第9話 暴虐の恐竜王
★配役:♂4♀1=計5人
▼登場人物
モルドレッド=ブラックモア♂:
十六歳の聖騎士。
ブリタンゲイン五十四世の十三番目の子。
オルドネア聖教の枢機卿に「十三番目の騎士は王国に厄災をもたらす」と告げられた。
皇帝の子ながら、ただ一人『円卓の騎士』に叙されていない。
魔導具:【-
パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。
魔導具:【-
魔導系統:【-
ラーライラ=ムーンストーン♀
二十七歳の
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の一員。
人間の父と、エルフの母のあいだに生まれたハーフエルフ。
『ムーンストーン族』のエルフには見られない青髪と碧眼は、父親譲りのもの。
父親が魔因子を持たない人間だったので、〈魔心臓〉しか受け継がなかった。
エルフながら魔法を使うためには、魔導具の補助が必要である。
魔導具:【-
魔導系統:【-
クーサリオン=ムーンストーン♂
百五十一歳のエルフの
トゥルードの森に住むエルフの部族『ムーンストーン族』の族長。
ラーライラの母の兄で、ラーライラの伯父に当たる。
エルフは、現代では珍しい完全な魔因子を持つ種族。
魔力を生成する〈魔心臓〉のみならず、額に魔法を使うための〈魔晶核〉を有する。
恐竜王ディラザウロ♂
『ハ・デスの生き霊』の幹部、
黒い玄武岩の体躯に、マグマの血脈を張り巡らせた暴君竜。
全長二十メートルを超える背中には、厳威誇る火山が聳え立っている。
生命活動レベルで魔法を取り入れており、己の躯自身が一つの魔導具と言える。
魔心臓はかつて地上に存在した生物の中で最も強く、古代人も凌駕するという。
魔導具:【-
魔導系統:【-
※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。
□1/ムーンストーン族の里の草地に、月夜を背負う巨躯が立つ
ディラザウロ:GUUUOOOOOON……!
(密集した木々を薙ぎ倒しながら、黒い爬虫類がのし歩く)
(月桂樹に変じていたエルフたちも異常を察し、人の姿に戻っていた)
モルドレッド:
なんて大きさだ……!
最大種よりも二回り以上は大きいぞ……!
パーシヴァル:あれは……まさか……
モルドレッド:知っているのか?
パーシヴァル:あれ、恐竜だよ……
ドラゴンの祖先で、大昔に絶滅した種族のはず……
ディラザウロ:ほう。
よく知っているな、メイジ。
パーシヴァル:しゃ、喋った!?
ディラザウロ:音声言語がヒトの特権だと思っていたか。
ならば、今その自惚れを改めよ。
(玄武岩の皮膚が硬く黒光りし、マグマの血脈が赤く流れる巨躯)
(背中に聳え立つ小山は、巨大感をいや増す象徴となっていた)
ディラザウロ:エルフと人間、猿の末裔たちに告ぐ。
我が名を記憶に刻め。
余はディラザウロ。
『ハ・デスの生霊』が幹部、
そして太古の地上を制した、恐竜族の王なり。
モルドレッド:『ハ・デスの生き霊』だと!?
クーサリオン:あの手に握られているのは……
ラーライラ:族長、様……!
ディラザウロ:エルフどもに問う。
お前たちの守護する『シャダイゲート』は
モルドレッド:貴様……人質を取ったか!
ディラザウロ:お前が十三皇子か。
ネクロマンサーが気に掛けていた。
モルドレッド:また俺を仲間に引き入れようという魂胆か?
だったら無駄なことだ!
さっさと帰ってそう伝えろ、モンスター!
ディラザウロ:自惚れるな、パラディン。
余はシャダイゲートを撃ち砕くべく
余の大義を
モルドレッド:ゲートの破壊――
貴様らの目的は、冥府の悪魔どもを呼び出すことか!
ディラザウロ:回答を拒否する。
推考せよ、パラディン。
モルドレッド:何――!?
ディラザウロ:無駄話は終わりだ。
シャダイゲートの
クーサリオン:くっ……!
ラーライラ……
モルドレッド:卑怯な……!
ラーライラ:あああああっ……!
