The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第11話 お嬢様、轟雷!

★配役:♂2♀2=計4人

▼登場人物

モルドレッド=ブラックモア♂:

十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。

魔導具:【-救世十字架(ロンギヌス)-】

ランスロット=ブリタンゲイン♂
三十四歳の聖騎士。『黄金の龍』の異名を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の二番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン海軍元帥。
またオルドネア聖教の聖騎士団団長も兼任している。

現皇帝の正妻アルテミシア皇后の子。
皇位継承権は二番目だが、正妻の子ということでランスロットを推す声も高い。

ラーライラ=ムーンストーン♀
二十七歳の樹霊使い(ドルイド)(外見年齢は十三歳程度)。
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の一員。
人間の父と、エルフの母のあいだに生まれたハーフエルフ。
『ムーンストーン族』のエルフには見られない青髪と碧眼は、父親譲りのもの。

父親が魔因子を持たない人間だったので、〈魔心臓〉しか受け継がなかった。
エルフながら魔法を使うためには、魔導具の補助が必要である。

魔導具:【-緑の花冠(フェアリー・ディアナ)-】
魔導系統:【-樹霊喚起歌(ネモレンシス)-】

カテリーナ=ウルフスタイン♀
十六歳の戦乙女(ヴァルキュリア)
特に重装乙女(ブリュンヒルデ)に分類される近接戦闘のエキスパート。

ウルフスタイン伯爵の娘。
大学院(アカデミア)の高等部を退学し、父親の口利きで聖騎士団に加入した。
金髪縦ロールのお嬢様スタイルだが、性格は豪快を絵に描いたよう。

魔導具:【-轟雷の雄叫び(ミョルニル)-】
魔導具:【-金剛怪力帯(メギンギョルズ)-】


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。


□1/街灯が照らす夜の帝都


ラーライラ:街の灯り。
       人間の街は、夜でも明るい。
       不思議。
       どうして夜を昼にしようとするの?

モルドレッド:俺たち人間は、夜目(よめ)が利くエルフとは違う。
        真っ暗では何も見えないんだ。

ラーライラ:暗闇は恐い?

モルドレッド:古来より多くの伝承が、闇を悪と結びつけてきた。
        恐いのだろう。お前の言うように、闇は。
        だから人間は、闇を払おうと灯火を灯す。

ラーライラ:モルドレッド。
       あなたはお城へ行かないの?

モルドレッド:……ああ。

ラーライラ:パーシヴァル、叱られていないかしら。
       私、心配……

モルドレッド:何故心配をする?
        俺たちは『ハ・デスの生き霊』を退(しりぞ)けたんだぞ。
        賞賛(しょうさん)こそされ、叱責されることなどない。

ラーライラ:あなたたちは、帝国の命令を無視した。

モルドレッド:気づいていたのか……

ラーライラ:帝国は、私たちエルフを見殺しにするつもりだったのね。

モルドレッド:……すまない。

ラーライラ:私、もう帝国のことは信じない。
       絶対に。

モルドレッド:…………

ラーライラ:モルドレッド。
       あなたは帝国の命令を無視して助けてくれた。
       あなたは私たちの恩人。

       人間がなんて言おうとも、エルフはあなたの勇気を(たた)える。

モルドレッド:別に……
        俺は賞賛が欲しくてやったわけではない。

ラーライラ:それでも。
       私、必ずあなたに報いる。

モルドレッド:なら……森に帰ってくれないか。

ラーライラ:嫌。それ以外で。

モルドレッド:言っておくが、うちはメイドが一人だけの貧乏貴族の家だぞ。
        王族の待遇を期待しているなら諦めてくれ。

ラーライラ:気にしない。
       自分のことは自分でする。

モルドレッド:一つ聞いておきたいんだが、エルフに家事の習慣はあるのか?

ラーライラ:火事……
       人間には家を燃やす習慣があるの?

モルドレッド:ダメだこれは……
        エルフには家事という言葉が存在していない……

ラーライラ:火は恐いけど、あなたが言うなら頑張る。
       マッチでも、ライターでも、火打ち石でも。
       あなたのために燃やしてみせる。

モルドレッド:絶対に放火はするなよ。
        いいか、絶対にだぞ。


□2/帝都西区、邸宅街の一角


ラーライラ:ここがあなたのお家――
      市街地の家よりずっと大きい。

モルドレッド:貴族の屋敷としては小さな方だ。
        母上は男爵の娘だったからな。

        それよりも……明かりがついている。

ラーライラ:メイドの人?

