The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第9話 暴虐の恐竜王

★配役:♂4♀1=計5人

▼登場人物

モルドレッド=ブラックモア♂:

十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。

魔導具:【-救世十字架(ロンギヌス)-】

パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。

魔導具:【-自在なる叡知(アヴァロン)-】
魔導系統:【-元素魔法(エレメンタル)-】

ラーライラ=ムーンストーン♀
二十七歳の樹霊使い(ドルイド)(外見年齢は十三歳程度)。
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の一員。
人間の父と、エルフの母のあいだに生まれたハーフエルフ。
『ムーンストーン族』のエルフには見られない青髪と碧眼は、父親譲りのもの。

父親が魔因子を持たない人間だったので、〈魔心臓〉しか受け継がなかった。
エルフながら魔法を使うためには、魔導具の補助が必要である。

魔導具:【-緑の花冠(フェアリー・ディアナ)-】
魔導系統:【-樹霊喚起歌(ネモレンシス)-】

クーサリオン=ムーンストーン♂
百五十一歳のエルフの樹霊使い(ドルイド)(外見年齢は二十代後半〜三十代前半)。
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の族長。
ラーライラの母の兄で、ラーライラの伯父に当たる。

エルフは、現代では珍しい完全な魔因子を持つ種族。
魔力を生成する〈魔心臓〉のみならず、額に魔法を使うための〈魔晶核〉を有する。

恐竜王ディラザウロ♂
『ハ・デスの生き霊』の幹部、逆十字(リバースクロス)の一人。
黒い玄武岩の体躯に、マグマの血脈を張り巡らせた暴君竜。
全長二十メートルを超える背中には、厳威誇る火山が聳え立っている。

生命活動レベルで魔法を取り入れており、己の躯自身が一つの魔導具と言える。
魔心臓はかつて地上に存在した生物の中で最も強く、古代人も凌駕するという。

魔導具:【-暴虐噴火山(ボルガニック・カイザー)-】
魔導系統:【-元素魔法(エレメンタル)-】


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。



□1/ムーンストーン族の里の草地に、月夜を背負う巨躯が立つ

ディラザウロ:GUUUOOOOOON……!

(密集した木々を薙ぎ倒しながら、黒い爬虫類がのし歩く)
(月桂樹に変じていたエルフたちも異常を察し、人の姿に戻っていた)

モルドレッド:陸棲(りくせい)のドラゴン……あれは地竜か……!?
        なんて大きさだ……!
        最大種よりも二回り以上は大きいぞ……!

パーシヴァル:あれは……まさか……

モルドレッド:知っているのか?

パーシヴァル:あれ、恐竜だよ……
         ドラゴンの祖先で、大昔に絶滅した種族のはず……

ディラザウロ:ほう。
        よく知っているな、メイジ。

パーシヴァル:しゃ、喋った!?

ディラザウロ:音声言語がヒトの特権だと思っていたか。
         ならば、今その自惚れを改めよ。

(玄武岩の皮膚が硬く黒光りし、マグマの血脈が赤く流れる巨躯)
(背中に聳え立つ小山は、巨大感をいや増す象徴となっていた)

ディラザウロ:エルフと人間、猿の末裔たちに告ぐ。
        我が名を記憶に刻め。

        余はディラザウロ。
        『ハ・デスの生霊』が幹部、逆十字(リバースクロス)一柱(ひとはしら)
        そして太古の地上を制した、恐竜族の王なり。

モルドレッド:『ハ・デスの生き霊』だと!?

クーサリオン:あの手に握られているのは……

ラーライラ:族長、様……!

ディラザウロ:エルフどもに問う。
        お前たちの守護する『シャダイゲート』は何処(どこ)にある。

モルドレッド:貴様……人質を取ったか!

ディラザウロ:お前が十三皇子か。
        ネクロマンサーが気に掛けていた。

モルドレッド:また俺を仲間に引き入れようという魂胆か?
        だったら無駄なことだ!
        さっさと帰ってそう伝えろ、モンスター!

