリンだけだ。
        ガウェイン元帥閣下からは、必ず奴を生かして捕えるように(おお)せつかっているが――
        何、手足の一、二本ならもぎ取っても構わん。
        どの道、奴は戦争裁判に掛けられた後、処刑されるのは確定しているのだからな。

        全部隊――!
        魔導装機隊を陣頭に、ドーア砦に進撃!

モルドレッド:――何だ、この音は?

ラーライラ:見て! 砦が――!

パーシヴァル:ドーア砦の正門が崩れるよ!
         あれは……

モルドレッド:兄上……!
        聖獣アンドレアル……!


□4/ドーア砦の正門を崩し、巨大な姿を現す聖獣アンドレアル



アンドレアル:ガアアアアア……
        哀シミガ、満チ溢レテイル……
        コレガ俺ノ守ッタ世界ナノカ……

帝国指揮官:な、何だあの巨大な獣は……!

獣人A:アンドレアルだ……!
     オルドネアの使徒アンドレアルが蘇ったんだ!

獣人B:アンドレアル様……!
     どうか私たちを救ってください!

帝国指揮官:怯むな!
        獣人など、図体がでかいだけの畜生に過ぎん!

        魔導装機隊、突撃せよ!

アンドレアル:オ前タチノ哀シミ、シカト聞キ届ケタ。
        思イ上ガッタ人間ドモ、最早(もはや)怒リノ治水(ちすい)ハ叶ワン。
        我ラ獣人ノ、報復ノ大波ヲ思イ知レ!

ラーライラ:地震――!?
       さっきの地下洞窟より、さらに激しいっ!

パーシヴァル:地下の奥底から、凄い魔力のうねりを感じる……
         あっ、地割れから水が噴き出してきた!

モルドレッド:逆巻く水の壁……!
        数メートルはある高さだ……

        落下するぞ――!

帝国指揮官:そ、総員退避!
        洪水に巻き込まれるな――!

        うわああああ――っっ!!!

獣人A:帝国軍が押し流されていくぞ!

獣人B:アンドレアル様、バンザーイ!

モルドレッド:これは……
        まるで箱船伝承の一節を見ているかのようだ……!

ラーライラ:悪徳の街ゴモルを押し流した洪水の話?

パーシヴァル:ゴモルの街や大洪水が本当にあったのかはわからないけど、
        アンドレアルの魔法が形を変えて伝わったのは、確実だと思うよ。

        聖獣アンドレアルは、洪水を引き起こす戦略魔法の使い手だったんだ……

ラーライラ:アンドレアルは、大地の加護を受けているのかと思っていた。
       でも真の属性は水……水をつかさどる聖獣だったのね。

パーシヴァル:考えてみれば、ザーンは砂漠の街なのに、水に困ってる様子はなかったよね。
         アンドレアルの魔晶核が、砂漠中の水を引き寄せ、オアシスを作っていたと考えれば納得がいく。

アンドレアル:遠イ昔……
         奴ハ、人間ヲ守ッタコトヲ後悔スルト、ソウ予言シタ。

         思イ出セン……
         奴ノ名ハ……

帝国指揮官:魔導装機隊! メメントは無事か!?

帝国兵A:はっ! こちら全隊無事です!

帝国兵B:こちらメメント二機が中破……戦闘継続は不能です。

帝国指揮官:おのれ……
        獣人ごときが、貴重な魔導装機を二機も壊しおって。

        全軍に告ぐ!
        密集隊形は、洪水の戦略魔法の餌食になるぞ!
        散開し、一斉に襲撃しろ!

アンドレアル:グオオ……思イ出シタゾ……!
        ジュダ、ソウダ、奴ノ名ハジュダ……

        ジュダヨ、オ前ハ正シカッタ。
        間違ッテイタノハ、俺ダッタ――!

モルドレッド:くっ、また地震だ!

ラーライラ:大地が泣いている……
      僅かに残った砂漠の水を、一滴残らず吸い上げられているから……

パーシヴァル:四メートル、五メートル……まだ噴き上がる!
        水の壁の高さが、ありえないことになってきてるよ!
        砂漠のどこに、こんな水があるんだよっ!