モルドレッド:いや……もう夜だ。
        イノーラさんはとっくに帰っているはず。

        誰だ?

(警戒しながら門を潜り、屋敷の大扉を開けるモルドレッド)

ランスロット:おかえり、モルドレッド。

モルドレッド:兄上? 何故俺の家に?
        円卓会議の最中では?

ランスロット:朝一番にパーシヴァルから報告を受けた後、
        帝都に残っている王族で非公式の会議が開かれてな。
        その時に、おおよその結論はまとまった。

        安心しろ、お咎めなしだ。
        パーシヴァルの呼び出しも形式的なものだよ。

モルドレッド:それで兄上は、円卓会議に欠席を……

ランスロット:結論の出ている会議に出席するのはくたびれる。
        何、パーシヴァルもケイの嫌味を聞き流せばいいだけだ。
        弁護はトリスタンがしてくれるだろう。

        俺はお前と話がしたかったんだ、モルドレッド。

モルドレッド:…………

ランスロット:そちらの女性は……
        ああ、先日城にいらしたムーンストーン族の。

ラーライラ:ラーライラ=ムーンストーン。

ランスロット:話には聞いています。
        この度は、お悔やみを申し上げる。
        クーサリオン殿は、穏やかで理知に富んだ人士だった。
       
ラーライラ:……あなたたちは、私たちを助けてくれると約束した。
       あなたたちが軍を派遣してくれていれば、族長様は、里のみんなは死なずにすんだかもしれない。

ランスロット:代わりに、我が国の兵が死んでいました。

ラーライラ:…………

ランスロット:既にエルフ族には広まっていることでしょうから、全容をお話しします。
        私たちは儀式魔法ヘルガイアで、森ごとアンデッドを葬ろうとしました。
        他の部族のエルフたちには伝令がいきましたが、あなたたちムーンストーン族は巻き添えになっていたでしょう。

モルドレッド:兄上! それは――!

ランスロット:どう釈明したところで、エルフ族の失望は拭えますまい。
        帝国は、あなたたちの復興に全力を尽くします。
        これからも我ら帝国と、友好を結んでいただけませんか。

ラーライラ:……わかっています。
       あなたたちの支援は、必要だから。

ランスロット:有り難く思います、新族長殿。

モルドレッド:蹄鉄(ていてつ)の音……
        馬車が屋敷の前に止まった?

(大扉が豪快に開き、金髪に巻き毛の少女が入ってくる)

カテリーナ:ごきげんよう、皆様。

モルドレッド:だ、誰だあなたは!?

ランスロット:ほら、以前話しただろう。
        お前に興味があると言っていた、ウルフスタイン伯爵の令嬢だ。

カテリーナ:カテリーナ=ウルフスタインと申します。
       本日はお招きいただき、光栄にございますわ。

ランスロット:どうだ。
        話した通りの、金髪(ブロンド)の美人だろう?

カテリーナ:モルドレッド=ブラックモア。
       近くで見ると、意外と普通の殿方ですのね。

モルドレッド:あなたは私を何だと思われていたのです?

カテリーナ:帝国に災いをもたらす十三番目の皇子。
      大悪魔(ダイモーン)の落とし子。裏切りの使徒ジュダの末裔。

モルドレッド:……面と向かって侮辱された経験は、あまりありませんでした。

カテリーナ:お気を悪くされないでくださいまし。
       (ちまた)でささやかれているような、近寄りがたい方ではないと言いたかったのです。

モルドレッド:……それはどうも。

カテリーナ:わたくし、モルドレッド様のお噂は以前からずっと追い掛けておりましたの。
       太古の強大なアンデッドを打ち倒したそうですわね。

モルドレッド:私だけの力ではありません。
        オルドネアの加護と、仲間の力添えがあったからです。

カテリーナ:まあ、ご謙遜を。

       ああ、どうしましょう。
       胸が高鳴ってきました。
       あの、笑わないでくださいましね?

モルドレッド:は、はあ……

カテリーナ:わたくしとお手合わせ願えませんか?

モルドレッド:お手合わせ? お付き合いではなく?

カテリーナ:そうですわね。
       わたくしを叩き伏せた殿方になら、わたくし組み伏せられてもいいと思います。
       ああでも、もちろんお付き合いをして、お互いを深く知ってからですわよ?