熱い……熱いっ……!
ディラザウロ:余の体熱は、煮え滾るマグマ。
一度本来の体温を解き放てば、エルフなど消し炭と化すぞ。
クーサリオン:くっ……!
ラーライラの悲鳴で、私の口を割るつもりか。
モルドレッド:……クーサリオン殿はエルフの族長。
その立場上、シャダイゲートの場所を喋ることは出来ないだろう。
だったら、その役目は俺が――
パーシヴァル:待ってよ、モル!
もう少し様子を見よう。
相手の情報を引き出して、上手く取引を――
ディラザウロ:余は駆け引きを嫌う。
お前たちが無益に引き延ばす腹積もりならば、人質は要らん。
ラーライラ:きゃあああっっ!!
熱いっ! 熱いっっ!!
クーサリオン:――
我らムーンストーン族は、シャダイの意思を告ぐ一族!
たとえ同胞を人質に取ろうとも、ゲートの秘密を明かすことは叶わぬ!
ディラザウロ:よくぞ言った、エルフの長よ。
余は、お前の決定を受け入れた。
宣言通り、決裂の代償を払え。
ラーライラ:くっ……ううっ……
クーサリオン:ラーライラ……
ラーライラ:悲鳴は上げない……!
ムーンストーン族のエルフとして死ぬから……っ!
ディラザウロ:見上げた性根だ。
クーサリオン:ラーライラ……すまない……
ディラザウロ:草を
死ぬ間際まで誇り高くあれ。
□2/恐竜王の腕が火を吹き上げた直後、モルドレッドが前に進み出た
モルドレッド:待て! モンスター!
パーシヴァル:待ってよ、モル!
モルドレッド:待たん!
モンスター!
シャダイゲートは、森の奥深くにある大樹。
トゥルードの神樹と呼ばれる、最も大きな樹だ!
クーサリオン:モルドレッド殿!?
パーシヴァル:言っちゃった〜……
(紅閃石の眼が、落ち着いた暗紅色へ体温を落とす)
(玄武岩の巨躯が屈み、焼け爛れたハーフエルフを草地に下ろした)
ラーライラ:ううっ……
ディラザウロ:約束通り、エルフの娘は返す。
(岩石恐竜は、黒い小山を背負った背面を向けて歩行開始)
(森へ向かって前進していく巨躯へ、モルドレッドが呼び掛ける)
モルドレッド:何処へ行くつもりだ、モンスター!
ディラザウロ:お前の言ったシャダイゲートだ、パラディン。
パーシヴァル:そんなに素直に信じちゃっていいの。
嘘の場所を教えたかもしれないよ。
ディラザウロ:お前とエルフの動揺が証明となった。
パラディンの言は、信じるに値する。
パーシヴァル:う……
モルドレッド:モンスター。
貴様をみすみすシャダイゲートへ向かわせると思っているのか?
人質さえ取り戻せば、後は貴様を倒すだけだ!
パーシヴァル:それ……悪党っぽいよ、モル。
ディラザウロ:GUUUUUUUUU……
パーシヴァル:やば。
やっぱ怒ってる……
ディラザウロ:嬉しいぞ。
余はお前たちとの闘争を望んでいた。
(黒い玄武岩の隙間から高温の水蒸気が噴出し、濛々たる熱気が煙る)
ディラザウロ:恐竜に成り代わり地上を制した猿の末裔よ。
余はたった一匹の恐竜として、お前たちに闘争を挑む。
弱肉強食の掟に
WOOOOOOOOOOOOO!!!
パーシヴァル:げえっ!?
こっちに突進してくるんだけどっ!?
モルドレッド:回避するぞ、パーシヴァル!
パーシヴァル:ちょ、ちょちょちょちょ……!
(草地を駆ける恐竜王が、焼け焦げた足跡を刻んで急停止)
(地面から緑の奔流が迸り、玄武岩の巨躯を雁字搦めに捕縛していく)
クーサリオン:我らエルフは、
皆よ、森を踏みにじる
緑の縛鎖で絡め取り、拘束せよ!
ディラザウロ:GUUUUUUU……!
動けん……!