帝国指揮官:ば、馬鹿な……!

        あの化け物は、ザーンの街の獣人もろとも、我々を押し流すつもりか!?

ラーライラ:今のアンドレアルは、悪魔のよう……
       死の旱魃(かんばつ)……
       カルダン砂漠はモンスターすら()めない、不毛の世界に変わる……!

アンドレアル:千年前、救世主ノ理想ニ従ッタノハ過チダッタ――!
        消エ去レ、下等ナ人間ドモ!
        世界ハ、魔因子ヲ持ツ我ラ選バレシ民ノモノダ!

モルドレッド:大波が地面に落ちる――!
        耐えられるか、ロンギヌスの結界で!?

パーシヴァル:それより、おいらの浮遊魔法だよ!
        二人とも、おいらの隣に固まって!
        全速力で上空へ逃げれば――

ラーライラ:――私が抑え込む。
      モルドレッド、パーシヴァル。
      私にしっかり掴まっていて。

      我が内に眠りし、古き命。
      目覚めよ、月長石の種を破りて。

      其は悠遠(とこしえ)に根差す世界樹。
      ユグドラシルフォーム!

獣人A:ゴボッゴボッ――……

     ゲホッゲホッ……

獣人B:こ、洪水が引いた……

獣人A:な、何だあの大木は――!

獣人B:あれは……まるで……

帝国指揮官:世界樹だ……
        トゥルードの森の神樹……

        一体何故こんなところに突然――!?

モルドレッド:どうやら命拾いしたようだな……

パーシヴァル:これが世界樹……
         す、すっげえ高さ……
         おいら、ちょっとチビりそう……

モルドレッド:今、地上は大洪水だ。
        もしチビったときは、飛び降りればいい。
        地上は水浸しだから、上手く誤魔化せるぞ。

パーシヴァル:ありがたい提案だけど、地表の水がどんどん引いていくよ。

モルドレッド:地下に染み込んでいるのか――?

ラーライラ:涙枯れ果て、怒りに揺れ動く大地。
       私は世界樹――あなたの上に生きる者。

       大地よ、どうか地震を起こすのは止めて。
       地層の奥深くに亀裂が走り、あなたが傷ついていってしまう。

       あなたに生命の源、命の水を還す。
       受け取って、世界樹(わたし)の根を通じて――

アンドレアル:アレハ、使徒シャダイ。
        大地ガ、水ガ、俺ノ声ニ応エン……!
        何故俺ノ邪魔ヲスル、シャダイ!

        俺ノ邪魔ヲスルナラ、貴様モ八ツ裂キダ――!

パーシヴァル:うわっ、こっちに襲い掛かってくるっ!

ラーライラ:私は、水と植物と生きるエルフ――
       大地に不毛と旱魃の種を撒くなら、お前を許さない!

モルドレッド:地面が盛り上がっていく!
        大樹の根!
        凄まじい……! 根の波濤(はとう)だ!

アンドレアル:ガアアア――ッ!!!

ラーライラ:接近されるのはわかっていたっ!
       降り注げ緑の刃!
       (ひいらぎ)太刀風(たちかぜ)

アンドレアル:俺ハ怯マン――ッ!

パーシヴァル:嘘だろ、そのまま突っ込んできた!
         全身切り刻まれて、血塗れなのに!

モルドレッド:……衝撃が来るぞっ!

アンドレアル:死ネ、シャダイッ!

ラーライラ:きゃあああああっ!!

パーシヴァル:うわっ、世界樹から落ちる……

       モル――っ!!!

モルドレッド:パーシヴァル――ッッ!!



□5/ザーンの街、激しい砂煙が濛々と立ち込める激突地点


モルドレッド:ゴホッゴホッ――!
       凄まじい砂煙……
       世界樹と聖獣、シャダイとアンドレアルの激突はハンパではないな……

       パーシヴァルは!?
       パーシヴァル――!

パーシヴァル:おーい、モルーっ!

モルドレッド:パーシヴァル!
        それに――兄上!?