ディラザウロ:自惚れるな、パラディン。
        余はシャダイゲートを撃ち砕くべく(おもむ)いた。
        余の大義を(はば)むならば、お前を踏み(にじ)る。

モルドレッド:ゲートの破壊――
        貴様らの目的は、冥府の悪魔どもを呼び出すことか!

ディラザウロ:回答を拒否する。
        推考せよ、パラディン。

モルドレッド:何――!?

ディラザウロ:無駄話は終わりだ。
        シャダイゲートの在処(ありか)を言え。

クーサリオン:くっ……!
         ラーライラ……

モルドレッド:卑怯な……!

ラーライラ:あああああっ……!
      熱い……熱いっ……!

ディラザウロ:余の体熱は、煮え滾るマグマ。
        一度本来の体温を解き放てば、エルフなど消し炭と化すぞ。

クーサリオン:くっ……!
        ラーライラの悲鳴で、私の口を割るつもりか。

モルドレッド:……クーサリオン殿はエルフの族長。
       その立場上、シャダイゲートの場所を喋ることは出来ないだろう。
       だったら、その役目は俺が――

パーシヴァル:待ってよ、モル!
        もう少し様子を見よう。
        相手の情報を引き出して、上手く取引を――

ディラザウロ:余は駆け引きを嫌う。
        お前たちが無益に引き延ばす腹積もりならば、人質は要らん。

ラーライラ:きゃあああっっ!!
      熱いっ! 熱いっっ!!

クーサリオン:――(いにしえ)の王よ!
        我らムーンストーン族は、シャダイの意思を告ぐ一族!
        たとえ同胞を人質に取ろうとも、ゲートの秘密を明かすことは叶わぬ!

ディラザウロ:よくぞ言った、エルフの長よ。
        余は、お前の決定を受け入れた。
        宣言通り、決裂の代償を払え。

ラーライラ:くっ……ううっ……

クーサリオン:ラーライラ……

ラーライラ:悲鳴は上げない……!
      ムーンストーン族のエルフとして死ぬから……っ!

ディラザウロ:見上げた性根だ。

クーサリオン:ラーライラ……すまない……

ディラザウロ:草を()む一族の娘。
        死ぬ間際まで誇り高くあれ。


□2/恐竜王の腕が火を吹き上げた直後、モルドレッドが前に進み出た


モルドレッド:待て! モンスター!

パーシヴァル:待ってよ、モル!

モルドレッド:待たん!

       モンスター!
       シャダイゲートは、森の奥深くにある大樹。
       トゥルードの神樹と呼ばれる、最も大きな樹だ!

クーサリオン:モルドレッド殿!?

パーシヴァル:言っちゃった〜……

(紅閃石の眼が、落ち着いた暗紅色へ体温を落とす)
(玄武岩の巨躯が屈み、焼け爛れたハーフエルフを草地に下ろした)

ラーライラ:ううっ……

ディラザウロ:約束通り、エルフの娘は返す。

(岩石恐竜は、黒い小山を背負った背面を向けて歩行開始)
(森へ向かって前進していく巨躯へ、モルドレッドが呼び掛ける)

モルドレッド:何処へ行くつもりだ、モンスター!

ディラザウロ:お前の言ったシャダイゲートだ、パラディン。

パーシヴァル:そんなに素直に信じちゃっていいの。
         嘘の場所を教えたかもしれないよ。

ディラザウロ:お前とエルフの動揺が証明となった。
        パラディンの言は、信じるに値する。

パーシヴァル:う……

モルドレッド:モンスター。
        貴様をみすみすシャダイゲートへ向かわせると思っているのか?
        人質さえ取り戻せば、後は貴様を倒すだけだ!

パーシヴァル:それ……悪党っぽいよ、モル。

ディラザウロ:GUUUUUUUUU……

パーシヴァル:やば。
         やっぱ怒ってる……

ディラザウロ:嬉しいぞ。
        余はお前たちとの闘争を望んでいた。

(黒い玄武岩の隙間から高温の水蒸気が噴出し、濛々たる熱気が煙る)

ディラザウロ:恐竜に成り代わり地上を制した猿の末裔よ。
       余はたった一匹の恐竜として、お前たちに闘争を挑む。
       弱肉強食の掟に(のっと)り、いざ雌雄を決さん。

       WOOOOOOOOOOOOO!!!

