The 13th prince(プリンス・オブ・サーティーン)

第5話 大英円卓

★配役:♂5♀1両1=計7人

▼登場人物

パーシヴァル=ブリタンゲイン♂
十七歳の宮廷魔導師。
ブリタンゲイン五十四世の十一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、陸軍魔導師団の一員。
お調子者の少年だが、宮廷魔導師だけあって知識量はかなりのもの。

魔導具:【-自在なる叡知(アヴァロン)-】
魔導系統:【-元素魔法(エレメンタル)-】

ガウェイン=ブリタンゲイン♂
三十七歳の機操騎士。『大英帝国の要塞』の異称を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の一番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン陸軍元帥。
自身も優れた搭乗型魔導具『魔導装機』の乗り手であり、数多くの武勇伝を打ち立てている。

第一皇子であり、皇位継承権第一位。
しかし寵姫ラグネルの子であるため、側室の子であることを問題とする勢力もある。

ランスロット=ブリタンゲイン♂
三十四歳の聖騎士。『黄金の龍』の異名を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の二番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、ブリタンゲイン海軍元帥。
またオルドネア聖教の聖騎士団団長も兼任している。

現皇帝の正妻アルテミシア皇后の子。
皇位継承権は二番目だが、正妻の子ということでランスロットを推す声も高い。

トリスタン=ルティエンス♂
二十九歳の弓騎士。『黄昏の貴公子』の異名を持つ。
ブリタンゲイン五十四世の四番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、『陸軍弓兵師団』の団長。

母は、ルティエンス公爵の一人娘オリヴィア。
皇帝は類い希な美貌を持つオリヴィアを気に入り側室に迎えたが、
娘イゾルデを生んだ三年後、オリヴィアは若くして亡くなった。

祖父の公爵亡き後、皇位継承権は自ら放棄し、ルティエンス公爵家を継いだ。

ケイ=ブリタンゲイン♂
二十八歳の財務長官。通称は『帝国国庫番』。
ブリタンゲイン五十四世の五番目の子。
『円卓の騎士』の一人で、『情報戦略局』の局長。
また、政府内閣の財務長官も兼任している。

皇位継承権は、第三位。
ケイの支持層は、近年台頭してきた商業組合。
守旧派の教会・貴族からは反発を招いている。

ベディエア=ブリタンゲイン両
十六歳の第十二皇子。
『円卓の騎士』の一人で、勅諚官(ちょくじょうかん)を任されている。
人懐こい性格で、ブリタンゲイン五十四世の寵愛を受けている。

魔導具:【-遠見の千里眼(コルヌータ)-】

クレハ=ナイトミスト♀
二十四歳の侍女。
大英帝国の植民地である倭島国出身。
身分は二等国民で、純血のブリタンゲイン人である一等国民より、法律上の権利に制限を設けられている。

クレハ=ナイトミストは、倭島国の名をブリタンゲイン風の名に改めたもの。
本名は夜霧紅葉(よぎりもみじ)という。


※注意
・ルビの振ってある漢字は、ルビを読んでください。
・特定のルビのない漢字は、そのまま読んでください。


□1/大英円卓、会議開始



パーシヴァル:うーん、まだ始まらないの?

ガウェイン:参加表明はどうなっている?

クレハ:第六皇子ベイリン殿下、連絡無し。
     第七皇子ラモラック殿下、ベルリッヒ連邦の光子石(へメラストーン)研究学会に出席のため欠席。
     第八皇女様、第九皇子様、共に欠席となっております。

ガウェイン:となると、遅刻はランスロットか。

ケイ:先に始めてはいかがですかな。
   もう二十分四十七秒の遅刻ですよ。
   兄上には、後日議事録を渡せばよろしいでしょう。

トリスタン:ケイ、それでは円卓会議の意味がありません。
       円卓会議は、各人が報告をし合う場ではなく、話し合うためにあるのです。

ケイ:これはこれは失敬。
   しかし、私はこれから内閣の予算編成に出向かなければならないのでしてね。
   まあ、兄上は竪琴を掻き鳴らす時間が減るだけですから、焦りもないでしょうが。