トリスタン:辛うじて、空中のパーシヴァルを拾うことが出来ました。
       あなたも無事のようですね、モルドレッド。

モルドレッド:ええ、咄嗟(とっさ)に展開したロンギヌスの結界でどうにか。
        それよりもラーライラは!?

ラーライラ:くうっ! ああっ!
      ユグドラシルフォームがもう……

      ごめんなさい……
      私じゃ、カルダンの大地を守れない……
      モルドレッド、後は……

アンドレアル:グルルルル――
         シャダイハ倒シタ。

        水ヨ、大地ヨ、荒ブレ!
        今コソ千年前ノ過チヲ正サン!

モルドレッド:地震が再開した!
        かつてない規模だ……!
        これが発動したら、今度こそザーンの街は水没するぞ!

パーシヴァル:アンドレアルが逃げ出したよ!
         屋根を足場に、建物から建物へ高速移動――
         あいつ、魔法の発動まで時間を稼ぐつもりだ!

トリスタン:……モルドレッド、パーシヴァル。
       後を頼みます。

       アンドレアル。
       かくなる上は、私がお前を倒す。

アンドレアル:夜ノ魔物メ! マダ生キテイタノカ!

トリスタン:予定外だが、仕方あるまい。
       往くぞ――!

モルドレッド:パーシヴァル!
        奴の速度と渡り合えるように出来ないか!?
        兄上もアンドレアルも早すぎて、俺では追いつけん!

パーシヴァル:加速の魔法はあるよ。
         けど、あいつはただ素早いだけじゃなくて、獣の平衡感覚と瞬発力を持っている。

         あいつと互角の速度を得ようとしたら、それこそ筋肉が破裂し、神経が焼き切れるまで加速しないと駄目だ。

モルドレッド:あるんだな――!?

パーシヴァル:だからあるけど、ヤバイって言ったじゃないか!
         人の話聞いてよ!

モルドレッド:俺にはロンギヌスの自然治癒がある。
        多少の無理ならどうということはない。

        やってくれ!

パーシヴァル:あーあ……そうなると思ってたんだ。

         汝を律せし、穏やかなる時の戒めよ。
         時の神の名に於いて、我、その戒めを解き放たん。

         炎となれ、赤き血潮。
         疾風(はやて)となれ、強き肉体(からだ)
         光となれ、勇者の英智(えいち)

         時の鎖を引き千切り、命燃やす流星となりて、
         最果ての未来まで駆け抜けよ。

         クロノス・スターダスト!

モルドレッド:く――……
        ああああああああ――!!!

パーシヴァル:大丈夫か、モルっ!?

モルドレッド:いける……!
        この力、この速度なら兄上たちを追える!

パーシヴァル:燃え尽きるなよ、モル!

モルドレッド:ああ……!

        待っていろ、アンドレアル――!


□6/ザーンの街、日干し煉瓦の住屋屋根を足場に空中戦を繰り広げる影二つ


トリスタン:くっ……さすがはオルドネアの十三使徒の一人。
      一筋縄ではいかぬか。

アンドレアル:何故ダ。何故オ前ガ人間ニ味方スル。
         使徒シリウス――!

トリスタン:私は――愛する者を守りたいだけなのだ。

       そのためならば、獣人たちの血の涙を(すす)り、
       異母弟(おとうと)ベイリンの心臓に滅びの杭を打ち込むことになろうとも……

       私は……彼女を守り抜く。

アンドレアル:ソレハ俺トテ同ジ。
        獣人タチノ抑圧サレシ哀シミト怒リ。
        奴ラニ代ワッテ、俺ガ吼エル。俺ガ叫ブ。

        俺ガヤラネバ誰ガヤル――!

トリスタン:くっ――!?

モルドレッド:はあああ――っ!

アンドレアル:グオオッ!?

モルドレッド:手応えが浅い!
        毛皮を浅く貫いたのみか!

トリスタン:モルドレッド!
       あなたがどうやって屋根の上の空中戦を!?

モルドレッド:パーシヴァルの加速魔法です。
        一時的だが、兄上やアンドレアルに匹敵するスピードを得られる。

アンドレアル:オノレ……相手ガ二人デハ、分ガ悪イ。

        ダガ、復讐ノ洪水ハ止メラレン。
        コノ砂漠ニ蔓延ッタ悪ヲ滅ボスマデ、秒読ミニ入ッタ!