モルドレッド:いや、ちょっと待ってください……

        兄上! これは一体――!

ランスロット:カテリーナ嬢は武芸に秀でた令嬢でな。
        大学院(アカデミア)の高等部で神学を専攻しておられ、
        卒業後は治療師(ヒーラー)の道に進まれる予定だったのだが……

カテリーナ:神学は退屈で退屈で、フケていたら停学を食らいましたの。
       むかついたから、こっちから辞めてやりましたわ。

モルドレッド:辞めてやりましたわ、って……
        お父上は、何もおっしゃられなかったのですか?

カテリーナ:お父様はやりたいようにやれ、と背中を押してくださいましたわ。

ランスロット:それで……ウルフスタイン伯爵の仲立ちもあり、
        内定の段階だが、カテリーナ嬢を聖騎士団に迎えることが決定した。

モルドレッド:コネではないですか。

カテリーナ:あら、聖騎士団が縁故で成り立っているのは、周知の事実ではありませんこと?

       大事なのは、結果を出せることですわ。
       わたくし、文句を言った聖騎士の面々は、全員ぶちのめして差し上げました。
       聖騎士を名乗るのに不足はありませんことよ。

モルドレッド:カテリーナ殿!
        聖騎士は、強ければいいというものではありません!
        神学概論といった基礎教養から、治癒魔法による奉仕活動!
        そして何よりも、神に仕える者としての信仰心が大切なのです!

カテリーナ:失礼ですわね、神学概論の筆記試験には合格しましてよ。
       殿方なら、お父様のように度量を広く持ってくださいまし。
       ちょっと幻滅しましてよ、モルドレッド様。

モルドレッド:幻滅していただいて結構。

        カテリーナ殿、はっきり申し上げます。
        あなたに聖騎士は勤まりません。
        別の道を探されるよう忠告いたします。

カテリーナ:ランスロット様の承認は得ました。
       あなたに判断される筋合いはなくってよ。
       何様のつもりでしょう。
      
モルドレッド:俺にあなたの適性を見定める権利は、当然ある。
        何故なら俺は、聖槍ロンギヌスの使い手だからだ。

カテリーナ:全然理由になってませんのよ。
       オルドネアの魔導具を使えるからって、偉そうに。
       そのツラ、ぶっ飛ばしてやりたく思いますわ。

モルドレッド:上等です。
        貴様のような女を聖騎士と認めるわけには、断じてならん。

カテリーナ:力尽くでも認めさせますのよ。
       表に出やがりなさい。

モルドレッド:いいだろう。覚悟しろ。

ラーライラ:……止めなくていいの?

ランスロット:いや、まあ――
        予想通りと言うか、予想以上と言うか。

モルドレッド:オルドネアの名に誓って、カテリーナ=ウルフスタイン!
        貴様の聖騎士団加入を阻む!

カテリーナ:言ってくれましたわね、モルドレッド=ブラックモア!
       吠え面かかせてやりますから、せいぜいハンカチとちり紙を用意しておきなさい!

ラーライラ:……ねえ。

ランスロット:若き族長殿。
        人間の世界には、喧嘩するほど仲がいいという、ことわざがあるのですよ。

モルドレッド:叩き出すっ!!!

カテリーナ:叩きのめしますっ!!!

ラーライラ:そのことわざ、嘘だと思う……

ランスロット:私もいささか怪しく思えてきました。


□3/モルドレッド自室


モルドレッド:つうう……
        まだ骨に痺れが残っている……

ランスロット:ははは。辛うじて勝ちは取れたな。

モルドレッド:な、何なのだあいつは!
        大金鎚を振り回す女など、見たことがない!

ランスロット:あれは、ミョルニルという魔導具だ。
        ミョルニルを扱うために、カテリーナ嬢はさらに身体強化の魔導具も身につけている。
        彼女は、戦乙女(ヴァルキュリア)――その中でも特に肉弾戦に特化した、重装乙女(ブリュンヒルデ)と呼ばれる近接戦闘のエキスパートだな。

モルドレッド:くっ……確かにあのミョルニルは、強力な魔導具だった。
        だが、俺のロンギヌスはオルドネアの遺産!
        他の魔導具とは、次元が違う!
        そのロンギヌスの使い手である俺が押されるとは……!