ガウェイン:やめろ、ケイ。
       お前はいつも一言多いぞ。

ケイ:申し訳ございませんでした。
    トリスタン兄上、失言をお許しくださいませ。

トリスタン:……構いません。
       私もお前の事情を酌み取る配慮が足りなかった。

パーシヴァル:(この二人、相性悪いなあ……)

ベディエア:あの、皇帝陛下もそろそろ始めろと……

ガウェイン:……仕方あるまい。
       ベディ、開催の挨拶を――

ランスロット:――申し訳ない。
        ランスロット=ブリタンゲイン、只今遅参いたしました。

パーシヴァル:ランス兄さん! どうしたの?

ランスロット:教会の使徒評議会が長引いてしまった。

        ああ、そうそう。
        前回の議題に上げた、サン・ペテロ大聖堂の改修工事の費用についてだが……

ガウェイン:枢機卿(すうききょう)たちに突かれてきたか?

ランスロット:いいえ、兄上。
        改修工事費は、教会の予算で捻出(ねんしゅつ)することにしました。
        帝国からの補助金は不要です。

ケイ:それは素晴らしい。
   遅刻の理由は、枢機卿たちの説得が長引いたから、ですな。
   それならば致し方ありません。
   世の中には、時間を守るよりも大切なことがありますからな。

ランスロット:財政規律を守ること、か?

ケイ:フフフ、さすがは兄上。
   よくわかっていらっしゃる。

クレハ:ランスロット殿下、こちらのお席にどうぞ。

ランスロット:ああ、ありがとう。

ガウェイン:上手くやったな、ランスロット。

ランスロット:ははは。
        説得には、骨が折れましたよ。

ガウェイン:財政赤字につけ込んで、金貸しの商人どもが帝国内で力を強めている。
       ケイはその勢いに乗り、教会と貴族を排斥するつもりだ。
       お前は上手いことやって、商業組合と教会の、決定的な対立を避けた。

ランスロット:なに、前々から教会の、国に依存した運営には疑問を持っていましたからね。
        今後は寄付金や奉仕活動の有償化など、
        教会の収入で運営費をまかなう比率を増やしていきたいと考えておりまして。

ガウェイン:つまり教会の独立性を高める。
       即ち、お前の裁量権も増すということだ。

ランスロット:私を買い被りすぎですよ、兄さん。

ベディエア:遠見の千里眼(コルヌータ)、準備完了しました。

ランスロット:どうやら皇帝陛下の準備も出来たようだ。

        また会議の後に酒でも飲みましょう。

ガウェイン:うむ。

ベディエア:只今より皇歴一六〇二年度、定例円卓会議を開催します。
       開催にあたって皇帝陛下のみことのりを伝えます。
       一同、起立!

パーシヴァル:……ねえ、トリスタン兄さん。

トリスタン:どうかしましたか、パーシヴァル。
       今は皇帝陛下の御言葉を、ベディエアが伝えている最中ですが。

パーシヴァル:それなんだけど……本当に皇帝陛下の言葉なのかな。

トリスタン:どういうことでしょう?

パーシヴァル:おいら、もう何年も皇帝陛下にお会いしてないよ。
         ずっと病床に臥せっているってことになってるけど、
         本当はもうこの世に……

トリスタン:何を言い出すかと思えば……
       確かに父上……陛下はお歳を召されてから猜疑心が強くなられた。
       私たちが陛下を殺害し、王位を簒奪するのではないかという妄想に取り憑かれている。

       しかしベディエアや、お付きの侍女たちは、陛下のお姿を目にしています。
       もし陛下が崩御されていれば、城中に知れ渡るでしょう。

パーシヴァル:それなんだけど……
         どうしてベディエアだけが陛下に信頼されているんだろう。

トリスタン:パーシヴァル。
       あなたはベディエアのことは悪く言いますね。

パーシヴァル:なんか嫌いなんだ、あいつ。

トリスタン:……まあ、兄弟といえど相性はあります。
       けれど、話し合わなければならないこと、
       協力し合わないといけないことは沢山あります。

       私情を差し挟まず、偏見を持たずに、相手の意見を受け入れる。
       とても難しいことですが……

パーシヴァル:…………

ベディエア:以上。
       皆、忌憚(きたん)なき意見を述べるよう。
       全世界に、帝国の新秩序を!