トリスタン:……逃がしはしない。
      モルドレッド、追い掛けますよ。

モルドレッド:応っ――!


□7/屋根から屋根へ飛び移っていくアンドレアルを追う二人


モルドレッド:待て、アンドレアル!

アンドレアル:煩イ小蠅ドモガア――!

モルドレッド:岩の砲弾!
        だが、今の俺にはこんなもの――!

        たあっ!

トリスタン:巨岩を薙ぎ払ったと――?

アンドレアル:コレナラドウダ!

モルドレッド:凝固する泥も俺には通じん!
        オルドネアよ、暴威を阻む加護を!

アンドレアル:結界デ強引ニ突破シテクルトハ……!

         オノレ……!

モルドレッド:くっ、逃がさんぞ!

トリスタン:アンドレアルの敏捷性は並外れたものです。
       しかし真に厄介なのは、野性の勘とも言える反応速度。
       激戦の最中でも、致命傷を避け続け、戦略魔法を使う余力まで残しています。

       このままでは、洪水の発生を許してしまう……!

モルドレッド:兄上、策は!?

トリスタン:私がアンドレアルに隙を作ります。
      あなたは全ての力を込めて、一撃で勝負を決めなさい。
      今のあなたとロンギヌスなら出来るでしょう。

      やれますか、モルドレッド?

モルドレッド:悪魔の力を宿したということは、
        ロンギヌスの破邪の力が最大の威力を発揮するということ――

        やってやる。
        俺が勝負を決める。

トリスタン:機会(チャンス)は一度――

       往きますよ――!

アンドレアル:ソノ額ノ魔晶核……!

        魔力ガ上昇シテイク……
        ヤハリ真ノ魔力ヲ隠シテイタナ……!?

トリスタン:我が手に(いだ)弦楽(げんがく)の女神――

      その銀の竪琴(からだ)に爪を立て、
      音色を唄う銀弦(かみ)を引き千切る。

      私のために死ね。

アンドレアル:貴様、全テノ魔力……
         ソンナ魔導具デハ、受ケ止メキレンゾ!

トリスタン:構いはせぬ。
       正体を知られる前に……
       この刹那――貴様を殺す。

       歌声よりも、悲鳴を――
       愛よりも、憎悪を――
       処女の血に濡れた、破瓜(はか)の金切り声を放て。

       絶叫せよ、月弦の銀竪琴(フェイルノート)

アンドレアル:ソウカ、俺ハ追イ込マレテイタノカ……!?
       石ノ柱ガ……倒レテクル……!    

       ウオオオオオオッ!!??

モルドレッド:戦闘を繰り広げながら、徐々に砦まで誘導し……監視塔を特大の魔力の矢で射抜く!
       これが兄上の言った機会(チャンス)……アンドレアルへの罠!

トリスタン:モルドレッド。
      アンドレアルは監視塔の下敷きになり動けません。
      さあ、ロンギヌスの力を見せてください――

モルドレッド:地震が激しさを増している……
       もうすぐ大洪水がザーンの街を……
       この機会(チャンス)、逃すわけにはいかない。

       降誕せよ、断罪の秘蹟!
       再臨せよ、審判の天使!

アンドレアル:ガ、ハアアアアア……
        マ、マダダ……
        大地ヨ、洪水ヨ――!

モルドレッド:破壊の先に正義などない!
        救済の十字架で、全ての悪を贖わん!

        これで決着だ――アンドレアル!


□8/ドーア砦監視塔、瓦礫の山に埋もれた聖獣アンドレアル


モルドレッド:勝った、か……

トリスタン:見事な戦いでした、モルドレッド。

パーシヴァル:おーい、モルー!

モルドレッド:パーシヴァル。
        ラーライラも……

ラーライラ:地震は収まった。
       アンドレアルを倒したのね。

アンドレアル:ガ、ハアア……

        グハッ――……

トリスタン:まだ息があるようですね――

モルドレッド:兄上、何をなさるつもりです!?