クーサリオン:ローズオブペイン――
お前の岩石の
パーシヴァル:た、助かった……
クーサリオン:二人とも、今のうちに逃げてください!
パーシヴァル:ありがとう、族長さん!
クーサリオン:シャダイゲートは、冥府の侵略から地上を守る門……
封印は断じて破らせるわけにはいかない――
□3/岩石恐竜の肢下を迂回して、倒れ伏したラーライラの元へ駆け寄る二人
ラーライラ:ううっ……
あなたたち……?
モルドレッド:じっとしていろ。
ロンギヌスで治療する。
ラーライラ:あ……
痛みが引いていく……
ディラザウロ:GUUUU……
GAAAAAAAAAAAA!!!
パーシヴァル:うわあっ、茨が燃えカスに!
クーサリオン:体温の上昇で、茨を焼き払うとは……
ディラザウロ:余の
踏み躙る! 往くぞ!
(熱気を纏って踏み出された前肢が、地面にめり込み埋没した)
(柔らかな根を断ち切る音を散らしながら、恐竜王の巨躯が斜めに傾いていく)
ディラザウロ:落とし穴、だと!?
(驚きを宿す紅閃石の眼が捉えたのは、地面を走る無数の軟らかな根)
(堅い地表が縦横に伸びる根に耕され、玄武岩の塊が地中に沈降していく)
パーシヴァル:恐竜が地中に沈んでいく……!
クーサリオン:肉食獣の王よ。
緑と生きる我々は、無力な獲物ではない。
森の一族の冷酷さを思い知るがいい。
ラーライラ!
ラーライラ:はい、族長様。
種に眠りし、寄生の命。
肉に根を張り、鮮血をすすり、赤く咲き誇れ。
ドレインリーパー。
モルドレッド:モンスターの身体から花が……!
ラーライラ:そう、生物の体液を吸収して育つ
身動きを取れないようにして、じわじわ命を奪う。
パーシヴァル:エルフってえげつないね……
(恐竜王が生き埋めになった箇所から、底深い地鳴りが轟く)
(大地が縦に裂かれ、夜空を焦がさん大火柱が噴き上がった)
クーサリオン:皆、離れろ――
くうっ!
ラーライラ:ドレインリーパーが枯らされてる……!?
クーサリオン:
ディラザウロ:くだらん小細工は止めろ。
お前たちの浅知恵など、
闘争の意思ある者は、余の正面に立て。
モルドレッド:いいだろう。俺が相手に――
パーシヴァル:モル、おいらに任せてよ。
モルドレッド:お前が出るのか?
パーシヴァル:絶滅した竜の祖先――
今度提出しなきゃいけない論文のネタになりそうだ!
【
ディラザウロ:よくぞ名乗り出た。
受けて立とう、人間のメイジよ。
パーシヴァル:生命の果てより吹き寄せる終わりの吹雪よ。
凍える眠りは今来たり。氷河の棺は今開く。
絶対零度の
我が敵を
フローズン・グラコス!
(恐竜王の周囲を包囲飛行した水晶体の群れが、絶対零度の領域を形成)
(十個の水晶体の結ぶ十角形内が、瞬く間に氷点下へ低下)
(玄武岩の表面に氷霜が降り、成長する樹氷に覆い尽くされていく)
ディラザウロ:極寒の結界か。
氷河の風が、生命の熱を奪う……
パーシヴァル:お前は「火」の元素に影響された生き物だろ?
火の生き物には、氷の魔法は堪えるんじゃないの!
ディラザウロ:甘い。
氷と炎は、原始から続く天敵同士。
氷が炎を殺すように、炎も氷を喰らう。
パーシヴァル:くうっ……
やばいっ、領域内の温度が押し上げられてる……!
(恐竜王の巨躯から蒸気が立ち上り、十個の水晶体の作る結界内が白く霞む)
(根を張った樹氷の枝葉が枯れ、覆い尽くしていた氷霜が流れ去っていく)
(絶対零度に低下する極寒の十角形が、平常気温に押し戻されようとしていた)
ディラザウロ:故に此は氷と炎――
お前と余の、純粋なる決闘だ!