ガウェイン:全世界に、帝国の新秩序を!

パーシヴァル&トリスタン:全世界に、帝国の新秩序を!

ランスロット:全世界に帝国の新秩序を!

        ケイ、どうした?

ケイ:ああ、そうでしたな。全世界に帝国の新秩序を。

クレハ:それでは、本会議を開催いたします。
     全世界に帝国の新秩序を。



□2/大英円卓、情報開示


ガウェイン:本日の議題は、予想はついているだろう。
       国内で多発している死体盗掘事件だ。

ランスロット:黒翅蝶(こくしちょう)を名乗るネクロマンサー率いる、カルト教団。
        『ハ・デスの生き霊』ですね。

ガウェイン:皆も大筋は聞き及んでいるだろうが、改めて事件の発端(ほったん)から整理してみたい。
       ケイ、説明を頼む。

ケイ:御意(ぎょい)、兄上。
   ナイトミスト事務官、映像幕に国土地図の投影を。

クレハ:各位、映像幕にご注目を。
     赤く塗られている箇所が、直近三ヶ月で死体盗掘の起こった地点です。

ベディエア:ブリタンゲインの奥地や国境沿い……
       地方ばかりですね。どうしてだろう……

パーシヴァル:地方には、まだ土葬の習慣が根強く残っているからだ。
         ネクロマンサーにとっては、死体が原形を留めているほうが都合がいい。
         それ以外にも、地方の警察組織は都市部より貧弱ってこともある。

トリスタン:彼らの目的は何でしょうか。
       死体盗掘の目的は、配下となるアンデッドの調達でしょう。
       そこから先……アンデッドの軍団で、何を為そうとしているのか。

ガウェイン:わからんな。現段階では情報が少なすぎる。
       そもそも『ハ・デスの生き霊』の実態が掴めていない状態だ。

ケイ:各位周知のことでしょうが、私の『情報戦略局』は、
   第一の事件発生からいち早く、死体盗掘事件の調査を進めていました。
   本日は、各位に『ハ・デスの生き霊』の潜入調査の結果を公表し、より深くその実態に迫りましょう。

ランスロット:いつもながら、お前の間諜組織(かんちょうそしき)は見事な働きぶりだ。

ケイ:兄上、間諜組織ではなく『情報戦略局』と呼称していただけませんかな。
   間諜組織というのは、まあ五十年前ならそれでもよかったのでしょうが、
   皇歴一六〇二年の現代にそんないかがわしいネーミングはないでしょう。

ランスロット:クリーンなイメージを作りたい、というのなら、
        『情報戦略局』の情報開示もしてもらいたいな。
        正体不明の謎のスパイ集団では、いかがわしいイメージは払拭されないと思うが。

ケイ:情報は知るものが多ければ多いほど広まりやすくなる。
   我らは志を一つにする円卓の騎士とはいえ、一般原則からは逃れられません。
   必要な情報を、必要なときに、必要なだけ提供します。どうぞご容赦を。

ランスロット:それは、お前が必要がないと判断した情報は握り潰せる、ということだな?

ケイ:おやおや。
   ノイマーン公爵の不倫事情なども、大英円卓(ザ・ラウンド)で取り上げるべき情報ですかな?

