第11話 お嬢様、轟雷!
★配役:♂2♀2=計4人
▼登場人物
モルドレッド=ブラックモア♂:
十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。
魔導具:【-
ランスロット=ブリタンゲイン♂
三十四歳の聖騎士。『黄金の龍』の異名を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の二番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン海軍元帥。
またオルドネア聖教の聖騎士団団長も兼任している。
現皇帝の正妻アルテミシア皇后の子。
皇位継承権は二番目だが、正妻の子ということでランスロットを推す声も高い。
ラーライラ=ムーンストーン♀
二十七歳の
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の一員。
人間の父と、エルフの母のあいだに生まれたハーフエルフ。
『ムーンストーン族』のエルフには見られない青髪と碧眼は、父親譲りのもの。
父親が魔因子を持たない人間だったので、〈魔心臓〉しか受け継がなかった。
エルフながら魔法を使うためには、魔導具の補助が必要である。
魔導具:【-
魔導系統:【-
カテリーナ=ウルフスタイン♀
十六歳の
特に
ウルフスタイン伯爵の娘。
金髪縦ロールのお嬢様スタイルだが、性格は豪快を絵に描いたよう。
魔導具:【-
魔導具:【-
※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。
□1/街灯が照らす夜の帝都
ラーライラ:街の灯り。
人間の街は、夜でも明るい。
不思議。
どうして夜を昼にしようとするの?
モルドレッド:俺たち人間は、
真っ暗では何も見えないんだ。
ラーライラ:暗闇は恐い?
モルドレッド:古来より多くの伝承が、闇を悪と結びつけてきた。
恐いのだろう。お前の言うように、闇は。
だから人間は、闇を払おうと灯火を灯す。
ラーライラ:モルドレッド。
あなたはお城へ行かないの?
モルドレッド:……ああ。
ラーライラ:パーシヴァル、叱られていないかしら。
私、心配……
モルドレッド:何故心配をする?
俺たちは『ハ・デスの生き霊』を
ラーライラ:あなたたちは、帝国の命令を無視した。
モルドレッド:気づいていたのか……
ラーライラ:帝国は、私たちエルフを見殺しにするつもりだったのね。
モルドレッド:……すまない。
ラーライラ:私、もう帝国のことは信じない。
絶対に。
モルドレッド:…………
ラーライラ:モルドレッド。
あなたは帝国の命令を無視して助けてくれた。
あなたは私たちの恩人。
人間がなんて言おうとも、エルフはあなたの勇気を
モルドレッド:別に……
俺は賞賛が欲しくてやったわけではない。
ラーライラ:それでも。
私、必ずあなたに報いる。
モルドレッド:なら……森に帰ってくれないか。
ラーライラ:嫌。それ以外で。
モルドレッド:言っておくが、うちはメイドが一人だけの貧乏貴族の家だぞ。
王族の待遇を期待しているなら諦めてくれ。
ラーライラ:気にしない。
自分のことは自分でする。
モルドレッド:一つ聞いておきたいんだが、エルフに家事の習慣はあるのか?
ラーライラ:火事……
人間には家を燃やす習慣があるの?
モルドレッド:ダメだこれは……
エルフには家事という言葉が存在していない……
ラーライラ:火は恐いけど、あなたが言うなら頑張る。
マッチでも、ライターでも、火打ち石でも。
あなたのために燃やしてみせる。
モルドレッド:絶対に放火はするなよ。
いいか、絶対にだぞ。
□2/帝都西区、邸宅街の一角
ラーライラ:ここがあなたのお家――
市街地の家よりずっと大きい。
モルドレッド:貴族の屋敷としては小さな方だ。
母上は男爵の娘だったからな。
それよりも……明かりがついている。
ラーライラ:メイドの人?
モルドレッド:いや……もう夜だ。
イノーラさんはとっくに帰っているはず。
誰だ?
(警戒しながら門を潜り、屋敷の大扉を開けるモルドレッド)
ランスロット:おかえり、モルドレッド。
モルドレッド:兄上? 何故俺の家に?