トリスタン:……あなたは休んでいなさい、モルドレッド。

       変わり果てたとはいえ、聖騎士であるあなたに十三使徒の一人を、
       そして、兄殺しの罪を背負わせたくはありません。

モルドレッド:待ってください、兄上!
        これからです!
        やっと話し合える状態になった!
        これからアンドレアルと、いえベイリン兄さんと話を――

トリスタン:反乱が失敗すれば死ぬことは、ベイリンも覚悟していたはずです。
       それにもしベイリンの命を救ったとしても、
       彼は戦争を引き起こした反逆者として裁かれ、罪人として名を(はずかし)められる。

       獣人の長ベイリンは、勇猛に戦い、戦死した――
       こちらのほうがベイリンにとっても、ウル・ハサンにとっても好ましいでしょう。

モルドレッド:いいえ、違います!
        そんな結末など、間違っている!
        死は、矛盾と不条理を消し去る魔法ではない!
        兄上の苦悩も、獣人たちの悲惨な待遇も、うやむやに流してしまうおつもりですか!

帝国指揮官:はあ、はあ……
        いたぞ! アンドレアルだ!

ラーライラ:帝国陸軍……

パーシヴァル:魔導装機メメントも……

帝国指揮官:トリスタン様、実に華麗な武勇でございました。
        後の始末は、私どもにお任せください。

モルドレッド:……お前が指揮官か。

帝国指揮官:然様(さよう)でございますが。
        何用でしょうか、十三皇子様。

        ぐうっ――……!

(モルドレッドは怒りの形相で、帝国指揮官の胸ぐらを掴む)

モルドレッド:貴様……!
       先の戦いは何だ! 何故無辜(むこ)の市民まで殺した!
       あんなものは、一方的な虐殺ではないか!

トリスタン:やめなさい、モルドレッド!
      手を離すのです――!

帝国指揮官:ごほっ、ごほっ――
        ちっ……
      
        獣人が獣に化けるのは、知っての通りでしょう。
        一見か弱い女子供といえど、いつ凶暴な熊や虎に変じて襲い掛かってくるとも限らん。
        降伏勧告に応じない市民はゲリラだ。

        私は、ゲリラから兵の命を守った!
        帝国の指揮官として、当然のことをしたまでだ!

モルドレッド:その降伏勧告は、いつ行ったのだ!
        その降伏勧告は、ウル・ハサンの民に訴える、誠意あるものだったと胸を張って言えるのか!

        貴様の獣人への差別心が、ゲリラを作り出したのではないのか!?

トリスタン:もうよしなさい。
       我々の非人道性(ひじんどうせい)だけを責めて、ウル・ハサン人の残忍な殺し方に触れないのは、平等ではありません。
       獣人たちは見せしめのために、生きたまま帝国兵のはらわたを引きずり出し、喰らってみせたのです。

       大佐には大佐なりの判断があった。
       あなたに大佐以上の判断が、出来ると言えますか?

モルドレッド:俺は……

帝国指揮官:全く――……
        誉れ高き帝国の皇子でありながら、野蛮な獣人どもの利を主張する。
        まさしくゲオルギウス枢機卿の予言したとおり。
        十三皇子は帝国に災いをもたらす。裏切りの使徒ジュダの再来だ。

モルドレッド:くっ……!

帝国指揮官:歩兵隊、三列隊形!
        三段撃ちで遅滞無く銃弾を撃ち込み、化け物の息の根を止めろ!

        前列部隊、撃てえ!

アンドレアル:グアッ! グアアアアア――ッッ!!!

モルドレッド:あ、兄上……!

帝国指揮官:ハアッハッハッハ!
        全世界に、帝国の新秩序を!

帝国兵A:ぐ、ぐうう……!!

帝国兵B:うああ、あああ……!!

帝国指揮官:ど、どうした!?

トリスタン:あの全身を覆う、禍々しい葉脈のような(あざ)……
       モルドレッド、これは……

モルドレッド:紛れもない……悪魔だ!

ラーライラ:黒い塊――!
       こっちへ飛んでくる!