パーシヴァル:げえっ!?
         こっちに突進してくるんだけどっ!?

モルドレッド:回避するぞ、パーシヴァル!

パーシヴァル:ちょ、ちょちょちょちょ……!

(草地を駆ける恐竜王が、焼け焦げた足跡を刻んで急停止)
(地面から緑の奔流が迸り、玄武岩の巨躯を雁字搦めに捕縛していく)

クーサリオン:我らエルフは、樹霊使い(ドルイド)の一族!
         皆よ、森を踏みにじる狼藉者(ろうぜきもの)を許すな!
         緑の縛鎖で絡め取り、拘束せよ!

ディラザウロ:GUUUUUUU……!
        動けん……!

クーサリオン:ローズオブペイン――
        樹霊喚起歌(ネモレンシス)で生み出された茨は、鉄をも削る。
        お前の岩石の(からだ)も無事では済むまい。

パーシヴァル:た、助かった……

クーサリオン:二人とも、今のうちに逃げてください!

パーシヴァル:ありがとう、族長さん!

クーサリオン:シャダイゲートは、冥府の侵略から地上を守る門……
        封印は断じて破らせるわけにはいかない――


□3/岩石恐竜の肢下を迂回して、倒れ伏したラーライラの元へ駆け寄る二人


ラーライラ:ううっ……
      あなたたち……?

モルドレッド:じっとしていろ。
        ロンギヌスで治療する。

ラーライラ:あ……
      痛みが引いていく……

ディラザウロ:GUUUU……
        蔦草(つたくさ)如きで、余を阻もうとは笑止。

        GAAAAAAAAAAAA!!!

パーシヴァル:うわあっ、茨が燃えカスに!

クーサリオン:体温の上昇で、茨を焼き払うとは……

ディラザウロ:余の驀進(ばくしん)は、誰にも止められん。

        踏み躙る! 往くぞ!

(熱気を纏って踏み出された前肢が、地面にめり込み埋没した)
(柔らかな根を断ち切る音を散らしながら、恐竜王の巨躯が斜めに傾いていく)

ディラザウロ:落とし穴、だと!?

(驚きを宿す紅閃石の眼が捉えたのは、地面を走る無数の軟らかな根)
(堅い地表が縦横に伸びる根に耕され、玄武岩の塊が地中に沈降していく)

パーシヴァル:恐竜が地中に沈んでいく……!

クーサリオン:肉食獣の王よ。
        緑と生きる我々は、無力な獲物ではない。
        森の一族の冷酷さを思い知るがいい。

        ラーライラ!

ラーライラ:はい、族長様。

      種に眠りし、寄生の命。
      肉に根を張り、鮮血をすすり、赤く咲き誇れ。

      ドレインリーパー。

モルドレッド:モンスターの身体から花が……!

ラーライラ:そう、生物の体液を吸収して育つ寄生木(ヤドリギ)の花。
      身動きを取れないようにして、じわじわ命を奪う。

パーシヴァル:エルフってえげつないね……

(恐竜王が生き埋めになった箇所から、底深い地鳴りが轟く)
(大地が縦に裂かれ、夜空を焦がさん大火柱が噴き上がった)

クーサリオン:皆、離れろ――

         くうっ!

ラーライラ:ドレインリーパーが枯らされてる……!?

クーサリオン:根の陥穽(ルートピット)≠ェ通じないとは……!

ディラザウロ:くだらん小細工は止めろ。
        お前たちの浅知恵など、(ことごと)く焼き尽くされると知れ。

        闘争の意思ある者は、余の正面に立て。
        万古(いにしえ)当代(とうだい)交錯(こうさく)する闘技場は此処だ。

モルドレッド:いいだろう。俺が相手に――

パーシヴァル:モル、おいらに任せてよ。

モルドレッド:お前が出るのか?

パーシヴァル:絶滅した竜の祖先――
         今度提出しなきゃいけない論文のネタになりそうだ!