(玄武岩の奥に燃える魔心臓の炉が過熱し、凍てつく氷の反逆を暴圧した)
(恐竜王に咲き誇っていた樹氷の林が、玄武岩の地熱に耐えきれず融解散華)
(沸騰した樹氷が水蒸気爆発。白い湯気の爆風となって周囲を薙ぎ払った)
パーシヴァル:うわああっ!!!
ラーライラ:きゃああっ!!
モルドレッド:オルドネアよ!
荒ぶる暴威から守りし加護を与えたまえ!
(水蒸気の向かい風に逆らって前に出たモルドレッドが防壁展開)
(獰猛に吹き寄せる爆風を、ロンギヌスが築いた斥力障壁が流す)
モルドレッド:大丈夫か、二人とも!?
パーシヴァル:お、おいらは無事……
ラーライラ:私も……
でも、族長様たちは……!
クーサリオン:私たちも無事だ、ラーライラ!
(何十本も里に立ち並んだ樫の木の陰から、エルフが姿を現す)
(強固な
モルドレッド:まさかパーシヴァル、
魔力勝負でお前が押し負けるとは……!
パーシヴァル:くそっ……
あいつの魔力、ハンパじゃないよ……!
ディラザウロ:さあ、次は
一でも百でも受けて立つぞ。
己が種族の存亡を掛けて闘争せよ。
パーシヴァル:冗談じゃないよ……
あんなのと真っ向勝負なんて、できるかってーの。
クーサリオン:皆よ、肉食獣の挑発に耳を貸すな。
奴の言う正々堂々など、強き者の驕りに過ぎない!
ラーライラ:そう、私たちは私たち。
種に眠りし、
強酸の唾液を滴らせ、肉を喰らうもの。
マンイーター。
モルドレッド:歩く草……!?
ラーライラ:食虫植物マンイーター。
動くモノを見境無く喰らう。
トゥルードの森の防衛植物。
パーシヴァル:1、10、100……凄い数だね。
うわっ、また出てきた!
クーサリオン:使役植物に前線を維持させるのだ!
接近されても、落ち着いて対処するのだ!
決して距離を詰めさせてはならない!
ディラザウロ:何だ、この雑草の群れは。
血を流す者はいないのか。
痛みを受け入れる者はいないのか。
此がお前たちの闘争なのか。
□4/戦況膠着、使役植物の群れが恐竜王を封殺
クーサリオン:種に眠りし、茨の命。
巻きつき、這い上り、流血の華を咲かせ。
ローズオブペイン!
ディラザウロ:同じ手は喰わん。
炎よ、我が躯に燃え盛れ。
クーサリオン:こちらとて、二度も通じるとは思っていない。
よし、炎が終息した!
マンドレイクの毒液を注入するのだ!
ディラザウロ:GUUUUUU……!
余の血潮が凝固する……
クーサリオン:マンドレイクの毒は、命の雫を枯らす毒――
お前にとっては、マグマを流動させる水分だったか。
ディラザウロ:愚かな……
魔心臓の炉が燃え尽きぬ限り、余の血潮は無尽に湧き出す。
クーサリオン:ならば、血≠的に絞った攻撃は止める。
私たちの攻撃手段は、植物の数だけ存在するのだ。
パーシヴァル:……凄いや。
あの化け物を圧してるよ!
さすがエルフの
モルドレッド:……もっと破壊力のある魔法はないのか?
ラーライラ:
燃やしたり、凍らせたりはしないの。
パーシヴァル:
茨で動きを封じたり、使役植物を作り出したり、
もともとサポートを得意とした魔法体系なんだよ。
モルドレッド:確かにエルフたちは、見事に防衛ラインを保っている。
モンスターは何度も突撃を阻まれ、接近戦に持ち込めていない。
人間の軍隊相手なら、防衛ラインを突破され、大混乱になっているだろう。
ラーライラ:
時間を掛けて体力を削っていく。
植物のように静かに長く。
モルドレッド:上手くいけば、最小限の犠牲で倒せるが……
ラーライラ:何もしない人間。
黙ってて、うるさい。
モルドレッド:何だと、貴様――!
パーシヴァル:まーまーまー!
さっきからどうしたんだよ、モル?
モルドレッド:嫌な予感がするんだ……
大災害の前触れのような……
上手く説明は出来ないが――
戦闘を長引かせてはいけない!