ガウェイン:……初耳だったぞ。

ケイ:興味がお有りでしたら、会議の後に私のところまでどうぞ。

   ま、そんなことはどうでもよろしい。
   私の情報戦略局のエージェントは、複数のカルト教団に潜入しました。
   名称や規模こそ違えど、このカルト教団には、一つの共通点がある。
   死体盗掘を行っていること。
   そして『ハ・デスの生き霊』の教義が、そのまま掲げられているということです。

クレハ:(われ)、放熱の終わりと共に消え去りしもの。
     されど、散りゆく自己(おのれ)を、朽ち果てた骸に留めん。
     (とき)を凍らせ、(こころ)を凍らせ、永遠の旅路を流離(さすら)わん。
      
ケイ:要するに『ハ・デスの生き霊』の信徒になれば、不死を約束するということです。
   実際は、ただアンデッドとして使役されるだけなのですがね。

   各位、配付資料の一二ページ目をご覧になられよ。
   『ハ・デスの生き霊』の人種構成比が棒グラフになっているでしょう。

ガウェイン:構成人種の最多は、獣人に、ハーフエルフ……
       亜人種たち……それも力の弱い被支配人種たちか。

トリスタン:二番目は砂漠国のウル・ハサン人、極東の倭島人(わじまじん)……
       これは、ブリタンゲイン帝国の植民地の人々……

ベディエア:うわ〜、亜人と原住民……二等国民で信者の八割かぁ……
       それに対して一等国民のブリタンゲイン人は、一割もいってないですね。

ランスロット:カルト教団に取り込まれるのは、現政府に反意を抱く者たちか。
        宥和政策(ゆうわせいさく)の進みは考えていた以上に遅れているな。

ケイ:『情報戦略局』からの報告は以上。
   この情報をもとに会議を進めていただけると、私も骨を折った甲斐があるというものです。


□3/大英円卓、人種問題


ランスロット:『ハ・デスの生き霊』……
        まずは奴らの尻尾を掴まなければならんが……

トリスタン:その尻尾がどこにあるのやら……
       摘発されているのは、末端の組織ばかりです。

パーシヴァル:あの時、ネクロマンサーを捕まえていれば……

トリスタン:責任を感じないでください、パーシヴァル。
       あなたでなく、私たちでも、ネクロマンサーを拘束出来たかわからない。

ケイ:さてさて、困りましたな。

ガウェイン:ケイ、何をにやけている。
       妙案でもあるのではないか。

ケイ:フフフフ。
   そう難しくないパズルですがね。
   最初に解くのは誰かな。

ガウェイン:我々を試すような言動は止めろ。
       お前の悪い癖だ。

ベディエア:あの……
       見当外れだったら申し訳ないんですけど……

ガウェイン:なんだ、ベディ。
       気後れなどいらんぞ。堂々と主張してみろ。

ベディエア:はい、ありがとうございます兄様っ。
       あの帝都ログレスの東区には、亜人や外国人の人たちが沢山集まっていますよね?

ガウェイン:ああ。
       旧市街の東区は、二十年前より施行されている、亜人同化政策特区(あじんどうかせいさくとっく)だ。
      
       しかし実態は、ハーフエルフや獣人のみならず、
       地方からの出稼ぎ労働者や密入国者など、幅広い低所得層の集まるスラムの様相を呈している。

ベディエア:はい。
       ですから、東区の亜人たちには、『ハ・デスの生き霊』の信者が多いのではないでしょうか。
       亜人たちに事情聴取を行えば、『ハ・デスの生き霊』に迫れる……と思うのですけれど。

ランスロット:事情聴取、と簡単にいっても難しいだろう。
       公益費の徴収官(ちょうしゅうかん)すら、リンチを受けて帰ってくる始末だ。
       亜人たち二等国民が、素直に事情聴取に応じるかは疑問が残る。

ベディエア:そ、そうですね……

ガウェイン:例えば、不審者どもを一斉検挙という手もあるな。

ベディエア:そうか! そうですね兄様!
       怪しい人たちを、どんどん捕まえて事情聴取すればいいんです!

トリスタン:……!?

ベディエア:元々二等国民は、底辺層の人たちです。
       帝都の商業には何の影響もありませんし、治安だってよくなります。

       そうですよね、兄様?