         【自在なる叡智(アヴァロン)】、起動(ブート)
         自律詠唱仕様(オートキャストモード)散開せよ(スプレッドアウト)

ディラザウロ:よくぞ名乗り出た。
        受けて立とう、人間のメイジよ。

パーシヴァル:生命の果てより吹き寄せる終わりの吹雪よ。 
        凍える眠りは今来たり。氷河の棺は今開く。
        絶対零度の(てのひら)は、最果ての死より汝を掴む。

        我が敵を幽世(かくりよ)の深海へ誘え!
        フローズン・グラコス!

(恐竜王の周囲を包囲飛行した水晶体の群れが、絶対零度の領域を形成)
(十個の水晶体の結ぶ十角形内が、瞬く間に氷点下へ低下)
(玄武岩の表面に氷霜が降り、成長する樹氷に覆い尽くされていく)

ディラザウロ:極寒の結界か。
        氷河の風が、生命の熱を奪う……

パーシヴァル:お前は「火」の元素に影響された生き物だろ?
         火の生き物には、氷の魔法は堪えるんじゃないの!

ディラザウロ:甘い。
        氷と炎は、原始から続く天敵同士。
        氷が炎を殺すように、炎も氷を喰らう。
       
パーシヴァル:くうっ……
        やばいっ、領域内の温度が押し上げられてる……!

(恐竜王の巨躯から蒸気が立ち上り、十個の水晶体の作る結界内が白く霞む)
(根を張った樹氷の枝葉が枯れ、覆い尽くしていた氷霜が流れ去っていく)
(絶対零度に低下する極寒の十角形が、平常気温に押し戻されようとしていた)

ディラザウロ:故に此は氷と炎――
         お前と余の、純粋なる決闘だ!

(玄武岩の奥に燃える魔心臓の炉が過熱し、凍てつく氷の反逆を暴圧した)
(恐竜王に咲き誇っていた樹氷の林が、玄武岩の地熱に耐えきれず融解散華)
(沸騰した樹氷が水蒸気爆発。白い湯気の爆風となって周囲を薙ぎ払った)

パーシヴァル:うわああっ!!!

ラーライラ:きゃああっ!!

モルドレッド:オルドネアよ!
        荒ぶる暴威から守りし加護を与えたまえ!

(水蒸気の向かい風に逆らって前に出たモルドレッドが防壁展開)
(獰猛に吹き寄せる爆風を、ロンギヌスが築いた斥力障壁が流す)

モルドレッド:大丈夫か、二人とも!?

パーシヴァル:お、おいらは無事……

ラーライラ:私も……
      でも、族長様たちは……!

クーサリオン:私たちも無事だ、ラーライラ!

(何十本も里に立ち並んだ樫の木の陰から、エルフが姿を現す)
(強固な樫樹霊(トレント)を壁とし、水蒸気爆発をやり過ごしていた)

モルドレッド:まさかパーシヴァル、
        魔力勝負でお前が押し負けるとは……!

パーシヴァル:くそっ……
         あいつの魔力、ハンパじゃないよ……!

ディラザウロ:さあ、次は何奴(どいつ)だ。
        一でも百でも受けて立つぞ。
        己が種族の存亡を掛けて闘争せよ。

パーシヴァル:冗談じゃないよ……
         あんなのと真っ向勝負なんて、できるかってーの。

クーサリオン:皆よ、肉食獣の挑発に耳を貸すな。
         奴の言う正々堂々など、強き者の驕りに過ぎない!

ラーライラ:そう、私たちは私たち。

       種に眠りし、(かつ)えた命。
       強酸の唾液を滴らせ、肉を喰らうもの。
       
       マンイーター。

モルドレッド:歩く草……!?

ラーライラ:食虫植物マンイーター。
       動くモノを見境無く喰らう。

       トゥルードの森の防衛植物。

パーシヴァル:1、10、100……凄い数だね。
        うわっ、また出てきた!

クーサリオン:使役植物に前線を維持させるのだ!
        接近されても、落ち着いて対処するのだ!
        決して距離を詰めさせてはならない!