モルドレッド:逃げろ! 肉体を乗っ取られるぞ!
        悪魔は生物に憑依(ひょうい)し、その肉体を憑代(よりしろ)に、この世に物質化するのだ!

パーシヴァル:天を翔る猛き稲妻――ゼウス・ガベルっ!

        実体化してない悪魔には、魔法しか効かない!
        剣や銃は役に立たない! 早く撤退するんだ!

帝国指揮官:何故だ!
        何故悪魔などが……!

モルドレッド:アンドレアルゲート……!
        次元の歪みが広がってしまったのか!

パーシヴァル:でもおかしいよ!
         さっきまでは、召喚魔法でやっと呼び出せるレベルの歪みだった。
         それが悪魔が自由に出てくるまでになるなんて……!

ラーライラ:洪水の戦略魔法……
       大地の力を搾り尽くし、枯らしてしまったから……

       もう大地には、冥府の圧力に(あらが)うエネルギーが残っていない。
       次元が……引き裂かれる!

帝国兵A:ア、アアア……

帝国兵B:大佐ァァァ……

帝国指揮官:ひっ、ひぃぃぃぃ! 寄るな、化け物め!

(怯えた銃声の後に、湿った肉塊を叩くような音が響き渡る)

モルドレッド:皮膚が溶けて、肉が剥き出しに……!

パーシヴァル:その肉も腐り落ちていくよ!

ラーライラ:あれは……人間、なの……?
      歩く腐った粘液の塊みたい……

帝国指揮官:何がどうなっているのだ――!?
        仕方あるまい、退却するしか……

        うあああああっっ!?

モルドレッド:しまった! 奴も憑依されたぞ!

ラーライラ:悪魔が実体化する!
       今の粘液の怪物みたいに!

トリスタン:……悪魔の実体化はありません。
       あの粘液の塊は、悪魔ではないのです。

帝国指揮官:グ、グエエエエ……
        ワダジノガダダガ、ドゲデユグ……

        ナゼ……
        ゴレホドマデニ、マリョグガアブレデイルドイウノニ……
        ナゼ……

        ゴ、ボアアアッ……

パーシヴァル:成り損ない=c…
         実体化に失敗した悪魔のなれの果てだよ。

トリスタン:悪魔は実体化の際に、宿主の肉体を作り替え、悪魔本来の姿に近づけます。
       しかし、ほとんどの生命は、その(いちじる)しい変化に耐えられない。

       故に悪魔の実体化は、多くが失敗に終わる。
       だからこそ、地上が悪魔に乗っ取られないですんでいるのかもしれませんが……

獣人A:ガ、ガダダガアア……

獣人B:ヴ、ヴヴヴ……ドゲルヴヴ……

モルドレッド:一体どうすれば……!
        実体化し損ねた成り損ない≠ェ次々と産まれている……!

パーシヴァル:異次元生命体――
        要するに悪魔は、霊体のままでは極めて不安定で、現世には短時間しか生存出来ない。
        冥府の歪みの周辺以外で、悪魔に乗り移られることはないと思っていいよ。

トリスタン:街の住人を避難させましょう。
       帝国陸軍もザーンの占領を放棄し、撤退命令を出します。
       悪魔の対策には、何よりも依り代を与えないことです。

モルドレッド:わかりました。
        しかし……もし実体化が成功し、悪魔がこの世に肉体を持ったら……

トリスタン:先ほど見たとおり、基本的に悪魔の実体化は失敗します。
       道義的な問題は別として、逃げ遅れた住民がいたとしても成り損ない≠ニなって自滅するだけだ。

       ただし極稀(ごくまれ)に、肉体の変異に耐え、悪魔として実体化する者がいる――

パーシヴァル:宮廷魔導師の危機対応策の中には、異次元生命体の召喚失敗に関する事項があるんだ。

         言いにくいんだけど……

ラーライラ:広範囲の戦略魔法で、ザーンの街を根こそぎ破壊する。

       あなたたち人間の常套手段(じょうとうしゅだん)
       恐竜王ディラザウロを倒すために、私たちエルフの森を消し去ろうとしたように。

モルドレッド:くそっ――!