ガウェイン:ふむ……
       スラム化した東区は、ログレスの治安悪化の元凶、犯罪の温床となっているという指摘は以前からあった。
       亜人や原住民たち、二等国民は、元々我が国への忠誠も低く、犯罪率も高い。

ランスロット:兄上、ベディエア。
       その物言いは、些か問題があるのでは?

ベディエア:ご、ごめんなさい、つい……

       一斉検挙はちょっとやり過ぎかもしれませんけど、
       密偵を放つぐらいならやってもいいんじゃないかと思うんです。

       どうでしょう、兄様たち……?

トリスタン:意見をよろしいでしょうか?

ランスロット:聞かせてくれ、トリスタン。

トリスタン:二等国民――
       我々人間とは異なる亜人種や、植民地の先住民たち、
       彼らが『ハ・デスの生き霊』の主な信徒であることは事実なのでしょう。

       しかし我々は、彼らの境遇に目を向ける必要があるのではないでしょうか。

ガウェイン:確かに帝都ログレスの貧困層の九割は、二等国民だ。
       しかし彼らには国籍を与え、ブリタン人と同等の扱いをしている。
       社会生活が円滑に進むよう、本名とは別にブリタンゲイン風の名を持てる、複名制度(ふくめいせいど)も用意した。

トリスタン:複名制度は日常生活で余計な摩擦が起きないよう、彼らを思いやっての措置(そち)でした。
       しかし現実は、彼らにブリタンゲイン風の名前を強制する制度として機能してしまっている。

ガウェイン:複名制度で恩恵を得ている二等国民も、数多くいるだろう。
       一部の二等国民の、個人的感情のみを取り上げるのは公平な意見とは言えんぞ。

トリスタン:生まれ持った名を名乗れない、わかりやすい名に変えよと社会が無言の圧力を掛ける……
       彼らの哀しみと屈辱を、利便性のみで片付けてしまっていいのでしょうか。

パーシヴァル:…………

クレハ:どうかなされましたか、十一殿下。
     私に何か?

パーシヴァル:ねえ、クレハさん。

クレハ:はい。

パーシヴァル:……ごめん、なんでもないよ。

トリスタン:『ハ・デスの生き霊』の信徒は、二等国民が多くを占めていた。
       しかし、『大英円卓(ザ・ラウンド)』はそこで止まってしまうのですか。
       私たちは、彼らを犯罪に駆り立てるものを直視しなければならない。

       彼らを(さいな)む、差別と貧困を。


□4/大英円卓、策士躍如


ケイ:各位よろしいか。
   本日我々が集まった理由は、カルト教団『ハ・デスの生き霊』の対策を講じるためだった。
   しかし、いつの間にか二等国民問題にすり替わってしまっている。
   脱線が(いちじる)しいので、この辺で修正させていただきたく思う。

ランスロット:ケイ。
        二等国民の貧困と差別は、問題の本質だ。
        彼らの貧困が解決せねば、また新しいカルト教団が生まれるだろう。

ケイ:違いますな、兄上。
   問題の本質は、カルト教団の犯罪を未然に防ぐことです。

   各位よろしいですか?
   たったそれだけなのですよ。
   皆は、わざと問題を難しく考えていらっしゃるようだ。

ガウェイン:勿体振るな、ケイ。
       策があるなら話せ。

ケイ:私の調査結果を公表すればいい。
    簡単なことですよ。

ランスロット:調査結果……というと、
       『ハ・デスの生き霊』の信者の人種構成比か?

ケイ:そうです。
    国民には、不気味なカルト教団の実態を知る権利があると思いませんかな?

トリスタン:バカな……!
      二等国民への差別を増長させるだけだ!
      暴行やリンチが多発することは、目に見えている!

ケイ:それは心配のしすぎではないですかな。
    私は一等国民の良識とモラルを信用しております。

ランスロット:ケイ。
        トリスタンの言うように暴行や差別が起こったとすると、
        二等国民たちが結束して、暴動・内乱を起こす危険性があるぞ。
        その点はどう考える?

ケイ:ご心配なく、兄上。
    情報提供者には、一等・二等国民を問わず、多額の報酬を与えると公布いたします。
    解決に結び付いた情報提供者には――
    そうですな、勲爵士(ナイト)の称号を与え、西区の屋敷を提供するというのはいかがでしょう?