円卓会議の最中では?
ランスロット:朝一番にパーシヴァルから報告を受けた後、
帝都に残っている王族で非公式の会議が開かれてな。
その時に、おおよその結論はまとまった。
安心しろ、お咎めなしだ。
パーシヴァルの呼び出しも形式的なものだよ。
モルドレッド:それで兄上は、円卓会議に欠席を……
ランスロット:結論の出ている会議に出席するのはくたびれる。
何、パーシヴァルもケイの嫌味を聞き流せばいいだけだ。
弁護はトリスタンがしてくれるだろう。
俺はお前と話がしたかったんだ、モルドレッド。
モルドレッド:…………
ランスロット:そちらの女性は……
ああ、先日城にいらしたムーンストーン族の。
ラーライラ:ラーライラ=ムーンストーン。
ランスロット:話には聞いています。
この度は、お悔やみを申し上げる。
クーサリオン殿は、穏やかで理知に富んだ人士だった。
ラーライラ:……あなたたちは、私たちを助けてくれると約束した。
あなたたちが軍を派遣してくれていれば、族長様は、里のみんなは死なずにすんだかもしれない。
ランスロット:代わりに、我が国の兵が死んでいました。
ラーライラ:…………
ランスロット:既にエルフ族には広まっていることでしょうから、全容をお話しします。
私たちは儀式魔法ヘルガイアで、森ごとアンデッドを葬ろうとしました。
他の部族のエルフたちには伝令がいきましたが、あなたたちムーンストーン族は巻き添えになっていたでしょう。
モルドレッド:兄上! それは――!
ランスロット:どう釈明したところで、エルフ族の失望は拭えますまい。
帝国は、あなたたちの復興に全力を尽くします。
これからも我ら帝国と、友好を結んでいただけませんか。
ラーライラ:……わかっています。
あなたたちの支援は、必要だから。
ランスロット:有り難く思います、新族長殿。
モルドレッド:
馬車が屋敷の前に止まった?
(大扉が豪快に開き、金髪に巻き毛の少女が入ってくる)
カテリーナ:ごきげんよう、皆様。
モルドレッド:だ、誰だあなたは!?
ランスロット:ほら、以前話しただろう。
お前に興味があると言っていた、ウルフスタイン伯爵の令嬢だ。
カテリーナ:カテリーナ=ウルフスタインと申します。
本日はお招きいただき、光栄にございますわ。
ランスロット:どうだ。
話した通りの、
カテリーナ:モルドレッド=ブラックモア。
近くで見ると、意外と普通の殿方ですのね。
モルドレッド:あなたは私を何だと思われていたのです?
カテリーナ:帝国に災いをもたらす十三番目の皇子。
モルドレッド:……面と向かって侮辱された経験は、あまりありませんでした。
カテリーナ:お気を悪くされないでくださいまし。
モルドレッド:……それはどうも。
カテリーナ:わたくし、モルドレッド様のお噂は以前からずっと追い掛けておりましたの。
太古の強大なアンデッドを打ち倒したそうですわね。
モルドレッド:私だけの力ではありません。
オルドネアの加護と、仲間の力添えがあったからです。
カテリーナ:まあ、ご謙遜を。
ああ、どうしましょう。
胸が高鳴ってきました。
あの、笑わないでくださいましね?
モルドレッド:は、はあ……
カテリーナ:わたくしとお手合わせ願えませんか?
モルドレッド:お手合わせ? お付き合いではなく?
カテリーナ:そうですわね。
わたくしを叩き伏せた殿方になら、わたくし組み伏せられてもいいと思います。
ああでも、もちろんお付き合いをして、お互いを深く知ってからですわよ?
モルドレッド:いや、ちょっと待ってください……
兄上! これは一体――!
ランスロット:カテリーナ嬢は武芸に秀でた令嬢でな。
卒業後は
カテリーナ:神学は退屈で退屈で、フケていたら停学を食らいましたの。
むかついたから、こっちから辞めてやりましたわ。
モルドレッド:辞めてやりましたわ、って……
お父上は、何もおっしゃられなかったのですか?