ランスロット:ロンギヌスは、万能の槍だ。
        破邪の十字架に、防御障壁、回復魔法まで使える。
        現存する魔導具の中でも、五本の指に入る性能だろう。
        それでも、欠点はあるのだ。

モルドレッド:広範囲の攻撃手段を持たないこと……
        そして破邪の十字架は、人間相手には無力であること……

ランスロット:そうだ。
        対人戦では、純粋な槍の技量だけで戦わねばならん。
        ロンギヌスに限らず、神聖魔法に共通する弱点はそれだ。
        悪魔や悪霊には強いが、人間や魔獣相手には決定打がないのだ。
        カテリーナ嬢のような戦闘に特化した戦乙女(ヴァルキュリア)は、我々の不足を補ってくれる。

モルドレッド:……なるほど。
        兄上も伯爵への義理だけで、あの蛮人を加入させたわけではないということですか。

ランスロット:どうだ、俺も考えているだろう?

モルドレッド:……わかりましたよ。
        認めます。強いのは事実のようだ。

ランスロット:聖騎士団も華やかになるだろう。
        なにせ金髪(ブロンド)の美人だ。
        ドレスを着ているから判りづらかっただろうが、実はスタイルもいい。

モルドレッド:いくら金髪(ブロンド)でも、あれはないでしょう。
        あの女の恋人が勤まるのは、サンドバッグぐらいだ。

ランスロット:ほう。
        お前は、スレンダーな青い髪のが好きか。

モルドレッド:何故そうなるのです。

ランスロット:お前が女の子を家に連れ込むとは……
        俺は嬉しいぞ。
        男なら誰しも通る道だ、頑張れよ。

モルドレッド:誤解です、兄上!
        俺はあいつに何の感情も持っていない!
        あいつだってそうでしょう!

ランスロット:いや。
        俺が思うに、お前の押し次第だな。

モルドレッド:そんなことはどうでもいい!

        それよりも兄上――
        なぜトゥルードの森を殲滅する決定を許したのです。
        俺はずっと聞きたかった。
        兄上が参加していながら、なぜ円卓会議はあのような非道な作戦を許したのです!

ランスロット:…………

        エルフ族を見殺しにしたことは、許し難いか。

モルドレッド:当然でしょう!
        何を言うのです!

ランスロット:そうか。
        俺はあの作戦が間違っていたとは思わない。
        今でも儀式魔法ヘルガイア発動を提案したことを、後悔していない。

モルドレッド:兄上……!

ランスロット:俺を非情だと思うか?

モルドレッド:……ええ!

ランスロット:そうか。
        それでいい。

モルドレッド:……兄上?

ランスロット:モルドレッド。
        お前のその心を大事にしろ。
        尻拭いは俺がしてやる。
        今は真っ直ぐに、正義を貫け。

モルドレッド:俺には、兄上の意思がわかりません。

ランスロット:お前にもいずれ判る日がくる。
        いや……わからないでいて欲しいとも思う。
        子供は、変に達観していなくていい。

モルドレッド:子供扱いはやめていただきたい。

ランスロット:ふふふ。
        子供のままでいるというのは、存外に大変なものなのだぞ。

        人間はな、嫌でも大人になっていってしまうのだよ。
        だから、今は子供のままで、真っ直ぐでいなさい。


□4/ラーライラ私室


ラーライラ:風を感じない……音も静か……
       人間ってこういう狭い囲いが、安心するの?
       閉塞感……

(コンコン、と部屋の扉を叩く音がする)

ラーライラ:誰? モルドレッド?

カテリーナ:わたくしです、カテリーナですわ。

(怪訝な顔をしながら、ドアを開けるラーライラ)

ラーライラ:何か用?

カテリーナ:お部屋に入れさせていただきますわ。
       内緒の話がございますの。

       失礼します。

ラーライラ:あ……

カテリーナ:ラーライラさん、単刀直入に聞きます。
       あなた、モルドレッド様とお付き合いされてますの?

ラーライラ:え――!?

カテリーナ:その反応……
       お付き合いされているか、もしくは片思いですわね。

ラーライラ:な、なな、何を言ってるの!?
       私はモルドレッドとは――……

カテリーナ:皆まで言わなくて結構ですわ。
       交際中にせよ、片思いにせよ、そんなの関係ありませんわ。
       わたくしが奪い取りますもの。

ラーライラ:……!

カテリーナ:反論がおありでしたら聞きますけれど?

ラーライラ:私は何も……

      モルドレッドのどこを気に入ったの?