ディラザウロ:何だ、この雑草の群れは。
        血を流す者はいないのか。
        痛みを受け入れる者はいないのか。

        此がお前たちの闘争なのか。


□4/戦況膠着、使役植物の群れが恐竜王を封殺


クーサリオン:種に眠りし、茨の命。
         巻きつき、這い上り、流血の華を咲かせ。

         ()は美しき血染めの薔薇――
         ローズオブペイン!

ディラザウロ:同じ手は喰わん。
        炎よ、我が躯に燃え盛れ。

クーサリオン:こちらとて、二度も通じるとは思っていない。

         よし、炎が終息した!
         マンドレイクの毒液を注入するのだ!

ディラザウロ:GUUUUUU……!
        余の血潮が凝固する……

クーサリオン:マンドレイクの毒は、命の雫を枯らす毒――
        お前にとっては、マグマを流動させる水分だったか。

ディラザウロ:愚かな……
        魔心臓の炉が燃え尽きぬ限り、余の血潮は無尽に湧き出す。

クーサリオン:ならば、血≠的に絞った攻撃は止める。
         私たちの攻撃手段は、植物の数だけ存在するのだ。

パーシヴァル:……凄いや。
         あの化け物を圧してるよ!
         さすがエルフの樹霊使い(ドルイド)たちだ!

モルドレッド:……もっと破壊力のある魔法はないのか?
        樹霊使い(ドルイド)たちの連携は見事だが、ダメージは微少だ。

ラーライラ:樹霊喚起歌(ネモレンシス)は、元素魔法(エレメンタル)と違う。
       燃やしたり、凍らせたりはしないの。

パーシヴァル:樹霊喚起歌(ネモレンシス)の系統に、破壊系魔法は少ないんだ。
         茨で動きを封じたり、使役植物を作り出したり、
         もともとサポートを得意とした魔法体系なんだよ。

モルドレッド:確かにエルフたちは、見事に防衛ラインを保っている。
        モンスターは何度も突撃を阻まれ、接近戦に持ち込めていない。
        人間の軍隊相手なら、防衛ラインを突破され、大混乱になっているだろう。

ラーライラ:樹霊使い(ドルイド)は急がない。
       時間を掛けて体力を削っていく。

       植物のように静かに長く。
       樹霊使い(ドルイド)の戦い方。

モルドレッド:上手くいけば、最小限の犠牲で倒せるが……

ラーライラ:何もしない人間。
       黙ってて、うるさい。

モルドレッド:何だと、貴様――!

パーシヴァル:まーまーまー!
         さっきからどうしたんだよ、モル?

モルドレッド:嫌な予感がするんだ……
        大災害の前触れのような……
        上手く説明は出来ないが――

        戦闘を長引かせてはいけない!

クーサリオン:皆よ、敵は徐々にダメージが蓄積している。
         結果を急ぐな。冷静に戦闘を進めていくぞ。

ディラザウロ:GAAAAAAA……!!!
        何十何百と群れ集い、一つの群雲となって襲い掛かる。

        何という下劣な闘いだ。
        誇りあるならば、群れに隠れるな!

クーサリオン:敵が暴れ出した!
        使役植物の数を増やすのだ!

ディラザウロ:血を流せ! 命を賭せ!
        己の躯一つで、世界と闘争せよ!

        さもなくば、お前たちは虫けらだ!
        草木に群がり、食い散らす虫けらだ!

クーサリオン:…………

         独りで戦うことしか知らぬ恐竜の王よ。
         強いだけの個は、群れる弱者に淘汰される。
         お前の輝いた時代は、とうの昔に過ぎ去ったのだ。

ディラザウロ:GUUUUUUUUUUUUU……

        もはや容赦はせん。
        虫けらに闘争の儀は要らん。

(恐竜王の憤懣を示すように、背中に聳え立つ小山も黒い噴気を立ち上らせる)
(恐竜火山が激動。赤い爆炎の輪を拡げながら大噴火)
(星空を焦がす緋の軌跡が、劫火の雨となって降り注ぐ)

ディラザウロ:余の瞋恚(しんい)は、噴火した!
        ()く焼け落ちよ! 灰燼(かいじん)に帰せ!

ラーライラ:火の雨……!?
       燃える岩石の雨……!!

