□1/キャメロット城、テラス
パーシヴァル：はあ……
円卓会議かあ……
ばーちゃんには予定を知らせないでおいたんだけどなぁ。
どこで伝わったんだろ……
クレハ：お答えいたします。
円卓会議の不参加が目立つ問題を踏まえ、
事前に開催日程を、ご親族並びに領地へ伝えるようにいたしました。
パーシヴァル：うわ、びっくりした！
お城のメイドさんか。
クレハ：クレハ＝ナイトミストと申します。
キャメロット城で女中を勤めさせていただいております。
十一殿下パーシヴァル様。
パーシヴァル：ねえ、その黒い髪に黒い瞳。
君って
クレハ：左様にございます。
パーシヴァル：へえ。
倭島国といえば、黄金の産地だよね。
倭島の王様は、金ピカのお城に住んでるって聞いたけど本当？
クレハ：日の昇る国が、黄金の島と呼ばれたのも今は昔。
金は掘り尽くされ、取れるは魚と米……それに人ばかりの辺境でございます。
パーシヴァル：えっと、それって……
クレハ：申し訳ございません。お聞き流しを。
パーシヴァル：…………
君の本当の名前は？
クレハ：私の、でございますか？
パーシヴァル：そのクレハって、ブリタンゲイン風に直した名前だろ。
本当はどういう発音なのかなって。
クレハ：
倭島の言葉では、
パーシヴァル：モミジ、か。
うん、君に似合ってると思う。
クレハ：殿下のお心遣い、痛み入りますが、
私のことはクレハとお呼びくださいませ。
パーシヴァル：
そんな気にしないでも……
クレハ：意味の通じぬ倭島の言葉で呼んでいただくよりも、
名にこめられた言霊を知っていただきたく……
複名制度はよい制度だと存じ上げます。
私は……そう思いまする。
ベディエア：あっ、パーシ兄様！
パーシヴァル：……ベディエア。
それにガウェイン兄さんも。
クレハ：第一殿下と、一二殿下。
私は失礼させていただきます。
ご兄弟でごゆるりとご歓談を。
それでは。
ガウェイン：久しいな、パーシヴァル。
今のメイドとは知り合いか？
パーシヴァル：いや……さっき話したばかりだよ。
ねえ、兄さん。
あのメイドさんは、二等国民なんだよね。
ガウェイン：うむ。
我々正統のブリタンゲイン人である一等国民ではないが、
その一等国民に次ぐ、権利と身分を保障されている。
それがどうかしたのか？
パーシヴァル：いや、何でもないよ……
□2/光子式昇降機、ドア正面
パーシヴァル：
完成したんだ？
ガウェイン：ああ。
魔導式からの改修費混みで、総工費は五百万ボンドらしい。
ベディエア：うわあ！
街の商人が一生働いても買えない額ですね！
ガウェイン：魔導師の素養である魔因子が無くとも、誰でも使える機械――
ラモラックはこの
何ぶん開発段階の新技術には金が掛かる。
ベディエア：この前の円卓会議では、ケイ兄様とラモラック兄様が言い争ってましたね。
ケイ兄様、
ガウェイン：ケイにも困ったものだな。
財政の立て直しに熱心なのはいいが、
近頃は商人どもが、貴族院に口出しするようになってきた。
パーシヴァル：でも、おいらも
ブリタンゲインは、魔因子を持つ聖騎士や魔導師の国として栄えてきた。
隣国のベルリッヒ連邦の真似をして
ベディエア：それは兄様が宮廷魔導師だからですか？
パーシヴァル：別にそういうわけじゃない。
ベディエア：ご、ごめんなさい……
兄様を怒らせるつもりじゃ……
ガウェイン：財政が赤字であろうと、帝国は世界中に植民地を持つ。
そして帝国軍は、魔導の力を備えた大陸最強の軍勢。
我らが母国ブリタンゲインは小揺ぎもせん。
ケイもラモラックも心配のし過ぎだ。
パーシヴァル：…………
ベディエア：えっと、この
僕、動かしてもいいですか？
トリスタン：少々待っていただけますか。
私も同行させていただきたく願います。
パーシヴァル：あっ、トリス兄さん！
トリスタン：お久しぶりです、兄上。
パーシヴァルにベディエアも。
ガウェイン：丁度いい頃合いだったな。
これから最下層の
ベディエア：じゃあ、扉を閉めますね。
このパネルを押して……最下層の
□3/光子式昇降機、下降中
ガウェイン：トリスタン、汗が凄いぞ。
大丈夫か？
ベディエア：僕、ハンカチ持ってます！
トリスタン：太陽の下を歩いてきたものですから、少々気分が優れなく。
ああベディエア、ハンカチはあります。ありがとう。
お見苦しい姿を晒して申し訳ない。
ガウェイン：お前は、強い日射しが苦手だったな。
トリスタン：ええ。
普段日中は、屋敷で執務をしております。
昼間に出歩くことは、ほとんどないので……
パーシヴァル：夕暮れ時になると屋敷から現れる、ルティエンス公。
ついたあだ名は、『黄昏の貴公子』。
トリスタン：はは――
初めてその名を聞いたときは、苦笑いするしかありませんでした。
パーシヴァル：またまたぁ〜。
この前なんて帝都に
下は初等部の女の子から、上は歯の抜けたばっちゃんまで集まって、
城門前でドミノ倒しになる騒動になってたじゃないか。
トリスタン：ですから、今回は単身で参りました。
旅姿の詩人を装えば、誰も気づかないものですよ。
ベディエア：何度お顔を拝見しても、もう本当に『貴公子』、『プリンス』って言葉がぴったりです。
国中の女の人は、みんな兄様に夢中です！
ガウェイン：いや、ベディ。