クーサリオン:皆よ、敵は徐々にダメージが蓄積している。
結果を急ぐな。冷静に戦闘を進めていくぞ。
ディラザウロ:GAAAAAAA……!!!
何十何百と群れ集い、一つの群雲となって襲い掛かる。
何という下劣な闘いだ。
誇りあるならば、群れに隠れるな!
クーサリオン:敵が暴れ出した!
使役植物の数を増やすのだ!
ディラザウロ:血を流せ! 命を賭せ!
己の躯一つで、世界と闘争せよ!
さもなくば、お前たちは虫けらだ!
草木に群がり、食い散らす虫けらだ!
クーサリオン:…………
独りで戦うことしか知らぬ恐竜の王よ。
強いだけの個は、群れる弱者に淘汰される。
お前の輝いた時代は、とうの昔に過ぎ去ったのだ。
ディラザウロ:GUUUUUUUUUUUUU……
もはや容赦はせん。
虫けらに闘争の儀は要らん。
(恐竜王の憤懣を示すように、背中に聳え立つ小山も黒い噴気を立ち上らせる)
(恐竜火山が激動。赤い爆炎の輪を拡げながら大噴火)
(星空を焦がす緋の軌跡が、劫火の雨となって降り注ぐ)
ディラザウロ:余の
ラーライラ:火の雨……!?
燃える岩石の雨……!!
クーサリオン:皆よ、攻撃は中止だ!
早く! 急げ!
パーシヴァル:モ、モルっ!
結界を強めてっ!
モルドレッド:お前もアヴァロンで大きな塊を撃ち落とせ!
直撃したら、結界を破られるっ!
クーサリオン:トゥオル、大丈夫か!?
リングリル! アルディア!
くっ――!
ラーライラ:族長様っ! みんな――!
□5/降り注ぐ火山礫の炎が、燎原を焼き払う火炎の中
ラーライラ:里が……私の里が……
炎に包まれていく……
ディラザウロ:燃えろ、燃やし尽くせ。
一匹残らず、焼き殺せ。
ラーライラ:火の雨が……
いくつも、いくつも……
モルドレッド:モンスターめ……!
無差別に火災を撒き散らすとは……!
クーサリオン:これ以上、火の
水を蓄えた広葉樹で囲み、自滅させるのだ!
パーシヴァル:ダメだっ! 消しても消しても、炎が収まらない!
モルドレッド:奴の魔力は底無しか……!
いつまで噴火は続くんだ……!
クーサリオン:燃える岩が森へ落ちていっただと!?
わかった! 私が鎮火に急ぐ!
モルドレッド:あのモンスターを討ち取る!
それしか方法はない!
パーシヴァル:ダメだ!
今結界を弱めたら、火山弾が直撃して終わりだよ!
モルドレッド:じゃあどうしたらいい!?
パーシヴァル:待つんだ!
被弾確率が下がるまで!
モルドレッド:それはいつだ!?
パーシヴァル:わかんないよっ!
クーサリオン:何としても食い止めなければ……!
トゥルードの森を、灰にはさせない!
ぐああ――っ!
(落下の衝撃で砕け散った火山弾が、クーサリオンの背中を叩く)
(千度に達する火山礫を浴びて、肉を焦がされる痛みに悶えるクーサリオン)
ラーライラ:……許さない。
パーシヴァル:ラーライラ――?
ラーライラ:絶対に許さない――!!!
(ロンギヌスの斥力障壁から飛び出すラーライラ)
(火山の雨が降り注ぐ夜空の下を、悲しみと怒りの顔で駆けていく)
ラーライラ:我が内に眠りし、古き命。
目覚めよ、月長石の種を破りて。
左手に木漏れ日を。
右手に果実と蜜を。
我は、大地に根を下ろす。
時の風雨に耐え忍ぶ幹となる。
生きとし生けるものに憩いをもたらさん。
其は
ユグドラシルフォーム!
(緑の花冠が膨大な光を溢れさせ、封じられていたシャダイの血統を解放)
(ラーライラの両足が地面に潜り込み、拗くれながら無限大に伸びていく)
パーシヴァル:これほどの大魔法……!