クーサリオン:皆よ、攻撃は中止だ!
        樫樹霊(トレント)に身を守らせろ!

        早く! 急げ!

パーシヴァル:モ、モルっ!
         結界を強めてっ!

モルドレッド:お前もアヴァロンで大きな塊を撃ち落とせ!
        直撃したら、結界を破られるっ!

クーサリオン:トゥオル、大丈夫か!?
         リングリル! アルディア!

         くっ――!

ラーライラ:族長様っ! みんな――!


□5/降り注ぐ火山礫の炎が、燎原を焼き払う火炎の中


ラーライラ:里が……私の里が……
       炎に包まれていく……

ディラザウロ:燃えろ、燃やし尽くせ。
        惰弱(だじゃく)を灰に。懈怠(けたい)を骨に。
        一匹残らず、焼き殺せ。

ラーライラ:火の雨が……
       いくつも、いくつも……

モルドレッド:モンスターめ……!
        無差別に火災を撒き散らすとは……!

クーサリオン:これ以上、火の跳梁(ちょうりょう)を許すな!
         水を蓄えた広葉樹で囲み、自滅させるのだ!

パーシヴァル:ダメだっ! 消しても消しても、炎が収まらない!
         火山弾の噴火が止まらない! これじゃ焼け石に水だよ!

モルドレッド:奴の魔力は底無しか……!
        いつまで噴火は続くんだ……!

クーサリオン:燃える岩が森へ落ちていっただと!?
         わかった! 私が鎮火に急ぐ!

モルドレッド:あのモンスターを討ち取る!
        それしか方法はない!

パーシヴァル:ダメだ!
         今結界を弱めたら、火山弾が直撃して終わりだよ!

モルドレッド:じゃあどうしたらいい!?

パーシヴァル:待つんだ!
         被弾確率が下がるまで!

モルドレッド:それはいつだ!?

パーシヴァル:わかんないよっ!

クーサリオン:何としても食い止めなければ……!
         トゥルードの森を、灰にはさせない!

         ぐああ――っ!

(落下の衝撃で砕け散った火山弾が、クーサリオンの背中を叩く)
(千度に達する火山礫を浴びて、肉を焦がされる痛みに悶えるクーサリオン)

ラーライラ:……許さない。

パーシヴァル:ラーライラ――?

ラーライラ:絶対に許さない――!!!

(ロンギヌスの斥力障壁から飛び出すラーライラ)
(火山の雨が降り注ぐ夜空の下を、悲しみと怒りの顔で駆けていく)

ラーライラ:我が内に眠りし、古き命。
       目覚めよ、月長石の種を破りて。

       左手に木漏れ日を。
       右手に果実と蜜を。

       我は、大地に根を下ろす。
       時の風雨に耐え忍ぶ幹となる。
       生きとし生けるものに憩いをもたらさん。

       其は悠遠(とこしえ)に根差す世界樹。
       ユグドラシルフォーム!

(緑の花冠が膨大な光を溢れさせ、封じられていたシャダイの血統を解放)
(ラーライラの両足が地面に潜り込み、拗くれながら無限大に伸びていく)

パーシヴァル:これほどの大魔法……!
         並大抵の魔晶核じゃ使えないよ……!

モルドレッド:あいつ……本当にシャダイの子孫だったのか。
        どこまで大きくなるんだ……!?

(灼熱の流星が落ちる月夜の下――)
(恐竜王を見下ろす高見に生え出したのは世界樹の巨大擬人)
(世界樹の幹の中央に埋まったラーライラの上半身だけが、エルフの面影を残していた)

ディラザウロ:なんと大きい……
        余を圧する巨体とは。
        首長竜どもを思い出す。

ラーライラ:はあ……はあ……

ディラザウロ:エルフの小娘か。
        他の腰抜けどもとは違うようだな。

ラーライラ:トゥルードの森……私の故郷……
       私の大事なもの……守ってみせる……っ!

ディラザウロ:草を食む角竜も、己の角で余に立ち向かった。
        エルフよ、闘え! 角竜の如く!