カテリーナ:お父様はやりたいようにやれ、と背中を押してくださいましたわ。
ランスロット:それで……ウルフスタイン伯爵の仲立ちもあり、
内定の段階だが、カテリーナ嬢を聖騎士団に迎えることが決定した。
モルドレッド:コネではないですか。
カテリーナ:あら、聖騎士団が縁故で成り立っているのは、周知の事実ではありませんこと?
大事なのは、結果を出せることですわ。
わたくし、文句を言った聖騎士の面々は、全員ぶちのめして差し上げました。
聖騎士を名乗るのに不足はありませんことよ。
モルドレッド:カテリーナ殿!
聖騎士は、強ければいいというものではありません!
神学概論といった基礎教養から、治癒魔法による奉仕活動!
そして何よりも、神に仕える者としての信仰心が大切なのです!
カテリーナ:失礼ですわね、神学概論の筆記試験には合格しましてよ。
殿方なら、お父様のように度量を広く持ってくださいまし。
ちょっと幻滅しましてよ、モルドレッド様。
モルドレッド:幻滅していただいて結構。
カテリーナ殿、はっきり申し上げます。
あなたに聖騎士は勤まりません。
別の道を探されるよう忠告いたします。
カテリーナ:ランスロット様の承認は得ました。
あなたに判断される筋合いはなくってよ。
何様のつもりでしょう。
モルドレッド:俺にあなたの適性を見定める権利は、当然ある。
何故なら俺は、聖槍ロンギヌスの使い手だからだ。
カテリーナ:全然理由になってませんのよ。
オルドネアの魔導具を使えるからって、偉そうに。
そのツラ、ぶっ飛ばしてやりたく思いますわ。
モルドレッド:上等です。
貴様のような女を聖騎士と認めるわけには、断じてならん。
カテリーナ:力尽くでも認めさせますのよ。
表に出やがりなさい。
モルドレッド:いいだろう。覚悟しろ。
ラーライラ:……止めなくていいの?
ランスロット:いや、まあ――
予想通りと言うか、予想以上と言うか。
モルドレッド:オルドネアの名に誓って、カテリーナ=ウルフスタイン!
貴様の聖騎士団加入を阻む!
カテリーナ:言ってくれましたわね、モルドレッド=ブラックモア!
吠え面かかせてやりますから、せいぜいハンカチとちり紙を用意しておきなさい!
ラーライラ:……ねえ。
ランスロット:若き族長殿。
人間の世界には、喧嘩するほど仲がいいという、ことわざがあるのですよ。
モルドレッド:叩き出すっ!!!
カテリーナ:叩きのめしますっ!!!
ラーライラ:そのことわざ、嘘だと思う……
ランスロット:私もいささか怪しく思えてきました。
□3/モルドレッド自室
モルドレッド:つうう……
まだ骨に痺れが残っている……
ランスロット:ははは。辛うじて勝ちは取れたな。
モルドレッド:な、何なのだあいつは!
大金鎚を振り回す女など、見たことがない!
ランスロット:あれは、ミョルニルという魔導具だ。
ミョルニルを扱うために、カテリーナ嬢はさらに身体強化の魔導具も身につけている。
彼女は、
モルドレッド:くっ……確かにあのミョルニルは、強力な魔導具だった。
だが、俺のロンギヌスはオルドネアの遺産!
他の魔導具とは、次元が違う!
そのロンギヌスの使い手である俺が押されるとは……!
ランスロット:ロンギヌスは、万能の槍だ。
破邪の十字架に、防御障壁、回復魔法まで使える。
現存する魔導具の中でも、五本の指に入る性能だろう。
それでも、欠点はあるのだ。
モルドレッド:広範囲の攻撃手段を持たないこと……
そして破邪の十字架は、人間相手には無力であること……
ランスロット:そうだ。
対人戦では、純粋な槍の技量だけで戦わねばならん。
ロンギヌスに限らず、神聖魔法に共通する弱点はそれだ。
悪魔や悪霊には強いが、人間や魔獣相手には決定打がないのだ。
カテリーナ嬢のような戦闘に特化した
モルドレッド:……なるほど。
兄上も伯爵への義理だけで、あの蛮人を加入させたわけではないということですか。
ランスロット:どうだ、俺も考えているだろう?