世の中には、渋い男子を好む婦女も少なからずいるのだぞ。
ベディエア：そうなんですか？
ガウェイン：うむ。
パーシヴァル：例えばベイリン兄さんみたいな？
ガウェイン：うむ……
パーシヴァル：あはははは。
ガウェイン兄さんもそこそこいい線いってるんじゃない。
帝国最強の
古き伝統の魔導帝国ブリタンゲインを象徴する、第一皇子なんだから、そりゃあもう大人気だよ。
ちびっ子から、陸軍に志願した少年兵、むさ苦しい将校とかに。
ガウェイン：トリスタン。
俺のファン層と、お前のファン層。
どちらがいいと思う？
トリスタン：ははは。
好意を寄せてもらえるのは嬉しいですが、私には応えきれません。
私は本当に大事な人と、心を通わせる時間を大切にしたいと思っていますよ。
パーシヴァル：今日の円卓会議には、イゾルデは来てるの？
トリスタン：いいえ。
あの通り身体の弱い娘ですから、イゾルデに遠出は厳しいでしょう。
陛下に御目に掛けたいとは、
パーシヴァル：イゾルデ、きれいになったもんなぁ。
病弱な中にも、こう儚げな色気があるっていうか……
あっ、別に変な意味じゃないよ？
トリスタン：わかっていますよ。
近頃イゾルデは、ハーブの精油に凝っています。
ベディエア：あ、兄様のそれはラベンダーですか？
トリスタン：はい。
パリス共和国から輸入した精油だそうです。
色々な効能があるそうですけれど……忘れてしまいました。
しかし、容態が安定してベッドから起きられるようになっても、屋敷の中で過ごす日が多い。
イゾルデも私と同じで、内向的な気質のようです。
ガウェイン：貴族の夫人には、理想の気質ではないか。
うちの娘は無愛想で、剣の稽古が趣味ときた。
パーシヴァル：兄さん似だね。
ガウェイン：うむ……
あれに嫁の貰い手は、あるのだろうか。
パーシヴァル：大丈夫でしょ。
幸いアムは、顔はアンナ姉さん似だし。
ガウェイン：うむ。
俺も心から妻に似てくれて良かったと思う。
トリスタン：イゾルデも十八歳。
上手くいった見合いは、一つもありません。
パーシヴァル：う〜ん、兄さんの元を離れたくないんじゃないの？
イゾルデ、昔からお兄ちゃん子だったし。
トリスタン：困ったものです。
ガウェイン：しかしお前も、満更でもないのではないか？
実の妹、それも年の離れた妹ならば、可愛さもひとしおだろう。
トリスタン：ふふ。
互いに母は違えど、私は兄上もパーシヴァルもベディエアも、
皆掛替えのない兄弟だと思っておりますよ。
ガウェイン：嬉しいことを言ってくれる。
しかし、円卓会議では容赦はせんぞ。
お前も思う通りの意見をぶつけてこい。
トリスタン：お手柔らかに頼みますよ、兄上。
ベディエア：あっ、到着しましたよ！
最下層……
□4/最下層、大広間
クレハ：お待ちしておりました、殿下。
パーシヴァル：あっ、さっきのメイドさん。
クレハ：第五殿下ケイ様より、映写機の準備を仰せつかっております。
皆様も配布する資料などお持ちでしたら、何なりとお申し付けを。
パーシヴァル：クレハさんって、事務官だったんだ。
そういえば円卓会議開催のハガキを出したとか言ってたな。
ガウェイン：二等国民を最重要機密である、円卓会議の席に入れるとは。
俺は感心せん。
トリスタン：兄上、それは……
ガウェイン：我ら生粋のブリタンゲイン人と違い、
亜人や原住民は、生まれ育った国独自の文化や歴史を持つ。
帝国の一部になっているとはいえ、彼らの心は母国のもの。
ブリタンゲインの言葉を話し、文学に親しみ、教育を受けた、
生来のブリタンゲイン人である我らとは違う。
トリスタン：兄上、それは偏見というものです、
二等国民にも、ブリタンゲインで生まれ育った者たちも増えてきています。
彼らは、私たち生粋のブリタンゲイン人と何ら変わらない。
ガウェイン：ブリタンゲインのために私財を捧げられるか。
ブリタンゲインのために命を
帰るべき文化を持つ者たちに、それが出来るか。
国家への忠誠は、最後は血……
先祖より受け継がれてきた魂が決めるのだ。
俺とて二等国民全てを疑って掛かっているわけではない。
だが、二等国民の
俺は今でもこの考えに変わりはない。
トリスタン：…………
ガウェイン：お前が異民族や亜人との
異論もあろう。遠慮なく意見をぶつけてこい。
お前がいなければ、俺のような民族主義が暴走して国が傾いてしまうからな。
俺はギネヴィアやケイと顔を合わせてくる。
議論の続きは、会議の時にしよう。
トリスタン：はい。
ガウェイン：うむ。ではな。
トリスタン：……ふう。
パーシヴァル：ガウェイン兄さん、相変わらずガッチガチの保守主義だね。
トリスタン：『円卓の騎士』とはいえ、思想信条は皆それぞれ違います。
意見の多様化はよいことだと思いますが……難しいものです。
クレハ：…………
パーシヴァル：あの、クレハさん。
クレハ：お気になさらず。
第一殿下の
私が身をもってブリタンゲインへの忠誠を示すことで、
二等国民への制限は緩和されていくことでしょう。
パーシヴァル：…………
ベディエア：あの、ついさっき皇帝陛下が床離れされたそうです。
そろそろ――
トリスタン：始まりますね、円卓会議が。
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