パーシヴァル:おいモルっ、どこへ行くんだよ!?

モルドレッド:アンドレアルゲートの歪みを封印する!
        ロンギヌスなら、オルドネアの意思を継ぐ槍なら、
        アンドレアルの代わりが務まるはずだ!

        お前はそのあいだに、街の住人を避難させろ!

パーシヴァル:そんな……
         モルとオルドネアじゃ、魔心臓の強さが比較にならないよ!

         って、ラーライラっ!?

ラーライラ:私も行く。大地に呼び掛ければ、きっと封印の力になってくれる!

パーシヴァル:ったく……
         なんであの二人は突っ走るのかなぁ〜……

トリスタン:…………
      私たちは、私たちのやることをやりましょう。
      
      ザーンの街の住民たちに告ぐ!
      悪魔の災厄に見舞われた現状は、あなたたちも見ての通りであろう!
      したがって帝国は、ウル・ハサンに一時休戦を申し入れたい!

パーシヴァル:悪魔の侵攻は、帝国の十三皇子とムーンストーン族のエルフが食い止めてる!
         落ち着いて、リーダーや上官の指示に従って欲しい!

         早く戻ってこいよ、モル――!


□9/地下洞窟、アンドレアルゲート


モルドレッド:地下洞窟、アンドレアルゲート……
        凄まじい数の悪魔だ……

        だが怯むわけにはいかん――!

ラーライラ:モルドレッド――!

モルドレッド:ラーライラ!?

ラーライラ:私も抑える。シャダイゲートを守っている、族長様のように。
       
モルドレッド:よし、いくぞラーライラ!

       オルドネアの聖霊よ!
       我こいねがう! 我請い求むる!

       おぞましき冥府の(うめ)きを掻き消す、福音の聖歌を高らかに!
       光射す世界に忍び寄る、悪魔の魔の手に劫罰(ごうばつ)の焼き印を!

       偉大なる救世主オルドネアの名に於いて、
       全ての災いを封じるパンドラの箱の封印を再度(ふたたび)成さん。

       開かれよ伝説の聖櫃(せいひつ)、デュミナス・アーク……アレルヤ――!


□9b/地上、ドーア砦正門前


トリスタン:魔導装機隊。
       瓦礫や倒壊物、大型の獣人たちの死体を撤去。
       最短の避難経路を確保――!

パーシヴァル:現存するほとんどの悪魔は狩り尽くした。
         新手は出てきていない。
         モルとラーライラの封印が効いてるんだ――

トリスタン:第十一歩兵小隊、負傷者を抱え撤収。
       第十二歩兵小隊、獣人のゲリラ兵と共に撤収。

       陸軍全部隊、退却が完了しました。
       後はモルドレッドたちだけですが――……

パーシヴァル:あれは――……
      〈紅蓮ノ山(ティルナ)〉、撃てっ!

トリスタン:新たに湧いてきた悪魔……
      封印を維持出来なくなったのですか……

パーシヴァル:そんな……
       二人ともまだ戻ってきてないよ!?

トリスタン:…………

パーシヴァル:た、助けに行かないと!

トリスタン:…………

パーシヴァル:何を突っ立ってるんだよ、兄さん!
        早く助けないと――……
        モルがっ! ラーライラがっ!

トリスタン:パーシヴァル、二人はもう……

パーシヴァル:まだ、まだ間に合うかもしれないだろっ!?
        兄さん! 何とか言ってくれよ!

トリスタン:賢いあなたならわかるでしょう。
       封印が消え、二人が戻ってきていないと言うことは――

パーシヴァル:そんな……嘘だろ……
        ロンギヌスは奇跡を起こす槍じゃなかったのかよ……

        うううっ……ああああっ……

アンドレアル:ガ、ハアアア……

        俺ハ……一体何ヲ……

パーシヴァル:アンド、レアル……!?

トリスタン:その傷で、まだ立ち上がれると――!?

アンドレアル:何ガドウナッタノダ……
         ワカラン……アレカラ何ガ起ッタ……

         ダガ、俺ヲ呼ブ声ガ聞コエル……
         俺ハ……俺ハ、コノ声ニ応エネバナラン――!