ガウェイン:密告を奨励するというわけか。

ケイ:そう。
   国が強権を発動して摘発を行うよりも、穏やかな手段でしょう。
   何より費用を安く抑えられます。
   民主国家のベルリッヒ連邦で流行(はやり)の、草の根運動というものですよ。

トリスタン:しかしそれは、ブリタンゲイン人とその他の人種の対立を招く。
      ケイ、お前は十数年費やした宥和政策(ゆうわせいさく)を無駄にするつもりか!?

ケイ:兄上、少し冷静になっていただきたい。
   ごく一部の二等国民の所為で、全体が迷惑を被っているのです。
   犯罪に荷担する連中が捕まることは、多くの善良な二等国民のためにもなるのですよ。

トリスタン:詭弁(きべん)だ。
      お前の国策には、二等国民への配慮が欠如している。
      いや、最初から二等国民のことなど考えもしていない……!

クレハ:僭越(せんえつ)ながら――
     ブリタンゲイン帝国は、十分に我々二等国民を(おもんばか)っていると、申し上げます。

     ブリタンゲイン帝国に、人種差別はございません。

トリスタン:ナイトミスト事務官……
       それはあなたの本意ですか?

クレハ:左様にございます、第四殿下。

トリスタン:あなたは一度も差別を受けたことはないと?

クレハ:国を渡ってからの差別は、幾度となくございました。
     口惜しい思いをしたのは、一度や二度ではありませぬ。

     それでもお国は、ブリタンゲインは、私に不当な待遇を強いてはいませんでした。
     だからこそ私は、倭島人でありながら、帝城ログレスの事務官に奉職させていただいているのでございます。

ケイ:おやおや、兄上。
   ナイトミスト事務官はこう述べておりますぞ?

トリスタン:…………

ランスロット:ナイトミスト事務官、あなたは美しく、聡明だ。
        その上さらに、倭島人らしい忍苦の心で、耐え忍んできたのだろう。
        けれど、二等国民の誰もがあなたと同じではないのだ。

クレハ:ふつつか故、第二殿下のお考えを解するに至りません。
     噛んで含めていただけると幸いにございます。

ランスロット:言葉足らずで申し訳ない。

        ナイトミスト事務官。
        私は、あなたの努力を、立身を否定するつもりはない。
        とても立派で、名誉あることだと思う。

        私は、二等国民が一等国民と同じ程度の努力をして、
        同じ程度の成果を得、同じ程度の暮らしを出来るようにしたい。

        それを言いたかった。

トリスタン:兄上……ありがとうございます。

ランスロット:何、トリスタン。
        お前こそ、俺の言いたいことを言ってくれた。

ケイ:さて。
    私の情報開示案と、報奨金の採択はどうなりますかな?

ガウェイン:俺は賛成だ。やってみる価値はあろう。

トリスタン:……私は反対です。
       理由は先に述べたとおり。

ランスロット:私も反対だ。

ベディエア:僕は……ごめんなさい、トリスタン兄様。
       賛成です。

クレハ:十一殿下、あなた様は?

パーシヴァル:おいらは……

ベディエア:あっ、皇帝陛下からみことのりが……
       はい、はいっ……
       ええ――……ええっ!?

ガウェイン:どうした、ベディ。

ベディエア:あの……トゥルードの森から使者がやってきて――

ランスロット:トゥルードの森……エルフの自治区だな。

ベディエア:はい。
       そのトゥルードの森にアンデッドが出現し、
       エルフたちが襲われているそうです……!

トリスタン:そのアンデッドというのは――

ベディエア:(われ)、放熱の終わりと共に消え去りしもの。
       されど、散りゆく自己(おのれ)を、朽ち果てた骸に留めん。
       (とき)を凍らせ、(こころ)を凍らせ、永遠の旅路を流離(さすら)わん……

       ……間違いありません。
       『ハ・デスの生き霊』です!


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