モルドレッド:……わかりましたよ。
認めます。強いのは事実のようだ。
ランスロット:聖騎士団も華やかになるだろう。
なにせ
ドレスを着ているから判りづらかっただろうが、実はスタイルもいい。
モルドレッド:いくら
あの女の恋人が勤まるのは、サンドバッグぐらいだ。
ランスロット:ほう。
お前は、スレンダーな青い髪のが好きか。
モルドレッド:何故そうなるのです。
ランスロット:お前が女の子を家に連れ込むとは……
俺は嬉しいぞ。
男なら誰しも通る道だ、頑張れよ。
モルドレッド:誤解です、兄上!
俺はあいつに何の感情も持っていない!
あいつだってそうでしょう!
ランスロット:いや。
俺が思うに、お前の押し次第だな。
モルドレッド:そんなことはどうでもいい!
それよりも兄上――
なぜトゥルードの森を殲滅する決定を許したのです。
俺はずっと聞きたかった。
兄上が参加していながら、なぜ円卓会議はあのような非道な作戦を許したのです!
ランスロット:…………
エルフ族を見殺しにしたことは、許し難いか。
モルドレッド:当然でしょう!
何を言うのです!
ランスロット:そうか。
俺はあの作戦が間違っていたとは思わない。
今でも儀式魔法ヘルガイア発動を提案したことを、後悔していない。
モルドレッド:兄上……!
ランスロット:俺を非情だと思うか?
モルドレッド:……ええ!
ランスロット:そうか。
それでいい。
モルドレッド:……兄上?
ランスロット:モルドレッド。
お前のその心を大事にしろ。
尻拭いは俺がしてやる。
今は真っ直ぐに、正義を貫け。
モルドレッド:俺には、兄上の意思がわかりません。
ランスロット:お前にもいずれ判る日がくる。
いや……わからないでいて欲しいとも思う。
子供は、変に達観していなくていい。
モルドレッド:子供扱いはやめていただきたい。
ランスロット:ふふふ。
子供のままでいるというのは、存外に大変なものなのだぞ。
人間はな、嫌でも大人になっていってしまうのだよ。
だから、今は子供のままで、真っ直ぐでいなさい。
□4/ラーライラ私室
ラーライラ:風を感じない……音も静か……
人間ってこういう狭い囲いが、安心するの?
閉塞感……
(コンコン、と部屋の扉を叩く音がする)
ラーライラ:誰? モルドレッド?
カテリーナ:わたくしです、カテリーナですわ。
(怪訝な顔をしながら、ドアを開けるラーライラ)
ラーライラ:何か用?
カテリーナ:お部屋に入れさせていただきますわ。
内緒の話がございますの。
失礼します。
ラーライラ:あ……
カテリーナ:ラーライラさん、単刀直入に聞きます。
あなた、モルドレッド様とお付き合いされてますの?
ラーライラ:え――!?
カテリーナ:その反応……
お付き合いされているか、もしくは片思いですわね。
ラーライラ:な、なな、何を言ってるの!?
私はモルドレッドとは――……
カテリーナ:皆まで言わなくて結構ですわ。
交際中にせよ、片思いにせよ、そんなの関係ありませんわ。
わたくしが奪い取りますもの。
ラーライラ:……!
カテリーナ:反論がおありでしたら聞きますけれど?
ラーライラ:私は何も……
モルドレッドのどこを気に入ったの?