□9c/地下洞窟、地面についた槍にもたれかかるモルドレッド


モルドレッド:はあ、はあ……

        すまない、ラーライラ……
        聖櫃の儀式魔法で、魔力を使い果たした……
        俺たち二人の、この小さな結界の維持すら出来なくなる……

ラーライラ:私は自分の意思でここにきた。
       どんな結末でも受け入れる。

モルドレッド:お前は、使徒シャダイの子孫。
        だから、アンドレアルゲートの封印に協力してくれたのか。

ラーライラ:私は若木。あなたは光。

       だから私は、あなたの方へ枝を伸ばしたの。
       シャダイもアンドレアルも関係ない。

モルドレッド:俺が光、か……

       奇跡の槍ロンギヌス――
       か弱き子羊を救う、最後の奇跡を。
       お前の使い手、モルドレッド=ブラックモアの最後を飾る奇跡を起こしたまえ……

ラーライラ:結界が強さを増した……

       モルドレッド、あなた命を削って!?

モルドレッド:お前は俺を光と言った。
        ならばお前を導く光を、光射す道となって照らさないわけにはいくまい……

        さあ、走れラーライラ!
        俺の光が、消えないうちに――!

ラーライラ:私、そんな奇跡望んでいない!
       あなたが犠牲になる奇跡なんて、そんなもの奇跡と呼べない!

       ロンギヌスの槍! 奇跡を起こして!
       トゥルードの森の時のような、本当の奇跡を!

アンドレアル:ガアアアアアアア――!

モルドレッド:アンドレアル――!?

アンドレアル:モルドレッド……
        オ前ハ獣人タチノタメニ怒リ、(いきどお)ッタ……
        帝国軍ニ命ヲ狙ワレタ俺ヲ庇ッタ……

        ダカラ俺ガ奇跡ヲ起コス――!

モルドレッド:次元の歪みが……封じられていく!
       悪魔どもが押し返されていくぞ!

ラーライラ:でも……アンドレアルの身体が石に……

アンドレアル:俺ハ、モウジキ動クコトガ出来ナクナル……

        モルドレッド……
        ウル・ハサンノ民ヲ……
        イヤ、帝国ニ住ム全テノ獣人タチヲ頼ム……

モルドレッド:わかった――約束しよう。
        俺の力が及ぶ限り、人間と獣人を阻む壁を打ち砕いてみせる!

アンドレアル:フッ――……
        オルドネアハ、オ前ノヨウナ奴ダッタノカモシレン。

        アバヨ、モルドレッド……
        オ前ハ最高ノ弟ダッタゼ――

モルドレッド:兄、上……!?

        兄上ぇ――――っ!

パーシヴァル:モル――っ!
         ラーライラ――っ!

モルドレッド:パーシヴァル……

パーシヴァル:よかった……
         二人とも死んじゃったのかと思ったよ……

トリスタン:この石像は……アンドレアル……

モルドレッド:アンドレアルの最後の言葉……
        あれは間違いなく兄上のものだった。

        兄上が身をもって、次元の歪みを封印してくれたのです。

ラーライラ:アンドレアルは……
       ベイリンは、石になる瞬間、何を想っていたのかしら……

パーシヴァル:兄さんだって、たとえ『ハ・デスの生き霊』の力を借りたとしても、
         帝国と戦争して勝てるなんて考えてなかったはずだ。
         騒動が大きくなったところで、和平の道を探るつもりだったと思う。

         ……これでよかったんだよ。
         ベイリン兄さん風に言えば「てめえのケツはてめえで拭く」ってとこじゃないかな。

トリスタン:…………・
       ベイリン、誓いましょう。

       あなたが命を捨てて守ろうとしたウル・ハサンの民は、必ず私が守り抜きます。
       それが……私の罪滅ぼしです。

モルドレッド:兄上――

        あなたは地下で、俺は地上で。
        より良い世界のために、人間と獣人が手を取り合っていける世界のために、
        共に力を尽くしていきましょう。

        さあ、往こう。
        俺たちの居るべき場所は、暗き地下ではない。
        光射す地上――俺たちの住む世界へ。



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