並大抵の魔晶核じゃ使えないよ……!
モルドレッド:あいつ……本当にシャダイの子孫だったのか。
どこまで大きくなるんだ……!?
(灼熱の流星が落ちる月夜の下――)
(恐竜王を見下ろす高見に生え出したのは世界樹の巨大擬人)
(世界樹の幹の中央に埋まったラーライラの上半身だけが、エルフの面影を残していた)
ディラザウロ:なんと大きい……
余を圧する巨体とは。
首長竜どもを思い出す。
ラーライラ:はあ……はあ……
ディラザウロ:エルフの小娘か。
他の腰抜けどもとは違うようだな。
ラーライラ:トゥルードの森……私の故郷……
私の大事なもの……守ってみせる……っ!
ディラザウロ:草を食む角竜も、己の角で余に立ち向かった。
エルフよ、闘え! 角竜の如く!
(絡み合う根の多脚を持ち上げ、膨大な量の土塊を振り落としながら、巨大樹人が前進)
(森の天蓋を突き抜けるほどの巨樹が進む姿は、思考と言語を奪う圧倒があった)
ラーライラ:はあ……はあ……
心臓が……痛いっ……
クーサリオン:ラーライラ! 無茶だ!
お前には、ユグドラシルフォームは早すぎる!
ラーライラ:くううっ……!
ダメっ……!
まだ……何も……っ!
(樫より堅い樹皮が罅割れ、覆い茂る緑葉が水気を失い、枯れ茶に朽ちていく)
(空中を埋め尽くす枯れ葉の吹雪が乱れ舞い、朽ち色の渦巻きの中心にラーライラが落下)
クーサリオン:ラーライラ!
何という無茶な真似を……!
ディラザウロ:
何度余を苛立たせるのだ。
モルドレッド:パーシヴァル!
パーシヴァル:ああもうっ、行ってきなっ!
〈
ラーライラ:く……はあっ……
ディラザウロ:猿が。踏み潰してくれる。
モルドレッド:モンスター!
これ以上、貴様の暴虐は許さん!
ディラザウロ:パラディン。
モルドレッド:シャダイゲートの封印を破ろうとした罪!
救世主オルドネアの名において、貴様を裁く!
ディラザウロ:いい眼だ。
お前には、闘志の炎が燃えている。
余に挑め。挑んでみよ、パラディン!
モルドレッド:望むところだ!
俺は悪を、暴虐という悪を、貴様を打ち倒す!
覚悟しろ、モンスター!
ディラザウロ:オルドネアとやらの力、
血が燃える! 闘志が滾るぞ!
モルドレッド:化け物め、それが貴様の遺言だ!
救済の十字架で、全ての悪を贖わん!
この世界より滅び去れ、邪悪よ!
(仄白い光を集めるロンギヌスを振るい、地面を蹴るモルドレッド)
(断罪の十字架となって振り下ろされるロンギヌスを、玄武岩の大顎が迎え撃つ)
(月夜を背景にした空中で、力と力が拮抗する滞空停止)
モルドレッド:くうううううう――っ……!!
ディラザウロ:GUUUUUUUUU――……!!
パーシヴァル:信じられない……!
ロンギヌスの救済の十字架≠受け止めるモンスターがいるなんて!
ラーライラ:勝てるの……?
パーシヴァル:……わからないよ。
でも人間と恐竜じゃ、魔心臓の強さが桁違いだ……
モルドレッド:ロンギヌスがっ……軋む……!
このままでは十字架がっ……!
ディラザウロ:人間の
モルドレッド:オルドネアよ!
俺に力を! どうか俺に!
救世主オルドネア!!!
ディラザウロ:恐竜王の勝利だ!!!
(恐竜王の怒気が漲り、渾身の力で顎が閉じられる)
(光の十字架が罅割れ、光の粒子が散り、一気に噛み砕かれた)
パーシヴァル:モル!
ラーライラ:モルドレッド!
ディラザウロ:GAHAAAAA……
人間の
オルドネアと言ったか。
この程度の力で
モルドレッド:ロンギヌスが……
俺の、ロンギヌスが……
パーシヴァル:そんな……!?