(絡み合う根の多脚を持ち上げ、膨大な量の土塊を振り落としながら、巨大樹人が前進)
(森の天蓋を突き抜けるほどの巨樹が進む姿は、思考と言語を奪う圧倒があった)

ラーライラ:はあ……はあ……
       心臓が……痛いっ……

クーサリオン:ラーライラ! 無茶だ!
        お前には、ユグドラシルフォームは早すぎる!

ラーライラ:くううっ……!
      ダメっ……!
      まだ……何も……っ!

(樫より堅い樹皮が罅割れ、覆い茂る緑葉が水気を失い、枯れ茶に朽ちていく)
(空中を埋め尽くす枯れ葉の吹雪が乱れ舞い、朽ち色の渦巻きの中心にラーライラが落下)

クーサリオン:ラーライラ!
        何という無茶な真似を……!

ディラザウロ:虚仮威(こけおど)しで終わるとは。
        長耳(ながみみ)の猿どもめ。
        何度余を苛立たせるのだ。

モルドレッド:パーシヴァル!

パーシヴァル:ああもうっ、行ってきなっ!

         〈紅蓮ノ山(ティルナ)〉、〈氷霜ノ山(ノーグ)〉!
         追跡仕様(トレースモード)! 火山弾からモルを守るんだ!

ラーライラ:く……はあっ……

ディラザウロ:猿が。踏み潰してくれる。

モルドレッド:モンスター!
        これ以上、貴様の暴虐は許さん!

ディラザウロ:パラディン。

モルドレッド:シャダイゲートの封印を破ろうとした罪!
        無辜(むこ)のエルフたちを蹂躙した罪!
        救世主オルドネアの名において、貴様を裁く!

ディラザウロ:いい眼だ。
        お前には、闘志の炎が燃えている。
        余に挑め。挑んでみよ、パラディン!

モルドレッド:望むところだ!
        俺は悪を、暴虐という悪を、貴様を打ち倒す!
        覚悟しろ、モンスター!

ディラザウロ:オルドネアとやらの力、如何(いか)ほどか!
        血が燃える! 闘志が滾るぞ!

モルドレッド:化け物め、それが貴様の遺言だ!

        救済の十字架で、全ての悪を贖わん!
        この世界より滅び去れ、邪悪よ!

(仄白い光を集めるロンギヌスを振るい、地面を蹴るモルドレッド)
(断罪の十字架となって振り下ろされるロンギヌスを、玄武岩の大顎が迎え撃つ)
(月夜を背景にした空中で、力と力が拮抗する滞空停止)

モルドレッド:くうううううう――っ……!!

ディラザウロ:GUUUUUUUUU――……!!

パーシヴァル:信じられない……!
         ロンギヌスの救済の十字架≠受け止めるモンスターがいるなんて!

ラーライラ:勝てるの……?

パーシヴァル:……わからないよ。
         でも人間と恐竜じゃ、魔心臓の強さが桁違いだ……

モルドレッド:ロンギヌスがっ……軋む……!
        このままでは十字架がっ……!

ディラザウロ:人間の救世主(メシア)よ……

モルドレッド:オルドネアよ!
        俺に力を! どうか俺に!
        救世主オルドネア!!!

ディラザウロ:恐竜王の勝利だ!!!

(恐竜王の怒気が漲り、渾身の力で顎が閉じられる)
(光の十字架が罅割れ、光の粒子が散り、一気に噛み砕かれた)

パーシヴァル:モル!

ラーライラ:モルドレッド!

ディラザウロ:GAHAAAAA……
        人間の救世主(メシア)も大したものではないな。

        オルドネアと言ったか。
        この程度の力で大悪魔(ダイモーン)を封じたとは、慢言も大概にしておけ。

モルドレッド:ロンギヌスが……
        俺の、ロンギヌスが……

パーシヴァル:そんな……!?

         嘘だろ……!

モルドレッド:折ら、れた……

        真っ二つに……!
        噛み砕かれた……っ!

ディラザウロ:弱い、弱すぎる。
        六千五百万年もの間、お前たちは何をしていた。
        闘争を忘れ、馴れ合いのぬるま湯に浸かってきた故の惰弱か。

        支配者の王冠は、お前たちには不相応だ。
        余が取り戻す。ディラザウロが取り戻す。

        闘争と誇りの時代を、再び地上に復権せん!