カテリーナ:わたくし、今まで多くの殿方に言い寄られてきました。
でも、どなたも一撃で音をあげる軟弱者ばかり。
けれど、モルドレッド様は違いました。
彼はわたくしの全力を、受け止めてくださいましたわ。
ラーライラ:全力の大金槌……
ロンギヌスの結界がなかったら、モルドレッドは死んでたと思う……
カテリーナ:メギンギョルズを締めたわたくしは、鉄の女……
誰一人、わたくしの心には触れられない。
でも、あの方の槍だけはぶすっと貫きましたの。
ラーライラ:わからない……!
心臓を刺されて、どうしてそれで好きになれるの……!?
カテリーナ:あんなに沢山血が出るとは思いませんでした。
だって、初めてでしたもの……
でも、あの痛みこそモルドレッド様からいただいた傷……
ラーライラ:変な表現するのはやめて!
モルドレッドはあなたとなんか!
カテリーナ:ふふん。
あなた、ウブですわね。
その様子だと、殿方とお付き合いされた経験はありませんわね。
ラーライラ:……だったら何?
エルフは、一年中発情してる人間とは違う。
カテリーナ:枯れ木のような種族ですわね。
ラーライラ:山猿。
カテリーナ:あら、どこかで雑草が鳴ってますわ。
(片手で口元を隠して高笑いするカテリーナの手足に巻きつく緑の蔦草)
(高笑いを止めたカテリーナが下を見ると、絨毯に根を張った蔦植物が茂っていた)
カテリーナ:何かしら、このツタは?
ラーライラ:さあ。雑草が生えたんだと思う。
カテリーナ:ふんっ!
さて。
手足も自由になったところで、草むしりでもしましょうかしら。
わたくし、力仕事には自信がありますの。
ラーライラ:街は人間の住む場所だって聞いた。
山猿は山へ帰ればいい。
カテリーナ:山へ帰るのはあなたでしょう、エルフさん?
雑草はそこらへんの
ラーライラ:私、あなたのこと大嫌い。
あなたに付きまとわれたら、モルドレッドが可哀相。
カテリーナ:どうしてモルドレッド様の名前が出てくるのかしら?
白状なさい。
あなたもモルドレッド様が好きなのでしょう!
ラーライラ:もし……もしも、そうだと言ったら?
カテリーナ:亡き者にします!
当然ですわ! 覚悟なさい!
ラーライラ:絶対に負けないっ!
□5/モルドレッド自室
モルドレッド:さっきから隣が騒がしいな。
何をやっているんだ?
ランスロット:ふむ。
女同士の争いか。
モルドレッド:何を争うのです?
ランスロット:ははは、何だろうな。
さて、俺はそろそろ行く。
つい長居をしてしまった。
モルドレッド:兄上……
ありがとうございました。
俺を出迎えるために、わざわざいらしてくれたのですね。
ランスロット:疲れているだろう。
ゆっくり休めよ。
とはいえ……
こうも隣が騒がしくては、おちおち休んでいられんか。
モルドレッド:ふっ、全くです。
ランスロット:はははは――
っ! くうっ……
モルドレッド:兄上! どうされました!?
ランスロット:いや……気にするな。
いつもの偏頭痛だ。
モルドレッド:お薬はお持ちですか。
今、水を持ってきます。
ランスロット:いや……大丈夫だ。
自分で台所まで行けるよ。
最近、頻度が増えてな……
文字通り、頭が痛い。
モルドレッド:医者に相談されては?
ランスロット:ああ、相談はしているのだがな。
生まれつきらしく、上手く付き合っていくしかないそうだ。
まあ、心配するな。
偏頭痛で死にはせん。
モルドレッド:兄上……お大事になさってください。
ランスロット:ああ。
おやすみ、モルドレッド。
モルドレッド:おやすみなさい、兄上。
(薄暗い廊下に出ると、ランスロットは顔をしかめて壁に寄り掛かる)
ランスロット:参ったな……
これほど激しい頭痛は久々だ……
(びっしりと脂汗の浮いた額を抑えるランスロットの眼に、不吉の予感が過ぎる)
ランスロット:まさか……
あの前触れなのか?
冗談ではない……
しっかりしろ、俺は俺だ。
……痛み止めを飲もう。
俺も、モルドレッドに習って早く休むか。
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