嘘だろ……!
モルドレッド:折ら、れた……
真っ二つに……!
噛み砕かれた……っ!
ディラザウロ:弱い、弱すぎる。
六千五百万年もの間、お前たちは何をしていた。
闘争を忘れ、馴れ合いのぬるま湯に浸かってきた故の惰弱か。
支配者の王冠は、お前たちには不相応だ。
余が取り戻す。ディラザウロが取り戻す。
闘争と誇りの時代を、再び地上に復権せん!
□6/焼け野原となった里
パーシヴァル:はぁ〜……
どうにか火事は消し止められたね。
クーサリオン:ええ。
ご尽力感謝します、パーシヴァル殿。
ラーライラ:族長様……
うくっ……苦しい……
クーサリオン:無理に起き上がらずともいい。
お前の魔心臓には過大な負荷が掛かった。
ラーライラ:ごめんなさい……
私のせい……私が捕まったから……
クーサリオン:お前の所為ではない。
私もまた……あの者を止められなかった。
モルドレッド:……モンスターはトゥルードの神樹に向かっているだろう。
奴の目的は――……
ラーライラ:トゥルードの神樹。
シャダイゲートの破壊……
クーサリオン:…………
奴を止めなければなりません。
先回りすれば、まだ間に合うはずだ。
パーシヴァル:ちょっと待ってよ!
あの化け物の強さを見ただろっ!?
完全武装した『
クーサリオン:あなたの指摘は正しい。
しかし、帝国軍が到着する前にシャダイゲートは破壊される。
パーシヴァル:だけど……行ったところで勝ち目はないよ。
クーサリオン:私は使途シャダイの末裔。
ゲートの破壊を、看過するわけにはいかないのです。
たとえ犬死にで終わるとしても――
パーシヴァル:…………
クーサリオン:皆に伝えたい。
使途シャダイの使命を無理強いすることはない。
残りたい者は、どうか残ってくれ。
(族長の呼び掛けに、ムーンストーン族のエルフたちの声は無い)
(しかし無言のエルフたちの顔には、使命感の決意があった)
クーサリオン:……皆よ、ありがとう。
ラーライラ:族長様、私も行く。
クーサリオン:ラーライラ……
ラーライラ:私もムーンストーン族のエルフ。
シャダイゲートを守る使命がある。
クーサリオン:…………
(震えながら上体を起こすラーライラの前に、クーサリオンは膝を折って屈む)
(謎めいた粉末を零す手の平を、ラーライラの顔の上にかざした)
ラーライラ:う……ん……
頭がぼやける……
眠い……
クーサリオン:休みなさい、ラーライラ。
お前には休息が必要だ。
朝日が昇る頃には、お前の体調も戻っているはずだ。
ラーライラ:眠りキノコの胞子……
どうして……族長様……
クーサリオン:ムーンストーン族の血を絶やしてはならない。
ラーライラ、お前には新しい種を育む使命がある。
ラーライラ:嘘……
私の血は混ざりもの……
ムーンストーン族の種は、残してはいけない掟……
クーサリオン:……訂正しよう。
お前には、生き残っていて欲しい。
これが嘘偽り無い、私の純粋な気持ちだ。
ラーライラ:私、戦う……
ハーフエルフの私が、ムーンストーン族に貢献できること……
戦って、他の皆を守ること……
私、たたか……う……
クーサリオン:お前の意思を捻じ曲げても、私の意志を押し通す。
私も親なのだな……
ラーライラ、どうか幸せに生きてくれ――
(眠りに落ちたラーライラを、クーサリオンは火災を逃れた木の下に運ぶ)
(トゥルードの神樹に向かうエルフたちを代表して、一礼した)
クーサリオン:モルドレッド殿、パーシヴァル殿。
今回の一件では、ご足労いただき感謝しています。
ムーンストーン族は、ブリタンゲインの
モルドレッド:……いや。
こちらこそ何の力にもなれなかった。
パーシヴァル:……うん。
クーサリオン:恐らく私たちは生きて帰ることはないでしょう。
どうかムーンストーン族の血脈を……私たちの子をお願いします。
皆よ――出発しよう。
シャダイの使命と、我が子の未来のために。
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