□6/焼け野原となった里


パーシヴァル:はぁ〜……
         どうにか火事は消し止められたね。

クーサリオン:ええ。
        ご尽力感謝します、パーシヴァル殿。

ラーライラ:族長様……

       うくっ……苦しい……

クーサリオン:無理に起き上がらずともいい。
         お前の魔心臓には過大な負荷が掛かった。

ラーライラ:ごめんなさい……
       私のせい……私が捕まったから……

クーサリオン:お前の所為ではない。
        私もまた……あの者を止められなかった。

モルドレッド:……モンスターはトゥルードの神樹に向かっているだろう。
        奴の目的は――……

ラーライラ:トゥルードの神樹。
      シャダイゲートの破壊……

クーサリオン:…………

       奴を止めなければなりません。
       先回りすれば、まだ間に合うはずだ。

パーシヴァル:ちょっと待ってよ!
       あの化け物の強さを見ただろっ!?

       完全武装した『魔導装機団(まどうそうきだん)』や『聖騎士団』を呼ばないと!

クーサリオン:あなたの指摘は正しい。
        しかし、帝国軍が到着する前にシャダイゲートは破壊される。

パーシヴァル:だけど……行ったところで勝ち目はないよ。

クーサリオン:私は使途シャダイの末裔。
        ゲートの破壊を、看過するわけにはいかないのです。

        たとえ犬死にで終わるとしても――

パーシヴァル:…………

クーサリオン:皆に伝えたい。
        使途シャダイの使命を無理強いすることはない。
        残りたい者は、どうか残ってくれ。

(族長の呼び掛けに、ムーンストーン族のエルフたちの声は無い)
(しかし無言のエルフたちの顔には、使命感の決意があった)

クーサリオン:……皆よ、ありがとう。

ラーライラ:族長様、私も行く。

クーサリオン:ラーライラ……

ラーライラ:私もムーンストーン族のエルフ。
      シャダイゲートを守る使命がある。

クーサリオン:…………

(震えながら上体を起こすラーライラの前に、クーサリオンは膝を折って屈む)
(謎めいた粉末を零す手の平を、ラーライラの顔の上にかざした)

ラーライラ:う……ん……
       頭がぼやける……

       眠い……

クーサリオン:休みなさい、ラーライラ。
         お前には休息が必要だ。
         朝日が昇る頃には、お前の体調も戻っているはずだ。

ラーライラ:眠りキノコの胞子……
      どうして……族長様……

クーサリオン:ムーンストーン族の血を絶やしてはならない。
       ラーライラ、お前には新しい種を育む使命がある。

ラーライラ:嘘……
      私の血は混ざりもの……
      ムーンストーン族の種は、残してはいけない掟……

クーサリオン:……訂正しよう。
       お前には、生き残っていて欲しい。
       これが嘘偽り無い、私の純粋な気持ちだ。

ラーライラ:私、戦う……
      ハーフエルフの私が、ムーンストーン族に貢献できること……
      戦って、他の皆を守ること……

      私、たたか……う……

クーサリオン:お前の意思を捻じ曲げても、私の意志を押し通す。

       私も親なのだな……
       ラーライラ、どうか幸せに生きてくれ――

(眠りに落ちたラーライラを、クーサリオンは火災を逃れた木の下に運ぶ)
(トゥルードの神樹に向かうエルフたちを代表して、一礼した)

クーサリオン:モルドレッド殿、パーシヴァル殿。
        今回の一件では、ご足労いただき感謝しています。
        ムーンストーン族は、ブリタンゲインの友誼(ゆうぎ)を永遠に忘れません。

モルドレッド:……いや。
        こちらこそ何の力にもなれなかった。

パーシヴァル:……うん。

クーサリオン:恐らく私たちは生きて帰ることはないでしょう。
        どうかムーンストーン族の血脈を……私たちの子をお願いします。

        皆よ――出発しよう。
        シャダイの使命と、我が子の未来のために。



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