カテリーナ:わたくし、今まで多くの殿方に言い寄られてきました。
       でも、どなたも一撃で音をあげる軟弱者ばかり。
       けれど、モルドレッド様は違いました。
       彼はわたくしの全力を、受け止めてくださいましたわ。

ラーライラ:全力の大金槌……
       ロンギヌスの結界がなかったら、モルドレッドは死んでたと思う……

カテリーナ:メギンギョルズを締めたわたくしは、鉄の女……
       誰一人、わたくしの心には触れられない。
       でも、あの方の槍だけはぶすっと貫きましたの。

ラーライラ:わからない……!
      心臓を刺されて、どうしてそれで好きになれるの……!?

カテリーナ:あんなに沢山血が出るとは思いませんでした。
       だって、初めてでしたもの……
       でも、あの痛みこそモルドレッド様からいただいた傷……

ラーライラ:変な表現するのはやめて!
       モルドレッドはあなたとなんか!

カテリーナ:ふふん。
       あなた、ウブですわね。

       その様子だと、殿方とお付き合いされた経験はありませんわね。

ラーライラ:……だったら何?

       エルフは、一年中発情してる人間とは違う。

カテリーナ:枯れ木のような種族ですわね。

ラーライラ:山猿。

カテリーナ:あら、どこかで雑草が鳴ってますわ。

(片手で口元を隠して高笑いするカテリーナの手足に巻きつく緑の蔦草)
(高笑いを止めたカテリーナが下を見ると、絨毯に根を張った蔦植物が茂っていた)

カテリーナ:何かしら、このツタは?

ラーライラ:さあ。雑草が生えたんだと思う。

カテリーナ:ふんっ!

       さて。
       手足も自由になったところで、草むしりでもしましょうかしら。
       わたくし、力仕事には自信がありますの。

ラーライラ:街は人間の住む場所だって聞いた。
       山猿は山へ帰ればいい。

カテリーナ:山へ帰るのはあなたでしょう、エルフさん?
       雑草はそこらへんの河原(かわら)に転がってやがればいいんですわ。

ラーライラ:私、あなたのこと大嫌い。
       あなたに付きまとわれたら、モルドレッドが可哀相。

カテリーナ:どうしてモルドレッド様の名前が出てくるのかしら?

       白状なさい。
       あなたもモルドレッド様が好きなのでしょう!

ラーライラ:もし……もしも、そうだと言ったら?

カテリーナ:亡き者にします!
       当然ですわ! 覚悟なさい!

ラーライラ:絶対に負けないっ!


□5/モルドレッド自室


モルドレッド:さっきから隣が騒がしいな。
        何をやっているんだ?

ランスロット:ふむ。
        女同士の争いか。

モルドレッド:何を争うのです?

ランスロット:ははは、何だろうな。

        さて、俺はそろそろ行く。
        つい長居をしてしまった。

モルドレッド:兄上……
        ありがとうございました。
        俺を出迎えるために、わざわざいらしてくれたのですね。

ランスロット:疲れているだろう。
        ゆっくり休めよ。

        とはいえ……
        こうも隣が騒がしくては、おちおち休んでいられんか。

モルドレッド:ふっ、全くです。

ランスロット:はははは――

        っ! くうっ……

モルドレッド:兄上! どうされました!?

ランスロット:いや……気にするな。
        いつもの偏頭痛だ。

モルドレッド:お薬はお持ちですか。
        今、水を持ってきます。

ランスロット:いや……大丈夫だ。
        自分で台所まで行けるよ。

        最近、頻度が増えてな……
        文字通り、頭が痛い。

モルドレッド:医者に相談されては?

ランスロット:ああ、相談はしているのだがな。
        生まれつきらしく、上手く付き合っていくしかないそうだ。

        まあ、心配するな。
        偏頭痛で死にはせん。

モルドレッド:兄上……お大事になさってください。

ランスロット:ああ。
        おやすみ、モルドレッド。

モルドレッド:おやすみなさい、兄上。

(薄暗い廊下に出ると、ランスロットは顔をしかめて壁に寄り掛かる)

ランスロット:参ったな……
        これほど激しい頭痛は久々だ……

(びっしりと脂汗の浮いた額を抑えるランスロットの眼に、不吉の予感が過ぎる)

ランスロット:まさか……
        あの前触れなのか?

        冗談ではない……
        しっかりしろ、俺は俺だ。

        ……痛み止めを飲もう。
        俺も、モルドレッドに習って早く休むか。



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